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| 第 2 章 島 の 生 活 | ||
| ■ 7 ■ イ ン フ ラ | ||
| 小笠原ではファックスの普及率が高い、と思う。 会社だけではなく、家庭にもかなり持っている人が多い。 これは内地と比べて、郵便に時間がかかるせいだ。郵便も宅配便も、すべておがさわら丸で運ぶので、内地との郵便は長いと着くまでに10日もかかる。そのため手紙のやりとりもファックスで代用することが多い。仕事関係の書類もまずファックスで送り、その後本体を船に乗せる。到着した書類の返信の締め切りがすでに過ぎていることもしょっちゅうで、相手に電話をし小笠原の郵便事情を説明する羽目になる。 宅配便も同様におがさわら丸で運ぶ。そのためもちろん翌日配達は無理だが、それでもここ2、3年で宅配便事情もずいぶん改善された。内地からの荷物は、以前はすべておがさわら丸が着いた翌日以降に配達されていたが、今は宅急便が一部を除き入港当日に配達されるようになった。また小笠原から内地行きは内地の配達料に、おがさわら丸で運ぶ海上運賃を加算されていたので、通常の宅配料金の何倍もしたのだが、これも都内からの発送と同料金になった。そのため、小笠原の野菜や果物を気軽に送れるようになったし、内地への里帰りの際の荷物も、重さや大きさを気にしながら郵パックで送る必要もなくなった。まだ内地から小笠原へクール便や代引きは送れないが、この変化だけでも小笠原の生活はずいぶん便利になった。 クール便や代引きは、内地に住むぶんにはそれほど必要としないが、小笠原に住んでいると、内地から生鮮食料品を送ってもらったり通信販売でこれが買えたらなあと思う事がよくある。 小笠原に来た人が驚くことの一つに、店で売っている品物の多さがある。 もちろんメーカーや商品名を指定して「私はこれじゃなきゃいや」というのは無理だが、たいていのものはどこかの店で売っている。母島の人は父島に来たついでに買って帰ったりもする。それでもやはり売っていないものや売っていてもべらぼうに高いものは、通信販売で購入している。人口比でみたら、こんなに通販のカタログが届く地域はないのではないだろうか。今の日本は通販で手に入らないものはないらしいが、しかし島民は実はこの通販天国の世の中でも苦労している。 それは輸送手段と代金の支払方法だ。内地では何気なく注文する通販だが、実は離島には送ってくれなかったり、送っても送料が倍というところが多い。また支払方法も代引きはできないし、クレジットカードを持っていない人が多いのでカード払いもできない。銀行振込は前払いにしろだの、唯一振り込みを扱う農協は手数料が高かったりと苦難の数々。 私もパソコンを買った時、「わーいこれからはインターネットでなんでも買える!」と楽しみにしていたが、ネットショッピングもまたこれらの理由でほとんどのサイトが利用できなかった。 小笠原に送る宅配便は、宅配会社から見れば絶対に赤字なので文句は言えないが、代引きとクール便を扱ってくれると島の生活が楽になるんだけどなあ。 警察は、父島に警視庁小笠原警察署、母島に駐在所がある。全員内地から、1年から1年半の任期で赴任してくる。警察は内規で決まっているのか、単身赴任はなく家族全員で引っ越してくる。父島にはパトカーはもちろん白バイまであり、たまに原付バイクと追いかけっこをしている。母島は2人体制で勤務しているが、父島は10人くらい勤務していて、こんなに人数がいるのかと驚かされる。小笠原では犯罪らしい犯罪はほとんどなく、たまに空き巣や酔っ払いのけんか、交通事故がある程度。無人でも鍵をかけない家が多いので窃盗事件がありそうだが、週1便のおがさわら丸では逃げ切れないせいかほとんど聞いたことがない。 車やバイクも、ドアの施錠やロックはほとんどしないし、それどころか鍵を挿しっぱなしにする人も多い。