一ベル後、黒子が登場。手に拍子木を持っている。 黒子  え〜皆さん、本日はお忙しいところ、ヘロヘロQ カムパニー第三回公演、『平成ヘロヘロ時代劇・ からくり雪之JOEへんげ』にお越し下さいまし て誠にありがとうございます。上演に先立ちまし て、いくつかお願いがあります。ちょっと聞いて 下さい。まず、上演中の写真撮影、ビデオ撮影は 進行の妨げになりますのでおやめ下さい。また、 消防法により、上演中のお煙草、お食事、腕立て 伏せ、マラソン、腹筋などもお控え下さいますよ う、お願いします。…最後のほう、あまりマジメ に聞かなくても結構です。当然ですね。 …など、その回に応じた前フリ喋り(アドリブO K)をしていた黒子、袖をチラリと見る。 黒子  さて、準備も整ったようでございます。(拍子木 を鳴らす)では皆様、最後までごゆっくり御覧下 さいまし。 拍子木を鳴らす。ここから物語に入る。     (語りの合間に、適宜、拍子木の合いの手を入れる) 黒子  今からおよそ一八〇年ほど前。十一代将軍、徳川 家斉(いえなり)公の治める御時勢、上方から江 戸へと移った町人文化の華やかなりし頃でござい ます。 寛政と天保、二つの大改革の間に挟まれた、一見 天下泰平のこの時代。しかし、町人はもちろん、 農民たちの間にも貨幣経済は入り込み、貧富の差 が徐々に激しくなってきた事もまた事実。 そしてここに、そんな世情をあざ笑うかの如く、 義賊のチームがありました。 さて。(声をひそめて)ただ今は深夜、丑の刻。 所は武蔵・川越(かわごし)藩、岡部十七万石。 物語は川越のお城、縦横に張り巡らされた地下迷 路から始まります。     黒子、退場。               お紺が登場。まるで忍びのような素早い足取り。     辺りを素早く見回し、身を潜める。 お紺  (袖に)六さん、早く! 続いて、兵六が登場。千両箱を二つ背負っている。 重そうに、ヨロヨロと進む兵六。 お紺  (イライラと)遅い! トロトロしてんじゃない の! 兵六  …うるせえなっ!           お紺  早くしないと追手がきちまうよっ!     叫んだ兵六、お紺のいる場所まで辿り着いて千両箱               をドスン! と置き、その上に腰を下ろす。           兵六  それにしても! お城の御金蔵なんつっても俺の手               にかかりゃチョロいもんだよなあ!           お紺  何ノンキにくつろいでんのよ! 早くズラかるよ! 兵六  さっきから何イライラしてんだよ! 追手の心配な んてしなくていいんだよ。警備なんてすっげー手薄 だったじゃねえか。おめえはゴキンゾーをゴキンジ ョーに配れりゃそれでいいんだろ?               お紺、兵六を睨みつけている。           兵六  …何だよその目は! 言っとくけどな、俺はこの金、               ここに置いて帰っちまっても全然構わねえんだぞ。               何もわざわざおめえのボランティアのためにシンド               い想いしなくてもな、盗み出せりゃそれでオッケー               なんだからよ! お紺  だったら最初からやんなきゃ良かったんでしょ! 兵六  てめえ耳ついてんのか!? 俺がいったい誰のため にこんなコトしてると思ってんだよ! お紺  それは私の台詞でしょ! アンタはいったい! 誰 のおかげでこーゆーコトができてンの? アンタと 順ちゃんが勝手に盛り上がってただけじゃないよ! 『これからのアイドルはちょっと危険な犯罪の臭い』 とかワケ判んない事ばっか言って! 兵六  …お紺、この際ハッキリさせとくけどな、リーダ ーは俺なんだよ! これ以上ゴチャゴチャぬかし やがるとチームから追ン出すぞっ! お紺  やってみればぁ! できるんならねっ! 兵六に手を差し出すお紺。 兵六  …? …なんだよ? お紺  借金!  私に借りてる分、 耳揃えて返してよ! このビンボー人! 兵六  (カッと)返したらあっ! 千両箱を手で無理矢理こじ開けようとする兵六。 お紺  (皮肉で)あっ、そう。それに手をつけちゃうワ ケ。世間の恵まれない人たちに分けてあげるんじ ゃなかったの? ああ、そうなの、ふうん。 兵六  るせえ!  俺がその恵まれない人なんだよっ! (となおもこじ開けようとしていたが)               …ダメだっ! 開かねえ! 畜生! 床に大の字に寝転がる兵六。 お紺  …ふん。…じゃ、そういうことで。 袖に向かってスタスタと歩くお紺。 兵六  (半身を起こし)行っちゃうのかよ! お紺  私、追ン出された人だから。待ってりゃ順ちゃん が来るでしょーよ? 行くお紺。 兵六  ちっ! 勝手にしろいっ!(と再び大の字に)     ひとりぼっちの兵六。 兵六  …ちょっと寂しいかも。 と。お紺がバタバタと駆け戻って来る。 兵六  (素早く起き上がり)へっ! 寂しくなって戻っ てきやがったかっ! お紺  馬鹿言ってんじゃないよっ! 追手だよ! 隠れ     て、早く! 兵六を引っ張り、袖近くに走るお紺。千両箱はそ のまま。 兵六  おい! あれ(千両箱)どうすんだよ! お紺  いいから!     物影(袖近く)に隠れる(フリをする)二人。               同時に、ぜんざい姫が反対側の袖から駆け込んで 来る。 姫を追って走って来る四人の忍者。               (A・B・C・D)               そして最高尾に、忍者装束のお花。 姫   (走りながら)お花! お花! お花はどこにお るのじゃ! 六人は一列になって舞台狭しと走り回る。もちろ ん、姫が逃げているのである。 お花  (走りながら)ここです! ここにおります、姫 様! 姫   (走りながら)どこじゃ! 見えぬ! お花  (走りながら)ここです! 姫様のずっと後ろ! 姫、急に止まる。他の一同も急停止する。               姫が後ろを向くと忍者四人はスッとしゃがむ。               姫とお花、目が合った。お花、姫に手を振る。 姫   そこであったか。 再び逃げ始める姫。追いかけ始める一同。 兵六  (見ていたが)…なんでえ。ありゃ? お紺  この城のお姫様じゃないの。「ぜんざい姫」とか     いう。 兵六  ああ、お姫様ね…って、何でその姫様が追っかけ     られてんだ? お紺  さあ…? 姫   (走りながら)お花! このような火急の時に何 をしておる! 早くこの曲者どもをなんとかせい! お花  (走りながら)そう言われても…。追いつけない んですよぉ!     忍者A・B・C・D、ついに姫を捕らえた。               四人で引ったてるようにして正面を向かせる。 姫   見ろ。捕まってしまった。 お花  (刀を抜いて)姫を放せ! やあッ!               と切りかかるが、受けて立った忍者Aに足を引っ               かけられて無様に転ぶ。 お花  痛あい!     そのままお花を取り押さえてしまう忍者A。           姫   おまえは本当に隠密か?               そこへ。ドロドロとした効果音と共に三太郎と     ジョンジョロゲーニョ(ジョン)が登場。           三太郎 はははははっ!     三太郎は『赤影』のような仮面をしている。               三太郎は姫に向かい、ジョンは中央に大様に立つ。           兵六  (見て)おお〜、見るからに悪役! あいつとい               い、忍者どもといい、こいつぁどーやら姫様人質               に取って城の御金蔵でも奪おうって腹だな、った               く太ぇヤローだ…って、俺もか、俺もか。           お紺  誰に聞いてんのよ誰に!           兵六  へへっ。そうとなりゃ…!               物影から飛び出そうとする兵六を…           お紺  ちょっと!               と、必死に押しとどめるお紺。 三太郎 (忍者たちに)御苦労だったな。…さあ、姫様。 巻物を渡してもらいましょうか? 姫   そんなものは知らぬ。 三太郎 そんな筈がありますまい。           姫   知らぬとゆうに。           三太郎 嘘だ。           姫   知らぬ。           三太郎 嘘だ!           姫   知らぬ!               睨み合う二人。暫くの間。           三太郎 …強情だな。           姫   性分での。           三太郎 かくなる上は! と三太郎、姫の胸元にいきなり手を突っ込む。 姫   何をするかっ! 三太郎 …七十、A。 姫   馬鹿者おっ!!!! 姫、三太郎に連続技を決める。 三太郎 (沈む)ブグゥオーッ!!           一同  つ、つえーっ! ヨロヨロと立ち上がる三太郎。 三太郎 (しかし不敵に)ふっふっふっ…! その手には巻物がしっかりと握られていた!           お花  (姫に近付き)姫様!           姫   おのれ、巻物を返せ!               飛び出そうとする姫に、再び刀を向ける忍者。           三太郎 おとなしくしておれ! さもなくば、弾みで首が               飛びまするぞ。 三太郎、素早くジョンに近付き、巻物を献上する。 その間に 兵六  (嬉しそう。お紺に)おいおい何だよあの巻物っ     て。面白くなってきたな!? ジョン、三太郎に何事かを耳打ちする。 三太郎 (頷いて)九歳にして七十のA、見事な発育ぶり     じゃ。…とジョンジョロゲーニョ様がお誉めくだ     さったぞ。喜ぶがいい。           姫   ○○○○○○○?           三太郎 ジョンジョロゲーニョ!           姫   ○○○○○○○。               ジョン、振り向く。           姫   ほらほら、やっぱり○○○○○!               (三太郎、受けのツッコミ系ギャグ短くあって)           姫   こんな事をしている場合か。お花、巻物を取り返               せ!           お花  はいっ!               お花、つかつかつかとジョンに歩み寄る。               …が、刀を突き付けられて平然と戻って来る。           お花  …なかなかの強敵です!           姫   何もやってないだろーが!               (ここでお花の忍者・隠密ネタの一回目?)               兵六を押さえつけていたお紺。見ていた二人。               兵六、お紺の手の力が緩んだ隙に立ち上がり、出               て行ってしまう。           兵六  …ったく見てらんねーな!           お紺  あっ! 六さんっ! 兵六  やいやいやいやい! てめえら、いい加減にしろ     よ! お紺  (も立って)ちょっと! 私ら関係ないじゃない。 もう逃げようよ! 兵六  (楽しそう)この状況見て黙って行けるかよ、こ の俺様がよ! と見栄を切る兵六。黙って兵六を見ている一同。 兵六  …ダメだよう。『おまえは誰だあっ!』って突っ 込んでくれなくちゃ。 お花  (キョロキョロして)え? あたし? 兵六  う〜ん。なンか、雰囲気からしてあいつら(三太     郎たち)が言うべきなんじゃないか? …いいか     ? もう一回いくぞ? 三・二・一、はいっ!               三太郎たち、黙っている。               お紺のため息をきっかけにするように 全員  (投げやり)『おまえは誰だあっ!』 兵六  (大見得切って)問われて名のるもおこがましい  が、性は月影、名は兵六…って…。               他の全員がそれぞれ勝手な事をし始めている。 兵六 聞けっての! お紺  (うんざり)先進まないから。さっさとやっちゃ って。 兵六  そーゆー言い方はないだろう! 名乗り口上って     なあ俺の生き甲斐のひとつだよ? お紺  アンタ何がしたいわけ!? お姫様助けるんじゃ なかったの!? 兵六  わーってるよ!  (三太郎に) おい、そこの! 姫様と巻物返しな! さもねえと、痛い目見るコ トになるぜ! 三太郎 巻物さえ手に入れればぜんざい姫などに用はない。     三太郎の台詞きっかけで、姫に刀を向けていた忍      者がドン! と姫を突き飛ばす。      駆け寄って姫を庇うお花。      兵六、じりじりと三太郎らに対峙する。           兵六  さっきから見てりゃ、その巻物ぁずいぶん大事なモ               ノみてえだな。となりゃ、なおさら渡すワケにゃあ               いかねえなっ。 三太郎 ちょこざいな。貴様らなど片付けてくれるわ! 三太郎、口笛の合図。 バラバラと散る忍者軍団。一斉に刀を構える。 三太郎も自ら抜刀して 三太郎 やれいっ!     兵六たちに襲いかかる忍者軍団と三太郎。     姫を守って闘う兵六たち。お花は長刀、兵六とお     紺は短刀で立ち向かう。     (忍者A・Bはお紺と、C・Dはお花と、三太郎は      兵六と戦う)     …が、多勢に無勢、たちまち片隅に追いやられてし     まう兵六たち。               三太郎と兵六、鍔迫り合いになる。 三太郎 …なかなかやるな。 兵六  …さっきから思ってたんだけどよ。おめえ、前に 俺と会ったコトねえか? ひょっとして、三太郎じ ゃねえか? 三太郎 (瞬間ハッとするが)…ふん。貴様など見たコトも     ないな。…やあっ! 力の均衡が崩れた。兵六、三太郎の刀の振りに負 けて床に投げ飛ばされる。 起き上がろうとする兵六の喉元に突きつけられる 三太郎の刀。 三太郎 …これまでだな。(刀を構える) お紺  六さん! その時…! 順之助の声 お〜い! 六さあん!     緊張感を乱す脳天気な声と共に順之助が登場。 順之助 いやあどうもどうも遅れちゃって。六さんゴメン! 周囲の状況に何も気付かず、続ける順之助。 順之助 いやあまいったまいった。ここの入り口全然判ン なくてさあ。探してたら時間は過ぎるし緊張して ウンコしたくなるし。ねえ六さん、この辺にトイ レないかなあ? ウンコ我慢すると身体によくな いんだよ。健康の基本は快食・快眠・快便だよね、 やっぱ。 順之助を注視している一同。やっと気付いた順之 助。三太郎を指し 順之助 (兵六に)…友達? 兵六  なわきゃねーだろっ! 三太郎 捕まえろっ! 忍者Bが順之助に刀を向ける。慌てて逃げ出す順 之助。追う忍者B。 順之助 (走りながら)誰なんですよぉ、こいつら!?     『順ちゃんガンバって!』『ちっとは反撃しろっ               !』などと、声援を送るお紺と兵六。だが、すぐ               に舞台隅に追いつめられてしまう順之助。 兵六  ちっ! …っとに使えねえなおめえは! 遅刻は するしよっ!               順之助、小さく笑い出す。周りを囲んでいた忍者               たち、不敵な態度に躊躇する。順之助、徐々に笑               いが大きくなり、ゆっくりと中央に歩き出す。               同じ間合いで追う忍者たち。 順之助 ふっ。そんなコト言っていいんですか、六さん。 兵六  んだよ。ミョーに強気じゃねえか? 順之助 ふっふっふっ。今日の僕は一味違う。なぜなら、 世紀の大発明を成し遂げた後だからだ! お紺  それじゃあ順ちゃん!           兵六  やったか! 順之助 おまえら、もう好きなようにはさせないぞ。雪之 JOE、ゴーッ!!     と! 例えばスモークにピンスポ(あるいはバッ               クライト)などの派手な演出と荘厳な音楽に乗っ               て雪之JOEが登場する。 順之助 スーパーロボット、雪之JOEだあっ!     『おおおっ!』と驚く三太郎と忍者軍団。 順之助 行け、 雪之JOE! 悪人どもをやっつけろ! 吼え、ポーズを取る雪之JOE。 三太郎 しゃらくさい! 返り討ちにしてくれるわ! 三太郎、口笛の合図。忍者たち、雪之JOEを囲 む。 三太郎 やれいっ!               と、その時。               