合計すると,300万人を超える人々が医療や医療関連のサービスの提供に従事している


 

厚生白書平成7年版

第1部 医療――「質」「情報」「選択」そして「納得」

   第5章 国民経済と医療

    第2節 医療と産業




1 医療は国民経済の中で大きな位口を占めるようになっている
(1) 医療は第三次産業の中でも成長株となっている

 医療は,産業としては第三次産業の中のサービス業としてとらえられている。

 第三次産業は,高度経済成長の始まった昭和35(1960)年度以降急速に成長してきたが,中でもサービス業についてみると,35(1960)年度の2兆4千億円から平成4(1992)年度の123兆円に達し,年率13%強の成長を示している。対GDP比も昭和35年度には14.8%であったが,平成4年度には26.5%になっており,20世紀後半を通じて我が国経済のサービス化が進行しているといわれている。

 医療サービスの生産額は先にもみたように国民医療費の額より大きいが,国民医療費でみても,昭和35(1960)年度,第三次産業生産高に占める割合は5.4%,サービス産業生産高に占める割合は17.3%であったものが,平成4(1992)年度にはそれぞれ7.8%,19.1%となっている。
(2) 医療サービスには単なる消費財以上の価値がある

 サービスの性格として,医療サービスは単なる最終消費財ととらえられ,経済学的には兵器などと等置されて議論されることもあった。しかし,健康を保障する憲法の下,我が国では,医療サービスはメリットグッズ(市場取引で決まるサービスの水準では最適のものにはなり得ない可能性があるため,政府が市場に介入するサービス)であるとされ,また次にみるようにサービスの消費に伴う直接的な便益以上のもの,すなわち人的,社会的便益をもたらす投資的側面をもつサービスと認識されている。

 医療サービスは直接的には病気を治癒し,傷病に伴う苦痛を緩和するなどのために消費されるが,それのみにとどまるものではなく,現役世代にとっては社会復帰を果たし,生産活動に従事するための消費ともなっている。また,現役世代ではなくとも,生活の質を維持し,改善するなどして,個人にとっては自立の,社会にとっては連帯の基盤づくりに大きな貢献を果たしてきている。
2 医療サービスの生産には多くの産業が関連している
(1) 医療サービスの生産をめぐる連関

 医療サービスといえば「白衣と薬」で成り立つとのイメージがあるが,他の産業と同様多くの産業から財・サービスを購入し,多くの物や材,そして人のつながりの中でサービスを生産している。「産業連関表」(平成2(1990)年)によると,医療は産業小分類ベースでは187部門中88部門から原材料やサービスなどを購入し,大分類ベースでは32部門中29部門から購入している。

 各産業は相互に影響し合うこととなるが,産業によって他部門からの購入比率(投入構造)と他部門への配分比率(産出構造)が異なるため,産業ごとに他産業へ与える影響と他産業から受ける影響に差がある。産業部門問の相互の影響を数量的に示したのが産業連関表である。

  表5-2-1 は医療部門の投入構造を示す産業連関表である。投入額とは,例えば医療部門は,農林水産業から物品を購入し,平成2(1990)年中に代金として2,151億7,200万円(購入者価格ベース)を支払ったことを意味する。投入表には「生産者価格表」と「購入者価格表」があるが,前者は医薬品であれば,製薬企業の出荷時の価格を計上し,後者は医療機関の購入時の価格を計上する。その差は,生産者価格表において商業や運輸業の商業・運賃マージンとして計上される。

 医療部門では投入の第1位が雇用者所得,第2位が医薬品であり,以下,目立つところでは食料品,事業所サービスなどとなっている。なお,雇用者所得など他産業との連関がない粗付加価値部門からの購入が5割を超えているが,これは医療部門のみならずサービス産業全体に共通するものである。

表5-2-1 医療サービス生産のための他産業からの投入



(2) 医療サービスの生産の活発化は経済を活性化させる

  表5-2-2 の波及効果の影響度とは,医療産業が経済全体に与える影響の大きさをみたものである。医療産業に1単位の需要が発生すれば各産業部門それぞれを直接間接にどの程度刺激するか,またその合計は最終的には経済全体で生産増になる単位を表しており,医療産業の場合約1.8となっている。

表5-2-2 医療部門の生産1単位が他産業に与える影響


 他方,当該産業を含むすべての産業部門に1単位の需要が発生した場合に,その産業に直接間接何単位の増産があるかを示したものが感応度と呼ばれているが,医療部門についてみると1.OOとなっており,他産業の動向からまったく影響を受けない。その意味で波及を受ける効果では中立的な性格を示している。

 具体的にいえば,医療活動が活発になれば他部門に与える効果を通じて経済全体を活性化するが,反面,他部門から受ける効果はないため,経済全体が活発になったからといって医療サービスが増産されることは少ないということを示している。医療サービスを提供するには,医薬品や医療関連サービスなどの事業所サービスといった中間投入が不可欠である。医薬品産業の経済全体に対する影響は小さくなく,医薬品産業の1単位の需要の増が経済全体では2を超える生産増につながる。こうした産業の連鎖の中で,医療サービスの需要の増大が国民総生産を引き上げることとなっている。例えば.医療については広告規制があり,広告産業からの購入は小さい。しかし影響度の表にみるように,医療部門の広告産業への影響は購入の割には多少大きくなっている。これは,医療部門が医薬品産業からの購入が大きく,その医薬品産業がまた広告産業からの投入があることなどによるものであり,こうした連鎖が影響度に表れている。

