訪問日:2006/01/08
のどかな田園風景が広がる京都府亀岡。その一画に静かに佇む古刹が、穴太寺です。
この日は朝から気持ちのいい青空が広がっていたのですが、境内をぶらぶらしているうちに、細やかな雪がちらつき始めました。
“あ、雪”。
思う間もなく、すぐに雪は止んでしまいます。そして、また降る。また止む。どっちにしようか、空が迷っているようでした。
きっと、青空でも雪でも穴太寺は美しいお寺なのだろう。僕にどっちの穴太寺を見せるべきか、空はにわかハムレットの心境でいたに違いありません。
多宝塔は小ぶりでそれほど形がいいというわけではないのだけど、その地味な風貌がささやかな境内によく似合っています。
屋根に雪の薄化粧。その奥ゆかしさもまた、美しい。
境内の隅っこにちょこんと建っている。その控え目なスタンスもまた、素晴らしい。
ただ、穴太寺には美しい庭園があって、実そこから借景として望む多宝塔はとても素晴らしい存在感を示しているそうです。残念ながら冬の間はこの庭園を見せていただくことは出来ません。
けど、とても地味な多宝塔が庭園から見た途端に輝きを増すなんて、なんだか嬉しくなってきます。脇役人生の役者が主役に抜てき、一世一代の名演技。そんな感じがします。
本堂には、なで仏と呼ばれて親しまれているお釈迦さまがいらっしゃいます。いわゆる涅槃像なのですが、肩まで布団がかけられていて、なんだかおじいちゃんの昼寝みたいなのです。お顔もとっても穏やか。いい夢見てるんだろうな。
暖かい春の日なんかにこの仏さまを見たら、それは気持ちよく居眠りしているように見えたことでしょう。
僕は、境内の静けさ、しいてはこのお寺のある亀岡という土地がどうしてこうも静けさに包まれているのかがよくわかりました。それは、気持ちよく寝ていらっしゃる仏さまを起こさないようにという、優しい配慮なんだ。ずっと、この静けさの中で、昔からこの仏さまはすやすやと眠り続けてきたのだろう。
おかげで、なんと安らかなお顔で眠っていらっしゃることか!
結局、最終的に雪は止み、次第に青空が広がっていきました。
“せっかくだから、大雪にしてくれたらよかったのに”そう思ったけれど、そうやすやすと雪を降らせてなるものかと、この日の空は出し惜しみ。
僕はお寺を出て、のんびりとした亀岡の町を歩きました。やっぱり、町はどこまでも静か。僕もなるべく足音を立てないように、そっと歩きました。
お釈迦さまが、気持ちよく居眠りを続けることができるように。
青空が妙にまぶしい、日曜日の午後でした。