手に持っている杖で地面を打ち、鳴らすジョン。               忍者たちの動きがピタリと止まる。               ジョン、腕を一振り。それを合図に忍者たちは後               ろに下がる。               ジョン、ゆっくりと前に歩み出る。           三太郎 おお、ジョンジョロゲーニョ様自ら。           兵六  ケッ! 雪之JOE、ケチョンケチョンにしてや               れ!           お花  でも何だか強そうですねえ、こわーい!           兵六  何か、おまえ気安いなぁ。くノ一の癖に。           お花  違います! あたし忍者です!           兵六  同じなんだよ同じ!               などとやってる間に、雪之JOEと対峙するジョ               ンジョロゲーニョ。           順之助 よーし。叩け、雪之JOE!               吼える雪之JOE。               雪之JOE、パンチを繰り出す。               ジョン、その手を掴む。舞台中央で均衡する二人               の力。               二人同時に、キッと顔を見合わせる。               と、照明が変わり、チャキ〜ン! と短いアタッ               ク音が響いて…。               照明が元に戻る。ジョン、雪之JOEからパッと               離れる。それでも視線は雪之JOEを追い、何か               しら衝撃を受けた様子で…。           三太郎 (困惑で)ジョンジョロゲーニョ様?               と、我に返り、威厳を取り戻すジョンジョロゲー               ニョ。マントを翻し、退場してしまう。           兵六  ああッ! てめッ! 巻物置いてけッ!           姫   取り返すのじゃ!               雪之JOE、周りをキョロキョロ見回し、「ぼく               ?」と自身を指さす。           兵六  そうだよおめえしかいねえだろ!           順之助 行け! 雪之JOE!           三太郎 そうはさせるか!               三太郎、刀を振りかざし雪之JOEに向かう。               …が、簡単にふっ飛ばされる。               ジョンの去った袖に駆け込んでいく雪之JOE。           三太郎 者ども、追えッ!               忍者軍団、雪之JOEの後を追う。               三太郎もその後を追って。袖に入る際に           三太郎 …いいカッコしてんじゃねえぞ! おまえらだっ               て盗賊じゃねえか! 兵六のバーカ! うんこた               れ!               三太郎、退場。           兵六  (ひとりごちるように)なんだあいつ。やっぱ三               太郎だったんじゃねえか…。           姫   …盗賊? (気付き)あ! こんな所にウチの千               両箱が!           兵六  (とぼける)え? 何でこんなところに!?           お花  不用心ですね。片付けちゃいましょう。ちょっと               待っててください!               お花、うんうんと苦労して千両箱を押しながら退               場する。           お紺  (お花に)ちょっとあんた! (と止めようとし               て)           兵六  (お紺を止める。小声で)よせって! 判ンねえ               のかよ。巻物の方がずっといい獲物じゃねえか。               それによ、てめえから盗ッ人だって名乗るこたね               えよ。(姫に)姫様! 巻物の方はちゃあんと取               り返すからよ、心配いらねえよ!           姫   ホントに大丈夫なのか?           順之助 大丈夫ですよ。雪之JOEはスーパーロボットな               んですから。           姫   そうか! スーパーロボットなのか! …って、               なんじゃ?           順之助 (めんどくさい)とにかく! 大丈夫なんですっ               て!           兵六  …ふふん。しかし、そんなに心配してるトコ見る               と、あれにはさぞかしいいコト書いてあンだろう               な。…何が書いてあんだ?           姫   知らぬ。           兵六  (とまどう)え? 何で?           姫   知らないから。           兵六  だって大事なものなんだろ?           姫   そうじゃ。           兵六  だったら何で知らねえんだ。           姫   知らないものは知らないのじゃッ!           兵六  (キレる)だからッ! ふつう大事なモンだった               ら書いてあるコトのひとつやふたつ知ってるもん               なんだ! 常識あんのかてめえッ!               姫、驚いて兵六の顔を見つめている。目に涙が溜               まってくる。           姫   …だって。               大声で泣き出す姫。           姫   だって、大事だって父上に言われたから大事だと               思ってたのではないかッ! そんな事も判らぬの               か馬鹿者ッ! わあん!           兵六  …話になんねえな。(気を取り直してあやす)よ               しよし泣くな泣くな。お兄ちゃんも大人だ。お父               ちゃんのトコ連れて帰ってやるから。さあ行こす               ぐ行こ。巻物も戻ってきたらちゃあんと届けてや               るから。               姫の手を取って退場しようとすると           姫   …お兄ちゃん?           兵六  そうだよ。どうした?           姫   「おじさん」の間違いではないのか?           兵六  (カッと)んっとにカワイクねえガキだなっ!           順之助 (なだめる)まあまあ六さん…。           お紺  そうよ。子どもには優しくしなきゃダメよ。           姫   その通りじゃ、おばさん。           お紺  …ぶっ殺す!               …などと喋りながら全員退場する。               しばし、無人の舞台。           お花  お待たせしました!               お花、再び登場。誰もいないのを見て           お花  あれ? …姫様? …みなさーん? …おーい!               音楽、イントロが流れ始める。 お花  また置いてきぼりにされちゃった…。 歌うお花(M1…マイナー調の悲しげな曲) 歌い終わるお花、ため息をつく。落ち込んでい て、元気がない。               黒子登場。               ※注                構成的にはここで『お花の状況』を説明してお                きたい所ですが、それをどうやるかが今ひとつ                アイデア不足なので、後日送稿します。                案として、黒子のインタビュー形式による状況                説明を考えていますが…。 黒子  兵六たちを襲った一味は何者か? また、その目 的は? そういったコトはとりあえずこっちに置いといて、     場面は変わって城下町。お紺の経営する居酒屋で ございます。スーパーロボットの雪之JOE、力 は強いが気は優しい。順之助の言いつけをよく守 り、今日も朝からこまめに忙しく立ち働いており ました。 黒子、退場。 黒子の喋りの途中から雪之JOEが、舞台(お紺 の店)にハタキをかけながら登場。 続いてお紺が登場。手には箒。 何だかイライラしているらしく、語気も荒い。 お紺  雪之JOEっ!               びくっ! と振り返る雪之JOE。 お紺  そこ、そこんとこもちゃんとハタキかけといてね!     終わったら裏の酒樽、流しンとこに運んどいてち     ょうだいっ。     ぶんぶんと頷く雪之JOE。慌てて退場しよう     とする。           お紺  それからっ!               振り向く雪之JOE。           お紺  あの新しい居候、ホントにどうするつもりなんだ               ーッ!! …って六さん探して聞いといでっ!               大きく頷いた雪之JOE、退場する。     すれ違いで『ごめんよっ』入ってくるおぎん。               手には『回覧板』を持っている。               おぎん、出ていく雪之JOEを見送って おぎん …役に立ってるみたいじゃないか。さすが先生だ     けのことはあるね。 お紺  (うざったい)そりゃどうも…。何の用ですか。 おぎん (まねて)そりゃどうも。何の用ですか。…あん     たね、それが大家に対する態度かい? 店だって     相変わらず汚くしてるしさ。 お紺  (笑って)いやですよお。ただ大家さんに似てる だけですって。 おぎん (受けて笑って)全く、どいつもこいつもこの店 の連中は性根の悪いのばっかりだよぉ。 ほっほっほっ、と笑い合う二人。 おぎん (いきなり)笑い事じゃないっ! ほらっ、回覧     板だよっ。(と渡す)それから、抜け作はいンの     かい? お紺  知りませんよ、あんなやつ。どっか遊びに行って んじゃないですか。 おぎん なら、あんたが聞いときな。…うちらの講中でこ ないだお地蔵さん建てただろ? お紺  …そーですね。 おぎん バチ当たりにも、あれにイタズラしやがった馬鹿 がいるんだよ。墨で顔を隈取った上に御丁寧にも 腹巻きまでさせてくれてさ。…犯人の名前を聞き たいかい? お紺  (回覧板を見ていたが)…今週は運勢が悪いのね、 私。 おぎん 誰が占い読めって言った! と。兵六と順之助が登場…しようとする。が、お ぎんがいるのを見て慌てて引っ込む。           おぎん …とにかく! よおく言っといてちょうだいよ!               二度とあーゆーイタズラはしないように!               おぎん、肩をいからせて退場。               兵六、順之助、入って来る。               兵六、わざわざおぎんの去った袖まで行って           兵六  ばーか、ババア! おとつい来やがれってんだ!               悪口が聞こえたらしい。兵六が突然逃げ始める。               その後を、箒を持って追いかけるおぎん。               二人、反対側の袖に消える。               あきれて見ているお紺と順之助。               やがて戻ってくる兵六。           兵六  …あー、びっくりした。           お紺  六さん! 何なのよ、お地蔵様にイタズラって! 兵六  何ってよ。…おもしろかったよなあ、順之助? 順之助 六さんね、お地蔵様の裏に、隣りの長屋の権助か ら取り上げたメンコ隠したんですよ。 兵六  あれは手に入れるのに苦労したからなあ。権助の 野郎、なかなかの強敵だったぜ。…ま、あれだけ のメンコ打ちはこの辺じゃアイツくれえしかいね えだろうな。俺以外にはな。 兵六と順之助、『イエ〜イ!』と手を重ねる。           お紺  順ちゃん! アンタ今日は小塚原(こつかっぱら               )に腑分けの見学に行ったんじゃなかったの!?           順之助 そうしようと思ってたんですけどね。アソコやっ               ぱ遠いし、誘われたんで、つい…。           お紺  しっかりしなさいよっ! こんなのにくっついて               るとロクなお医者になれないよ!           兵六  ちょっと待て! 誰が『こんなの』だよ! おめ               え最近八つ当たりが過ぎンじゃねえのか!           お紺  偉そうなコト言う前にね、ちょっとこれ読んでみ               なさいよ! 回覧板を兵六に突きつけるお紺。               受け取って読む兵六。           順之助 (も覗き込んで)なになに…。『緊急企画第三弾。               迷惑千万! 謎の盗賊に告ぐ。鼠小僧気取りはや               めろ!』。…ははあ、僕らのコトですね。           お紺  その先も! 順之助 『…本人たちは社会正義のつもりなのだろうが、     金貨銀貨を投げ込まれた家々では、その奪い合い     の為、争いが後を絶えない。中には崩壊の危機に     瀕している家庭もある…』…ふうん。           お紺  ふうんじゃないの! 私はね、何て言うか、人の               役に立つよーなコトがしたかったワケよ! だか               らこの店だって盗人宿みたいにしてさ、アンタた               ちに協力してきたんじゃないの!               兵六、深刻な顔をして『回覧板』を読んでいる。           お紺  それがさ、なンか余計な火種つくってるみたいで               さ。…私はもうやってらンないの! やりきれな               くなっちゃってんの!           順之助 (も深刻な顔)うーん…。喜んでもらえたのは最               初の頃だけかあ。…でもお紺さん、これ、少なく               とも昨日の仕事のコト書いてんじゃないでしょ?               あ、結局千両箱盗み出せなかったから怒ってんで               すか? 失望の裏返しとか…?           お紺  違う! そういう問題じゃないの! …ちょっと!               六さん! …聞いてんの? なんとか言ったらど               うなのよ!?           兵六  (読んでいたが)…今週は運勢が悪いな、俺。 お紺  ばかっ!(とひっぱたく)誰が占い読めって言っ たの! アンタ仮にも元・武士でしょ!? 毎日 毎日メンコだビー玉だって遊び歩いてないで、少 しは世を憂いてみたらどうなのよ!? なあにが 『アイドルになりたい』よ! あんたなんかの浮 世絵が出た日にゃ版元全部倒産するわよっ! 兵六  何言ってやがんだ、この天下泰平の御時勢によ! 俺はな、てめえが楽しけりゃそれでいいの! 周りの連中が何言おうと知ったこっちゃねえんだ よっ。 お紺  アンタみたいのがいるから浅間山が噴火したり大 飢饉が起こったりすンのよ! 兵六  関係ねえだろ! 俺らが生まれる前の話じゃねえ か!           順之助 (割って入る)まあまあ、二人とも落ち着いて…。               兵六、聞いてない。順之助をぶん殴る。バッタリ               倒れる順之助。 兵六  (気にもせず)とにかくよ、おめえはもう降りた     んだからよ! 余計な口出しはしないでもらいて     えなっ。 お紺  そう! ああ、そう! ならね、あのクソ生意気 なお姫様も六さんがちゃんと面倒見てよね! 兵六  それとこれとは話が違うだろ! お紺  一緒よ! 同じ時に拾ってきたんだから!           兵六  るせえ! しょーがねえじゃねえか! 俺だって               困ってんだよ! その時、棒を持ったぜんざい姫が雪之JOEに背 負われて登場。 