観劇日記〜2008年12月〜
02日(火) 19:00 JTアートホール室内楽シリーズ「徳永二男 名手と名曲の出逢い」 JTアートホール アフィニス
04日(木) 18:30 宝塚歌劇団宙組
「Paradise Prince」
「ダンシング・フォー・ユー」
東京宝塚劇場
07日(日) 13:00 TSミュージカルファンデーション「AKURO 悪路」 東京芸術劇場中ホール
07日(日) 17:30 東宝「ラ・カージュ・オ・フォール」 日生劇場
08日(月) 19:00 ワレリー・ゲルギエフ&ロンドン交響楽団 東京文化会館
09日(火) 19:05 歌舞伎座百二十年 十二月大歌舞伎
「籠釣瓶花街酔醒」
歌舞伎座
10日(水) 18:30 東邦音楽大学管弦楽団「第149回 定期研究発表演奏会」 文京シビックホール
13日(土) 14:00 新国立劇場オペラ「モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ」 新国立劇場 オペラパレス
18日(木) 11:00 コマ・スタジアム「愛と青春の宝塚」
(花チーム:紫吹淳、貴城けい、大鳥れい、紫城るい)
新宿コマ劇場
18日(木) 19:00 音楽座「マドモアゼル・モーツァルト」 東京芸術劇場 中ホール
20日(土) 16:00 コマ・スタジアム「愛と青春の宝塚」
(星チーム:湖月わたる、彩輝なお、星奈優里、映美くらら)
新宿コマ劇場
23日(火・祝) 19:00 新国立劇場バレエ団「シンデレラ」 新国立劇場 オペラパレス
29日(月) 19:00 東宝「RENT」 シアタークリエ


2008年12月02日(火)19:00-21:05
JTアートホール室内楽シリーズ「徳永二男 名手と名曲の出逢い」 @JTアートホール

 全席指定 3000円 1列-10番 (パンフレット:無料)

 ヴァイオリン:徳永二男、藤原浜雄
 ヴィオラ:川崎和憲、鈴木康浩
 チェロ:毛利伯郎、古川展生
 クラリネット:村井祐児

 ハイドン:弦楽四重奏曲 第77番 ハ長調 Op.76-3「皇帝」
 モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581「シュタードラー」
(休憩)
 チャイコフスキー:弦楽六重奏曲 ニ短調 Op.70「フィレンツェの思い出」

