観劇日記〜2004年10月〜
11日(月・祝) 12:30 東宝「ミス・サイゴン」 帝国劇場
17日(日) 12:00 宝塚歌劇団宙組「風と共に去りぬ」 神奈川県民ホール
23日(土) 15:30 宝塚歌劇団花組「La Esperanza」「TAKARAZUKA舞夢」 東京宝塚劇場
30日(土) 18:00 tpt「ナイン the musical」 アートスフィア

2004年10月11日(月・祝)12:30-15:10
東宝「ミス・サイゴン」@帝国劇場

 B席 4000円 2階-L列-30番 (パンフレット:1500円/2000円)
 演出:ニコラス・ハイトナー

 エンジニア:筧利夫
 キム:松たか子
 クリス:坂元健児
 ジョン:石井一孝
 エレン:石川ちひろ
 トゥイ:tekkan
 ジジ:杵鞭麻衣
 アンサンブル:め組

 ダブルキャストだとついつい「どちらが良い」と比較しながら観てしまいますが、クワトロキャストともなると「この人はここが良い」と観るので、結局東宝の思うがままに帝劇に通っている気がします。もっとも、別っしーだけは勘弁ですけど。。。
 本日のエンジニアは筧さんです。エンジニア役を満喫しているのがアリアリとしていて、こういうのって客席から眺めていても気持ち良いですねぇ。いつの間にやら過剰なお遊びがなくなり、帝劇用の筧演技というのが出来たようで、余裕しゃくしゃく。低音も高音も出ないので、歌が途中でしゃべりになってしまうのですが(「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授みたい)それがとっても自然で、技術点でのマイナスを補うハートを感じました。こうなるとあとは芝居の見せ所とでも言いますか、下手するとビッグナンバーを与えられているにも関わらず座長であることを忘れられてしまうエンジニア役ですが、筧さん出演の公演は、「キムに夢を託しているんだな」というのがヒシヒシと伝わってくるので、キムに苛立ったり、あれこれ口を出したりするのに共感するのです。そして、クライマックスでキムが自殺した時には、夢破れた男の後姿で感動倍増。なまじ実力がある人はアレコレ技を繰り出さない方が効果的だな、と感じさせられました。ここ一ヶ月で非常に変化を感じましたねぇ。素晴らしい役者さんですわ。でも、彼で観たい他のミュージカルって思いつかないんですよね。「レミゼ」のテナルディエは出来るか、うん。
 といっても、キムも負けていないのが頼もしいところ。松たか子は台詞のように歌ったり、もしくは歌の合間に台詞を挿入したりする部分で実力発揮。テンポも音程も決まっている作品なので、その台詞に情感を込めるのは難しいと思うのですが(実際出来ない役者も多いかも)、感情の変化をドラマティックに表現する力は大したものです。澄ました顔した女優さんなのですが「ここまで崩すか?」の体当たり演技はいつ観ても圧倒されます。とはいえ、どこか理性が残っているのを感じるのは、彼女の歌唱法ゆえか、声質ゆえか、はたまた演技法ゆえか、いまだにわかりませんが。。。 僕にとっては不思議な印象を残す役者さんです。個性的なのか、没個性的なのかも良くわかりません、はい。
 本日初見の役者さんはエレンの石川ちひろさん。中低音は深く響く良い声なのですが、それだけといった印象。とにかく、見た目だけでなく、芝居も歌も地味。おまけに感情が表に出てこないタイプなので、全体的にテンションの高い本日のメインキャストの面々の中で埋もれてしまうことはなはだしいのです。とにかく表現も小さくて遠目にはアメリカ人には見えない! もっとメイクも着こなしも何とかしてほしいものです。ま、これは四季の女優さんに多々見られるケースなのですが。。。東宝には個性が合わないと思います。もっと脱皮しないと。
 8月に観た時は、石井クリス&坂元ジョンでしたが、本日は入れ替わって坂元クリス&石井ジョンでした。お二人ともクリスの方が適役の印象を受けました。石井ジョンはとにかくテンションが高い高い。今井〜岡とこのところインテリ系ジョンを見てきたので余計にそう感じるのかもしれませんが、非インテリ系の印象を受けました。とにかく熱血漢というか感情的というか、汗とツバを常に飛ばしているような感じ。サイゴン陥落の際も真っ先に動転して、部下が冷静に働いているのに、一人でパニックになっているんですもの。個人的にはこんな上司やリーダーの下で働くのは嫌だなぁ(笑) おかげで、クリスとジョンのキャラクターの差が際立たずに損をしているのではないでしょうか。おまけに聞かせどころの「ブイ・ドゥイ」では音域が合わず盛り上がらなかったし(これは岡さんにも言えるかな)。無理に二役に挑戦した弊害を感じてしまいました。そういえば、前回の「レミゼ」で唯一見られなかったのが石井バルジャンなのですが、どんな感じだったのでしょうねぇ。来年の再演には登場するのかしらん?