まるで競争馬の騎手のような姫、棒でピシピシ雪 之JOEを叩き、いいようにあしらっている。 困った顔をしながらも、素直に従っている雪之J OE。           姫   雪之JOE、走れ! 止まれ! 空を飛べ! お紺  (見かねて)姫様、ぜんざい姫様、あんまり雪之     JOEイジメちゃダメですよ。 姫   わたしに意見するなっ!(とさらにピシピシ叩く)               雪之JOE、今度はあっちじゃ!     退場しようとする姫と雪之JOE。その背に 兵六  …ぜんざい姫ってえよりゾンザイ姫だな。てめえ     で歩きゃいいのによ。 姫   (聞こえた)雪之JOE、戻れっ!(ピシッ!) 兵六たちのそばにいく姫(と雪之JOE)。 姫   誰がゾンザイ姫かっ! わたしはそんな言われ方、 今までに一度だって…(言いかけてからふと指折 り数える)…いや、八百二十七人程にしか言われ た事はないわ! 兵六  そりゃみんなに言われてるってコトだよ! 姫   (聞こえた)やあっ!(棒で兵六を叩く) 兵六  痛てッ! てめっ、この野郎! 姫   逃げろ! 雪之JOE! 兵六に『すいません!』と手で謝りながら走って 退場する雪之JOE。 お紺  (見ていたが)ホントーにヤな子だねっ。アンタ も雪之JOEにばっか押し付けてんじゃないよっ! お紺、袖に向かう。               順之助、やっとフラフラと起き上がる。 兵六  んだよっ! だったらおめえが面倒みたらいいじ ゃねえか! お紺  (振り返り)私はお店があるから。稼がなきゃな ンないのよ、誰かさんみたいな穀潰しがいるから ね。 兵六  だからいつも手伝ってんじゃねえか! 順之助 (兵六に)穀潰しって自覚してたんですね? 兵六、順之助を殴る。 再び倒れる順之助。 お紺  (歩きながら)猫の手でも借りた方がマシだわ。 お紺、退場。(この後、お紺は店の準備のため、 何度か舞台を出入りする) 兵六、再び起き上がった順之助、店の奥にある座 敷(に見立てた部分)に向かい、腰を下ろす。 兵六  …畜生。腹立つなっ。だいたい、あの城代家老も 何考えてんだ。 順之助 姫様届けに行った時でしょ? 僕らが犯人だって     バレバレだったもんね。           兵六  なあ! なんでバレたんだろうな?           お紺  当然でしょ、ばかっ!(と登場)               皿(か何か)を運びながら二人の前を通るお紺。           お紺  (兵六の真似で)『いやあそこんトコでお姫様に               偶然会っちゃって!』なんて言い訳、誰が信用す               るのっ! 私たちがお城の中にいたコト自体が怪               しいのよ普通に考えれば!               退場するお紺。           順之助 …まあ、普通だったら打ち首モンですからね。姫               様預かればおとがめナシってんなら、言う事聞く               しかないですよね。           兵六  …何でだよ?           順之助 え?           兵六  フツー、お姫様なんてのは大事にされてキレイな               部屋に置いとかれるモンじゃねえか。何で、こん               なこ汚ねえ町場に出されなきゃなんねえんだ?           順之助 さあ…?               『う〜ん…?』と考え込む二人。やがて 兵六  …まあいいか。おかげで、巻物はこっちの手に入 ったんだからな。家老のヤツ、今ごろあのダメ忍 者使って必死に探させてんぜ。ざまあみろだ。           順之助 …半分になっちゃいましたけどね。 と順之助が懐から取り出し、広げたのは昨夜の巻 物である。途中から破れて半分になっている。 兵六  全くよ、…昨日は『大丈夫ですう』ってあんなに     大見得切っといてよ。雪之JOE、ホントは大し     た事ねえんじゃねえか? 順之助 そんなコトないですよ! 奴らが意外に強すぎた だけです! 兵六  どうだか…。(疑いのマナザシ)           順之助 あっ、あっ! 六さん疑ってますね! …仕方が               ない。ここらで、『雪之JOE七つの秘密』を明               かさなければならないようですね。           兵六  なんだよ、七つの秘密って。           順之助 (呼ぶ)雪之JOE!               姫をおんぶしたまま雪之JOEが登場。               雪之JOE、姫を下ろす。           姫   (巻物を見て)どうした? もう半分が取り戻せ               たのか?           順之助 今やってますからね。もうちょっと待ってくださ               いね。今日はそれより…。           兵六  前フリはいいからよ! 早く見せろよ!           お紺  (騒ぎを聞きつけて登場)何なの? 何が始まる               の?           順之助 ではいきます。『雪之JOE七つの秘密』〜っ!               (…で、『七つの秘密』コーナーがひとしきり。                終わると…)           姫   …バッカみたい。…来い、雪之JOE。               姫、『おまえもヘンなやつじゃのう』と雪之JO               Eに話しかけながら退場する。後に続く雪之JO E。           お紺  …ところで六さん、それ。           兵六  ん? これ(巻物)か?           お紺  結局、何が書いてあったの?           順之助 そうそう! 岡部十七万石に伝わる秘宝なんです               って!           お紺  秘宝? それこそ金貨銀貨とか、そういうやつ?           順之助 どんなものか、ってトコまでは具体的に書いてな               いんですけどね。           兵六  ええとな。(巻物を読む)…この一曲、当家に伝               わりし秘宝を手に入れるための鍵なり。北の洞窟               を前に朗唱高らかなれば、必ずやその扉開かん…。               (お紺に)…な?           お紺  『この一曲』って何よ? 歌なの?           順之助 ここに譜面が書いてあるんですよ。聞いてみます?           兵六  じゃいくぞ。せーの…。 アカペラで途中まで歌ってみる兵六と順之助。 (M2)。二人してスゴい音痴。 お紺  …ヘタクソ。 兵六  うるせえ! しまいにゃ泣かすぞこの野郎! お紺  それに途中までしかないじゃない。           兵六  だからもう半分が欲しいんじゃねえか。しかし…、               昨日のやつらもお宝狙ってんだろうしなあ…。 順之助 あいつら一体何者なんでしょうね? 『う〜ん』と考え込む二人。 お紺  …○○教じゃないの? 兵六  なに? お紺  ○○教よ、あいつら。 順之助 …って、最近町場で流行ってるっていう、あのヘ ンな宗教? お紺  女の子のムネ触ってサイズ言い当てるなんて芸当 できンの、あいつらくらいのモンでしょ?(行こ うとして兵六に)あ、アンタもできたっけ? 順之助 (兵六に)なんかね、おっぱいが信仰の対象なん だそうですよ。 兵六  …お紺。 お紺  (振り返り)なによ。 兵六  (嬉しそう)なんだかんだ言っててもよ、結局仲 間に入りてえんだろ? だったらそう言やいいじ ゃねえか。全く素直じゃねえんだからよ。 お紺  ばかっ。世の中はアンタ中心に回ってるワケじゃ ないんだからねっ!(行く) 兵六  (追って歩きだしながら)おまえなっ、そーゆー 性格だからいいトシこいて行き遅れてたりするん だよっ! お紺  (相手にしてない)ハイハイ。何とでも言って。 お紺、兵六、退場。               二人を見送っていた順之助、視線を巻物に戻す。               呟くようにさっきの歌を(今度は上手に!)うた               いながら退場する。     同じ袖から黒子が登場。 黒子  さてその頃。居酒屋の裏庭では、ぜんざい姫が雪 之JOEを相手にワガママの限りを尽くしており ました。     黒子退場。     反対側の袖から、姫を背負った雪之JOEが駆け     足で登場する。 姫   それっ、雪之JOE! 走れ走れっ!     困った顔をしながら、競争馬よろしく舞台上をぐ     るぐる走り回る雪之JOE。     突然何かを思い出したようにぴたっ! と立ち止     まり、腰をかがめて姫を下ろす。 姫   雪之JOE! どうしたのじゃ? そそくさと袖に消える雪之JOE。見ている姫。 雪之JOE、花の植えてあるプランターと小さな シャベルを持って再び登場する。舞台の端に腰を 下ろし、いそいそと花の手入れを始める雪之JO E。 姫   (つまらない)…雪之JOE! 雪之JOE、『ごめんなさい、ちょっと待ってて』 と手で素振り。 姫   雪之JOE! 一緒に遊ぼう! 雪之JOE、『もうちょっと…』と素振り。花の 手入れを続ける。 短気を起こした姫、雪之JOEに走り寄って… 姫   パ〜ンチっ!(と殴る) ものともせずに手入れを続ける雪之JOE。 姫、悔しい。元の場所に戻り、助走をつけて… 姫   キ〜ック!(と蹴飛ばす) 多少よろめくが、全く気にせず手入れを続ける雪 之JOE。 姫   (耳元で怒鳴る)ゆ・き・の・じょ・う! 動じない雪之JOE。楽しげに花の手入れを続け る。 姫   くそ〜っ! 雪之JOE、耳に入れておいた耳栓を取り出す。 姫   ! ロボットのクセにそんなのするなあっ! そこへお紺がやって来る。 お紺  雪之JOE! ごめんごめん、渡すの忘れてた。 …と手に持って掲げたのは布に包んだ小さな角形 のもの。 姫   (見て)…何じゃ、それは? お紺  写真ですけど。順ちゃんの。 雪之JOE、走り寄ってきて、嬉しそうに包みを 受け取る。 いそいそと包みを開き、額に入った写真を眺め入 る雪之JOE。 姫   …雪之JOEは私より順之助の写真の方が大切な のか? お紺  そりゃそうですよ。 …と言ってしまってからハッとする。 姫が怒ったような顔でお紺を見ている。 お紺  (慌てて続ける)ほら、順ちゃんは雪之JOEを 作った人ですから。お母さんみたいなモンですか らね。           姫   『お母さん』だと? 喜々として、着物の袖で額を拭いていたりする雪 之JOE。 …を、忌ま忌ましげにチラリと見る姫。 姫   …わかった。もうよい! お紺  (気になるが)…仲良く遊んでくださいよ? い いですか? お紺退場。 姫   …雪之JOE、水は? きょとんと姫を見る雪之JOE。 姫   花に水をやらなくていいのか、と聞いておるのじ ゃ! 雪之JOE、『ああ、そうか!』と手を打つ。水 を取りに、慌てて退場する。 姫   …ふん。 姫、プランターに近づいてしゃがむ。 姫   (花を見ていたが)…こんなもの! 姫、花をぶちぶちと乱暴に引き抜く。床(地面) に投げ捨て、足でバンバン踏み付けたりする。 姫   こんなもの! こんなもの! 水桶を持って戻ってきた雪之JOE、姫を見て驚 く。水桶を置いて駆け寄る。 姫の両肩を掴んでその場から引き離し、踏みしだ かれた花々を拾い集める雪之JOE。悲しげな顔 である。 姫はずんずんと水桶を取りに行く。 雪之JOE、立ち上がる。怒っている。花を持っ て、姫に近付く。 姫も負けじと雪之JOEに向かい合う。 姫   …何じゃ! 雪之JOE、花を姫の前に突き出す。その手を払 いのける姫。 拳を振り上げる雪之JOE。怖がりもせず、強気 に見返している姫。 姫   私に手を上げようというのか! 迷う雪之JOE。…が、振り上げた拳を、コツン と姫の頭に下ろす。 姫   無礼者ッ! 姫、抱えていた水桶の中の水をと雪之JOEにぶ っかける。     一瞬、ビクッ! と硬直した雪之JOE。ふらふ らとよろめいて転ぶ。立ち上がろうとするが…、 立てない。四つん這いになって苦しむ雪之JOE。 黒子が素早く登場。 黒子  (拍子木を鳴らす)なんと! 雪之JOEは水を ぶっかけられたショックで、プログラムの一部に 異常をきたしていたのでありました! 姫   …雪之JOE。これに懲りたら、二度と私に…、 (しばし考えて)…いや、私を含めて世の女性全 てに、逆らおうなどと考えるのではないぞ! 黒子  (拍子木を鳴らす)そして、このようなとんでも ない命令が雪之JOEにインプットされてしまっ たのでありました! 姫   判ったのか!? ぶんぶんと頷く雪之JOE。 姫   ほら。 …と雪之JOEに手を伸ばす姫。 手を取って、立ち上がろうとする雪之JOE。 姫   甘えるなッ!               手を払う姫。転ぶ雪之JOE。 姫   …ふん。行くぞ。ついてまいれ。 姫と、立ち上がった雪之JOE、退場。 その後に、スッと現れるジョンジョロゲ−ニョ。 ジッと二人が去った方を見つめている。 黒子  そこへ現れたのはヘンな名前の異国人、ジョンジ ョロゲーニョ。さっきから二人の様子を、物影に 隠れてジッと見つめておりました。 ジョン、胸に手を当てて切なげな素振り。ため息 をついたりして、なんだか少女っぽい。 そこへ…。           三太郎 ジョンジョロゲーニョ様!(と後ろからやって来               る) ジョン、驚く。…が、すぐに毅然とした態度に戻 る。 三太郎 やっぱり、雪之JOEが気になりますか?     ジョン、ドキッ! と反応するが、三太郎は気付     かず続ける。 三太郎 やつは恐るべきロボットです。我々からあの巻物 を奪い去った時のやつといったら、まるで…。     『まるで…』と、思い出すかのように目を閉じる     ジョン。心なしか、うっとりとしているようにも     見える。そんな彼には気付かず、 三太郎 まるで鬼神! やつのあのパワーとスピードは、 近い将来、必ずや我々の脅威となるに違いありま せん!     ジョン、手招きして三太郎を呼び、耳打ちする。 三太郎 (ハッと)手に入れる?! 雪之JOEをですか? ジョン、頷く。 三太郎 …なるほど、こちらの味方にしてしまえば、怖い ものではなくなりますな。     ジョン、『よろしくな』とでも言いたげに三太郎     の肩をポン! と叩き、悠々と退場しようとする。 その背に 三太郎 ジョンジョロゲーニョ様! 今から向こうで勧誘     デモが始まりますが?     ジョン、構わず退場する。 三太郎 (袖に)ちょっと! たまには顔を見せて下さい     ませんと。何と言ってもあなたは教祖であるワケ     ですし! 返答はない。不満気な三太郎。 三太郎 またあの女とやるのかよ。…苦手なんだよなあ。     …まあ、仕方ねえか。これもいつかはステージに     立つための試練だと思えば…。     『愛のメモリー』(例えば)のイントロが流れ始     める。     黒子、袖からマイクを持ってきて三太郎に渡す。 黒子  ○○教幹部、三池三太郎君! 今日も布教明日も 布教、布教にかけたこの青春! さあ、早速信者 獲得のために歌っていただきましょう。曲は、愛 のメモリーっ! 三太郎 (歌い始める) 三太郎が歌っていると、片方の袖から(通行人の) お花が登場する。町娘の格好で、お高祖頭巾を被 って変装している。三太郎を見るとびくりと立ち 止まり、隅によって、それでも見物を始める。 三太郎は(それがお花だという事に)気付かず歌っ ている。途中で黒子から仕入れた薔薇の花を、お 花に近付いて渡したりする。 そんなこんなのうちに曲がサビにさしかかろうと した時…。 舞台上の高台にスポットが辺り、志津穂が華やか な衣装をつけて登場する。 志津穂 (サビから、曲を受けて歌い始める) 三太郎は、残った薔薇を会場前列の客に配り始め る。 …曲が終わる。 舞台上に戻っていた三太郎、志津穂に一人拍手を する。 三太郎 (自分しか拍手していないのに気付き)…ハイ、 拍手拍手! (とお花をせかす) お花  え? ああ…。(拍手する) 満足気に頷く志津穂、辺りをゆっくりと見回す。 おもむろに…。 志津穂 人生は愛ですッ!! 大袈裟に拍手する三太郎。つられてお花も拍手。 