私の友達は鍵は挿しっぱなし、財布も車内に置きっぱなしで、さすがにそれはだめだよと注意したが、これも盗まれるという心配よりも、鍵や財布を酔っ払いがふざけてそこらに投げ捨てる事があるためで、そうなった場合車の鍵や免許証の再発行で内地から送られてくるまで、運転ができずに困るからだ。 でも安全で住みやすいかというとそうとも言えない。最近は観光客が宿に干しておいた水着が盗まれる事が時々あるそうだし、私もある時期変ないたずら電話に悩まされた。 いたずら電話はみんな変なのだが、これは自宅の留守電に入っていたもので、どうもビデオらしい女性の喘ぎ声が延々と録音されているのだ。普通は留守電ではなく直接聞かせてその反応を楽しむのでは? と思ったが、2回目は朝の6時50分で、しかも私が内地の出張から島に帰ってくる日だった。たまたま前日まで友達が留守番でいてくれたので聞いてみたが、彼女がいた間はそんな電話はなかったという。 電話番号は公開していないしどうも私の行動も知られているらしい、これはもしかしたら知り合いで、ばれる心配があるから留守電にしか入れないのか……? と思った私は、このいたずら電話の話を周りに広めていった。するとあーら不思議、ぴたっといたずらがなくなったのだ。考え過ぎかもしれないが、こんなストーカーまがいのいたずらも自分の知り合いがやったのかと思うと、見知らぬ人間の働く空き巣より恐くて、家にいる時の方が施錠を厳重にしていた。 それでも内地から比べると、特に子供は安心して遊ばせられる。友達同士で遠出をするといってもたかがしれているし変な人にさらわれる心配もない。たまに下り坂から自転車で飛び出してきたりするが、事故の危険もその程度のもの。そのため安全に対する危機感が薄く、遊びにいった高校生が財布をすられたりといった、内地でのアクシデントを聞く事がある。私も車のドアロックを忘れたりするので、島の子供たちは内地で苦労するんだろうな、と実感している。 小笠原は車社会である。電車はもちろんないが、バスやタクシーも少ないので、移動手段は徒歩や自転車になるわけだが、徒歩はとにかく暑い。途中で倒れるかと思うくらい暑い時期が長く、真夏に歩いているのは観光客くらいなものだ。免許のない人や子供は自転車を使っているのだが、平地が少ない島の中ではアップダウンがきつく、これもなかなか大変だ。集落の中では徒歩や自転車ですんでも、休日に海に行こうとか、集落から離れた場所に住んでいる人にはマイカーは生活必需品だ。 小笠原の車は品川ナンバーなのだが、少し前まではそのナンバーが泣くくらいボロボロの車ばかりだった。島の潮風ですぐに錆びるし、スコールが降ってせっかく車を洗ってもすぐに汚れてしまうので誰も洗車しない。内地のように洗車場も洗車できる広い庭がないのも一因だ。どうせすぐに錆びるし、車検の費用も高いので、もともと古い中古車を内地から買うせいもある。 ところが最近は新車が目立つ。テレビのCMで宣伝している最新モデルがそこら中で走っている。これはどうしたことかと驚いたのだが、考えるに今の日本の不況と関係があるらしい。 小笠原では一番人気があるのは軽自動車のワンボックスカータイプである。 ガソリンが高いし高速道路を走るわけじゃないので軽自動車、海に遊びに行くのにも、家が狭くて物置代わりに使うにも荷物が積めるワンボックスをというわけだ。この考え方は内地の人も同じらしく、以前も軽ワンボックスは中古車市場では売れ筋で高かったのだが、この不況で一段と人気が出て値段が上がった。そのために小笠原の人たちは、高い中古を買うくらいなら新車をということになったのだ。 新車を買う理由はもう一つあって、故障しにくいのだ。中古はやはりリスクが高く、故障して島で修理するとなるとべらぼうなお金がかかる。私が乗っていた中古は、買って1年でキャブレターがいかれ修理に13万かかった。