訪問日:2005/05/08
近江鉄道尼子駅の駅員さんは大変親切な方で、駅舎でバスを待つ僕に熱心な口調で湖東三山(西明寺、金剛輪寺、百済寺)の説明をしてくださいました。
中でもしきりに勧めてくださったのが百済寺。三つのお寺の中でもっとも山寺の雰囲気を湛えているのがこのお寺で、雰囲気がとてもいいんですよと仰っていました。なんでも、他の西明寺、金剛輪寺ではお寺の方の説明を聞きながら拝観する事になるのだけれど、百済寺ではそういうガイド的なことは一切ないとのこと。つまり、静けさを何よりも大切にするお寺なんですよ、と駅員さんは仰るのです。
僕は、駅員さんのお話を聞いているだけで、百済寺のことが大好きになってくるのでした。
本堂は、境内の一等高い場所に建っていました。
お堂の背後からゲウォ、ゲウォとウシガエルのおどけたような鳴き声が聞こえてきます。おーい、ウシガエル! 百済寺は静けさを何よりも大切にするお寺なんだぞ、と駅員さんの受け売りの言葉を心の中で叫びつつ、僕はちょっと不恰好でいかにも不器用そうな本堂の姿を眺めていました。
素朴で地味な佇まいは、ともすれば深い緑の中にすぅーっと消えていきそうでした。味のある建物とは、きっとこういうことを言うのでしょう。
実は境内をもう出ようかという頃になって、ふと思い出したことがありました。
それは、先ほどの尼子駅の駅員さんが「今頃はモミジが花をつけていますよ」と仰っていたことです。
モミジの花! これまで想像すらしたことがありません。境内に入ると、モミジの木はたくさんあったのですが、遠目には花が咲いている様子はまるで見えません。
ところが近くまで寄ってみると、咲いているんです、モミジの花!
それは、小さくてとても可愛らしい赤い花でした。少し離れて見ると、緑の葉の中を赤い斑点がきらきらと流れ落ちているみたい。
モミジの花。この季節の楽しみが、また一つ増えました。
最後にやってきたのが百済寺の本坊・喜見院の庭園。
明るくて開放的なその眺めは、今まで見てきた百済寺のイメージとは若干離れている気もしましたが、広々とした池や、石組と木々の軽快なリズムが心地よくて、いつしか“ああ、百済寺には無くてはならない存在なんだなぁ”と思えてくるのでした。
本坊の縁に腰掛けて庭をのんびりと眺めつつ、つくづく百済寺って美景の宝庫だなぁと思いました。そして、その美しさがいかにもさりげない。その奥ゆかしさが、百済寺をとても魅力的なものにしているんだと僕は思ったのでした。