志津穂 …長く寒い冬の夜、どうしようもなく一人ぼっち の自分を見つけて、その寂しさに絶望した事はあ りませんか?  気を遣い、お金も遣い、人を傷つけまいと自分だ けがボロボロになって、一生懸命生きているのに。 なのに何故、人は自分を判ってくれず、虚しさだ けがこみ上げるのだろうかと…。その純で傷つき やすい魂を、悩ませた事はありませんか?     ハイ、そこのキュートなお嬢さん。あなた、人生 に悩んでますね? お花  どき! あたし?(と動揺するがしらばっくれて)     ええっ? そんなコトないですよぉ! 志津穂 嘘をついても判りますよ。あなたのその顔、その     瞳、その右腕の返し! お花  右腕の返し? 志津穂 悩んでます、悩みまくってますね。私には判るん です。 お花  (さえぎる)あの…。 志津穂 (構わず)ズバリ仕事関係! そうでしょう? お花  そんなコトないですったら。 志津穂 すっごくワガママな上司に悩んでいる。そうでし ょう? お花  あのー。…それってやっぱこの、右腕の返し、で 判るんですか? 気をつけた方がいいのかな…? 志津穂 その必要はありませんよ。 お花  どうして? あたし、なんか今とっても情けない なー、みっともないなーって思ってるんですよ? あたしが悩んでたのは本当だけど、そんなの絶対、 顔とか目とか、それから、その…。 志津穂 右腕の返し。 お花  そう、そんなのとかに出てるなんて、ちっとも思 ってなくて、でももしそうなら、それってスゴく カッコ悪いコトでしょう? 志津穂 言いましたよ。そう思う必要はないって。 お花  どうして? あたし、自慢にもならないけど、今 までに一度だって、 人から「大丈夫だよ」 とか 「心配しなくていいよ」なんて言われたコト無か ったんですよ?           志津穂 それは多分、あなたがいた場所にはそういう言葉               が必要なかったからでしょうね。           お花  でも、だから、そういうふうにやってきちゃった               女の子は、今更そんな事言われたって困るんです               よ。それも今日始めて会った人に。そういうのっ               てズルいですよ。 志津穂 じゃ、今日私たちは、何のために出会ったと思っ てるんです? お花  知りません。判りませんよ! お花、振り切るように歩きだす。 志津穂 お待ちなさい! 三太郎 待ちなさいって! とお花の腕を掴んで三太郎、気付く。 三太郎 あッ! おまえきのうの! お花、三太郎の腕を払って逃げる。追う三太郎。 お花、袖まで走ってきて、ちょうど出てきた兵六、 順之助らにぶつかる。 お花  あっ!(倒れる) 兵六  んだよっ! 危ねえな! 順之助 (気付いた)あれ? あなた、きのうの…? 三太郎も兵六たちに気付いた。ぐるんと不自然に 身体を反らせ、見つからないように背を向ける。 兵六たちはお花に気を取られていて気付かない。 兵六  ちょうど良かったよ。おめえにホレ、こいつのコ ト聞きたかったんだ。 と差し出して見せたのは件の巻物である。 お花  (巻物に飛びつく)返してよ! 兵六  (避けて)何で! おめえのじゃねえだろ! お花  (飛びつく)でも姫様のでしょ! 兵六  (余裕で避けて)判ってるよ。だから俺が持って たっていいんだろ。 お花  (しつこく飛びつく)どーしてそーゆー理屈にな るの! 兵六  (イライラしてくる)ああっ、もう! よさねえ かッ!!(と強い一喝) お花、ドキッとして兵六から離れる。 兵六  よさねえとっ…!(急にニヤけた顔になって)お っぱい揉んじゃうよおん。(と揉み手でお花に) お花  やだあ! 逃げ回るお花。面白がって追いかける兵六。そこ へ… 志津穂 やめなさい! いつの間にか壇上を下りた志津穂が間に割って入 る。その背中に隠れるお花。 興をそがれた兵六、ちょっと不機嫌。 兵六  誰だおめえはっ! 邪魔するんじゃねえよ! 志津穂 名乗るほどの者ではありません。一宗教者です。 兵六  イチシュウキョウシャだあ? 順之助 ああ、この人が…。 兵六  何だおめえ、知ってんのか? 順之助 いやね、お紺さんに聞いたんですけど、○○教の 幹部に女の人がいるって。信者獲得の鬼とか言わ れてて、すっごく勧誘がうまいって。 志津穂 あらあら。鬼とか何とか、大層な言われようです ね。(お花に)そんなふうに見えますか? お花  (困って)そんな事言われても…。 兵六  あんたが鬼だろうが蛇だろうが、とりあえずンな こた関係ねえんだ。…確かな事は二つしかねえん だしよ! 志津穂 何です、二つって。 兵六  俺はその小娘に用があんだよ。あんたはそいつを 俺に引き渡さなきゃなんねえって事、それが一つ、 それから…! 志津穂 それから…? 兵六  あんたが確かに○○教なら、あんたはとんでもね え悪人だって事でえ! 志津穂 悪人? どうして私が? 何を証拠に? 兵六  バックレてんじゃねえよ! おめえ幹部なんだろ、 偉いんだろ? 知らねえとは言わせねえよ。昨日 の夜、城の地下での悪行三昧! 誘拐、脅迫、窃 盗、俺は全部見てたんだからな! 三太郎 (突然!)こら! こらこらこらこら! こらッ!! 兵六にずいずい詰め寄る三太郎。 三太郎 なあにが悪行三昧だ! なあにが誘拐、窃盗、脅 迫だ! おまえだろ! 俺たちの巻物盗んでった のおまえだろ! あのクソロボット使って俺たち 脅迫したのおまえだろ! 言われたかないんだよ。 おまえにだけはそーゆーコト、言われたかないん だよ。世の中にはな、それ言っていい奴と悪い奴 がいるの! おまえは後者なの、絶対後者なの。 胸に手を当ててよおく反省してみろよ。おまえ昔 っからそうなんだから。ちっとも変わってねえん だから。口だけで生きてんじゃねえのか? 兵六  そんだけベラベラ喋ってて人のコト言えンのか? …なんでえ、やっぱり三太郎なんじゃねえか。 三太郎 チッ。バレちまったんじゃしょうがねえ。 兵六  てめえが勝手に出てきたんじゃねえか。 三太郎 細かい事はいい! 兵六  (順之助に)細かくねえよな? 三太郎 黙れ! 人にはな、抑えようと思っても抑え切れ ない、止むに止まれぬ言わずにおれぬ感情という ものがあるのだ! 順之助 (兵六に)誰なんです? 兵六  俺が藩校に通ってた時の同級生だよ。昔っからヘ ンなものに染まりやすくてよ。 三太郎 ヘンなモノとはなんだあっ! 兵六  おっぱいが信仰の対象なんて宗教がヘンなものじ ゃなくて他の何なんだよっ! 三太郎 なにいッッッ!!! 激昂する三太郎。どハデなポーズと共に 三太郎 おまえはっ、おまえはっ、おまえはあッッ! お っぱいが、おっぱいが嫌いだとでも言うのかあッ ッ!!(叫ぶ)     一人「入って」る三太郎を、呆れて見ている一同。     兵六がそっと三太郎の肩を抱く。耳元でそっと… 兵六  …幼馴染みのよしみで言うんだけどな。そりゃ俺 だっておっぱいは好きだよ。愛してるって言って もいいかもしれん。…けどなおまえ、あんまそー ゆーコト大声で言うな。恥ずかしいからな。 三太郎 恥ずかしく、なーいッッ!(ポーズ!) 兵六  (諦めた。もう無視)順之助、帰ろ…。こいつも う完全にイッちゃってるわ。(お花に)おい、お めえも行くぞ。姫様のお守りすんだろ、ついて来 いよ。 お花  (ハッと)あたし…? 兵六  ぐずぐずしてんなっ!(と腕を取って連れて行こ うとする) お花  (が、動こうとしない)やだ! あたしは…! 踏ん張るお花。 兵六  あたしは何だよ。行くぞっ。 お花  ヤだから! 行かないから! 兵六  そういうワケにはいかねえだろッ! 引っ張り合う形になる二人。志津穂が間に割って 入る。兵六の腕を抑える。 志津穂 嫌がってるじゃありませんか! やめなさい! 順之助 (も見かねて間に入る)やめなよ六さん! 女の 人相手に! 兵六  (抗いながら)ったくよっ! どいつもこいつも 邪魔すんじゃねえよ! 怒鳴った兵六が力まかせに腕を振り払う。ふっと び、床に転がる三人。 三太郎 きさまあっ! 何をするかっ! と兵六の胸倉を掴むのを…! 志津穂 (倒れたままだが)やめなさいッ!! 厳しい一喝。その勢いに、兵六も驚いて志津穂を 見る。 しぶしぶ兵六から離れる三太郎。 立ち上がる志津穂。落ち着いた様子で兵六を見据 える。 お花、順之助も立って成りゆきを見守る。 志津穂 …どうしても、この人を連れて行くつもりですか? 兵六  …こっちにはこっちの事情があるからな。 志津穂 それなら、私を…、そしてこの三太郎殿を倒して からって事になりますね。 三太郎 そうこなくっちゃな! 三太郎、懐に隠し持っていた短刀を抜き、兵六、 順之助らに詰め寄る。 三太郎 …今日はあのクソロボットもいねえしよ! 順之助 (怯えて後ずさる)ろ、六さん…!(と兵六の影 へ) 兵六  (も身構える。緊張で)…へっ、結局やるつもり なんじゃねえか。 志津穂 それは違います。 三太郎 おりゃあっ!     と掛け声だけは勇ましく、兵六らに斬りかかろう     として…。     バコン! いつの間にか草履を脱いだ志津穂に頭     をぶっ叩かれる。(例えば草履) 三太郎 どうして! 志津穂 三太郎殿、人生は愛です。そして我が教団の愛と は、とりもなおさず「与える」こと…。もしこの 男が私たちの新しい友人を、仲間を、無理にでも 奪っていこうとするのなら、それも致し方ない事 なのかもしれません。 お花  …あの、友人とか仲間とかって、それ、あたしの 事ですか? 志津穂 そうですよ、お嬢さん。 お花  ズルいですよ、そんなの…。 そう言いつつ、お花は嬉しそうなのである。 志津穂 (兵六に)人生は愛です。女性の胸が信仰の対象 などと言うのは…、それはものの例え…。殿方な ら御自身の身勝手を振り返ってお判りでしょう。 女の愛情の方が、殿方のそれよりずっと深いんで すよ。 兵六  ケッ。何言ってんだか…。 志津穂 女は待つ生き物。そのために、日々を耐える事の できる生き物。自らが全身全霊を傾けて愛する事 のできる対象を得るまで、その行先も判らぬ魂を ジッと抱えて毎日を生きているんです。何のため に? 与えるためです。夫に、子供に…、いえ、 それだけじゃありません。私たちを囲む全ての男 に…! 受け入れる身体に生まれてきたという事 は、つまりはそういうこと…。多くの女たちにと っての愛とは「与えるもの」なんです。 順之助 …あのう。ちょっと質問が。 志津穂 どうぞ。 順之助 …楽しいんですか、そういう考え方で? なんか、 すっごいサベツされてるような気がしません? 志津穂 …そう、それが単に女性だけのものであった頃に は…、決して楽しい事ではなかったかもしれませ んね。 順之助 …それ、どういう意味ですか? 志津穂 男と女を超えるという事です。人として、いたわ りの感情を持つ生き物として、もともと女性がよ り多く持っていた「与える愛」を貫こうという事 です。それが我が教団の目標なのです。…いいで すか、この場所に残りたいというお嬢さんの意志 を尊重するためなら、私たちはここに我身を投げ 出す事をも厭いませんよ。 兵六  (押されている)…本気かよ。 志津穂 …あなたが本当に、この人を連れて帰りたいのな ら…! あなたは、単に無抵抗の人間を二人、手 にかける事になるだけですよ。やるとかやられる とか、それをそんなふうには呼びません。…さあ、 この人を連れて行きたかったら、私たちを倒して からお行きなさい! ある種、異様な迫力で兵六に迫る志津穂。 兵六  …ちっ。くそったれがっ! 判ったよ! 兵六、腹立ち紛れに草履(例えば)を脱いで三太 郎の頭をぶっ叩く。 三太郎 どうして! 兵六  (イラツきながらも戸惑って)だから、なんだ!     その「与える愛」、なんだろ! 行くぞ、順之     助! 兵六、苛立ちつつずんずん退場する。 順之助 あ…! ちょっと待って六さん…! 後を気にしつつ、順之助も続いて退場。 お花  あの…。 志津穂 はい? お花  いいんですか? あたし、本当にここにいていい んですか? 志津穂 (ニッコリ笑った)もちろんですよ。…行きまし ょうか? お花に手を差し伸べる志津穂。その手をしっかり 握ったお花。退場する二人。 残ったのは三太郎と黒子。 三太郎 …納得いかねえなっ…!(と黒子を草履で殴る) 退場しようとする三太郎。その後頭部を黒子が自 分の草履で三度殴って…。追っかけ合いになる二 人…。 やがて、三太郎をまいた黒子が舞台に戻って来る。 黒子  (拍子木を鳴らす)こうして、謎の教団○○教の 手に落ちたお花! 孤独な彼女の心につけ入った 教団は、一体何を企んでいるのでしょうか? そ して、二つに破れた巻物に記された秘宝とは果た してどんなものなのか? さらに! さっきから 出番が少ない割には意味深な行動ばかり取ってい るこの男、(黒子の後ろをジョンが手を振りなが ら通り過ぎる)この男の本当の目的とは? 数々 の謎を孕みつつ、物語は中盤に突入します! (拍子木を鳴らす)さて、それから数日後、お紺 の居酒屋でございます。…雪之JOEをめぐって、 なにやら不穏な空気が漂っているようで…。 黒子、退場。突然、袖からお紺の怒鳴り声が聞こ えてくる。 お紺の声  雪之JOE〜〜ッ! バタバタと駆け込んで来るお紺。両手に割れた皿 を持っていて、怒っている様子がありありと。 お紺  雪之JOE! 出てきなさいッ! 順之助が登場。 順之助 どうしたんですお紺さん、そんなに楽しそうにし て? お紺  順ちゃん!(皿を床に投げ捨てる) どこを(胸 倉を掴む)どう見たら(反転して腰に乗せる)こ れが楽しそうに見えるのッ!?(一本背負いで投 げ飛ばす) 起き上がろうとするが出来ず、がっくしと倒れ伏 す順之助。 お紺  雪之JOEはどこ? 隠し立てするとためになら ないわよ! 順之助 (倒れている)知らないですよぉ。…全くもう、 何だってんですか? お紺  (皿を拾い)これ見てよ! 私がお店にも出さな いで大事にしてたお皿なのよ? 雪之JOEがや ったんだからね! 順之助 (信じてない)まさかそんな…。 再び、袖から怒鳴り声。 おぎんの声 くぉらあっ! ロボット三等兵ッ! やはりバタバタと駆け込んで来るおぎん。抱えて いるのは石の地蔵。…頭と胴体がもげている。そ れを両脇に抱えているのだ。 フラフラとやっと立ち上がりかけた順之助、それ を見て 順之助 おぎんさん! とうとうお地蔵様、壊しちゃった んですか? おぎん 先生!(床に地蔵を投げ捨てる)あたしが(胸倉 を掴む)か弱い女の身で(ずずずずっ! と押し やる)どうしてこんな固いもの(足を振り上げる) 壊せるんですかっ!(大外刈りを決める) 再び倒れ伏す順之助。 おぎん あのロボット三等兵、どこやったんです? 隠し 立てすると、いくら先生でも許しませんよッ! 順之助 (息も絶え絶え)…だから、…雪之JOEはそん なコトしませんって。 三度、袖から怒鳴り声。 兵六の声 雪之JOE〜〜ッ!! 兵六が倒れている順之助めがけて走ってくる。 やっと立ち上がりかけた順之助に、掛け声と共に エルボーを決める。棒のように倒れる順之助。 順之助 …こ、今度は、…なん、なんですか…。 兵六  いや、俺はみんながやってて楽しそうだったから 真似しただけだ。 お紺  なに呑気なこと言ってんの。これアンタのでしょ? そう言ってお紺が放ったのは、ボロボロに破れた メンコである。 兵六  ああッ! 俺のメンコがっ! 戦利品がっ! や っと権助から取り上げたばかりだってのに! お紺  雪之JOEがやったのよ。店の前に落ちてたんだ               から。 兵六  …何だとぉ? 順之助、てめえ何で隠し場所教え たんだよ!     ずずっ! と、半身を起こした順之助に詰め寄る     三人。 順之助 …と! ちょっと待って下さいよ! 皆さん雪之 JOEのせいみたいにおっしゃってますけどね、 何か証拠はあるんですか、証拠は? お紺  あるわよ。これは雪之JOEに使ってるヤツじゃ ないの? …とお紺が懐から取り出したのは太くてデカいネ ジ、2本である。 おぎん お地蔵様のトコにも落ちてたね。(出す)ほら、 このネジには「雪之JOEの」ってちゃんと書い てある。 順之助 ふつう書きませんよ、そんなトコに名前なんか! 兵六  じゃ、他に誰がやったって言うんだよ! 順之助 とにかく、何かの間違いです! 雪之JOEは人 様のモノ壊すようなコト、絶対にしません! み んな知ってるでしょ、優しいロボットなんですよ。 雪之JOEに限って、そんな事は絶対にありませ ん!! 強く言い切る順之助。そこへ、雪之JOEに背負 われた姫が登場して… 姫   おい順之助。