これが分かっていれば、私もやはり新車を買っていただろう。小笠原で自動車を持つと、内地で買って運搬費が高く、乗ればガソリン代が高く、維持するにも車検代が高い。せめて故障くらいは免れたいと皆思うのだ。 電気はもちろん東京電力。父島と母島に、それぞれ火力発電所がある。昔は発電量が足りなくてよく停電したが、設備を増設して能力アップしその心配も少なくなった。 それでも台風や自動車事故で電線が切られ、停電することがある。台風のときは原因が分かるのでいいのだが、ナイターテニスをしていていきなり真っ暗になったときは、クレーン車が電線を切断したらしく、それが分かるまでうろうろしてしまった。その時役場で設計の仕事をしていた内地の業者さんは、その日一日のデータがすべてトンで、頭の中が真っ白になってしまったそうだ。住んでいたアパート全体が漏電でヒューズが飛んだときは、ゴキブリの感電死が原因だった。ヤモリや、ネズミが線をかじってということもある。 上下水道は、村役場が担当している。小笠原は山が険しく、降った雨はほとんどすぐに海に流れ込んでしまうため、自然の貯水能力が低い。それに加えて、夏場で観光客が多いときとそうでないときの島の人口差が大きいため、水を作り管理する側は大変だ。 父島の扇浦にある浄水場は、これが島民の生活を支えているとは思えないほど、小規模でかわいいくらいだ。普段は被害をもたらす困り者の台風も、水不足のときだけは歓迎される。小笠原の水は高くてまずいと皆声をそろえていうが、あれだけ暑くて湿気もあるところでダムに貯め込んだ水を飲める水質まで持ってくるのだから、致し方ないだろうと思う。 ガスはプロパンガスを使っている。これもとにかく高い。ガスも、地元の会社1軒だけが扱っていて独占企業だ。プロパンのボンベをすべて内地から運んでいるのだが、この運賃と、ボンベが内地に比べてすぐに錆びてもたないことがすべて料金にのってくるので、ガス代が高いのも仕方ないのかもしれない。 小笠原は暑いのと、住宅事情が悪く風呂とトイレが一緒の家も多いせいでゆっくり風呂に浸かる人が少ない。 シャワーだけなら、夏場は水が生温かくお湯を出す必要もないので、半年近くは風呂にガスを使わない。暖房も電気ごたつくらいしか使わないので、コンスタントにガスを使うのは炊事くらいなものだ。それでも、私のように一人暮らしだと基本料金内でだいたい済むのでまだいいが、家族の多い家は月1万円を超えるらしい。 年末になり、さすがに水シャワーというわけにもいかなくなったころ体験したのが「湯沸かし器火ふき事件」。内地では最近は規制が厳しく室内のガス湯沸かし器はあまり見られなくなったが、小笠原ではまだまだ残っており私が住んでいたアパートもそうだった。 いつものように夕方シャワーを浴びようと湯沸かし器に点火をしたがなかなか火が点かない。おかしいと思いガス臭い事に気づいた次の瞬間、湯沸かし器の下からボッと炎が噴き出した。「うわー!!」とびっくりして、あわてて元栓を締め、その日は友達のところでお風呂を借りた。翌日大家さんに電話をして湯沸かし器を取り替えてもらったが、実はこの大家がガス屋で一歩間違えればガス爆発ややけどをしていたかもしれないのに、「あーあの湯沸かし器もう古いからね」で片づけられ、しかも取り替えたものも煙突の向きが悪いのか、風の強い日はすぐに火が消えてしまい、また「ファイヤー!」にならないか、どきどきしながら使っていた。引っ越して次のアパートに入った時は、風呂の湯が途中で水にならないので、うれしくてつい長風呂になったほどだ。 電話は、島内は内地と同じようにケーブル接続だが、内地とは衛星回線を経由している。03地域は離島の特別措置で隣接地域扱いだが、それ以外はすべて距離換算。衛星回線をキャッチしている東京までが1000キロだから、関東にかけても沖縄北海道にかけても同料金。