よもやま日記

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文責/市立小樽文学館・玉川薫
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■8月29日
何やかや慌ただしく過ごしているうちに、小樽の「一瞬の夏」は移ろい、風立ちぬ。

ひなかはまだ暑さを感じるものの、夕暮れは腕にあたる風が冷たい。晩夏から秋にかけ、人はどうして感傷的になる。

心なき身にもあはれは知られけり、鴫立つ沢の秋の夕暮れ by 西行、って、まったく記憶だけで書いていますが、さすがに古典は遠すぎる。

それじゃ啄木。

アカシヤの並木にポプラに秋の風 吹くが哀しと日記(にき)に残れり

これもまったく記憶で書いてる。なみきとかって、確かパソコンでも出てこない難しい字を使っていると思いますが。でもさすが啄木。街の秋の悲しさ、いちばんありふれ、けれどもこれ以上はない風景を、いきなり詠んでしまいました。たった二週間の滞在だったのにね。
サッポロという街、私は好きではありませんが、この歌のイメージはサッポロ以外の何処でもあり得ないし、そのイメージにおいてのみ、この街は澄み切って哀しく美しい。

行ったり来たりで、また「風立ちぬ」。堀辰雄でも無論ヴァレリーでもなくて松田聖子(爆)。
私事にわたって恐縮ですが、先日ひさかたぶりに郷里の墓参り。これから帰ることもいっそう少なくなるよな、などと思いつつ、舞鶴発小樽行きのフェリー船上で、どこまでも深みをましていく夕焼け空をながめ、雑多な曲を放り込んでいるiPodをシャッフルで聴く。

性格は明るいはずよ
すみれ・ひまわり・フリージア
心配はしないでほしい
別れはひとつの旅立ちだから
さよなら、さよなら
さよなら

草の葉にくちづけて
忘れたい忘れないあなたの笑顔
思い出に眼を伏せて
夏から秋への不思議な旅です

風立ちぬ今は秋
帰りたい帰れないあなたの胸に
風立ちぬ今は秋
今日から私は心の旅人

不意を突かれたみたいに、ボロボロ泣いてしまいました。

■8月15日
館内の気温、午後4時現在、ちょうど35度。猛暑文学館です。そういうタイトルの企画展できないだろうか。

きのうは日和ってカブで帰ったのですが、きょうこそ歩いて帰って、汗だくになろうと思っております。そして水風呂に飛び込んで、きょうは何を読みましょうか。

家を作るときに、家人に頼み込み、ガレージの隅っこに私のスペースを作ってもらいました。これは案外快適で、夏も涼しい。冬はストーブ30分も焚けば十分に暖かくなる(そのまま寝ると死ぬ)。またこれは想定外だったのだけど、音が外に漏れない。ワーグナーとかマタイ受難曲とかボリューム上げて聴いてみたい、という長年の夢も叶えようと思えばかなえられる(何だか、そんな気も薄らいだのではありますが)。読書に没頭しようと思えば、悪い環境ではない。けれども、どういうわけか巨大なごみ箱に化しております。
環境が整えば、勉強したり読書したりするものではないのだね、ニンゲン(注・私レベルの)。

不思議なことに、テレビつけっぱなし、雑談とびかう居間のソファのスミで本を読んだりしてる。もちろん風呂(夏なら水風呂、冬ならぬるま湯)がいっそうよろしい。トイレももちろんよろしい、が、家人からドアを蹴られる不安もある。

これをあらためて考察してみるに、全面隔離じゃなくて、「半隔離」の状態が勉強ならびに読書にもっとも向いているのジャマイカ。こどもの勉強環境の研究で、そんな調査結果もあったような気がす。

そこで、私はだいぶ前から「超ミニ書斎」というものが作れはしまいか、と思っておりました。自分のためじゃなくてね。私と似たり寄ったりの思いをしている世のお父様(だけじゃなくお母様、おばあさま、おじいさま、お子様)のための、半隔離読書空間。しかもモバイル可。

というムリヤリな注文を、ウグイス家具店の佐藤君にしたのが、半年以上前だったか。
「わかります。つまりトイレで本読むのに似た場所を、持って歩けるようにしたいんでしょ」。さすが天才。なぜ私のやりたいことがすぐわかる?