雪之JOEがネジを3本無くしたと 言っておるぞ。 お紺  …決まりね。(雪之JOEの前に立つ) 兵六  …決まったな。(後ろから挟む) おぎん …どう落とし前つけてくれるのかねえ?(横に立 つ) 三人、ギロリと雪之JOEを睨んでいる。もう一 触即発状態だ。 順之助 (もう必死)待って下さい!本当に何かの間違い なんですって! 雪之JOEに姫、なにが何だか判らない。きょと んと一同を見ている。 順之助 そうだ! 雪之JOE、おまえ、アリバイがある よな? お紺  言えるモンなら言ってごらん! アンタ今日の午 前中、どこで何してたの!? 雪之JOE、姫を指して一連のマイム。           順之助 (通訳する)ええと…。姫様と一緒に鬼ごっこを               やって、その後ボカスカに殴られて、最後は馬に               なってハイドウドウ…、みたいな事をしてたよう               です。           兵六  どうして判るんだそんなんでっ! お紺  姫様! 本当に雪之JOEと一緒にいたんですか っ! おぎん 姫様! 民衆の心知ってこその岡部十七万石です よ? 信仰を馬鹿にするような奴を庇い立てする 事はないんですからね! 兵六  姫様! 俺は権助とのメンコ勝負に命かけてたん ですよ! あんたの返答次第じゃ俺は、俺の勝負 魂は、生涯初めての死を迎える事になるんだ! 三人  (同時に)姫様!!! 大人三人に押しまくられて、姫は珍しくたじろい でいる。 姫   わたしが…、雪之JOEと一緒にいたか、か…? 三人  (同時に)そう!!! 姫   …いたと言えばいたような、…いないと言えばい ないような…。 順之助 (懇願)姫様! お紺  どっちですか! 姫   (困っている)ん〜…。 おぎん どっちなんですかッ!! 姫   (決めた)…知らぬ。 順之助 ええっ? 姫   雪之JOEがどこにいたか、わたしは知らぬ! 順之助 姫様ッ! おぎん ほらごらん…! 兵六  (雪之JOEに)この野郎…。どう料理してくれ ようか…? お紺  とりあえずこのネジ、はめて差し上げようかねえ …? ジリジリと雪之JOEに迫る三人。形相もすさま じく…。 順之助 (叫ぶ)雪之JOE! 逃げろぉッ! 言葉を合図に、ダッと走り出す雪之JOE。追い かける三人。舞台を走り回って袖に駆け込む雪之 JOE。追って退場する三人。 姫、思わぬなりゆきに、呆然と大人たちとロボッ トの姿を見つめていたが…。 順之助 (やりきれない) …どうして嘘をつくんです? 一緒に遊んでたんでしょ? どうしてそんな嘘つ くんですか! 姫   いや順之助、わたしは…。 順之助 (遮って)いいですよ! もういいです。…お城 のお姫様なんてものは、それで通用するんでしょ …!? 順之助も珍しく怒っている。肩を怒らせて退場す る。 順之助の後ろ姿を見送っていた姫、やがて…、つ まらなそうに退場する。 黒子が登場。 黒子  その頃、こちらは○○教団の秘密アジト。やっと 自分の居場所を見つけたと信じたお花は、彼女に は優しい女幹部、志津穂の後を追いかけ回してお りました。 黒子、退場。反対側の袖からは志津穂が登場する。 同じ袖から声。 お花の声 志津穂様ぁ! 後を追うように、お花も登場。 お花  待って下さい、志津穂様。  志津穂、立ち止まり、お花に向き直って 志津穂 お花さん、あなた、私の後を追い回してばかりい るけど、ちゃんと歌の練習やってるの? お花  勿論ですよ! あたし運動神経はニブいけど、歌     は得意なんですから! …六十日に一度、庚申の     日の夜にあの歌を上手に歌えば、洞窟の扉が開く     んですよね?           志津穂 そうよ…。だから今度は六日後なんだけど…。               考え込む志津穂。           お花  …どうかしました?           志津穂 …あなた、すっかり染まっちゃったわね。           お花  え?           志津穂 …あなた、もともとはお城の人間じゃないの。そ               れなのにお城の物を盗み出そうとするのは、…悪               いことじゃないの? お花  どうしてです? あなたが間違ったコト、あたし に言う筈ないじゃありませんか! たとえそれが 悪い事でも、あなたが喜んでくれるなら、あたし はそれでいいんです…! 屈託のない笑顔を向けるお花。志津穂、お花の笑 顔をしばらく見つめていたが… 志津穂 (やがて)…あなた、私のこと、好き? お花  ハイ! 大好きです! 志津穂 (薄く微笑む)…そう。 志津穂、お花に背を向ける。 お花  あの…。…どうかしたんですか? 志津穂 …何でもないんですよ。 お花  あたし、何か気に触ること…。あたしバカだから …。 志津穂 …そうじゃないけど。でも。 お花  でも…? 志津穂 …お花さん、あんまり私のこと、好きにならない でちょうだい。 お花  ? どうしてですか? 人に好かれるのが嫌いな んですか? 志津穂 (黙って背を向けている) お花  …迷惑だったらやめますけど…。 志津穂 そうじゃないの! そうじゃないんだけど、でな いと私が…。 お花  何ですか? 志津穂 (迷うが)私があなたの事を好きになっちゃうか     らよ。 お花  ええ! あたし、志津穂さんに好かれるんなら嬉 しいな! はしゃぐお花をよそに、志津穂は再び黙り込んで しまう。 そこへ三太郎がスキップしつつ、歌謡曲を歌いな がらやって来る。志津穂の肩を叩いて 三太郎 どうよ、調子は? 志津穂 …まあまあ、ね。そっちは? 三太郎 「おイタ計画」か?  うまくいってるよぉ! (声をひそめて志津穂だけに)しっかしジョンジ ョロゲーニョ様もえげつないよなあ。あーゆー事 して雪之JOEを追い出しちまおうってんだから なあ。 踊りながら喋る三太郎。 志津穂 …楽しそうね? 三太郎 楽しいよお、そりゃ! いやあ、それにしてもロ     ボットってちゃんと寝るんだなあ。俺、どうやっ     てネジ盗もうかと思ってたんだよ。今でも普通に     動いてるってのが不思議だよなあ。 で? どうなんだって、そっちの具合は? 志津穂 …お花さん。 お花  ハイ! 志津穂 (お花の肩に手を置いて)この子を、計画の責任 者にしたから。 三太郎 (不審気に)こいつかあ? ホントにだいじょぶ なのかあ? 志津穂 (お花に)教えてあげて。あの曲よ。 お花  あ、ハイ! …ええと、いきますねっ! 歌い出すお花。(M2)朗々と、清らかに歌う。 いつかの兵六たちとは違って、非常に上手い。 三太郎 (感心して)…なるほどなあ…。 志津穂 (歌の途中だが)…ありがとう。もういいわ。 やめるお花。 志津穂 …じゃあね、向こうで練習を続けててちょうだい。 お花  はい! お花、駆け足で退場。その姿を見送っていた志津 穂の背に 三太郎 …どこがいいの? 志津穂 (袖を見送っていたままで)だから、聞いた通り よ。 三太郎 そういう意味じゃないよ。判ってんだろ? 志津穂、振り向き三太郎を見る。 三太郎 そんな怖い顔すんなよ。俺が気付いてないとでも 思ってたの? 志津穂 (睨み付けたままで)…なんか危なっかしくてね。 見てられなくなっちゃうんですよ。守ってあげた くなっちゃうんですよ。…こう言えば満足? 三太郎 …あのさあ、この際聞くけどさあ、…何で女なの よ? 志津穂 (ため息をつく)…あなたがそんな事言わないで。 …忙しいから、私。 退場する志津穂。 三太郎 …ケッ。…何カッコつけてんだか。               続いて退場する三太郎。     音楽ブリッジ。黒子、登場。 黒子  さてそれから一刻ばかりあと。お紺の居酒屋でご ざいます。 黒子、退場。逆の袖から順之助と雪之JOEが登 場する。 反対側の袖からは兵六、お紺、おぎんが登場。           順之助 あれ? みなさんお揃いでどうしたんです? 三人、順之助と雪之JOEを囲むように、腕組み をして立つ。 順之助 (三人が怒っているのに気付き)…どうしたんで     すか、怖い顔して? 兵六  雪之JOEに出てってもらう事にしたからな。 順之助 ええっ!? どういう意味ですか? お紺  私たちで話し合ってそう決めたのよ。順ちゃんに は悪いんだけどね。 おぎん 人のモノ壊しといて嘘までつくような奴を、ここ     には置いとけませんからね。           順之助 だからそれは誤解…! 兵六  (強く遮って)とにかくよ! そういうことに決     まったんだ。反省するまで戻ってくる必要なし!     さあ出てけ出てけ!               ドン! と押すように雪之JOEを袖に追いやる               兵六。               雪之JOE、戸惑いつつも袖の方に押されて行く。           順之助 (割って入って)六さん! ひどいじゃないです               か!           兵六  ここでモノの道理教えてやらねえ方が、よっぽど               こいつの為になんねえんだぜ? (雪之JOEに)               さっさと行かねえかっ!!               顔を落とし、とぼとぼと退場する雪之JOE。               入れ違いに姫が登場して。出ていく雪之JOEの               背を見送り           姫   雪之JOE? (一同に)どうしたのじゃ?!           お紺  …追ン出しですよ。           おぎん イタズラをした罰です。           姫   いたずら? どうして…               言いかけてからハッとする姫。               肩を震わせた順之助が姫の前に立つ。               ぱしっ! と姫の頬を叩く。           兵六・お紺・おぎん (驚く)ああっっ!!!               打たれた頬を押さえて、しばし下を向いていた姫。               おもむろにきびすを返し、袖に駆け去る。           お紺  ばかっ! なんてコトするの! (姫を追う)ち               ょっと! 姫様、姫様!(退場)           兵六  ったくよ! おまえホントに打ち首になりてえの               かよ!           順之助 だって僕は!           おぎん (遮って。順之助の手を取る)先生! いっそ逃               げましょう! 地の果てまでもどこまでも!               おぎん、順之助を引っ張るようにして退場。           兵六  (追いつつ)ババア! くだらねえコト言ってん               じゃねえよ!(退場)               黒子が登場。           黒子  店を放り出されたものの、行くあての無い雪之J               OE。町外れの道を、とぼとぼと歩いておりまし               た。(退場)               雪之JOEが登場。落胆して歩いている。               反対側の袖からジョンジョロゲーニョが登場。               大きな花束を抱えている。               気付き、顔を上げる雪之JOE。               ジョン、花束の中から二、三本を抜き、雪之JO               Eの足元に放る。               拾い、顔を上げてジョンを見る雪之JOE。               ジョン、さらに数本を抜き、今度はやや手前に放               る。               近付き、拾う雪之JOE。ジョンを見る。               ジョン、一本ずつ花を落としながら退場していく。               雪之JOEも一本ずつ花を拾いながら追うように               退場する。               …と同時に、反対側の袖から登場する姫。雪之J               OEの後をつけてきたのである。               そろそろと舞台中央に忍び寄り…、           姫   (袖に向かって呼ぶ)雪之JOE…!               行こうとする姫と。               お紺が階段の影から素早く登場して姫を背後               から押さえつける。           姫   こら! 離せ! 離さぬか、お紺!(暴れる)           お紺  (押さえて)ダメですよ姫様! ついて行っちゃ!           姫   離せ! 私が悪いのじゃ!           お紺  何がですよ!           姫   私が…、私が嘘をついたから…!               姫、暴れるのを止める。           お紺  …嘘?           姫   雪之JOEは何も悪い事はしておらぬ。…私が雪               之JOEを連れて帰らねば…、順之助に顔向けが               出来ぬ…!               姫をこちらに向かせるお紺。厳しい口調で           お紺  …そういうこと、だったんですか?!               お紺の腕を振り切る姫。ダッと走って袖に向かう。           姫   (お紺を見て)…雪之JOEは私が連れて帰る!               退場する姫。追わないお紺。フクザツな気持ち…。               反対側の袖から『お〜い、お紺!』と兵六の声が               して…、兵六、順之助、おぎんが慌ただしく登場。           兵六  どうなんだよ? 姫様捕まったのか?           お紺  …行っちゃったわよ。雪之JOE追っかけて。           兵六  …って。どうして止めねえんだ!           順之助 で?! 雪之JOEはどこに?           お紺  あの教団じゃないの? ヘンな教祖に花束で釣ら               れてたから。           おぎん どうして追っかけないんだよぉ! あたしらみん               な打ち首になっちまうよ!           兵六  お紺! おまえちっと後つけてって、あの教団探               ってこい。んで、姫様連れ戻すんだ。           お紺  どうして私が?!           兵六  ババアが使いモンになるわけないし…           おぎん (遮ってぶっ叩く)一言多いんだよっ!           兵六  (メゲずに続ける)俺と順之助はあの女幹部に顔               割れてるじゃねえか。           お紺  イヤよ、私は。           兵六  選べる立場なのかおめえは! これが城にバレた               らどうなるかぐらい判ってんだろっ!           お紺  …たとえ首が飛んでも、あの子に教えてあげなく               ちゃいけない事があるんじゃないの?           兵六  何ワケの判んねえコト言ってんだよ!           順之助 (察して)何かあったんですか?               お紺、一同を残して歩き出す。           兵六  お紺てめえ、俺の言う事が聞けねえってのか!           お紺  (振り返り)六さんの言う事聞いてるからこうし               てるんでしょ。『ここでモノの道理教えてやらね               え方が、よっぽどこいつの為になんねえ』って言               ってたのは六さんじゃない。           兵六  (苛立つ)だからっ! 判るように話せってンの               が判ンねえのかっ!           お紺  前にも言ったけどね! 私はもう全部がイヤにな               ったの! イヤになっちゃってるの! だいたい               全ての始まりが、お城の御金蔵を盗みに入った事               じゃないよ! 自分の気に入らない事して、うん               ざりするのはもうたくさんなの! 私はもう、自               分の思った通りにしかしないからね!(退場)           兵六  なんだってんだよ全く!