競バカたちが集まって 2008『南の楽園編』
おバカどもの馬券奮戦記です!登場人物
500円のタク
この話の主人公。会社員。1レース500円、G1レースは1万円で勝負する天才馬券師。2005年は圧倒的勝利。2006年もディープインパクトをけり続けたがわずかなマイナス。座右の銘は『本命は切り』ハード&クール、そしてセクシーな43歳。マスター
「鉄馬」のマスター。500円のタクとは同級生。姓は北。愛称はけいちゃん。趣味は競馬と自動車競技ジムカーナ。ダイ
全レース万馬券狙いのような激しい馬券を買う男。カミさんのサイフから金をちょろまかして、いつもカミさんと戦っている。シェフの前田
鉄馬のシェフ。腕は抜群。悪い友達(タクやダイのことです)に感化されて、どんどんダメ人間になっていくマスターの代わりに鉄馬の屋台骨を支えている。イサム
タクとマスターの旧友。競バカのレギュラーになりたがっている。現在、毒猫に噛まれて病院で寝ています。(命に別状はないです。)
はらせぬ恨みを馬券ではらす。
人呼んで『仕置き屋』
ただしこの稼業、タウンページには載っていない。コントは今年の1月に戻る。
平日、午後8時の鉄馬。めずらしくタクが遅めに来た。(たまには残業するのだ。)
カウンターには先客がいた。年の頃なら20代前半、社会人になって2,3年くらいの男がいた。細面のいわゆる今風の青年だ。タクがちらっとみると青年の手元に『春風ホースクラブ』という会員制愛馬会のリーフレットがあった。(注1:このクラブはフィクションです。)タクが会員となっている『友駿ホースクラブ』と同じタイプの愛馬会だ。
マスターが、青年にカクテルを出す。「ありがとうございます。」礼儀正しい。タクは彼に好印象を持った。
そこに若い女性が来た。青年の横に座る。
女「『ムーンライトラヴ』今週出るんだ。」
男「うん。頑張ってほしいね。でも、勝てなくても、無事に走ってくれればいいよ。」
女「うん。」(注2:『ムーンライトラヴ』も、もちろんフィクションです。)
おっさんのタクは、若い2人に目を細めた。(「いい恋をしろよ。ただしエッチはほどほどにな。」)さびしいおやじのやきもちなのだ。(「うるさい。」)2月、タクは鉄馬で何度かこの2人を見た。もちろん声をかけたりはしない。カウンターの端で、若い恋を応援していた。
「馬を愛する2人、いいじゃねえか。」と紙パック焼酎の水道水割りを持ったタクの横にダイが来る。
タク「ダイ、お前、あの2人の邪魔すんなよ。」
ダイ「大丈夫だ。オレは、このあたりじゃあな、『何も足さない、何も引かない』と言われてるんだぜ。」
タク「何だよ、それ。」3月、タクは、1人の男を何度か見た。悲しい目をしていた。また別の日に1人ではしゃぐ女も見た。
ある日、いつものように開店直後に鉄馬に行くと、お客さんはまだいない。ダイしかいない。
タク「なあ北、ただの雑談なんだけど。あの『ムーンライトラヴ』の2人は、その…、うまくいかなかったのか?」
マスター(もし他に1人でもお客さんがいたら、よけいなことは絶対に言わないが)「女の子が、競馬場でな、どこかの馬主の息子にみそめられて、つきあいだしたらしい。細かい話はしらないけど、そういう事だ。」
タク「ふーん。」確かにその女は、服装も持ち物もずいぶん高価で派手になった。馬主の息子のプレゼントか。
それはそれで良くも悪くもない。誰が誰とできても、別れても、個人的な事柄で他人がどうこう言う話じゃない。
タク&ダイ(「そういう事も、よくあるわ。」)4月19日(土)、今日は『最も過酷な障害レースのG1中山グランドジャンプ 』観戦記念パーティーだ。
タクは午後1時、フィットネスクラブで汗を流して『今すぐビール状態』で鉄馬に来た。パーティーは正午から始まっているので、テーブル席は7割がた、お客さんがいる。
カウンターの端には例の女が1人でいた。タクは女と反対の端に座った。
女は、マスターに、明日の1レースに出走する『ドンペリオカワリ』という馬の事を語っていた。(注3:この馬もフィクションです。)
タクはハイネケンを飲みながらダービーニュースを広げて『中山グランドジャンプ』の検討を始めた。声だかな女の自慢話が、いやでも耳に入る。『ドンペリオカワリ』がどれだけ血統が良いか。どれだけ高かったか。デビューが遅れて、明日の未勝利戦が初出走だが、前評判は圧倒的だと。まるで自分の馬のような口ぶりが耳につく。
