観劇日記〜2008年06月〜
01日(日) 14:00 五味春生
「クラリネット・リサイタル」
ムジカーサ
05日(木) 19:00 新国立劇場オペラ
「ヴェルディ:椿姫」
新国立劇場オペラパレス
07日(土) 18:00 宝塚歌劇団雪組
「外伝 ベルサイユのばら−ジェローデル編−」
「ミロワール」
市川市文化会館
10日(火) 18:30 宝塚歌劇団月組
「ME AND MY GIRL」
(ジャッキー:明日海りお)
東京宝塚劇場
21日(土) 17:00 「DRACULA」-ドラキュラ伝説- 新国立劇場中劇場
22日(日) 17:00 イタリア・スポレート歌劇場
「ロッシーニ:チェネレントラ」
オーチャードホール
24日(火) 19:00 新国立劇場バレエ団
「白鳥の湖」
新国立劇場オペラパレス
25日(水) 19:00 藝大ブラス
「平成20年度学内演奏会」
東京藝術大学奏楽堂
28日(土) 14:00 二期会
「R.シュトラウス:ナクソス島のアリアドネ」
東京文化会館


2008年6月01日(日)14:00-15:50
五味春生「クラリネット・リサイタル」@ムジカーサ

 全席自由 2000円 (パンフレット:無料)

 クラリネット:五味春生
 ピアノ:奥田かをり
 新アドニス弦楽四重奏団

 シューマン:幻想小曲集作品98
 ブラームス:クラリネットソナタ第2番変ホ長調 作品120-2
(休憩)〜お嬢さんお手製のクッキーでティータイム〜
 モーツァルト:クラリネット五重奏曲イ長調K.581
(アンコール)
 ベールマン:アダージョ

 はるじい=五味春生氏の退職記念コンサートです。奥様やお嬢さんが全面的にバックアップしてのファミリー・コンサート。会場もプログラムも演奏も本格的なのに、どことなく流れる空気が暖かなコンサートでした。YAMAHA関係のおじ様が多いのかと思ってたのですが、マダム率が高く、また、若いお嬢さんのはるじいファンも多く、なかなか隅に置けない方です。クラリネットの豆知識を交えつつ、軽妙なトークをはさみながら、古典〜ロマン派の名曲が次々に登場。
 途中、楽章の合間にいきなりポケットをゴソゴソして、黒い紐のついた、真紅の布を取りだされたんです。もしや、勝負パンツ!? まさかG教授の!?!? とドキッとしたのを見透かしたかのように「掃除用の布です」って、冷静に考えればそのとおりなんですけどね。
 それにしても、退職記念にして、かしこまったご挨拶でもなく、単なる飲み会でもなく、今までのお仕事やご自分の趣味、家族の調和を全開にしての、何とも素敵なコンサート。アンコールでG教授がチェロ抱えて登場しなかったのだけが残念ですが、幸せな気分と「今の仕事を大切にしよう」というエネルギーを頂戴してきました。


2008年6月05日(木)19:00-22:00
新国立劇場オペラ「ヴェルディ:椿姫」@新国立劇場 オペラパレス

 C席 6300円 3階-L4列-3番 (パンフレット:800円)

 演出:ルーカ・ロンコーニ
 指揮:上岡敏之
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 ヴィオレッタ:エレーナ・モシュク
 アルフレード:ロベルト・サッカ
 ジェルモン:ラード・アタネッリ
 フローラ:林美智子
 ガストン子爵:樋口達哉
 ドゥフォール男爵:小林由樹
 ドビニー侯爵:東原貞彦
 医師グランヴィル:鹿野由之
 アンニーナ:岩森美里
 ジュゼッペ:小田修一
 使者:大森一英
 フローラの召使い:黒田諭

 ラ・トラヴィアータ=道を踏み外した女、ですが、ヴィオレッタ:エレーナ・モシュクに音まで踏み外されるとは思いもしませんでした。第一幕でのヴィオレッタは、オケとピッチが合わず、思わず手に汗握る演奏でした。まともに音が当たらないので、早いパッセージかつ音が跳躍する箇所なんて、思いっきりテンポを落として「狙いを定めて、いざ発声」なんです。こうなると「病弱な体に鞭打って、情熱的に生きた恋物語」とはかけ離れてしまいます。生き生きと歌うppは美しいけれど、おっかなびっくりのppって、覇気がなく、ただただ一本調子。この状態は芝居にもリンクするものでして、せっかくオケが表情豊かなのにもかかわらず、きっかけの音にも無反応。おっそろしい程の大根ぶりでした。この人、本調子だとどうなるのかわかりませんが、今日はブーイングの嵐にならなかったのが不思議な程の低空飛行。ヴィオレッタが出ずっぱりの「プリマドンナ・オペラ」なだけに、有名曲がズラリなのにもかかわらず、盛り上がりませぬ。
 アルフレード:ロベルト・サッカは登場した時は「へっ、なんでジェルモンが出てきちゃったの?」と勘違いしちゃうほどの年寄り(実年齢は知りませんが)。そして、イタリア人にしてはドイツ的な歌い口なので「乾杯の歌」などは違和感がありましたけれど、声の立ち上がりの良さ、声量の豊かさで、ヴィオレッタと並ぶと名歌手に。パンチの効いた声なので、第二幕第二場でヒステリーを起こして、ヴィオレッタに札束叩きつけたり、ソファに押し倒したりという、だめんず場面が何ともピッタリ。
 では、ジェルモンはジイサマが登場するのかと思うでしょ。こちらは若々しいバリトン。この顔ぶれだったら、ジェルモン=アルフレードの兄弟という設定にすれば良いのに、なぁんてね。ちょこっと歌詞変えるだけで良いんだし、ストーリー的にも問題ないと思いません? 何しろ、お歌も若いんですもの。ジェルモン家のドンとしての迫力が不足してます。
 脇役の面々は男性好調、女性不調といったところ。ドゥフォール男爵:小林由樹は押し出しの良さが映え、医師グランヴィル:鹿野由之も良く響く声で印象深かったです。ガストン子爵:樋口達哉は上記状況だったので「へ、今日は樋口氏がアルフレードだったっけ?」と思っているうちに場面が進んでしまいました。若々しい方です。フローラ:林美智子は意外な不調。宝塚の娘役が登場したかのようなか細い声で、響き不足。アンニーナ:岩森美里は役には合っているけれど、声のコントロールができず、そろそろ引退!?
 さて、今回の舞台は上岡敏之の新国デビューなのですが、何とも素晴らしい指揮でした。ヴェルディ作品のオーケストラ・パートは、ズンチャッチャ、ズンチャッチャといった、野暮ったい伴奏が多いのですが、微妙にリズムを崩し、フレーズごとに味付けを行い、それでいて、イヤラシイほどにはいじらずに品を保つという、魔術師のような指揮っぷり。まるで、新国には10年前から登場しているかのように、ppが映える新国の音響を見事に活かして、芝居進行に合わせた、絶妙な音楽作り。東フィルも実によく答えて、繊細な中、効果的に爆発してみせるという、名演奏。あまりに見事すぎて、それについてこれない歌手たちの大根ぶりが際立った程。こういうのって、オリジナル演出家ではなく、再演プロダクションならではの弱さが出る部分ですね。
 そもそも、ロンコーニによるこの舞台、失敗作と思えるプロダクションなんです。ゴージャスな設定なのにゴージャスになりきってない中途半端な美術、何もせずに棒立ちのコーラスと脇役たち。きしみながらむやみに横移動する大道具。。。数あるプロダクションの中で、もっとも退屈、と言い切ってしまいましょう。このプロダクションが再演されると聞いて、期待はしていなかったけれど、やっぱり僕には合わない。。。正直、一幕が終わった段階で「帰るべきか、帰らざるべきか」で悩み、二幕が終わった段階では「ケーキ食べて帰ろう(シュークリーム積み上げたヤツが好きなんです)」となったのですが、折しもマイミクのプリモタクさんに声をかけられたおかげで第三幕も観ることに。相変わらずスカスカの舞台そっちのけで、オケピの面々を堪能。コーラスもいなくなっちゃってたし(二幕幕切れのたたみかけるように歌いあげるコーラスは快感の極みでした!)
 というわけで、オケ・ファン、指揮者ファンには楽しめる作品ですが、歌手ファン、演出ファンには物足りないかと。。。でも、どれもこれもダメというプロダクションもある中、曲良し、オケ良しなのですから、悪くないんじゃない?



