観劇日記〜2007年10月〜
02日(火) 19:00 音楽座Rカンパニー「とってもゴースト」 かつしかシンフォニーヒルズ
モーツァルトホール
05日(金) 19:00 TPT「PIAF -ピアフ」 ベニサンピット
08日(月・祝) 12:50 映画「エディット・ピアフ 愛の讃歌」 東宝シネマズ 市川コルトンプラザ
スクリーン7
08日(月・祝) 16:00 宝塚歌劇団雪組
「星影の人」
「Joyful!! II」
市川市文化会館
09日(火) 19:00 マリオ・ブルネロ「無伴奏チェロ・リサイタル」 すみだトリフォニーホール
13日(土) 18:30 中鉢聡/樋口達哉/小山陽二郎
「風の丘3大テノール がらがらコンサート」
はなみがわ風の丘HALL
14日(日) 15:30 宝塚歌劇団月組
「MAHOROBA -遥か彼方YAMATO-」
「マジシャンの憂鬱」
東京宝塚劇場
15日(月) 19:00 古川展生/徳永依子「チェロとピアノの夕べ」 MUSICASA
17日(水) 18:30 ミュージカル座「ロイヤルホストクラブ」初日 新国立劇場小劇場
18日(木) 18:30 宝塚歌劇団月組「MAHOROBA」「マジシャンの憂鬱」 東京宝塚劇場
20日(土) 12:00 東宝「イーストウィックの魔女たち」 帝国劇場
21日(日) 14:00 新国立劇場「ワーグナー:タンホイザー」 新国立劇場オペラパレス
25日(水) 14:20 映画「ヘアスプレー」 丸の内ピカデリー1
25日(水) 18:30 劇団四季「WICKED」 電通四季劇場[海]
27日(土) 14:00 新国立劇場「モーツァルト:フィガロの結婚」 新国立劇場オペラパレス
28日(日) 11:00 宝塚歌劇団雪組「シルバー・ローズ・クロニクル」 日本青年館


2007年10月02日(火)19:00-21:45
音楽座Rカンパニー「とってもゴースト」@かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

 S席 7000円(WEB予約) 1階-9列-27番 (パンフレット:無料)

 演出:ワームホールプロジェクト

 入江ユキ:浜崎真美
 かたまり様:秋本みな子
 老婆・アシスタント:清田和美
 記者:堀川亜矢
 由美:村田麻衣
 めぐみ:兼崎ひろみ
 社員:野口綾乃
 社員:大川麻里江
 社員:渡邊りせ
 社員:奥津菜々子
 社員:今野早香
 社員:松田千穂

 服部光司:安中淳也
 ガイド:新木啓介
 ガイド2:渡辺修也
 加藤:藤田将範
 最高おじさん:佐藤伸行
 支配人:五十嵐進
 カメラマン:関川慶一
 社員:萩原弘雄
 社員:高嶋雄一
 社員:黛一亮

 今回の「とってもゴースト」はツアー公演のみで、東京は9/28の府中と、10/2のかつしかだけ。かつしかシンフォニーヒルズは良いホールだとは思うけれど「劇場」ではないので、ミュージカルにはいま一つ。以前、すぐ近くの曳舟文化センターで音楽座ミュージカルを上演したことがあるけれど、あちらの空間の方が音楽座向きだった気がします。装置が小規模なので、間口を狭めても16mあるかつしかのホールだと、舞台がスカスカに見えてしまい、幕あきのインパクトはいつもほど感じず。客席の入りもイマイチで(本来、2階1列12番だったのが、2階席閉鎖に伴い、1階席にチケット交換となりました)を考えると、もっと小さい劇場で良かったんじゃないかな、と贅沢なこと思ってました。前半はほとんど拍手もなく、音楽座らしからぬ温かくない空間に関係者でもないのにドキドキ。これは、音響の問題もあったと思うんです。ツアー公演の難しいところですが、役者やスタッフがホールの音響に慣れるまで時間がかかり、客入り直後のリハーサルとは異なる響きに対応が追い付かないので。よって、オープニングナンバーの歌詞が全然聞き取れず、ちょっと観客はおいてきぼり。ホールと音響がなじむとの、観客から拍手がわき上がるようになるのがリンクしていました。これって、生の舞台ならではの面白いところ。でも、芝居を行いながら、力技でホールと作品を馴染ませ、最後にはスタンディング・オベイションまで観客を盛り上げたカンパニーに拍手!!
 質素な装置、主役陣はほとんど着たきりすずめの衣装、派手なスターはいない、など、僕が好きそうでない要素が揃ってるでしょwww 歌えるスターもほとんどいなくて、歌詞やメロディがちゃんと客席に届かないキャストたちに、幕あきしばらくは「・・・」にはなるんです。ゴメンナサイ、やっぱり歌える人が好き。歌詞覚えてなかったら、かなりイライラしちゃったかも。でも「プロだな」と思うのは、ちゃんと芝居に集中させてくれ、気持ち良く劇場をされるまでに盛り上げてくれること。サラサラした芝居が主流の昨今ですが、とってもハートウォーミングなお芝居をする集団です。歌もなぜか気にならなくなってくるのが不思議。
 今回はゲストを呼ばず、ほとんど座員による公演。音楽座ミュージカルは主人公といえども、普通の人が登場するので「この役は○○さんじゃないとダメ」というのがない気がします。それぞれの役者がそれぞれの魅力で見せればOK(って、それが難しいのは重々承知してますけど)。久しぶりに登場、浜崎真美の入江ユキは、歌唱はやや一本調子ですが(以前はパワーで押し切った記憶が。。。)、ワガママ女→光司への愛に浸る可愛い女→光司を母親のように包み込んで去っていく大きな女と、変化っぷりがくっきりした芝居が見もの。週刊誌が大騒ぎするような、カリスマ・デザイナーではないけれど、それがと小市民的な感じに繋がって(実際、大した事件が起きるわけじゃないし)「とってもゴースト」が身近な作品に感じられました。感情移入しやすいです。蛇足ながら、足がキレイなのでミニスカートがとってもお似合いなのが嬉しい♪
 安中淳也の光司はある意味とっても音楽座的な主演男優。「どうしてこの子が?」と思う位、とりたててスター性の強い人ではありません。ハンサムなわけでも、歌や踊りが上手いわけでもなく(踊りは動けるけれど、魅せるってタイプじゃないと思う)……って書いてると悪口みたいだけれど、どこにでもいそうな男の子が主役になるというのは、観客に感情移入させるだけでなく、勇気を与えてくれます。「コーラスライン」じゃないけれど「誰もが特別な一人」であり、さだまさしじゃないけれど「私の人生の中では、私が主人公」なんです。役者=エネルギーありすぎて暑苦しいことが多々ありますが、明日からもっと丁寧に生きよう、という静かなエネルギーを与えてくれる方です。そんな意味で、もしかしたら、今の歌唱力ゆえに、支持されるタイプの役者かもしれませぬ(って僕も好き放題言ってますねぇ。。。)
 新木啓介のガイド(「エリザ」における黒天使みたいな役)は、日本人の男優としては帽子がとっても似合うし、どんなに落ちぶれてもダンディで、ちょっとマルセル・マルソーみたい。何よりも歌えるのが強みで、今まではガイド=脇役色が強い役だったのが、一気にスター路線へと格上げ。彼が雷(?)に打たれるたびにどんどんボロボロになっていくのは展開がわかっているにもかかわらず、今回も大笑い。
 でも、ひそかに僕が楽しみにしているのが、チョイ役だけれどおばあちゃん。耳が遠くて、先立たれたじいちゃんには会いたくなくってガイド2から逃げ出し、かたまり様の負のオーラに感染して急に元気でスケバンみたくなっちゃうというだけの芝居なのですが、一つ一つの間が絶品で、芝居と笑いのタイミングがピッタリ。さんざんみている作品にもかかわらず、今日もゲラゲラ。落語じゃないけれど、下手に崩さず、品を保つギリギリのところでキープしてくれるからこそ、笑えるんでしょうね。
 のぶさんはすっかり組長格ですね。五十嵐さんともども、登場するだけで、音楽座の大黒柱登場みたいで、安心。ういういしい新人、芸達者な中堅どころ、味のあるベテランが揃って、素敵な舞台でした。


2007年10月05日(金)19:00-21:45
TPT「PIAF -ピアフ」@ベニサンピット

 全席指定 6000円 22番 (パンフレット:200円)

 演出:亘理裕子
 ピアフ:安奈淳
 支配人/肉屋:青山吉良
 ルプレ/アメリカ士官/ジャン:TROY
 トワール:武田優子
 ピアニスト:阿部篤志
 エミール/アメリカ水兵/ジャッコ:小寺悠介
 外人部隊の兵士/マルセル:瀬戸口剛
 ジャック/ドイツ兵/リュシャン/ドラッグ売人:大和屋ソセキ
 エディ/アメリカ水平/テオ:島村勝
 ルイ/ピエール:井上裕朗
 警部/マネージャー/理学療法士:石橋祐
 ポール/ジョルジュ/バーテン/PAの声:三貴将史
 ドイツ兵/シャルル/アンジェロ:清水隆伍
 ジョセフィン:有希九美
 マドレーヌ:松岡美希
 看護婦:新井祐美

