【資料・ADRに関する各界の意見】

2000年3月18日 弁護士 谷 英樹

○ 『司法改革ビジョン 』(日本弁護士連合会・1998年11月)

第1 総論

 2.司法の果たすべき役割

 「日本国憲法のもとにおける司法の役割は、一人ひとりが人間として尊重され、幸せに生活していくことができるよう、公正で公平に法が適用されることにより人権その他の法的利益を擁護していくことにあります。
 このために司法は、紛争を適正・迅速に解決して権利の実現をはかること、被疑 者・被告人を含めた関係者の人権を保障しつつ刑罰法令を適正に適用すること、法に従って行政が適正に機能するようにすること、さらに違憲立法審査権により憲法の理念に従った立法がなされるようにすることを重要な責務としています。そして、立法や行政の誤りを是正する役割を果たすために、司法は三権の一として立法や行政からの独立が強くまもられ、裁判官の独立が保障されています。」
「わが国では、法的に解決すべき市民間、企業間あるいは行政と市民の間の問題の多くが、あいまいな基準のもとに不透明に処理されることが多く、泣き寝入りもめずらしくありません。」「規制緩和のもとで、市場原理と自己責任を基調とする政策が進められつつあります。」「このようなときにこそ、法律実務家が社会のさまざまな場面に関与し、日本国憲法の理念に従った法と正義に基づく公正なルールにより、個人の尊厳をまもり、人権を擁護する必要があります。」
「また、司法機能の充実は、単に自己責任の原則に貫かれた事後監視・救済型への社会の転換のための対応だけではなく、社会的・経済的弱者の権利を保護して自由競争の行き過ぎから生じる弊害を是正するために、市民の権利擁護の最後の砦として必要なものと考えます。」

3.司法改革の方向

 「第一に、市民に身近な司法を実現するとともに司法の容量を拡大することです。」
 「第二に、市民の権利の保障・実現のために諸制度を整備することです。」
 「第三に、立法・行政に対する司法のチェックと社会のあらゆる分野に法と正義が行きわたることをめざすことです。」

第2 各論(具体的改革課題)

 4.国際化への対応

「A 国際仲裁センターの充実
 日弁連は、国際仲裁の充実に積極的に取り組んでおり、今後も、国際仲裁センターの充実のために努力します。
 現在、法務省とともに国際仲裁研究会を設置し、日本における国際仲裁の活性化のための具体的な方策を検討しています。 」

  ※ 司法における地方分権、地域司法計画構想


○ 『司法制度改革についての意見』((社)経済団体連合会・1998年 5月19日)

I. 基本的考え

 「行政改革、規制の撤廃・緩和の進展によって、行政依存型経済・社会から、自由で公正な市場経済・社会への転換が図られる中、企業・個人は「自己責任」の下に「透明なルール」に従って行動することが求められており、経済・社会の基本的なインフラとしての司法制度の充実が、今こそ必要である。」
 「司法制度の充実は、国民の権利擁護とともに経済活動を安定的に進める上でも極めて重要であるばかりでなく、わが国が国際社会から信認を受けていくためにも不可欠であり、厳しい財政事情の中でも、その停滞は許されないものと考える。」

V. 司法の制度的インフラについて

「3. 準司法機関、準司法手続の充実
 独占禁止法違反事件への適切な対応が公正取引委員会の事務総局体制の充実にあるように、準司法機関・手続についての諸問題は主として当該組織の強化(定員増を含む)にあると考えられる。
 また、準司法手続といわゆる民事的救済(私訴)との関係については、準司法手続が認められている法分野が高度な専門性を要求されていることを考えれば、民事的救済の方途を安易に拡大することは、裁判所への著しい負担増大ともなり、慎重な検討が必要である。」

「4 .国際仲裁センターの充実
 国際的な経済活動の進展に伴って、紛争解決の手段として国際仲裁の充実・強化が必要であるが、わが国における仲裁機能の不備もあり、わが国企業が一方当事者たる紛争の大部分が外国の仲裁機関に属することとなっている。
 安定的な国際取引を確立する観点から、信頼できる仲裁機関を整備することは、国際社会への貢献の選択肢のひとつでもある。」