2008年6月07日(土)18:00-21:00
宝塚歌劇団雪組
「外伝 ベルサイユのばら−ジェローデル編−」
「ミロワール−鏡のエンドレス・ドリームズ−」
@市川市文化会館

 A席 5000円 2階-6列-54番 (パンフレット:1000円)

 演出:植田紳爾(ベルサイユのばら)/中村暁(ミロワール)

 ジェローデル:水 夏希
 ソフィア:白羽 ゆり
 ジャルジェ:萬 あきら(専科)
 ブイエ/隊長:一樹 千尋(専科)
 マロングラッセ 飛鳥 裕
 フェルゼ: 彩吹 真央
 尼僧:ゆり香 紫保
 ギーヌ:天勢 いづる
 オスカル:音月 桂
 令嬢:麻樹 ゆめみ
 フローラ:山科 愛
 尼僧:舞咲 りん
 ロベスピエール:彩那 音
 尼僧:森咲 かぐや
 令嬢:花帆 杏奈
 平民議員:柊 巴
 尼僧:神 麗華
 ラ・ファイエット:谷 みずせ
 令嬢:穂月 はるな
 平民議員:真波 そら
 令嬢:晴華 みどり
 近衛隊士:衣咲 真音
 ラサール:大凪 真生
 ジュール:大湖 せしる
 平民議員:祐輝 千寿
 近衛隊士:愛輝 ゆま
 ジャン:蓮城 まこと
 家令:帆風 成海

 今年の宝塚歌劇団の全国ツアーは「外伝 ベルサイユのばら」三部作。今までの「ベルサイユのばら」とは台本もナンバーもすべて一新。雪組では貴族の立場から眺めたジェローデル編、花組は貴族でありながら平民側で生きたアラン編、星組は平民の立場から眺めたベルナール編と、なかなか面白そうなラインナップ。ということで、本日はジェローデル編。貴族側から描いた「ベルサイユのばら」なのに、マリー・アントワネットが登場しないのが気になっていたけれど……正直つまんないです。貴族の体面を大切に、独自の美学を持っていた方というのはわかるのですが、小池修一郎作品のように「滅びの美学」には至らず、場面場面に学芸会のようなおちゃらけ芸(この手の笑いは大嫌いなんで、かなり辛かった〜)を挟むのと、正直、さほどドラマティックな人生を送った人ではないので、主ストーリーが盛り上がらないんです。
 主役のジェローデルは「トスカ」におけるアンジェロッティのように、瀕死の状態で修道院に逃げ込んできて、この部分はかなり期待させられたのですが、ソフィアとの再会で回想したことはというと…オスカルとの婚約発表は周囲のみんなにボロクソにこき下ろされ、変人扱い。肝心のオスカルには即行で拒絶。あらら、とんでもない役ね、と思わず同上。革命では貴族でありながらオスカルに協力したことで立場を亡くし、革命後は王妃救済のためにフェルゼンをスウェーデンからフランスに呼び戻すも結局王妃はギロチンに。そして、ロベスピエールのおかげで自身の処刑は免れたものの、ナポレオンが王位につくことに反対しての暗殺計画はあえなく失敗して、追い詰められて殺される…という、一つ一つは盛り上がりそうな話でありながら、ほとんどが会話の中で説明されてしまい、主役だというのに盛り上がりに欠ける脚本。全編書き下ろしの吉田優子のナンバーは、今までの色々な曲の寄せ集めの「ベルサイユのばら」とは異なり、統一感はあるけれど、正直、吉田優子氏の曲は今回に限らず耳に残らないのが致命傷。メロディ・メーカーとしての弱さがモロに出てしまいました。ここ最近、彼女が宝塚歌劇団の音楽面のボスとなっているようですが、生徒の教育はともかくとして、ショーナンバーの作曲については、別スタッフの起用を考えた方が今後のためにも良いかも。求む、作曲家!
 フェルゼン&ソフィアの兄妹は、二番手やトップ娘役が演じるには完全に役不足。今回のストーリーではいなくても良いような役で、ジェローデルとの絡みも弱く、結果、ストーリーが散漫になってしまった原因かと思われます。
 その分、得したのが若手たち。アンドレは「オスカルの婚約にふてくされてどこかへ行ってしまった」ため登場しないのですが、オスカルは女性としての悩みをストレートに押し出して、やはり一番美味しい役。番手の関係か、革命のダンスも戦死する場面もカットされたのはお気の毒。そして、庶民を代表して、作品に波風を起こしたのがロベスピエール。政治的台詞の説得力、リーダーとしての大きさ、革命の場ではダンスリーダーとして活躍、さらにはジェローデルとの友情(と言い切って良いかは微妙ですが)と、出番が少ないにもかかわらず重要な役をあてがわれていて「本来だったら二番手が演じるような役じゃない?」という大役。
 舞台装置は簡略化されているものの、アクティング・スペースにはピンクの模様が描かれ、装置はまるでリカちゃんハウスのよう、そしてパステルカラーが賑やかな衣装と相まって、宝塚ならではのファンタジー色満載の舞台。作品の知名度、話題性はあるけれど、芝居全体が不完全燃焼。
 芝居のうっぷんを晴らすかのように、ショーは迫力満点。主要キャストは本公演とほとんど変わらないということもあり、生徒個人個人の安定感が抜群。水夏希は自信なさそうな歌い方が影をひそめ、中音域の声量も増し、かなり聴きやすい歌声。上手いか下手かというと下手なんだけど、舞台人たるもの「いわれのない自信」はとっても大切。初めて彼女の歌を安心して聴いた気がします。千葉県出身生徒とあって、客席の応援も熱烈で、リフト場面ではいつもの倍位クルクル回してました。乗せて、乗せられて、素敵な主演ぶりでした。白羽ゆりはトップ相手役ではなく、トップ娘役タイプなので、ショーでも芝居でも自分のポジションをがっちり押さえられるのが強み。彩吹真央は安定した歌唱力で、場面場面の締め役。80年代ポップスが何とも似合う方ですね。
 何とも安定したトップトリオのもと、歌にダンスに張り切っていたのが音月桂。ポジション的にどんなに張り切ってもトップを威嚇はしないし、適度に目立つ場面があって、手加減なしの元気いっぱいな舞台。若手ならではの勢いがあって、気持ち良いですわ。本公演とは違って、先輩各氏の場面を割り振られた若手たちも、何とも芸達者で、登場人数半減にも関わらず、舞台狭しと跳ねまわってました。近年のツアー公演のショーの中では抜群の仕上がり。


