「想像の沖縄」

多田 治(琉球新報2006.9.26)

県知事選前の大変な時期に恐縮だが、仕事柄、私の九月はシンポジウムの月だった。二日は琉球大で「沖縄イメージと風景・身体・記憶」を主催。十四〜十六日にはイタリアのヴェネチアで、沖縄研究国際シンポジウム「想像の沖縄」。私も出席、報告してきて、時差ぼけの中これを書いている。

国内外の沖縄研究者が一堂に集い、三日間で十一のテーマ部会を展開。歴史や民俗はじめ多分野の報告が聞け、新鮮な学びがあった。

最も印象に残ったのは最終日の戦争セッションで、特に石原昌家先生の切々たる報告には心を打たれた。戦後の国家賠償において、援護法の適用要件に「集団自決」がおかれた。六歳未満でも「戦闘参加者」として靖国神社に祀られ、遺族は年金を受けたという。つまり集団自決は、制度的に構築されてきたわけだ。石原氏はそこに、沖縄戦を「軍民一体」とし、戦争責任を免責する思想を見る。最近の岩波訴訟問題とも関連し、非常に興味深い報告だった。

 

関係性に立つ視点

実はこの戦争セッションの次、二十分後が我々の観光セッションで、正直やや心苦しかった。急に明るく軽めになる感は否めないからだが、役回りだからしょうがない。この暗と明、重と軽のコントラスト自体が、沖縄の現状を表すとあれば、むしろ積極的に引き受けた。

私は発表の冒頭で、息子の名を呼んだ。本シンポは、インターネットでライブ中継されてもいた。会場の数十名の研究者だけでなく、また実際に誰が中継を見たかとは別に、「可能態としてのオーディエンス」に開かれていた点が、重要なのだ。

私は、「沖縄イメージ、その発生と展開」を報告した。沖縄観光とイメージの百年史の概観を経て、時間オーバー気にせず、「方法としてのツーリスト」という自らの視点を熱く語り切った。

私は、学問の最も重要な役割は、広く一般に活用可能な「視点を提示すること」だと考えている。専門化や実証主義を進めるあまり、学問の中で話が完結してはつまらない。自分の「〜学」を守りたい事情もわかるが、学者以外の多くの人には、ほとんど関係がない。

例えばある部会では、「南島」という呼び方に疑問を発し、村井紀『南島イデオロギーの発生』の柳田民俗学への誤解を、痛烈に批判する議論があった。主張はわかったが、そこまでして守るべきものは何だろう。

いかに批判しようと、現実に沖縄は日本の「南の島」として設定されてきた。そこにツーリズムやコロニアリズムが入り込み、イデオロギーの拠点として今日に至る事実を、直視しつつ批判した方が有効ではないか。

しかも単純でないのは、「南の島」は単に外からの目線にとどまらず、地元沖縄側のセルフ・イメージとしても内面化され、積極的に逆用されてきたことだ。外と内のまなざしは互いに媒介し、浸透し合っている。だから今必要なのは、「関係性」の上に立つ視点である。

 

方法としてのツーリスト

琉球処分以後の近代沖縄は、内地<cーリストとの関係の歴史でもあり、外からまなざす沖縄イメージと向き合う歴史でもあった。

ならば、通常は「表層的」と揶揄されがちなツーリストの目線を、あえて方法として活用することで、関係性から沖縄と日本を問い直す道筋も見えてくる。

特に、研究と観光を同一の地平におくことで、アカデミズムと沖縄の関係を問い直す作業がある。柳田國男の民俗学や柳宗悦の民芸運動は、それ自体沖縄へのツーリズムやエキゾティシズムを含んでいた上に、後の沖縄観光やイメージに影響を与え、マス・ツーリズムへつながった。研究者・知識人と沖縄の関係を、アカデミズム内部に囲い込まずに、関係の当事者として位置づけ直すことで、「本土/沖縄」の構図を含め、学問的反省を豊かにできる。沖縄へのまなざしをとらえる上で、柳田から「ちゅらさん」までをトータルに見ていく作業は不可欠なのだ。

だがこうした私の視点は、学界内では異端で、評判よろしくないだろう。実際ヴェネチアでも、絶賛と無視、賛否両論の反応を引き出し浮いてしまった気がする。

そもそも沖縄をめぐる言論状況の中で、ポピュラー文化やツーリズム、イメージを正面から扱う私の立場は、圧倒的に少数派だ。批判やお叱りには自省的でありつつ、活性化の可能性ある限り、非力ながらこの役回りで精力を注ぎたいと思う。それはまた、暗黙の言論統制や自主規制から逃れることでもある。人間関係を気にして発言できないこと、結構多くはないか。もっと自由でいいはずだ。

「非政治的」と判を押されがちな文化や学問にも、やり方次第で現実を突き動かす力はあるはずだ。必ずしも、文化政治や抵抗といったタームを使わなくとも。

ヴェネチアの全体テーマ「想像の沖縄」は、充分に議論を深められたか。琉大シンポも、盛況で面白い話ができたが、あくまで出発点だ。イメージと記憶をつなぐことで、身体感覚のレベルから世代をつなぐ方向を、今後も深めたい。皆さんとの次の議論が楽しみだ。


(多田治プロフィール)

ただ・おさむ 1970年大阪府生まれ。琉球大学助教授を経て、2006年4月から一橋大学大学院社会学研究科助教授。専攻は社会学・文化研究。著書に『沖縄イメージの誕生』『沖縄に立ちすくむ』。