2004年10月17日(日)12:00-15:10
宝塚歌劇団宙組「風と共に去りぬ」@神奈川県民ホール

 S席 6500円 1階-23列-48番 (パンフレット:1000円)
 演出:植田紳爾、谷正純

 レット・バトラー:和央ようか
 スカーレット・オハラ:花總まり
 アシュレ・ウィルクス:初風緑
 マミー:出雲綾
 ミード夫人:貴柳みどり
 ミード博士:寿つかさ
 ピティパット:鈴奈沙也
 スカーレットII:初嶺磨代
 ルネ:悠未ひろ
 ベル・ワットリング:芽映はるか
 メラニー:美羽あさひ
 メイベル:音乃いづみ

 毎年上演しているのではないか?と思える宝塚版の「風と共に去りぬ」。こうも頻繁に上演されると、ちょっとやそっとのミス.キャストは必然的なのですが、今回は作品に生徒を配役したのではなく、生徒の序列に従って役を当てはめていったのがアリアリで、主要キャストが揃いも揃ってニン違い。何だかTCAスペシャルの余興を見ているようで、初見の方にはオススメできないなぁ、と思いつつ、これはこれで公演が成り立ってしまうのが宝塚の不思議なところ。やはり、男役というクッションがあるので、無理は承知という暗黙の了解がありますから。。。
 無頼漢で、時代を読むのに長け、常に先を見据えながら強くリッチに逞しく生きているバトラーに扮したのが和央ようか。時代に流される貴公子(この作品ならばアシュレですね)を演じさせたら絶品の彼女ですが、さてはて、持ち味とは正反対のキャラクターであるバトラーを演じたらどうなるかと思いきや、バトラーの外見と内面のギャップではなく、しょっぱなからバトラーの繊細な心情を押し出してのリリカルな表現。多面性が魅力のバトラーが、和央さんが演じると単純細胞な男になってしまい、大人の余裕を感じさせるどころか、演技も役づくりもいっぱいいっぱいになっているのが物足りなかったです。彼女はフェミニンな感じが売りの生徒で、女の子顔ゆえにあまりにもヒゲが似合わないのと、気を抜くと声が甲高くなるので、バトラー=軟弱男となってしまうのが残念。。。いっそのこと、無理して男っぽく役作りをせず、和央ラーを創造したら面白かったかも。もっとも、今回は初役な上に、初日あけてすぐの公演でしたので、余裕がないのは仕方ないですね(仕方ないのか!?)。公演を重ねていけばまた独自の表現方法が確立するのかもしれません。
 ある意味、このバトラーとバランスが取れていたのが花總まりのスカーレット。彼女なりに頑張ってはいましたが、声質の細さとあっさりした表情は、情熱的で迫力ある「姐御」の役にはギャップがありました。お嬢様で、気が強い女というのは彼女のレパートリーではありますが、土臭さや逞しさは皆無の彼女。宝塚版の「風と共に去りぬ」では、表向きの強い感情を表すのスカーレット役と、繊細な本音を語るスカーレットII役が登場しますが、運の悪いことに、スカーレットIIにはなぜか男役の初嶺磨代が扮してしまったので、声量と声質、迫力のバランスが逆転してしまい、スカーレットの内面と外面を一気に表現という面白い手法が生きていませんでした。今回は「バトラー編」なのでスカーレットが二人登場しますが、お花さまだったら、一人でもスカーレットの二面性が表現できただしょうし、逆にその方がまとまったと思うのですがいかがなものでしょう。とはいえ、和央バトラーと花總スカーレットはベテランコンビらしいバランス良さで、新居お披露目パーティでの並びはなかなかなもの。ま、心の通じ合わない仮面夫婦というより、ラブラブカップルに見えてしまうところもこの二人ならでは、ですね。(ちなみに、フィナーレでの「ナイト&デイ」は恋の駆け引きのダンス・ナンバーなのですが、この二人だと最初からこれまたラブラブ。この時点でお腹いっぱい・笑)
 そして、霞を食って夢の世界に生きているアシュレには元気一杯の初風緑。歌も芝居も上手いし、華やかな金髪がいかにも貴公子の雰囲気。しか〜し、宙組の超然としてあっさり芝居と初風さんのテンションの高い、熱〜〜〜い芝居との相性が悪く、やたらとアシュレがアクティヴで生活感溢れている男に見えてしまうのですから、同じ宝塚とはいえ「組制度、恐るべし」です。何てったって、バトラーよりも現実味があり、ルックスも雰囲気も生活力に溢れているのですもの。ここ最近の初風さんは「張り切り」が前面に出てしまうキライがあります。もちろん、専科として特別出演するのですから「普通」ではつまらないのですが、なまじ実力があり、トップさんが同期や下級生となると、悪目立ちになる危険があります。同じ場をさらうのでも、樹里さんと初風さんとでは、キラキラとギラギラの差がありますね(この表現でわかるかしらん?)
 ギラギラといえば、組長はマミー、副組長はミード夫人に回り、いつもに比べて大人しい印象。ま、それだけ下級生に役が回ったとも言えるのですが、個人的には残念な配役。いっその事、組長がスカーレットII、副組長がベル・ワットリングだったら「お姐さまたちに翻弄されるバトラーやアシュレ」という構図になって、何かとよろしくなくって?(あ、妄想入っちゃった・汗) あ、今回の個人的ツボです。「お聞きになった!? 嘘でしょ!!」のナンバーで副組長さんがソロを取りました! 柚美姐さん、ゆら姐さんに続き、あらビックリ!
 さて、大作といわれる「風と共に去りぬ」は意外と大きな役は少なく、チョイ役だらけなのですが、「トップコンビとその他大勢」の宙組にとっては手ごろな作品だったかもしれません。地方公演とあって、下級生一人一人に見せ場が回ってくるので、みなさん頑張っていました。そして、まだまだトップさんの脅威とはならない子たちの頑張りは見ていて爽やかです。そして、相変わらず、宙組のコーラスは素晴らしかったです!!
 ……とまぁ、楽しかったんだか、苦行だったのか自分でもわからない公演でしたが「お花さまのスカーレットを観ちゃった」のが最大の収穫。もう、とことんいっちゃってください!! さて、このところ宝塚の地方公演は「ジャワの踊り子・月組」「ジャワの踊り子・花組」「風と共に去りぬ・宙組」と一本立て大作が続いていますが、フィナーレが付くとはいえやはり重く暗い公演になってしまいますので、「芝居+ショー」の定番公演で回るのがよろしいのではないでしょうか。ことに、今回のようなちょっと無理あり作品の場合、ショーで息抜きというのはお客さんにとってもありがたいんですけど。


