観劇日記〜2007年12月〜
02日(日) 12:00 東宝「モーツァルト!」中川×香寿 帝国劇場
03日(月) 19:00 梅田芸術劇場「座頭市」初日 新宿コマ劇場
05日(水) 19:00 PARCO劇場「テイクフライト 東京国際フォーラムホールC
08日(土) 18:00 フジテレビジョン「THE LIGHT IN THE PIAZZA」 ル テアトル銀座
09日(日) 11:30 松竹「宮廷女官 チャングムの誓い」 日生劇場
10日(月) 19:00 中島啓江「SEASONS CONCERT 冬」 原宿クエストホール
13日(木) 18:15 十二月大歌舞伎「粟餅」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」 歌舞伎座
14日(金) 19:00 来日カンパニー「RENT」初日 東京国際フォーラム ホールC
15日(土) 14:00 東京室内歌劇場「モーツァルト:後宮からの逃走」 新国立劇場中劇場
16日(日) 12:00 東宝「モーツァルト!」井上×涼風 帝国劇場
18日(火) 18:30 フジテレビジョン「ALL SHOOK UP」 青山劇場
22日(土) 14:00 新国立劇場バレエ団「くるみ割り人形」 新国立劇場オペラパレス
26日(水) 18:30 レニングラード国立歌劇場管弦楽団「聴け!怒濤のロシア音楽!!〜チャイコフスキー選集〜 東京文化会館
27日(木) 19:00 読売日本交響楽団「かつしか第九演奏会」 かつしかシンフォニーヒルズ
31日(月) 23:40 HARMONIA'07-'08 TIF光と音のハーモニー「カウントダウンコンサート」 東京国際フォーラム 展示ホール1


2007年12月02日(日)12:00-15:25
東宝「モーツァルト!」@帝国劇場

 S席 12500円 1階-F列-26番 (パンフレット:1500円)

 演出:小池修一郎

 ヴォルフガング・モーツァルト:中川晃教
 コンスタンツェ(モーツァルトの妻):hiro
 ナンネール(モーツァルトの姉):高橋由美子
 ヴァルトシュテッテン男爵夫人:香寿たつき
 コロレド大司教:山口祐一郎
 レオポルト(モーツァルトの父):市村正親
 セシリア・ウェーバー(コンスタンツェの母):阿知波悟美
 アルコ伯爵:武岡淳一
 アマヌエル・シカネーダー:吉野圭吾
 アマデ:田澤有里朱

 すっかりお馴染みのメンバーによる上演で、新参加はhiroと武岡淳一。hiroはトップアイドルの一人だったけれど、帝劇の舞台に立つととたんに存在感が半減。モーツァルトを愛する二人の女〜コンスタンツェとナンネール〜の一方が弱くなると、対比がキレイに収まらず、作品の観え方が変わってくるのがお芝居の面白く、そして恐ろしいところ。二人の女性と父親から愛されるにもかかわらず、幸せを掴めなかったモーツァルトのお話なのに、父・弟・嫁がおのおの勝手に生きてる愛のない家庭の中、弟に愛情を注いでしまった姉の悲劇みたいなお話になってまんねん。モーツァルトは絶好調ではありましたが、主役はナンネールと言っても良いのではないでしょうか。
 hiroは芝居は初めてになるのでしょうか。セリフの粒が全く立たず、何をしゃべっているのかわからないし、そもそも客席にセリフを届けようという意識はないみたい。たぶん、そんなレベルではなく、舞台に立つだけでいっぱいいっぱいなのでしょう。表情もテレビで見るのとは別人のように固くこわばっていましたから。まだまだこれからの人ですね。いきなりこの大役は力不足。一部スタッフから絶賛の声を聞いていたのですが……ごめんなさい、僕には彼女の魅力がサッパリでした。ピュアな役を演じようとすると幼稚になってしまう、日本の女優の弱点を彼女も備えていて、セリフも動きもやたらとガキンチョになっていたのは嫌悪感。大人の魅力を持ちつつもピュアなのが本来の形では? 欧米女性であんな幼稚な大人は見たことないぞぉ。
 武岡淳一は歌手という歌ではないけれど、リズム感は確かで、自然にタイミング良く歌を挟めるという部分、前任者と大違い。今まで「奇々怪々な楽譜なんやろか?」と、思っていた部分、今回はちゃんと普通に聞こえましたv
 中川晃教は何か舞台がふっきれた印象。モーツァルトとして生きていて、動きも歌も芝居も実にスムーズ。彼は躁鬱病か?と思うほど、舞台にムラがある役者ですが、今回は何か吹っ切れたかのような、実に弾けたステージでした。でも、最後のシーン、どうしても結核で死ぬのではなく、才能の枯渇に苦しんで自殺するようにしか見えないんですけど(と、前回演出家に言って馬鹿にされましたが、やっぱりそう見えるっ) 中川晃教の歌や芝居は個性(癖とも言う)が強いので、この作品以外で、彼で観たいものはと聞かれると困ってしまいますが、たった一つでも代表作と呼べる作品と巡り合える役者って幸運ですよね。彼の歌の魅力は「ささやき」にあると思うんです。さらりと歌い流している中に感情が込められるのが強み。決して声量があるわけじゃないのに、コーラスを突き抜けてスコーンと抜けて聞こえるのも不思議。
 香寿たつきは技術と役柄の両面で安心の存在。貫禄ばっちりあります、歌は歌詞がクリアだし、音程も大丈夫、そしてちゃんと感情こもった歌声。ヒロインよりも助演タイプの人ですが、今後もミュージカル界で活躍していただきたい逸材ですね。男役出身なのに、高音が楽に出るのも強味。
 意外に低調だったのが市村正親。枯れた芝居ではなく、舞台に対する愛情も、ヴォルフガングやナンネールに対する愛情も感じられず「どうしちゃったの?」状態。なんだか、心ここにあらずのような覇気のなさ。歌も軽く流していました。よって、「父の心子知らず」になってしまい、かなり歪んだ印象に。同行者の弁じゃないけどナンネールが弟と父親の間を取り持とうと「アンタ、パパのこと神様の次に愛してるって言ってたじゃないっ」と言って振り向いた途端「はっ、パパはあいしてなかったんだ!」という、せっかくの泣かせる場面がコメディに様変わり。もちろん、そんなつもりはないんでしょうけど、一幕で勝手に人物関係を設定しなおしちゃったもんだから、二幕は観る側が暴走。
 高橋由美子は共演者が崩れる中、気丈にクオリティを保ち(逆に高め)、女性に自由のなかった時代に生きたナンネールの悲劇をきっちり演じ切ってました。出来た姉ゆえに、ヴォルフガングも安心して暴走できたことでしょう。
 忘れちゃいけない、最高に素晴らしかったのがアマデ:田澤有里朱。まだ小学三年生だそうです。が、舞台上での堂々とした態度、芝居のメリハリ、キリリとした表情など、とてつもない子役の登場です。今まで観てきた子役の中でベストに入れてしまいましょう。動きがすべて音楽に乗っているし、中川晃教と対等にやりあってしまうあたり、大物ぶりを感じました。次回も彼女だと良いなぁ。


2007年12月03日(月)19:00-22:15
梅田芸術劇場「座頭市」初日@新宿コマ劇場

 S席 12000円 18列-48番 (パンフレット:2000円)

 演出:三池崇史

 座頭市:哀川翔
 神撥の八:阿部サダヲ
 朱太夫:麻路さき
 竜之介:遠藤憲一
 権蔵:田中隆三
 お紺:松浦佐知子
 蘭丸:RIKIYA
 赤蝮の錠/お京:野村祐人
 黒蝮の涼/お蝶:青山草太
 お奏:いとうあいこ
 浅川の親分:中田博久
 熊吉の親分:永澤俊矢
 吾六:長門裕之

 素敵な素敵なアンドレ様だった麻路さき出演の座頭市……誰しもがタイトルロールを演じると思ったことでしょう。が、ヒロイン役です、ヒロイン役。思えば「狸御殿」に出演した際に、鳳蘭の相手役としてきぬた姫を演じたことはありますが、あれはコメディとして、オカマ芝居(と女性に対して書くのも失礼な話ですが)を楽しむもの。本格的な女役は今回が初お披露目。記者会見では「男っぽい役者に囲まれてるのでちゃんと女に見えると思う」とおっしゃってましたが……なぜか男役に見えてしまったのは僕だけではないはず。着物姿なので、体のラインが隠れてしまうこと、旅一座の座長役ゆえ、その着物も肩の張ったものが多いこと、何よりも、発声が男役時代と大差ないことが原因でしょう。でも、マリコさんはもともと「存在そのものがスター」なタイプなので、そんなささいなことはどうでもよろし。登場するだけでパッと舞台が華やぎます。それだけで十分。実は、朱太夫役は登場しなくても舞台進行上、大したことないんです。一応、朱太夫の相手役候補として、座頭市と竜之介がからみますが、男たちがぐだぐだと理屈っぽく、それとなく感情をにおわすだけで、ラブシーンがあるわけでなし。ファンとしては安心して観ていられます。ちなみに、歌は……ありません。
 では、見どころがないかというと、とてつもない場面が用意されていました。朱太夫が命を落とすシーンなのですが「ベルサイユのばら」のパロディが登場します。それもアンドレが命を落とすシーン。「ベルばら」だと大セリを利用したパリの橋の上と下でアンドレとオスカルが芝居をしますが、立ち位置はそのまんま。旅一座の仮設舞台の上と下でアンドレ…もとい朱太夫と竜之介のお芝居が繰り広げられます。衛兵隊による銃撃で何発打たれようともしつこく立ち上がって長台詞をしゃべって歌って息絶えるアンドレですが、刀で切りつけられているというのに、延々と劇中劇のヒロインの場面を演じ続ける朱太夫。で、ここからはアンドレとオスカルが入れ替わるのですが、朱太夫が倒れた瞬間「オスカル様〜」と駆け寄るのが神撥の八。この移動っぷりといい、タイミングといいロザリーなんですよ。「アンドレ!アンドレ!!」と叫ぶ代わりに「アンタの本当の名を教えて!」と竜之介(←これは幼少名らしい)に迫る朱太夫。ここで本名位教えてあげれば良いのに、あくまで竜之介が躊躇するため、朱太夫は無念のまんま。おまけに、バスティーユ襲撃のダンスの代わりに披露されるチャンバラの場面では朱太夫は舞台に放りだされたまんま。ヒロインだってのに、まだ息絶えてないってのに、ちょいとあんまりな放置プレイ。戦いが終わったころになってようやく座頭市が朱太夫を抱きかかえたところで「フランス万歳」じゃないけれど、ようやく息絶えます。……と文章で書くとわかりにくいけれど、この一連の流れは宝塚そのまんま。チャンバラシーンでなぜみんな踊り出さないのか不思議に思う位です。
 って、半分冗談ですが、流れについてはそのまんま。僕はチャンバラ物は好みじゃないのでほとんど観たことないのですが(だって華麗でもゴージャスでも妖艶でもないでしょwww)、ミュージカルにおけるダンスとも、歌舞伎における型に基づいた殺陣とも、はたまた大衆芝居における「秘伝○○の技」が登場するわけでもないのですが、実にスピーディで力強くて見ものでした。切られた人は舞台の上に倒れるでなく、舞台袖に引っ込むでもなく、倒れてもすぐに立ち上がって再び切りかかるという、エイリアン的な演出により、結構この見せ場が長く続くのが面白かったわぁ。
 座頭市:哀川翔は初舞台だそうです。が、映像メインの人にもかかわらず、舞台上でのセリフの通りが良く、ボソボソしゃべっているようなのに明瞭に聞こえてくるのが素晴らしいです。そして、ボロボロの衣装で突っ立ってる場面だらけにもかかわらず、舞台上での存在感があるのはスターやなぁと。あのマリコさんを相手役にして負けてないという時点で、座長の貫録十分です。動かずに間を持たせられる人って、役者として大きく見えますね。盲人の役なのですが、顔の角度やヒョコヒョコした動きは映画版の座頭市:ビートたけしにソックリでした。勝新太郎の座頭市は見たことありませんが、オリジナルの動きなのかしらん?
 神撥の八:阿部サダヲは舞台で観るのはたぶん初めて。記者会見の時はぼーーーっとした、どこにでもいそうな地味な兄ちゃんでしたが、舞台では別人。テンション高くペラペラしゃべりまくるのですが、不思議とうざったくないのは、品の良さからでしょうか。無口で動かない座頭市とは対照的におしゃべりでちょこまか動きまくるのですが、互いにないものを持っている凸凹コンビ。そういえば、視力障害の座頭市と、聴力障害の八。いろんな面で補いあっているんでしょうね。実質的な座頭市の相手役として大活躍でした。耳の聞こえない八と座頭市のコミュニケーションですか? 八は口読術の名手なのです。じゃ、夜だとか顔を見てない時はどうなるかというと……なぜか普通に会話が続いてます。でも、突っ込みどころ満載な台本なので、この程度でいちいち突っ込んでなんていられませぬ。ハートウォーミングな素敵な役者さんですね。映像でも活躍されてますが、舞台の方が彼の魅力が生きるような気がします。セリフ術だとか、動きが実に舞台向き。
 三池崇史演出(舞台なのになぜかみなさん監督と呼んでます。映画への敬意かな)は、コマ劇場公演(そして大阪公演は梅芸が会場)だというのに、セリも盆も使用せず、暗転の間に舞台を転換。よって場面ごとに芝居の流ればプツッと切れてしまうのがもったいなかったです。ま、あまり流れが良いとミュージカルみたいになってしまうし、この手のお芝居のお約束範囲なのかもしれませんね(すみません、全然観ないジャンルなので不勉強です)。客入りや作品のスケール、そしてこの演出を考えると、もう少し小さい劇場で上演した方が舞台への求心力も高まるのではないでしょうか。梅田芸術劇場によるプロダクションなので、自動的に東京公演はコマ劇場となったのでしょうが、たとえばこれがシアターコクーンでの上演だったら、もっと舞台が締まったのではないか、と思ってます。
 最後に「これを言ったらおしめぇよ」なんですが、吾六:長門裕之は大嫌い。大騒ぎを起こし、村の平和と安全と人間関係を滅茶苦茶にしておきながら、秘密を守り通すわけでなく、さりとて告白し始めたとおもえば「すまねぇ、すまねぇ」ばかりで全然埒があかない。大人なんだから、もちっと考えて、理路整然としゃべりなさいな、と実際にこんな人が身近にいたらイライラするだろうなぁ。もちろん、このキャラクターがあってこそ今回の芝居が成り立つんですけど。。。