(二人に)仕方ねえ、俺               たちだけで探すぞ!               バラバラに散る一同。               黒子が登場。           黒子  しかし…! 兵六たちの努力も虚しく、姫と雪之               JOEの行方は依然知れないままでありました。               教団の布教活動の後をつけていけば、彼らのアジ               トに辿り着けるのではないかという順之助のアイ               デアも、途端に町場で活動をしなくなった教団の               前に敢えなくポシャり、姫を連れ戻す事が出来な               いまま、時間だけがただただ過ぎていったのです。               さてその頃、教団のアジト。雪之JOEの後を追               って難なく潜入に成功した姫でしたが、肝心の雪               之JOEの姿を見失い、ここでも得意のぞんざい               さを発揮して情報収拾活動にいそしんでおりまし               た…!     喋り終わると黒子、袖から座布団を四枚持ってき               て、舞台上に並べる。 黒子  フルーツバスケットゲ〜ムっ!!(退場する) 『わあ〜ッ!』とはしゃぎながら、姫を先頭に忍 者軍団が登場する。(姫を合わせて合計5人) 忍者Aを残して、残りの4人が座布団に座る。 忍者A え〜と、今日朝御飯を食べた人!     全員がわあっ! と立ち上がり、座布団をめぐっ               てドタバタと走り回る。ウロウロしているうちに 座布団に座れなかった姫、おもむろに忍者Bの前               まで歩いていき、腕を組んでジッと睨みつける。               …格が違う。ドギマギして視線を反らせたりして               いた忍者B、ついに耐えきれなくなって座布団を               姫に譲る。中央に歩いていく忍者B。 忍者B それじゃ、ええと…(何か言おうとして) 姫   (遮る)待て! 鬼には罰があるだろう。 忍者B ホント知らないんですよ。勘弁してくださいよ。 姫   嘘をつけっ! 貴様らが雪之JOEの居場所を知 らぬ筈があるまい! とかやっていると…。鼻歌を歌いながらお花が登 場する。 お花  さあ今日も頑張って歌の練習をしましょおっ! (気付く)げっ! 姫様! なんで?! 姫   久しぶりじゃの、お花。 姫が立ち上がるので、空いた座布団にそそくさと 座る忍者B。               お花、あたふたと出てきた袖に退場しようとする。 姫   お花! なぜ逃げる!     ビクッ! と止まるお花。 お花  いえ、あの、まさかこんな所にいらっしゃるとは 思わなかったので。 姫   私は三日前からここにおるぞ。こやつら(忍者た ち)を詰問しておった。 お花  あたし知らなかったんで。ここ、あんまり広いか ら。…失礼しました。 姫   判ればよい。…では行くぞ。 お花  行くって、どこへ? 姫   知れたこと。雪之JOEを連れて帰るのじゃ。お まえなら、奴の居場所を知っているのであろう? お花  …姫様、あたしはここで幸せなんですよ。 姫   だから? お花  だから、姫様と一緒に行く事はできません。雪之 JOEがどこにいるかなんて、あたし知りません。 姫   お花! 私に逆らうというのか! お花  もう…、そうなっても仕方ないと思ってます。 姫   …そうか。では私は、自力で雪之JOEを見つけ て助け出し、連れ帰るまでじゃ。 お花  そうしてください。…できるんでしたら。 姫   なに?! お花  (忍者たちに)連れて行って! 姫を取り囲む忍者軍団、あっという間に姫を抱え 上げ、胴上げの御輿のようにして袖に連れ去って しまう。 姫   (叫ぶ)よさぬかっ! こらっ! 雪之JOE!  雪之JOE、どこじゃっ! 『雪之JOE〜っ!』と叫びながら、退場する姫。 お花、固い表情で見ていたが… お花  あ〜あ…。 座布団を片付け始めるお花。やがて、落ち込んで 座布団の上に座り込む。               と、姫が退場したのとは反対の袖から雪之JOE               がバタバタと駆け込んで来る。片手にスコップを               持ち、もう片方の腕にはプランターを抱えている。               キョロキョロと辺りを見回す。誰かを探している               らしい。               立ち上がったお花に雪之JOE、例の順之助にし               か判らないアクションをする。 お花  (見ていて)…うん。あなたが何て言ってるのか 判らないけど、何を言いたいのかは判るわ。…姫 様の声が聞こえたって言うんでしょ? 雪之JOE、ぶんぶんと大きく頷く。 お花  …でもね、それは気のせいよ。姫様はここにはい ないの。 首を傾げる雪之JOE。 お花  本当よ。いるわけないじゃない。 しばしお花を見つめていた雪之JOE、とぼとぼ と帰ろうとする。 お花  (その背を見ていたが)…土いじりが好きなのね? 振り返り、お花を見た雪之JOE、頷く。 お花  じゃあね、これをあげる。都忘れの種なんだけど…。 胸元から紙包みを取り出すお花。 お花  自分で蒔こうと思ってたんだけどね、忙しくてで きそうもないし。…あたしね、今までいろいろや ってきたけど、うまくいった事って一度もないん だ。だから今度は…。あの人のために…。               途中から、自分に言い聞かせるような喋りになる               お花。               首を傾げて見ていた雪之JOE。           お花  (ハッと)ごめん。雪之JOEには関係なかった               ね。 雪之JOEに包みを渡そうとした時…。誰かが、 階段の裏から顔を出す。 お花  (気付き)あら…? 見るお花。階段の裏から、ジョンジョロゲーニョ が顔を出している。一旦引っ込めたかと思うと再 び顔を覗かせて、まるで『明子姉ちゃん』のよう に雪之JOEを見ている。 お花  ジョンジョロゲーニョ様、何か? 再び顔を引っ込めるジョン。お花、雪之JOEと 顔を見合わせる。               三太郎が通りかかって、やはりジョンに気付く。 お花  …あなたに用があるんじゃないの?           三太郎 行ってやれよ、雪之JOE。               雪之JOE、動かない。 お花  行ってあげれば? 雪之JOE。…あ、これも一     緒に持ってって。(座布団を渡す) 雪之JOE、大きく頷いてから階段の裏に退場す る。           お花  あ! これ(種)渡すの忘れちゃった!           三太郎 何だよ! なんで俺の命令聞かなくておまえの言               う事はちゃんと聞くんだよ! 黒子が慌ただしく登場する。           黒子  はい! ここでちょっと復習です。雪之JOEは               いつぞやのぜんざい姫の命令により、女の人の言               う事には逆らえなくなっていたんですね!           三太郎 (黒子に)そうだったのか?           黒子  そうだったんですよ。じゃ!(退場する) 三太郎 …しかし。何だかなあ、最近のあの人は…。 お花  ジョンジョロゲーニョ様の事ですか? どこかヘ ンなところでもあるんですか? 三太郎 ヘンだよ。ヘンじゃないの、おまえだって今見て ただろ? …俺は雪之JOEがいれば色々と便利 だと思ってそう言ったんだけどさあ、あの人はな んか、別の意味に取ったみたいだな。 お花  別の意味って? 三太郎 …例えば俺が雪之JOEと一緒にいるわな? そ うすっと、背中に視線を感じるのよ。冷たあい、 嫉妬深い視線をよ。振り返ると、そこには必ずあ の人がいるワケよ、さっきみたいにさ。…これが どういう意味か判る? お花  目から冷凍光線を出している! 三太郎 ピンポ〜ン、正解! 光線発射! ビビーッ! …っておい! お花  …あの。質問があるんですけど。 三太郎 なによ。 お花  洞窟の中に隠されてるのは、それを手に入れた人 の願いを何でも叶えてくれる宝物、なんですよね? 三太郎 そうだよ。巻物に書いてあっただろ。 お花  はい。…それで、ジョンジョロゲーニョ様は、そ れを手に入れてどうするつもりなんでしょうか? 三太郎 (あっさり)知らないよ。 お花  (驚いて)知らない? 三太郎 ああ。それがどうかした? お花  (ムッとした)…三太郎様、いちおうこの教団の 幹部なんですよね? 三太郎 いちおうね。 お花  それなのに「知らないよ」なんて、ちょっと無責 任じゃないですか? 三太郎 別に。俺はそうは思わないけど。 言いつつ三太郎、辺りをキョロキョロと見回す。 誰も来ないのを確かめると、お花の肩を抱いてヒ ソヒソ話を始める。 三太郎 …あのさお花。ここだけの話だけどさ、おまえ、 アイドルとか興味ない? お花  アイドル? (   )とか(   )とか、そ ういうのですか?     ( )内には、その都度適当なアイドル名(最近               の)を入れる。 三太郎 なんか時代考証デタラメだけど、まあそんなのだ よ。 お花  う〜ん。別にあたしは…。追っかけとかでもなか ったし…。 三太郎 違うよ! 追っかけるほうじゃないの! 追いか けられる方になるの! お花  アイドル?! 三太郎 どうよ? お花  あたしが?! 三太郎 つーか、俺たちが、だな。 お花  やだあ! そんな無理ですよぉ!(などと言いつ つ実は嬉しい)でもちょっといいかもしんない。 三太郎 な? おまえ歌うまいしさ、CD出せばきっと売 れるよ? お花  え〜っ! どうしよ、印税入ってきたら! 三太郎 (調子づく)な、だから洞窟のお宝は俺らが頂い ちゃって、そしたらこんなトコとっととトンズラ しようぜ? お花  (別の意味での驚き)ええ〜〜っっ!! 三太郎 何だよ! 突然オクターブ違いの声出すなっ! お花  三太郎様、そんな事のためにこの教団にいたんで すか? 三太郎 そうだよ。最初からそのつもりだよ。 お花  『人生は愛だ!』じゃなかったんですか? 三太郎 誰の寝言だ、そりゃ。 お花、ヨロヨロと三太郎から離れる。がっくりと 膝をつく。悲愴な音楽が流れたりして、かなり大 袈裟。 お花  …ひどい。…あたし傷つきました。ショックです。 大ショックです…! 音楽、終わる。           お花  そんな事のために…。           三太郎 そんな事ってな何だよ! 俺にとっては重要な問               題なんだよっ。           お花  理由を教えてください。           三太郎 言う必要はないね。           お花  …ふん。どうせ、子供の頃、学芸会の主役に選ば               れなかった恨みがつもりつもってとか、そんなく               だらない理由に決まってるんだから。           三太郎 (怒る)馬鹿な事をいうなあっ! なんで俺がそ               んな子どもじみた理由でアイドルを目指さなけれ               ばならんのだっ!           お花  冗談ですよ。 三太郎 (落ち着いて)…とにかくだ。人生楽しんだ方が 勝ちよ? …な、悪い話じゃないと思うんだ。ち ょっと考えてみたら? お花  …あたしは、志津穂様を裏切れません! 三太郎 あいつだって別に、高邁な理想を持ってここにい るワケじゃないんだしさ。 お花  そんな事ありませんよ! あの方は立派な方です! 三太郎 そりゃある意味立派よ、あいつは。ああまで自分 をごまかすってのは、よっぽどの忍耐力だよな。 お花  …それ、どういう意味ですか? 三太郎 どういう意味もこういう意味も…。おまえ、全然 判ってないの? お花  何をですか? 三太郎 何をってさ、おまえ…。 困った三太郎、腕を組んでしばし考え込む。 三太郎 (決めた)…まあいいや。どうせいずれはバレる 事だしな。知っといた方が、後でおまえもショッ ク少ないだろ。実はな、お花。志津穂は… と三太郎が喋ろうとしたその時! 志津穂の声 (鋭く)三太郎殿! 志津穂が登場する。 ドキッと志津穂を見る三太郎。 志津穂 …聞きましたよ、後ろで全部。教義に対する重大 な謀反、許し難いことです。 三太郎 何だよ! 布教に行ってたんじゃなかったのか?! 志津穂 (構わず)本来ならジョンジョロゲーニョ様に判 断を仰ぐところですが、この場合はその必要もな いでしょう。あなたを破門します…! 三太郎 と! ちょっと待てよ! 俺ぁ何にも言ってない じゃないよ! お花  言ってたじゃないですか! アイドルになりたい って! 三太郎 (お花に)だからそうじゃなくて! ああっ、も う!(メンドくさくなって志津穂に)おまえ、そ れって職権乱用だよ?! 志津穂 今すぐ出ていきなさい。ジョンジョロゲーニョ様 には私から話しておきます。               志津穂の冷徹な態度に、三太郎は本気で腹を立て               る。 三太郎 そう! ああそう! そういう仕打ちに出るわけ? 判ったよ。出ていきます。出ていきますとも! けどな、雪之JOEは頂いてくぜ! 志津穂 できるもんですか。 三太郎 できんだよ! 俺ぁおまえと違ってノーマルだか らよ! お花っ! お花  何ですかっ! 三太郎 いい事教えてやるよ。志津穂はおまえのコトが大 好きなんだってよ! お花  え!(嬉しい) 三太郎 喜んでんじゃねえよ! どういう意味か判ってん のか? こいつはな、ビョーキなんだ! ココロ が歪んでんだ! 女しか好きになれない片輪者な んだよっ! お花  (怒った)ひどい事言わないで! 出てけ! 出 てけったら! お花、履いていた草履を両方とも投げつける。三 太郎も『ばかやろう!』と草履を投げ返し、逃げ るように退場する。 お花  (明るく)あいつ何言ってんでしょうね。イヤに なっちゃいますよね。 しかし、志津穂は明らかに動揺している。 お花  志津穂様…? お花と目も合わせず、そそくさと退場する志津穂。 お花  志津穂様ッ!(追って退場)               しばし、無人の舞台。               不吉な曲調の音楽が入って…。               袖から姫が飛び出すように登場する。               振り返り、身構え、後ずさりする姫。               追って、三太郎が登場。手に持った短刀を姫に向               ける。           姫   何をするかっ!           三太郎 …別にあんたには恨みはないんだけどよ。ま、こ               うなったのも運命だと思って…。               言うなり三太郎、姫の懐に飛び込み腹に手刀を一               発決める。抵抗する間もなく、がっくりと床に崩               れ落ちる姫。辺りを見回した三太郎、姫を抱え上               げると足速に袖に向かう。 黒子、中央階段の上から登場。いつかおぎんが抱 いていた、壊れた地蔵を抱えている。扉の脇に地 蔵を置く黒子。その場で 黒子  そして!(拍子木を鳴らす) 干支で言うところ の『かのえさる』、庚申の日の夜が、ついにやっ てきたのでありました!(退場) 兵六と順之助の歌声が聞こえてくる。巻物に書い てあった例の歌(M2)だ。歌いながら登場する 二人。中央の階段を登っていって、扉を怒鳴りつ けるように歌い、そして終わる。 何の反応もない扉。再び、扉に言い聞かせるかの ように歌い出す二人。やめる。 ぴくりともしない扉。 順之助 …開かないですね。 兵六  …っかしいなあ。この手紙には確かにそう書いて あんだけどな。今日の夜だろ? 洞窟の前であの 歌をうたう…。 懐から手紙を取り出し兵六、座り込んで目を通し 始める。順之助も並んで座って。 順之助 それにしても燈台もと暗し、ですね。まさかお地 蔵様の後ろが洞窟の扉になってたなんてね。メン コ隠した時にはちっとも気がつきませんでしたよ ね。(兵六が黙っているので気になり)…六さん? 何ニヤついてるんですよ! 兵六  (手紙を見ていて)…何でも願い事が叶う宝物だ ってよ! どうするよおまえ、これが手に入った ら!           