「競バカたちが集まって 2003」おバカどもの馬券奮戦記です!
登場人物
500円のタク
この話の主人公。1レース500円玉1個で勝負するせこいサラリーマン。G1レースだけは1万円買う。マスター
「鉄馬」のマスター。500円のタクとは同級生。ダイ
全レース万馬券狙いのような激しい馬券を買う男。カミさんのサイフから金をちょろまかして、いつもカミさんと戦っている。(ほぼ全敗)「男の悲しみ」を表現するためヘア・ヌード写真集「競馬場から、愛」を出版。全裸正面仁王立ちのどこが男の哀愁なのか周りの人たちはさっぱり分からない。
競バカの製作現場。
放送室でヘッドマイクをつけてモニターの前に座るタクとマスター。
今回は、舞台がほとんどが鉄馬の外で、ダイばっかり出て来るので、タクとマスターは実況中継につっこみを入れることになっています。
マスター「かっこいいじゃん。」
タク「声優さんみたいだね。」ここから本編です。
このお話は、ビデオファイターシリーズもっとバカ17「先輩」の続編です。お読みでない方は、こちらを先にお読みください。
5月24日(土)、午後2時。スーツ姿でイトーヨーカドーの前を歩くダイ。行く先はF沢市民会館の小会議室だ。F沢市民会館につく。入り口の前には今日の催し物が貼り出されている。「小会議室:ビデオファイター協会 選考委員会」と書かれている。(「何なんだよ、それ。」)
入り口には男が2人立っている。ダイが入り口から入ろうとすると、1人が前をさえぎった。
男1「何だお前は?ここはビデ協(ビデオファイター協会のこと。表ビデオファイターは全員ここに所属している。)の選考委員会だぞ。」
ダイ「私は杉崎と申します。委員会のみなさんにぜひお願いしたい事があって参りました。」
男1「ふざけるな!部外者が勝手に入れる訳が…」もう1人の男が肩を押さえる。「いいんだ。どうぞ、お入りください。」
ダイの後姿を見送る2人。
男1「あいつは何者なんですか?」
男2「先代の裏王だ。」
男1、驚いて「裏王…」小会議室では、「2002年度の年度代表ファイター」の選考委員会が行われていた。(「年度代表ファイターって、何なんだよー。」)選考委員会は表ビデオファイターの現役ゴールドクラスとOBから選出された委員によって構成されている。毎年は熱気のある討議が行われているのだが、今年は重苦しい雰囲気に満ちていた。毎年、年度代表ファイターはゴールドクラスの中から選出されるのだが、今年度(2002年4月から3月まで)は、12人のゴールドクラスが仲間割れで6人が倒され、残りの6人もダイ達裏ビデオファイターに倒されて引退してしまったのだ。前例のない異常な状況で、委員会は年度代表を選出しなければならないのだ。(「そんなもん無理してまで選出するなー。」)
委員長「では、2002年度の年度代表ファイターは、シルバークラスヤングチャンピオンシリーズを制した吉田君といたします。」
目を伏せる吉田。(吉田は現在羊のゴールドクラスで、選考委員なのだ。)シルバークラスのファイターが年度代表になるという異例の事態に複雑な心境だ。
その時ガチャとドアが開いてダイが入ってきた。
委員長、ダイを見て「杉崎…」(委員長はダイが表のファイターだった頃の先輩なのだ。)
吉田「先輩。」
ダイ「お久しぶりです。突然の失礼はお詫びします。今日は大切なお願いがあって参りました。」
委員長「お前もここがどういう場所かは分かっているはず。それでも、ここに来るというほどの願いとは何だ。」
ダイ「2002年度の年度代表を裏将軍にしていただきたい。」
選考委員一同、絶句。
沈黙の後、委員長「前例のない事だが、この提案は議論する価値があると思うが。」
委員1「そうですね。」
反論はなく議論は再開された。ビデオファイター協会は公式には裏ビデオファイターの存在を認めていない。その協会が年度代表に裏ビデオファイターを選出するなど考えられない事だ。だが今回は異常な状況なので、ダイの提案も一理はある。委員達はみなゴールドクラスの経験者なのだ。物事の本質を見抜く力と人間性への理解がなければゴールドクラスとなる資格がないのだ。
(「おい、ナレーター。」)
何ですか?