2008年06月10日(火)18:30-21:40
宝塚歌劇団月組「ME AND MY GIRL」@東京宝塚劇場

 A席 5500円 2階-11列-60番 (パンフレット:1000円)

 演出:三木章雄

 ウイリアム・スナイブスン(ビル):瀬奈じゅん(剣幸→天海祐希→唐沢寿明→井上芳雄)
 サリー・スミス:彩乃かなみ(こだま愛→麻乃佳世→木村佳乃→笹本玲奈)
 パーチェスター:未沙のえる(未沙のえる→汐風幸→武岡淳一→武岡淳一)
 マリア公爵夫人:出雲綾(春風ひとみ→邦なつき→初風諄→涼風真世)
 ジャスパー卿:北嶋麻実(汝鳥伶→大峯麻友→花房徹→花房徹)
 ヘザーセット:越乃リュウ(星原美沙緒→真山葉瑠→丸山博一→丸山博一)
 ジョン卿:霧矢大夢(郷真由加→久世星佳→村井国夫→村井国夫)
 バターズビー卿:一色瑠加(愛川麻貴→葵美哉→山賀教弘→阿部裕)
 ジェラルド:遼河はるひ(桐さと実→姿月あさと→本間憲一→本間憲一)
 ブラウン夫人:美鳳あや(邦なつき→夏河ゆら→有希九美→伊東弘美)
 ワーシントン夫人:天野ほたる(朝みち子→梨花ますみ→家塚敦子→浅野実奈子)
 ジャッキー:明日海りお(涼風真世→真琴つばさ→涼風真世→純名りさ)
 ソフィア・ブライトン:城咲あい(朝凪鈴→風花舞→一倉千夏→高塚いおり)
 バターズビー夫人:憧花ゆりの(京三紗→夏妃真美→白木美貴子→福麻むつ美)
 ※2008年月組(1987年月組→1995年月組→2003年東宝→2006年東宝)

 さて、今回の出演者たちですが、頑張ってます。「頑張ってるね」という部分が見えすぎるほどに頑張ってました。主演の瀬奈じゅんは「頑張って」下町野郎を演じていましたが、その「演じる」という頑張りが見えすぎてしまい、観客を舞台に引き込むには力不足。ヘアフォード一家をかきまわすビルではなく、空回りしているビルになってしまってました。トップ就任後、やたらと軽い役ばかり宛がわれている彼女ですが、本来は喜劇役者ではなく、そりゃ、開き直ってのハチャメチャぶりが好評の舞台もありましたが、コメディアンとしては面白くないので、さすがに勢いだけで演じられないビルではボロが出た感じ。たぶん、この役に対する相性は本人が一番感じていることだと思うけれど、それだけに、歌に台詞に力が入ってました。元の脚本が良く書かれているのと、宝塚向けに格好良く書きなおされているので、素敵なビルには違いないのですが…どこか違う、という違和感はぬぐえないまま。「もっと出来る人のハズ」という期待を満たしてくれませんでした、残念ながら。スマートで都会的で洒落てるのが、ランベス育ちの野郎を演じる邪魔になちゃった。。。
 一方、この舞台で退団となる彩乃かなみは「ME AND MY BOY」と改題したくなるような好演。元々、お姫様役者ではなく、お嬢さん役者なのがサリーにはピッタリ。気風の良さと、ビルに対する思いの強さ、品はないけれど思いやりに溢れた言動で周囲の人をhappyにしていく過程など、すっかり主演状態。宝塚とは不思議なところで、トップになると急にレベルアップし、退団を決めるとさらに昇華するという奇跡が起こるのですが、彩乃かなみについてもご多分に洩れず、素晴らしいステージで最後の花道を飾ったのでした。
 30年間もマリアとプラトニック・ラブを貫いたジョン:霧矢大夢は、宝塚の誇るミュージカル役者にふさわしく、脇役でありながら、クルクルかわる表情で実に見事な感情の変化を表現。かなり学年が上の組長・マリア:出雲綾とのカップリングもバランスが良く、中年男の貫録と甘さを見せて秀逸。逆に、遼河はるひは近年まれに見る大根役者ぶり。世間知らずの貴族のボンボンのはずが、アホな小学生になり下がってました。ボンボンだけれど、貴族としての気品や大人っぽさを持ち合わせている美味しい役なのにもかかわらず、まったくの木偶の坊。台詞のテンポや歌唱も拙く、本来、ビルと親友関係になる役にもかかわらず、瀬奈ビルからはほとんど相手にされない状態。あれじゃ、誰も相手にするのやめますって。
 ジャッキーはダブルキャスト。娘役:城咲あいは大人っぽい芝居を目指したのでしょうが、女のエゴが露骨に出てしまい、今回のプロダクションにはフィットせず。男役:明日海りおはキュートだけれど、歌唱力に難アリ(そういえば、初演時の涼風も本公演ではジャッキーを、新人公演ではビルを演じてましたね)。結構、スケベだし、貴族の令嬢が淫らになる過程や、最後はSMプレイで大盛り上がりというあたり、城咲あいは生々しくなり、明日海りおだと開き直りがなくって物足りないんです。ま、これは宝塚のスミレコードに合わせて脚本を直す際の不備がそのままあぶりだされてしまった形ですけど。そして、二人揃って、ジェラルドとの並びはよろしくなかった(これはジェラルドに問題あり?) フィナーレでジョン卿と踊るのは変でしょ。本来ならばジェラルドとジャッキーのコンビであるはずですから。遼河はるひはもっと女役を支える大きさが必要ですね。
 さて、組長のマリア:出雲綾ですが、今までのゾフィーやカルロッタの舞台からして、さぞかし迫力のあるマリア侯爵夫人が登場するのかと思いきや、意外に大人しい歌と芝居。かなりセーブしているのがアリアリとしていて、正直、色物役者としての出雲綾が大好きだった僕としては不完全燃焼。王族をも下に見る由緒ある貴族の家柄ということで、品を出そうとしたのでしょうか。残念ながら、品は悪いです。浪花のおばちゃん丸出しですから。でも、彼女がビルやジェラルドのお尻をもっとビシバシひっぱたいていたら、かなり引き締まった作品になったんではないでしょうか?残念です。
 年々、芝居があっさりサラサラになってきた宝塚のお芝居ですが、欧米ミュージカルの上演にあたって、香りや雰囲気を醸し出す術はまだ健在です。女性が男性に化ける位ですから、身分や人種を化けること位、朝飯前なのかもしれません。が、コッテリ演じることを前提に作られたお芝居は、スマートになった分、感動が薄れてしまうのは致し方ないのでしょうか。ビルの元にサリーが戻ってくる場面、すすり泣きがあまり聞こえなかったのも、もしかしたら、盛り上げ不足もあるのかもしれません。一見、ダサいかもしれませんが、宝塚音楽学校の授業に、松平健や北島三郎のような「とりあえず、観客の心を鷲掴みにする」術の課程が必要なんではないでしょうか。スターには、野暮ったい位のなりきり・自己陶酔が必要なんですから。