2007年12月05日(水)19:00-21:40
PARCO劇場「テイクフライト@東京国際フォーラム ホールC

 SS席 12600円 1階-15列-13番 (パンフレット:2000円)

 演出:宮本亜門

 アメリア・エアハート:天海祐希
 チャールズ・リンドバーグ:城田優
 ウィルバー・ライト:池田成志
 オーヴィル・ライト:橋本じゅん

 フレッド・ヌーマン:小市慢太郎
 ピータ・バーク:坂元健児
 ドナルド・ホール:今拓哉
 ジョージ・パットナム:宮川浩
 オットー・リリエンタール:ラサール石井

 リンドバーグの母親:花山佳子
 エイミー・フィップス:杉村理加
 レイ・ペイジ:治田敦
 銀行家:岡田誠
 女子学生:華城季帆
 マギー・フィールド:菅原さおり
 女子学生:本田育代

 少女時代のアメリア:出野泉花

 ロンドン版と東京版を競演させて、良かった方のプロダクションをブロードウェイ入りさせる、という誰が思いついたんだか、ちょっと悪趣味な上演です。ここしばらくロンドンはご無沙汰しており、今回が初見の作品です。そんなチャレンジャーたちが手がける作品は、大空へ夢を託したチャレンジャーたちの物語。ライト兄弟、リンドバーグ、アメリア・エアハートの時代も環境も異なる三人の人生が並行して語られます。別々のストーリーを同時進行させるのはミュージカルの得意技。主要キャストがワンフレーズ歌いながら勢ぞろいするプロローグは、コーラスの厚みやオケの響きの充実にも助けられ、ワクワクさせての滑り出し。
 しかし、ここから先は、物語がまったくフライトしないんです。三者(四者か)それぞれの空へのあこがれと、障害を乗り越えての冒険が語られるのですが、それぞれ同じボリュームで語られるので、ストーリーが分散してしまうこと、そして、一つ一つのストーリーが全く盛り上がらないくせにやたらと長いこと。これは、台本の交通整理がなされてない作品だと感じました。二階建て馬車のようなコンテナがワゴンに乗せられ、舞台上手から出入りするのですが、このコンテナの一部が開いて別世界、別空間に早変わりしたり、コンテナがスクリーンとなって、リズミカルに映像が写し出されたり、はたまた、映像と実写が合体して、セットの上で座っているだけのパイロットが本当に操縦しているように見せたり、群衆を影絵のように表現し、民衆パワーを見せつけたことなど、この装置のデザインとアイデアはなかなか秀逸。自在に時代や場所を行き来します。が、それにもかかわらず、いつまでたっても、三つのストーリーが平行線をたどっていて、一つにまとまることがないので、観客としてはいつまでも物語の芯が感じられず、落ち着かない状態を過ごすことになります。
 また、実績があり名前も通っている役者がそろった結果、亜門さんの弱点が露呈されたのも原因の一つ。とにかく、役者にたいするまなざしが優しいんです。「アンタは脇役、だから主役の邪魔しないでっ」じゃなく「せっかく舞台に出るんだからアナタにも見せ場を作りましょうね」なタイプなので、メリハリがつかず、小さな(そして小さすぎる)山場の連続で、結果、舞台の印象が非常に平板。このあたり、本人の意向は別として「私が主役よ!文句ある?」な大地真央とのコンビが絶妙だったのを再確認。役者への愛情はともかくとして、舞台は2時間半という制約の中でドラマを盛り上げなければならないわけでして、階級社会大歓迎なんですが、ワタクシ。。。
 天海祐希は宝塚時代、人気は抜群だったし、華やかなスターですが、主役としての存在を牛耳るタイプではなく、何よりも歌が下手なのが致命傷。そういえば、退団後、ずっとミュージカルとは御無沙汰だったせいか「宝塚出身なのに歌があまりに下手」という評判を聴いて、実は恐る恐る劇場に足を踏み入れたのですが、なんてことありません。いつものゆりちゃんです。昔からあんな程度です。ファンの方はご安心ください。慣れてる人は大丈夫。僕は「意外にまだ歌えるじゃん」と思いながら聴いてましたが、初めての人は…ビックリするかも(汗) 衣装は颯爽と着こなしてますし、意思の強い女性を演じたら日本で指折りの女優の一人が天海祐希ですが、アメリア・エアハートは、結婚も引退も結局は旦那の言いなりになってしまうし、クライマックスだって気持ち良くフライトではなく、行方不明になってしまうという尻切れトンボさゆえ、不完全燃焼は否めません。夢にかける苦しさは様々なエピソードから伝わってきましたが、それを乗り越えた開放感も感じたかったです。
 池田成志&橋本じゅんのライト兄弟は、コンビとして楽しく使われていましたが、いかんせんこの二人の場面は長すぎ。歌が下手ってわけじゃないけれど、ボロが出ます。三つの物語のバランス面からも、もっと刈り込み、短くまとめた方がバランス良かったんじゃないでしょうか。
 ジョージ・パットナムは宮川浩が演じているとは最初気づかなかったほど。髪形が独特で、西川きよしみたいでした。もしかしたら、一番人間としての心の動きを書きこまれた役かもしれません。もしかしたら、主役の3組の誰よりも魅力的な役かもしれません。標準語を話しているのに、なぜか関西の香りがプンプン。


2007年12月08日(土)18:00-20:30
フジテレビジョン「THE LIGHT IN THE PIAZZA」@ル テアトル銀座

 SS席 11000円 11列-25番 (パンフレット:2000円)

 演出:G2

 マーガレット:島田歌穂
 クララ:新妻聖子
 フランカ:シルビア・グラブ
 ファブリーツィオ:小西遼生
 ナッカレリ氏:鈴木綜馬
 ナッカレリ夫人:寿ひずる
 ジュゼッペ:大高洋夫
 ロイ:久保酎吉
 司祭:佐山陽規

 開場の時点で幕のあがった舞台には、イタリアの街に良く見られる、建物に囲まれた広場。この装置がとてもキレイで、一気にイタリアの気分になります。衣装も淡い色、照明も柔らかい光で、穏やかな雰囲気。オケは舞台中央(大劇場だと大セリが設置されているあたり)の穴に位置し、室内楽を基調とした編成。ここ最近、ミュージカルのオケは弦楽器がないがしろにされ、やたらとシンセサイザーが多様されていますが、弦の音に関してはまだ完璧な再現には程遠い現状なので、アコースティックの響きに惚れ惚れ。ミュージカルなので、PAは使用されていますが、音量ではなく、繊細な響きを重視した作品なので、制作スタッフの作品にかける愛情を感じます。
 さて、この作品は知能障害の娘を持つ母親の心の葛藤がメインテーマ。スピーチや演説が重視され「主張してナンボ」「言わなきゃわからん」の国の女性でありながら「察してよ」のタイプの女性がたどる悲劇とでも言いましょうか。夫に対しても、娘に対しても、旅先で出会ったナッカレリ一家に対しても、話そうとしては躊躇して「何でもないの」と自分の胸にしまってしまい、かといって、自己解決するわけでもない、正直イライラする女のお話です。台本の上では、芝居でのセリフだけでなく、観客に語りかける、いわばスカーレットIIのようなセリフが登場するのですが、このあたりの処理を島田歌穂がこなせてないため、役が膨らまず、ただただ不完全燃焼の女性に見えてしまったのが残念。本来、笑いに持って行くであろう台詞や芝居も、コメディセンスがない役者の手にかかるとここまで盛り上がらないものか、とガックリ。実力派女優とされている島田歌穂ですが、歌唱力はともかくとして、芝居に関しては守備範囲の狭さ、自分で自分の芝居に酔っているかのようなわざとらしさ、そして何を演じても同じになってしまう貧乏臭さが(僕の趣味ではないというのはさておき)今回の役では足かせとなってしまったようです。今だにエポニーヌを超える当たり役に恵まれないというのは、彼女の持ち味の問題があるんだと思います。今回もアメリカ人の中年女性ではなく、日本の中年のおばちゃんにしか見えませんでしたもの。スタイルの悪さ(姿勢が悪く、猫背で頭を前に突き出す癖あり)ゆえ、ドレスや帽子が見事なまでに似合わないのも減点。同じ不幸顔女優だとしても、たとえば安奈淳あたりが演じたら、もっと違う仕上がりになったのではないでしょうか。娘の障害を乗り越え、ナッカレリ一家を騙して、夫を捨ててまで、娘の結婚を進める大きさ・力強さが欲しかったです。歌だと感情の変化を抜群に表現するのですが、芝居となると一本調子なので、実際の上演時間以上に時間が長く感じました。
 とはいえ、歌唱は見事です。ppを基調としたメロディラインなので、並の歌手だとメロディを支え切れずにボロが出てしまいますが、繊細なコントロールの上で、音で遊んでしまうあたり、さすが「歌手」です。新妻聖子、シルビア・グラブも中低音を得意としている歌い手で、クラシカルな歌唱は専門ではないのですが、丁寧に丁寧にナンバーにとりかかり、オケの繊細さにも助けられてか、美しく響かせてました。このミュージカル、プッチーニのような重唱がやたらと登場するのですが、互いの声を聴きあって、自分の声のコントロールができる役者が揃っているので、今回はアンサンブルが見事。リリカルで美しい響きに満たされました。
 お芝居では、新妻聖子はパニックぶりが、シルビア・グラブは情熱的なイタリア女っぷりが、静かな芝居の中でのハイライトを作りだしてましたし、鈴木綜馬のマイペースぶり、寿ひずるの包容力による「イタリアのマンマ」ぶりが出色。歌の出番はほとんどないのが名歌手のお二人には勿体ないけれど、助演に徹するお二人のプロ意識に拍手。小西遼生は……頑張ってはいましたがお話になりませぬ。出直してらっしゃい。歌えないミュージカル俳優に用ナシ。