2004年10月23日(土)15:30-18:55
宝塚歌劇団花組「La Esperanza」「TAKARAZUKA舞夢!」@東京宝塚劇場

 S席 8000円 1階-19列-41番 (パンフレット:1000円)
 演出:正塚晴彦(Esperanza)/藤井大介(舞夢)

 カルロス(一流タンゴダンサーを目指す青年):春野寿美礼
 ミルバ(画家志望の娘):ふづき美世
 ベニー(ダンサー。カルロスのライバル)ト:水夏希(宙組)
 ファビュエル(クラブのオーナー。フラスキータのパトロン):霧矢大夢(月組)
 マイケル・ゴールドバーグ(往年の名映画俳優):未沙のえる
 ゴメス(美術界の重鎮):夏美よう
 アリーネ(ゴメスの妻):梨花ますみ
 ファン(ホテルのボーイ。カルロスからタンゴを習う):彩吹真央
 トム(ドキュメンタリー映画のディレクター):蘭寿とむ
 アンヘル/ペペ:愛音羽麗
 フラスキータ(カルロスのダンスパートナー):遠野あすか

 正塚作品というと「暗い、難しい、役少ない」というイメージがあり、大劇場よりは小劇場(といっても宝塚だから1000人クラスだったりしますが)の方が向いているというイメージがありましたが、今回はそんな先入観を吹き飛ばすような軽やかな作品が登場しました。ストーリーや展開は結構とんでもないし、ミュージカル処理も「これは○○(←作品名を入れてね)の演出と同じ?)」というものが多かったのですが、僕としては珍しく突っ込みよりも楽しさ優先でした。各生徒の見せ場あり、ボロが出ないようにとの配慮もあり、というのは当て書き作品ならではですね。もっとも、春野すみれがダンサー役というのも、実際のダンス力はともかくとして、設定としては良いのではないでしょうか?(男役という時点でリアルさを求めても仕方ないですもの。。。) 
 さて、その春野すみれ嬢ですが、今まで開放的な発声と歌いまわしが魅力の歌手、というイメージがあったのですが、このところ発声法と歌唱法が変わってしまい、内にこもるようなくぐもった声と、大劇場よりもライヴハウスにふさわしいと思える、あれこれ凝りまくりの歌唱にちょっと引いてしまいました。役が必要としているから歌い方を変えるのではなく、こんな歌い方もできるんですよ、と見せつけるような印象を受けたのです(あぁ、ナルシスト〜ってね)。一体、彼女に何が起きてしまったんでしょ? おまけに、なまじ歌えてしまうがゆえに与えられる、つまらん主題歌! 単独で歌い継がれるような名曲ならばいざしらず、難しだけで記憶にも残らないような歌は要りません。主題歌は耳に残ってナンボのものではないでしょうか。実はこれはショーにも言えるのですが、公演が終わって数日たった今、1フレーズとして思い出せないのは寂しい限りです。「あぁぁ愛は〜愛は愛は〜」でも「ドレミファソーファレーファミー」でも何でも良いんですが。とはいえ、芝居もショーも相手役をとっかえひっかえで、トップさんとしてなかなか美味しいポジション。芝居ではダンサー役なので踊りも多く、さらには歌に芝居に出ずっぱりでの大活躍。でも、彼女のお芝居は取り立てて下手というわけではないのですが、これまた優等生チックなので面白くはないなぁ。。。