そして今日。「できましたよ。9月には試作品持ってきます」だって。やったね、小樽文學舎オリジナルミニ書斎。モバイル可。いったい、どんなんだ?乞うご期待!

■8月14日
いっそ35度超に、などと書いたムクイで、ほんとにそんな勢いに。

文学館の展示室内、午後2時44分現在でちょうど34度。ずうっとじんわり汗状態だから、もちこたえているのかも知れません。
この状態は、つねに愛想よくふるまっている状態に似てますね。

こんなときはおとなしくリトルカブで帰ればよいものを、あえて歩く。まだ熱気のこもる急な坂道を、委細構わず歩く。

爪先から頭のてっぺんまで汗が吹き出す。汗がしたたり落ちようが、かまわず大股で歩く。家に着いたら風呂に飛び込むだけだから。もう何でもかまわない。顔つきが険しくなっているから、すれちがう人は目を合わさないようにしております。

家にはいって、シャワーを浴びて、水風呂に飛び込んで、桐野夏生の『グロテスク(下)』を一気に読む。
「あなたの顔、悪意が迸ってるわね」。
ああ、何という快感。
「信用できない語り手」(by 斎藤美奈子)であるところの「私」の悪意は、けれども作者の感性にほかならず、それは私の感性にあまりにぴったりなので、釈放直後のミツルと「私」の会話の場面など、水風呂につかりながら、声たてて笑ってしまいました。

■8月7日
曇り空で、蒸し暑くて鬱陶しい日。今週はこんな日が一週間続くそうです。暑いなら暑いでね。いっそ燃える太陽、35度超えてほしい(ウソです)。

大滝てる子さんは、一日文学館に置いておかれたお着物、ご衣装を荷造りに寄られ、お昼に小樽を発たれました。きのうは水族館にいらしたのですね。

「とっても楽しかった。これご覧くださる?」。デジカメの画面を見せてくださる。動画ですね。
ドッパーン、バッシャーン!おたる水族館のお家芸、トドのダイビングですね。「800キロもあるのよ。すごいでしょう!」。小樽の一日、水族館を選ばれるとは、お目が高い。

「ホテルに帰ってね。お風呂が小さいでしょう。スパ・リゾートみたいなのもあるって伺ったけど、そんなのじゃなくて近いところに銭湯がないですか、って」。ああ、「滝の湯」。小樽の夜は銭湯へ、とは、さすがにお目が高い。

「皆さんで写真を撮りましょう」と事務所にわずかに残っていたスタッフ集め、パチリ。「逆光になったわね。ちょっと待ってね」。ストロボモードになさるのにやや手間取り、もう一度。こんどは発光。「……私のハバの広いのは、ストロボでも直らないわね」。

どこまでも明るくて大らかな大滝てる子さん、スタッフの心もしっかりつかんでお帰りになりました。

■8月6日
日記の書きようで、「コンサート、ダイジョブだったのか」と心配してくださった方もおられたようなので、ご報告。

ダイ・セー・コーでした。入場者137人。文学館コンサートの実績5〜30人だから、ほとんどありえない数。おそらく客層も。

経費と収益、ひょっとしてプラスかな。大滝さんも全部自分でご用意してくださって、とってもがんばってくれたから、このくらいのお礼は、と。それでもまだちょっとプラス?そうだ、チラシの印刷費と、えっと、あれとか、これとか。……。やっぱりマイナスか。

とはいえ、限りなくトントンに近いマイナス。トントンということは、むろん大きな大きなプラスであったということです。波及効果を考えればね。
すなわち客層。「文学館」に立ち寄るなんて思いつきもしない人たち。このコンサートも企画展もウチとしてはまことに穏やか。まったく自然。それでも「小樽文学館」って、こんな場所だったんか、ってちらっと思った方が30人はおいでだったでしょう。それが最大のプラス。
お父さんが、松原操さんの父上と親友同士だった、という80歳をだいぶ超えられたご婦人が大滝さんを訪ねてみえられ、交わされたお手紙などをお見せになり大滝さんも大感激。こんな出会いが、内攻していくプラス。