 一方,感応度が小さいのは,医療サービスの消費(病気になって診療などを受けること)が経済変動とは関係がないためである。つまり,医療サービスの需要は景気動向に左右されにくく,景気が後退する局面でも景気を下支えする機能を発揮することを意味している。
(3) サービス部門の中で医療は物的産業との関連が強いという特徴がある

 サービス経済化の特徴は,「サービスがサービスを呼ぶ」効果が大きいこととされている。産業を物的産業とサービス産業に大別し,それぞれの部門内での誘発効果をみるとともに物的産業とサービス産業間の誘発効果をみることができる。

 それぞれの部門が部門内に与える効果を「内部乗数」,他の部門への波及を通じて自部門へはねかえる効果を「外部乗数」という。総効果は「内部乗数×外部乗数」で表される。

 サービス産業についてみると一般に内部乗数は外部乗数より大きい。これは「サービスはサービスを呼ぶ」効果などといわれている。

 医療サービスについてみると,内部乗数は高いとは言いがたいが,外部乗数はサービス産業では3番目に高い値となっている。これは,医療が医薬品や医療用機器部門などの物的産業からの投入を受けていることによる。すなわち,医療サービスの需要が喚起されれば,直接的には医薬品や医療用機器部門などを刺激し,それらの部門は化学製品,鉄鋼・非鉄金属あるいは機械およびエネルギー部門を刺激するためである。このように医療はサービス産業にあっては物的産業を刺激するという点において特異な存在であり,特に一般の民間サービス産業と比較すると,物財の消費が大きい性格を有している。
(4) 医療の他産業に与える影響は増大している.

 産業連関表は5年ごとに作成されているが,医療部門の他産業へ与える影響(影響力係数)はわずかではあるが5年前(昭和60年)に比べて大きくなっている。これは経済全体の中で医療サービスの他産業への依存度が上昇している結果である。また,国民経済に占める医療サービスの生産量が上昇していることもその影響力を強めている。

 さらに詳細にみると,投入では医薬品,その他の対事業所サービスが増加しているのが目立つ。昭和60(1985)年と55(1980)年を比較すると,薬価引き下げにより医薬品への投入比率は低下していたが,平成2(1990)年表では再び昭和55年レベルに復帰している。対事業所サービスへの投入が増加しているのは,病院サービスの外注化が進んでいることを示している。
3 医療は多くの雇用を創出している
(1) 医療・医療関連サービスの従事者は産業の中でも大きなものとなっている

 医療サービス生産のための最大の投入要素が雇用者所得であることを産業連関表でもみたが,医療サービスと医療関連のサービスの生産に従事する者を雇用という側面からみてみよう。

 医療機関で働く者だけで238万人に及ぶ。内訳は,病院143万9千人,一般診療所64万3千人,歯科診療所29万8千人となっている。

 その動向をみると,医療機関の伸びに伴い従事者数は増大してきた。昭和50年代後半以降には医療施設数の伸びも鈍化するが,医療従事者数は施設数の伸び率を上回って伸びるようになる。

 医療機関以外で活動する医療・医療関連サービス提供者も少なくない。医療関係者のうち,あん摩マッサージ指圧師は9万4千人,はり師は6万4千人,きゅう師は6万2千人,柔道整復師は2万5千人となっている。

 医薬品や医療機器の製造業,関連流通産業,医療関連サービス産業など関連産業も数多い。製薬企業の従業員数は20万6千人(「医薬品産業実態調査」平成3年),医薬品卸業の従業員数は7万7千人(「医薬品産業実態調査」平成3年),医薬品小売業は16万5千人(「商業統計」平成3年)である。検体検査や給食サービスなど医療関連サービス産業では福祉分野を含めると33万6千人ともいわれており,少なくとも医療分野ではその半分以上の雇用を創出していると考えられる。

 また,看護体制が手薄な病院などでは,患者が直接付添婦を雇用することがある。こうした付添婦は7万人程度実働しているといわれている。

 これらを合計すると,300万人を超える人々が医療や医療関連のサービスの提供に従事していることになる。我が国のサービス業全体の従事者は,1,461万人(「事業所統計調査」平成3年)である。また個別産業をみると,自動車産業が722万人(自動車工業会「日本の自動車工業」平成6年),飲食店の従業員数が約250万人(平成2年国勢調査)などとなっており,雇用という側面からみても,医療・医療関連サービスは我が国でも有数の分野になっている。

 そして,医療サービスの消費が景気変動に左右されにくいという特性を考慮すれば,医療・医療関連サービス分野は,安定した雇用を確保している産業といえよう。
(2) 最大のコストである給与の動きにはさまざまなものがある