2008年06月21日(土)17:00-20:00
「DRACULA」-ドラキュラ伝説-@新国立劇場中劇場

 S席 11000円 1階-19列-17番 (パンフレット:2500円)

 演出:藤井大介

 ドラキュラ伯爵 (吸血鬼):松平健
 ヴァン・ヘルシング(アムステルダム大学名誉教授):鈴木綜馬
 ミーナ・マリー/アマンダ(ハーカーの婚約者):剱持たまき
 ゼルマ(バンパイア):真織由季
 ナディア(バンパイア):初風緑
 ローラ(バンパイア):初嶺麿代
 アーサー・ホルムウッド(ルーシーの婚約者):藤本隆宏
 メフィスト(悪魔):園岡新太郎
 ジャック・セワード(ルーシーの叔父で精神科医):安崎求
 バベル(執事):光枝明彦
 ジョナサン・ハーカー(弁理士):大澄賢也
 ルーシー・ウェステンラ(ミーナの幼友達):紫吹淳
 アンサンブル:饗庭大輔 香取新一 笹木重人 楢原潤也 町田正明 森田浩平
          市川紗也子 柏木ナオミ 小牧祥子 坂本法子 白木原忍 丸山知津子

 当初は観劇予定を組んでいなかったのですが、クチコミで「意外と面白いよ」と聞いて、急きょ観てまいりました。同素材の他舞台作品や映画などの影響から、ドラキュラというと、耽美で細身で繊細なイメージを持っていました。が、登場したのは健康的でメタボでギトギトした松平健。そもそも、愛する妻の復活をメフィストに願った代償として、ヴァンパイアにされてしまったドラキュラ伯爵が、420年後にようやく妻の生まれ変わりを発見し……というロマンティックなストーリーで、深い愛情がテーマではあるのですがマツケンがまだまだエロエロな雰囲気を漂わせているので、ストーカーっぽくてとっても危険な香りが漂います。愛する妻の復活を待たずに、愛人囲ってそうなんですものっ。若さと健康のための、特製血液すら飲むのを嫌がるのに、体格良いんですもの。個人的には、この自己中心でありながらも、理屈ではなく位取りによって、観客までもが「伯爵だから仕方ないな」と思わせられるには、マツケンよりも、紫苑ゆうが、そして、男優が演じるのであれば浮世離れした山口祐一郎が似合う気がします。って、他作品でヴァンパイアを演じている面々ですけどね。
 さて、新宿コマ劇場や明治座での「松平健特別公演」では、かなり歌芝居にチャレンジしている松平健ですが、ミュージカルとなるとかなり勝手が違うようです。座長公演での歌芝居だとごまかしが効いても、ミュージカル俳優と共演しての本格的ミュージカルではかなりボロがでます。何しろ、鈴木綜馬が劇団四季を退団後最高と思える演唱でドラマティックに盛り上げたところで、同じメロディを歌うもんだから、音外しているのも、声がひっくり返るのもバレバレに。舞台での歌唱に慣れている人というイメージとは裏腹に、明日の千秋楽を控えて、かなり荒れた声や、一本調子でいっぱいいっぱいの歌い回しなど、主役を務めるにはかなり厳しい状況。
 これは、よくぞここまで、という共演者のレベルの高さも影響しているんです。アンサンブルも含め、主役経験者がズラリで、それぞれが自分の魅せ方を心得たミュージカルのベテランが揃い、歌にダンスに活躍しちゃうものだから、マツケンが入り込む隙間がないんです。前述の鈴木綜馬を筆頭にみなさん大車輪。紫吹淳は輪っかドレスにもかかわらず、ドレスのすそをたくしあげて足あげまくりで踊ったり、ガーターベルト姿で長い足をやたらと強調させるなど目立ちまくり。彼女はその他大勢と同じような衣装の場面でも、ポーズ一つで「アンタが主役!」オーラを漂わせ、さすが元・月組のトップスターの意地を見せつけてくれました。宝塚出身者としては、紫吹淳の同期生の真織由季がスッキリやせて、切れの良いダンスを披露し、リード・ヴォーカルとして歌唱力の高さを示せば、初風緑と初嶺麿代も、歌い出せばまだ男役そのものながら、アンサンブルの良さでマツケンに絡み、新人とは違う余裕を見つけます。主演者が松平健のせいか、共演者の年齢層が高く、娘役の紫吹淳の相手役は藤本隆弘、ヒロイン=ミーナの婚約者は大澄賢也と年齢のいった2人を配役すれども、すっきり若者に見せてしまう芸に感服。園岡新太郎は声量で、光枝明彦は緩急自在な芝居で、安崎求は鈴木綜馬との歌合戦でと、盛り上げまくり。アンサンブルの一人一人にも見せ場や聞かせどころがあてがわれ、さすが藤井大介は宝塚の演出家だけあって、大人数のポジションに応じた処理が手慣れたもの。
 そんな中、マツケンは、ビジュアル面でかなり冒険しています。ただでさえ大きなお顔に似合わぬロングのカツラを乗せられて、それだけでもかなりイロモノとなっているにも関わらず、大きなお尻を隠すために、衣装の多くに腰巻を着用し、ただでさえ太いお腹には相撲取りの回しのようなサッシュが。あげくの果てに、上げ底&ラッキーヒールのブーツは股下までの特製という、とにかく「ドスコイッ」ないでたち。正直、ラストシーンで、出演者一同がコーラスで盛り上げる中、真っ白な衣装でせり上がるという、いかにも宝塚な演出が似合わないことといったら!! おまけに、なぜか登場するフライングは、飛んでいるには程遠く、吊り下げられているのがアリアリとしていて思わず失笑。主役が映えるように作られるのが舞台作品の妙だと思うのですが、歌唱力の弱さをヴィジュアルでカバーしようとしたのが裏目に出てしまった印象。。。
 よって、ミュージカル・ファンにとっては「主役が別の人ならねぇ」ですし、マツケン・ファンにとっては「彼の魅力が出てないもんねぇ」な状況でして、正直、空席が目立ちました。せめて、3000〜4000円の席設定があれば「とりあえず観てみるか」という観客も取り込めたと思うんですけど。だって、作品としては、かなり良いんですもの。音楽も振り付けも丁寧に作られていましたし、装置もシンプルながら良く工夫されていましたし、何よりもオケが素晴らしかった! ヴァイオリンの長崎真音はリバーダンスか葉加瀬太郎かってほどノリノリだし、べースの岩切秀麿はコンバスとベースとで、シンプルなリズムであっても生き生きとしたグルーヴ感に満ちていて、このまま拉致して東宝劇場か帝劇のオケピに放り込みたい(あら、失礼!)と切に思った程。小編成のバンドながら、実に素晴らしい演奏にホレボレ。良い歌手が映えるためには、良いオケが必要ってもんです。
 でもね、どんなに出来が良くなかろうと、キャラクターが似合わなかろうと、出番がちょこっとしかなかろうと、さらには観客の笑いモノになろうと、松平健の主役としての存在感は素晴らしいです。自分の思う通りにやりたいことをやってるのか、(今回に限らず)演出家やプロデューサーの指定なのかわかりませんが、どんなに苦手そうな場面でも真摯に取り組み、舞台を引っ張っていこうというエネルギーは圧巻です。技術はあれども、省エネでサッパリした舞台を見せられることの多い若手にはまだまだ負けてません。とはいえ、リピートするにはキツイ舞台ですけどね。