「6. 知的所有権をめぐる紛争の迅速な解決について
   知的所有権をめぐる紛争は多発化の傾向にあるが、裁判官にこの分野の精通者が限られているために訴訟による解決には自ら限界がある。
   当面、東京・大阪をはじめとする大都市圏の裁判所に知的所有権争訟に対応できる裁判官を重点的に配置し迅速な処理を図るとともに、この分野に精通した裁判官の養成を図る必要がある。
   また、特許裁判所の設立についても検討を進めるべきである。」


○ 『司法制度特別調査会報告―21世紀の司法の確かな指針― 』(自由民主党・1998年6月16日)

第1 司法改革の視点

 「司法は、安全な国民生活の確保と公正で円滑な経済活動という国家の基礎を支え、活力ある社会を維持するための基盤をなすものであり、今後よりー層進展していく社会の複雑・多様化、高度化、情報化、国際化に的確に対応し、公正で適切な解決を与えることによって、わが国が国際社会での信頼を得ながら着実に発展を遂げていくための国家的な基本的インフラである。」
 「国際化が急速に進展している中にあって、わが国が国際社会と共存し、調和ある発展を図るためには、「透明なルールと自己責任の理念」というグローバルスタンダードに立脚し得る能力と体制を持たなければならない。」
 「今後、規制緩和等の諸改革を推進し、自己責任の原則に貫かれた事後監視・救済型の社会への転換を図るためには、その基盤をなす司法の機能の充実強化が必要である。」

第3 国際化に対応し世界に貢献する司法

「近年、国際的な民事紛争を仲裁によって迅速かつ適切に解決しようとするニーズが高まっているが、わが国を仲裁地とする国際仲裁は極めて少ない実情にある。制度的に大きく立ち後れた感のある国際仲裁を活性化させるため、国際仲裁センターの充実も検討すべき課題である。」


【司法制度改革審議会におけるADRについての議論】

○ 第4回

〔松尾龍彦・元NHK解説委員からのレクチャー〕
 ADRの充実が大事。「複雑多様な紛争を早い時間で費用も安く解決を図ろうとするこの紛争解決手段を選択する傾向が、今後より一層強まることが予想される。」「使い勝手の良いシステムにより拡充し、司法の機能を高める現実的な改革を急ぐべき」

〔中坊委員〕
 21世紀は、自立した市民がその相違と責任のもとに、主体的に地域社会をはじめとするコミュニテイを担い、法の支配を貫徹しつつその個性的で豊かな発展を目指すものである。」
「官の司法」から「民の司法へ」。日本社会の分権型への転換に対応して、司法も地域志向型にその構造が転換されなければならない。」
「有機的に結合している司法制度の利用・運用に関する制度改革が問題にならなければいけない。
 それには、法律扶助制度、あるいは被疑者の国公選、あるいは公設事務所、法律相談の設置、また、極めて重要なものとして、行政に対する司法の監視ということの問題点が出てまいりますし、いわゆるADRの構築問題も問題になってくる。」

  → ADRと分権型社会との関係、法の支配の貫徹との関係がどうなるのか。

○ 第5回

〔諸外国の司法制度概要〕(事務局作成)
 アメリカのADRの特徴は3つある。
 @ コミュニティーレベルの運動が先行し、コミュニティーで自らの事件を処理していくと言う発想がかなり残っている。
 A 形態が多様。
 B 訴訟付属型ADRという形で、いわゆる対審構造を持ったADRが開発されて、かなり利用されている。

○ 第6回

〔論点整理に関する水原委員の発言〕
 「ADRの拡充ということは、国民がその法的紛争の性質、規模に応じて費用対効果の上がる迅速かつ多様な紛争解決方法が提供されて、裁判制度と相まって、適切な役割分担の下に機能していくことが望ましいにもかかわらず、我が国の各種ADRは、全体的に見て、まだまだ国民の期待に十分応えているようには思えません。」

〔論点整理に関する中坊委員意見〕
 「地域社会における自主的な規範の形成を助成する観点および市民の裁判を受ける権利を実質的に保障する観点から、……民事訴訟に代替しうる紛争解決制度の構想を調査審議する」

〔論点整理〕
 「社会で生起する紛争には大小さまざまあるが、事案の性格や当事者の事情に応じた多様な紛争処理の仕組みを用意することも、司法を国民に近いものとする上で大きな意義を有する。そのような観点から、裁判手続外の各種紛争処理手段の在り方についても検討すべきである。」

