人事訴訟の家庭裁判所への移管
2000/01/19 弁護士 谷 英樹
1 消極説と積極説の論拠
(1) 消極説
(2) 積極説
2 移管する事件の範囲
(1) 諸説
(2) 検討
1.の事件を移管することに異論はない。
2.に対しては、限界が不明確であって、移管の範囲を明確にすることが困難という批判がある。しかし、これを含まないとすると、移管の意義の大半が失われる。また、家裁が管轄する事件については、列挙するなど立法技術的に解決が可能。
他方、3.については、その限界とどのように画するかがすこぶる困難であり、当事者が親族ないし親族に準ずる者であるというだけで純粋な財産法上の事件も含まれてきて、家裁での処理が必要でないものも取りこまれる。
したがって、2.説が妥当である。
3 手続 −−審判か訴訟か
(1) 諸説
@ すべて訴訟手続によるとする説
A 確認を求めるものは訴訟手続により、形成を求めるものは非訟手続による。
B すべて審判手続によるとする説
ア 審判に対する不服は、高裁または地裁への取消しの訴えによる。
イ 審判に対する不服は、即時抗告による。
(2) 問題点の検討
1) 手続の法律的性格
身分関係や法律関係の存否確認事件については、法律上の争訟であるから、憲法上の要請(76条1項、82条)から、終局的には判決による必要がある。
離婚訴訟については問題がある。しかし、現行民法では、裁判上の離婚について一定の要件を定め、それに該当する場合は、離婚請求権があるという構成をとっているから、法律上の争訟と考えざるをえない。民法の規定を改めることによって、裁判上の離婚を形成的なものとすることが可能であるという説もあるが、いずれにせよ現行民法を前提とする限り、離婚訴訟は、法律上の争訟として終局的には判決による必要がある。
それ以外の婚姻予約不履行に基づく慰謝料請求事件、結納金返還請求事件、内縁解消に基づく慰謝料請求事件、離婚後の慰謝料請求事件、相続回復請求、遺留分減殺請求、遺言無効確認、遺産分割協議無効確認、相続の承認・放棄の無効確認、遺産の範囲確定の事件、同居義務、婚姻費用分担義務、扶養義務の存否確定の訴えは、いずれも法律上の争訟であるから、終局的には判決による必要がある。
2) 手続上の要請
家庭裁判所で移行後の手続を行なう場合、調査官等の専門的機関の利用手続や職権証拠調べ手続のために、どのような手続が望ましいかという問題がある。
審判説は、特にその点を根拠にする。専門機関の利用や調停の経過を生かすという点から、訴訟でもなく、また従前の調停でもない第三の手続を創設するという考え方もある(岡垣)。
(3) 結論
移管する事件はいずれも「法律上の争訟」であって終局的には訴訟によることが必要である。
ところで、家庭裁判所での手続を審判とし、別途取消訴訟を認める制度では、調停を経たうえで審判を行ない、さらに取消訴訟を経ることになって、屋上屋を重ねることになり、余計時間がかかるという問題が生じてしまう。したがって、家庭裁判所で行なう手続は訴訟とすべきであり、そのなかで専門的機関の利用や職権証拠調べについて、手続を別途整備すべきである。
4 移行の手続 −−申立によるか自動的に移行するか。
(1) 人事訴訟の場合
1) 考えられる制度
2) 検討
円満同居を求める調停などでは不調になったからといって全て移行させるの適当ではなく、当事者の意思にも反する場合がある。また、当事者の中には、調停によって解決するのであれば離婚を求めるが、そうでなければあえて訴訟までは求めないという当事者もいる。さらに、訴訟という手続である以上、請求の趣旨と原因がある程度明確になっている必要があるが、調停では必ずしもそれらが特定されているとは限らない。したがって、全てが自動的に移行する制度は相当でなく、当事者の申立による制度にする必要がある。
そして、移行にあたって当事者の申立を求めても、煩瑣な手続でなければ、当事者に萎縮させることはない。
したがって、1)案が妥当である。
なお、申立の手続については、定型の用紙を用意したり、窓口などで相談に応ずるなど、容易にするための工夫が必要である。
(2) 遺産分割の前提問題について
1) 考えられる制度
Q 検討
調停のなかで前提問題が争いになった場合でも、当事者間で合意が成立すれば争いは解決するから、必ず訴訟を開始させる必要はない。したがって、原則として当事者の申立によるものとするのがよいが、調停委員会の裁量によって訴訟を開始させることが必要な場合もありうるから、その余地を残しておくのがよい。
また、審判においても、事案によっては、審判による判断に対して改めて訴訟が提起されることなく確定することもありうるから、審判によって判断するか訴訟を開始するかの判断は審判官の裁量によるものとするのが望ましい。
したがって、A案が妥当である。
5 証拠調べ
(1) 調停で提出された資料や経過の引継ぎ
1) 諸説
2) 検討
調停における対話を実質化するためには、調停における自由な対話が保障される必要があり、調停と訴訟を切り離す必要がある。したがって、後説が妥当である。
具体的な制度設計は次のとおり。
なお、これに対しては、調停と訴訟の一貫した効率的運用ができず、移管の目的を達することができないという批判が考えられる。しかし、移管の目的は、家裁の専門的機構の利用や事件処理上の矛盾・不均衡の防止などであり、調停の経過を反映させることではないと考えるべきである。
また、調停では、当事者が提出した資料(証拠)は、本来相手方や当事者に写しを交付するか、少なくとも当事者に閲覧謄写を認める扱いとし、調査官の調査報告書も当事者に閲覧謄写を認める制度を確立する必要がある。それによって、調停における資料や証拠で訴訟に必要なものは、当事者に提出させたり、裁判所の職権証拠調べをすることによって、訴訟に反映させることが可能である。
(2) 専門的機関の活用(家庭裁判所調査官、医務室技官)
裁判所の調査命令によって開始することとするが、当事者にも請求を認める。
調査結果は全て当事者に開示され、これに対する攻撃防御ができる。
(3) 子どもの意見聴取の機会
子どもの権利条約12条2項には、「児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる」と規定されている。
裁判離婚の際の親権者の指定(民法819条2項)・変更(同条6項)などは、まさにこの条項に該当するので、子どもに意見表明の機会を与えることが必要である。
具体的には、子どももが直接意見を述べる独自の手続(証拠調べではない)として調査官による子どもの意向調査手続を定め、これを義務的にすべきである。ただし、直接の意見聴取が必要なのは「自己の利害関係について判断する能力のある子どもについて」であると解すべきである(大阪弁護士会少年問題対策特別委員会『子どもの権利条約は子どもの環境を変えるか』)から、おおむね10歳以上は意見聴取を義務的とすべきである。
6 付調停
裁判所は、訴訟の経過に鑑みて必要な場合は、事件を調停に付することができるものとする。
この場合、原則として別の裁判官が担当し、調停の経過は当然には訴訟には反映しないものとする。その理由は、前記(1)と同じ。ただし、支部などで裁判官が1人である場合は同じ裁判官が担当するのもやむをえない。
7 公開
家裁での訴訟においても裁判の公開は他の裁判所と同様とする。
裁判が公開されているからといって、それを理由に提訴を躊躇することはあまりないと課が得られるし、公開されているからといって、主張や供述を控えることは考えられない。
事案によって非公開とする余地を残しておく必要があるが、現行の規定(憲法82条、裁判所法50条)で対処が可能である。
参考文献
岡垣学「人事訴訟事件の管轄権 −−家庭裁判所への移管をめぐって−−」『人事訴訟の研究』第一法規、1980年