トップになった頃は勢いがありましたが、ここ最近だれてる!?!? そしてショーでは「歌手」として専念。あまりの歌いまくりに、ショー後半には、「さすがに歌いすぎや」と思ってしまいました。ま、今の5組のトップさんの中でとりあえず歌えるのは春野嬢だけなので、歌わせたくなる演出家の気持ちもわかりますけど。今回のショーは、歌は歌手に、ダンスはダンサーに任せて、無理はさせないという構成潔くて心地よいけれど、それぞれ芯となる生徒が「自分の見せ場だ」と押しまくるので、ちょい疲れます。上演中に襲った地震により、中詰直前で公演が一時STOPしたのですが、この小休憩が入って丁度良いボリュームでした。ま、藤井さんならではの作り込みですけど。彼の作品は観る側にも体力を要求される気がします。本日がmy初日かつmy楽ですが、堪能しました。悔いなしっという気分。リピートは……いいや(笑)
 そんなこんなで、公演全体としてのバランスはともかくとして、生徒一人一人は張り切って舞台をつとめていました。母親役の翔つかさなんて、芝居の流れとしてはとんでもない暴挙芝居なのですが、そのシーンに関しては非常に楽しませてくれたので、個人的に◎(おなじ思いのお客さんが多いようで、拍手も大きかった!)でしたし、特別出演の水嬢はクールな熱さで(日本語変?)男役の色気を振りまき、霧矢嬢はいつの間にやら大人の包容力ある男が似合う頼もしいスターになり(もう少しスケールが大きくなれば鳳蘭の後継者になれるかも)それぞれ個々の男役像を見せ付けて公演に彩りを与えたのでした。優等生トップの下には個性派スターがおおいに技を競い合っていただきたいものです、公演が盛り上がるためにも。今回は色々なタイプの男役が揃っていて、場面ごとにカラーがかわるのが面白かったです。そんな中、娘役としてひときわ輝いていたのが遠野あすか嬢。芝居では実質的にトップ娘役扱いでしたし、ショーでも歌にダンスにWトップ娘役状態。ヒロインとしての輝きぶりでは完全にふづき嬢を喰っていました。そのふづき嬢は、台詞はつたなく、歌はキンキン、踊りはドタバタで、今回は観ているこちらが辛くなるような出来。張り切り度はピカ一なのですが、どうも技術がないので空回り。彼女の特性はヒロインよりも、ちょっとクセのある大人の女性ではないでしょうか。地味な衣装ですが、アトリエで大きなエプロンをまとっている姿はすっきりしていてお似合いでした。彼女はあまり、仰々しくない方が良いです、はい。  頑張ってはいるのですが、いま一つ効果が出ていなかったのが、彩吹真央、蘭寿とむのお二人。新公卒業後の伸び悩みの時期なのでしょうね。アピールしたい、という熱意と、アピールする技術(学年やポジションのおかげで、勢いで押すだけでは光らないのです)とのギャップに苦しんでいるように見受けられました。逆に、普段は目立たないスター路線以外の脇役陣の頑張りが目立った印象がありました。男役で目立っていた下級生は桐生園加。今までのイメージに反して細〜〜〜いのですが、ダンサーとしての非凡な才能を披露。生徒の今まで知らなかった才能と出会うのは嬉しいですね。次から次へと湧き出てくる宝塚のスターシステムの素晴らしさよ!


