’03春・高麗の郷
2003.04.22.UP
前年秋、彼岸花の咲く季節に訪れたとき、その牧歌的な雰囲気に惹かれた。春は菜の花が咲き乱れるとのことで、再び訪れてみることを思いついた。
個人的なことで恐縮だが、3月上旬に”ぎっくり腰”を患った。その後一旦は回復して新潟県の角田山に登るなどして、あとは花粉症が治まるのを待つばかりであったのだが、腰をかばっていたせいか周囲の筋肉が硬直し、神経を圧迫しているようで、これが腰痛となって再び苦しむようになった。明らかに運動不足の状態であったことも災いしたため、適度な負荷を与えてみるのも手だと思った。これによって、これからの山行の見通しがある程度判明するものと思った。巾着田の隣に聳える日和田山は、うってつけのリハビリ山行の場を提供してくれるものと思った。
西武秩父線・高麗の駅を出れば、春の陽射しが降り注いでいる。秋の人ごみと喧騒が嘘のようで、下りた人数は十数人いたかどうかであった。巾着田の方角に進んで、踏み切りと道路を渡る。
前夜の睡眠時間が短かったのと、腰痛のせいで、お世辞にも快調とは言えない状況だった。おまけに4月だというのに少々気が早いほどに蒸し暑くて、やる気が余り出てこない。日和田山はパスしてもいいやなどと考えていた。しかし、車道を進んで行くと、そんなやる気のなさを一変させる事態が発生した。何気なく目にした小さな看板には、こう書かれていた。
”チャイとインドカレーの店 むささび亭 この先200m”
!!!!!
僕はカレーが大好きで、都内などの有名店をいくつも知っている。仕事で外出するときなんかも、昼食には必ずといっていいほどカレーを食べるほどの人間である。
それで、この看板を目にした途端、目が醒める、などと生易しい言葉で表現できないほどに、まるで脳天が一気にスパークしてしまう感覚に襲われた。コンビニで買ったおにぎりが一瞬、頭をよぎったが、行動の選択基準が「最も後悔しないこと」である小生には結論が見えていた。
200mも歩かないうちに、右側にボンネットバスを改造したような妙な店があった。これがそのインドカレーの店であった。扉を開けると、スパイスの見事な香りが漂っていた。そして、しばらくたってから出されたカレーが素晴らしく美味しかった。近所にあったら間違いなく、毎日通う店となるに違いない。
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満足のうちに店を出る。行く手の巾着田はすぐそこだった。
高麗川の脇は彼岸花の群生地。そこには、彼岸花の葉が枯れかけて横たわっていた。これが彼岸花であると知る人は少ないだろう。証拠写真を撮ろうかとも思ったけど、撮るに値しない様相でありフィルムが勿体ないのでやめた。
彼岸花の群生地より内側には、菜の花畑が続いていた。時期的に過ぎているかとも思ったけど、まだ見事な咲きっぷりであった。こうして見ると、単なる黄色ではなく、どこかに気品を感じさせる、レモン色に近い感じであった。三脚を立てて写真を撮る。場所を変え、焦点距離を変え、アングルを変えて取りまくった。菜の花畑の奥に日和田山が、春の陽射しに輝いていた。
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菜の花畑を後にすると、今度はレンゲソウが咲く区画があった。濃いピンク色の花は、菜の花ほどに派手ではないものの、なかなか可愛らしい。菜の花とレンゲソウが両方とも見られるとは思っていなかったので、思わぬ収穫だ。ここでも、三脚を立てて写真を撮った。雲が出てきて、陽射しが遮られるようになった。
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さて、いよいよ巾着田を後にして、目指すは日和田山。聖天院方面に少し歩けば、登山口が現われる。緩く登っていけば鳥居が現われ、男坂と女坂の分岐に着く。男坂を選ぶ。植林帯の中、急登がはじまる。荷物が軽いので、腰に負担はかからない。やがて自然林となり、岩場が現われる。周囲にはヤマツツジやミツバツツジが花をつけている。両手を使ってグイグイ登っていくと、展望地に出た。眼下に巾着田が見渡せた。菜の花が咲いている区画が黄色く染まっていた。彼岸花が咲くときは、紅く染まるのかな。
なおも登っていくと、ほどなく女坂との合流点に着き、頂上はすぐ上にあった。疲れることなく着いてしまい、こんなものかといささか拍子抜け。腰の周りの筋肉はほぐれたせいか、腰痛はほとんど気にならない状態になっていた。ここで、コンビニで買ったおにぎりを食べた。
山頂には石造りの小さな塔が立っていて、「聖天院」と書かれていた。山頂からは東側が開けて、こんもりとした緑の山すその向こうに、田園地帯や日高の町を見下ろすことができた。しかし、雲も厚さを増しつつあり、遠くの景色は霞んでいた。物見山への縦走はあきらめて、高麗の駅に下ることにする。途中で南西の方角が開ける場所に立つと、シルエットの大岳山や御前山を望むことができた。分岐からは女坂を下っていく。家族連れが何組か登ってきた。
「こんにちは」
と挨拶を交わす。あっという間に鳥居について、少し下れば登山口。この山だけだと、山行というレベルではなく、散策に近い。風格のある里山といった雰囲気で、日高に住んでいるなら、朝飯前に登ってくることも可能だろう。そう考えたら、地元の人たちが羨ましいと心から思った。
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再び車道に下りて、高麗駅へと向かう。むささび亭の前を通ると、「営業中」となっていた。また入りたくなったけど、流石に腹は減っていない。1回限りではなんとも惜しいので、またいつか来よう。次は彼岸花の時季かな、もっと早い時期に来れたらいいな。そんなことを考えながら、曇り空の下を高麗の駅へと歩を進めるのであった。
おしまい。