 一曲目は藤原〜徳永〜古川〜鈴木の並びで弦楽四重奏。おっかけのおかげで既にお馴染みの曲。そして、今回は別に席を選んだわけではないのですが、発券してみればかぶりつきのセンター。さぞかしのぼぉちゃんも弾きにくかったことと存じます。YAMAHAの仮店舗サロンはさすがに響きがなくて生音ばかりだったけれど、JTは音響は良いし、天井が高くて良く響くし「同じ楽器?同じ演奏家??」な嬉しい音。樽の中から音が響いてくる感じ。通常、カルテットというと、低音がしっかり支えて、高音は自由に遊ぶというイメージがあるけれど、今回はヴァイオリンがとにかく強力メンバーゆえ、サポート要らず。逆にチェロやヴィオラが自由に泳がしてもらっているみたいで面白い!!
 二曲目は低音の若手二人が下がって、徳永〜藤原〜村井〜毛利〜川崎のダンディたち。30年近く前からお馴染みの面々です。メンバー入れ替え、ポジション・チェンジにより、醸し出される音楽の個性がガラリと変わるのが面白いですね。アンサンブルの妙です。クラリネットが一本加わっただけなのに、響きが急にオペラハウス。各人が歌心たっぷりに演奏するもんだから、モーツァルトの茶目っ気が生きてノリノリのモーツァルト。
 休憩をはさんで後半は徳永〜藤原〜毛利〜古川〜鈴木〜川崎の弦楽器フル編成。僕が通っていた頃のN響&読響のコンマスコンビがバリバリアンサンブルを引っ張ります。ヴァイオリンってメロディ楽器なんで、盛り上げてもらって当然、みたいなものですが、今回のアンサンブルではこのお二方が切り込み隊長。変わりにヴィオラが何とも色っぽく萌え萌え〜な演奏。チェロはチェロで伴奏に徹したり、音のぶつかり合いをしたり、これまた自由自在。正直「みんなで一体化」という演奏ではなかったけれど、今日は「名手」たちのアンサンブルですから、全員が「好き勝手な演奏(あ、デタラメではなく、個性豊かな演奏ね)」に徹することにより、結果として丁々発止の刺激艇な演奏に仕上がったのでした。ヴァイオリン〜ヴィオラ〜チェロと聞かせどころがリレーになる場面なんて、一人一人が「前の人がそう弾くならオイラはこう弾くぞ〜」の連発。その感覚が短くなると、何だかゲームの一場面みたいでとってもスリリングでした。弦楽器だけなのに、オーケストラを聴いているかのような華やかさ。そういえば、今日の面々、ソリストとして活躍しているけれど、基本オーケストラの人たちだぁ!!!
 それにしても、徳永さんってのぼぉちゃんが可愛くて仕方ない感じですね。演奏が終わると「上出来、上出来」と背中ポンポン叩いてるし、あ、そういえば毛利さんも「良いよ、良いよ〜」と演奏中にニッコリ笑いかけるし。みんなに愛される姿は見ていて嬉しいもんです。でもって、チャイコフスキーで、一人だけ譜面台に楽譜を載せそこねて足元に落としてしまう姿には「ったく、相変わらずだなぁ」と客席の誰かさんがニンマリ。ツボを外さない方です。


2008年12月04日(火)18:30-21:35
宝塚歌劇団宙組
「Paradise Prince」
「ダンシング・フォー・ユー」
@東京宝塚劇場

 当日B席 2500円 2階-16列-53番 (パンフレット:1000円)

 演出:植田景子(Paradise Prince)/中村一徳(ダンシング・フォー・ユー)

 スチュアート・グリーン・メンフィールド:大和悠河
 キャサリン・ホワイト:陽月華
 ハワード・ゴールドウィン:一樹千尋(専科)
 ローズマリー・メンフィールド:美穂圭子(専科)
 プルート:寿つかさ
 エヴァ・グレイ:鈴奈沙也
 メイ:彩苑ゆき
 アンソニー・ブラック:蘭寿とむ
 サマンサ:美風舞良
 ヘンリー・グレイ:天羽珠紀
 シャルル:悠未ひろ
 ジェームズ:夏大海
 アレックス:珠洲春希
 ラルフ・ブラウン:北翔海莉
 ドナルド・ブラウン:風莉じん
 ヴィクトリア:美羽あさひ
 ジャック:十輝いりす
 ケヴィン:七帆ひかる
 ミセス・レッド:大海亜呼
 ドロシー:鮎瀬美都
 アンジェラ:和音美桜
 ティム:八雲美佳
 ピーター:早霧せいな
 アリス:華凜もゆる
 マシュー:美牧冴京
 マーガレット・メンフィールド:花影アリス
 ヒロ:春風弥里
 ジョン・メンフィールド:鳳翔大
 マイケル:蓮水ゆうや
 ウィリアム:麻音颯斗
 トム:凪七瑠海
 アン:純矢ちとせ
 メグ:愛花ちさき
 エドワード:七海ひろき
 キム:藤咲えり
 ジョージ:天玲美音
 リチャード:澄輝さやと
 エイミー:すみれ乃麗
 ウェンディ:天咲千華