 ピアフの生涯を描いた音楽劇です。男たちを踏み台にして生きていく様は「エビータ」と共通ですが、野心に満ちてギラギラしているエビータとは対照的に、ピアフはひたすら内向的。人間を信じられない女の悲劇とでも言いましょうか。そもそも、生まれ育ちがよろしくないです。ここでいうよろしくない、というのは、金銭面ではなく愛情のこと。両親に、家族に愛されたことのないピアフの精神は幼少の時点でボロボロに崩壊していて、今だったらカウンセリングが必要な状態。他人の話を聞けない、理解しようとしない、自分の意見が通らなかったら大騒ぎする。いわゆる、スターだとかプリマのステレオタイプといえば聞こえは良いけれど、常に「マイナスのオーラ」を発しているあたり、僕には苦手な女性です。とはいえ、愛情に飢えながらも、愛情の受け入れ方を知らないあたり、可哀想な人生だったと思います。まだ少女のうちから娼婦として簡単に性を売っていて、いざ愛する人と一緒になった時にはsexできない体になっていましたし。そもそも、最後だって本当に愛する人といっしょになれたのか怪しいところがあります。男を愛する手段はお金をかけてあげること、ちょっとでも気に入らないことがあると「出ていけ!」ですし、意見の食い違いを一切認めようとしないあたり、本人の意思とは反対に「恋愛しちゃいけない女」なのかも。もちろん、そんな愛情への渇望が彼女に生きた歌を歌わせ、大歌手へと育てたんですけど。
 今回の作品は、ブロード・ウェイではパティ・ルポン、ウェストエンドではエレン・ペイジといった、ミュージカル界のトップスターによって上演された作品。TPT版は「日本でやるならこの人しかいないでしょ」な安奈淳がタイトルロール。唯一無二な歌唱力、圧倒的な声量、下町的持ち味、常に不機嫌そうな暗い雰囲気をまとっていること…(以下自粛)…もうピッタリ。ピアフはシャンソン界の大スターだっただけに、宝塚トップの貫録もこの作品には最適。安奈淳は宝塚を退団してからの方が長く、ミュージカル出演も数多いけれど、おそらく、今回の公演がベスト・パフォーマンスではないかと思います。TPTが安奈淳を出演させたことで、この作品の成功が決まったと言っても過言ではありますまい。元々、芝居を苦手とする人ではありましたが、それは単に得意とする範囲が狭いというだけのこと。もちろん、あれこれ計算しているでしょうが、安奈淳がそのまま素直に演じるだけで、ドラマティックにピアフの世界が現れるというのが圧巻でした。今まで、ピアフを演じた女優(たまに男性?性別不明??な方もいますけど)は多いけれど、ここまで説得力をもった人は初めてではないでしょうか。いや、スゴイ瞬間に立ち会ったもんです。
 この作品はミュージカルではないので、歌が芝居を動かすということはほとんどないのですが、劇中劇として、ショーシーンがやたらと登場します。ここの歌いあげが実に見事。年代によって、その時の状況によって、安奈淳の歌い方が全然違うんです。良く「セリフで遊ぶ役者」っていますよね。「歌で遊ぶ歌手」とでも言いましょうか、クラシックやミュージカルなどといったジャンルをとっぱらって、これほどまでに、1フレーズごとに、一言ごとに、音を作りこむ歌手は珍しいです。ピアフのシャンソンなんてさんざんあちこちで聴いていますが、いかにみなさんが適当に歌っていたのかが鮮明になりました。歌に感情を入れる上手さ、音域の変化に合わせてフレージングに工夫をこらす巧みさ、声の出し方の多彩さ、声量の自在さ、、、「歌とはこんな風に歌うのよ」というお手本でした。オトミさんがピアフか、ピアフがオトミさんか。お芝居の神様が舞い降りてましたよ。
 そんなオトミさんをバックアップするTPTの若手も大活躍。まずは、元・男役のオトミさんを小柄なピアフに見立てるためか、長身の俳優がズラリ。彼らは一人何役も担うのですが、役によって醸し出す空気が違いました。洋物芝居を日本人が演じると、観ているこちらが恥ずかしくなる程に合わないってことが多々ありますが、フランス人にもドイツ人にも一瞬にして成り替わる演技力にゾッコン。芝居の世界に入り込めるか、取り残されるのか、ここで大きく分かれます。体格が西洋人に負けてないこと、衣装の着こなしが衣装に負けてないこと、変に和風テイストを取り入れないこと、などもありますが、そんな小手先テクニックではなく、存在感からして成り替わってしまうあたり、どこをどう調整しているのか、役者たちに、演出かに脱帽です。アンサンブル芝居をしている時はどうってことないのですが、ピアフの恋人役にスイッチした瞬間、ピアフの言葉通り、ハンサムなスターに変貌してしまうのですから、ただただ舌を巻くしかありません。
 男運には恵まれないピアフでしたが、本人の意識は別として女性には恵まれていたと思います。わがままいっぱいで(僕だったら1時間と持たないっ)ピアフを大切に扱い、表になり影になり支えた女たち。古い友人だったり、家政婦だったり、看護婦だったり。出会いの時期は異なるものの、彼女たちの存在があってこそ、ピアフが輝けたのであり、芝居の上でも、気分屋で不機嫌だらけのピアフの、裏の感情や本心を浮かび上がらせるあたり、公私にわたり(公=芝居としての役まわり、私=役としての感情)PIAFを支えていました。時には世間となり、時にはピアフをいさめ、ピアフの暴走を食い止めようとするので、作品の中で波風が出来上がり、作品に山と谷を作ってくれます。ピアフの言葉にカチンときたり、傷ついたり、脇役一人一人が実に魅力的でした。
 ミュージカルや音楽劇というと、名前に反してひどい演奏を聴かされることが多く、あまりの音楽面の虐待に辟易しているのは、みなさんご存知の通りですが、安奈淳と並んで、素晴らしい演奏を繰り広げてくれたのが阿部篤志。どこから持ってきたの?という古ぼけたアップライトピアノで、正直、ピアノのコンディションは良くないです。楽器自体の性能の限界が見えています。が、そのピアノからいかに良い音を引き出すか。今、目の前にある物をどう料理(演奏)すれば最良のものが生まれるのかを楽しんでいる演奏。楽器のキャパを越えた効果を求めず、どこまで繊細にして良いかのギリギリの線を探り「プロのピアニストとはこんなもんよっ」という面目躍起でした。そりゃ、コンディションの良いフルコンをコンサートホールで聴くのとは違います。でも、ベニサンピットという芝居小屋が、パリの古びた劇場にパッと変化してみえたのは彼あってのこそ。音のパレットが豊富で、ピアノの反応の悪さを前後の対比による変化ある表現でカヴァーし、芝居を盛り上げ(時には芝居に参加し)、素晴らしい才能を発揮してくれました。いわゆるソロ・ピアニストではないけれど、職人芸として劇場ピアニストとしえ屈指の才能をみせてくれあした。この出会いにも感動です。今すぐ○○劇場で演奏して!って気分です。あぁ、拉致したい。。。


2007年10月08日(月・祝)12:50-15:20
映画「エディット・ピアフ 愛の讃歌」
@東宝シネマズ 市川コルトンプラザ スクリーン7

 全席指定 ポイント利用無料 H列-4番 (パンフレット:600円)

 監督:オリヴィエ・ダアン

 エディット・ピアフ:マリオン・コティヤール
 モモーヌ:シルヴィ・テステュー
 ルイ・パリエ:パスカル・グレゴリー
 ティティーヌ:エマニュエル・セニエ
 ルイ・ガション:ジャン=ポール・ルーヴ  アネッタ・クロチルド・クロー
 マルセル・セルダン:ジャン=ピエールマルタンス
 ルイ・ルプレ:ジェラール・ドパルデュー
 ルイーズ:カトリーヌ・アレグレ
 レイモン・アッソ:マルク・バルベ
 マレーネ・デートリッヒ:カロリーヌ・シロル
 5歳までのエディット・ピアフ:マノン・シュヴァリエ
 10歳までのエディット・ピアフ:ポリーヌ・ビュルレ

 舞台版に引き続き、映画版を観てきました。台本が別とはいえ、登場する曲も展開もほとんど一緒。通常、映画版の方が時空を自在に飛べるので、舞台版に比べて情報量が多かったりしますが、「ピアフ」に関しては、想像力に物言わせる舞台版の方が情報が多かった気がします。少なくとも、ピアフの恋愛遍歴については舞台の方が多彩。
 逆に、リアリズムや、視覚に訴えるエネルギーは映画ならではのもの。汚れ、荒んだベルビューの描写はは胸に迫るものがありましたし、なによりもピアフの弱くそして荒れた体はとてもショッキング。そりゃ、晩年47歳の女性にしては、30は老けて見えるルックスは写真では見ていましたが、その表情姿勢、声の出し方、なによりも「生」に対する執着心は、動きを伴ってこそ。そんな自らの体をさらに痛めつけるような歌唱はまさに絶唱で、ピアフの歌にかける意気込みがヒシヒシと伝わってきました。
 舞台版になかった場面として、ピアフが一流の歌手として脱皮する際の歌のレッスンのシーンがあります。作曲家が付きっきりで、何時間もぶっ続けの特訓をするんです。天才とは1%の才能と99%の努力の上に成り立つ、とエジソンおじさんはおっしゃってましたが、特に音楽家の場合はそれが当てはまるのかもしれません。「そのままじゃ短命の歌手だぞ!」と既に売れっ子のピアフに対してもビシバシ容赦なく駄目出し。個性だ、オリジナルだというのは、基礎を身につけた上で言えることなんだと、芸の道の厳しさを改めて思い知らされました。ま、実際、一流演奏家と呼ばれている人ほど練習魔だったりしますものねぇ。天下のマリア・カラスだって修行期間が長いんですもの。自己流とオリジナルの境目って微妙だけれど難しい。。。
 舞台版は路頭での歌手活動開始〜死まで、報われることのなかった恋愛の悲しさが全面に出ていましたが、映画版は愛情に恵まれなかった少女がマルセルと愛し合うことにより「愛の賛歌」という名曲が生まれた、という微妙に取り扱う時期や主題がずれています。よって、不幸な恋愛についてはかなりカットされていて、周辺の人物などに細かな伏線が張られています。が、「誰もが納得!スッキリ!!」のハリウッド映画と異なり、「アナタ、これが理解できまして?」な上から目線のフランス映画。かなり意地悪な展開です。フランス音楽もそうですが、全体がボヤ〜っと煙に巻かれたような味付けで、メリハリがはっきりしておりません。それでいて、ところどころに「私が曲を書いてあげるわ」とモノ(「愛の賛歌」の作曲家)が登場したり、ピアフのラブレターの文面が実は「愛の賛歌」の歌詞だったり。恐ろしいことに邦題に反して、ピアフが「愛の賛歌」を歌う場面なんて登場しやしません。一番地味なBGM扱いなのですから、フランス人のプライドの高さに脱帽です。派手に盛り上げる場面はどうでも良い(って書くと語弊がありますが)曲を使ってるんですから、なんてひねくれてて素敵なんでしょう♪
 きっと、フランス文化だとか、ピアフの周辺に詳しい人にとってはたまらなく面白い映画だと思います。が、門外漢にとっては、エピソードの羅列のようにも思える危険性をはらんでいます。実際、舞台版を先に観ておいて良かった、と思うことも多々。このあたり、イギリス演劇とフランス演劇の違いが表れていると思いませんか?
 マリオン・コティヤールはかなり広い年齢幅を一人で演じ切り、年代に応じて歌い方も切り替えるという離れ業をみせています。彼女のピアフへのなりきりぶりは必見です。脇を固めるのも、フランス映画でお馴染みの(ということは現地ではきっと重鎮の)スターたち。フランス人の体臭が漂ってくるような、良い意味でローカルな映画でした。もう一度観たいか、となると微妙ですが、イギリス芝居とフランス映画、同時期に観られて、面白い体験をさせていただきました。


2007年10月08日(月・祝)16:00-19:05
宝塚歌劇団雪組「星影の人」「Joyful!! II」@市川市文化会館

 A席 5000円 2階-12列-49番 (パンフレット:1000円)

 演出:柴田侑宏・尾上菊之丞(星影の人)/藤井大介(Joyful!!II)


 沖田総司:水夏希
 玉勇:白羽ゆり
 近藤勇:汝鳥伶(専科)
 横井良玄:飛鳥裕
 喜久/染香:灯奈美
 山崎丞:未来優希
 お島:ゆり香紫保
 幾松:天勢いづる
 土方歳三:音月桂
 市哉:麻樹ゆめみ
 おみよ:山科愛
 福富:舞咲りん
 永倉新八:奏乃はると
 山南敬助:彩那音
 加代:花帆杏奈
 桂小五郎:柊巴
 明里:涼花リサ
 佐藤忠四郎:谷みずせ
 玉菊:穂月はるな
 原田左之助:真波そら
 早苗:晴華みどり
 井上源三郎:沙央くらま
 花鶴:鞠輝とわ
 藤堂平助:衣咲真音
 玉葉:早花まこ
 高木剛:大湖せしる
 斉藤一:紫友みれい
 安紀:純矢ちとせ
 江波大介:桜寿ひらり
 松本吉次郎:涼瀬みうと
 おゆき:千風カレン
 豆福:美乃ほのか
 篠原幸三郎:透真かずき
 並木祐一郎:詩風翠
 豆千代:希世みらの

 「星影の人」の初演は1977年。実に30年ぶりの再演です。時代劇なので、さほど古臭さを感じず、逆に作劇の見事さに感銘を受けました。ここ最近の宝塚は柴田作品の再演が多い気がします。それだけ氏の作品の完成度が高いことが原因でしょうか。登場人物が多いけれど、それぞれに小さな見せ場が与えられていること、単に見せ場を与えているだけでなく、それらの積み重ねが主人公を際立たせたり、ストーリーに深みを与えていることなど、最近の作品とは違った深みがあります。登場人物がやたらと多いけれど、要らない役は一つもない、という事にもの凄い才能を感じます。それでいて、ちゃんとトップが引き立つようにできているのですから、天才的!!
 物語はお馴染み新撰組です。ついこの前まで爬虫類のようなトートを妖しく演じていた水夏希ですが、打って変って爽やかな若者ぶり。声のトーンも高め。若々しさが際立ちます。ニヒルな役を振られることの多い水君ですが、本来はこの手の爽やか路線が似合うスターだと思ってます。玉勇の白羽ゆりも、今の宝塚でこの役を演じるのは彼女しかいないでしょう、と納得させる大活躍。芯が強くてたおやかでという素敵な女っぷりでした。華やかな方なので、芸者がとっても似合います。最も成長を感じたのが音月桂。セリフ回しの重々しさ、歌の安定度など、新人と思っていた彼女もいつの間にかしっかり組の屋台骨を支える存在に。それにしても、組長・副組長は参加するし、二番手以外のスターはほとんど出演しているし、やたらと充実した地方公演です。トップさんと新人たち、という公演がここ最近の地方公演の主流だっただけに、充実ぶりに目を見張りました。願わくば、本公演でちゃんとしたセットで観たかったです。地方公演限定じゃもったいない。。。
 ショーは前トップ朝海ひかるのトップお披露目作品のリメイク。白羽ゆりは当時二番手娘役だったなぁ、というのは覚えていますが、リピートしてない公演なので、ほとんどうろ覚え(彼女はクラシック調の歌は悪くないけれど、ショーの歌になると途端にヘタッピなのが意外)。バレエ系が強い朝海ひかるに対し、ジャズ系を得意とする水夏希ですが、スターダンサーとして「いかに魅せるか」を熟知していて、すっかり自分のスタイルでショーを染め上げたのはトップとしての意地。ショー前半は単調だし装置もかわらないので飽きてしまいましたが、後半の追い込みが素晴らしかったです。出ずっぱりでずーっと踊っているのですが、勢いがありました。芝居ではボロの出た歌も、ショーではボロが出る前に踊りだしちゃうので得してます。彼女は足さばきの見せ方がきれいですね。片足はつま先立ちして、もう片足は膝の位置に曲げるポーズが角度が絶妙に計算されていて、実に美しいです。ショースターとしての華やかさも申し分なく、楽しいショーに仕上がっていました。なお、ショーでの実質的な二番手は未来優希。歌につなぎに、別格の実力を発揮。トップさんの輝きを邪魔せず、それでいて自分も輝いてしまうあたり、スゴイ力量の持ち主ですね。若手男役も見せ場を与えられ、頑張ってはいました。本公演でも通用するよう、早よ育ってね〜。