順之助 …ところで六さん。その手紙、誰から来たんです?           兵六  さあ? 知らね。           順之助 知らない?!           兵六  差出人不明なんだよ、これ。           順之助 それって怪しいですよ! 怪しすぎますよ!           兵六  判ってるよ、ンなこたぁ。でもしょーがねえじゃ               ねえか。姫にしろお宝にしろ、他に手がかりねえ               んだからよ。           順之助 そりゃそうかもしれませんけど…。 『…はあ〜っ!』と深いため息をつく二人。 順之助 (やがて)姫様って言えば、話変わりますけど…。 兵六  なんだよ? 順之助 姫様が江戸屋敷に行儀見習いに出されるって噂、 本当なんですかね? 兵六  そんな話があんのか? 知らなかったな? 順之助 おぎんさんの情報によると、ですけどね。ぜんざ い姫ってのは、実は側室のナントカの方様の娘で、 でも、殿様の正室には子どもがいないから、ナン トカの方様の政治工作で、まあそれなりに勢力が あったって言うんですね。 兵六  (興味を持った)…ほう。 順之助 ところが、最近別の側室が男の子を生んで、同時 にナントカの方様が亡くなったんだそうですよ。 実は殺されたんじゃないか、とか言われてるそう で、要するに姫様はお母さんがいなくなっちゃっ たワケです。城内で自分を守ってくれる人がいな くなったと。 兵六  それで? 順之助 で、途端にやっかい祓いが始まって、姫様は行儀 見習いと称して岡部の江戸屋敷に幽閉されると。 そのうちどっか適当に嫁に出されて、まあ一生飼 い殺しじゃないかって。 兵六  本当なのかよ、その話? 順之助 おぎんさんに聞いた話ですからね。尾ヒレはつい てるかもしれませんけど。 『…はあ〜っ!』と再びため息をつく二人。 兵六  …聞いてみなきゃ判らんもんだなあ。 順之助 …あんなに小さいのに、大変ですよね。               しばしの間。           順之助 …お紺さん、そういう事知ってたんですかね?           兵六  そりゃねえだろ。           順之助 …店放っぽり出して、どこ行っちゃったんですか               ね? 帰ってくればいいのに…。           兵六  ほっとけ、あんな奴のこたぁ。               その時…!           三太郎の声 感慨にふけるのはそれまでだっ! 立ち上がる兵六、順之助。 三太郎が登場する。手に長刀を持っている。 兵六  なにっ! 何故おまえがここに!? 三太郎 馬鹿め。貴様らは騙されたのだ。俺が書いた、そ     のニセ手紙にな! 兵六  なんだとっ!           順之助 (兵六に)…とかクサいやり取りしてますけど、               ホントは全部最初から知ってたんじゃないんです               か?           兵六・三太郎 ほっとけ!!           兵六  (元に戻って。手紙をコナしつつ)ここに書いて               ある事は嘘なのか? 三太郎 さあな。とにかく、今や俺には洞窟の扉が開かな い理由がハッキリと判った。お宝は、おまえたち を倒した後でゆっくりと手に入れるとしよう。 (刀を構える)…降りて来い! 兵六  ちょっと待て! 扉が開かない理由って何なんだ? 三太郎 教えるわけにはいかんな。 順之助 (兵六に)あれじゃないですか? やっぱ、巻物 のもう半分の歌詞が必要だとか? 兵六  ああ、そうか…。(三太郎に)…あってるか? 三太郎 (子どものように地団太を踏む)知らないよお! 降りて来いよお! 兵六  (順之助に)あってるらしい。(三太郎に)おま えがこっち来い。 三太郎 ちっ。しょうがねえな…。(と階段を昇りかけ) こらあっ! 俺がっ! 降りて来いって言ってん だっ! 兵六  …ったく。(階段を降りる)…で? どーしたい ってんだ? 三太郎 積年の恨み! 兵六、覚悟ッ! 切りかかる三太郎。兵六は素手。巧みに避けなが ら 兵六  待てよ! 積年の恨みって何だよ? 俺がおまえ に何したよ?! 三太郎 自分の胸に聞けいっ! …とかやってると、背後から歌声が聞こえてくる。 お花と忍者軍団たちの声だ。歌声、だんだん大き くなる。 兵六  (気付き)待て、三太郎! 連中が来たらしい。 勝負は後だ! 三太郎 (なおも切りつけながら)逃げるのか! 兵六  (避けながら)そうじゃねえって! おめえだっ てお宝が手に入ンなきゃ元も子もねえんだろ? どっちみち、俺らの歌詞がなけりゃ扉は開かねえ んだから…! 三太郎、動きを止める。荒い息をつきながら 三太郎 まあ…、それもそうだ…。 兵六  (三太郎に近付き)な? とりあえず休戦だ。そ れが利口な奴のする事ってもんだ…。 握手のための腕を伸ばす兵六。一瞬ためらい、腕 を伸ばしてきた三太郎の腹にパンチを見舞う。倒 れる三太郎。 兵六、三太郎の持っていた長刀を手にする。(以 後、ずっと持っている) 順之助 (上で見ていて)…悪党ナンバーワンですね、六 さん。 兵六  るせえ! トロい方が悪いんだっ。…おまえ、降 りてきてこいつ見張ってろ。 順之助 …僕もどんどん悪人になっていくような気がする。 順之助、階段を降り、三太郎を引きずって袖に退 場。兵六は物影に隠れる(フリをする)。 お花を先頭に、忍者軍団、志津穂、ジョンジョロ ゲーニョが登場する。歌っているのはお花と忍者 軍団だ。五人、歌いながら階段を昇ろうとする。 兵六  (飛び出し)ちょっと待った! 注目する一同。 兵六  歌詞の半分だけじゃ扉は開かねえぜ。…俺もさっ きやってみたんだ。 お花  そうなの? 兵六  ああ。だからよ、とりあえずここは協力しあって、 扉が開いた暁には、お互い実力でお宝を奪い合う ってのはどうでえ? お花  (おずおずと志津穂を見る)どうします? 志津穂 (お花から視線をそらせて)…いいでしょう。     (兵六に)お願いします。               悲しいお花。気を張って顔を上げる。 お花  じゃ…。いきましょうか? 構えるお花。曲のイントロが流れ始めて…。歌う 一同。大合唱。歌い終わって、扉を注視する。 しかし、扉は何の反応も示さない。 兵六  …なんで? お花  …どうして? 志津穂 …ひょっとしたら、あの巻物そのものが偽物なの では? 落胆しているお花。           志津穂 …仕方ありません。今日の所は解散しましょう。               その言葉に忍者軍団がぞろぞろと退場していく。 お花  …またお役に立てませんでしたね。 顔を落とし、とぼとぼと歩み去ろうとするお花。 その背を、痛ましげに見つめる志津穂。 小さく、口元から歌(M1)がこぼれる。               …と! 洞窟の扉がギギッと少しだけ開く。               扉を見る一同。 お花  (自分でも驚いている)この歌が…、そうだった の?! 静かにBGMも流れてきて、歌うお花。 洞窟の扉は徐々に開いていき、完全に開ききる。 歌い終わるお花。 志津穂 (促す)ジョンジョロゲーニョ様! 頷くジョン。階段に向かう。 兵六  させるかよっ! と兵六も階段に駆け寄って。昇り口で押し合いに なる二人。志津穂が、そしてお花が、後ろから兵 六の腰を掴んで引っ張る。 志津穂 (必死)ジョンジョロゲーニョ様! 私たちの…、 教義の実現のために! 早く…! 兵六  よさねえかっ! こらっ! しかしこの間に、ジョンは階段を昇りきり、洞窟 の中に入っていってしまう。お花、志津穂を振り 切る兵六。床に転がる二人。階段を昇りかける兵 六だが、大音声と共に扉は閉まってしまう。               お花は素早く起き上がり、志津穂を介抱する。               (以下、次の台詞まで舞台隅で展開を見守ってい                る。) 兵六  畜生! 見ろ、先越されちまったじゃねえか! 三太郎の声 先越されたから何だってんだ! ギョッと袖を見る一同。雪之JOEが登場する。 三太郎の声に合わせてアクションを取る雪之JO               E。 三太郎の声 この悪党ナンバーワンがよ! 俺はおまえの そーゆートコが大っ嫌いだ! 兵六  順之助! しっかり見張ってろって言っただろ! 順之助 六さあん、ごめえん…。(と言いつつ登場) 後ろ手に縛られている順之助。その後に、やはり 縛られている姫が続く。つながった縄を持って、 最後に三太郎が登場。 兵六  (階段を降りながら)…どうしてこーゆーコトに なってんだ?           三太郎 お姫様が雪之JOEに命令してくださったんだよ! 俺の言うコト聞けってな。高貴なお方でも刃物に は逆らえず、このロボットは女の言う事には逆ら えないってワケだ。 兵六  (姫に)だったらその命令解けよ! 逆らえない んだろ? 姫   ずっと言っておる! だけど聞いてくれないのじ ゃ! 兵六  三太郎てめえ、雪之JOEに何しやがった! 三太郎 何にもぉ。これから命令するけどな。お宝が手に 入らなくなった今、俺の目標はただひとつ、打倒、 兵六! (雪之JOEの耳元でことさら大声で) 雪之JOE!! 兵六をケチョンケチョンにして やれい!! 兵六  怒鳴るな馬鹿ッ! 聞こえてるわ!           順之助 大声出さないでくださいよっ!           姫   ん? 大声…?(何事か考え始める) 雪之JOE、困っている。兵六に『ごめん』をし てから襲いかかる。 兵六  (危うく避けて)よせって! おめえとはやり合 いたくねえんだ! なおも襲いかかる雪之JOE。 姫   (叫ぶ)兵六! 耳じゃ! 雪之JOEの耳を調 べてみろ! 兵六  耳だと? 言いざま、雪之JOEを避けた兵六。カウンター で足を引っかける。前のめりに転ぶ雪之JOE。 兵六、背中に馬乗りになって雪之JOEの両耳を 探る。 兵六  (見つけた)耳栓? これかっ!(ひっこ抜く) 姫   やっぱり! 順之助 聞こえない筈だ。               起き上がった雪之JOE、三人の縄を解き始める。               兵六は三太郎に近付き、縛り上げる。 兵六  さて三太郎君! そろそろ、何で『打倒、兵六!』               なのか聞かせてもらおうか? その時! 女の声 ほーっほっほっほっほっ!(高らかに笑っている) ハッと洞窟を見る一同。 兵六  誰だッ! 洞窟の扉がバッと開く。そこに立っていたのは大 柄の美女(!)。 兵六  誰だおめえ!           ジョン お忘れかしら?           兵六  カマに知り合いはいねえ!           ジョン 失礼ねっ! 私はオカマなんかじゃない。私は今               や、本当の女…!(ポーズを取る) お花  (出てきて見る)え? ひょっとして…?! 志津穂 (も前に出て)ジョンジョロゲーニョ様?!               ジョン、ゆっくりと階段を降りて来る。 ジョン いかにも。私はジョンジョロゲーニョ。…いえ、 響きも美しく、これからはジョン、と短く呼んで 頂こうかしら? 志津穂 ジョンジョロゲーニョ様!           ジョン ジョン、よ。短くね。           志津穂 …ジョン様、その姿は…! ひょっとして、秘宝               の力で…?! ジョン そうよ。 志津穂 約束が! 約束が違うじゃないですか! 私たち はそんな事のために秘宝を手に入れたかったんじ ゃなかった筈です! ジョン …済まないと思っているわ。でも、宝を前にして 私は逆らえなかった。何でも願いが叶うというそ の力に。…男であったが故に過ごさなければなら なかった、忍従の日々への想いに! 志津穂 だから…! そういう想いを二度としなくてもい いように…! 全ての人々が優しさやいたわりの 感情をもっと持つ事ができるように祈りをささげ る…、そのための、そのための秘宝じゃなかった んですか…! ジョン この姿で言い訳はできないわね…。 志津穂、激しい落胆。がっくりと膝をつく。 お花  (支えて)志津穂様! ジョン それに、私は…。(言い淀む) 志津穂 …雪之JOEを愛してしまっていた。…そうなん ですね? 『ええ〜っっ!!』と驚く一同。(ただし姫と兵 六、三太郎以外) 順之助 だってロボットで、しかも男ですよ、いちおう? 三太郎 バカ。だからなんだよ、この場合。 順之助 それにしたって! 等々、口々に言い合っていると…           志津穂 (叫ぶ)ジョン様ッ!     シン…! となり、志津穂を見る一同。               兵六はさっきから腕を組み、イライラと何か考え ている。 志津穂 …ジョン様。あなたには、いえ、私たちには…、 私たちに与えられた定めのままで他者を愛する…、 その勇気が必要だった。…それなのにあなたは!               その運命から逃げた! 兵六  そうよ! 納得いかねえな! お紺  ちょっと! かき回すのよしなさいよ! 兵六  黙ってろ! (ジョンに)さっきから聞いてりゃ 好き勝手な事ばかりぬかしやがってよ! てめえ は! てめえの望み叶えたから満足かもしんねえ けどよ、この姐さん(志津穂)が可哀相じゃねえ のかい?! 教団のために頑張ってきたのによ! そーゆーのが、てめえんトコの『与える愛』って やつなのかい!! 順之助 (三太郎にボソボソ)ちょっと聞くとすっごく正 しい事言ってるようなんだけど、六さん自分がお               宝採れなかったから八つ当たりであーゆーコト言               ってるんですよ。 三太郎 (ボソボソ)そういう性格だよな、こいつは。 兵六  黙ってろってーの! (ジョンに)とにかく、て めえは一遍、性根を叩き直してやんねえとしょー がねえらしいなっ!               刀を抜き、鞘を投げ捨てる兵六。鞘は志津穂の足               元に転がる。 ジョン …やり合うと言うの? 私と? ジョン、自信満々で杖を構える。対峙する兵六と ジョン。 兵六  カマ相手にふるう刀は持ってねえんだがな。俺の ココロが収まらねえんだ…! ジョン …結構よ。自分の幸せは自分で掴め、ってとこか しらね。           順之助 え? 六さんけっこうマジ? お花  やめてくださいよっ! 志津穂 それで本当に幸せなんですかっ! ジョン様! その声を合図に太刀を交わす二人。(アクション よろしくね)…意外にジョンは強い。押される兵 六、ついに杖で腹を突かれ、床に沈む。 順之助 六さん!(兵六に駆け寄る)               雪之JOE、兵六を庇うようにジョンの前に立ち               ふさがる。怒っている。           兵六  (もうボロボロ。順之助に介抱されつつ)…やっ               ちまえ、雪之JOE…。構うこたねえ…。 ジョン 今度はあなたが? できるのかしらね?           お花  あ! 女になっちゃったから…!               ジョンに腕を振り上げようとするが…、できない               雪之JOE。           ジョン …志津穂、私は幸せよ。この身体で、もう何の問               題もなく男たちの愛情を受け入れる事ができるか               ら…! 志津穂 あなたはもう教祖じゃない! 私が尊敬していた あなたじゃない!               志津穂、兵六の投げ捨てた刀の鞘を掴む。『やあ               ッ!』とジョンに向かって行くが、簡単に鞘は祓               われ、身体を杖で打ちすえられる。床に転がる志               津穂。           お花  (カッと)何するのッ!               興奮してジョンにぶつかって行くお花だが、ジョ               ンの腕の一振りで打ちのめされる。倒れるお花。               残ったのは順之助と三太郎、そして姫だけだ。           ジョン (男二人を見て)…今度は誰かしら?           三太郎 いえ! めっそうもない!               縛られたまま土下座する三太郎。               ジョン、順之助を見る。               兵六の刀を掴み、ジョンに向ける順之助。怖くて               腰が引けている。…が、対峙せざるを得ない。           