takamura's LIBRARY NO.8


 NOW AND THEN

     〜失われた時を求めて〜

「私と付き合ってくれない?」
 薫がそう言った瞬間(とき)、僕はくわえていた煙草を落としそうになった。

 それはまだ初夏の陽射しがようやく春の終わりを告げている頃だった。


 薫と僕は大学のサークルの知り合いだった。
 僕の友達−それは親友と呼べるべき存在だが−が彼女に想いを打ち明けたのだけ
れど、薫には薫で心に想う人がいて、それを理由に彼の気持ちを断ったことがあっ
た。
 そんな僕の友達と想い人との板ばさみになりながら、彼女は僕に心の迷いを打ち
明けてくるようになっていった。
 最初の頃僕はそんな彼女の相談にのりながらあまり深入りしないようにしていた。
 僕にも僕なりに、心に想う女の娘がいたし、そんな僕の迷いや悩みも彼女に打ち
明けるようになっていった。

 そして季節の移ろいとともに、2人の間は近づいていった。
 それはある意味、当然の帰結ともいうべき結果だった。


「僕と・・・? まさかぁ、冗談だろ?」
 煙草を靴の底で丁寧に踏み消しながら僕は言った。
「本気だよ、私」
「・・・」
 そう言う薫の言葉に僕は、何も言葉が出なかった。
「今の私と徳永君て付き合ってるのと変わんないし、その方がしっくりいくんじゃ
ないのかなって思うんだけど?」
 薫は薄紫のパンツのポケットに手を入れて、歩道橋の手すりによりかかるように
しながらそう言った。
「僕達、付き合ってるのと変わらないんなら、今のままでもいいんじゃないかな。
僕はそう思うけど・・・?」
 歩道橋の下を流れるテールランプの河を見つめながら僕は言った。
「もう止めようよ、私達のそう言う曖昧な関係。友達以上なのに恋人じゃないなん
ておかしいよやっぱり、私達」
 僕の右腕を掴んで薫は言った。
 辺りはだいぶ薄暗くなっていて、イルミネイションの光はまるで雲の切れ間に輝
く星屑のように瞬いていた。
「それはそうだけど・・・。でも・・・」
 僕は新しい煙草を取り出して火を点けた。
 そして白い煙を吐き出した後、小さく1つ咳をした。
「私じゃ・・・、徳永君の恋人にはなれないのかな?」
「・・・」
 僕は溜め息をついて何も言えずに彼女の方を見つめた。
 薫の瞳は哀しみと不安の色で塗り潰されていた。
「前から思ってたんだけど徳永君て、さ・・・、やっぱり、何でもない」
 そう言う薫の口元が微かに震えていた。
「何だよ?」
 そう言いながら僕は、何故かそれ以上、薫の瞳を見つめていることが出来な
かった。
「やっぱり、今言ったコト無しにしてくれる?」
 うつ向いて力無くそう言うと薫はゆっくりと歩き始めた。
「ちょ、ちょっと、薫・・・。どこへ行くんだよ?」
 僕は慌てて彼女の後ろ姿を追った。
「ごめんね、徳永君・・・。今日はもうこれで・・・」
 振り向きもせずにそう言うと薫は駆け出して行った。
 僕は彼女を追おうとしたけれど、何故かそうするコトが出来なかった。
 
 そして歩道橋の上から人混みの中に彼女の姿が溶け込んでいくのを見つめている
しかなかった。

                      


 その日の夜、僕は薫の部屋に電話を入れたのだけれど、虚しくもベルが彼女を呼
び続けるだけだった。
 薫が居留守を使っているコトくらい僕にはすぐに判った。
 今まで外出している時の彼女はきちんと留守電をセットしていたから。
 時計の針はゆっくりと時の流れを刻んでいて、テーブルの上の灰皿には煙草の吸
殻と、残り少なくなったヘネシーのボトルが鈍く輝いていた。
 そしてFMからはTHE ROLLING STONESの『RUBY TUESDAY』が流れていた。
 日付が変わった時、僕は22回目の電話を入れていた。
 それでも彼女が受話器を手にするコトはなかった。
 ベルの音がゆっくりと空気中の細かい粒子をかき回していた。
 結局のところ僕は、27回目のベルが鳴るのを数えてからゆっくりと受話器を置
いた。

「やれやれ」
 そう僕は呟いて溜め息を1つついた。
 煙草に火を点けて僕はぼんやりと薫の言った言葉を思いだした。


 “私と付き合ってくれない?”