03かどうかで料金に大差がつくので、お産で帰っていた友達は自転車にのってわざわざ23区内に行き、そこから小笠原の夫に電話していたそうだ。ちなみにこのダンナはNTT社員。 携帯電話は1999年から使えるようになった。 ドコモのみで、iモードは使えない。もともと公衆電話が少なかったり、半年くらい遊びがてら働きに来る若い人たちが加入電話がわりに使うなど、ケイタイの小笠原での普及率はすごいものがある。小笠原では電話機本体は個人で代理店のようなことをしている人もいるが、NTTで購入する人が多いのでNTTの売り上げがすごく、最初はこんなところにケイタイを導入しても絶対に赤字だろうと思っていたが、実はけっこうな利益をあげているらしい。 町中もそうだが、特にビーチや船に持っていく人が多く、濡れた手で扱って壊した人も何人もいる。私も、泳いだ後に使おうとは思わないが、スコールが降ったときは気をつけないとかばんのポケットに入れたくらいでは濡れて使いものにならなくなる。村の診療所の看護婦は、夜間や休日に急患当番があり、119番が役場に入ると呼び出される。以前はいかつい無線機を持ち歩いていたが、現在は専用のケイタイを持たされている。普段持ち慣れない人が持つせいか、看護婦の友達はポケットに入れたままズボンを洗濯しておしゃかにするということを、すでに2回もやっているらしい。 小笠原では通勤時間がない分家にいる時間がとれるのと、新聞や雑誌がリアルタイムで読めないので最新情報を手に入れたい、また私のように通信販売に使いたいといった理由でパソコンを買う人が多い。あるいはイルカやクジラの写真に凝っている人はデータベース化したいという目的もある。ところが初心者がインターネットにつなげようとすると必ず壁にぶち当たるのだ。原因は通信回線の状態で、小笠原は電話回線を通信衛星経由で内地に送るのでどうも回線の状態が悪いらしく、パソコンを買ってきたままの状態では十中八九つながらない。何度やってもつながらず頭にきてメーカーにクレームをつけるのだが、こんな離島の環境など内地のサービスセンターの担当者が知るはずもなく、NTTが悪いのではないか、いやプロバイダのせいだと責任を押しつけあってうやむやにされてしまう。 それでなくても、湿度が高くパソコン本体の状態も不安定で、故障すると出張修理など無理なので大きな箱で内地まで送らなくてはならない。こんな調子では初心者にはお手上げで、私の周りでもどうしてもつながらずパソコンがオブジェ化してしまった人や早々に買い替えてしまった人がいる。 このようにみんなが悩んでいる中ISDNが小笠原でも使えるようになったときは「これで通信状態も解決だ!」と小躍りして喜んだのだが、そううまくはいかなかった。その原因は電話料金の高さである。小笠原は離島の特例で東京03地域の隣接地区扱いになっているのだが、これがデジタル回線では特例が適用されず完全な距離換算になってしまうのだ。つまり長距離扱いとなり、とてもじゃないがネットサーフィンなど気軽にできない。 確かにデジタル回線を使うと、これまでアナログではつながらなかったパソコンも魔法のように一発でつながり夢のようだが、あとでNTTの請求書を見てその夢も砕けてしまう。島民も試行錯誤して電話料金込みのプロバイダを使ったりしているが、それも時間に制限があるので、なかなか内地と同じようには利用できない。しかたなく通信速度が遅くていらいらしながらアナログでの接続をしている。 小笠原での接続経験しかなかった私は、内地に自分のパソコンを持って帰ってつなげてみて、その速さに感動した。現在内地ではケーブルテレビの回線や衛星放送の電波を使っての接続などその通信速度を競っているが、はるか南の孤島ではそれもまた夢の夢である。 |
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