2008年06月22日(日)17:00-20:25
イタリア・スポレート歌劇場「ロッシーニ:チェネレントラ」@オーチャードホール

 C席 12000円 3階-4列-4番 (パンフレット:1500円)

 演出:アレッシオ・ピッツェック
 指揮:ジュゼッペ・マルファ
 管弦楽イタリア・スポレート歌劇場管弦楽団

 アンジェリーナ:カルメン・オプリシャーヌ(ダニエラ・バルチェッローナの代役)
 ドン・ラミーロ:アントニーノ・シラグーザ
 ダンディーニ:アマール・モンタナーリ
 ドン・マニフィコ:ルチアーノ・ミオット
 ティスベ:レベッカ・ロカール
 クロリンダ:ルツィア・クノテコヴァー
 アリドーロ:アロージェロ・アンドリーナ
 アルレッキーノ:フランチェスコ・ヴォルフ
 コロンビーナ:イレーネ・レポレ

 一応「歌劇場」と名乗ってますが、スポーレート・オペラはコンクール入賞者によるオペラ公演です。春にコンクールがあって、入賞者は半年のリハーサルを経て、秋のオペラシーズンに備える、という何とも贅沢なスケジュール。そんな背景もあって、出演者は若手が中心となるので、一流歌劇場の公演とはちと趣が異なります。歌唱力はまだこれからの人も見受けられたけれど、今の実力と売りをしっかり踏まえて、みっちりリハーサルしてるのが良い効果を上げていて「今だからできる」ということで、舞台狭しと走り回ってます。そこんじょそこらのミュージカルよりもハードかも!? とにかく、みっちりリハーサルを行い、得意不得意を把握した上で、ベストのものを見せるのですから、観ていてこちらも幸せ。そういえば、ノヴォさんが新国オペラのキャスティングの際「一か月のリハーサルに参加できない人は使わない」と言い放った際、学校の先生と兼任のセミ・プロ歌手からブーイングがありましたが、結局、リハーサルをしっかり行うことによって、評判が良くなったのですから、スター歌手によるオペラではない場合、この方法がベストと言えるんでしょうか。。。
 もっとも、今回はスポレート・オペラではあるものの、日本公演に向けたキャスティングがなされていて、シンデレラ=ダニエラ・バルチェッローナ、王子様:アントニーノ・シラグーザというスター歌手を揃えたのが売り。チラシのキャッチフレーズも「2008年必見オペラ」でしたから! 残念なのは、バルチェッローナの怪我による休演。代役さんも健闘してましたが、格が違います。
 そんなわけで、ダンディーニは歌えば美声なんだけれど、役者としてのセンスの良さを見せつけ、継父はマンガチックに大げさゆえに「愛すべき憎まれ役」となり、アグリーシスターズは森公美子をパワーアップさせたようなダイナミックさで勝負(アシュトン版のアグリーシスターズみたいな感じ)。宝塚みたいな書き割りを中心とした装置と、ロココ調の装飾過剰な衣装と相まって、これぞメルヘンな世界を創造。舞台の見た目の段階で、夢いっぱい。おまけに、アルルカンとコロンビーナが黙役ながら、時に黒子として、時に動物役として大活躍。オペラグラスで「誰を眺めようか」悩んでしまうほど。
 とはいえ、なんといっても本日の白眉はシラグーザ。すでに日本でもおなじみのロッシーニ・テノールの第一人者で、今まで意識してなかったけれど、オペラもコンサートも結構聴いてましたので、本日をもって「ファンです」とカミングアウトしてしまいましょう。割と安定した歌唱を披露してくれる人ですが、特に今日は調子良く、一幕しょっぱなの大アリアから、柔らかく伸びやかにアジリタを披露。あまりに余裕がありすぎて、まだエンジンがかかりきらない客席が、その凄さに対する反応をしそびれるほど! とはいえ「僕、この役が好きなんです」なドン・ラミーロ役を「今日は調子が良くって、歌ってて気持ちよいなぁ」とニコニコしながら歌ってくれるんですから、もうそれだけで大満足。が、が、二幕最大の聴かせどころ「きっと探し出して見せる」では、昨日も大宮で歌ってた人とは思えないほど、ハイCの連発もロングトーンも鮮やかに決めてくれるので、客席は一気に熱狂。「もう一回歌っちゃうから聞いて聞いて〜」とアンコールで同じ曲を繰り返すだけでなく、今度はハイDまでスコーンと出し、そのまま力まず三連符の連続で下降してくるのですから、ヤンヤ・ヤンヤの喝采は彼がストップするまで止まりませぬ。そういえば、オペラでのショー・ストップって久しぶりに体験した気がします。
 実は、この手の演奏家に弱いんですよねぇ、ワタクシ。天真爛漫に見えるアーティストたち。超絶技巧を維持するには大層な訓練や自律が必要でしょうが、まずはそれを実行していること。それでいて「汗や根性」を売りにするのではなく、あくまで軽々と披露する小粋さを持っていること。自分の芸と観客の要望を的確にキャッチし、それに応える頭の回転を持っていること。何よりも、観客サービスをしているようでいて、実は観客をコントロールしていること。ついインタビューなんかで「いかに苦労しているか」を語ってしまう人っているでしょ。でも「僕にとっては何でもないんですよ」と涼しい顔をして言いのけ、それが嫌味に聞こえないのは「演奏の喜び」に満ちているからではないかと。一曲で良いからそこまでの境地に達してみたいもんです。でも、今日のシラグーザには神が舞い降りました。今が旬の歌手の絶好調の舞台が観られて、とにかく幸せです。
 もちろん、舞台が完璧ってわけじゃないんですよ。プロダクションはアイデアには富んでいるけれど、いかにも地方公演用のセットですし、このカンパニーの醸し出す雰囲気もいかにも「田舎のオペラハウス」みたいで、洗練はされてないんですが……最近の国際的プロジェクトのオペラ公演や、大規模なプロダクションでの公演が日常的に舞台に乗っている日本のオペラ界にはない、ご当地ならではの魅力に満ちていて「来日公演としての使命を果たしましたね」というこれまた嬉しさでいっぱい。土砂降りの雨の中、ゴキゲンになって帰宅しました。あぁ、今宵は良き時間を過ごせました〜♪


