志賀直哉旧居(奈良県奈良市)

訪問日:2006/04/03

奈良のささやかなスパイス

まだ寺社巡りを始めたばかりの頃、新薬師寺に行く途中で何気なく立ち寄った志賀直哉旧居。その居心地のよさに大変感動して、それ以来僕の「取って置きの宝物」となった大切な場所です。
新薬師寺に行ったついで、春日大社に行ったついで、東大寺に行ったついで…いつもここを訪れるのは“ついで”ばかりなのですが、旅の終わりにふらっと訪れて、楽しかった一日をのんびりと回想するには持って来いの、落ち着いた趣のある場所です。いい想い出をさらにいい想い出にほんの少しだけしてくれる、ささやかなスパイスと言えるかもしれません。

家庭の温もりが残っている

“旧居”とあるように、ここはかつて志賀直哉が住んでいた家ということであって、きれいに手入れされてはいるものの、今は誰も住む人のいない空き家です。
でも、その手入れがめっぽう行き届いているせいか、僕には今でも誰かここに住んでいそうな気がして仕方がありません。裏庭の椅子に腰掛けていると、家の中から子供たちのはしゃぎ声や掃除機をかける音なんかが聞こえてきそうな気がします。
大切に保存されているのは形だけではありません。その生活感もきちんと保存され、直哉が大切にした温かい家庭の匂いが存分に楽しめるようになっているのです。

サンルームの大学ノート

奥にある大きなサンルームは、当時の文人・画家たちが集まって論じ合ったりくつろいだりしたところで、通称“高畑サロン”として知られている部屋です。大きな天窓からは明るい陽が差し、洋風のしゃれた丸テーブルと椅子が置かれ、横のガラス窓からは明るい芝生に彩られた裏庭が眺められます。
ここにある丸テーブルの一つに、いつも大学ノートが置いてあります。訪れた人がなんでもいいから、ここに来て想ったことを書き連ねていくノートです。僕はどこへ行っても訪問の痕跡をまず残さないのですが、ここだけは最初に訪れたときからの習慣で、いつも何かを書いて残していくことにしています。
この日も“長谷川猫”の名前で、二行だけ短い感想をそっと書き残してきました。

「ここに来るといつも優しくて穏やかな気持ちになれます
まるで今日奈良に吹いている春風のように」

裏庭で読書

この日は大変いいお天気だったので、サンルームではなく裏庭に出て本を読むことにしました。裏庭には、右の写真のように児童公園にあるような可愛らしいきのこみたいなテーブルと椅子が設置されています。
ずっとここにいると、なんだか以前からずっとこの家で暮らしてきたような気分になってきます。もう夕刻です。家の中から、とんとんとんと包丁の音が聞こえてきそうな気がしました。
“文豪”という固い言葉からは想像もつかない、マシュマロのように柔和で優しい空間です。家族の愛がいっぱい詰まった場所。大好きです。

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