学芸員のよもやま日記

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11月。止まるところを知らぬよ。

市立小樽文学館学芸員・玉川薫
直接メールくださるときは、こちらまで。もっとも文学館あてのメールも私が読んでおりますが。


11月23日(土)
●ボランティアしてみ隊、本日発足。いきなり8人登録(笑)。本格始動は12月に入ってからね。しばらくはトミタ隊長にお任せだな。

スピリッツ・オブ レトロスペース坂会館展、展示作業開始だ。うーむ、どうやってもあの毒気には、ほど遠いなー。それなりにおもしろいけれどね。もっともウチなどが、足もとに及ぶようだったら、本家の存在意義なくなりますが。ともかくも、わけがわからないほどにいや増すモノそのものの魅惑。これが博物館の原点ですよ、ってことさえ伝わればね、ウチの意図は果たせます。

いろんな人からメールいただいて、何よりもの励み。さすがに驚いたさっきのメールの人。福井の老人ホームにいる、85歳のお袋からだ。日記、見てますよ、って。うーん。まいったな……。

11月19日(火)
●「レトロ・スペース坂会館」から展示品の搬入。例によってトミタさん同行です。教育委員会の車満載になってしまいました。作業が終わるころには暗くなってましたから良かったようなものの、革の下着身に纏った胴体だけのマネキンさんとか、妙な帽子かむったアタマだけのマネキンさんとか、怪しげな実験道具みたい大量のガラス管とか満載して走っている車、こりゃ職務尋問必至だなー。

この革の下着ですけどね。坂会館のスピリッツと称するからには絶対はずせないでしょ。懐かし、妖し、ほの暗し(だったっけ)がコンセプトのミュージアムなんだから。
とにかく大胆、奇抜なデザイン。どんなぶっ飛んだアーチストが手がけられたのかしら。興味津々でしょ。

坂館長「タマガワさん、ほどけないように包んでくださいよ。脱げたら着せられる人いませんから。この結び方、フツウの女性にできると思います?」ムリだろなー。「これができるのはウチのスタッフの○○だけなの。彼女以外にはぜったいムリなの」え?坂さんのスタッフだったんですか。すごい才能のヒトがいるんですねー、奥深いなー。
坂館長「ノモトさん(坂会館唯一の「正職員」。アズキ缶コレクションの人)、○○さん呼んできてよ、もう一体着付けたいからさ」。どんな方だろー、興味津々だな。

ビスケット工場のほうから、白い作業着きた小柄なオバサンが、ボディーもって小走りに会館のほうに。オバサン、ご苦労さんです。お仕事中、館長さんの妙ないいつけ入ってご迷惑さまですねー。そこに置いて、それからくだんのアーチストの登場だな。あれ、オバサン下着脱がし始めちゃったよ。だいじょうぶかしら。一般人が手つけていいのかしら。
あれれ、オバサン、新しい下着着せ始めた……。って、まさか、ウソ……。このオバサン?!
ノモトさん「すごいんですよ、彼女」。……ウソ。「どっから思いつくのか、こんな突拍子もないデザイン。裁断、縫製も完璧ですよね」。あ、ぜん。

坂館長「タマガワさん、ヒトは見かけによらない、って、ほんとにそう思ってるでしょ、ウフフ」。うーん、いや、た、たしかにそういう経験繰り返してきましたけどね。けどなー。こりゃ驚いた。だって、何で工場の作業着きておられるんです?
「彼女はビスケット工場の工員ですよ。むかし、こういうもの頼まれて作ってたことあったらしいけど。そんな経験とか才能あったなんて最近知ったことです」

うーん。私ね、この「レトロ・スペース坂会館」でいちばん驚いたこと。展示とかコレクションじゃないの。ヒトなの。何で集まる、こういう人たち。ってか、普通に坂館長の周辺にいる人たちが、フワッと浮き上がってくるのね。レトロ・スペース坂会館の空間にこれ以上ないほど嵌り込んだ「ニンゲン」としてさ。
前に来たときも気になってたんだ。入口のところに古本屋さんとか劇団とかコンサートのチラシとかあるのは分かるよ。でも、これ何かしら。マッサージ師さんの名刺。
坂館長「その方、フリーのマッサージ師さんでね。電話くだされば、いつでも出向きますって。目がご不自由ですけどね」。何で、マッサージ師さんが?「私にも分かりません。どうしてこの会館をお知りになったのか、なんでここに名刺を置いてくれっておっしゃるのか」。うーむ、わからないけど、解る気が、少しします。