2008年06月24日(火)19:00-20:55
新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」@新国立劇場オペラパレス

 C席 4200円 3階-L6列-2番 (パンフレット:800円)
 振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ
 監修・演出:牧阿佐美
 指揮:エルマノ・フローリオ
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 オデット/オディール:スヴェトラーナ・ザハロワ(シーズンスペシャルゲスト、ボリショイ劇場バレエ)
 ジークフリード王子:アンドレイ・ウヴァーロフ(ボリショイ劇場バレエ)
 ロートバルト:市川透
 王妃:坂西麻美
 道化:グレゴリー・バリノフ
 家庭教師:ゲンナーディ・イリイン
 王子の友人(パ・ド・トロワ):本島美和、丸尾孝子、マイレン・トレウバエフ
 小さい4羽の白鳥:さいとう美帆、本島美和、寺島まゆみ、小野絢子
 大きい4羽の白鳥:厚木三杏、西川貴子、丸尾孝子、堀口純
 スペインの踊り:西川貴子、楠本郁子、マイレン・トレウバエフ、富川祐樹
 ナポリの踊り:さいとう美帆、小野絢子、江本拓
 ルースカヤ:湯川麻美子
 ハンガリーの踊り:西山裕子、古川和則
 2羽の白鳥:厚木三杏、堀口純

 とにもかくにもザハロワが圧巻の舞台でした。手足の長さ、体の柔らかさ、バネのしなやかさを活かし、繊細でありながらも動きが滑らかで情感に満ちたオデット。そして、体の大きさを活かして、ダイナミックで勢いのあるオディール。同じダンサーが演じているのでもちろん統一感はあるのですが、ザハロワの変わり身の鮮やかさといったら、数ある「白鳥の湖」の中でも白眉ではないでしょうか。通常、どちらかに得意分野がわかれるものなんですけどね。一人で娘役と男役を演じ分けている、そんな印象を持ちました。長身のダンサーって、時に長い手足を持て余してしまうことが見受けられるものですが、ザハロワについてはそんな心配はマッタクなく、逆に表現力五割増っ!になってしまうので、とにかく登場すれば目が釘付け。おまけに別嬪さんと来たもんですから、プリマになるべくしてなられた方と言えましょう。もちろん、ボリショイでプリンシパルに上り詰めるには並大抵の訓練では太刀打ちできないのは容易に想像できますが。とにかく、週末のシラグーザに引き続き、今が旬のスターによる圧巻のステージに触れることができ、幸せでいっぱいです。もちろん、ザハロワとて人間ですので、今回のように一幕+二幕、三幕+四幕のような休憩が少ない上演形態ですと、時に疲れや力任せの部分も散見されましたが、それでも会場を興奮の坩堝に化してしまうんですから、世界を制する(と言い切ってしまいましょうぞ)プリマの底力に感服です。技術と芸術性の両面が充実しているということでは、世界一の白鳥ダンサーかも。
 一方、相手役のウヴァーロフも長身でスタイル抜群で、テクニックは実に安定していて、まるで空中をスローモーションで飛んでいるようにすら見える余裕っぷり。ザハロワとは良くコンビを組むのですが……完全無欠でありながら、何とも影が薄いんです。芸は素晴らしいんですよ! でも、なんでこんなに地味なんでしょう??? ここはもっぱら「ザハロワの相手役」として徹していただきましょう。王子の見せ場はほぼ完璧に決めてくれるのに、なぜか「王子はどうでも良いや」って思ってしまうのは、ザハロワのあまりのスター性だけではなく、ウヴァーロフの個性も影響しているに違いありません。でもね、ちょっと暗い影を秘めていて、愛想は良くないけれど(悪くもないです、念のため)どことなく気品に満ちているあたり、どこぞの王国の皇太子みたいで、作品には見事にフィット。そういえば、この人で「良くなかった」ってことないです。肉体芸術のバレエにあって、これは凄いことです。
 新国バレエ団はかなり新メンバーが加わったようでして、配役表はなかなか華やかな顔ぶれです。おまけに、ダンサーの人数の関係か、名のあるソリストがカメオ出演よろしく、チョイ役で踊ってたりするので、目が離せません。今日だって、意外な場面で「えぇっ!?」とオペラグラスを構えることが何回か。サイトウ・キネン・オーケストラ状態ですわ。でもって、そんな中でカンパニーを引っ張っていたのがマイレン・トレウバエフ。ここ最近の彼の舞台も素晴らしいんです。上背がないのが残念ですが、キレの良さと、力強さ、そして踊りながら共演ダンサーや舞台への気配り具合が何ともジェントルマン。脇役ダンサーとのちょっとした絡みから、舞台上のゴミ拾い、複数の役を演じる際の顔つきの変化まで、共演者に、観客に、サービス精神旺盛です。踊って良し、ステージマナー良しで、いつだって彼の登場が楽しみ。そして、八幡顕光はメイクがかなり良くなった印象で、目もとが華やか。グリゴリー・バリノフの道化も舞台の上で自由自在に遊んでいるし、市川透のロートバルトは悪の迫力が出てきました(もっと出ても良いと思うけれど)。
 一方、女性ダンサーも頑張っています。が、小さい四羽の白鳥たちは、首の動きがコミカルな例の有名なチェーンダンスのキレがよろしくなく、僕には不完全燃焼。大きい四羽の白鳥たちや、スペインたちはかなり見栄えがするので、新国バレエ団は大人っぽい役の方が得意なのかも。そして、主演経験者が多いせいか、新顔の多い男性ダンサーを圧倒していた印象を受けました。ルースカヤは鳴り物入りで挿入された踊りで、僕のお気に入りの湯川麻美子によるソロなのですが、正直、このシーンはいらない気がしました。音楽も唐突に雰囲気が変わってしまうし、振り付けもこれといって見栄えしないので。「白鳥の湖」のように、管制度の高い作品は、あれこれいじらなくても良いのではないでしょうか。
 それにしても、女性も男性も、ソロから群舞にいたるまで見せ所満載、チャイコフスキーの音楽も変化に富んでて飽きることもなく、美術だって目の保養だらけ。「前のが好き!」という箇所はあるものの、安心して観られるプロダクションです。全席完売・キャンセル待ちの列あり、という人気ぶりもうなづけます。何度観ても飽きないのが嬉しいですわ。(ちなみに、現在の淡い色彩の衣装よりも、イタリアン・カラーが鮮やかだった以前のものの方が僕は好き)。