2007年10月09日(火)19:00-21:00
マリオ・ブルネロ「無伴奏チェロ・リサイタル」@すみだトリフォニーホール

 S席 6500円 1階-8列-21番 (パンフレット:無料)

 ツィンマーマン:無伴奏チェロのための4つの短い練習曲
 バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 BWV1008
 ソッリマ:ラメンタート
(休憩)
 バッハ:無伴奏チェロ組曲第5番 ハ短調 BWV1011
(アンコール)
 ソッリマ:コンチェルトロトンドより
 カサド:無伴奏チェロ組曲より

 無伴奏チェロのコンサートです。実は王子ホールにて、古川のぼぉちゃん出演(というか音楽監督?)の「銀座チェロフェスティバル」が開催されているのですが、のぼぉ倶楽部の面々はこっそりトリフォニーホールに集合。既に一部は浮気が本気になっているのですが、とりあえず、僕は初浮気。で、見事にやられました。やばいです、本気になりそうwww
 チェロという楽器に対して、トリフォニーホールは確かに大きいと思います。無伴奏ともなると、一人で全責任を負うコンサート。通常だたら緊張でガチガチになるところでしょう。さぞ、偉そうな人が登場するんだろうなと思っていたのですが、舞台に登場したのは、フリースをサックリ羽織っただけの、気合いも緊張もなく、でも音楽には真摯な方でした。「ミスター山男」の異名を持つブルネロですが(富士山にチェロをかついで行き、岩に腰かけて演奏しちゃうのだぁ!)、そんな自然を相手にしている彼にとって、ホールも聴衆も小さい、小さい。ただ、自分の音楽を追究するだけ。派手な演奏効果を誇示するでなく、かといって小さくまとまることなく、ブルネロと自然との対話を拝聴する……そんな印象。
 一度舞台に登場すると、曲の間も全くなく、まるでプログラム全体が一つの曲であるかのように演奏。静寂すら曲の一部のような品格。通常のコンサート会場では、楽章間は観客の咳ばらいでうるさいことこの上ないものですが、今回のコンサートはシーンと静寂が支配。音が完全に消え入る、その瞬間を逃すものか、とブルネロと観客の魂が一つになった、そんな素敵な瞬間でした。
 ブルネロのチェロの音は、芯が通っていて、それがしっかり太いので、非常に通りが良いです。ベースがしっかりしていて、その周りを装飾音や残響で飾る感じ。よって、どんなにメカニカルな曲であっても、演奏効果やテクニックに惑わされることなく、音楽に集中できるんです。今弾いているのが「主」なのか「従」なのかがはっきりしていて迷いなし。楽器の鳴らし方も心得たもんで、ブルネロ・ファンによると、それでも今回は雑音が多かったそうですが、僕にしてみりゃ雑音なんてないに等しい位。難しいテクニックが必要な部分も、チャイコン優勝の名に恥じず、ごくごく普通に弾いてしまいます。涼しい顔して格好つけるんじゃなくて、普通に弾いちゃうんです。勢いで弾いちゃうなんてとんでもない。一つ一つのフレーズも実に丁寧。
 それでいて、真面目一本の演奏ではなく、時にイタリア男のエロエロモードで、時に管楽器やヴァイオリンのような甘い音で、しっかり味付けをしています。全体でのバランスのとり方が絶妙なのかな。普段聴きなれているのぼぉちゃんのチェロが都会的なのに対し、ブルネロのチェロはちょっと郊外的(って何よ?>自分)な印象です。音楽にバックボーンが表れているんでしょうね。「面白いなぁ」というのと同時に「世界には凄い人がまだまだいるんだろうな」と、好奇心を刺激される時間でした。
 あくまで僕の想像ですけれど、ブルネロはまずコンサート全体の構成を練り、曲の表現もその中でのバランスを考えながら、フレーズの構築を行っているのではないでしょうか。一時のメロディに惑わされることなく、演出かとして、指揮者として、曲を理解してコントロールしてるのではないかと。ひいては、それが音楽の骨格の大きさ、スケールの大きさになるのではないかと。木を見て森を見ない演奏家もたまにいますが、まず森を見て木を育てている、そんなイメージ。
 蛇足ながら、終演後のサイン会、一人一人と丁寧にお話してくれるのですが、その聴く姿勢が実に丁重で謙虚。音楽だけでなく、人間についても一瞬の印象ではなく、全体像をとらえようとしているのではないでしょうかねぇ。


2007年10月13日(土)18:00-20:05
中鉢聡/樋口達哉/小山陽二郎「風の丘3大テノール がらがらコンサート」@はなみがわ風の丘HALL

 A席(前2列自由) 4500円 最前列-左端 (パンフレット:無料)

テノール
 中鉢聡
 樋口達哉
 小山陽二郎
ピアノ
 瀧田亮子

 レオンカヴァッロ:朝の歌(中鉢+樋口+小山)
 ヴェルディ:女心の歌〜リゴレット〜(樋口)
 J.シュトラウス:私はジプシー男爵〜ジプシー男爵〜(中鉢)
 ジョルダーニ:カロ・ミオ・ベン(小山)
 ガルデル:想いの届く日(中鉢)
 ドニゼッティ:人知れぬ涙〜愛の妙薬〜(小山)
 ブロスキー:BE MY LOVE(樋口)
(休憩)
 レクオーナ:「アンダルシア組曲」より「マラゲーニャ」(瀧田ソロ)
 モリコーネ:ニュー・シネマ・パラダイス(樋口)
 マスネ:春風よ、なぜわたしを目覚めさせるのか〜ウェルテル〜(小山)
 ガルディーリョ:カタリ、カタリ
 プッチーニ:誰も寝てはならぬ〜トゥーランドット〜(中鉢+樋口+小山)
(アンコール)
 カプア:オー・ソレ・ミオ

 クラシックのコンサートとしては異例の1日3回公演。喉のあたたまり具合を考慮して、最後の公演をチョイスしたのですが、何でも、トークの内容も演奏曲も毎回違ったとかで「全公演押さえるんだった〜」と歯ぎしりしてます。時間としては2時間たっぷりの通常サイズのコンサートでしたが、あまりの楽しさに「へっ、もうおしまい?」とおなごり惜しいことに。この感覚、淋しいんだけれど嬉しい♪
 風の丘HALLは、常設オペラハウスとしては、首都圏でミニマムではないかと思います。85席です。さすがにオケは入らないので、通常ピアノ演奏によるオペラが上演されています。樋口さんいわく「稽古場よりも狭い!」んですから。確かに、通常のオペラだったら、本舞台の空間の方が広いですわなぁ。コーラスだけで100人とかいるわけですし。一応ホール後方に段差は設けてありますが、「前の人が邪魔っ」とイライラしないために、奮発してA席を購入。亮子さんのすぐ横、まるで譜めくりストのような席を確保してホクホク。楽譜もちゃんと見える席ではあるのですが、いかんせん亮子さんなので、曲によっては楽譜なしてポロロンと。ソロもあったけれど、ソリストに合わせて、あの手この手を繰り出す亮子さんのピアノに釘付け!
 ……なぁんて書きだしちゃいましたが、ソリストだって負けていません。何しろ「風の丘3大テノール」なんて謳ってますけど、二期会や藤原歌劇団で、ここ一年の間に主役を務めている面々。なんとも贅沢なコンサートです。宝塚だったら、各組トップが共演のTCAスペシャルみたいな感じ。でもって、この3人、空間が狭いんだっちゅうのに、東京文化会館で歌っているかのような本気モードなので、どんなドラマティック・テノールが出演のオペラにも負けないド迫力。一般家庭の中でフルコン・ピアノを弾くようなもんです。実際、会場中の酸素を一瞬にして3人に吸いつくされるようで、クラクラしましたさ(それが狙い?)。中鉢氏は一時期のハラハラ期が終了し安心の歌声。一年前より、今の方が声の方がまろやかで好き。デビュー当初は苦手なテノールとしてケチョンケチョンに僕がこきおろしていた樋口氏は素敵なテノールに大化け。「聴いてて辛い〜」から「もっと歌って〜」の存在に大昇格。歌手の方って楽器に比べて変化の度合がドラマティックですね。小山氏は軽く柔らかくどこまでも高く歌っちゃう人というイメージでしたが、話し声がハスキーでその意外さにビックリ。ピアノにおけるモーツァルトではないけれど、地味だけれどテクニックもろわかりの渋い選曲にこれまたビックリ。(他の二人にも「怖くて歌えないよね〜」と突っ込まれてました)。
 さて、この3人、レパートリがかなり重なるのはご愛敬ですが、逆に誰が何を歌うのかわからないのと(プログラムは公開されていませんでした)、声の種類によって、同じ曲でも全然違う響きになることが面白く、これぞガラ・コンサートの醍醐味です。声だけでなく、歌い回しやちょっとした仕草、演奏前後のステージマナーにも個性が出るもんですね。仲良さそうだけれど、てんでバラバラな3人なので、ステージに変化があって楽しいです。
 でも、好き勝手なことをしでかしているようで、さりげなく気遣いしちゃうのがお人柄。中鉢氏は「他の人が選ばない曲を選んでみました」、樋口氏は「そういうキャラが求められているならば」と4回は衣装を変えていますし、小山氏も来月公演「3大ソプラノ がらがらコンサート」の宣伝をしつつも「今日ほど素晴らしくないと思いますけど」と茶目っ気タップリ。3人とも、オペラの時や、ソロの時は大人っぽく振る舞っていますが、なんだか「男の子3人が集まっちゃった」みたいな雰囲気で、いつもになくヤンチャで坊やした。亮子さんなんて、男兄弟に囲まれたお姉ちゃんみたいな風情で、いたずらしたり、アハハと笑ったり、これまた気さくで良い感じ。入場の際に「サンタ・ルチア」の歌詞カードを渡されたっきりなのは謎ですが(マチネでは使ったんやろか?)、夜勤明けなのを忘れて、なんだか頬の筋肉が今になって痛くなるような、笑顔の絶えないコンサートでした。
 この楽しさ、何とか普段の舞台にも流用できないかな、と思いついたのがオペレッタ。ロッシーニなんかの計算された面白さの舞台は藤原歌劇団で定期的に上演されていますが、今が旬のこのお三方、表情豊かだし、サービス精神旺盛だし、ちょっと小さめの会場で(このホールでも良いやん)、キャラクター勝負の作品で、あれこれやりあって欲しいなぁと。アンケート書きそびれてきちゃったけれど、今からでもリクエスト書いてFAXしちゃおうかしらんwww


2007年10月14日(日)15:30-18:35
宝塚歌劇団月組「MAHOROBA -遥か彼方YAMATO-」「マジシャンの憂鬱」@東京宝塚劇場

 A席 5500円 2階-9列-13番 (パンフレット:1000円)

 演出:謝珠栄(MAHOROBA)/正塚晴彦(マジシャンの憂鬱)

 年間ラインナップが発表された時点では全然期待してない公演だったんです。(1)このところ、宝塚の和物作品のレベルダウンがはなはだしい、(2)スサノオを扱った作品が数年前に雪組で公演されている、(3)謝珠栄のダンスはともかく和物の実力が未知数、(4)「マジシャンの憂鬱」というタイトルが憂鬱。。。、(5)月組はコメディ続きで飽きた、(6)月組座組にこだわると作品が平坦でつまらなくなる、、等々、ショーも芝居もネガティブな印象ばかり抱いていました。が、蓋を開いてみれば、ここ数年の中でも屈指のショーと、上質の笑いに包まれた小粋なミュージカルのお出まし。夏休み公演では当日券出しまくりだった東宝劇場ですが、平常公演にもかかわらず、今回の公演ではチケット求める人が劇場の周りにウヨウヨ。熱気に包まれた公演となりました。久しぶりに「リピートしたいな」という公演です。長くなるので、今日の感想は生徒ではなく、作品について思ったことを書いてみようと思います。