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2007年12月09日(日)11:30-14:55
松竹「宮廷女官 チャングムの誓い」@日生劇場

 C席 4000円 2階-F列-18番 (パンフレット:1500円)

 演出:西川信廣

 チャングム:菊川怜
 ハン尚宮 ミョンイ:波野久里子
 ミン・ジョンホ:山口馬木也
 カン・ドックの妻:角替和枝
 カン・ドック:佐藤輝
 チョン最高尚宮:前田美波里
 ヨンシン女官長:駒塚由衣
 イ・ヨンセン:有坂来瞳
 ユン・ヨンノ:石橋奈美
 チェ・グミョン:貴城けい
 チェ尚宮:多岐川裕美

 韓国MBC・PMC制作ミュージカル「大長今」より、とのことだったので、ミュージカルだと思っていたんです。が、いざ劇場に行ってみればストレートプレイでした。台本も今井豊成によるオリジナル。観客を混乱させるような広告は控えてほしい……(怒)>松竹
 さて、テレビドラマだと54時間という長編を3時間にまとめるということで、台本・演出がどうなることかと思っていました。「冬のソナタ」のように、枠組みだけ残して、新たなストーリーの舞台作品にするか、作品の一部を取り上げて「○○編」として編集するか。今回は、カットをはさみつつ、極力ストーリーを追いかけていくハイライト編として構成したようです。もっとも、初日の段階で取り上げられていた「チャングムが味覚を失う」エピソードがカットされるなど、今なおプレビューのごとく、改良が加え続けられてるようですが、それでも、今日の段階ではまだまだ長く、ダラダラとした作品の印象を受けます。台本作家が「チャングムおたく」を自認されていましたが、大長編をシンプルにまとめる際、思い入れの強い作家だと「あの場面も入れたいし、この人も登場させたい」となってしまうんでしょうね。
 いちおー、韓国旅行ではチャングムのテーマパークにも足を運びましたし、とびとびでドラマ版も何度か観ていますが、ストーリーがあまりに飛びすぎるのにはぶったまげました。みなしごとしてチャン・ドック夫妻に拾われたチャングムは、当初チャン・ドックの妻に邪魔者扱いされるのですが、次のシーンでは誰よりもチャン・ドックの妻がチャングムにラブラブ。「赤毛のアン」第一章の次はいきなり「アンの青春」に場面が変わるようなもの。展開の早さは「レミゼ」も真っ青です。宮廷に入ってからはあれよあれよという間にベテラン料理人になるし、なんだか人と人との繋がりをおろそかにして、状況説明もないまま、次々に場面も人間関係も変わっているのが目まぐるしいです。「いつの間にそこまで深い関係になってたの!?」とビックリ仰天することが多々ありすぎました。一幕の料理人編はそれでもまだ話の繋がりがありましたが、二幕の医女編ともなると、追放先で「医者になる」と宣言しただけで、次の場面では宮中で一番の実力派女医として登場。とてつもないスーパー・レディですわ。いつの間にやらミン・ジョンホにも王様にも愛されてるし、ここまでぶっ飛んだ台本だと「作品としてはつまらないけれど、乱暴ともいえる編集ぶりが面白い!」と僕はのめり込んでしまいました。「おぉ、こう来るか!」の連発ですもの。決してリピートしたい作品ではないけれど、突っ込みどころ満載で、本来泣くべきシーンなのに、笑いたいこと多々。制作スタッフのみなさんの意思とはうらはらな観客でごめんなさい〜〜〜。
 2幕24場という、ストレートプレイとしては場数が多い作品なだけに、舞台セットはアイデア勝負。踊り場がいくつかある大階段と、その最上階へ続く影階段という上から見下ろせばT字型のセットがぐるぐる回り、向きによって表情が変わるというアイデア物のセットが大活躍。日生劇場は変形ではあるものの回り舞台が利用できるのですが(実は使われているのを観たことないのですが、今も使えるんでしょうか?)今回は大道具さんが黒子となって、人力でセットをぐるぐる回すという力技。迷いもなく所定の位置にピタリと収まる職人芸は拍手物です。場面がクルクル変わる度に暗転になってしまうのが勿体無いほど。
 もしも、ミュージカルだったら、チャングムの成長過程だとか、境遇の変化をミュージカルナンバー一曲で自然にワープするでしょうし(小池さんが得意そう)、舞台装置の変化だって、暗転することなく、ナンバーに合わせて堂々と変換できたでしょうに、わざわざストレートプレイに書き換えたうま味が感じられないのが残念。
 出演者は…大根役者が揃っていて、大根おろし状態。チャングム:菊川怜は演出かの指示をきっちり守っていると思います。芝居の段取りといい、セリフといい、文句のつけどころがありません。さすがIQ女優だけあります。そして、感情は全くありません。常に冷静で、きっちり計算の上での芝居だというのがうかがえ、突っ込む隙すらありゃしません。ここまで徹底されると大根だとかそんなことはさておき、とりあえずは「ははぁ〜」と感嘆するしかありません。すっごくつまらない女優ですが、スタッフ受けは良さそうな予感。台本上の強引な展開だって、その合間を埋めようという演技なんてせず、指定された場面の指定された芝居をこなすという切り替えの見事さ。大根役者の定義が僕の中で崩れる思いです。棒読み台詞で3時間を持たせるって何者!?
 ハン尚宮 ミョンイ:波野久里子はこの役には年齢取りすぎ。すっかりおばあちゃん。カン・ドックの妻:角替和枝&カン・ドック:佐藤輝は舞台版ではいらなかったと思います。中途半端な登場は混乱の元でしたし、コメディ・リリーフとしてあまりに中途半端な扱いで、笑いのない寒い空気が劇場を包みましたもの。チョン最高尚宮:前田美波里はさすがの貫録。舞台を一瞬にして弾き締めます。彼女は決して芝居巧者ではないのですが、今回の座組だと、名役者の仲間入り。セリフの通りの良さ、表情の豊かさ、メリハリのつけ方など、舞台慣れしているのがアリアリ。安心して見られます。が、料理人編で、宮中から去ったものの死んではいないのに、医女編になるやいなや、チャングムの母やハン尚宮と同等に、クライマックスではまとめ役として、亡霊になって現れるのはいかがなものでしょう。もちろん、ここで美波里さんが登場しないと舞台が締まらないというカンパニーの問題もあるのですが、あまりに別格な取扱いにのけぞるしかありませぬ。チェ・グミョン:貴城けいはチラシとは異なり、おでこを半分隠した鬘ゆえ、最初は登場に気づかないほど。しゃべりだすとジェローデルなのですぐにわかりましたけどww 料理人編での娘の格好は普通でしたが(包丁さばきはかなり怪しげでしたが)、医女編で出世した姿は神々しいまでの美しさ。身長はあるし、姿勢は美しいし、豪華な衣装を身につけての貫録は元タカラジェンヌの看板に偽りなし。チェ尚宮:多岐川裕美はチラシの紛争写真では「ぴったり♪」と思っていましたが、あそこまで大根だとは……。せっかくの美味しい悪役だというのに、全然映えなくてガッカリ。本人はずっと力んでるのですが、それが芝居に全然活きないんですもの。常に脇で貴城けいがフォローしてくれて、やっとこさっとこ面目を保った次第。
 ……と書き連ねながら、主役の歌こそ未知数ですが、今回、ミュージカルとしての上演だったら、また感想も異なるんだろうな、と思っております。韓流ミュージカルともなると、ナンバーもドラマティックでしたでしょうに。上演形態を変えての上演、もしくは、料理人編・医女編に分割しての上演でない限り、今回のプロダクションはもう結構です。おなかいっぱい。

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2007年12月10日(月)19:00-21:00
中島啓江「SEASONS CONCERT 冬」@原宿クエストホール

 全席指定 6000円 K列-7番 (パンフレット:無料)

 ヴォーカル:中島啓江
 ピアノ:飯田俊明
 サックス:スティーブ・サックス
 チェロ:古川展生 *

 文部省唱歌:雪やコンコン
 文部省唱歌:冬の夜
 窪田聡:母さんの歌
 山田耕作:ペチカ
 シューベルト:アヴェマリア
(休憩)
 バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番ト長調より プレリュード *
 カッチーニ:アヴェマリア *
 新井満:千の風になって *
 アイルランド民謡:ダニーボーイ
 アーヴィング:ホワイトクリスマス
 フランツ:聖夜
 キープ・クリスマス・ウィズ・ユー
 アメリカ民謡:アメイジング・グレイス
(アンコール)
 新井満:この街で *