2008年06月25日(水)19:00-20:40
藝大ブラス「平成20年度学内演奏会」@東京藝術大学奏楽堂

 全席自由 無料 20列-11番 (パンフレット:無料)

 指揮:稲川榮一

 ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
 リード:交響曲第3番
(休憩)
 ホルスト:組曲「惑星」より
       1.火星
       6.天王星
       5.土星
       4.木星
(アンコール)
 プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」間奏曲
 スーザ:星条旗よ永遠なれ

 学生によるブラスバンド。実は芸大のブラスバンドは初めてなんですが、オケは「私が芸大の顔よっ!」とばかりに自信に満ちた弦楽器弾きが揃っているのに対し、なんとも自信なさげな方々がずらり。舞台上から客席に向けるエネルギーが弱いんです。そして、客から見られるということに慣れてないのか、舞台の上でやたらと照れてるっ!!! これ、一番白けるんですよね。演奏後にソロを披露した人一人一人の紹介があるのですが、これまた照れる。再三言ってますが、芸大の演奏家はお遊びというよりも、プロ育成の場だと思っているので、おおいに反省を促したいところ。でも、思ってみれば、3歳位から人前での演奏に慣らされ「私を観て〜」だとか「私はココが魅力でしょっ!」とアピールするのに慣れているピアノやヴァイオリンに比べ、中学生や高校生から楽器を始めた人が多いと思われる管楽器の集団……お坊ちゃま・お嬢様揃いイメージの芸大なのに、とっても普通の学生さんたちでした。ただし、色白青年が多いのはとっても音大チック。
 そういうわけで、演奏もとても地味です。技術的にコレといった破たんがあるわけでなく、むしろどこぞのプロのオーケストラよりも安心して聴けるパートもあった位なのに、演奏が禁欲的すぎて面白くないんです。色気だとか喜び、嘆きが全然伝わってこず、先日の学生オーケストラでも思ったのですが、ただ単に音を追うだけなので、シンプルな曲だと実につまんないです。学生ならではの元気はつらつさや、技術的に瑕は出るかもしれないけれど、勢いで押しちゃう部分とかあっても良いと思うんですが、優等生的、そして頭脳的な演奏で、盛り上がりに欠けました。
 とはいえ、これは選曲の責任も大きいと思うんです。せっかくの吹奏楽の演奏会だというのに、オーケストラの編曲物多すぎ。所詮、編曲物は編曲物。演奏効果をあげるのが非常に難しいです。違う楽器、違う編成で同じ感動を与えようなんてどだい無理な話です。ゆえに「運命の力」では、吹奏楽へのアレンジの難しさばかりが伝わり、アレンジの関係であちこち歪んだ演奏を聴かされてちと辟易。レオノーラの美しいアリアがブツブツ切られて、無感情に演奏されてはたまったもんじゃありません。これは後半の「惑星」に関しても言えることで、聞こえるべき音が聞こえてこなかったり、意外な部分がクローズアップされたりして、なんだか別の曲を聴いているよう。もちろん、プログラミングを考えると編曲物が入っても良いとは思うんです。でも、あくまで遊びの範疇に収めておかないと、せっかくの吹奏楽コンサートだというのに、魅力が出ないではありませんか。
 あえて言うならばブロードウェイ・ミュージカルの宝塚版を観ているような気分とでも言いましょうか。完成品はそれなりに楽しませるものが出来上がってはいても、演奏家の魅力が出ているか、曲の本来の形が伝えられているか、がかなり疑問。そういえば、宝塚も吹奏楽も、ファンは熱狂的ですが、今一つマイナーな世界なのは、そのような特殊性の受け入れが一般的には難しいから、というのがあるからではないでしょうか。
 ということで、アルフレッド・リードの曲になるやいなや、響が急に充実。やはり、ピアニストの書いたピアノ曲(ショパンやリストなどね)じゃないけれど、専門家による作品は演奏効果が段違いです。アンコールも「マノン・レスコー」は音の数が少なくて、間が持たない生徒が多かったけれど、スーザの曲になったら演奏にも色が出てくるんですから、やはりモチはモチ屋。
 「運命の力」では全員が固い演奏でしたが、「惑星」あたりでは、フルート・パートが俄然ノリノリの姿勢での演奏を開始。オーボエのトップの方も、演奏後のステージマナーはともかく、演奏はトランスがかっていて素敵。でも、ベスト・パフォーマーはタンバリンのお姉さん。バネの効いた動きっぷりと、一音に混める思い入れが、舞台から客席へとビシバシ飛んできました。演奏家って、上手ければ成功するという世界ではないので、こういった、アピール術の取得は超絶技巧に負けず劣らず必須事項だと思ってます。数人だけれど「素敵だな」という演奏ぶりに出会えたことに満足。そして、多くの方には「芸大の看板を背負ってください」とお願いしとうございます。


2008年06月28日(土)14:00-16:40
二期会「R.シュトラウス:ナクソス島のアリアドネ」@東京文化会館

 D席 5000円 4階-R3列-16番 (パンフレット:1000円)

