元興寺極楽坊(奈良県奈良市)

訪問日:2004/09/18

石仏の桃源郷

もしも仏像が人と同じように「極楽に行きたいなぁ」と思っているとしたら、彼らの言う極楽とは元興寺極楽坊のようなところではないでしょうか。ここに居並ぶたくさん石仏は、どれも心の底から幸せそうな顔をしています。青空の下、のどかな境内の中で暮らす石仏たちは、率直なところ“人を救うことも忘れて、のんびりしきっている”ようにしか見えません。
だけど、いいんですよ。その幸せそうな姿を見てるだけで、心がじわーっと温かくなってこっちも幸せな気持ちになれます。仏像が極楽気分なら、訪れる人にとってもここは極楽なのだ。

されど、元は官寺だった

元興寺は元々は官寺であり後に庶民のお寺として栄えたということだけれども、今の境内を見ていると100%庶民のお寺にしか見えないわけです。
特に本堂(極楽堂)の庶民っぷりは凄い。 装飾的なところが一切見られず、物々しさがまったくありません。いっそのことここで駄菓子屋でも開いたらどうだいってな感じの気取らない建物なのです。こういうお堂はじっくりと観察するよりも、縁側で足を投げ出してのんびりと心を休ませるのが一番です。

元興寺の番長現る

元興寺には五重小塔という国宝建築があります。小塔と言えども背丈が小さいだけで、細部まで丁寧に作られた立派なものです。佇まいも力強く、威張っているのではないかと思うほど堂々としたものです。小さいからってバカにするなよ、というわけです。
例えば室生寺の五重塔なんかだとその小ささが可憐な美しさを生み出しているのだけれども、こちらは小さくとも威風堂々、ケンカの相手が筋骨隆々の大男でも蟷螂の斧も辞さないといった構えで屹立しています。
いや、蟷螂の斧は失礼だったかもしれません。実際、並みの五重塔では太刀打ちできないほどの逞しさをこの塔は持っているのですから。決してケンカを売っちゃいけません。元興寺の番長は強いのだ。

心に効く温泉

元興寺は長い歴史を経て、こと“憩い”という観点において他のお寺が到達できないような高みに上り詰めたような気がします。それは訪れた人の憩いというだけではなく、石仏にとっても建物にとっても、或いは境内の草木、飛び回るトンボ、果ては境内を明るく照らす青空でさえもが元興寺の憩いの力に心を和ませているように思えます。
元興寺は万物の憩いの場。心の万病に効く温泉なのです。

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