 このところ、これといった活動を耳にせず、最後に観た「キャンディード」が不調だっただけに「引退したのかな?」と思っていた中島啓江のコンサートということで「久しぶり♪」と勇んで原宿はクエストホールへ。ここは展示会もやっちゃうような多目的空間で、舞台も客席も仮設。かなり小さな空間ですが、舞台の上にはマイクがズラリ。「はて、オペラ歌手のコンサート」と歌ってる割に不思議な編成だなぁ、と思った悪夢が的中。登場し歌い始めた中島啓江、全然声が出ないんです。それどころか、息も持たないので、一曲目の「雪やコンコン」の段階でいっぱいいっぱい。音程は定まらず、声も散りまくり、一つのフレーズをやたらと切りまくり。こりゃ、生じゃ歌えませんわ。で、PA入れまくりなのですが、それでもあんまりな出来に思わず下を向いてしまうほど。
 あまりの不出来に休憩時間はロビーで同行者と魔女会議。ボロクソです。で、気を取り直しての後半はのぼぉちゃんのソロでスタート。聴きなれた音とはいえ、安心の一曲。で、その後しばらくのぼぉちゃんがステージを受け持つのかと思いきや、二曲目で中島啓江が登場。かつて、六本木でのぼぉちゃん&本田美奈子も演奏した「救いのないアヴェマリア(とファンは呼んでます)」ですが、音をやたらと下げまくり、高音は回避。「千の風になって」もポツポツとフレーズを切って、一本調子。かつての歌姫はどこへ行ってしまったんでしょう。まだ50歳なので、声楽家としては今が絶頂期としてもおかしくないのですが、既に引退歌手の趣き。おまけに、トークもロレツが回らず、同じことを繰り返したり、共演者に話を振りながら自分一人が離し続けたり……居酒屋でみかける酔っ払いの説教オヤジ状態。のぼぉちゃんも、スティーブ・サックスも、呆気にとられたかのように「…はい」と相槌を入れるのが精いっぱい。尋常とは思えないステージングに、見ちゃいけないものを見ちゃった気分です。
 声が出ないので、無理やり押し上げ、だんだんテンポも緩んできて、共演者はさぞ演奏しづらかったことと思います。たぶん、アップテンポの演奏ができない状態だったのかと推察しておりますが。。。後半、ゴスペル調の歌唱になって、やや生彩を取り戻しましたが、全盛期にはおぼつかないか細い声量。体型も以前から太めでしたが、今や小錦にソックリで、歩くのもヨタヨタ、短時間のコンサートの合間も立ち続けることは不可能な状態。喉のガサツキや動き、肉質からさっするにかなりお酒に狂ってるかと思います。プロとしての自己管理を疑いだすとキリがありませんわ。
 そもそも、ヴォーカリストとして声が出ない状態でお客の前に立つというのもどうかと思いますし、体型管理も、歌のための体とは思えないんです。声量といい、ブレスや音程のコントロールといい。終演後に聞いた話だと、足を悪くしているそうですが、あれだけ無駄に太れば足だって悪くなります。今後どのような活躍をされるかは存じませんが、僕の中では彼女は過去の人となりました。新国オペラZ席4回分の料金に見合ったコンサートではないですっ。上手い、下手の前に、音楽に対して真摯な姿勢を持てない人のコンサートにお金は出せませんっ(と書きつつ、実は今回は招待券をいただいたんですが。。。)

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2007年12月13日(水)18:15-21:35
十二月大歌舞伎「粟餅」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」@歌舞伎座

 一幕見席自由 1500円 4階-2列-12番 (パンフレット:1200円)

「粟餅」
  杵造:三津五郎
  臼造:橋之助

「ふるあめりかに袖はぬらさじ」
  芸者お園:玉三郎
  通辞藤吉:獅童
  遊女亀遊:七之助
  唐人口マリア:福助
  イルウス:彌十郎
  浪人客梅沢:権十郎
  浪人客佐藤:海老蔵
  浪人客堂前:右近
  大種屋:市蔵
  幇間和中:猿弥
  唐人口チェリー:吉弥
  唐人口メリー:笑也
  唐人口バタフライ:松也
  唐人口ピーチ:新悟
  芸者 奴:笑三郎
  芸者 太郎:春猿
  帳場定吉:寿猿
  旦那三河屋:男女蔵
  旦那駿河屋:亀蔵
  旦那伊東屋:友右衛門
  思誠塾多賀谷:段治郎
  思誠塾飯塚:勘太郎
  思誠塾松本:門之助
  思誠塾小山:橋之助
  思誠塾岡田:三津五郎
  岩亀楼主人:勘三郎

 一幕見席とはいうものの、3時間以上も観られるとは、歌舞伎座からのクリスマスプレゼントのような御配慮。採算は全く無視ですよね。フラリと歌舞伎座を訪れて、サブセンター通路サイドの最後列を確保。ふふふ、ここは座高も気にせず、足も投げ出せ、さらには視界を遮る人がいないという、一番良い席なんです。もうホクホク。ちなみに、立ち見となったのは1〜2人だけ。勿体無いなぁ。
 「粟餅」は歳末のデパ地下です。「今から餅をつくから寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」ついでに「ひと踊り披露もしちゃいましょう」という気楽で楽しい舞踊。粟餅だろうが、普通の餅だろうが何でもOKです。客寄せの賑やかさ、餅つきの威勢良さ、ついた餅を一口大のダンゴにする仕草の楽しさ、ヨヨイノヨイとちょこまか踊る愛らしさ。20分程の小品ですが、飽きる前に幕になるのが嬉しい(舞踊については素養がないので、長いと飽きるんです、ワタクシ)。三津五郎と橋之助の動きがコミカルで、このまま三越あたり、大みそかに雇ってくれないかしらんwww
 しつこいようですが、一幕見席ですが「そのままご覧ください」とおっしゃるので「ふるあめりかに袖はぬらさじ」も鑑賞。こちら、全四幕3時間の大作です。歌舞伎座公演は恐ろしいことに、二幕が終わった時点で5分の休憩があるだけで…ほとんどぶっ通し。お尻に優しくないなぁ。でも、今回のカンパニーが総出演とあって、端役に至るまで大物が登場。今でこそ配役を書き出してますが、公演前に出演者のチェックをしてなかっただけに、ビックリ・サプライズの連続でした。
 さて、この作品は元は新劇になります。玉三郎が当たり役として再三演じているので、何となくお馴染み気分ですが、歌舞伎座での公演は初めて。もちろん、娘役も女役も外人役も歌舞伎役者が演じます。普段美しいお姫様で鳴らしている面々が西洋人相手の娼婦として登場したり、ほんの一瞬、凄味を効かせて去っていく無頼漢に海老蔵&右近が登場したり(普段二枚目ぶってますが、かなり強面のお二人ですwww)、アメリカ人役彌十郎がドリフも真っ青な「なんちゃってアメリカ人」を怪演したりと、ビックリと大笑の連続。極めつけは歌舞伎界でちゃらんぽらんな男を演じたら右に出るものがない、勘三郎が娼婦宿の主人役。何とも豪華な一座です。これだけの脇役を従えて、主役として君臨できるのは玉三郎を置いて他にいますまい。
 玉三郎というとお姫様役者、もしくは舞踊などで「女」を演じることはあっても、おばちゃん役ってそうそうないので、今回のお園役は僕にとっては非常に新鮮。通常の劇場と違ってマイクを使用しないので、声量の乏しい玉三郎のセリフは耳を澄ましてもやっと半分位しか聞こえません。空調の音にすら負けてしまいます。今や、女形としての技術がピカイチの七之助が相手役とあって、一幕は良いところなし。正直、女形というよりも、オカマのおじさんにしか見えず「なんでみんな笑っちゃわないんだろう?」と一人、腹筋運動してました。が、二幕以降で玉三郎の凄さを思い知らされます。今の女性週刊誌やワイドショーじゃないけれど、どうってことない事件が、マスコミが絡むことによって、大袈裟に、時にはフィクションが混ざって、仰々しい事件に仕立て上げられますが、今回のストーリーも正にそう。
 「愛する人の前で身受けが決まった芸者が、それを苦に自殺した」という話。観客の目の前でそれが演じられるのですが、面白いのはその自殺の後。玉三郎が語り部となって、問われるままにその事件を解説するのです。最初は「これ事実と違う!」といちいち突っ込みを入れて笑っていたのが、いつの間にやら、話がなめらかになり、フィクションが加わりと、四回位同じ話をするのに、なぜか毎回パワーアップしていくのが楽しい芝居ですが、そのパワーアップぶりをどう魅せるかが役者の腕の見せ所。どんどん芝居がかってくるのですが、声色の変化だけで「嫌々芝居している」のか「ノリノリで芝居しているのか」を観客に伝えてしまう技術、「ドバッと地の海!」と解説しながら、真紅の着物をパアッと畳の上に広げる色彩感覚、セリフがいつの間にか口上風に仕上がってくるなど、歌舞伎の面白さ満載。今まで培われた経験やスキルを存分に生かした、玉三郎ならではのゴージャスな変化っぷり。オペラグラスを持ってなかったので(何しろ、衝動的に劇場入りしただけなのです)、細かな表情はわかりませんでしたが、セリフを自在に操る技術、四階席にまでドラマティックに感情を伝える演技力・小道具を効果的に使った演出など、大劇場役者かくあるべきのお手本のような名演でした。体から発する迫力に押されてか、セリフが一部聞こえないのも途中から平気に。芸の力って凄いです。


2007年12月14日(木)19:00-21:45
来日カンパニー「RENT」初日@東京国際フォーラム ホールC

 S席 12000円 1階-9列-42番 (パンフレット:2000円)

 演出:Michael Greif

 Roger : Heinz Winckler
 Mark : Jed Resnick
 Collins : Anwar F Robinson
 Benny : John Watson
 Angel : Kristen-Alexzander Griffith
 Mimi : Jennifer Colby Talson
 Maureen : Christine Dwyer