 演出:鵜山仁
 指揮:ラルフ・ワイケルト
 管弦楽:東京交響楽団

 執事長:田辺とおる
 音楽教師:加賀清孝
 作曲家:谷口睦美
 テノール歌手(バッカス):高橋淳
 士官:羽山晃生
 舞踏教師:大野光彦
 かつら師:大久保光哉
 召使:馬場眞二
 ツェルビネッタ:幸田浩子
 プリマドンナ(アリアドネ):佐々木典子
 ハルレキン:青戸知
 スカラムッチョ:加茂下稔
 トゥルファルディン:志村文彦
 ブリゲッラ:中原雅彦
 ナヤーデ:木下周子
 ドゥリヤーデ:増田弥生
 エコー:羽山弘子

 二期会、絶好調です。オーケストラは小編成だし、アンサンブルの妙技が求められるとあって、二期会の面々が無理せずに得意技を発揮。全員が柔らかい声色を活かし、バランスの良い公演でした。繊細な表現力が求められるR.シュトラウス作品って、日本人に合ってるのかもしれませんね。どの役もやたらと難しいはずで、以前に観た某プロダクションでは、出演者一同ゼーゼーハーハー状態だったのに、今回は「まるで別の曲みたい」と思える程に皆さん余裕綽綽。おまけに、演出に対してもノリノリで遊ぶこと、遊ぶこと。ツェルビネッタ御一行なんて、このままどこの歌劇場へも売りに出せます。
 まずはコメディ・チームですが、幸田浩子がダントツの出来。超絶技巧が超絶技巧に聞こえない状態で「偉大なる王女様」なんていとも簡単に軽々と歌いきってくれ、すっかり曲が自分のものになっている状態。おまけに、衣装のヒラヒラさせ具合といい、蓮っ葉ぶりといい、とってもキュート。歌だけでなく、芝居っぷりについても「ツェルビネッタの第一人者」と言えるのではないでしょうか? 取り巻きとの小芝居、アリアドネへのちょっかい出しなど、実に生き生き。でも、アンサンブル芝居の場合、一人だけが張り切っても滑ってしまいますよね。今回は取り巻きのおじ様たちも歌って(あ、オペラでした)、踊って(謝さんの振り付けです!)大いに盛り上げます。衣装がドナルドダックやグーフィーを彷彿させる、遊び心にあふれたヴィヴィッドなものなのですが、見事に着こなしているからこれまた可愛いんです。ぶっとんだ衣装を着こなすのも舞台人の芸。衣装に合わせて、動きもオーバーで、何よりも表情がクルクルと変わるのが魅力的。アリアドネがよくもまあ誘惑に負けなかったこととビックリです。そして、重唱の際の声がみなさんとっても柔らかくて、耳心地が良いんです。細くてクリアな声のツェルビネッタを見事に支えてくれました♪
 一方、シリアス・チームですが、割と地味な印象の強い佐々木典子ビが化けました。プリマとして登場した時点で「寿ひづる(@レベッカ)!?」みたいな高慢ぶり。そして、アリアドネとしては重くなりすぎずに、ツェルビネッタの華やかな演唱の後をしっかり引き継ぎ、たっぷりとバッカスとの愛を歌いあげて、気持ち良いフィナーレ。で、ここに登場するバッカスですが、歌手として楽屋着で登場した時は「こんなものか」だったのが、宝塚のトップさんのように、派手なカツラを逆立て、舞台後方に競り上がっての絶唱。スター然として登場し「聴け〜っ」とアピールするのが実に快感。二人の並びもバランスが良く、今までどちらかというとコメディ・チームにばかり注目・注耳していた作品ですが、対等にやり合うので、見応えがありました。素敵です。
 R.シュトラウスって、とっても難しそうな曲ではあるんだけれど、あちこちに遊びが散りばめられていて、サラリと表現されると、それがとっても粋になるんですよね。「どうです、スゴイでしょ」と誇示するわけでなく、さりとてイッパイイッパイなわけでもなく、キッチリ遊んじゃうあたり、今回の二期会の面々が実にブラァヴァでした。さりげないので、客席も熱狂的ってわけじゃないんですが、これは音楽の作りが、散々盛り上げておきながら、末尾でさりげなく映画音楽風に処理する、R.シュトラウスのセンスも影響してるんでしょうね。
 この室内オペラに対して、東京文化会館はとっても広いんですが、出演者にとってはホーム・グラウンドですし、演出も美術も遊んでくれたのが、これまた成功のポイントではないでしょうか。本来は、街一番のお金持ちのお屋敷が舞台なので、通常はお屋敷風にセットが組まれるのですが、今回は舞台の上に劇場を作ってしまった感じ。ロイド・ウェバーの「オペラ座の怪人」における、パリ・オペラ座のセットのように、舞台両端に桟敷席を備え付け、アクティング・スペースはいかにも「劇中劇ですよ」といったシンプルな美術なのですが、波や、海に浮かぶ船、波間を飛び跳ねる魚たちなどなど、舞台を邪魔しない程度に遊びを入れちゃうさりげなさが、これまたR.シュトラウスにマッチ。犬やらゾウの飾り物もあって、ワンダーランド。それでいて、必要箇所では、プロセニアムを電飾で光らせたり、ミラーボールのごとくに、客席に向かって照明をグルグル回してみたり、劇場マジックをあれこれ見せてくれ、とにかく舞台に隙間風が吹かないよう極力カバー。演出の鵜山仁は大劇場芝居も手掛けているのが吉と出ました。猥雑な雰囲気を表現しつつも、下品になるスレスレの所で踏みとどまってくれるので、観ていて安心。ここでエゲツナイことをされたら、R.シュトラウスの世界が台無しですもの。
 今回、嬉しかったのは谷口睦美との出会い。宝塚の男役とも違い、さりとて女性フェロモンがムンムンのズボン歌手とも違い、力まないのにスマートな美丈夫ぶり。新進の作曲家としての勢いと世間慣れしてない様子、そして女の子にまでウブなあたり、とってもキュート。今回のプロダクションだと、この作曲家がどことなく、ヴォルフガングに見えて(←あ、言うまでもありませんが、モーツァルト!です)、その生意気っぷりと、自爆っぷりが実に青くて、素晴らしい青年ぶりでした。「私は君より30年もキャリアがあるからね(でしたっけ?)」な音楽教師:加賀清孝は「アナタ、地でやってませんか?」なはまりっぷりで、とにもかくにも、ここ最近の二期会オペラのプロダクションの中でも、歌手のバランスの良さ、演出と出演者の相性の良さ、キャスティングの妙など、実に満足度の高い好演でした。こうなると欲張りなもので、もう一方のキャストの公演も観たくなってくるもんですね。