タク(「そんな話は聞きたかねーよ。」)
マスターは営業用の隙の無い笑顔で聞き入っている。
タク(「北も災難だなあ。」)
そこに『ムーンライトラブの男』が来た。入り口でカウンターの女を見つけて躊躇する。
女は、ちらりと男を確認して、自分には関係ないと無表情。
マスター、本当の笑顔で「いらっしゃい。」
タク「こんにちは。ここどうぞ。」と隣の席に誘う。
「兄ちゃん、一緒に飲もうや。」とダイ。ダイは紙パック焼酎の水道水を片手にお客さんのテーブルをまわっておこぼれをもらっていたのだ。
ダイとタクが男をはさんで座る。マスターは、本心はこっちに来たいのだが、営業なので女側についている。
タク「『ムーンライトラブ』の会員の方ですよね。」
男「はい。」
タク「ボクも別のクラブですが会員になっているんですよ。『コリントシチー』(注4:この馬は実在。ダートの短距離で堅実に頑張るかわいい奴)っていうんですが。」
男「確か、ダートの短距離で勝ち負けしていますよね。」
タク、いきなり目がデレ「知ってるんですか、うれしいなあ。」
ダイ「兄ちゃん、そっちの馬はどうなんだい。」
男「1勝はしたんですが、その後が大負けばかりで、今、障害レースの訓練しているんですよ。」
ダイ「そうかい。ケガしなきゃいいな。」
男「はい、『中山グランドジャンプ』なんていいません。ケガしないで、えさ代の分だけ稼げて、しぶとく長生きしてくれればいいなあと。」
タク「そうだよね。」「ふん。」
女の一言。嘲笑、あざけり、他者を見下げる残酷な一言。
男は悲しさと怒りをぐっと噛み締めて、うつむいた。
店中が、凍りついた様に静まった。競馬は確かに残酷な淘汰のゲーム。だけど本当に競馬が好きならありえない一言だ。
そして何より、他人が大切にしているものを土足で踏みにじっていいはずがない。
静かな静かな怒りが海のように店に満ちた。タクも怒ってはいたが、それよりずっとずっと悲しくなった。(「人は、こんなに短時間で、こんなに変わってしまうのか…」)
そして、大きな熱い怒りを感じた。北だ。(「まずい!」)思い起こせば、学生時代に『(するどすぎて)カッターナイフのような男』と言われていた男だ。海のようにおおらかなミエちゃんと結婚してから、ずいぶん丸くなったが、性格の本質は変わらない。北がお客とケンカすると営業的にもかなり問題がある。
なんて事まで、瞬時に考えて(「しかたがない。北の変わりに説教するか。」)と立ち上がろうとした時。
マスターが、そっと片手でタクを止めた。
タク「?」
マスター(「大丈夫。オレにまかせろ。」)とウインク。そしてダイに目で合図。
ダイ「ちょっとトイレ行ってくるぜ。」
マスター(バカ女に)「お客様、今日はG1記念に『セレブのお客様限定』でスペシャル・カクテルをお出ししてるんですが、いかがでしょうか?」
女「そうなの、お願いね。」
マスター、手際よくカクテルを作る。「どうぞ。」
女、カクテルを飲んで「おいしい。このカクテルは、なんて言うの?」
マスター、にやっと笑って「これの名前は、『オールヌード』」
「よう、姉ちゃん!」
「きゃあああああああ!!!」
いきなり、ダイが全裸仁王立ち。
ここよりBGM:『必殺仕置人』の戦闘のテーマ
「ダイさん!」シェフの前田が、ダイに焼き芋をなげる。
ダイ、片手でバシっとうけとり「おうよ。」
騒ぐ女を壁に追い詰め、焼き芋を二つ折りでガブガブ喰う。「うわらああああ。」
ここのイメージ:『必殺仕置人』の『棺桶の錠』が手槍をキリキリまわしながら敵を威嚇するイメージです。
女「いやあああああ!!!!」
ダイ、くるっと背を向けて尻をぴたっと女におしつけた。
バス!特大屁の直撃弾。
女「ぎゃあああああああ!!!!」
店から飛び出て逃げた。お客さん全員で、店中の窓を開けて空気を入れ換える。食事中だったし、臭かったし、思いっきりセクハラだったが、みんなの顔は、『これでよし。』と言っている。
マスター「バカ女には、仕置き。」
前田「仕掛けて仕損じなし。」
ダイ「ファイヤー!」今日、中山グランドジャンプで儲かっても、儲からなくても、この3バカには、一杯おごってやろう、と思うタクであった。
<予想コーナー>タク「中山グランドジャンプは、メルシーエイタイムの単!」
結果:2着 はずれ