 通常のミュージカルとは異なり「RENT信者」とも呼びたくなる、特別な人たちが集まる特別なミュージカル。ミュージカルのファンというより「RENT」のファンの皆さんです。劇場はちょっと独特の雰囲気なのですが「舞台を目いっぱい楽しもう!」という空気に満ちていて、隣の席の人ともニコニコ微笑みあっちゃう程。作品の発するエネルギーにピッタリではありませんか。作品に魅せられた人たちって、作品の趣旨に染まってるのかもしれませんね。ロンドンでは既に新演出が登場している「RENT」なので、この演出がいつまで観られるのかはわかりませんが、お馴染みの舞台にお馴染みのパフォーマンスを幸せ気分で観てきました。期待通りに満足させてくれる舞台というのはありがたいですね。通常、期待していると裏切られるでしょ。そんなことは全くなく、気持ち良く、笑って泣いて歌ってきました! 今回は音響の良い小屋だったせいか、ロック・ミュージカルにありがちな「歌詞が聞き取れないほどの大音量」で耳が疲れることもなく、適度な音量で、歌詞もしっかり聞き取れるのがありがたかったです。ロック・コンサートではなく演劇として調整してくれた音響さんに拍手!
 来日公演の初日は、キャストの緊張が客席にも伝わってきます。「こんな異国でこのカンパニーが受け入れてもらえるのだろうか?」「英語で上演だけど、ちゃんと反応してくれるんでしょうね?」みたいな。そして「RENT信者」たちの活躍によって、どんどん緊張がほぐれ、リラックスして、日本の反応を楽しみだすという役者の変貌っぷりが見られるのが楽しみ。さすがに何度も来日している作品だし、状況はプロモーターに聞いてるでしょ、と思うのはこちらの都合。新しく参加の役者さんはそれはそれは固くなってるもんです。その表情がふっと崩れると「やった♪」と思いますね。僕が心配する問題じゃないんですけど。
 キャストは今回もなかなかです。来日版「RENT」では最強だったかも。ロジャーはアイドル・オーディション出身の甘い二枚目(鼻ぺちゃでお腹ボッテリなので、感情移入しやすい!)。歌声は鋭く突きぬけるタイプ。二の腕が非常に太かったのが印象的。マークはハスキーで声の立ち上がりが悪いのですが、そういえば、この役、どのプロダクションでもそんな役者がキャスティングされている気がします。指定された声質なんでしょうか?いずれにせよ、音として他キャストとはハンデがあるので、アンサンブル部分は聴き劣り。でも、あの声質で「12/24〜」と歌い始まるとゾクゾクしちゃうのは、パブロフの犬状態ってことかしらん? コリンズはいつもは深々とした低音が魅力のバスの人が務めるのですが、今回はハイバリトンの方がキャステイング(僕の知識だとクラシックみたいな表記になりますが、音楽はロックです、念のため)。エンジェルの出会いの場面の「エ〜ンジェ〜ル♪」と音を回転させる歌唱からして新しい味わい。元のスコアが良いので、どの曲も別の歌唱法でも耐えうる作品なんだと改めて「RENT」の凄さを感じましたが、それもこれも、魅力的にナンバーを聴かせてくれたからこそ。この役、高温をバリバリで歌うとかなり格好良いです。歌声が軽やかなだけでなく、動きもかなり軽やかで、歌いながらの動きにバネが効いてて、ダンスだって踊っちゃう程。ちょっと枯れた感じが魅力な役と思っていましたが(哲学者ですしね)、パワフルで生活力に溢れたキャラへと僕の中で変換。そういや、最後に犯罪に手を染めてまでお金を調達するのもこの人やった! そんな彼の相手役のエンジェル、今回は凄いです。歴代ナンバーワンの不細工さ。「TODAY 4 U〜」ではお笑いの人が出てきたかと思った! でも、ダンサーとしてのレベルもピカイチで、キックもターンも鮮やかなことこの上ナシ。真島さん並の鮮やかさです。歌はオネエに徹するのではなく、ところどころ男らしく歌ってみたりして、歌唱技術ではなく、役者歌としての技術でかなり笑わせてくれました。でも、その不細工ぶりが芝居が進行するにつれ全然きにならなくなるのが不思議。小さな芝居をちょこちょこするんだけれど、コリンズに対してや、女の子たちに対してのちょっとした仕草が実にハートフルで、初めて女装したオカマを観た田舎のおばちゃんたちにすら愛されちゃうのに説得力がありました。憶測ですが……私生活もゲイだと思います、この人。あまりにアッパレなオカマっぷりでしたもの。ミミは黒人歌手からイメージする声ではなく、ドライな響きの歌手。ネットリ感がないので、歌がシャープに聞こえます。ひたすらロジャーの愛を求めるのがいじらしい人で、ロジャーに後ろからHUGされれば、その腕を思わずスリスリしてるし、どんなに邪険にされても犬のようにぴったりくっついていくあたり、思わずもらい泣きしちゃうミミ。問題は麻薬中毒には見えない健康体なこと。ま、ロジャーも貧乏音楽家にしてはぽっちゃり太ってるし、お似合いコンビかな。あ、モーリーンもジョアンヌもとても立派な下半身でした。プロフによるとまだまだ若いのに、すでに中年体型。。。西洋人は老け出すとその後が早いですね。。。
 と書いてて思ったのですが、今回のキャストのレベルはなかなかにも関わらず、感動が普通だったのは、ちょっと芝居に嘘臭さを感じてしまったから。貧乏なニューヨークのボヘミアンたちにしては役者の体型がたいていポッチャリな上、醸し出す雰囲気が健康的なこと。そして、装置こそいつものプロダクションですが、劇場があまりにピカピカで、芝居とのバランスがよろしくなかったこと。赤坂の掘っ立て小屋やボロボロの厚生年金会館はこの作品にぴったりでしたが、芸劇やフォーラムはちと立派すぎるのかもしれません。来年のクリエ公演もその意味ではちと心配。マークの完成した映画が写し出される壁を見て、ちょっと現実に帰ってしまいました。
 でも、お育ちの良さそうなキャストとあって、カーテンコールはほのぼのでしたよ。みなさん、嬉しそうに客席を眺めまわし、ウィンクだのお手々振り振りだのが飛び出して「あたしゃ知り合いかいっ!」な気分。フレンドリーです。カーテンコールでの「シーズンズ・オブ・ラブ」は客席のみんなも一緒に大合唱。楽譜も歌詞も配られてないのに、なんでみんな歌えるのぉ〜? で、歌ってる僕たちを見て、舞台上のキャストがまたニコニコ。素敵なカンパニーです。


2007年12月15日(土)14:00-17:00
東京室内歌劇場「モーツァルト:後宮からの逃走」@新国立劇場中劇場

 A席 6000円 1階-13列-24番 (パンフレット:500円)

 指揮:大勝秀也
 演出:加藤直
 管弦楽:東京室内歌劇場管弦楽団

 コンスタンツェ:津山恵
 ベルモンテ:青地英幸
 オスミン:山口俊彦(堀野浩史の代役)
 ブロンテ:高嶋優羽
 ペドリッロ:吉田伸昭
 太守セリム:内田紳一郎

 序曲は有名ですが、本編は滅多に上演されないモーツァルト作品。あらすじは他愛ないもので、正直「アルジェのイタリア女」や「イタリアのトルコ人」とストーリーだけだと混乱します。要は、エキゾティックな異国に漂流した西洋の美女が、現地の権力者に見染められるが、恋人がやってきて、一緒に逃げだす手立てを考えるといっただけ。サブストーリーとして、権力者の使用人が嫌な奴だったりします。「フィガロ」や「ドン・ジョヴァンニ」などといった文芸路線作品と比べると、B級の匂いがプンプン漂ってきそうなお手軽作品。そして、そのシンプルなストーリーは全然ひねりがないので、今回だって、その嫌な奴に酒を飲ませて、酔っ払ったすきに逃げ出そう、というだけ。実にノンビリしてます。
 とはいうものの、そこはモーツァルト大先生。それも、ザルツブルクからウィーンに張り切って上京したころの作品とあって、キラキラしてます。冒頭のベルモンテのアリアなんて、柔らかな高音の響きに惚れ惚れ。そういえば、この作品、コンスタンツェとブロンテの二人ともソプラノ、ベルモンテとペドリッロの二人ともテノールなんです。たいてい、四人組の場合って、ソプラノ&メゾ&テノール&バリトンという組み合わせになるのに、これは珍しいこと。アンサンブルも独特の響きになります。
 が、清らかな響きの歌に反して、男たちは男尊女卑だし、ヨーロッパ上位主義だしで、とにかく威張りまくり。いきなり初対面の人に向かって「じいさん」呼ばわりだし、何かと命令口調だし。これじゃオスミンだって友好的な態度を取るはずありません。モーツァルト作品って差別というか、人を小馬鹿にしたものが多いですよね。ま、その裏表のなさが彼の人間的、そして作品の魅力なんでしょうけど。今回はベルモンテ:青地英幸が終始仏頂面で、見た目だけだと笑ってるのか怒ってるのかわからない、という感動的に表情が動かない人なので、威張りっぷりがクローズアップ。それに対し、セリムはちょっと権力自慢の気味はあるけれど、応対が紳士だし「徳を持って恨みに報いよう」なんて、李香蘭の裁判官と同じ判決を下したり、なかなかいい男。今回は全役日本人が演じたので、人種問題やルックスの問題が生じてないのですが、性格が悪くても西洋人>性格が良くてもアラビア人というのが見えて、ちょっと心地良くないです。ゆえに、コンスタンツェもあまり良い人に見えない。。。ちなみに、コンスタンツェはモーツァルト夫人と同じ名前。ラブラブ説あり、仮面説ありとあれこれ言われているカップルですが、もしかしたら、妻への当てつけで作った役だったのかも!?!? 上演頻度が低いのってこんなところに原因があるのかもしれませんね。
 でも、主役カップル以外は魅力的でした。オスミンは威張り狂っていた第一幕と打って変わり、第二幕では惚れた弱みと言いましょうか、ブロンテにひっかきまわされっぱなし。恐面だったはずなのに、メロメロに顔がとろけてしまうのが可愛いです。ちょっとこのあたり、スザンナとアルマヴィーヴァ伯爵を彷彿とさせます。ペドリッロは二期会の大泉洋(と僕が勝手に呼んでるのですが)吉田伸昭が芸達者なところを見せ、頭の回転が良いけれど、ひょうひょうとしたキャラクターを楽しく演じてくれました。そういえば、二期会の大泉洋さん、二期会公演でも話題の(でも、世間的には流行おくれなんですが)お笑いを再現してくれます。今回は「ちょっと、ちょっと、ちょっと」でした(「そんなの関係ね〜」の方が今風なんですが、なぜか古いネタなんですよね。これって台本の指定? それともご本人の趣味??)。
 東京室内歌劇場の公演は初めてですが、二期会オペラが劇団四季としたら、東京室内歌劇場は音楽座のテイスト。一部メンバーがだぶるあたり、ウェルメイドでシンプルな作品の作り、キャストのレベルなど、なかなか上手い例えだと自画自賛なのですが、作品への愛情や、観客を楽しませようという意欲が感じられて、休日の午後にふさわしい公演でした。ちなみに、この公演が僕の今年のラストオペラ。さりげない打ち上げとなりました。あ、女性アンサンブルはコーラスだけでなく、ダンスでも頑張ってました。最初、ダンサーだと思ってたお姉さんたちがいきなり歌い出したのにビックリです。


2007年12月02日(日)12:00-15:25
東宝「モーツァルト!」@帝国劇場

 S席 12500円 1階-F列-28番 (パンフレット:1500円)

 演出:小池修一郎

 ヴォルフガング・モーツァルト:井上芳雄
 コンスタンツェ(モーツァルトの妻):hiro
 ナンネール(モーツァルトの姉):高橋由美子
 ヴァルトシュテッテン男爵夫人:涼風真世
 コロレド大司教:山口祐一郎
 レオポルト(モーツァルトの父):市村正親
 セシリア・ウェーバー(コンスタンツェの母):阿知波悟美
 アルコ伯爵:武岡淳一
 アマヌエル・シカネーダー:吉野圭吾
 アマデ:真嶋優