(「何だよこの心のこもったナレーションは?お前ダイから何かもらったろ?」)
その件については、お答えできません。
(「絶対何かもらっているよ。」)
話を続けます。
ダイ「あの武闘派ゴールドクラス5人とオレたち5人の戦いのとき、オレ、裏王、裏家老、影太郎の4人はゴールドクラス3人とこう着状態になってしまった。そして裏将軍はネズミと馬のファイターと2対1で戦わなければならなかった。おそらくこれは彼らの作戦だったのでしょう。4対3でこう着状態にもちこんでいるスキに、最強の裏将軍を2人で確実に倒そうとしたのです。」(「おい…」)
委員2「汚い。これがゴールドクラスのやる事か。」(「よしなさいって…」)
ダイ「だが裏将軍は一歩もひるまず。彼の秘蔵の最強ビデオ3連打で2人を一撃で倒しました。」
委員3「つ…強い。」(もう、このへんからタクもマスターも、つっこむ気力をなくしてます。)
委員4「しかし、最強ビデオを3本使ったという事は…」
ダイ「今の彼の力は、並みのファイター以下。(注:ビデオファイトは、1回出したビデオはもう1回出すことが出来ない。)彼はもうすぐ引退します。彼はビデオファイター界の安定のためにファイターとしてのすべてを投げ出したのです。」
一同絶句。
長い沈黙の後、委員長「自分の立場を別にして言わせてもらえるなら、1人のビデオファイターとして、彼に心から感謝する。しかし、協会の幹部として、やはり彼を年度代表にすることは出来ない。」
ダイ、「…。」
委員長「年度代表は吉田、特別賞、裏将軍ということで納得してもらえないか。」
ダイ、いきなり土下座する「どうか!」
吉田「いいじゃないですか、裏将軍が年度代表で。ボクだってこんな形で年度代表になりたくなんかない。」
委員長「無理だ。」
吉田、泣きながら「裏将軍は…、彼だけじゃない。先輩も、他の3人も、ボクたちのために命がけで戦ってくれたんですよ!」
委員長「無理なんだ!」涙がひとしずく落ちる。「年度代表、該当者なし。特別賞、裏将軍。これがぎりぎりだ、分かってくれ。」
ダイ、立ち上がって「その涙、値千金とみました。失礼しました。」出て行く。
F沢市民会館を背にあるくダイ。
「先輩!」追いかけてきた吉田。振り返るダイ。
吉田、小さな子供のようにポロポロと涙をこぼして「ファイターになった頃、ボクはただ夢と性欲を追いかけていた。それなのに今は協会の体面とか、秩序とか、そんなものに縛られて…、もうボクはこんな…」
ダイ、吉田の言葉を手で制して、「だめだ。そこから先は言ってはいけない。」
吉田「でも…」
ダイ「キミは今、ファイター界の頂点に立つゴールドクラスなんだ。かつてのキミのようにファイターをめざすたくさんの若者達がキミにあこがれているんだ。うかつなことは言ってはいけないよ。」
吉田「…。」
ダイ、微笑んで、「元気でな。」歩き出す。
立ち尽くす吉田。
2人を遠くから見る選考委員たち。
委員長「裏将軍、杉崎、それぞれが名に恥じぬゴールドクラスになったろうに。天はなぜ彼らをを野に置いたのだろう。」(注:例「野にいる」「野に下る」など、表ビデオファイターの隠語で「野」は「裏ビデオファイター」の事を言う。)
委員1「…。」午後5時15分。開店直後の鉄馬。ここから舞台は鉄馬です。カウンターにはタク。ちょっと離れてダイ、裏家老、影太郎。
タク「やっと出番だよ。」
マスター「長かったねー。」
ダイたちは聞いちゃいない。
ダイ「すまない、本当にすまない。」
裏家老「いいんですよ。」
影太郎「どうか、気にしないで下さい。」
ダイ「しかし、あれ程の男なのに。「特別賞」と言ったって、月日がたてば残るのは「2002年度、年度代表者なし」という事だけなんだ。」
裏家老「タケシバオーという競争馬がいます。」
思いっきりずっこけるタクとマスター。同時に厨房で「ゴツン」と音がした。
マスター「ここまで延々ひっぱって、タケシバオーを出すか。」
タク「今の音は何?」
マスター「いつもバカは聞きなれているシェフの前田も、さすがにコケて壁に頭ぶつけたらしい。」
タケシバオー
1965年生まれ、1992没。29戦16勝 父:チャイナロック、母:タカナツミ
主な勝鞍:天皇賞(春)京都芝3200m、朝日杯3歳ステークス芝1600m、ワシントン英国フェア開催記念(スプリンターズS) 芝 1200m
皐月賞、ダービー2着。クラシックの秋には菊花賞には出ずアメリカのDCインターナショナルに挑戦した。(8頭中7着。)
3200mの芝から1200mのダートまで活躍したオールマイティの名馬。東京1700mのダートのレコードは今でも破られていない。「怪物」のニックネームでファンに愛された名馬。
裏家老「強くて、ファンに愛された馬でした。彼は1969年の年度代表馬となりましたが、殿堂入りはしていません。」
注:「殿堂入り」とは顕彰馬となること。JRAは中央競馬の発展に多大な貢献のあった過去の名馬の功績をたたえ、顕彰して、後世に伝えていくことにしている。
ダイ「ああ、立派な馬だ。オレは殿堂入りにするべきだと思うぜ。」
裏家老「殿堂入りしていなくても、タケシバオーは今でも競馬ファンの心の殿堂の中に生き続けているんですよ。」
影太郎「裏将軍もファンの記憶の中で輝き続ける、それでいいじゃありませんか。」
ダイ「記録ではなく、記憶の中に残るか。」
裏家老「ええ。」
ダイ「タケシバオーよ、天国で裏将軍の無念を見て、何を思う。」と深いため息をついた。
ビデオファイター達のひとつの時代が終わろうとしていた。
(完)
「ちょっと待て。」タク&マスター。
タク「まったく黙って聞いてりゃ、えんえんと訳の分からんドラマやりやがって。」
マスター「競馬の予想してないのに勝手に終わるなー。」
タク「オークスはアドマイヤグルーヴの単!」
マスター「これ、思いっきりはずれてます。」
タク「うるさい、黙れ。」やれやれ。