○ 第8回

〔「21世紀の司法制度を考える」・最高裁の泉事務総長〕
「裁判はこのような重い手続でございますから、どんな問題でも裁判で処理するというのは、かえって国民の方々に過大な負担を掛けることになります。国民のための司法、国民に実際に役立つ司法を考えますために、まず国民が紛争に巻き込まれた時点にさかのぼって考えてみたいと思いますが、法律問題が発生した場合に、国民がまず求めるのは、身近なところで、基本的な法律情報を提供し、どこに行けばよいのかということについて相談に乗ってくれる相談システムであると思います。
 その次に必要なのは、手軽に利用できる調停・仲裁等の、いわゆるADRでございます。問題の重要性、複雑性の度合いに応じ、問題の程度に見合った手続で紛争を解決する柔軟な手段を整備する必要がございます。裁判所の行っております民事調停、家事調停は、年間35万件と、相当利用されておりますが、その他のADRは余り利用されておりません。これをもっと利用するようにする必要がございます。今申しました相談システム、次に調停・仲裁等のADR、そして裁判制度、この三つを加えたトータルな紛争解決システムの充実を図ることが必要であると思います。
 その次に必要なのは、手軽に利用できる調停・仲裁等の、いわゆるADRでございます。問題の重要性、複雑性の度合いに応じ、問題の程度に見合った手続で紛争を解決する柔軟な手段を整備する必要がございます。裁判所の行っております民事調停、家事調停は、年間35万件と、相当利用されておりますが、その他のADRは余り利用されておりません。これをもっと利用するようにする必要がございます。今申しました相談システム、次に調停・仲裁等のADR、そして裁判制度、この三つを加えたトータルな紛争解決システムの充実を図ることが必要であると思います。」
「第3点は、専門的紛争への対応でございますが、この点につきましては、専門家の手続関与を図る制度、例えば専門調停等のADRの活用、専門委員、専門参審制度の導入や専門的事件の管轄集中による集約的処理態勢を検討する必要がございます。より長期的には、法曹の養成数を拡大しまして、法曹自身が専門的分化を図っていく必要があるかと思います。 」

○ 第11回

〔「国民がより利用しやすい司法の実現」及び「国民の期待に応える民事司法の在り方」について・竹下会長代理〕

「ADRに関する基本的な論点としましては、このような我が国の現状を踏まえ、また、我が国の司法の現段階というものを考えてみたときに、ADR拡充ということが各方面から言われているのではございますけれども、そちらの方向へ行くべきなのか、それともまず本来の司法の充実に力を入れるべきなのかという問題点があるように思います。ADRはアメリカで大変盛んで1998年に連邦ADR法が成立したという状況があり、また、ドイツでもADRの研究が盛んでございます。しかし、アメリカやドイツではいずれも訴訟が多過ぎるというので、言わば裁判所の負担軽減、訴訟負担の軽減というところからADRが発想されてきたという面があることは否定できないところでありまして、そういう外国の事情を考えてみたときに、今、我々としてADRを拡充する方向を考えるのか、まず司法の方の拡充を考えるのかは、十分に検討すべき問題であるように思います。勿論、司法の拡充とADRの拡充は矛盾抵触するわけではないから、両方とも拡充すべきだという御意見もあるかもしれません。
 それから、もし拡充をするとした場合には、一体、どの分野のADRをどう拡充していくか、あるいは裁判手続との連携関係をどうするか、それからADRの問題点の一つは、果たして正義が実現できるような手続上の保障があるかという点でございますから、どう手続を整備していかなければいけないか、また、それを担う人をどのように確保するかというところが問題になるかと思います。 」
「私は実を言うと、第二東京弁護士会が最初に作られて、各地の弁護士会で同じように仲裁センターをおつくりになったときには、恐らく最初の意気込みは、官の裁判所に対して民の裁判所とするくらいのおつもりだったのではないか。私も大いに期待をしたのですけれども、結果から見ると、原因はどこにあるのか存じませんけれども、そんなに事件は増えていない。とても調停に匹敵する、あるいは訴訟に匹敵するような数にはならない。
 そういう点で、我が国ではADRの利用というのは、確かに観念的には必要性はよく分かるのだけれども、果たして実際に言われているほど国民が必要としているのかどうかという点でちょっと疑問を持っているのです。しかし、これは前によく井上委員が言っておられたように、現在の段階の私の考え方ですので、皆さんの御意見を伺って、考え方を変えるということは十分あり得るところです。 」

BACKTOP