浄土寺(広島県尾道市)

訪問日:2006/01/26

ハト、暴れる

この日は、青空の広がるいいお天気。およそ冬らしくもないうららかな陽だまりの中、境内のベンチに腰掛けて、のんびりと読書に勤しんでいました。
すると、小さな男の子を連れた若い夫婦がやってきて、ハトにエサを撒きはじめました。浄土寺の境内には、ハトがいっぱいいるんです。
でも、男の子が四方八方にエサを撒くもんだから、もう大変。左に撒けば

ばさばさっ

大きな音を立てて、いっせいにハトが左に飛び立っていきます。右に撒けば、

ばさばさばさっ

今度は右に向かってすべてのハトが羽ばたいていきます。
お母さんはきゃーきゃー悲鳴を上げて逃げ回るし、ハトはいろんな方向を好き放題に飛び回ってるしで、境内は一気に喧騒の中。
でも、そんなユーモラスな出来事が、妙にマッチするのが浄土寺のいいところ。大らかなお寺なんです。

シンプルが美しい

本堂は国宝に指定されているというけれども、ちっとも気取っちゃいない。一見なんの特徴もない、極めてシンプルな作りのお堂です。
けど、緩やかな反りを見せる屋根が青空に映えて美しく、朱塗りの柱や白壁を明るい陽が照らしこれもまた美しい。潔く、迷いがない。夢に向かってひた走る若者のように。
“見なよ、シンプルでもこんなに美しいんだぜ”本堂は自慢げに、僕の心に語りかけます。“余計なことは、何も考えない。シンプルが一番なんだ”
その姿は、どこまでも強い自信に満ち溢れています。

寺宝は、どれも素晴らしかった

本堂に上げていただきました。そこから先は、庭園、阿弥陀堂…とお寺の人が順次案内してくださいます。ただ、お寺の人は短い説明を終えると、さっさと先に行ってしまいます。
え、あの、もうちょっとゆっくり見せてください…
でも、どこもいちいち素晴らしい。黒光りする格子天井が、妖しげな空間を作り出す本堂。質素な茶室が、高台から広々とした空間を見渡す泉水式の庭園。厳かな空間の中、醒めた表情でじっとこちらを見つめている阿弥陀堂のご本尊。
かなり駆け足の見学となりましたが、浄土寺の紡いできた歴史の奥深さがよくわかる貴重なひとときでした。

黄昏の境内で読書再開

本堂から外に出てみると、さっきの親子連れはいつの間にかいなくなり、辺りはのんびりとした静けさに包まれていました。
石段を上がったところにある開山堂から境内を見下ろすと、多宝塔の向こうにゆるやかに流れ行く尾道水道が見て取れます。
気がつけばもう夕刻。さっきまで縦横無尽に境内を飛び回っていたハトも、今はとぼとぼそこいらを歩き回るのみです。なんだか、急にたそがれてきました。
ちょうどいいや。再びベンチに腰掛けて、さっき中断された読書を再開しました。

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