「MAHOROBA -遥か彼方YAMATO-」
 イザナギ/オウス/ヤマトタケル(オウス):瀬奈じゅん
 イザナ/オトタチバナミ:彩乃かなみ
 サルメ:霧矢大夢
 サダル:大空祐飛
 スサノオ:萬あきら(専科)
 ツクヨミ:未沙のえる(専科)
 アマテラス:出雲綾
 キビツヒコ:北嶋麻実
 スメラミコト:越乃リュウ
 オオワタツミ:嘉月絵理
 ヤマトヒメ:花瀬みずか
 ハヤアキツヒメ:一色瑠加
 オオヤマツミ/クマソタケル兄:遼河はるひ
 ハヤアキツヒコ:研ルイス
 シナツヒコ/クマソタケル弟:桐生園加
 ヒノカグツチ:青樹泉
 カヤノヒメ/ニライカナイの姫/カヤノヒメ:城咲あい
 クラオカミ:星条海斗
 ククノチ:龍真咲
 クラミツハ:明日海りお

 ショーは作・演出だけでなく、全編の振り付けを謝珠栄が担当。統一感が取れていること、振り付けのレベルが高いことから、中途半端な場面などなく、緊張感が最後まで保たれていて、アッパレな仕上がりです。個人的に喜多氏がお亡くなりになってからというもの「この振り付け良いなぁ!」と思うものはほとんどが謝珠栄によるもの。生徒たちは高度なテクニックと、休みなしに踊りまくる体力、そして早替わりの連続で、いつもの倍は疲れていることでしょうが、楽して人気のない公演よりも、しんどくても高く評価される公演の方が出演していて幸せなハズ。現に、舞台上の上で実に生き生きしていて、勢いがありました。思うに、通常の振り付けだと次の展開が読めるし、技術的にも余裕があるので、気を抜く(と書くと極端ですが)ことが出来ますが、キャパシティいっぱいの状態だと手の抜き用がないんです。もちろん、イッパイイッパイとは違うので、ギリギリのラインではありますが、ちゃんとお客を楽しませようという意欲が感じられます。日本各地の民族芸能が登場するものの、音楽も振り付けも現代的にアレンジされていますし、衣装や美術においては、まるで外国人が想像する日本のごとき。国籍不明なんだけれど「エキゾティック・ジャパン」の香りが漂っていて、日本人でありながら、非常に新鮮(畳の上を靴のまま歩きまわる蝶々夫人ではなく、所作はあやしいけれどオーソドックスな蝶々夫人に主演している西洋人歌手、みたいな感じと書くとわかるやろか?)。洋楽伴奏とはいえ、和物の公演をこなしつつ、洋舞を得意とする宝塚ならではの、非常に華やかなショーです。他の劇団での上演は考えられませんわ。群舞にいたっても、舞台全面を駆使して、ななめのラインやアンシンメトリー、違った振り付けの同時進行など、人海戦術を生かしきった素晴らしい発想。ここ最近、集団エアロ状態だった宝塚のショーに新鮮な風が吹き込みました。
 ここ最近、作品の平坦化と惰性すら感じる振り付けに飽き飽きしていただけに、今後の宝塚の進むべき道しるべとなる公演かもしれないと思っています。音楽に関しては、甲斐正人やワイルドホーンらが、全編担当という公演はあったけれど、振付家も統一した公演がもっとあっても良い気がします。もちろん、バラエティ・ショーの場合は多彩なダンスが観られるのも魅力ですが、作品という塊で、振り付け内容をコントロールし、観客に強い印象を残せるのは強みだと思うのですが。

「マジシャンの憂鬱」
 シャンドール:瀬奈じゅん
 ヴェロニカ:彩乃かなみ
 アデルハイド/新聞記者:矢代鴻(専科)
 シュトルムフェルド/男爵:未沙のえる(専科)
 ギゼラ:出雲綾
 ラースロ:嘉月絵理
 バルトーク大臣:北嶋麻実
 ジグモンド:大空祐飛
 ロラーンド:越乃リュウ
 ボルディジャール:霧矢大夢
 イローナ:瀧川末子
 ヤーノシュ:遼河はるひ
 アンドラージュ指令官/時計屋:良基天音
 シャラモン:桐生園加
 コルネール:青樹泉
 マレーク:城咲あい
 シャーロット:憧花ゆりの
 レオー:龍真咲
 エヴァ:夢咲ねね

 宝塚のコメディは、吉本と張り合っているかのような、コッテコテのセリフや、コンプレックス攻撃に走りがちな笑いが下品で、正直面白いと思うことは少ないです。「どこが、清く正しく美しくなの?」と突っ込みをいれたくなることが多々。現在の月組は二番手の霧矢大夢は別として、基本的に関東出身者が多いせいか、そんなコッテコテに染まり切れない、それがゆえに、客席もザッブーンと引きまくりの痛い公演が多かった気がします。が、嬉しいことに、今回のコメディはかなり爽やかな印象。ちょっとした間が可笑しかったり、お芝居の一貫として勢いではなく計算された演技力で笑いに持って行ったり。シチュエーション・コメディということで、安心して観られる良質の笑いに満ちていました。一回限りの公演ではないので、生徒の舞台裏や素の顔を知らなければ面白くない、という不親切さがないのが嬉しい限り。
 装置も博多座ロビーの階段のようなセットを使い回すだけですが、大迫りや中迫りを利用しての立体的な空間の変化、階段を斜めにずらすことによる奥行感覚のUPなど、貧乏臭くならないようあの手この手が駆使されていました。そして、何よりも「職人だなぁ」と簡単したのが、一見年功序列にみえる配役でありながら、そして上級生から下級生までそれぞれ小さな見せ場を作っておきながら、メインキャストと脇役の格付けをシビアに行ったこと。よって、余計な場面にだらだらすることなく、それでいてその一瞬に生徒たちはエネルギーを注入し、主役はタップリ&ノビノビ時間を確保。登場人物が多いにもかかわらず、スッキリとした印象を受けるのは、大劇場芝居にとって至難の技とは思いますが、それをいとも鮮やかに実現。一時期は「登場人物が少なすぎる」だの「大劇場には向かない、小劇場作家だ」だのと、かなり叩かれていた正塚晴彦ですが、彼独自のスタイルで大劇場処理を行うことの完成形に至った、そんな気がします。大仰に笑いを強制することなく、脇道にそれたまま芝居が迷子になることなく、下級生にいたるまでの活躍の場を与えながらも交通整理を見事に行うなど、一つ一つが実にスマート。最近の生徒はサラサラ芝居が主流になっているので、大仰な芝居よりも、正塚芝居の方が仕上げやすいのかもしれませんね。
 とはいえ、細かな技術の積み重ねによって成り立っている状態なので、主要キャストに求められるテクニックはかなりのものとお察しします。台詞がシンプルなので、その中に感情を込めたり、場面にドラマティックな変化を与えたり、生半可な役者では難しいことかと。トップ就任してから、中心の存在であることの自信と存在感に溢れているトップでないと、彼の作品で光り輝くのは難しいでしょう。今後、宝塚のスタンダードになるかどうかは生徒の技術にもよってきますが、現時点の月組には最適の作家だったと思います。展開が読めそうでいて、あちこちに転がるので、観客としても息をつめて、ハラハラ&ドキドキのひと時を楽しませてもらいました。
 ダイアナ妃の死について、あれこれニュースが飛び交う中でのタイムリーな企画、そして宝塚としての夢や清潔感を忘れない、上質なファンタジーとしての仕上がり、生徒の個性や得意分野を生かした役割分担など、座付き作者としての面目躍起ですね。上々な仕上がりの一本です。


2007年10月15日(月)19:00-20:50
古川展生/徳永依子「チェロとピアノの夕べ」@MUSICASA

 全席自由 3500円 1階-2列 (パンフレット:無料)

 チェロ:古川展生
 ピアノ:徳永依子

 ベートーヴェン:ユダ・マカベウスの主題による変奏曲
 ブラームス:チェロソナタ 第1番 ホ短調 作品38
(休憩)
 カサド:親愛なる言葉
 サン・サーンス:白鳥
 フォーレ:夢のあとに
 ショパン:序奏と華麗なるポロネーズ
 塩入俊哉:夢のしずく
 ピアソラ:アディオス・ノニーノ
 ピアソラ:タンティ・アンニ・プリマ
 ピアソラ:リベルタンゴ
(アンコール)
 アメイジング・グレイス

 夏休みをはさんで、とっても久しぶりののぼぉちゃんです。ブルネロの直後だし、ここ最近は「当たり」の公演が多かったので、こっそりファンモードに切り替え。向かうは第一回ファンの集いが開催されたムジカーザ。ピアニストの徳永依子は知らない子だなぁ、と思ってたんですけど、父は兼一郎、おじは徳永二男なんですと。って、超サラブレッドやん(ドキドキ) 客席にはおじ様もご夫妻でいらしていて、華やかかつモノモノしい雰囲気。なんだか期末試験受けてるところみたい、なんて思ったのは僕だけじゃないはずwww
 前半はベートーヴェンとブラームスという、やたらと難しい作曲家が並びました。以前、ベートーヴェンでは爆睡し、ブラームスは文句タラタラの感想をUPして、ご本人様に叱られたのですが、でも、やっぱりアラが出るというか難しいですわ。シンプルだけれど、骨太で、味付けしないと物足りないし、味付けしすぎると下品になります。「どーすりゃ良いんじゃーーー」な曲たちです。ベートーヴェンはほとんどピアノがソロでチェロは伴奏みたいな曲。今回はスタインウェイのピアノを蓋全開にしての演奏ですが……ぜんっぜん聞こえてこないんです。パワー不足でテクニック不足。音楽界は親の七光りをもしのぐ方が多いけれど、今回はさすがにくすみすぎ〜と思ってたら「てるさんの好きなタイプじゃないわね」と、同行者がポツリ。はいっ、ダメです。「聴け〜」ってタイプじゃないし、自分の世界が表現できているわけでもなく、ヒーヒーいってる感じ。「今回がデビューでしょ、仕方ないよね」とこの時点だとまだ好意的でした、ワタクシ。でも、そんなこと以上に、たぶん曲が好きじゃないんだと思います。チェロパートは聴き映えしないし、ピアノも平坦で地味(別のピアニストだと印象かわるんでしょうか?)。ブラームスは、プロ相手にこんな発言は変ですが、のぼぉちゃんも以前に比べ段違いに上手になりました。ドイツ物の骨太さを出すことに成功し、たっぷりしたフレーズを保ち切りました。力任せに弾いていた低音が、かなり楽に鳴るようになって、力みがかなり減ったのも収穫。とはいえ、都会的なサラリとした演奏の中に、色気や色彩感をブレンドするのが持ち味なので、まだまだ「レコーディングしてほしいな」という粋には達していませぬ。のぼぉちゃんの中で、この手の曲はどのようなスタイルで演奏するのががベストなのか模索中なんでしょう。今日もかなり肩に力が入っていましたもの。でも、ファンとしては、その変化の過程を見せてもらえるのが嬉しいってもんです。
 後半は小品、それもお馴染みの曲ばかりなので、演奏もお手の物。弾き込み具合に比例し、弓使いのしなやかさからして違います。こう書いちゃうとまたご本人様は不服でしょうが、のぼぉちゃんは決してスケールは大きくないチェリストなので、小粋な曲で真価を発揮するんだと思います。会場をのぼぉちゃんの音楽で支配するのではなく、会場の人がのぼぉちゃんの音楽に集中する感じ。ムジカーーザは非常にドライな響きで、弦の柔らかな音を聴くことができず、摩擦音ばかりだったので、次回は音響の良い小屋でタップリした音を聴きたいものです(ということで、このコンサート翌日に、浜離宮のリサイタルや、みなとみらいでの室内楽のチケットを購入!)。
 この後半でも足をひっぱったのがピアニスト。ちらりとプロフィールを読んだところ、今回がデビューではないみたいで、既にあちこちで演奏活動をしているとか。それならば容赦なく書いちゃうけれど、最近話題の某アイドルのような仏頂面と「アンタ誰サマ?」な態度はやめましょうよ。のぼぉちゃんが気を使って彼女を紹介したり、笑顔をふってみたりしているのに、ぶす〜っとしているのはとっても感じ悪いです。そりゃ、ご自身の演奏が満足いくものでなかったのはわかります。でも、そんなのは誰もが通る道。今現在の実力でいかに楽しませるかがプロってもんでしょ。ここまで頭の中真白状態になる人も珍しいと思います。のぼぉちゃんは演奏でもフォローしまくりだし、本人うわの空だからピアノがとっても平板だし。ま、この人にピアソラだのブラームスだの弾かせちゃうのぼぉちゃんものぼぉちゃんですけどwww 今日びの音大生もかなり堂々としている中、初々しいといえば初々しい……のかなぁ!?
 そんなわけで、のぼぉちゃんも無駄な力が入ってしまい、かなり雑な演奏だったと思います。あれ、雑に聞こえたのは音響のせい? とにかく、今回は色々なしがらみあってのカップリングだと思いますが、そろそろのぼぉちゃんもピアノを誰にお願いするかが大切な時期に入ったような気がします。アンサンブル志向の高い人なので、結構影響受けちゃうんですもの。雑になったり、やさしくなったり、大胆だったり。その変化っぷりはかなり楽しくはあるんですけどね。僕の感覚だと、今のところ、伊都子さんとのバランスが最良だと思っています。でも、のぼぉちゃんのレパートリーを考えると、ここいらでドッシリ骨太なピアニストとの共演で聴いてみたいです。清水和音、若林顕のような、ちょっと渋めのおじ様たちなんてどうでしょう。もしくは、いっそのこと、中村紘子が相手ってのもピッタリな気がしてるんですけど。彼女は結構骨太だし、華やかさでも負けてないし。でも、トークコーナーは紘子さんにマイクを奪われてしまうわなぁ。その時は頑張って話にくらいついてちょうだいっ。