 井上芳雄が化けました。「自分の影から逃れ」られました! 今まで、舞台上での不良っぷりがかなり痛々しい人で、いっぱいいっぱい感が観ていて辛かったのですが、ここ二年間の間、あちこちの舞台で揉まれて鍛えられて、いつの間にか座長の風格を身につけましたね。舞台を引っ張っていこうという意欲と、舞台上での余裕を感じました。まずはテクニック面でのレベルアップ。素人っぽさが漂っていた歌唱も安定感が出てきて、発声も落ち着いたのが大収穫。今まではテクニックも個性も異なる中川晃教と同じ音符を追っていたのが、それぞれの個性に合わせてアレンジを加えているのも良かったです。全く違うタイプの歌手なので、それぞれの良さを引き出す形に落ち着いてます。そして、単に美しく歌おうというのではなく、役の感情に合わせての表現をあれこれ考えだし、音楽として俄然面白くなりました。今までが若すぎたといえばそうなのですが、そういえば、初演の際に感想を聞かれて「宝塚の新人公演を観ているみたい」と返答した記憶があります。そろそろ新人公演を卒業する学年。スターといえども、舞台人としてはそれなりの場数が必要ってもんですね。そして、自分のことでせいいっぱいだったのが、舞台上の出来事にあれこれ意識が向くようになり、これからさらに5年後が楽しみになってきたことも嬉しい収穫。落ち着きのない動きも、今までは自在に動くというより「決められた動きをこなしてます」という余裕のなさが息苦しかったのですが、動きの大きさや滑らかさ、自由自在に動いて、舞台で「生きている」のが魅力的です。パンフレットを眺めると、初演時は中川晃教も井上芳雄も若い…というより幼い感じがするのに驚きます。ベテランに支えられて、主役というポジションで「踊らされている」感じだったのが、いつの間にやら「カンパニーを引っ張っている」意識が見て取られるのが頼もしい限り。2人とも別の個性ですが、それぞれ「自分の進むべき方向」を見つけたんでしょうね。舞台に自信が表れていました。
 そんなわけで、ミュージカルのキャリアは先輩格の涼風真世も、この作品には新人なわけで、カンパニーから浮いてしまってます。すでに役者同士で台詞以外でも絆を感じる舞台に、後から参加というハンデがモロに悪い方向に出てしまいました。歌もセリフも安定してないのです。男爵役は登場時間も短い中で、大ナンバーを歌い、それなりの存在感を示さないといけないのですが、ナンバーでは「よぞらの〜」の「よ」の部分が裏声に逃げてしまう、曲の大きさを生かせずちんまりとまとまってしまったこと、掛け合い部分では音は取れているけれど、アンサンブルの中で曲を浮かび上がらせるだけの歌唱力(もしくは経験)がなかったのが苦しい。ドレスの着こなしは流石なんですけどね。「回転木馬」から「MA」に至るまで、涼風真世の女声歌唱は「か細い」というイメージがありますが、今回もそれを払拭するに至らずじまい。もしや、来年の「エリザベート」に向けての訓練のための舞台なのかも、とうがった見方をしてしまいました。かなりのヴォイス・トレーニングが必要と思われます。易々とこの役を物にし、芝居・歌ともに安心の存在としてしまった香寿たつきって凄い女優だったんだ、と失礼なことを感じてしまいました。ホントは比べちゃいけないんですけどね。涼風真世の男爵夫人は、まだまだ手に汗を握る存在です。
 もっとも、ミュージカル女優としてのキャリアがないhiroは全くお話にならない状態。しょっぱななセリフからつんのめってしまうし、テレビならともかく、帝劇の客席には彼女のしゃべり方だと声量・スピード・言い回しのどれを取っても力不足。何言ってるのか聞き取りにくいのは困りもの。もう少し「客席にセリフを投げる」ことに意識を向けてほしいもんです。また、良い年をして、やたら子供っぽい喋り方も違和感があります。精神の幼さではなく、単なる馬鹿です、あれじゃ。歌は意外に声域が狭く、低音は当たらないし、高音は苦し紛れ。歌い回し云々以前に、音を拾うのがやっと。「ダンスは踊れない」だけにかけましたって感じで、他のシーンはおざなり。自分のために作られた曲はなかなか上手なアイドルでしたが、ミュージカル・ナンバーはまだ重荷のようです。カツラやドレスも似合ってなかったし、彼女の舞台は恥さらし。ま、東宝としてはそれでも彼女の知名度を取って、動員に期待したんでしょうね。そんな意味では、舞台をぶっ壊すほどの役ではないし、それでいて適度に目立つ役どころだし、あてがいやすい役だったのかもしれませんが。今後、舞台女優として活躍するには、まずはセリフや歌で声が震えてしまうのを改善するのが早急な課題でしょう。
 高橋由美子と阿知波悟美は美味しい役を美味しく安定感たっぷりに演じてます。日本人好みに作り変えられている気はしますが、技術面だけでなく、情感たっぷりに押したり引いたりの芝居が魅力的。山口祐一郎は既に舞台に飽きてるし、市村正親は疲れが見え隠れ、吉野圭吾は華やかだけれど声で損しているのはいつものこと。今回の再演では音痴やリズムのとれないメンバーが外されたようで、アンサンブルが一言ずつ掛け合うナンバーもずれる人なく完走。アルコ伯爵も武岡淳一にチェンジされ、安定感抜群。芝居に集中することができました。
 でも、でも、やっぱり一番凄かったのはアマデ:真嶋優。小学四年生。前回のアマデは小学三年生だったけれど、この一年の差はかなりあります。しぐさや表情に色気があります。小学生は女の子の方が早熟だというけれど、かなりの芝居心アリとお見受けしました。彼女のアマデはやたらと怒ってます。ヴォルフガングが、そのガミガミぶり(って無言役ですが)にかみついちゃうのもむべなるかな。


2007年12月18日(火)18:30-21:30
フジテレビジョン「ALL SHOOK UP」@青山劇場

 A席 9500円 2階-E列-38番 (パンフレット:2000円)

 演出:デビッド・スワン

 チャド:坂本昌行
 ナタリー・ハラー/エド:花影アリス
 ミス・サンドラ:湖月わたる
 デニス:岡田浩暉
 シルビア:諏訪マリー
 ジム・ハラー:尾藤イサオ
 アール保安官:青山明
 ディーン・ハイド:原田優一
 マチルダ・ハイド町長:伊東弘美
 ロレイン:尾藤桃子

 エルビス・プレスリーをイメージした役とのことですが、実はプレスリーを良く知らないので、普通にミュージカルとして鑑賞。でも、プレスリーを知らなくてもタップリ楽しめる舞台でした。日本のミュージカルとしては珍しく、壊滅的に歌えない人がいない、という奇跡的な座組み。話題先行の新人キャストも存在せず、それぞれが余裕をもって自らの立場をこなしているので、舞台に余裕があるのが、当たり前のはずなのにとっても嬉しい! たぶん、元の台本以上に、役者の素のキャラが表に出ているんでしょうが、まるで当て書きのような台本に笑いっぱなし。年末、忘年会代わりに憂さを笑い飛ばすには最適の舞台です。このメンバーでぜひ再演してほしい! たぶん、今年観たミュージカルの中で、一番好きなプロダクションかもしれません。素晴らしい公演は沢山あったけれど、ストーリーだの役者のスキルだのは放っておいて、ただただ笑って拍手しての幸せな時間でした。
 坂本昌行はミュージカルの主演を重ねるごとに自信をつけたのか、芝居に歌に堂々たるもの。主役らしさが身についてきました。それにしても、細いですね〜。衣装の中で体が泳いでる感じ。劇中「泳ぎに行こう!」と上半身裸になるシーンがあるのですが、ガリガリ君でした。今回のカンパニーの中で一番華奢かもしれません。歌手という歌ではないけれど、芝居歌としてはなかなかのレベルの持ち主で、歌い口に癖がなく、歌詞もはっきりしていて、聞きやすい歌声ですね。
 そして、相手役の花影アリスは日頃宝塚の舞台で鍛えているので、一般人にとってはいきなりのヒロインでしょうが、歌・ダンス・芝居と安定していて、危なげがないどころか、かなり役に入り込んでいて、頼もしい存在。この年代のこの手の役をここまで上手に演じられる役者もそうそういますまい。一応、主役=坂本昌行となっていますが、実質的な主役は花影アリスでした。場面場面で求められていることを確実にキャッチし、馬鹿笑いあり、地声での歌いあげあり、あげくの果てには男装や女装(普段は作業着onlyの女の子という設定なんです)ありと、見どころ沢山。正直、宝塚の夢々しい所作や芝居はしっくり来ない子なので、さっさと退団して、一般のミュージカルで活躍していただきたいと思っております。それにしても、宙組って男役は技術的に頼りない生徒がズラリなのに対し、娘役はたくましい生徒が揃っていますね。(揃いも揃って宝塚調ではない娘役なのが恐ろしいんですけど)。
 湖月わたるは、宝塚在団中は「野郎専科」な風格がありましたが、退団した途端に女性フェロモン全開。セクシーです。色っぽいです。おまけに可愛いです。スタイル抜群の長身を生かして、ゴージャスに登場するものの、見事にはまるお笑い芝居との格差が激しくて、ヒーヒー笑ってしまいます。セクシー姉ちゃんなのに、言いよる男から逃げる際は誰よりも男らしく、そして足長のせいで早いこと早いこと。まじめvsお笑い、女性フェロモンムンムンvs気風の良さの対比が見事です。全盛期の大地真央を彷彿させます(芝居の印象は違いますけどね)。マリリン・モンローも真っ青なブリブリ芝居なのですが、歌やダンスの終わりは思わず二階席を見上げて、ビクッと体を震わせて見得を切ってしまうのは……宝塚の癖ってなかなか取れないんですよねぇ。でも、ここまで鮮やかな性転換を成し遂げたトップさんも少ないと思います。そういえば、宝塚在団中、滅多になかったけれど、ダルマで羽根を背負うシーンは目が釘付けのゴージャスさでしたっけ(「国境のない地図」や「パッサージュ」ね)。
 そんな湖月わたるをサポートするどころか、ダンスシーンだといつの間にやらサポートされている(そして、それが全然違和感ないのだぁ!)のが岡田浩暉。今回、なんだかやたらと吹っ切れてて、不細工&動きもオーバーなまるでアニメから抜け出てきたかのような「困ったチャン」を演じてました。これが照れも迷いもないせいか、とってもはまっているんです。この手の役はなり切ってナンボのものがあるので、正直、二枚目路線を走ってきた岡田浩暉には期待してなかったのですが……ゴメンナサイ。あなた、素晴らしいです。役になり切ってました。ダンスは踊れないらしいのですが、身悶えしているかのような、もじもじした動き、顔面土砂崩れにしてまでの表情作り……圧巻でした。本年度の助演男優賞を差し上げちゃいましょう(って、僕が騒いでるだけですけど)。でも、そろそろ歯並びのひどさは矯正してほしい。。。パンフの写真、見苦しいです。
 諏訪マリーは歌の大きさと芝居のバタ臭さが魅力だし、尾藤イサオは水を得た魚で、年齢を越えて格好良かったし、青山明は劇団四季退団後、久し振りに歌声を響かせていたし(なぜか歌のない役でのミュージカル出演が多かったんですよねぇ)、原田優一は「(いろんな意味で)背伸びしたアンジョルラス」という公演もありましたが、彼はまだまだ子役が似合います。伊東弘美は「イーストウィックの魔女たち」における大浦みずきのような役回りだけれど、スタイルがスタイルなので(失礼!)踊るだけで笑えるし、なによりも本人が真面目になればなるほどなぜか笑いを誘う「怒り芝居」が絶品。アニメチックといいますか、どこからどう見ても日本のおばちゃんなのに、アメリカンな芝居が似合ってるんです。「エリザベート」での気取ったお芝居よりも、ガミガミ叫ぶことのできる役の方が似合いそう。尾藤桃子はイサオさんの実子なんですと! そういえば、並ぶとそんな雰囲気がありますが、パンフ読むまで気づきませんでした。パパ相手にも照れることなく、伸び伸び演じてました。
 プレスリー=古臭いのではないか、というイメージを持っていましたが、楽曲こそ彼のものですが、お芝居としては全然古めかしいこともなく、歌にダンスに(アンサンブルが大活躍)絶好調の舞台でした。舞台全体がスピードに乗っていて、間伸びすることなく、たたみかけるように進行していき、笑いも「ついてこい!」とばかりにマシンガン発射。正直、チラシからはこんなに楽しい作品だとは思いませんでした。宣伝をもう少し垢ぬけたものにしていれば、もっと客入りが良かったかも。


