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■ 片々集(ぺんぺんぐさ)
第八回 台風とともに上野村へ

 遠かった。
 友人のY君に同行してもらい、片道12時間かけて群馬県上野村にいってきた。哲学者の内山節(たかし)さんに会うためだ。
 アポの電話をする前までは、内心ドキドキ。会ってもらえるとは思わなかった。が、電話で用件をつたえると、半日ならいいだろうと承諾してもらえた。
 当日は台風10号とかさなり、台風の進路とともに、上野村に着いた。村は鳥取ではおもいもつかないほど道路が未整備。国道でもクルマが行き違いできないほどであった。
 帰路、清里や奥村土牛美術館に立ち寄ったりと楽しかった。Y君の願いで佐久総合病院を見学するはずだったが、カーナビが案内してくれなく、しぶしぶ高速道路へと急いだ。
 内山さんの取材は、情報誌のインタビューが主目的だった。お会いして差し出された名刺には肩書がない。名前が真ん中にデンとあり、左下脇に仕事場と上野村の住所がつらねてあるだけ。それと紙が今流行りのペラペラでなく、旧来の厚紙である。
 聞いたはなしを帰ってからテープ起こしをしてみて名刺に肩書のないことが分かった。奥が深すぎる。
 県立図書館にある本はすべて読んだ。膨大な著作である。でも、腑抜けた脳には浸透しない。理解できない。深みにはまりこんだ。原稿がはかどらない。聞き屋の無能さをくやんでいる。
 存在論、労働論、自然哲学、時間論から今では森林のエッセイ、山里の暮らしを紡いでおられる。達意の文で、職業作家や新聞記者など足もとにもおよばないほどうまい。語彙がはんぱでない。
 生きかた、立ち振る舞いが文章ににじみでている。(ありきたりだな)
 「自由論」(岩波書店)にくびったけになっている。5年前の出版なのに版元には、すでにない。手当たりしだい古本屋さんをチェックしてようやく入手したものだ。フィールドの広さと歴史観の深さ、読書量の膨大さ、のどれをとっても一級品である。
 締め切りはとっくにすぎている。さぁ、どうしよう。


                

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中山 昇治
(なかやま しょうじ)
 編集工房炬火(たいまつ)舎主宰。名古屋タイムズ記者を経て1982年に帰鳥。情報紙・誌の取材編集と並行して、生涯の師と仰ぐ「むのたけじ」の研究と、自分が掘り起こしたい人物の作品を出版。もっか、松原岩五郎に没頭中である。


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