2007年10月17日(火)18:30-21:15
ミュージカル座「ロイヤルホストクラブ」初日@新国立劇場小劇場

 全席指定 5500円 1階-B3列-2番 (パンフレット:1000円)

 演出:竹本敏彰

 白金豪(bPホスト):藤浦功一
 花咲愛人(bQホスト):角川裕明
 維舞聖夜(bRホスト):国友よしひろ
 芥川直木(ホスト):阿部よしつぐ
 谷村昴(ホスト):尾花宏行
 香坂耕介(ホスト):松下祐士
 川端ゴロー(ホスト):竹本敏彰
 鮫島鉄矢(ホスト):三原康志
 白鳥翼(ホスト):シュウケイ
 五十嵐・ムーンウォーク・ジョニー(新人ホスト):KAZZ
 本郷猛(新人ホスト):山口聡史
 諸星団(新人ホスト):神宏昭
 大海原裕次郎(パラダイスのオーナー):北村がく

 剣士郎(おなべ):梅沢明恵
 丈二(おなべ):狩俣咲子
 ロベリン(異国の女):青島凛
 ジャスミン(異国の女):福田奈実
 犬山さん(大倉富士子のお付き):野澤美季
 猫田さん(大倉富士子のお付き):小澤紀子
 みゆき(パラダイスの客):西利里子
 静香(パラダイスの客):佐々木百合
 あけみ(パラダイスの客):高田美佳
 恵子(パラダイスの客):小貫紀子
 朝比奈ルイ(ピアニスト):片桐和美

 大倉富士子(ホテルグループ会長):川田真由美
 加賀美京子(セレブな女):藤澤知佳
 ローズ(高級ショークラブのダンサー):会川彩子
 リンダ(高級ショークラブのダンサー):村田綾子
 金子民子(お局OL):武者真由
 小松松子(同僚OL):上山知里
 マルちゃん(不思議ちゃん):斉藤恵子
 エリカ(キャバクラ嬢):山根三和
 美咲(キャバクラ嬢):山口昌子
 奈津実(パラダイスの客):林靖恵
 千亜紀(パラダイスの客):長屋真紀子
 さくら(パラダイスの客):中村愛美

 存在は知っていましたが、今回がミュージカル座初観劇です。当初から「アンタ好みの劇団じゃないよ」と言われていましたが……ホントでした。個人的に、この劇団に5500円は払いたくないなぁ。新国オペラだったら4階席で2回見られる料金と思うと、内容に対して高いなぁ、と思います。……カラオケ公演だし(わかってたら来なかったと思う)
 今回のカンパニーは、メインキャストのほとんどが客演で座員は半分位ですが、壊滅的に下手な人はいません。でも、取り立てて上手い人がいるわけでもなく、変な例えで恐縮ですが、音大生のコンサートみたい。ほら、そこそこ上手いんだけどつまんないってやつ。客演メンバーも芯を取るようなスターはいないのと、登場人物一人一人に見せ場を作っているのとで、かなりだれます。芯となるストーリーがあるわけでなく、枝葉のストーリーのコラボレーションで、役者の芸でひっぱる台本なんですけれど、いかんせん、この手の台本は役者の力量が大事。途中で飽きました。なんだか、観客のための公演ではなく、役者の研究発表に付き合わされたって感じ。耳に残るナンバーや、ダンスシーンがあれば良かったんでしょうが、全編同じトーンというのはどうも苦手です。爆笑ミュージカル・コメディという割に、客席が大人しかったのはそのせいかも。題材は悪くないので、台本の刈込みと、ホストじゃなくて演出家のチェンジがあったらもっと面白いんだけどな。上演時間をあと1時間カットして、若手バウ公演として宝塚の若手にやらせたら面白そう。版権買わないかしらん>宝塚歌劇団。あ、歌舞伎町ホストって時点で企画会議で却下かwww
 さて、出演者のみなさんですが、男優の面々は、売れっ子からダメダメホストまで、コマ劇場前から連れてきたかのような雰囲気を出していたのはアッパレ。ホ〜ント、うさんくさい集団でしたよ。座長扱いは藤浦功一になるのかな。元・トートダンサーだけあって、ダンスのテクニックはダントツ。でも、地味な芸風と舞台人としての体格のハンデで、主役としての登場シーンは不発。登場するだけで拍手っ!というスター性はありません。劇中も、ダンスをどんなに頑張っても映えないんです。根っからの助演タイプだと思います。何考えているのかわからない、目つきの悪さが苦手な役者ですが、「悪役顔なのにbPホストってどうよ!?」というところが、今回の役に関してはかなり納得。このあたりは、台本と役者がかみ合ってきた部分でしょうか。適材適所でした。でも、ストーリーは途中から変な方向にいっちゃって、同時観劇の知人とは意見が平行線。そもそもピアニストの指がキレイだなんちゃらって、何アホなことぬかしてるんでしょ。ピアノ弾きの指はゴツゴツで汚いです。キレイな手って時点でいかにピアノに触ってないかの現れ。白金豪の「結局見かけでしか人をみないのね」という結論に至りますわ。でなけりゃ、わざわざ台本にあんなセリフ入れるわけないやんかねぇwww
 履歴書では25歳、実年齢39歳という設定のKAZZは(みなさん、ご存知ですね。ハツの父ちゃん!!)、ぬいぐるみが歌い踊ってるみたいで登場するだけでホンワカ。宝塚のような上着と、ベビーフェイス、ぽっこりお腹が愛らしくて、TDLのキャラクターみたいでしたョ。他の役者が真似できない個性を持っている人は強いですね。出番、見せ場は少ないものの、かなり強い印象を残してくれました。ただ、もともと歌手の人なので、歌いだすとジョニーじゃなく、KAZZさんに戻っちゃうんです。役者歌を歌うには、まだ歌手としてのプライドが高いのかな。
 ということで、部分部分は楽しんできましたが、しばらくこの劇団はいいや。ゴメンナサイ。個人的に「みんなで仲良し」という劇団よりも「私をみなさいっ」を競い合ってる劇団の方が好みなんです。売上トップを競うホストのお話だけれども、はた目から見ると似たり寄ったりな集団に興味は持てないわぁ。まずはメリハリある台本と、ココゾってテーマを書く作曲家が必要なんじゃないかなぁ。(そんな意味で、音楽座って良いスタッフを抱えていると思います。メンバーがどんなに入れ替わっても、劇団カラーを保っていますから)。


2007年10月18日(木)18:30-21:40
宝塚歌劇団月組「MAHOROBA -遥か彼方YAMATO-」「マジシャンの憂鬱」@東京宝塚劇場

 A席 5500円 2階-11列-72番 (パンフレット:1000円)

 演出:謝珠栄(MAHOROBA)/正塚晴彦(マジシャンの憂鬱)

「MAHOROBA -遥か彼方YAMATO-」
 イザナギ/オウス/ヤマトタケル(オウス):瀬奈じゅん
 イザナ/オトタチバナミ:彩乃かなみ
 サルメ:霧矢大夢
 サダル:大空祐飛
 スサノオ:萬あきら(専科)
 ツクヨミ:未沙のえる(専科)
 アマテラス:出雲綾
 キビツヒコ:北嶋麻実
 スメラミコト:越乃リュウ
 オオワタツミ:嘉月絵理
 ヤマトヒメ:花瀬みずか
 ハヤアキツヒメ:一色瑠加
 オオヤマツミ/クマソタケル兄:遼河はるひ
 ハヤアキツヒコ:研ルイス
 シナツヒコ/クマソタケル弟:桐生園加
 ヒノカグツチ:青樹泉
 カヤノヒメ/ニライカナイの姫/カヤノヒメ:城咲あい
 クラオカミ:星条海斗
 ククノチ:龍真咲
 クラミツハ:明日海りお

「マジシャンの憂鬱」
 シャンドール:瀬奈じゅん
 ヴェロニカ:彩乃かなみ
 アデルハイド/新聞記者:矢代鴻(専科)
 シュトルムフェルド/男爵:未沙のえる(専科)
 ギゼラ:出雲綾
 ラースロ:嘉月絵理
 バルトーク大臣:北嶋麻実
 ジグモンド:大空祐飛
 ロラーンド:越乃リュウ
 ボルディジャール:霧矢大夢
 イローナ:瀧川末子
 ヤーノシュ:遼河はるひ
 アンドラージュ指令官/時計屋:良基天音
 シャラモン:桐生園加
 コルネール:青樹泉
 マレーク:城咲あい
 シャーロット:憧花ゆりの
 レオー:龍真咲
 エヴァ:夢咲ねね

 久しぶりに「リピートしようかな」と思った公演です。「MAHOROBA」は照明がやたら明るくノッペラボウなので、せっかくの幻想的な振り付けが平坦に見えてしまうのは残念ですが、出演者が張り切って踊っているのが気持ち良いです。宝塚のショーとしては珍しく、場面ごとに生徒が振り分けられていて、一応、番手はあるものの、トップ以外はポジションや学年に関係なく、適材適所に使われているのが新鮮。おそらく、謝珠栄が現役だったころのショーが参考にされているのではないかと思っています。最近のようにトップOnlyというショーに慣れていると、逆に新鮮ですね。
 さて、トップの瀬奈じゅんですが、花組から月組に移ってからというもの、俺様度が激減し、ちんまりと小さなトップさんになっていて、かなり歯がゆい思いをしていたのですが、ようやくトップ・オーラを放ちだした気がします。今後は月組だけでなく、宝塚を率いる立場という責任感でしょうか。急激に存在感を増しました。今や、テクニックや勢いではなく、存在だけでセンターを任せられるように。マッタク、宝塚はトップになってからの成長速度は他の組子とは段違いですね。でも、ここまで成長してしまうと、そろそろ退団時期を決めたのかな、と良からぬことを考えたりもします。
 娘役トップの彩乃かなみはようやくトップお披露目といった感じ。今までは実力を認められつつも、地方公演以外はチョイ役ばかりと虐待されていましたから。それが、今回はトップコンビとしてショーに芝居に大活躍。声色の幅が広いので、ON/OFFのくっきりした、今回のような役はドンピシャリ。歌もダンスも安心して見ていられます。もっとも、彼女の声はとても柔らかく、芯がないので、ショーになると歌声が散ってしまうのが勿体無いです。しっとりと歌い上げる芝居歌は絶品。
 宙組時代は隠れ二番手として彩乃かなみと張り合っていた組長・出雲綾はさすがの存在感。でも、歌はかなり荒れてて、金属的な音になっていたのには唖然。信頼と安心の人だっただけに、今までの酷使が故障に繋がりかけの印象。次回公演はマリアおばちゃんでしょうから、ゆっくり休んでメンテナンスにつとめていただきたいと思ってます。
 霧矢大夢は大空祐飛とWで使われていて、時には番手すら危うい時期もありましたが、今回は明確に二番手のポジション。久し振りに踊りまくり、歌も聞かせどころを確実に押さえて実力発揮。歌とダンスが得意ではない大空祐飛に大きく差をつけました。そんな大空祐飛ですが、アンサンブルの一員というポジションダウンにもかかわらず、際立った存在感を示したのは今までの場数がものをいったのでしょうか。正直、いてもいなくても良い役なのですが、しっかりスターとしての座を死守したのは流石。その他、ベテランから新人まで、台詞の間を埋めるような芝居をしていて、二度目の観劇だと「おぉ、こんなところでも複線を張っていたのか!」という発見が多くてナカナカ楽しい仕上がり。チョイ役ではあっても、ストーリーに絡める役というのは、演じていて楽しいでしょうね。
 それにしても、今回の公演の最大のブーイングはお芝居のタイトル。「マジシャンの憂鬱」って、そもそもインパクトに欠けるし(当初は「つまらなそうなタイトルだな」と思ってました)、芝居のテーマにピッタリとも思えないんですけど。もうちょっと垢ぬけたタイトルが良かったなぁ。


