会報on-line 第95号
特別寄稿

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【韓国の女優】

   追悼チェ・ジンシル 〜 真実という名の女優
    てじょん

 先週10月2日、久しぶりに李政美さんのバースデーコンサート(誕生日は9月27日)を聴きに行った帰り道。一緒にいた一松亭さんから、その日の未明にチェ・ジンシルがなくなったということを聞いてショックを受けた。車内の乗客のスポーツ新聞には「巨人軍の韓国選手の元妻が自殺」と書いてあった。日本ではそちらで有名なのだろうが、彼女は女優である。それも立派な、名前のとおり“真実”を追求したヒロインだった。
 39歳。若い。李政美さんも私も50になり半世紀生きたというのに。惜しい。
 私が見た彼女の作品をふり返りつつ、もって弔文に宛てたい。

 まず最初に見たのは「私の愛,私の花嫁」だった。1994年に千石の三百人劇場で「韓国映画の全貌」と題して50本の韓国映画が上映されたうちのひとつだった。まだ“韓流”などという言葉もなく韓国映画がマイナーだった頃、見る映画はどれも新鮮だった。イム・グォンテクやイ・ジャンホ、ペ・チャンホらの名作に混じって、韓国の今を紹介する作品がいくつかあった中のひとつ。イ・ミョンセ監督のラブ・コメディで、新婚夫婦の日常の波乱を軽いポップなタッチで描く作品だった。ヒューマンだが重苦しい印象もあった韓国映画に、こんな爽やかでお洒落な映画もあるのだと知り感心した。
 ここで、後に共にビッグになる、新郎役のパク・チュンフンと並んで、若くて可愛くて元気な新婦を演じていたチェ・ジンシル。そのキュートなイメージが今も懐かしい。

 彼女の出演した中で最高傑作といえばやはり、「手紙 The Letter」を挙げたい。
 “涙腺故障”映画、とにかく泣けるということで評判になった作品で、初めて見た時もその後何度か見た時も泣けたけど、今見ると切なくてもっと泣けてしまいそうだ。
 前半は「私の愛、私の花嫁」のように、幸せいっぱい夢いっぱいの新婚夫婦。もう甘い甘いメロメロの相思相愛、純愛の二人。お相手を演じるのは真面目なパク・シニャン。
 ところがこれが伏線で、愛する夫が病気で死んでしまう。あとに遺された妻は絶望のあまり、自殺未遂を図る。でも、その後、なんとも不思議なことに、なくなったはずの夫から励ましの手紙が届くようになるんだね……
そのわけは……思い出しても泣ける。
 ああ、チェ・ジンシルさん、あなたには自殺しないで、人々を励ましてほしかった。
でも、あなたの微笑みを今も銀幕で見て、過去からの手紙を私たちは受け取っているよ。

 
 「手紙 The Letter」

 一方で彼女には、しっかりものだけど気の強い、姉さん女房的な印象の役柄もある。
 代表的なのは「誰が俺を狂わせるのか」。あのイ・ビョンホンがなんとも情けない、小心でドジなダメ独身男を演じている。彼が片想いするのが、ジンシルなんだけど、彼女は冷たい。ほんとは彼女も好きなんだけど、彼を独り立ちさせるためにわざとつれなくしている。それがわからない男は逆ギレして軍隊を脱走、暴発する行為に……
 ほかにも、作品としては凡庸だが、福岡映画祭で見た「マヨネーズ」。これは母と娘のファミリードラマで、口うるさくわがままな母と喧嘩する気強い娘が、そのうち和解してゆくというお話だった。あと、未見の「女房殺し」では夫から殺意まで抱かれる役。このように彼女は勝ち気で外向的で、夫や家族と対立してゆくような演技もしている。

 時代劇では、「燃ゆる月」のヒロイン。“ピ”という名前で、薄幸の姫君。
 古代の朝鮮のおとぎ話、伝説で、部族の間の因縁の抗争に終止符を打ち、世界を救うために、神に生け贄の犠牲として捧げられる、悲劇のヒロインが美しかった。
 ここでも彼女は、決して座して死を待つような弱々しい役柄ではなく、自分が部族のみんなを救う犠牲として選ばれていることを自覚して、死を賭して神の山に向かう。
 彼女を巡る男たちの恋の駆け引きも、それぞれの部族の抗争を背景にして、古代版「ロミオとジュリエット」のごとく錯綜を極め、ことにダークな悪役を演じたソル・ギョングは怪演だ。それ以上に、ヒロインのジンシルの凛々しい姫君が素敵だったと思う。

 他に出演作はドラマも含めて数多いが、最後に映画作品からペアで挙げるなら……
 「ミスター・マンマ」と「ゴースト・ママ」。
 前者はヒットメーカー、カン・ウソク監督の作品で、後者のハン・ジスン監督も同じジンシルを主役のママとして撮っているのは、それを意識しているだろう。
 「ミスター・マンマ」のほうは、子育て出勤しているサラリーマンの男を助けてあげる社内のOLの役。職場で赤ん坊を抱えて苦労する男を支えてやるしっかり女房という役柄で、勝ち気だけど実は優しく世話焼きという性格がうまく持ち味を生かしていた。
 そして「ゴースト・ママ」……これこそ今見ると涙を禁じ得ないだろう。
 若くして、突然、交通事故で逝ってしまった、若いママ。
 でも、後に遺した子どもと夫のことが気がかりで、幽霊になってこの世に戻ってくる。
 チェ・ジンシルさん、幼い息子と娘を遺して、どうしてひとり逝ってしまったの?
 あなたも戻ってきて、私たちと共にいてください。


☆チェ・ジンシル フィルモグラフィ

 1990 南部軍 (チョン・ジヨン=鄭智泳)
 1990 コッチタン (キム・ヨンナム=金映男)
 1990 あのね,秘密だよ2 (チョ・グンファン=趙金煥)
 1990 私の愛,私の花嫁 (イ・ミョンセ=李明世)
 1991 スーザン・ブリンクのアリラン(チャン・ギルス=張吉秀)
 1992 ミスター・マンマ (カン・ウソク=康祐硯)
 1992 森の中の部屋 (オ・ビョンチョル=呉炳哲)
 1993 愛したい女性 結婚したい女性(キム・ホソン=金鎬善)
 1994 私は願う。私に禁じられたことを
             (チャン・ギルス=張吉秀)
 1994 女房殺し (カン・ウソク=康祐硯)
 1995 誰が俺を狂わせるのか (ク・イムソ)
 1995 ママに恋人ができたよ (キム・ドンビン=金東彬)
 1996 ゴースト・ママ (ハン・ジスン=韓志承)
 1997 ホリデー・イン・ソウル (キム・ウィソク=金義石)
 1997 ベイビー・セール (キム・ボン)
 1997 手紙 The Letter (イ・ジョングク=李廷国)
 1999 マヨネーズ (ユン・イノ)
 2000 燃ゆる月 (パク・チェヒョン)

チェ・ジンシル(崔真実)
 1968.12.24.-2008.10.2. 

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