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■ 素気雄丸読書日記
第三回 「全部読んでます」の恐怖その(1)

  過日、私の務めている図書館のお客さんで親しくしているおじいちゃんから、「司馬遼太郎ベスト10をあげてくれ」と依頼があった。その意図が解せないまま、なんとかでっちあげたリストをお渡しした。数日後、図書館に司馬遼太郎のことで聞きたい、というレファレンス電話が相次ぎ、大いに慌てた。どこでどう間違ったのか、いつのまにか小生が司馬遼太郎を全部読んでいる珍しい人間として、件のおじいちゃんが地元紙に文章を書かれたらしいのだ。
 私は司馬遼太郎の熱心な読者ではない。小説は、かなり下手くそじゃないかと密かに思っている。「小説の中に歴史叙述を持ち込むことで、内面の真実の探求物語としての近代小説概念を変革してしまった」。これは関川夏央の司馬文学評価の言葉だが、今一つ信用出来ない。
 司馬史観という言葉も好きになれない。明治という時代があまりにも理想化され過ぎているからだ。にもかかわらず、私が司馬遼を好む理由は、氏の宗教に係わる随想が大好きだからだ。神道・仏教・キリスト教。それぞれ何度読み返してもあきることがない。人類が作り出した最も壮大な虚構、というのが司馬の基本的な宗教観だが、鳥瞰図的な思考を好んだ氏には、格好のテーマだったのかもしれない。『以下、無用のことながら』(文春)は、ヘビー級の司馬ファンである山野博史が最近編集した司馬遼エッセイ集。司馬の仏教概説を久しぶりに読んで、またまた感動してしまった。

        

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大野秀



大野 秀
(おおの しゅう)
1957年生まれ。米子市立図書館司書。かつて米子の街にあった幻の本屋「文芸書専門店」初代店長。90年から市立図書館に移る。以後、主として書庫の中に隠棲。極東のモダニズムに興味を持つ。


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