2007年10月20日(土)12:00-14:55
東宝「イーストウィックの魔女たち」@帝国劇場

 B席 400円 2階-L列-33番 (パンフレット:1500円)

 演出:山田和也

 ダリル・ヴァン・ホーン:陣内孝則
 ジェーン・スマート:涼風真世
 スーキー・ルージュモント:森公美子
 アレクサンドラ・スポフォード:マルシア
 フェリシア・ガブリエル:大浦みずき
 クライド・ガブリエル:安原義人
 ジェニファー・ガブリエル:皆本麻帆
 マイケル・スポフォード:中川賢
 フィデル:及川健
 少女:小此木麻里

 欲求不満に悶々としている女性たちと、それを解放しようとする悪魔のダリル。モラルを盾に彼らに向かい合うフェリシアといった図式のミュージカル。初演は涼風間世/森公美子/一路真輝のトリオ。産休中の一路に代わって、今回はマルシアが参加。性の解放がテーマなだけに、かなりきわどいセリフがポンポン登場します。が、この手のセリフになると元・タカラジェンヌは途端につまらなくなります。スミレコードが身に付きすぎと言いましょうか、自我を捨ててポンと役に入り込めないし、観客もそれについていけない。ということで、初演は欲求不満トリオのうちの二人が元タカラジェンヌということで、セリフに血が通わず、コメディがコメディとして盛り上がらないまま千秋楽に。今回も、涼風真世はかなり棒読みです(彼女の場合は元々かwww)。せっかく恐い物知らずの中年おばちゃんトリオだというのに、殻をかぶっててはもったいないです。そんな元・タカラジェンヌに合わせてか、内気なキャラクターという役設定もあってか、森公美子もいつもほどには弾けきらない模様。そんな中、マルシアは適任だったと思います。ワイドショーネタもあるけれど、彼女の男に対するセリフの数々には説得力があります。二幕頭でのストリップシーンでは女らしいラインとたおやかさで、色気も振りまき、「まだまだやるわよ」の女性のバイタリティが感じられました。ただ、残念なのは、個々の見せ場よりも、三人組としての扱いがほとんどのこの作品、せっかく歌えるメンバーが揃ったというのに、「この曲!」というナンバーにも恵まれず、常につまみ食い状態。パワー不足、見せどころ・聴かせどころ不足なので、かなり物足りないです。幕間のナレーションのように「私が、私が!」と本編でも争ってくれないと全然つまんないです。年齢いっちゃってますが、メリル・ストリープみたいな人たちがやると絶対楽しいハズ。
 初演に引き続き、いえ、初演以上に絶好調なのが大浦みずき。彼女も元・宝塚トップですし、正直現役時代は大根役者でしたが、見事に女優として脱皮してます。「きれいなワタシ」だとか「可愛いワタシ(ってみなさんいくつよ?)」なんて邪念はありません。役に求められれば、目ん玉ひんむいて、ヨダレたらしながらヒステリー起こします。街を取り仕切る際の貫録と求心力、欲求不満トリオやダリルに対抗する際の存在の大きさ、ショーシーンでの空間把握などなど、圧巻の強さです。耳に残る曲に恵まれない「イーストウィックの魔女たち」の中で、唯一残っている(&残っていた)のが、フェリシアの「もっと、もっと!」というナンバー。そういえば、大浦みずきは宝塚二番手の時も役に恵まれた人ではなく、芝居下手が災いしてか、軽い役が多かったのですが、短い出番、見せ場のなさにもかかわらず、見事にスターとして舞台の上でトップに匹敵する存在感を残す能力に優れた人でした。今回だって、ストーリーの上では魔術によって殺されてしまうけれど(死ぬまでののたれっぷりは「ベルばら」のアンドレの比じゃないです。執念たらたらで恐い位見事!)、三人組&ダリルの攻撃を一人で受けて立つ怪演は圧巻でした。歌も踊りもド迫力。素晴らしい女優さんになりました(惚れ惚れ)。
 ということで、別格大浦みずきや、三人束になっても「パワー不足!」と僕に言われちゃうおばさま方を陣内孝則が手玉に取ろうだなんて、100年早いです。舞台での見せ場は一番与えられているにもかかわらず、全然存在感ないんですもの。歌や芝居も下手っぴだけれど、そんな技術よりも「アナタが主役でございます!」と他キャストも客席もひれ伏すようなカリスマ性がないのが痛い。。。結局、失敗にはなるけれども、一瞬でもおばさま達を手玉に取るための女あしらいがなっちゃいないんですもの。おばさまたちが思わずクラクラときめいてしまうような甘さも、理性を失わせてしまうような魔性も、思わずついていってしまうような俺様度もナシ。かといって、とりあえず歌えば納得、という技術もなく「どうしてこの人が終演なんだろう?」というクエッション付きっぱなし。もっとも、こんな甘くて危険でセクシーな役、誰なら出来るんだ!?となると、日本の男優で思いつかないのが悲しいところ。かといって、宝塚で上演するような作品でもないしねぇ。
 ということで「よくぞ上演した!」な作品かつ「何で上演しちゃったの?」な作品でもあります。もっとおばちゃん色を濃くして、もう少し小さな会場でケバケバしく上演したら、ブラックユーモアが効いて盛り上がるのではないかと思っています。帝劇で、このメンバーで上演するにはちときつい作品でした。綺麗にまとめていたけれど、気の抜けたコーラみたい。もっと刺激をちょうだいっ!! ちなみに、欧米では中年のおじさま、おばさまたちが、小ぶりの劇場でローカルに上演してそうなイメージがありますが、実はロンドン版ってドミニオン劇場(ロンドン屈指の大劇場)での上演だったんですよね。どんな公演だったんだか。


2007年10月21日(日)14:00-18:05
新国立劇場「ワーグナー:タンホイザー」@新国立劇場オペラパレス

 C席 8400円 4階-1列-47番 (パンフレット:1000円)

 指揮:フィリップ・オーギャン
 演出:ハンス=ペーター・レーマン
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 領主ヘルマン:ハンス・チャマー
 タンホイザー:アルベルト・ボンネマ(ヴォルフガング・ミルグラムの代役)
 ヴォルフラム:マーティン・ガントナー
 ヴァルター:リチャード・ブルンナー
 ビーテロルフ:大島幾雄
 ハインリッヒ:高橋淳
 ラインマル:小鉄和広
 エリーザベト:リカルダ・メルベート
 ヴェーヌス:リンダ・ワトソン
 牧童:吉原圭子
 4人の小姓:佐藤泰子、金子寿栄、中道ゆう子、熊井千春

 実は世間的評判は別として、シェイクスピアとワーグナーってあんまり好きじゃないんです。とにかく、ダラダラとしゃべりすぎ。途中で「だから? 何を言いたいの?」と口を挟みたくなります。でも、なぜか、この二人の作品となると、中年男性、それも一人者の観客が急増する気がします。ってことは、見た目だけだと僕もディープなファン!?
 さて、新国のワーグナーは「ローエングリン」「リング」「マイスタージンガー」に続いて、10年目にしてようやく「タンホイザー」の登場です。正直、何度観ても、何度あらすじを読んでも、今一つストーリーがわかりません。というか、説得力がないんです。これはおそらく、宗教観だとか、ドイツのローカル文化(それもワーグナー流にアレンジされたもの)が大きく関わっているので、そうやすやすと「快感っ」と観客を酔わせてくれないのが大きいかと。タイトルロールのタンホイザーが妙にフワフワした人物で全然シャキッとしておらず、仕事も恋愛もでくの坊ってのも感情移入しにくいんです。何考えてるんだかわからない人だし、周りの空気を読めないし。僕なんかからすると全然魅力のない大人になり切れないガキンチョ。彼を誘惑するヴェーヌスや命をかけてまで(って、この命のかけかたが良くわからんけど)彼を救おうとするエリーザベトも、正直魅力的な人たちに見えたためしがないので、最終的に「どーでも良い人たちが、どーでも良いことを延々と歌ってるなぁ」と。はい、ワーグナー・ファンのみなさんゴメンナサイ。観続けていれば好きになるかも知れない、という程度で上演があれば観ていますが、今のところ、一つも面白いと思ったことがないんです>タンホイザー。「序曲」も、有名な「行進曲」も「夕星の歌」も僕には非力(あぁ何たる暴言!)
 美術は「新国の舞台機構を生かして」という宣伝の割に、半円形の柱の角度が変わるばかりだし、映像を組み合わせたといっても、ピンク・フロイド・バレエや東宝の数々の舞台に比べれば大したことないし、でも、半透明の柱にブルーの照明が光ってとっても幻想的でした。幕開きのバレエは、逸見智彦を中心に、森田健太郎や市川透をアンサンブルに配した豪華なメンバー。モダンダンス的な振り付けでかなり盛り上げます。会場で出会った某氏はこのバレエのシーンがお気に召さなかったようですが、僕はこのシーンが一番好きでしたwww ただし、ダンスが良かったとか、演出が良かったというのではなく、ダンサーが良かったというレベルですけど。衣装も振り付けももっと官能的な方が合ってると思うのですが、歌手陣とのバランスの関係でしょうかねぇ。ヴェーヌスに全然色気がありませんから!
 で、結局のところ、ワーグナー作品って「つまんないけれど、声楽はすごい!」というのがほとんどなのですが、今回の主役は合唱団。新国合唱団は一時期は男声と女声のバランスが悪かったけれど、ここ最近はかなり充実してます。イタリアオペラの時と違って、動く舞台装置(ってどこかの劇団で使われる表現ですね)なのがつまらないけれど、重すぎず軽すぎず、リリカルなんだけれど充実した厚い響きがとても魅力的。序曲でも使われる(GC-GE-EFGG-A-G-G-F-)のメロディを無伴奏で歌う部分なんて神々しさすら感じました。あんまり重いものよりもこれ位の方が僕は好きです。オケもドイツの重厚なサウンドではなく、あくまで日本の響き。ボリュームだけではなく、小回りの効いた演奏というのは、外来オペラと違って、日本のオペラって感じがして、その個性は大事にしてほしいな、と思ってます。終幕にかけての盛り上げは頑張りました。演奏上の小さな傷を許容し、浄化されるような響きを堪能。このあたり、ワーグナーが崇拝される部分なんでしょうね。
 歌手は特出した人はいなかったかな。代役のタイトルロール=ボンネマは無理して押し出す発声が一昔前の歌手たちを思わせ、聴いてるこちらの喉が痛くなる感じで僕は苦手。声量はあるんだから、それ以上張り上げなくても良いのに。とにかくパワーで押しまくるだけで、細かな表現皆無。他の面々は一定レベルを保ち、破たんなく歌っていましたが「この人の歌好き〜」となることがなかったのは残念。ワーグナーは一つの場面というか、一つのフレーズが長すぎるせい、歌ってる人も感情表現そっちのけになってしまい、突っ立って歌ってるだけになるのが痛いです。セットがなければ演奏会形式と大差ないのはいただけません。演奏としては文句はないんですが、役として、歌手として、僕のハートに訴える人がいなかったというまでなのかもしれませんけどね。


2007年10月25日(水)14:20-16:30
映画「ヘアスプレー」@丸の内ピカデリー1

 自由席 一般前売1300円 1階-M列-25番 (パンフレット:700円)