2007年12月22日(土)14:00-16:15
新国立劇場バレエ団「くるみ割り人形」@新国立劇場オペラパレス

 Z席 1500円 4階-4列-1番 (パンフレット:800円)

 指揮:渡邊一正
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 マーシャ:さいとう美帆
 王子:マイレン・トレウバエフ
 ドロッセルマイヤー:ゲンナーディ・イリイン
 シュタリバウム夫人:湯川麻美子
 フランツ:大和雅美
 道化:グレゴリー・バリノフ
 人形:高橋有里
 黒人:江本拓
 ねずみの王様:市川透
 くるみ割り人形:八幡顕光
 スペイン:厚木三杏、市川透
 東洋:湯川麻美子
 中国:寺島まゆみ、吉本泰久
 トレパック:丸尾孝子、楠元郁子、貝川鐵夫
 パ・ド・トロワ:小野絢子、井倉真未、八幡顕光
 ばらのワルツ:寺島ひろみ、真忠久美子、川村真樹、西川貴子、中村誠、陳秀介、江本拓、冨川祐樹

 ベートーヴェンの「第九」を聴きに行かない年はあっても、なぜかバレエの「くるみ割り人形」はしっかり見ている気がします。でも、実はあんまり好きなバレエ作品ではないんです。チャイコフスキーの音楽は絶品なんです。キラキラ光り輝いてます。衣装や装置は豪華だし、新国の「くるみ割り人形」は子供が登場しないので、踊りも説得力があります。でも、しょせんは子供向けの小規模作品。休憩なしで上演された第二幕のねずみの王様vsおもちゃの兵隊はだれるし、第三幕のお菓子の国は「どこがお菓子やねんっ!」な設定と、締まりがない振り付けなので(って、大御所に対して何たる暴言を>自分)、「私をみなさいっ」なダンサーが好きな僕としては、ちと刺激が不足。キレイだし、夢々しいのでつまんなくはないんですよ、念のため。
 今年はスケジュールの関係で観られないと思っていたのですが、急遽時間を取れることになり、劇場に連絡を入れて、いざ観劇。チケット購入の際「余ってるんですけれど」とよその劇場だったら「ダフ屋行為は禁止です!」と警備員が飛んできそうなことを堂々と行っているおじさんを発見(さばきは素敵な風習だと思っているのでこれは嬉しい)。でも、おじさんが持っているチケットはS席。「5000円に値引きしますよ」とおっしゃられても、今回は1500円のZ席を購入ゆえ……ごめんね、おじさん。これが「白鳥の湖」や「ドン・キホーテ」、マクミランやアシュトン振り付けの作品だったら5000円でも購入したんですけど。毎年観ているせいか、そして、毎回「不満はないんだけれど刺激が足りない」と思っている作品のせいか、御贔屓の新国バレエど言えども、高額チケットはちょっと。。。
 今日の公演はゲストダンサーは皆無で、新国バレエのダンサーだけによる公演。アンサンブルはバッチリです。そして、チョイ役にいたるまで、主役級がズラリと揃うのが頼もしい限り。上記配役表も、主役を踊ったことのない人の方が多いのでは?
 さいとう美帆は小柄で華奢なので、子役がとても似合うダンサー。相手役は通常二番手どころの濃い役を演じることの多いマイレン・トレウバエフ。たくましい王子に、繊細なマーシャ。「くるみ割り人形」のストーリーは頼りない王子に強いマーシャだから、良く考えれば「?」な組み合わせですが、さいとう美帆とマイレン・トレウバエフの並びの美しさや、リフトの安定度のピカイチなことで、突っ込む代わりにため息もの。しょせん、マーシャの夢なわけでして、見た人(マーシャ)の自由ってもんですし。ゲンナーディ・イリインは漂々としたドロッセルマイヤー。この手のコミカルな役は悔しいけれど、日本人には無理。同じ動きをすると嫌らしくなってしまうし、かといって日本式の表情だと違和感がありますし。なんで、あんなクネクネしてチャラチャラするのが粋に見えるんでしょう!?!?
 日本のオケは世界のどのオケよりも「第九」が上手という話を聞いたことがありますが、「くるみ割り人形」に関しても、オケによっては「第九」よりも演奏回数が多いわけでして、時おり「バレエ=手抜きの演奏」ということもありますが、今日の東フィルもグッジョブです。弦の響きが温かくて柔らかくて、舞台にマッチしてました。


2007年12月26日(水)18:30-20:30
レニングラード国立歌劇場管弦楽団「聴け!怒濤のロシア音楽!!〜チャイコフスキー選集〜」@東京文化会館

 C席 4000円 4階-L1列-6番 (パンフレット:1000円)

 指揮:アンドレイ・アニハーノフ
 チェロ:古川展生

 チャイコフスキー:イタリア奇想曲
 チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲
 チャイコフスキー:スラブ行進曲
(休憩)
 チャイコフスキー:交響曲第6番「悲壮」

 クラシック系の音楽事務所の中でも、趣味の悪さで有名な光○社。チラシの作りも東京文化よりも新宿コマ劇場がお似合いなドギツサ。写真の色調整をしてないので、ソリストは二日酔いでゲ○吐いた直後のような顔してるし。。。個人的に、ここの事務所の招へい公演で「良かった」という記憶がなく、、、途中で退席ということは多々あるので、きっと僕の好みと事務所の方針が全然違うんでしょう。ま、ある意味、あまたあるコンサートの中からのチョイス基準の一つとなるので、それはそれで良いんですけどね。今回はもちろんソリスト狙い。
 とはいえ、チケットを購入するまではかなり悩んだんです。だって、光○社のコンサートですもの。で、しばらくしてからホールに電話してみたら「全席種、多数ご用意してございます」との案内。嫌〜〜〜な予感を抱きつつホール入りしてみれば、見事にガラガラ。一階席はサイドと後方がごっそり、バルコニー席なんて列ごといない、ブロックごといないで、たぶん1/3も入っていれば万万歳状態。ゲネプロ見学会の様相です。
 演奏もすごかったですよーーー。しょっぱなの「イタリア奇想曲」では、音楽ホールではなく、屋外で演奏しているのではないかという位、管楽器は吠える吠える。ブラスバンドのパレードも真っ青な状態で、ピッコロなんてうるちゃい、うるちゃい。が、ここまで野暮ったいとなると、演奏よりも演奏ぶりが楽しくなっちゃうのですから、舞台って生モノ。中でもパーカッションの三番手あたりのスリムなお兄さんが僕のツボを刺激。タンバリンを叩くだけなのですが、体全体を使って、思いっきりひっぱたくんです。ストレスたまりまくりの本妻が浮気相手のお姉ちゃんにビンタくらわす姿をご想像ください。あんな感じ。叩くというよりぶん殴ると言い換えても結構です。腰入れて、思いっきり構えてからのハードパンチ。もう笑いたくて笑いたくて仕方なかったです。おまけに指揮者はフワフワ頭をボンボンのように膨らませながらお尻振り振りダンシング。もう、笑いをこらえるのに腹筋鍛えまくり。お腹痛い〜。
 そんなわけで、のぼぉちゃんの登場にはかなりの不安でいっぱい。繊細でデリケートな表現が魅力で音量のないのぼぉちゃんのチェロが、大味でやたらと迫力で押すオケに拮抗できるのかと。が、今回は嬉しい杞憂。曲に合わせて縮小したとはいえ、ガサツなオケを相手に、音量たっぷり、情感たっぷりに演奏するのぼぉちゃん。ホント、ここ一年で音がかなり変化しました。無理に迫力で対抗しようとせず、リリカルに鋭く切り込む演奏に「自分の売りがわかってきたやんっ」と思わずニッコリ。「ロココの主題による変奏曲」はタイトルの通り、シンプルで可愛らしいメロディが次から次へと形を変えていく、キラキラしたコンチェルト。小品を操ることにかけてはピカイチののぼぉちゃんの手にかかれば、クリスマスツリーのようなカラフルな世界が出現。この手の処理は相変わらず上手ですね。オケの状態に一同びっくりの客席も、安心したかのように拍手喝采。何度もステージに呼び戻されていました。曲が曲なので、ド感動というわけにはいきませんでしたが、のぼぉちゃんの良い面に触れての聴き納めです。
 余談ですが、ロシア人って若いころは体のラインがまっすぐで美しいけれど、中年以降は食べ物のせいか、急激に醜くなりますよね。太りすぎて上着の前ボタンがかけられない方がかなり目立ち、椅子に腰かけると、締まりのない肉がデロンと脇に流れるんです。それでいて、タッパもあるもんだから、場所取りまくり。東京文化の広い舞台にはかなりゆったりと椅子が並べられていたのですが、それでも「狭いっ!」とばかりに、首席奏者以降、ソロリソロリと陣地拡大。あっという間に舞台前面に広がったのがこれまた可笑しかった〜〜〜。あんなに太ってて日常生活に差しさわりはないんでしょうかね? のぼぉちゃんは日本人の中でも決して大柄ではないのですが(たぶん、平均身長よりやや低い位)、ロシア人の巨体集団の中に登場すると……子供みたいでした。良く頑張りました。
 閑話休題。通常だったら、ここで休憩が入るところですが、今夜は盛りだくさんのプログラム。「スラブ行進曲」が演奏されます。ガサツで大味なオケですが、日本のオケでは聞けない大きさや大きなうねりはさすがロシアの団体。曲によっては、ガサツさが勢いとなり実に魅力的です。ザラザラしたヴァイオリンの響きですら心地良く感じてくるのって、お国モノの強さなんでしょうかね。土臭くて、力強くて、たくましいチャイコフスキーでした。
 が、休憩後の「悲愴」は繊細さ皆無が響いて散々な出来。ppになると途端に色気があせ、楽器同士のメロディのかけあいは「聴け!」のタイトル通り、相手に合わせるのではなく、自己主張をするだけなので「のだめカンタービレ」の1シーンじゃないけれど、指揮者の指の隙間から、音楽がどんどんこぼれおちていく感じ。アインザッツも全然揃わず「どうしちゃったの!?」状態。おまけに、2時間という時間制限があったのかないのか知りませんが、やたらとテンポが早く、コブシを回すなんて無理。とにかく勢いに乗って弾き切ってしまえというヤケクソぶり。件のタンバリストは「悲愴」ではバス・ドラム担当だったのですが、こんどもまた他のミュージシャンに負けじと、体全体を使ったパワープレイ。ドラムが倒れないよう、片足でしっかり台を踏みしめ、体をのけぞらして渾身の力を込めての打撃」。ここまでなり切ってると爽快です。どこのどなたかお名前は存じませんが、本日の主役として、きっと大勢の記憶に残ったことでしょう。って、ソリストくってるんじゃね〜〜〜〜〜っ!!!