不安要因であった音響+映像スタッフですが、映像(DVDとパソコン画像)をオオスダさんに一任できたので、私はMD操作に専念。ノーミス。カンペキね。照明は……、とちゅうフロアコンセントの電源を落とし私が走る、というアクシデントが2度ほどありましたが、事なきを得ました。

ホントは、やっぱりドシロートだけではムリがある。それは認めなければならない。ハウリングを防ぐための適切なスピーカーの位置とかアンプのボリュームとかさえ分からなくて、内心おろおろしていた開演2時間前。ほとんど偶然あらわれた橋本洋輔さんが、チャッチャッと手直ししてくださって、無事解決。やっぱりプロが要る。プロ、ということは、ボランティアではありえない。

ということなども、肝に銘じておきましょう。こうして遅々としながらも文学館も私も成長していくのです。人生、死ぬまで成長だ!(遅すぎる?)

■8月5日
心配していた台風もどうやら小樽および千歳空港近辺を外れてくれたらしく、大滝てる子さん、昨日無事ご到着。よかった、よかった。

これで第一関門クリアね。ただし胸中、不安あり。

不安の第一は、二日ほど前に届いたステージ衣装6着!です。ウチの展示室でコンサートすること、ウチの簡素な構造、質素きわまりない設備のことは繰り返しお伝えはしてあるのですが。コンサートの時間は2時間弱だな。「1分で着替えはできますので」。!。プリンセス天功?

不安の第二は音響照明映像スタッフ。すなわち私とオオスダ事務長。その不安はすでに半ば的中。
進行表というのは、たしかにいただいてはいるのですが。
「5分前『旅の夜風』フルコーラス〜暗転から〜DVD『一杯のコーヒーから』MD1『一杯のコーヒーから』〜DVD映像一箇所残す パソコン映像2AB〜3〜4」以下延々と。
私は、これは以前にどこかそういうスタッフを揃えているホールか何かでなさったときのものを参考までに送ってくださったのだろう、と思っていた。そうであってほしい、と祈っていた。

昨夜は、文学館で酒井俊さんのジャズライブ。身を切られるような思いで!私はライブ会場をスズポンに全お任せし(文学館コンサート史上、私が立ち会えなかったのは昨年の入院時をのぞけば初めてだ)、地下の音楽室で大滝さん、事務長、私の3人でリハーサル。
「これがパソコンの画像が入ったメモリー。これがDVD、そしてMD」。ああ、やっぱり……。
DVDもパソコン画像も、いまいちスムーズに動かなくて、ひんやりした地下室なのに、汗、汗、汗。

あのDVD映像一箇所残す、って。「最後まで流したあと、ちょっとだけ巻き戻して、母のアップで止めていただきたいの」。……無理です。ゲオで買った3980円のDVDプレーヤーじゃ。

「MDは途中で何回か入れ替えていただきたいの。ちょっと間に合わなくて枚数増えちゃってごめんなさいね」。ええと、全部で。「7枚かしら」。私、仰向けに倒れ、そうになった。
「進行表みててタイミングよく入れ替えてくださいね。ああ、ここ訂正ね」。……。

「事務所のパソコンはちょっと非力だから、明日は僕のパソコン持ってきます」とオオスダさん。すみません、すみません。

「お天気のこと、何も心配してませんでしたよ。私には母がついているもの」。ミスコロムビアである母上松原操さんと大スター霧島昇さんのお嬢さん。さすがに大らかでいらっしゃる。

いや、だいじょぶ、だいじょぶ。私には「美しい女」(by 椎名麟三)のご加護があるもの……。それにきょうは54歳の誕生日だし(とほほ)。

■8月1日
8月5日に、霧島昇・松原操(ミス・コロムビア)ご夫妻のお嬢さんである、大滝てる子さんのリサイタルをやるのですが、大滝さんはお母様の故里である小樽へお出でになるのが初めて。
コンサートそのもの以上に小樽にお出でになること自体が楽しみ、と仰るのですが、それはお母様への思い、深くないはずはない。
その母上の数少ない形見である、お着物をお持ちになりたい、と仰る。お客様にご覧にいれたい、とのことです。
「衣桁があれば、用意していただけるかしら」。いこう、ですか。時代劇とかで、部屋の隅っこに立ってるあれね。はい、どこかで借りられると思いますよ。と、いつもどおりの安請け合い。というか、ほんとにどこにでもあるだろう、って、たかをくくってました。