 僕にしてみれば、ある意味では予想通りの言葉だった。
 薫と僕は確かにずっと友達以上の関係だった。
 僕が薫と知り合った頃、彼女は特別な視線で見つめている人がいた。
 でもいつの頃からか薫のその視線は、僕へ向けられているような、そんな気がす
るようになった。
 それを薄々感じた僕はそんな彼女の視線に応えるかのように、薫との仲を深めて
いった。
 男女の仲は深まる程人は、いつしかその類の言葉を口にしたくなる。
 もっとも、大半はその逆のパターンなのだけれど・・・。
 そんな薫の視線に僕はイヤな気はしなかったのだけれど、僕はどうしても彼女に
恋愛感情を抱くコトが出来なかった。
 僕は彼女を妹のような存在として大切に思っていたし、恋愛感情を抜きにしても
男女間の友情というのは成立するものだと、僕は思っていた。

 でも結局のところ僕は、薫の言葉に即答するコトは出来なかった。
  


 次の週末、僕は薫の部屋に電話を入れた。

「もしもし、佐々井ですけど」
「薫? 僕、徳永・・・」
 僕は今までと同じように喋ったのだけれど薫の声はそれまでとは違って聞こえた。
「何? 私に何か用?」
「あのさ、話あるんだけど・・・、いいかな?」
 僕はゆっくりと言葉を撰びながら言った。
「あんまり時間ないんだけど・・・、何?」
「薫・・・、この間の話しだけどさ・・・」
「・・・」
 何も言わずに薫は、僕の言葉の続きを待っていた。
「僕と付き合ってくれないかな?」

 それはこれまでの僕自身を振り切るような、そして新しい自分を見つけるかのよ
うな、そんな期待と不安とが混じりあった響きがあった。 

「・・・」
 薫は何も言わずに黙っていた。
 彼女の後ろからThe Beatlesか何かの曲が流れていた。

 やがてそれが『Eight Days A Week』だと僕は気付いた。
 そしてその旋律は、僕を少しだけうんざりとした気分にさせた。

「もう・・・、気ぃ、変わっちゃったかな?」
 煙草に火を点けて僕は言った。
「そんなコト・・・、無いけど・・・。少し驚いちゃっただけ・・・」
「やっと自分の気持ちがハッキリしたんだ。だから、どうかな・・・?」
「そうだね」
 そう言って薫は笑った。
 そんな彼女の声を聞きながら僕は小さく溜め息をついた。
「それじゃ今から恋人同士なのね、私達」
「そうだね。そうコトになるかな、今から・・・」
 

 そんなふうにして僕と薫は本当の意味で友達以上の関係になった。
 こうすることによって僕は、新しい自分を見つけ出したしたような、そんな気が
していた。

 でもそう言いながらも僕は、「自分の心に嘘なんて案外簡単につけるものだなと」
僕は思った。
 僕の本当の想いは別としても薫が喜んでくれるのならば、また自分を押し殺して
も構わない、と僕は思っていた。



 それから僕と薫は何度もデートを重ねた。
 ドライブをしたり海に出かけたり、お酒を呑みに行ったり・・・。
 その殆どが僕が彼女を誘って出かけるという形式をとっていた。
 そして何度か唇を重ねあうこともあった。
 薫は僕のコトを完全に恋人として認めていたし、僕も彼女のコトを恋人として見
ているつもりだった。



 それは気持ちの良い9月の日曜日だった。
 夏はもううまく思い出せなくなった古い記憶みたいにどこかに消え失せていた。
 海だサーフィンだザ・ビーチボーイズだとはしゃいでいた季節は、セピア色の写
真の中にくっきりと輪郭を残していた。
 

