生物大量絶滅周期・2600万年
約1億年前、温暖な気候の無氷河時代、地球上に恐竜が存在していた当時の深海底堆積物地層がイタリア・アルプスに見られる。この地層を解析して、ミランコビッチ周期の存在を見出したアルフレッド・フィッシャーとマイケル・アーサーは、「海洋では、生物種が豊富であった時期と少ない時期が3200万年ごとに周期的に訪れた」という内容の論文を、1977年に発表した。
地上にはほとんど見られないが、彗星、隕石、小惑星など地球外の物体にはかなり豊富に見つかっているイリジュウムというプラチナの仲間の金属がある。イリジウムが普通の地層より数十倍も数百倍も多く含まれていれば、この地層の年代で何らかの異常なできごとが起きたと考えるのが自然である。
イタリア、デンマーク、ニュージーランドで、過去の深海堆積物地層が現在隆起している場所がある。この地層の石灰岩を調べた結果によると、恐竜が死滅した当時に形成された層では、イリジウムがそれぞれ通常の30倍、160倍、20倍に増加していた。
6500万年前に、地上のほとんどの植物、海洋プランクトンの90%、爬虫類、陸上の動物で体重が20〜30kg以上の動物が全滅したと考えられている。恐竜もこの時に姿を消したのであるが、私たち人類の祖先はかろうじて生き残ることができたものと思われる。
カリフォルニア大学の地質学者ウォルター・アルバレスと物理学者で原子核構造解析の泡箱の研究でノーベル賞を受賞した父親のルイス・アルバレス、ロレンス・バークレー研究所の核化学者フランク・アサーロとヘレン・ミシェルの四人のグループは、6500万年前に小惑星のような天体が地球に激突して多数の生物を絶滅させたという仮説を、1980年に発表した。
地球上の生物の運命が地球外の天体の手に握られているという仮説は、当時の地質学会に大きな衝撃を与えた。
この仮説の根拠となっているのは、地質学上で二つの時代白亜紀と第3紀の境界になる粘土層である。ウォルター・アルバレスは、この層が地球の他の地層よりも300倍と異常に高い濃度でイリジュウムを含んでいることを発見したのであった。この事実は地球外の天体の衝突を示唆している。
粘土層が異常な濃度のイリジュウムを含むことについて、アルバレス・グループは次のような仮説を立てた。
直径10kmほどの地球外の天体が、秒速10〜40kmの猛スピードで大気圏内に入ると、天体前方の空気が強力に圧縮され非常な高温になる。そして猛烈な速度で地球に激突すると、直径200km、深さ40kmぐらいの巨大なクレーターができると考えられる。この激突は火山活動を誘発し、大規模な火山活動が起きたものと思われる。
激突により膨大な量の岩石や砕片は、地上数10キロメートルも上空高く舞い上がり、チリは大気中に漂い太陽光線を遮り光合成が停止してしまった。太陽光線の不足は、地球を寒冷化してさらに多くの生物の死を招いた。
生物の大量死滅が起きた最大の原因は、酸性雨である。衝突前後の非常な高温と衝撃、誘発された火山活動で大気中の物質が化学変化を起こし、大量の窒素酸化物が発生した。大気が極度に汚染された後に生じた硝酸の雨が、生物にとり致命的であったと思われる。
直径10km程度の物体が地球に衝突した証拠はかなりあるようで、直径数キロメートルぐらいの物体が地球に激突すれば生物に重大な影響を与えることは避けられない。
当然のことながら地質学者は、激突の痕跡となる巨大なクレーターを探した。世界中に多数のクレーター候補があるが、アイオア州にあるマンソン・クレーターは直径30kmほどあり、このような衝突によりできたのではないかと考えられている。
「海洋生物の絶滅は2600万年周期で起こった」と、シカゴ大学の生物学者デビッド・ラウプとジャック・セコプスキーが、過去2億6800万年間の岩石中に残された海洋生物の化石の記録を詳細に検討した結果、8回の大規模な絶滅の年代が、2億4800万年、2億1900万年、1億9400万年、1億4400万年、9100万年、6500万年、3800万年、そして1100万年前に起きたと発表したのは1984年であった。
恐竜という巨大な生物がこの地球上に生存していたのは化石の存在で明らかである。