順之助 …僕だって。…雪之JOEがいなくたって…!               『やあッ!』とジョンに切りかかる順之助。               しかし、簡単にあしらわれ、床に転がる。               無防備の順之助にジョンの杖が襲いかかろうとし               た、その時…!           お紺の声 もうやめなさいっ!               振り返り、見るジョン。順之助も見て。               お紺が袖に立っている。           お紺  その子に手ぇ出したら許さないからね…!           順之助 お紺さん! 来てくれたんだ!           お紺  こっちおいで、順ちゃん。刀持って。               順之助、バタバタと這うようにお紺の方に回り込               む。刀をお紺に渡す。               お紺、長刀をジョンに向ける。           お紺  (構えながら)女になったってのにね。アンタに               は優しさってモンがないの?           ジョン (構えながら)…どうしてみんな、判ってくれな               いの? 私だってこんな事、本当はしたくない…。           お紺  だったらやんなきゃいいのよ!               ジョンに切りかかるお紺。受けるジョン。               お紺、意外(?)と対等にジョンと切り結ぶ。           お紺  (闘いながら荒い息で)…アンタね、判ってくれ               ないとか言ってるけど、そんなの当然なのよ?                みんな自分のコト人に判ってもらいたくて、でも               できなくて。だから苦労してんじゃないよ!               …しかし、やはりジョンの方が上手だった。徐々               に押されていくお紺。           お紺  (たまらず)順ちゃん! なんか他に武器ないの?!               こいつぶっとばせるようなヤツ!           順之助 取ってきまあす!(走って退場)               再び切り結ぶお紺とジョン。           お紺  …だいたいアンタ自分勝手だし優しくないし、ア               ンタみたいな女が一番嫌われるんだからね!           ジョン それから、口さがのない女もね。あなたみたいに。           お紺  何ですってえ! やあっ!               と切りかかるが、手首を打たれて刀を取り落とす。               『いったあ〜い…』と膝をつくお紺。               残った姫、強気に、ジョンを見返していて。 雪之JOEを妖しく見るジョン。腕を伸ばす。 ジョン さあ、雪之JOE。いらっしゃい…! ジョンの瞳に射られた雪之JOE、ふらふらとジ ョンに近付いて行く。     ジョンが雪之JOEに両手をかけようとした、そ               の時…!           姫   (叫ぶ)雪之JOE!               ハッと硬直する雪之JOE。苦労して振り向き、               姫を見る。           姫   (腕を伸ばす)こっちへおいで。一緒に遊ぼう。               今度は…、腕を振り払ったりしないから。     雪之JOE、姫に一歩踏み出す。 姫   おいで…! 姫に向かって、ゆっくり、一歩一歩進む雪之JO E。 ジョン どうして…! 私が女として、そんな子どもに劣 るとでも…! ジョンにやられてボロボロの一同が、痛みに耐え て口を開く。 お紺  …だから言ってんじゃない。…勝手だからよ。 兵六  …スジ通さねえからだ。 お花  …乱暴だからですよっ! 志津穂 …目を覚ましてください! そんな、奪うような 愛し方で、誰が幸せになれると言うんです…! ジョン (叫ぶ)お黙り! 私は…、私は間違っていない!     ジョン、杖を振り上げる。今にも姫と手をつなぎ               そうだった雪之JOEの背を激しく打つ、打つ、 打つ! 打ちすえる!! ジョン (打ちながら)雪之JOE! 私を見ろ! 憎け れば、悔しければ私だけを見つめろ! 姫   やめぬか…! のたうち、もがく雪之JOE。ロボットだから痛 くはないが、打たれる度に腕の、足の動きが悪く なっていく。 姫   (叫ぶ)やめぬかっ! 雪之JOEが死んでしま う!! たまらず二人の間に割って入る姫、ちょうど振り 下ろされた杖に打たれ、小さく叫んでその場に倒               れる。気絶している姫。 お花  姫様! 姫様ぁッ!(痛む身体で駆け寄る。介抱 を始める) 唖然と姫を見た雪之JOE。不自由になった身体 で、ぎくしゃくと立ち上がる。ジョンに向き直る。 …が、その瞳に憎しみの色はない。むしろジョン を憐れんでいるような、そんな目だ。 ジョン …なんだ、その目は? 私が憎くはないのか? お紺  命令よ! やっちゃいなさい、そんなヤツ…! お紺の方を見ずに、小さく首を振る雪之JOE。 お花  …どうして! 雪之JOE、ジョンに腕を伸ばそうとして…、倒               れそうになる。慌てて支えるジョン。 兵六  雪之JOE! そーゆーの優しいとは言わねえん だぞ! またしても首を振る雪之JOE。ガクンと膝をつ く。ジョンを見上げ、不器用に、だが確信を持っ て頷く。震える腕をジョンに伸ばす。               見ていた志津穂、祈りの仕草を雪之JOEに捧げる。 志津穂 この魂こそ、私たちが目指すべきもの…! ジョン (感動している)雪之JOE…! おまえは…! 自らも膝をつき、両手で雪之JOEの腕を取るジ ョン。 ジョン …すまぬ! 私が、私が悪かった…! と、その時…! 順之助の声 お待たせしましたあ!     順之助が駆け出てきて、『やあッ!』と何かを投               げる。ドスン! と舞台中央に落ちた、何やら重               くて丸いもの。 お紺  …何、あれ? 順之助 時限爆弾ですけど。ぶっとばせるようなヤツです。 兵六  あとどれくらいで爆発するんだ…? 順之助 あんまり時間ないですよ。六十、数えるくらいか な。 慌てふためき始める一同。秒針の音が聞こえてく る。 三太郎 何考えてんだおめえ! こんなトコで爆発したら! お花  そうよ! あたしたちみんなふっとんじゃうじゃ               ない! 順之助 そうですよ。だから早く逃げなきゃ。 『わあッ!』と避難し始める一同。姫は兵六が抱 える。               しかし、雪之JOEは動かない。…ので、ジョン               も動かない。雪之JOE、爆弾を手に持つ。 兵六  何やってんだ雪之JOE! さっさと来いよ! 不自由な身体で洞窟の階段に向かう雪之JOE。 止まって、例のマイムをする。 順之助 (見て)え? おまえがそれ持ってるから?               その間に逃げろって?  いいんだって! そい               つさえ倒せれば! 雪之JOEのマイム。 順之助 誰も死んで欲しくない? だったら洞窟にそれ投 げ込んじゃえよ! 雪之JOEのマイム。 順之助 え? そうするとお地蔵様がまた壊れる? だか ら僕が抱えて入る? いいって! この際だから! 雪之JOEのマイム。 順之助 おぎんさんが悲しむし、どうせ僕も壊れかけてる?               (怒る)雪之JOE! 僕の命令が聞けないのか! 雪之JOE、洞窟の階段を昇り始める。秒針の音、 大きくなる。 志津穂 ジョン様も! 早く! ジョン …誰のために手に入れた身体だと思ってるの? ジョン、素早く階段を昇り、雪之JOEから爆弾 を奪い取る。 ジョン おまえを死なせやしない! 死ぬのは、私だけで 充分…! 大きく首を振る雪之JOE。洞窟に飛び込もうと したジョンを後ろから抑える。 順之助 雪之JOE! もう時間ないぞ!(自作の懐中時計               を見て)あと十! 九! 八! カチッ、カチッ、と秒針が刻まれていく。               爆弾を奪い合って、押しあいへしあいしていた二人               だが… ジョン …心中なんて、恋人どうしでしかしないものなの よ…! ジョン、雪之JOEを振り切って洞窟の中に入る。 扉を閉めようとする。後を追って雪之JOEが滑 り込んで…。扉が閉まったと同時に、爆発の音が 大きく響く!               …口も聞けず、唖然と洞窟の入り口を見つめてい               る一同。               順之助が走る。階段を駆け昇って扉をこじ開ける。               途端にもうもうと漂い出す煙。           順之助 (中に叫ぶ)雪之JOEッ!               順之助、足元に落ちているものに気付く。拾う。           お紺  …何なの?           順之助 …ネジです、雪之JOEの。               ネジを見ていた順之助、いきなり床に投げつける。               その場にがっくりと座り込んでしまう。           順之助 馬鹿っ…! なんで…!!(泣いている)           志津穂 …ジョンジョロゲーニョ様。やっぱり、無理なん               でしょうか…?               祈っている志津穂。…の後ろから肩に手を置くお               花。見た志津穂、それでも恥ずかしそうに顔をそ               むける。               兵六の腕の中で、姫が目を覚ます。降りた姫が辺               りを見回して 姫   雪之JOE? 雪之JOEはどこに行ったのじゃ …? 暗転。     明けて、黒子が登場。 黒子  雪之JOEの爆死より数週間の後。それぞれの人 々は心に痛みを残しつつも、日々の忙しさに紛れ て事件を忘れさろうとしておりました。 軽快な音楽が流れてくる。 黒子  そして、教団は解散し、志津穂と三太郎は、お紺               の好意によって彼女の店に雇われておりました。               黒子、退場。 桶と雑巾を持って兵六と三太郎が登場。中央で雑 巾がけを始める。 三太郎 畜生。何だって俺がこんな事…。 兵六  おめえのせいだろ、おめえの! ぶつぶつ言いながら床を拭いていると、お紺が皿 (か何か)を持ってバタバタと通る。 お紺  ほら! さっさとやってくんないと、開店に間に 合わないよ! 裏の酒樽、運んだの? 大急ぎよ! 二人  はい! はいはい! お紺、退場。志津穂がお盆(か何か)を運びなが ら慌ただしく通る。 志津穂 まだそんな事やってんですか?! 井戸の水、ち ゃんと桶三杯分汲んどいてくださいね! 大急ぎ でね! 二人  はい! はいはい! 志津穂、退場。おぎんが箒(か何か)を持って足 速に通る。 おぎん お地蔵様の掃除は済んだのかい? 当番あんたた ちなんだからね! 忘れるんじゃないよ、大急ぎ だよ! 二人  はい! はいはい! おぎん、退場。兵六と三太郎、立ち上がる。雑巾 を床に投げ捨てる。 兵六  ったくよっ! やってられっかよ! 三太郎 (袖に)イバってんじゃねーぞ! クソババーど もっ! 兵六  いいね三ちゃん! 言うね言うね! 三太郎 まあね。ちょっとはね。 兵六  (いきなり漫才)でもみなさん、ちょっと聞いて くださいよ。こいつはね、いいトシこいて、未だ に子どもの頃の学芸会の主役、僕に取られたコト 根に持ってんですよ! 三太郎 何を言うか! ぜ〜んぶ君のせいやがな! 兵六  どアホッ! あん時君は急な腹イタで、僕が主役 をやらへんかったら舞台に穴が空いたとこやない かッ! 三太郎 なら聞くけどな。あの時、どうして僕の腹は急に いとうなったん? 兵六  どきっ! 三太郎 前の晩、君が持ってきた鮭の切り身、実はドロド ロに腐ってたんとちゃうのん? …臭ってたもん。 兵六  判ってたんだったら食うなッ! 二人  ちゃんちゃん! 兵六  …こんなモンか? 三太郎 関西弁ってとこに無理があるかな? 兵六  それはおいおい検討しよう。…にしてもな、まさ               かおめえと組むようになるとはな。お笑い、って               トコが引っかかるけどな。 三太郎 そりゃこっちの台詞だっ!           兵六  …雪之JOEが生きてりゃ、トリオ漫才が出来た               のによ。           三太郎 だから俺が全部悪いんだろっ!           兵六  それが反省してる口の効き方かっ! とかやってると。『アンタたちッ!』とお紺の声 がする。 お紺  (出てきて) まだそんな腐れ漫才やってんの! さっさと仕事しなさいってば! ほら、今度は向 こうよ! 二人  はいはいはいはい! お紺に追い立てられる二人。退場する三人。 いつの間にか、反対側の袖にプランターが出てい る。(漫才の間に黒子がセットする。)               姫が登場。プランターの前にぽつねんとしゃがむ。 スコップを使って無心に土を耕し、花の植え替え をする姫。お花がやって来て、姫の後ろに立つ。 お花  …姫様。 姫   (聞こえてはいるが、わざと土を耕し、作業を続 ける) しゃがみ、姫の横に並ぶお花。胸元から紙包みを 取り出し、姫の前に差し出す。 お花  …これ、あげます。江戸屋敷で育ててください。 …もともとは雪之JOEにあげようとしたものだ けど、もう植えられなくなっちゃったし。 受け取る姫、土いじりに戻る。やがて…。 姫   …大馬鹿者。 お花  え? 姫   大馬鹿者じゃ、雪之JOEは。くだらない死に方               をしおって…。 お花、黙って聞いている。 姫   …最初から最後まで、人の事ばかり考えて、人の 事ばかり心配しおって。あれで奴が幸せだったと は、私には到底思えぬ。 お花  …幸せだったんですよ。…そう思ってあげなきゃ、 雪之JOEが可哀相ですよ。 姫   お花。 お花  はい。 姫   私には、私に判る事しか判らぬ。 お花  …はい。 姫   …すまんの。 お花、姫の初めての『詫び』の言葉に少し驚く。 お花  …いいえ。 姫   …これ(さっきの種)はここに植えていこう。ど うせ『ぞんざい姫』などと呼ばれているのじゃ。 思い出を引きずるタイプに見られてはかなわぬ。 無理して陽気に振る舞う姫。プランターに種を植 え始める。 お花  (見ていて)…姫様、あたし、雪之JOEは死ん だんじゃないんだと思います。きっと、ただ、壊 れちゃっただけなんですよ。 姫   (手を動かしながら)…それなら、直せるのであ ろう。 お花  (戸惑って)それは…。 姫、胸元からネジを一本取り出す。お花を見る。 姫   こんなバラバラに…! こんなネジ一本になって も、また元通りに直って私の前に現れるのであろ う?! お花  …それは。…なんとも。 姫   雪之JOEをその辺のからくり人形と一緒にする な。…気休めを言うな! 悲しい姫。もう泣きそうである。その時…、 順之助の声 気休めなんかじゃありませんよ…! 声の方を見る姫とお花。順之助が袖に立っている。 順之助 …気休めじゃありませんよ。雪之JOEはいつで も姫様のそばにいます。 姫   おまえまでがそんな事を言うのか。 順之助 僕だから言えるんですよ。…試しに呼んでごらん なさい。雪之JOE! って。 姫   …本当なのか? 順之助 さあ。 姫   …雪之JOE? 順之助 もっと大きな声で。お花さんも一緒に! お花  (戸惑いつつも)…雪之JOE…! 姫   雪之JOE…! 二人  (叫ぶ)雪之JOE!!     途端に照明が落ち、高台の暗幕がバッと開く。荘               厳な音楽の中、逆光に登場したのは、紛れもない               雪之JOEのシルエットだ。               …が、ポーズを取っていた彼の姿はガクン! と               崩れ落ち、その一瞬後、舞台は闇に包まれる。               音楽、盛り上がって…。     場内が明るくなる。黒子登場。カーテンコール               (役者紹介)と後説(アンケートへの協力お願い               など)。…で、おしまい。