距離


「ギィさん、大丈夫ですか?」

短く切りそろえた赤い髪の少女が駆け寄ってくる。
およそ、戦場には不似合いな……可憐な少女。

「待って下さいね、今すぐにライブを……」

「いいって、別にこれくらい、大した傷じゃない。
それよりも、あまり、その、
……前線に出てこない方がいいんじゃないか?」

傷を回復するためには、特に足の速いトルバドールは、シスターよりも
前線に出なければならない事が多い。
だが、少女は必要以上に前線に出ている気がした。

「私が、近くにいては、迷惑ですか?」
その濃緑の瞳が瞬時に潤うのを認めて、ギィは慌ててかぶりを振った。
「いや、ち、違うって……。
そういう意味じゃ、なくて……」

ギィは、一つ溜息をつくと、「まあ、いっか」と呟いた。

貴族の娘。
自分とは、単なるサカの剣士である自分とは
あまりにも住む世界が違う。

「近くにいる方が、却って安心かも……な」
ギィは、意味ありげな目線を送るが、プリシラは気が付いていない様子で、
きょとんとしている。

近くにいることが許されているのは、今が有事だから。
戦がなければ、きっと出会う事もなかった。

戦が終ったら、もう二度と会うことも叶わないかも知れない人。

最初はただ気になって、近くにいるようになって
そのうち、近くにいるのが自然になって
今は気が付いたら近くにいる。

何時まで、近くにいられるのかは分からない。
でも──。

「近くにいてくれた方が、俺が守ってやれるからな」
ギィは、ズボンの汚れを叩き落としながら立ち上がると、プリシラに手を
差し伸べた。
「だから、前線にいるんなら、俺の近くから離れるなよ?」
「はい、ギィさん」
プリシラは、濃緑の瞳にサカの剣士を映し、その手を取る。

にっこりと笑むその姿に、
きっと彼女は、先への不安など感じていないのだろうと、
そう思いながら
いずれ訪れるであろう平和への不安を振り払うように、頭を振る。

それは、儀式のように。

深く息を吐き、剣を構える。
次の獲物を定め、戦場を駆け、剣を振るう。

戦場にいる、その時間だけが、二人の間の距離がなくなる免罪符であった。


end

2003/10/18

〜あとがき〜
これは、サイト開設3周年のお祝いとして『green*belt』のまあち様に捧げたものです。
挿絵は思いっきりラフなので、プリシラの服とかかなり嘘入ってます。
絵を描いてから、合わせる様にお話を無理矢理付けてみました。
確か、1日くらいで書いた様な……。