訪問日:2006/07/30
秋篠寺を南門から入ると、そこは鬱蒼と茂った杜の中。初めてこのお寺を訪ねたとき、この光景に言い知れない不安な気持ちを抱いたものです。のどかな奈良の町なかに突然空を覆うような薄暗い杜があるもんだから、なんだかとても非現実的な違和感を覚えたんですよ。
でも、この杜を抜けた瞬間、そこに広がる光景のなんと伸び伸びと明るく、美しいことか! 広々とした白砂の海の中、ゆったりと浮かぶ本堂。なんだか、暗い洞窟を抜けてたどり着いた、輝くエルドラドのようです。
秋篠寺の美しい旅は、いつもこうやって始まります。
この日は、抜けるような青空の広がる夏日。大きな雲が、本堂の後ろをゆっくりと通り過ぎていきます。ああ、なんて幸せな光景だろうと思います。そのうちに雲に手を引かれて、本堂もどこかへ連れて行かれちゃうんじゃないだろうか。
秋篠寺の本堂は、シンプルなだけに美しいと思います。そして、シンプルなだけにシンプルな青空と仲がいいのだと思います。
本堂の中には、有名な伎芸天がいらっしゃいます。ほんの少し首をかしげて神秘的な笑みを浮かべていらっしゃる、優しいお母さんのような仏さまです。
真正面から見たときの神秘的な佇まいに本当に心奪われるのですが、実は僕にはもっと大好きな見方があります。出来るだけ真下に行って少し左側からこの仏さまを見上げてみます。すると、実に嬉しそうな笑顔を見せてくれるんですよ。文字通りの満面の笑み。僕はこのニコニコを見ていると、本当に楽しい気持ちになります。
そんな優しげな伎芸天が秋篠寺のお母さんだとすると、お父さんはご本尊の薬師如来ということになるのでしょうか。周囲にはかわいらしい十二神将が、思い思いのポーズで立っています。
この本堂に居並ぶ仏像たちを見ていると、家族のようだなと思います。お兄さんは右端の帝釈天、薬師如来の両脇に立つ日光・月光菩薩はおじいちゃんとおばあちゃんでしょうか。
賑やかで美しく、楽しげで神秘的。秋篠のファミリーは、いつでも温かい笑い声に包まれているように、僕には思えるのです。