あるところに不思議な湖がありました。
それはただのクルミをお金や名誉を得ることができる実に変えてしまうというのです。
この話を聞きつけた男二人のうち一人がその湖にやってきました。
(これが噂の湖か。今私の手の上にあるクルミを投げ入れるだけで、巨万の富と名誉を手に入れることができるのだなぁ)
男はすっかり高揚していました。男Aは噂通りに自分で用意したクルミを湖に投げ入れました。クルミが湖に沈み少し経つと後ろから湖の主が現れ、男にこう言いました。
「お前が湖に落としたのはこの金がなる金の種か?それとも名誉を得ることができる銀の種か?」
そこに、もう一人の男Bがやってきました。
(ぬぅ、私と同じコトを考えているやつが居るとは・・・。まぁいい、数分後には私も巨万の富と名誉を手に入れることができるのだ)
男Bは一部始終を木の陰からうかがうことにしました。 男Aは、(こんなこと昔聞いたことがある)と思い、そこで
「わたしが落としたのは、普通のクルミです。」
と言いました。しかし湖の主は全てお見通しでした。湖の主は少し笑みを浮かべ言いました。
「それは、大変だったな。ほら、返してあげよう。」
男の手に渡されたのは、さっき自分が投げ入れた普通のクルミでした。 それを見た男Aは途端に顔色を変えて言い出しました。
「えっ!?このクルミを金の種、銀の種に変えてくれるのではないのですか!」
湖の主は言いました。
「それがお前の本音であろう。そんなことはお見通しだ!!」
それを見ていた男Bは
(そうか・・・ここは本当のコトを言った方がいいのかも知れない)
と思い、木の陰から出ていきました。
「湖の主様!!私は金の種、銀の種が欲しいのです!!!」
それを聞いた湖の主は
「お前は正直なやつだな。良かろう。お前に金の種、銀の種をやろう。」
と言い、男Bに二つの種を渡しました。男Bは飛び上がって喜び早速家に帰って種を植えました。
しかし一ヶ月経ち、三ヶ月経ち、半年経っても種から芽は出てきません。初めのうちの期待は次第に怒りへと変わり、とうとう男Bは湖の主のところへ文句を言いに行くことにしました。湖についた男Bは再びクルミを投げ入れ、湖の主を呼びました。
「お前は以前私が金の種と銀の種をやった男だな?どうだ、芽は出たか?」
これを聞いた男Bの怒りは頂点に達し、
「あれから半年も経ったのに芽は出る気配もない!どういうことなのだ!?」
と叫んでいました。湖の主は静かにこう言いました。
「何もしないで巨万の富や名誉が手に入ることなんて、この世の中にあるはずがないのだ。お前もこのことでよくわかっただろう。富や名誉というものは真面目に働き、無償で人の為に尽くして初めて、舞い込んでくるものなのだ。」
湖の主は力強く男Bに諭しました。完全に圧倒されてしまった男Bはすごすごとその場を立ち去るしか術はありませんでした。
金の種、銀の種。どうやらそれは人々にお金や名誉を与えるものではなく、お金や名誉は楽をして得ることのできないものだということを気づかせるものでした。そんな夢のような種が本当にあるかどうかは湖の主にもわからないのです。