「競バカたちが集まって 2003」おバカどもの馬券奮戦記です!
登場人物
500円のタク
この話の主人公。1レース500円玉1個で勝負するせこいサラリーマン。G1レースだけは1万円買う。マスター
「鉄馬」のマスター。500円のタクとは同級生。ダイ
全レース万馬券狙いのような激しい馬券を買う男。カミさんのサイフから金をちょろまかして、いつもカミさんと戦っている。(ほぼ全敗)「男の悲しみ」を表現するためヘア・ヌード写真集「競馬場から、愛」を出版。全裸正面仁王立ちのどこが男の哀愁なのか周りの人たちはさっぱり分からない。
この話は、やっぱバカその7の続きです。ご覧でない方は先にご覧下さい。
5月17日(土)、開店直後の鉄馬。カウンターには競馬新聞をにらむタク。
タク「京王杯スプリングカップは、テイエムサンデーの単。」
マスター「ダンツフレームは(格上なんだから)新潟で走ってる場合じゃないだろ。」
そこにダイがやってきた。
ダイ「いいか、これからオレはダイ、じゃない…大山だ。ここに杉崎はいないからな。」
タク「何?」
マスター「どうしたんだよ。」
ダイ「頼む。オレの言うとおりにしてくれ。」と手をあわせる。
タク「???」
そこにお客がやってきた。20代前半の青年だ。髪を肩までのばした、スリムな少女のような美青年だ。
男、ちょっとはにかんだような笑顔で「あの…、こちらに杉崎さんいますか?」
マスターが何か言おうとする前に、ダイ「杉崎は急に用事が出来たって帰ったよ。オレは奴の友達で大山っていうんだけど。」
男「そうですか、手紙を送っておいたんですけど…」と目をふせる。
タク「おい、ダイ。何を訳の分かんないこと…」
ダイ「きっと奴は、あんたに会わせる顔がないから、帰っちまったんじゃないかな。」
男「そんな、何も気にすることなんてないのに。」
マスター「ダイ、この人は?」
男「ボク、吉田って言います。」
ダイ「この人はな、次代の羊のゴールドクラスを襲名するファイターだよ。」
タク「まだビデオファイターの話やるのかよ。」
マスター、ため息。
吉田「ボクの事知ってるんですか?」
ダイ「オレもファイターじゃないけどアダルトビデオマニアだよ。あんたの活躍はこの「月刊ビデオファイト」でよく読んでいるよ。」と雑誌を出す。
こけるタクとマスター。
マスター「何なんだよ、その「月刊ビデオファイト」って?」
タク「そんな本があるのかー。」
吉田、ちょっとテレながら「そうなんです。ボク、今度羊のファイターを襲名することになったんです。」
ダイ「素晴らしいじゃないか。厳しい修行に励んだキミの努力の結果だよ。おめでとう。」
吉田「ボクが頑張って来れたのは、杉崎さんのおかげなんです。」
ダイ「何だって?」
吉田「ボクはずっと先代の羊のファイターについて修行してきたんですけど、先生はお酒を飲むと、いつも杉崎さんの話をするんですよ。」
ダイ「師匠が、オレ…じゃない杉崎の話を?」
吉田「杉崎は、心技体そろった素晴らしいファイターだったと。常に高潔な性欲に満ち溢れていたと。そして…、彼を心から後継の羊のファイターにしたかったと。」
ダイ「師匠が、そんな事を。」上を向いて目を閉じる。
マスター「「高潔な性欲」って…」
タク「「高潔」という言葉も「性欲」につけられるとは思わなかっただろうな。」
吉田「しかし、杉崎さんは修行中の事故で仲間をかばって左手を負傷して、ファイターの道をあきらめなければいけなかったんです。」
ダイ、左手首の傷跡をそっと右手で隠す。
タク「おい、お前左手首に傷なんてなかっただろー。」
マスター「ご都合主義にも程があるぞー。」
ダイ「しかし、もっとつらかったのは助けられたアイツの方だったはずだ。だがアイツはオレ…じゃない杉崎の思いまで背負って、みごと龍のファイターになったんだから本当に立派だよ。あんな事(武闘派ゴールドクラスの乱)さえなければ、もっと活躍出来たろうに。」
吉田、微笑んで「優しいんですね。」
ダイ「よせやい。恥ずかしいのはきっと杉崎の方だよ、一度はファイターの夢をあきらめながら、未練を捨てきれずに裏のファイターになっちまった。師匠には恩を仇で返してしまったんだからな。」
吉田「そんな事ないですよ。先生は裏王になった杉崎さんの戦いの記録も全て見ていました。「彼の出すビデオは、いつも正義と勇気の光に満ちている。」って。」
ダイ「ううっ。」目が涙でうるむ。
タク「正義と勇気の光に満ちた裏ビデオって何なんだよー。」
マスター「訳分からないよー。」
吉田「だからボクは、ずっと、見たことのない杉崎さんの背中を追いかけて修行してきたんです。ゴールドクラスになるためには先輩を乗り越えなきゃいけないって。」
ダイ「その言葉を聞いたら杉崎もきっと喜ぶよ。あんたはきっといいゴールドクラスになるだろう。オレも草葉の陰からあんたの活躍を見ているよ。」
マスター「「草葉の陰」は違うだろー。」
タク「まあ、言わんとすることは分からんでもないが。」
吉田、一礼して「じゃあ…、ボク帰ります。」
ダイ「そうか、杉崎にはあんたのことはちゃんと言っておくよ。」
吉田、入り口で振り返って微笑んだ。「会えて本当によかったです。先輩。」涼風のような笑顔を残して若者は去って行った。
ダイ、目からぶわっと涙があふれる「分かっていたのか?」
タク「あたり前だろー。」
マスター「ばればれだろー。」
ダイ「裏になっちまったオレは、昔の事はすべてなかった事と思うようにしてきた。でもオレが師匠のもとで過ごした青春の日々が、あの若者の成長のために、ほんの…ほんの少しでも助けになったのなら、オレの青春は無駄ではなかった。」号泣。
タク「無駄なんじゃないかなー。」
マスター「みんなでよってたかって人生を無駄にしてるんじゃないのかー。」さて、京王杯は?