ねッ、深いでしょ。ザ・スピリッツ・オブ「レトロ・スペース坂会館展」。

話かわりますが、「お茶して」で、もりやゆきこさんのご提案、おもしろいと思いません?だってさ、ワタシもそれなりにあちこちのミュージアム拝見しましたが、圧倒的におもしろいのは個人経営のミュージアムだ。館主の個性マルダシでさ。で、その極みが「坂会館」でしょ。
だったら、図書館でもそんなのあってもいいよね。文部省ご推薦図書じゃなくって、館主が強引にオススメしちゃう本ばっかり。ま、全館それじゃ窒息するか。なら、文学館の旧ゲタ箱の例の本箱、あのひとマス分。幅40センチ、高さ45センチ、奥行き45センチ。上手に詰めれば5、60冊は楽に入るよ。団地みたいな○○さん文庫の集合ね。文学館自体のパロディーみたいでもあるな。これ、ぜったいやってみようよ。

博覧会展、どうなってんだ、って。それ聞かないで……。

11月14日(木)
●宮沢賢治と遠野物語の原郷を尋ねて、ってちょっとスゴい名前の文学散歩でした。いかがでしたか。小樽文學舎の文学散歩は豪華なんですよ、って繰り返してきた意味がじょじょに分かってきますでしょ、などと私が終盤で申しあげましたが、ウソじゃございません。参加された全員が納得されたことと思います。ひとえに御案内人、大矢邦宣先生と吉田美和子先生お二人の賜物。今回の文学散歩は5年前の「宮澤賢治 一通の復命書」展の準備のためにワタシがそれこそ原郷を尋ねた旅のリピートだったのね。その旅でワタシを導いてくださった最高のガイドがこのお二人だったわけです。
ねっ、生半可な学識なんて問題にならないでしょ。全人格。全人格をもって賢治や遠野物語の故郷を案内してくださるということ。魅了されるよね、その人、その人の歩くその土地にさ。
お二人の魅力のせいで、今回の賢治は穏やかでしたねー。初対面でワタシが心の中で「賢治、現前せり!」って小さく叫んだぐらいイキウツシの林風舎オーナーの宮澤和樹さんの満面の笑みに迎えられましたからね。皆さんお土産買いまくってくださったから笑みも零れるか。初対面のときは厳しい顔されてたからなー。ま、和樹さんはともかくね、賢治は厳しい。ときに全身凍りつくほどにね。

黒雲峡を亂れ飛び
  技師ら亜炭の火に寄りぬ
  げにもひとびと崇むるは
  青き Gossan 銅の脈
  わが索むるはまことのことば
  雨の中なる真言なり

こういう賢治を胸の中に畳んでさ、なお賢治は魅力的だ。確かに「癒し」の文学かも知らんが、ほんとの「癒し」ってヌルくはないぜ。北極星に向かって歯を食いしばりながら真っ直ぐに立つ詩人であるところの賢治や一穂を脳裏に描くことだよ。

「苦渋のあとを残さないつきぬけたその晴朗さは、涼やかな透明感をもって私たちに『永遠』のありかを示唆する。

未知から白鳥は来る。
日月や星が波くゞる真珠海市。
何処へ、我れてふ自明の眩暈……

代表作『白鳥』を頂点とする厳しい風貌の作品群は、いままで難解として少数の熱烈な読者をもつのみであった。しかし、時間に腐蝕されないその硬質の抒情性は、磨かれた瑞々しさで、現代の混迷に疲れた私達の感性に、深い癒しとなるものである」(吉田美和子「水晶の思索」小樽文学館吉田一穂展リーフレット)

一気に寒くなる11月はダウンする季節だけどさ、テンション高めるよ。攻めてゆく。守りに入ると萎縮する。ウチの戦術はただ一つ。「共有」あるのみ。誰も自らの一部になったものを潰すことはできんだろー。