吉田寺(奈良県斑鳩町)

訪問日:2005/10/09

斑鳩の隠れ小寺

斑鳩のお寺といえば、まず法隆寺。そして中宮寺、法輪寺、法起寺。多くの人は、この四寺を1セットとして憶えているのではないでしょうか。
ところが斑鳩にはもう一つ、あまり名前の知られていない美しい小寺があります。寂びた風情の漂う、味わい深いお寺です。名前は吉田寺。“きちでんじ”と読みます。
まるで人の目を忍ぶかのように、境内はひっそりとしています。音はしない。もう、この雰囲気に浸っているだけで、僕は心の底から“来てよかった”と思えるのです。

水底にいるような静謐の中

吉田寺には、美しい多宝塔が建っています。普通は多宝塔って、大空に翼はためかせるような伸び伸びとしたイメージがあるのですが、ここの多宝塔は随分奥ゆかしいおとなしめの塔です。決して花開かない、永遠のつぼみといった印象があります。
でも、それが吉田寺なんですね。なにもかもが声をひそめて、じっと佇んでいます。あたかも水底に沈んでしまった古代都市のように。
吉田寺、この静けさがなによりの魅力です。空を行く雲の音さえも聞こえてきそうな、そんな静けさなんです。

長いお話が苦にならない

本堂に上がらせていただくこともできます。まずびっくりするのが、内部が外から見ている時よりも断然広いことです。あ、こんなに大きなお堂だったんだって思います。
そして、中央に大きな仏さまが座っていらっしゃいます。ご本尊の阿弥陀如来坐像です。
このご本尊を前に、ご住職がお話をしてくださいます。“人は自分ひとりで生きているのではない、生かされているのだ”的な、そんな大切なお話です。
僕はお寺の由緒だとか成り立ちにはほとんど興味がないのだけれど、こういうお説教めいたお話は大好きなのです。
ご住職は、時折つっかえながら、何かを思い出しながら、噛んで含めるように丁寧にお話してくださいます。長い長いお話だけれども、とても心地いい。このご住職のお話は、吉田寺のとっても美しい寺宝です。

美しさを知るためのヒント

この日、本堂を出て多宝塔を眺めていたら、ご住職が声をかけてくださいました。今度は多宝塔の説明が始まりました。信貴山、根来、高野山。。。さまざまな多宝塔を引き合いに出して、目の前の可憐な塔の美しさを説いてくださいました。美しい塔が、さらにさらに輝いて見えました。

僕は人に勧めることをあまりしない性格なんだけど、このお寺だけはぜひ訪れてほしい。本当の美しさを知るための素晴らしいヒントが、ここにはたくさんあるような気がします。

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