2007年12月27日(木)19:00-20:35
読売日本交響楽団「かつしか第九演奏会」@かつしかシンフォニーヒルズ

 B席 3500円 2階-R2列-12番 (パンフレット:無料)

 指揮:下野竜也
 管弦楽:読売日本交響楽団
 合唱:新国立劇場合唱団

 ソプラノ:國光ともこ
 メゾ・ソプラノ:坂本朱
 テノール:中鉢聡
 バリトン:宮本益光

 モーツァルト:歌劇「後宮からの誘拐」序曲 K.384
 ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱付」

 バレエ団が「くるみ割り人形」を上演するように、オーケストラは「第九」を演奏するのがお約束。まだオペラ劇場が「ラ・ボエーム」や「ヘンゼルとグレーテル」を上演するようにはなってないけれど、そろそろ新国あたりが定例公演として上演しても良いんじゃないかしらん!? バレエで出来るんだからオペラでもできるはず。お正月というと「ラ・トラヴィアータ」を藤原オペラが上演していたんだし。
 で、そんなオペラハウスの面々が何をしていたかというと、かつしかで第九のコンサートを開催してました。合唱:新国立劇場合唱団(パチパチ)。第九って公演回数は多いものの、プロによる演奏って意外と少ないんですよね。NHK交響楽団は国立音楽大学、読売日本交響楽団も本公演(と呼んで良いんでしょうか?)は武蔵野音楽大学が常連だし、他のオケも晋友会や栗友会といった、セミプロ合唱団はともかくとして、第九用の寄せ集めアマチュア合唱団が出演することも珍しくないですし。ということで、期待してたんです。最近の新国はコーラスが目覚ましく進化してましたから。舞台上に登場したのはわずか75名。でも、第一声から「プロって凄い!」でした。アマチュアだと「さあ、晴れ舞台!」という顔で思いっきり叫んじゃうのですが、力みなんてまるでなく、拍子ぬけする位やすやすと発声。「えっ、今日は踊っちゃいけないの!? 神妙な顔をしなくちゃいけないの!?」な方々ですから、立ちん坊で歌うなんて朝飯前。叫ばないのに、ホールに響き渡る余裕の歌声。余裕しゃくしゃくです。フレーズごとの声色の変化だとか、内声部の充実具合など、段違いの実力をもれなく発揮。年末にして、素晴らしいコーラスが聞けて大満足です。
 オケも昨日のどこぞの団体とは大違い。木管群ははふんわり柔らかだけれど、膨らみと伸びがあり、耳に優しい響きで、ことにフルートが今日はお気に入り。昨日のヒステリックに絶叫のものと同じ楽器とは思えません。ホルンも日本のオケとしては一つ抜きんでた安定感。弦楽器は配置が面白くて、通常2ndヴァイオリンが陣取る位置にチェロ。1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンは向かい合わせの関係。そして、コンバスは下手に、パーカッションは上手に。そういえば、ホルンも通常とは対照的な位置。確か、この並び方は、音楽の教科書で見た記憶があるんですが…思い出せない。ま、名前なんぞどうでも良いか。で、たかが並び方、されど並び方で、見た目は鏡に映ったオーケストラを眺めているみたいだし、音も聴きなれない方向から意外な楽器の音が聴こえてきたりして、かなり新鮮。かつしかシンフォニーヒルズは「コンサート用ホール」として作られた割に残響が短く、その響きもアンサンブルのレベルが一発で観客にばれてしまうという恐ろしいホールなのですが、それだけに、オケ配置の違いによる聴こえ方の違いが体感できて面白かったです。
 もちろん、今回のコンサートをチョイスしたのは、ソリストの魅力というのがあります。ほら、中鉢夫妻のファンですから、ワタクシ。今年一年はリハビリ期間と割り切っているようで、オペラ公演はほとんどなく、オケを前にした歌唱は久し振り、それもドイツ語モノとあって、実はとってもドキドキ。アマチュア合唱団だと目立たないけれど、新国合唱団は「ザ・歌手」な上半身がたくましい歌手の集団とあって、合唱最前列に陣取ったソリスト……華奢でした。バリトンの宮本益光も小柄ですし。正直、パワーは負けてたと思うんです。声量や響きは2人ともタップリなタイプではないし、テノールは高音が苦しく、バリトンは低音が苦しかった!! でもっ、でもっ、オペラ街道まっしぐらのお二人は、表情豊かな歌いっぷりで、癖と言えば癖なんだけれど「歌いあげてますっ!」な顔や態度が実に様になってるんです。コンサート本番は持てる力+ハッタリが大事ですから、こういうの結構好き♪ それに、二人とも新国出演が多いので、合唱団とのアイコンタクトも暖かなものが感じられて良いわぁ。女声の二人も、オペラ研修所出身のソプラノと、このところ登板が増えているメゾとあって、今日の公演は新国主催でも何でもないのに「2007年度新国立劇場公演千秋楽」みたいで賑々しかったです。今のところ、年内のエンタメで予定しているのは今日が最後なので、僕にとっても楽しい打ち上げ。
 あ、指揮者を忘れてました。一応、譜面台を用意してあるけれど、スコアは表紙のままで、全編暗譜での指揮。クライマックスは、バイロイトの録音におけるフルトヴェングラー並のアッチェルランド。オケも合唱も良く分解しないでついていきましたわ。それにしても、演奏時間のほとんどを冷静で余裕ある曲と思わせておいても、結局最後の最後はオケもコーラスも全員狂乱させちゃうんですから、ベートーヴェンって恐ろしい作曲家ですね。


2007年12月31日(月)23:40-01:00
HARMONIA'07-'08 TIF光と音のハーモニー「カウントダウンコンサート」@東京国際フォーラム 展示ホール1

 座席券 1000円 (パンフレット:無料)

 指揮:本名徹次
 管弦楽:熱狂の日ユースオーケストラ
 ソプラノ:腰越満美♪
 テノール:又吉秀樹★

 レハール:ワルツ「金と銀」
 カールマン:オペレッタ「チャールダーシュの女王」より“ハイヤー”♪
 レハール:オペレッタ「メリー・ウィドウ」より“熱き口づけ”♪★←“唇は語らずとも”ではないんやろか?“熱き口づけ”は「ジュディッタ」かと。。。
 ヨハン・シュトラウス2世:雷鳴と電光
 ヨハン・シュトラウス:オペレッタ「こうもり」より“チャールダーシュ”♪
 ジーチンスキー:ウィーン我が夢の町♪
 ヨゼフ・シュトラウス:鍛冶屋のポルカ
 ヨハン・シュトラウス2世:エジプト行進曲
 レハール:オペレッタ「メリー・ウィドウ」より“ヴィリアの歌”♪
 ヨハン・シュトラウス2世:美しく青きドナウ
(アンコール)
 ヨハン・シュトラウス2世:ラデッキー行進曲

 急きょ思い立って、カウントダウンコンサートに行ってきました。知人に「カウントダウンコンサートに行くんだ」と話したら「サントリー?」「オーチャード?」「みなとみらい?」といろんな反応を頂戴しましたが、国際フォーラム、それも展示ホールです。今回が初めてかと思っていたのですが、司会進行を聞いていると、どうやら去年も、そしておととしも開催されているそうです。宣伝をあまり行ってないコンサートのようですが、それでも満席で立ち見も結構出てました(ちなみに立ち見だと無料)。座席券は前売りで完売なのですが、指定席ではなく、座席ゾーン内は自由席とあって、開場20分前には列が完成。でも、国際フォーラム内なので凍えることもなく、そして、展示場1とぶちぬけの展示場2ではハルモニアグランバルという名の舞踏会が開催中。いわゆる社交ダンスなのですが、正直、年齢層はかなり高い方々ばかりで、たぶん、若いころは踊ってないんだろうな、という方々ばかり…ゆえに…衣装といい、物腰といい、独特のものを持つ集団ゆえ、眺めていて結構楽しく、並んでいる間も飽きることありません。
 して、コンサートはというと、管弦楽:熱狂の日ユースオーケストラとなっていますが、実態はたじオケ=芸大オケで、小栗旬に似ているちょっと無愛想なコンミスを始め、見なれたメンバーがチラホラ。田尻君が出ないから団体名変えたのかと思いきや、田尻君も稲妻を光らせたり、鍛冶屋になってトンカチトンカチ打ちならしたり、はたまたコーラスに参加したりと大活躍。楽しそうな団体です。オケの面々も、雷様の仮装あり、仮面を着けての演奏あり(チェロのメガネ君たちはちと大変そう)、はたまたメッセージの書かれた傘をクルクル振り回したりと、文化祭のノリ。正直、ウィンナワルツって延々と聞かされると飽きてくるので、短時間のコンサートで、あれこれお楽しみがあるプログラムはありがたいです。笑って拍手して気楽に年越し。芸大オケは特に弦が安心して聴ける団体なので、ウィンナ・ワルツのような弦主体の曲は余裕しゃくしゃくで良いですね。コンミスの小栗さん(本名はわからないけれど)も、仮想は照れ照れ、トークはボソボソなのに、演奏となると人が違ったかのように「私の音を聴きやがれ」状態で、その代わり身が見事!!
 本名さんはオケピでの演奏は聴いたことがありますが、オケの指揮としては初めてかも。最前列だったので、よーく観察しちゃいましたが、たぶん靴は借り物。かなりブカブカで、いつ脱げるのかとドキドキ。目の大きな方なので、指揮棒に負けず、アイコンタクトがわかりやすく、ソリストに対してなんてネットリと言っても良い位わかりやすくアプローチしてました。そのソリストはオペレッタのナンバーが多いせいか、二期会のオペレッタ系の主役を独占中の腰越満美が登場。年齢的に、声もノリノリ、女性としてのフェロモンも出しまくりの、まさに旬のお方。全てのナンバーを日本語で披露。あでやかです。声の調子なのか、それとも声質的なリスクを避けたのか、3回転ジャンプをすべて2回転ジャンプにしての演奏で、高音は全て回避、コロラチューラの部分も結構ごまかしてましたけれど、コンサートの趣旨からいっても、そんな細かいことは言いっこなし。スリリングよりも、ほのぼのが求められる中、見事にその大役を果たしたのでした。途中、雷様に仮装して一曲指揮を披露されましたが、オペラ歌手の宿命とでも言いますか……ケッタイな衣装も着こなしちゃうんですよねぇ。本人の堂々とした態度もあるのかもしれませんが、変な衣装、のはずが、華やかな衣装、に見えてしまうんですから、これぞスターってもんです。ホラ、スター用の衣装って実は変なの多いでしょ。
 アンコールはお約束のラデッキー行進曲。コンサート前に4時間にも及ぶ舞踏会が行われていたのですが、それでも踊り足りないおばあちゃんたちが、ついにこらえきれずにコンサートに乱入。演奏に合わせて踊り出したのにはのけ反りました。見せるための踊りではなく、自分たちが楽しむための踊りゆえ、一瞬にして場が凍りついたのですが、あっけにとられた第3プルトのヴァイオリニストのお姉さんが、演奏後のごあいさつで立ち上がった時にそれを目にしたようでして…一人茫然と立ち尽くしてました。他メンバーはコンミスの合図ですっと座る中、しばし一人だけ立ったまま。会場の笑いはダンサーたちに向けられていると勘違いされていた様子。その笑いが実は自分に向けられているとわかった直後の反応が良かった〜。真赤になっちゃって可愛い〜。
 気楽に力むことなく、楽しく笑って年越し。ん〜2008年も良い年になりそうな予感!!!