 僕が薫を誘って映画を見た帰りだった。
 夏の終わりを告げるすらりとした風がビルの間を滑り抜けて、秋の始まりを街に
運んで来ていた。
「ねぇ、徳永君・・・、1つ聞いてもいいかな・・・?」
 急に立ち止まって薫は小さな声でそう言った。
「ん、どうかした?」
 僕は立ち止まった彼女を振り返るようにして言った。
「徳永君・・・、私のコト・・・、誰かの代わりにしていない?」
「そ、そんなコトないよ。それにいったい誰の・・・」
「たとえば郁ちゃんとか・・・」
 僕の言葉を遮るようにして言った薫の口からでた郁の名前に僕は、針で刺された
ようなそんな痛みが全身に走った。
「ど、どうしてここで田畑の名前がここで出てくるの・・・?」
 そう言う僕の唇が瞬時に乾いていくのが分かった。
「だって・・・、だって徳永君、いっつも郁ちゃんのコト見つめてる。私のコト見
てる以上の視線を郁ちゃんに向けてるんだもん。気付くなって方が無理なくらいに」
 そこで薫は言葉を詰まらせた。

 彼女の瞳はあの時と同じように、哀しみの色に塗り潰されていた。


 まったくだ。
 薫と親しくなる以前からずっと僕は田畑郁のコトが気になっていた。
 僕は薫が僕を見つめる視線、それ以上のものを郁に向けていた。
 でも郁には恋人がいて、そんな僕の視線には気付くはずもなかった。
 そして僕は郁にはそんな僕の想いを伝えずに失恋した。
 そんな傷を癒すかのように僕は薫との仲を深めていった。
 僕は自分の中で、もう郁のコトは終わりにしたつもりだった。
 でも、心のどこかにずっと郁は住み着いていて離れるコトは無かった。
 結局のところ、心のどこかで僕は薫を“郁の代わり”として見ていたのかもしれ
ない。
 もしかしたら・・・。


「そんなコト・・・、無いよ」
 僕はポケットから煙草を出して火を点けながら言った。

          


「そんなウソ言わないでよ。まだ郁ちゃんのコト好きなんでしょ徳永君」
 薫は唇を咬みながら小さな声で言った。
「どうして今も僕が田畑のコトを好きだなんて・・・」
「だって徳永君、前に郁ちゃんのコトが好きって言ってたじゃない」
「だから、それは薫の誤解だよ。それにもう終わったコトじゃなか。現に今僕はこ
うして薫と付き合ってるし・・・」
 僕にしてみれば、最大限の強がりだった。

 そんなものが薫に通じるとは思ってはいなかったけれど、今の僕はそうする以外
のすべを知らない。

「でも徳永君、郁ちゃんに想いを伝えてダメだったワケじゃないんでしょ?」
「もう終わったコトじゃないか」
「そう・・・。じゃぁもうこれは徳永君には教える必要もないわね」
 そんな僕を見つめながら薫は溜め息混じりに言った。
「僕に教えるって、いったい何だよ?」
「郁ちゃんのコト、もう関係ないなら別に教える必要なんて・・・」
「田畑がどうかしたのか? 教えろよ、薫!」
 薫の口から出た郁の名前に僕はむきになって言った。
「郁ちゃんね、別れちゃったんだってさ、彼氏とね・・・」
 うつ向きながら吐き捨てるように薫は言った。
「・・・」
 僕は彼女の言葉に全くと言っていいほど反応することが出来なかった。
「どう、これで自分の心に正直になれるんじゃないの? 徳永君」
 うつ向いたまま前髪をかきあげて薫は言った。
「僕の心に正直になれるって?」
「徳永君、まだ好きなんでしょ? 郁ちゃんのコト?」
「薫、そうやって僕を試すようなコトするなよ」
 僕がそう言うと薫は、驚いたような表情をして顔を上げた。
「僕は今、薫と付き合ってる。もう田畑のコトは関係ないだろ」
「徳永君、信じてもいいの・・・? それ」
「信じたくなければ・・・、信じてくれなくてもいいよ」
 そう言って僕は煙草の火を踏み消した。
「ごめんね、徳永君。私、結構嫉妬深いんだぁ。だから・・・、何か徳永君が郁ち
ゃんに未だに特別な視線を向けているような気がしちゃってさ。でも、信じたげる、
徳永君の言葉・・・」
 再びうつ向いて薫はか細い声で言った。
 そんな薫の体を僕は力強く抱きしめた。