 監督:アダム・シャンクマン

 エドナ・ターンブラッド:ジョン・トラボルタ
 ベルマ・フォン・タッスル:ミシェル・ファイファー
 トレーシー・ターンブラッド:ニッキー・ブロンスキー
 ウィルバー・ターンブラッド:クリストファー・ウォーケン
 モーターマウス・メイベル:クイーン・ラティファ
 ペニー・ピングルトン:アマンダ・バインス
 コーニー・コリンズ:ジェームズ・マースデン
 アンバー・フォン・タッスル:ブリタニー・スノウ
 リンク・ラーキン:ザック・エフロン
 シーウィード:イライジャ・ケリー
 プルーディ・ピングルトン:アリソン・ジャネイ
 Mr.ピンキー:ジェリー・スティラー
 リトル・アイネス:テイラー・パークス

 舞台と映画を行ったり来たりの作品です。来日公演の記憶も新しい作品ですが、今回は映画版。物理的制約のある舞台は、それはそれで魅力的ですし、想像力を刺激される素晴らしさがあるけれども、映画版はホワイトの生活とニグロの生活の違いを、一瞬にして視覚で訴える強さがありますね。舞台だと2〜30人でとっかえひっかえアンサンブルメンバーが活躍しますが、人数の制約がないので、迫力あるマンパワーに圧倒されます。ベッドの中で目覚めの歌をトレーシーが歌いだすのは共通していますが、そのまま着替えて街に飛び出し、学校に到着するまでの情報量は映画ならでは。たった一曲で、主人公の性格と、彼女を取り巻く病んだ街という状況が浮かび上がります(舞台版だと主人公の精神のクローズアップで終わってしまうので)。
 全編を通して一番魅力的だったのがトレーシー役のニッキー・ブロンスキー。屈託のない笑顔の愛らしさといったら、豊かなアメリカ、曇りのないアメリカ家庭の象徴。いつも元気で明るくて、人生悩んでる暇があったら歌いましょう、踊りましょう、な暮らしっぷりは実に僕好み。主人公がハッピーなのは観ていて非常に居心地が良いです。そんなトレーシーが目覚めるのが人種差別問題。とはいえ、この作品の中では非常にステレオタイプとして人種差別者や差別が登場しますが、ニグロ自身がその差別に気づいていなかったり、陰湿ないじめは存在せず、差別というよりも別生活をそれぞれが(一見でしょうが)平和に営われているのが救い。タッスル母娘の意地悪もどちらかというとコミカルに描かれています。口当たり良く、それでいて重いテーマを表現してしまうあたり、制作スタッフのとてつもなり力量を感じます。誰も傷つけることなく、重い空気を漂わすことなく、それでいて、現在も解決してない問題をサラリと表に出してしまうんですから、アッパレです。この感覚、実際に差別社会に暮らしている人ならではでしょうね。
 もちろん、役者たちの力演がネガティブな感じを吹き飛ばしていたのも大きいです。まずはホワイトとして、一点の曇りも感じさせず、ひたすら華やかでハッピーな空気を醸し出し、ダークな内容に負けない大黒柱となったのがリンク・ラーキンとアンバー・フォン・タッスル。差別を差別とも思わない「お馬鹿なお利口さん」たちだけれど、根はイイ奴ってのが救い。リンクは考える人になり、アンバーは挫折を知ったので、今後の人生に変化が出てくることでしょう。そして、大人たちだとウィルバーとエドナのターンブラッド夫妻。アメリカのパワーを信じ、娘を信じ、精一杯の愛情と娘のチャレンジ精神を応援する姿。もしかしたら、ちょっとクラスは低い階級かもしれないけれど、家族の大切さ、愛情の大切さをタップリ見せつけてくれるのが素敵。トラボルタのどブスっぷりも見事で、デブでブスな奥さんだけれど、セクシーなよそのマダムの誘惑にもビクともせず、ひたすら愛情を傾けるウィルバーに、静かで勢いはないけれど、家長として信頼されている力の源を感じ、ちょっと感動。とにかく、差別する側かもしれないけれど、悪意はなく、そして幸せいっぱいの集団のポジポジパワーは(表面的と言われるでしょうが)魅力的です。素敵です。
 悪役を引き受けたのがベルマ・フォン・タッスル:ミシェル・ファイファー。徹底して悪役に徹しているので、ディズニーの魔女たちではないけれど、実に愛らしいです。だって、企むこと企むことがすべて裏目に出てしまうんですもの。ムフフと悪だくみをして、キィーと悔しがるという流れが、お約束とはいえ、なり切り具合が最高なので、爆笑・爆笑。ベルマほど大きな悪ではないけれど、プルーディ・ピングルトン:アリソン・ジャネイも当時の世間一般の意見役を一人で代弁。かなりキツイ方なんですが、それもこれも娘への愛情ゆえ(そして、娘は黒人とカップルになっちゃうんだけれど)というので「本当は良い人なんだよねぇ」となるのがお得な役どころ。このあたり、中途半端に演じられると、コメディ色もなくなるし、差別問題も薄まってしまうし、美女のお顔を台無しになるまでひんまげて強烈なキャラを作りだしてくれたお二人に大拍手!
 そして、差別される側もアッパレな方々。どんなに露骨に差別されてもどこ吹く風、それでいて、芯がしっかりしていて常に冷静、そしてニグロのリーダーとして白人を敵対視するのではなく共存の方向を平和に模索し続けるモーターマウス・メイベル:クイーン・ラティファ。こういったスケールの大きな人徳者に支えられているからこそ、娘や息子がひねくれることなく、素直に現実を受け止め、その中からより良い世界(居残りだったら歌い踊って楽しくしちゃえ!)を生み出す良い子に育ったんでしょうね。仕事の上で露骨に嫌がらせを受ければジョークでかわし、悪いことがあっても「良いこともあるさ」と落ち込まないところ。それでいて、自分の出番になると「フィナーレは私がもらったわっ」とばかりにゴージャスに盛り上げちゃうところ。まさに僕好み。って、あれ、この映画、僕好みの人しか登場してないかも。どの人も素敵だし、学ぶべきところが多いし。
 舞台版は舞台版、映画版は映画版で魅力があるけれど、コメディ色が強いのが舞台版、人生賛歌が強いのが映画版ってところでしょうか。ハリウッドらしく、ゴージャスにスターが共演しているのも影響しているでしょうが、映画版はダンスだけではなく、キラキラしたなオーラに包まれてます。60年代は僕の好みのファッションや音楽ではないけれど、ベトナム戦争前のアメリカのお気楽なまでなポジティブ感覚は結構好きですね。お金払った分、元気をもらって、それでいて、ちょっと毒が注入されてて刺激を感じ、良いものを見せてもらいました〜。満足。


2007年10月25日(水)18:30-21:30
劇団四季「ウィキッド」@電通四季劇場[海]

 S席 10500円(四季の会会員料金) 1階-16列-10番 (パンフレット:一般2000円、四季の会会員1800円)

 演出:ジョー・マンテロ

 グリンダ:沼尾みゆき
 エルファバ:濱田めぐみ
 ネッサローズ:小粥真由美
 マダム・モリブル:森以鶴美
 フィエロ:李涛
 ボック:金田暢彦
 ディラモンド教授:武見龍磨
 オズの魔法使い:松下武史

【男性アンサンブル】
 清川晶
 西野誠
 永野亮彦
 成田蔵人
 脇坂真人
 白倉一成
 品川芳晃
 上川一哉
 三宅克典

 【女性アンサンブル】
 長島祥
 間尾茜
 あべゆき
 宇垣あかね
 黒埼綾
 由水南
 石野寛子
 レベッカ・ヤニック
 遠藤珠生

 偶然ですが、昼に続いて、夜もアメリカの差別問題を扱った作品を観ることになりました。WICKEDはより悪意をもった悪役が登場します。宝塚で「飛鳥夕映え」を観た時も思いましたが、世間一般に流通している物語も、主人公を取り違えるだけで、善悪がまるっきり逆になるのが面白いところであり、恐ろしいことでも。実際、WICKEDも誤解と思い込みの連続による悲劇ですもの。とりあえずハッピーエンドとしてまとまっているヘアスプレーと異なり、WICKEDは今後も差別は続くであろうとが容易に推測されるシュールな幕切れ。観劇後に気楽に劇場を後にはできない重さが残ります。
 さて、今回が二回目の観劇になる劇団四季版WICKED。最初の観劇の際にはそのひどいできに暴言吐き放題でしたが、劇団四季としては珍しく、ほとんどキャストの変更もなく5か月も上演していると、さすがに上手くなりますね。難しい作品にイッパイイッパイだったキャストが、力の配分を覚え、歌に芝居に余裕が出てきたことにより、ドラマの深味が増しました。中でも、グリンダ:沼尾みゆきはブラックミュージックを日本人として歌うスタイルを確立し「ちょっと違うんじゃないかな」という思いをいつの間にか脇に追いやってしまうあたりに成長と自信が見られ、エルファバ:濱田めぐみはミュージカル唱法が板につき、高音でも歌詞がハッキリ。既にキャリアを積み、この作品においてもかなり訓練したことでしょうが、やはり本番の積み重ねの威力はすごいです。ロングラン公演となると、時にはだれてかなりレベルが落ちてしまうことも多々ある中、一定の水準を保ち、さらなるスキルアップを実現しているカンパニーに拍手です。
 今後はよりスケールの大きさや、舞台への求心力が望まれます。というのも、グリンダとエルファバの組み合わせ、時に野村玲子と保坂知寿に見えてしまうんですもの。セリフ回しや歌い回しの癖がそのまま継承されているみたい。若手からベテランまで揃って棒読み芝居なのはやはりキツイです。せっかくの感動が薄れますもの。そんな中、マダム・モリブル(どーでも良いけれど、役者に合わせたネーミングみたいで、ちょっと笑えません?)のおばちゃんぶりは、芝居が急に白黒からカラーになるかのような鮮やかさを感じます。四季のメソッド通りであっても、それを超える個性ってやっぱり必要だと思うんですけど。とはいえ、現在の四季の力が十分に発揮された素敵な舞台だったと思います。このメンバーのままさらに熟成させるのか、そろそろ新キャストを導入するのか、今後の動きがちょっと気になりますね。


2007年10月27日(土)14:00-17:40
新国立劇場オペラ「モーツァルト:フィガロの結婚」@新国立劇場オペラパレス

 C席 6300円 4階-L3列-4番 (パンフレット:800円)
 指揮:沼尻竜典 (←平井秀明←ウルフ・シルマー)
 演出:アンドレアス・ホモキ
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 アルマヴィーヴァ伯爵:デトレフ・ロート (←クリストファー・ロバートソン←ヴォルフガング・ブレンデル)
 伯爵夫人:マイヤ・コヴァレヴスカ (←ジャニス・ワトソン←エミリー・マギー)
 フィガロ:ロレンツォ・レガッツォ (←ペテリス・エグリーティス←マウリツィオ・ムラーロ)
 スザンナ:中村恵理 (←中嶋彰子←松原有奈)※ラウラ・ジョルダーノの代役
 ケルビーノ:林美智子 (←エレナ・ツィトコーワ←ミシェル・ブリート)
 マルチェッリーナ:森山京子 (←小山由美←竹本節子)
 バルトロ:佐藤泰弘 (←シャオリャン・リー←妻屋秀和)
 バジリオ:望月哲也 (←大野光彦←大野光彦)
 ドン・クルツィオ:加茂下稔 (←藤木大地←中原雅彦)
 アントーニオ:志村文彦 (←晴雅彦←晴雅彦)
 バルバリーナ:國光ともこ (←中村恵理←中村恵理)
 二人の娘:三浦志保、小林昌代 (←三浦志保、小林昌代←三浦志保、小林昌代)
 (今回公演←2005年公演←2003年公演)