2004年10月30日(土)18:00-20:25
tpt「ナイン the musical」

 A席 8000円 3階-D列-13番 (パンフレット:1000円)
 演出:デヴィッド・ルヴォー

 グイード:福井貴一
 リトル・グイード:永嶋柊吾
 ルイーザ:高橋桂
 カルラ:池田有希子
 レナータ:鈴木智香子
 ママ:花山佳子
 ステファニー・ネクロフォラス:安奈淳
 ダイアナ:岡田静
 オルガ・フォン・ストゥルム:江川真理子
 マリア:麻生かほ里
 リナ:高塚いおり
 ソフィア:高汐巴
 サラギーナ:田中利花
 ジュリエット:山田ぶんぶん
 アナベラ:井料瑠美
 クラウディア:純名りさ
 スパのマドンナ:剱持たまき
 リリアン・ラ・フルール:大浦みずき

 土曜日の公演だというのに開演時間と開場時間を間違えたかと思うほどの客入り。空席率が「9」割だったのではないでしょうか。出演者が豪華なのにもかかわらず、残念な限りです。とはいえ、非常に難しい作品で、クラシカルな歌唱力のみならず、力強い音色まで求められるナンバーの数々には、クラシック系、ミュージカル系どちらの役者も苦戦しているのがアリアリ。また役者のみならず、観客もフェリーニを初めとするちょっと昔の映画だとか、ヨーロッパの貴族文化についてなどの知識・教養を求められるので、実はこの方面の情報が少ない日本では一般受けしにくそうなのは確かな作品です。東宝が日生劇場でショーアップして上演した時もありましたが、tptがアートスフィアで上演ということなので、スケールが小さくなってしまうのは仕方がないとしても、高汐・井料といったよその舞台では主演を張る役者ですら台詞やソロはほとんどなし、というのはもったいない気がします。予算の関係か、ほとんど前宣伝のなされていない公演ですが、もっと作品紹介を宣伝の段階(含むチラシ)で行う必要があるかと思います。
 上記キャストの中では、大きさと実力を見せ付けたのが大浦みずき。色気ある大人の女を演じさせたら屈指の実力派ですね。「フォーリー・ベルジュール」のレビューシーンは圧巻でした。そして、ミュージカル俳優でありながら、クラシカルな唱法を得意とする純名りさが余裕ある歌唱で抜きん出ていました。この二人が芯を取るシーンは作品にメリハリが生まれ、実に見応えがありました。逆に、この二人の存在感に他女優が負けてしまったがために、作品の粒が立たなかったキライがあります。残念ながら、他女優さんは出番の少なさ、台詞や歌のなさというのを差し引いても、存在感やアピール力がなかったのが残念です。技術に振り回されていっぱいいっぱいの人、どこにいたのか印象に残ってない人、始終不機嫌で芝居してない人など様々でした。中でも最大のミス・キャストがグイード役の福井貴一。本当に音大の声楽科卒業なの!?と聴くたびに思ってしまう歌と、ヨーロッパの香りや成熟した文化を感じさせないセクシーのかけらすらない芝居、何よりも存在のあまりの薄さが致命的でした。この作品が成功するには、大勢登場する女優陣が束になってもかなわないような強烈なフェロモンのある男優が必要かと思いますが……適役と思える男優が日本にいるでしょうか!?!?
 とりあえず、来年の夏の再演は決まっているようですが、魅力的な美術や水を利用した幻想的な舞台に負けず、人間ドラマを感じさせるには相当のテコ入れが必要かと思います。求む、色気!
 余談ですが、高汐巴のメイクと雰囲気は美輪明宏が登場したかと思いました! あ、最後になりましたが、今回の感想は敬称略です。すみません。