古生物化石の研究から見て、生物種の絶滅は周期的に起きていることは確実と思われる。アルバレス・グループは、小惑星のような一個の天体が一度だけ衝突したという仮説を立てたが、当時の地層の測定結果によればイリジウムが地表全体に一様に分散されているようである。このことは、複数の天体が継続的に地球に衝突していると考えるのが自然であろう。
多数の彗星雨が、周期的に地球に激突したとして、彗星群がどのように接近したかについて学者が種々の仮設を立てている。
これら仮説の一つに、カリフォルニア大学のリチャード・ミュラーの説がある。
太陽は、その存在が確認できない暗黒の伴星(ネメシス)を持っており、この伴星が2600万年の周期で太陽のまわりを回っている。そして軌道上のある場所で地球の方向に彗星を引き寄せるので、彗星が地球に衝突することになるというのである。
この仮説では、ネメシスの軌道周期が大き過ぎるため太陽系の中に留まることができないのではないかとの批判がある。
南ルイジアナ大学のダニエル・ウィットマイアーは、太陽系に近い距離にある未発見の惑星Xが存在しており、この惑星の影響力で彗星の嵐が地球を襲うことになるという仮説を発表している。
惑星Xが、太陽系の少し外側の軌道を回るのであれば、一周するのに要する時間は大体1000年くらいになり、2600万年とはあまりにも違い過ぎる。ウィットマイアーは、惑星Xの軌道が太陽系惑星全体の軌道面より少し傾斜していると考えている。この傾斜のために、惑星Xは少しずつ軌道がずれていき、軌道の最遠点が2600万年に一度だけ大彗星源に入り、その影響で地球に彗星の嵐が押し寄せることになるというのである。
現在、宇宙探査機がウィットマイアーの仮想惑星のあたりまで飛行しているので、もし地球程度の大きさの天体が存在しているなら、その天体の重力の影響を受けて当然なのであるがそのような形跡はまだ見られていない。
太陽系が、銀河系を一周する公転周期は約2〜3億年である。この周期を氷河期、無氷河期の周期や生物の大量絶滅などに対応させる考えは古くからあるが、強力な証拠に乏しく、まだ説得力のある説にはなっていない。
恐竜が絶滅したことについて、異説の代表と見られているのは、世界各地で起きた火山の大噴火が原因であるとする仮説である。大規模な火山活動が、隕石の激突と同様な現象を起こしたとするものであるが、この仮説を裏付ける確実な証拠はない。
オールト雲・大彗星群
太陽系内に時々やって来る大彗星から、存在が推定されている巨大な彗星雲であり、大小の彗星貯蔵庫である。今まで、誰もオールト雲を見たことはない。太陽からはるかかかなたに存在しているが、太陽の重力圏内にあり、太陽系の一部と考えられている。
オランダの天文学者ヤン・オールトが1950年にこの星雲の存在を提唱したことから、彼の名前をとってこの名前が付けられている。オールトは、大彗星が太陽系内に来るまで通って来た経路を逆にたどっていけば、彗星の源であるオールト星雲を発見できることを示唆したのであった。
私達が見ることのできる彗星は、この雲から離れて太陽系内に入って来たものだと言われている。はるかかかなたのオールト星雲で何かが起きれば、その影響で彗星が地球にやってくるのである。
約50億年前、太陽系が形成された時、太陽系諸惑星のはるか外側に位置して、太陽系全体を包囲する形のドーナツ状の輪(オールト円盤)の中に彗星が保存されていると考えられている。
アイオワ大学の物理学者ルイス・フランクは、ウィットマイアーの仮説を修正し惑星Xの質量と軌道を少し大きくし、「暗黒惑星」と呼び次のような仮説を立てた。
軌道周期は、約50万年、太陽系とは中心のずれた軌道を持ち、土星か木星くらいの大きさで、最近点で海王星か冥王星の軌道近くに接近し、最遠点は最近点までの距離の150倍のところに位置し太陽系に属している。
この暗黒惑星は、通常小彗星が保存されているオールト円盤の外側区域を進んでいるが、2600万年に一度の割合で大彗星の多いオールト円盤の内側区域に入る、この影響で膨大な数の大彗星が約一万年の長期に渡り地球を襲撃することになる。