 新国の「フィガロの結婚」も早くも3演を迎えます。段ボールとタンスのみ登場し、歌詞と芝居に違和感ありまくりの演出にも慣れ(諦めたとも言います)、素直な気持ちで観劇。先週の「タンホイザー」と打って変って、耳に心地よいサウンド、自然な芝居の流れ、丁々発止のやりとりなど、あらためて自分の好みを確認。登場するアリアはどれも名曲だし、芝居は落ち付くことなく次から次へと展開し続けるし、舞台設定はヨーロッパの貴族の館だけれど、やたら元気な平民が活躍するし、大好きなんです。豪華なんだけれど、気取りかえって泣くって、結構ブラック・ユーモア効いてるでしょ。主要登場人物の全員が魅力的(&聞かせどころ満載)なオペラって「フィガロ」以外に思いつかない程。音楽良し、芝居良し、設定良しで、至福の数時間です。
 嬉しいことに、今回はキャストも絶品。伯爵はダンディで色気があって、さぞやもてるだろうというのが納得の美丈夫ですし、フィガロは颯爽としていて動きも歌も垢ぬけてて頼れるお兄さん、伯爵夫人は気品タップリな方なので、わざとおきゃんに崩した芝居をしてもそれが「あぁお嬢様」となるあたり、他の追随を許しません。このトリオに関しては、頻繁に上演されている「フィガロの結婚」の中でも屈指のアンサンブルだと思います。適材適所として、バランスが絶妙。そして、舞台に登場するだけで「スター!」という空気が流れるのって、客席から眺めていても心地良いですね。伯爵夫妻は召使たちに命令する際の仕草が自然かつ貫禄があるし、フィガロはいかにも床屋な髪型と頭の回転が速そうな立ち居振る舞い。こんなにも役にぴったりのアンサンブルは初めてです。
 伯爵夫人:マイヤ・コヴァレヴスカは実に立派な歌唱力。声の色の豊富さ、強さのせいか、シンプルなはずの伯爵夫人のアリアが実に色鮮やかにゴージャスなことに。声の密度が高く、まろやかなのに芯が通っていて、品格とスケールのある歌唱。ふふふ、僕好みです。そんな彼女なのに、芝居となると「セヴィリアの理髪師」のロジーナになります。大人しい奥方様ではなく、かといって欲求不満のヒステリーおばさんでもなく、「私を見て、私を愛して!」と素直に迫る素敵な女性。結果はどうあれ、夫に不満を感じたら、自ら対策を練り実践する行動派でもあります。激しくないけれど、感情は豊かな実に魅力的なコンテッサ。
 アルマヴィーヴァ伯爵:デトレフ・ロートも売りは品位。わがままぶりを発揮しようと、ヒステリーをおこそうと、駄々っ子にはならず、貴族としての気品を保つあたり、どんな芝居をしたらこうなるの?状態。そりゃ、良き夫とは思えないけれど、領主としての格は保っています。ロジーナとくっつくためにフィガロと手を組んでしまったのが運のつき。フィガロは味方のうちは良いけれど、敵に回すとかなりてこずる相手。何しろ、主人を持ちあげつつも、あの手この手で相手の言いなりにはならないタイプですから。でも、どんなにフィガロ(&スザンナ)に反抗されても、一度はうろたえても、すぐに貴族としての体面を保つあたりは生まれ育ちの確かさ。終幕の幕切れで、浮気の証拠を突きつけられても、逆上するでなく言い訳するでなく、素直に謝罪するあたり、並の者にはできませんって(「すべてはシャンパンのせいなのさっ!」と叫んじゃう銀行家を知ってます、でしょ!?www)
 フィガロ:ロレンツォ・レガッツォ歌も芝居もスタイリッシュ。決して声量があるわけでもなく、どちらかというと小魚がスイスイ泳いでいるかのような歌唱なのですが、小回りが利く分、表現が鋭い気がします。「もしも踊りたいのなら〜」とあれこれ女性たちに提案する際の「楽しそう」な空気の醸し出し方、「もう飛ぶまいぞこの蝶々」でのリズム処理の鋭さ、三連譜のころがし方など、僕にとってのツボが満載。アンサンブルでも重厚な低音を響かせて全体を落ち着かせるのではなく、各声種の合間に効果的に低音を落としていく感覚が面白く、聴きなれた曲なのに別の曲のような感触に。芝居も大芝居で見得を切るのではなく、小さな伏線をあちこちに張り巡らすタイプのようで、舞台端に待機している時も目が離せません。ちょこまかと視線を飛ばし、ケルビーノや女の子たち、そしてちょっといじめてみたいオジサンたちにはちょっかいを出し、スザンナにはメロメロになり、伯爵夫妻には反抗の中にも尊敬を示し、実に細やか。歌に特出する方は、結局のところ、ボケっとなんかしている暇なく、舞台上では常にアンテナを張り巡らしているんでしょうね。仕事のできる人は違うわぁ、と見せつけられます!
 日本組も負けていません。前回まではバルバリーナ(余談ですが、バーバリー=床屋の変化形?)、今回は急な大役ながら、切れ者フィガロと対等にやりあい、小悪魔的魅力を発揮した中村恵理、飛んだり跳ねたりしながらの過酷な歌唱シーンにもかかわらずミッチリ歌いきった林美智子には大拍手。絶品トリオに拮抗まではしませんでしたが、かなり高レベルでの歌芝居を見せてくれました。そして、アンサンブルの面々は、よくぞ出演してくれましたっのスター歌手がズラリ。みなさん、タイトルロールとして他の作品だったら主役を張れるような方々。アンサンブルの妙というよりも、歌合戦みたいだったのはご愛敬ですが、豪華なサプライズです。舞台でちょいと遊んじゃう余裕はアッパレ。とはいえ、スター・オーラに関してはかなり見劣りしちゃったのは彼らの課題かも。そりゃ今回は脇役だから目立ちすぎちゃマズイでしょうが、プリマ、プリモとしての華やかさにはちと欠けていたかも。頑張れ〜。
 主要キャストが頑張っているので、合唱団も弾けていました。元々、新国合唱団は歌芝居が得意な集団ですが、ガヤガヤ芝居で各自が勝手に動き騒ぐ際など、分をわきまえながらも、その中で目いっぱい遊んじゃうあたり、僕は好きですね。主役陣に「うかうかしてられない!」というプレッシャーを与えてくれますし。何よりも、主役たちと合唱団という、よそよそしい関係ではなく、一緒に舞台を作りあげる仲間といった一体感を感じさせてくれるあたり「オペラ」って感じがして心地良いです。
 また機会があれば、今回のキャストで再演していただきたいと思っているのですが、演出は……そろそろオーソドックスなものが良いなぁ。確かに有名作品ですし、リピーターが多いから、ちょっと前衛的な演出もたまには悪くないけれど、新国の客層やオペラの普及活動といったことを考えると「予習してきたけれどわからない」とロビーで会話されちゃう演出はちとツライのではないかと。。。近い将来、オーソドックスなレパートリー公演と、前衛的なリピーター向け公演と、使い分けされるようになれば面白いだろうな、と思ってます。オペラパレスと中劇場で競演しても面白いし、今回は○○版で上演しますってので良いし。御一考いただければと存じます。


2007年10月28日(日)11:00-13:40
宝塚歌劇団雪組「シルバー・ローズ・クロニクル」@日本青年館

 B席 5000円 2階-D列-4番 (パンフレット:600円)

 演出:小柳奈穂子

 アラン/エリオット・ジョーンズ:彩吹真央
 アナベル・クレム:大月さゆ
 テリー・モートン:磯野千尋(専科)
 ウルスラ・アンブラス:五峰亜季(専科)
 パメラ・メイズ:美穂圭子
 ジェイン:森咲かぐや
 クリストファー・クレム:凰稀かなめ
 ヴァン・ヘルシング/ブライアン・H・アトリー:緒月遠麻
 バート・マウロー:大凪真生
 ダニエル:葵吹雪
 ミニー:花夏ゆりん
 キティ:沙月愛奈
 ティム:蓮城まこと
 ジョン:愛輝ゆま
 マーチン:香音有希
 アンディ:香綾しずる
 グレゴリー:梓晴輝
 ヴァージニア:愛原実花
 チャールズ:寿々音綾
 エリック:凰華れの
 マーガレット:此花いの莉
 ドーリー:愛加あゆ
 エイブラハム:冴輝ちはや
 アン:白渚すず
 パティ:雛月乙葉
 ヘンリー:央雅光希
 ローラ:透水さらさ
 ラリー:凛城きら
 ジル:桃花ひな
 ジム:真那春人

 出演者全員に役名がついていますが、実際は5〜6人の人物だけで話が進み、その他は役名がついていることすら知りませんでした。実際、この5〜6人以外は新人公演メンバーなのと、事前に公表されていたあらすじが、小池修一郎の「ヴァンパイア・レクイエム」と酷似していたこと、ポスターの写真がいま一つ心に響かなかったことなどから、全然期待していなかったんです。が、それらはみな杞憂に終わったのが嬉しいこと。小柳奈穂子は座付作者の面目躍起で、下級生にも無理なく役を振り、それぞれが背伸びしすぎず、それでいて実力を発揮しうる範囲で活躍。やるぞ!という意気込みと、出来るっ!!という自信が舞台に満ちていて、心地よい公演でした。
 アラン/エリオット・ジョーンズ:彩吹真央は実力はあるものの、舞台が地味なのと、どの役も同じ表情というのっぺらぼうさが原因か、最近は二番手スターでありながら、専科的役を振られる事が多く「このまま路線を外れていくのかな」と危惧していました。が、今回は久し振りに若者の役。新人たちに混ざっても違和感なく溶け込んでいる姿に「この前までじーさん演じてたよね?」と嬉しいショック。
 普段は格好良い男を研究しているのくせに、なぜか「変人や不細工な役になると、異常なまでに張り切るタカラジェンヌ」の例にもれず、彩吹真央もノリノリで頑張ってます。格好良くも素敵でもなく、冴えないオタクの青年を衣装のダサダサ具合、ヘアや仕草のぶっとび具合など、何をしでかしても笑えてしまう愛らしい主人公を造形。根っからのコメディエンヌ役者ではないので、苗字が大地の真央さんや、真矢みきのような強引な笑いではなく、小さくまとまっているきらいはありますが、誰よりも格好悪い自分を楽しんでいるのがうかがえます。舞台の上ではみなさん、見事に役に化けているものの、演じることを楽しんでいる役者は、客席に幸せを届けてくれますね。音響の悪さで有名な青年館ですが、プロローグから歌詞をしっかり客席に届け、歌の力だけで劇に引きこむなんて、多々ある青年館の中でも滅多にないこと。舞台の余裕、実力は測り知れません。今後は青年館サイズだけでなく、東宝劇場での本公演でも、客席を支配するような大きさを身につけてほしいです。とはいえ、若手が演じてもおかしくない作品を「ベテランが演じるとこうなるんだよっ!」と見せつけたあたり、路線スターとしてのプライドを感じました。
 彩吹真央とは逆に、歌もセリフも声がヒョロヒョロ、ダンスも女っぷりをみせてしまうのがクリストファー・クレム:凰稀かなめ。長身や恵まれたルックスでちょっとノンビリしているような生徒ですが、ここ最近、与えられるポジションが重くなっているので、これから数年でかなり化けるであろう予感がします。舞台に登場した際の華やかさ、宝塚路線スターに不可欠(と僕は思っている)哀愁漂う表情、時折見せるお遊び精神など、5年後が楽しみです。個人的に研15あたりで大人のトップとして就任だと最も魅力的ではないかと思っています。
 まだ若いけれどアナベル・クレム:大月さゆは今が旬のような印象。清楚な雰囲気のポスターとは裏腹に、既に男役に支えられなくても、自分一人で輝けるタイプの娘役です。芝居も上級生相手に物おじせず、歌もダンスも堂々としているので「上手?」という錯覚を起こすほど。まだ下級生ということで、上級生についていきますっという雰囲気は出ていますが、一歩間違えると、支え切れる男役がいない状態になる危険をはらんでいます。ま、その危うい一線というのが、彼女の現在の魅力でもあるんですけどね。今は与えられた大役に武者震いしてキラキラしている感じ。ポジションを超越して、キャンキャン騒ぎ命令するあたり「現代っ子だなぁ」とカルチャーショックを感じたりも。
 ヴァン・ヘルシング/ブライアン・H・アトリー:緒月遠麻はまだ新人公演を卒業して間もないはずですが、下級生が多いせいか、たっぷり大人の魅力を出すことに成功。男役として一人前になりました。裏の顔を持つ、ミステリアスな役でしたが、彼女もそんな見せ場を楽しんでいて、生き生きと芝居に取り組んでいるのが嬉しい。定年退職が増えそうな男役専科、なぜか組長・副組長就任が見えてきた時点で退団してしまう組配属の上級生男役が増えている中、美味しい脇役担当として、路線スターを脅かし、叱咤激励するような、渋い男役になりますように!!
 下級生たちは良くまあ踊ってました。平澤智の振り付けは独特のリズム感と癖がありますが、体内の感覚だけでそのダンスに入り込める若手に踊られると、とたんに色彩が増します。カウントではなく、体の中からリズムが生まれるのが心地良いです。ありきたりのステップの組み合わせではなく、新鮮で面白い仕草を加えながら、キビキビとダンサーたちを動かす場面は、青年館の広さが生きて、良い場面になりました。時に雄弁にストーリーを推し進め、時に舞台装置となって素早い転換を助けたりと、若手ばかりなのを逆手に取った、素晴らしい処理。今後の大劇場での活躍が楽しみになってきました>小柳奈穂子