寂光院(京都市左京区)

訪問日:2004/10/24

境内に、おばあちゃんの声が鳴り響く

この日の寂光院で一番印象に残ったもの。それは、このお寺でガイドを務めていらっしゃるおばあちゃんでした。明るい青空の下でマイクを握り、大声でお寺の説明をしてくださるおばあちゃん。みんな楽しげな様子で耳を傾けていました。
寂光院の本堂は平成に入ってから不幸な火事で焼失してしまったのですが、悲しい雰囲気が微塵も感じられなかったのは、やはりこのおばあちゃんの名調子が境内いっぱいに鳴り響いていたおかげだと思うのです。

リズミカルな名調子

最初は再建中の本堂の前で、二回目は庭園の傍らで、僕はおばあちゃんの説明を聞いていました。三回目も庭園の傍らでした。そう、おばあちゃんの説明は何度も何度も繰り返されます。
正直なところ、お寺の沿革だとか歴史的なお話には興味がないのですが、独特のリズムでしゃべるおばあちゃんの語り口が面白いので何回でも聞いていたい気分でした。

それは、寂光院を慰めているのだ

さて、おばあちゃんが何度も何度も同じ説明を大声で繰り返しているのは、何も僕たち観光客に聞かせるためだけではなくて、実は寂光院に聞かせるためでもあると僕は思うのです。
寂光院は本堂を火災で失い、中にあった多くの寺宝までも失ってしまいました。その寂光院が惨めな気持ちにならないよう、おばあちゃんはこのお寺の由緒ある歴史や立派な建築の素晴らしさを延々語って聞かせているのだと思います。寂光院は、おばあちゃんの声でいつも元気づけられているんですよ。
おかげで、境内のキラキラと輝くような生き生きとした雰囲気はどうだろう! 

うかつな質問は要注意!

そんなおばあちゃんも、うかつな質問をする観光客には少々手厳しいのです。
一人のおじさんが何気なく、本当に何気なく「常寂光院と関係はあるのですか」とおばあちゃんに聞いていました。それが嵯峨野の常寂光寺を勘違いされていることは僕にはわかりました。当然おばあちゃんもそれを指摘するのだと思いきや、「ここは寂光院です。“常”も何もつきません」と厳しい口調でピシャリ。
また、別の人が「前の本堂よりも小さく作られているんですよね」と再建中の本堂について聞いていました。これにも、おばあちゃんは「そんなことありませんで。前とおんなじです」とそっけない。
おばあちゃんは寂光院が大好きなんですよ。きっと、間違った知識で寂光院が歪められるのが嫌なんでしょうね。

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