・コロイドとは

 水に溶けるという状態以外にも、単に水の中に漂う、分散すると言う形で、水中に物質が「溶けた」ように見える状態が存在する。通常、コロイドでは10の3乗個から9乗個の「原子」からなる物質が集合凝集し水中に漂っている。石けん、染料、デンプン、ゼラチン、塩化銀、硫酸バリウム、水酸化第二鉄、水酸化アルミニウムなどはコロイドを作る。

 コロイドには水和量の多い親水コロイドと少ない疎水コロイドに分かれる。石けん、ゼラチン、デンプンなどの主に有機物のコロイドが前者に属する。また、塩化銀、炭素、硫黄、硫酸バリウム、水酸化第二鉄などの無機質は後者に属する。

 コロイドは普通の溶液とは違った様々な特異的な物性を持つ。現実に我々が取り扱う水道の水、水槽の水、アマゾンの水は溶液と言うよりはむしろコロイド溶液なのである。今まで、水槽の中を理解する上で用いられてきた化学的な説明は溶液に関するものが主流であったが、コロイドに対する理解が不足しているが為に、今までなされてきた説明がかなりいびつな物であるという批判は免れない。但し、コロイドを正しく理解、説明することは化学分野にいる人間にとってすらもかなり難儀な部類に属する。今後、アクアリウムを理解する上で、コロイド的な理解が広まることを切望する。

 コロイドの持つ特性としてまず挙げらるのは、ブラウン運動である。これは、コロイド粒子が水中で不規則で活発な運動をすることを指す。この運動は分散媒(水など)の分子の持つ熱運動がコロイドに衝突するために起こると言われている。コロイドの大きさが大きくなればこの運動は起こり難くなる。このブラウン運動はコロイド自体が拡散するモチベーションのひとつに他ならない。

 コロイドはいわゆる溶液と比べて大きな粒子かなり無理に漂っている状態である。そのためコロイドはちょっとしたきっかけで容易に粒子が沈降する。親水コロイドでは多めの電解質、アルコールの添加で沈降がおきこれを塩析と言う。これはコロイドのまわりに水和する水分子の反発により凝集が阻害されてコロイドが形成されているのであるが、電解質やアルコールの添加が水和水を取り除くために沈降が起きるのである。

 一方疎水コロイドでは少量の電解質の添加で沈降し、これを凝析と言う。こちらの沈降が起きないメカニズムは粒子自体の持つ同じ種類の(+か−という意味で)電荷の反発によるものなので、少量の電解質を加えることで電荷が打ち消されてしまうので沈降してしまう。今日浄水場の浄水手段として硫酸アルミニウムなどによる薬品を使った「急速濾過」が多く使われている。これは、通常の河川水がマイナスに帯電したコロイドなので、プラス電荷の大きいアルミニウムイオンを加えることにより効果的な沈降を起こすこととアルミニウムイオンが比較的無害なことによる。

 日本の河川水には多量のケイ酸分が含まれるのが常である。これは溶解しているというよりはコロイドとして存在するのである。土壌のケイ酸分はいわゆるシリカゲルとして含まれていて河川水中ではシリカゲルのコロイド溶液となっている。ちなみに「ゲル」とはコロイドが固化したもののことである。豆腐、ゼリーなどはゲルの代表格である。シリカゲルは吸着を起こすことで有名であるが、シリカゲル同様に多くのコロイドは強い吸着力を持つ。これはコロイドが広い表面を持つことに由来する。また、疎水コロイドはほとんどの場合荷電するので電気的な吸着力をあわせ持つ。

 アマゾンの水は地域によっていろんな色に着色していると言われる。だが、言われるようにアマゾンの電気伝導度は低い。河川の着色は河川水に何かが溶けているからだというわけではなくコロイド状で水中に拡散する物質粒子による着色なのであろう。腐植酸、鉄・アルミニウムなどはコロイドを作りやすい。

 ディスカス飼育関連で大事なことはコロイドが浸透圧に対してどのような寄与を持っているかということである。後述のように淡水魚は比較的高い浸透圧を持つ体内と低い浸透圧の外的環境、すなわち淡水との間の浸透圧調整に多大な労力と巧みなメカニズムを要する。アマゾンのようにイオン濃度が低い(電気伝導度が小さい)環境、つまり浸透圧的に見て生体により不利な環境で魚がどのように適応しているのか、その解明がすなわちディスカス飼育をより単純化する鍵では無いかと思う。このことを考える際に、アマゾンの河川水中に存在すると思われる様々なコロイドが浸透圧に対してどのくらい寄与があるのかを把握する必要がある。残念ながら、筆者はこのことを解説する文献を見かけたことがない。

 コロイドの項の最後としてアクアリストのみなさんにもっとも馴染みの深いコロイドをご紹介したいと思う。コロイドという言葉どこか聞いたはずだがとお思いになっているかたもいらっしゃるのではないだろうか?それはテトラ社アクアセーフの宣伝文句である。アクアセーフはなにがしかのタンパク質を含むのでないかと思う。これがコロイドを形成し、鰓の細胞間隙から水が侵入してくるのを防ぐ粘液と同じ働きをするのである。粘液自身もコロイドに他ならない。こういう意味ではコロイドは体内外の浸透圧差を緩衝する役割を果たしている。

 アクアセーフにはコロイドとして有毒金属などを包み込む作用も期待されているようである。これは塩析に他ならない。