まず家で聞いた。「おばあちゃんもお母さんも使ったことあるからね。あったはずだけど、じゃまになって壊したな」。
文学館のスタッフにも聞いてみた。「おばあちゃん使ってたから、どこかにあるかも知れません」。翌日、「ごめんなさい。誰かにあげちゃったみたい」。

ときどきお出でになる、和服をよくお召しになっているご婦人に聞いてみた。……そんな方でも、衣桁なんて使ってないのね。あれ、今で言えばただのハンガーなのに、やたらに場所とるものね。やっぱり昔のものなんだな。
「ごめんなさいね。あ、そうだ。あそこで見たような気がする」。え?「記憶ちがいかな。いえ、やっぱりありました。まちがいありません」。お借りできるようなところだろうか。「みのやさん」。あ、コンブ屋さん?「最近、堺町でお宿を始められたでしょ。その部屋に確かにありました。社長さん、いい方よ。頼んでみたら?」

うーむ。「利尻屋みのや」さんですね。強烈に気にはなっていたお店ですが。いやコンブ屋さんとしてより、そのコマーシャルセンスというか。「七日食べたら鏡をごらん!」でしたか。あの大看板。艶めかしい(若干意味不明の)イラスト。店外店内そこかしこ、オヤジギャグというより不条理の域に達したギャグの嵐。そして古物(アンティークというより)への執着。
そのパワーは、「我楽古多博物館」を、そして「レトロスペース坂会館」をクリアしてきた私をしても、たじろがせたのでありました。

なんてこと言ってられないので、まず堺町のお店に。社長さんは、どちらでしょうか。「ちょっと分からない。神出鬼没だからねえ。あっちの方だと思うけど」。あの、博物館みたいところ?「そう、作業服着てる人がそうだから」。
そこはさっき寄ってきたんだけど。どなたもおいでにならなくて。ずいぶん無雑作に古物(ほんとのガラクタから結構な値打ち品まで)並べてあって、声が聞こえるから振り向いたらパソコンにつないだスピーカー。しばらく待っても無人のまま。

そこで今日、再度出直し。きょうはまずアポイント取って。もしもし。「社長?オイッコラッ交番」。???あの、お?「だから、オイッコラッ交番」。
その博物館みたいところの事務室?の名前が「オイッコラッ交番」なんですね。ここで挫けてはなるまいぞ。
いたいた、作業服。あの……。ちらりと、ややうさんくさげに振り向かれる。あの、小樽文学館のものです。「おお、文学館の。どうぞどうぞ」。はあ……、初めてかもしれないな、文学館の、って言って(良いほうに)態度変えていただいたの。何だか、待っていてくださったような。

用件お伝えしたら、いちもにもない。「わかりました。お貸ししましょう。私、霧島昇の大ファンだった」。あっというまに、綺麗な衣桁ふたつお借りできました。
それからできたばかりのお宿ご案内してくださったり。「私、小樽を旅していただきたいの。観光客より、地元の方にね」。あ、それ、こないだうちから塚田先生たちとのお話でも繰り返し出てきたフレーズ。「文学館、がんばってるよね」。あ、あ、はい。ありがとうございます。

衣桁、2本かついで文学館へ戻りながら、私つくづく思ったのですが、「光」さんといい「エンゼル」さんといい「レトロスペース坂会館」さんといい、このオヤジさんたちの底知れぬパワーを秘めたギャグ(いや違うな)センス。そんじょそこらのコジャレモダンじゃ到底たちうちできません。たちうちするとしたらウグイス家具くらい尖ってないと。なるほど、JJ's Cafe と相性いいわけだ。

ということで、とうとう堺町と接点できちゃいました。しばらく前の「よもやま」に、堺町のワルクチ、いいだけ書いたような気がす。けど、君子豹変するわけね。キミコがジャガーに変身するんじゃないからね(いかん、うつってしまったか)。