 そして僕は彼女をより愛しく思いながらも、言葉に出来ない苛立ちとやり場の無い虚しさを感じていた。
 何だか僕は薫が急速に色あせていくように思えた。
 何もかもが色あせてしまい、そしてもう何もかもがモノクロームに染まっていくように思えた。。

 最後には僕自身さえもが・・・。



 あの日から僕の心は薫の色とは別の、今までとは違った色で塗り潰されて
いった。
 そしてそれはある種懐かしい色だった。
 あの夜、薫の言葉を聞いてからと言うもの、僕の中で今まで以上にどんどん
郁の存在が大きくなっていった。
 どうしても郁のコトが気になって僕自身どうしようもない程だった。
 薫と一緒にいてもそんな自分を押し殺すコトは出来なくなっていた。


 それは12月の第3週だった。
 都会(まち)が1番都会らしく見える季節になっていた。
 そんなビルの鉛色とクリスマス一色の街路樹とが醸し出すコントラストが、
やけに新鮮に思えた。
 僕と薫は一緒にいても、ほとんど言葉も交わさずに過ぎ行く冬の1日を
過ごした。
 僕達は日比谷公園まで歩いて行った。
 街の殆どがもう冬の色に染まっていた。
 ビルも街路樹も、通り過ぎ行く人々も・・・。
 何処からかSimon & Garfunkelの『Scarborough Fair』が流れていた。


「徳永君、最近私と一緒にいてもちっとも楽しそうじゃないね」
 夕闇に染まる空を見上げながら薫は言った。
「エッ!?」
 薫のひと言に僕は躰中のリズムが速くなっていくのを感じた。
「やっぱり、郁ちゃんのコトが気になってるんでしょ? 徳永君」
「そんなコト、ないけど・・・」
「煙草・・・、煙草、もらえないかな?」
 薫はうつ向いてそう言った。
 何も言わずに僕は煙草を差し出した。
「ありがとう・・・」
 そう言って彼女はパッケージの中から1本を取り出して口にした。
 おもむろに僕はマッチを擦って煙草の先に火を点けてあげた。
「ごめんね」
 そう言いながら薫は白い煙を吐き出した。
「私、嫌だからね、郁ちゃんの代わりなんて」
 薄紫色の煙をぼんやりと見つめながら薫は言った。
「だからそれはもう・・・」
 そんな僕の言葉を聞きながら薫は、もうひと口煙草を吸って、そしてそれを
地面に落とした。
 それから彼女は軽く靴の踵で踏んで火を消した。
「もう・・・、信じられないよ。徳永君の言葉・・・」
 揉みくちゃになった吸殻を見つめながら薫は言った。
「私、もう徳永君と一緒にいても全然楽しくない。逢う度に辛く哀しくなって
いく。どうして・・・、どうして私だけを見つめてくれないの?」
 そう言う薫の顔は一瞬にして哀しみの色に塗りつぶされていった。
「薫・・・」
 僕はあの日のように薫の躰を強く抱きしめようとした。

 でも、そんな僕を振り払うようにして彼女は背を向けた。

「薫・・・、このままじゃ僕は君を不幸せにするばかりだ・・・。確かに、
僕は薫を田畑の代わりにしていたかもしれない。でも、これだけはウソじゃ
ない。付き合っていた間・・・、僕は薫が1番好きだったんだ」
 僕はそう言って空を眺めなた。
 
 それは気持ちが悪いくらいにすっきりと晴れ渡っていた。
 そしてそれは古いイタリア映画のワンシーンを思わせる空だった。
 遥か上空を飛んでいる飛行機が不自然なほど小さく見えた。

