訪問日:2004/10/18
中之坊は門構えが立派なので、入る前は大きなお寺なのかなとも思うのですが、実際は小ぢんまりとしています。その小ぢんまりとしたスペースに、たくさんのものが詰めこまれた宝石箱のようなお寺です。
ここを訪れると、いつでも充実した時間が過ごせます。小寺には小寺なりの見せ方ってものがある。それを中之坊は教えてくれます。大寺院には決して負けない、逞しさを持ったお寺です。
もしかすると、この日は一番訪れてはいけない日だったのかなぁと思ったのが、庭園を目にしたときでした。花は、なぁんにも咲いていません。寒々としているなぁ、と。
仕方なく庭園をゆっくりとぶらつくことにしたのですが、そのうちにこの庭が美しい光景をたくさん持っていることに気がつきました。石灯籠が絶妙の位置に立っているし、ぽつんと置かれた蹲のさりげなさ、茶室のたおやかな佇まいなど、実によく出来た庭なのです。花の色が無いだけに、構成の妙が余計に際立っていました。
花は無くとも充分楽しめるじゃないか、と思いました。この庭には訪れてはいけない日なんてないのだ、と思いました。
この日のクライマックスは、客殿で訪れました。客殿の天井には、さまざまな画家の手による小さな絵画がぎっしりとはめ込まれています。愉快なのは、ほとんどが花の絵なのですが、いきなり恐ろしげな龍の絵が飛び出したり、能面の絵が出てきたりするところです。どうも隣接する絵と絵の間にはあまり関連はないようです。とっても自由闊達、気ままな空間です。
そんな気軽さに心誘われて、畳の上にごろんと寝転がって天井画を眺めていました。静かな空間でのんびり寝転がって、きれいな絵を眺めている。贅沢な幸福感に包まれていると思いました。
境内の一角に小さな宝物館が建っています。展示は多くないのですが、強く印象に残る寺宝があります。
それは「中将法如髪縫い名号」という小さな布です。寺伝によると中将姫というお姫さま―當麻寺のヒロインとして知られている人です―が自分の髪の毛で“南無阿弥陀佛”と刺繍したものなのだそうです。更にその文字の上に蓮糸で阿弥陀如来が縫いこまれています。
髪は女の命って言うけれども、やっぱりこの南無阿弥陀佛は中将姫の命のメッセージだと思います。力強く堂々としたこの六文字の中に、彼女の願いや苦しみ、喜びや悲しみなどさまざまな想いが籠められているのだと思います。なんでもないような宝物館の中に、こういう感動的な寺宝があるのを見つけると、なんだか嬉しくなってきます。