                      

「付き合っていた間って・・・、好きだったって、どういうコト?」
 彼女の瞳はうっすらと潤んでいた。
「もう終わりにしよう・・・。僕達・・・」
 そう言いながら僕は自分が汚れた不純な人間に思えてならなかった。
「どうしてよ・・・?」
「他の娘のコト考えてる奴となんか、一緒にいられないだろ薫? このまま
じゃ、薫を哀しませて苦しめて傷付けるだけだし・・・」
「ずるいよ徳永君・・・」
「・・・」
 薫の言葉に僕は何も言い返せなかった。
「徳永君がもう私を見つめてくれないのなら、そうするしか仕方無いね。
分かったよ。別れてあげるよ、私の方から・・・。でもね、徳永君。別れ
ちゃっても、もう恋人じゃなくなっても、私が1番、1番徳永君のコトが
好きなんだからね・・・。それだけは忘れないでね」
 そう言う彼女の頬を一筋の輝きが流れ落ちていた。
 その流れを止める術を僕は知っていたのだけれど、それをすることは
もう僕には出来なかった。
「薫・・・」
「か、勘違い、し、しないでよね、徳永君。私、振られたんじゃないからね。
私が徳永君のコト、振ったんだからね。それも忘れないでよね」
 薫はその小さな瞳いっぱいに涙を浮かべながら、それでも微笑みながら
そう言った。
 
 そんなコントラストがより一層、哀しみの色を深めていた。
 僕はポケットからハンカチを取り出して、彼女の涙を拭いてあげた。
 薫はうつ向いたまま、必死に涙が流れるのを堪えていた。
 彼女のそんな姿を見つめながら僕はとてもやりきれないものを感じた。
 そして自分がとても卑怯者に思えてならなかった・・・。

 部屋に戻って独りになると僕は、“やれやれ”と思い、溜め息をついた。
 そしてうんざりとした気持ちになっていった。
 
 あの時、あの場面で、僕たち2人は別れを選んでいたんだ。
 そして時間(とき)は2度ともとには戻らない・・・。

 僕が薫だけを見つめてあげられれば良かったんだ。
 素直な彼女の想いに応えてあげていれば・・・。
 それはきっと簡単なコトだったかもしれない。
 最初はきっと、薫だって僕を誰かの代わりにしていたのかもしれない。
 でも彼女は、いつの頃からか100%僕を見つめてくれていた。
 そんな彼女の様に、僕も彼女を見つめてあげることが出来たのなら・・・。



 そんなふうにして僕と薫の物語は終わりを迎えた。
 それまで1番の理解者であり1番大切な存在だった人を、他人よりも遠い
存在にしてしまうのは哀しいコトだった。

 薫は僕と別れた理由(わけ)を気にするふうは全く無かったのだけれど、
僕は彼女を取り返しのつかないくらいに、深く深く傷付けてしまったのでは
ないか、と思うと胸が締め付けられるようでならなかった。

 

 今でも僕は、あの日、あの時のコトが心のその深くに焼きついている。
 それは、薫との想い出とか、後悔とか、そういう言葉とは違う。
 そう、それはまるで“澱”のように・・・。
 そしてそれは、心のずっと奥の方に、静に積もっていた・・・。

 いったい僕は、どれだけの“これから”を繰り返したら、それは癒える
のだろう?
 そう思うと、僕は悲しくてどうしようもなくなってしまう。
 きっと僕は永遠に繰り返す“これから”を積み重ねながらあの時の
哀しみの仕草など忘れていくのかもしれない。
 そして、少しずつ少しずつ、自分の心に素直になれなくなっていくの
かもしれない。
 もしかしたら・・・。

 

 あなたは嘘を映さない本当の鏡を知っていますか?
 あなたはもう、それを手に入れましたか?
 そしてそれは、どこで手に入りますか?


 あなたは自分の心に嘘をついたコトがありますか?
 そしてあなたは、自分の心に素直になれますか・・・?


              〜FIN〜



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この作品は『NS小説RING(現代系)』に参加しています。
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