 1970年代の宝塚にタイムスリップしたような気分の観劇でした。今にも松あきらや瀬戸内美八が出てきそう。宝塚大劇場公演が遊園地のアトラクションだった時代、東京公演もソワレが17時開演と、かなり観客を絞っていた時代。当時はこの手のおとぎ話的作品、少女漫画をそのまんま舞台化したような作品が多々ありました。そして、子供たちにとってはわかりやすくて華やかで楽しい舞台でした。が、仕事帰りに集まる仕事帰りの観客にはあまりに別世界すぎて馴染めないのも事実。スーツの男性集団なんて芝居が終わった瞬間も沈黙状態でした。空席の多さがこの作品がいかに今の日比谷に合わないか。。。とはいえ、この手の少女漫画の世界を演じて様になってしまうのが宙組。そりゃお歌は不自由です。トップコンビも二番手も歌えやしません。同行の宝塚初観劇のお姉さんに「宝塚って歌が下手でも入れるのね」と言われてしまったほど。はい、その通りです。でも、ファンタジーの世界を真面目に演じ、その中でキラキラ輝けるのはこの劇団、それも宙組以外にはありますまい。
 マイケル・J・フォックスあたりが主演しそうなお芝居の幕開きは、アンソニー:蘭寿とむの仕切るお金と欲望の世界。モノトーンの舞台。いかにも胡散臭そうな彼がスチュアートを紹介するものの当の本人は「アート界を引退します」というメッセージを残して家出。じゃ、そのスチュアートはどこ?という展開の中、スチュアート:大和悠河はいきなり自転車に乗って登場。まるでティーンエイジャーの男の子が飛び出してきたかのような華やかさ。プロローグでの総踊りはアイドル出演の歌謡番組のノリ。ベネトンの商品を全部引っ張り出してきました!的な派手派手な舞台は、いかにもアンソニーとは別世界!でぶっ飛んでました〜。このプロローグまでで、人物関係も、話の展開も読めてしまうので、後は安心して寝るなり雰囲気に浸るなりご自由に、な演出。親切なんだか投げてるんだかわかりません。
 さて、スチュアートが潜り込んだのはアニメーション制作会社。あぁ、このあたり、ハリウッド映画に登場しそうでしょ。入社面接もテンポ良く進み、就職難の中、あっという間に2Dアニメーションの部署に就職!パチパチ。が、この部署が曲者。コンピューターグラフィックスが主流の昨今、やる気を失った窓際たちの集まり……というのはともかく、しばらく「知能障害児たちの施設か?」と思ってました。華やかな衣装のエネルギーに負けないようにか、台詞を怒鳴っちゃう人が多く、宝塚歌劇団ではなく、どこかの児童劇団を観に来たかのような気分。丸の内で仕事してきたばかりの身には「何仕事なめてんの!?」とイライラ感MAXな場面。飛び出す意見が「中学生日記」なもんでして、すれちゃって汚れきったおじちゃんには馴染めない世界。なんでこんなに幼稚な芝居が必要なんでしょう!?!? 普通に芝居してたって、宙組の面々ならばそれだけでファンタジーなのに。課長のプルート:寿つかさなんて、問題児に手を焼く小学校の先生みたい。
 と、そこへ登場するのがキャサリン:陽月華。一同仕事を放り出して「プリンセスがやってくる!」と舞い上がる様は、「カルメン」における「ハバネラ」のような雰囲気。もちろん、スチュアートも彼女に興味を持つんだけれど、人事課のエヴァ・グレイ:鈴奈沙也の入社案内が邪魔でなかなか彼女に近づけないというコメディ場面。ですが、ずっとガチャガチャ賑やかな芝居が進行していたので、この場面は盛り上がらず。ん〜、メインの芝居が浮きたたないのは何とも厳しいです。主役たちが恋に落ちる大切な場面だというのに。。。
 あとはお約束です。ヒロインの才能や境遇に嫉妬する才能にも仕事にも恵まれない友達の登場、やる気のなかった同僚にハッパをかけるスチュアート、スチュアートを利用して金儲けしようと企み、キャサリンを陥れようとするアンソニー、自分勝手で家族をひっかきまわすスチュアートの母など、宝塚としては関連人物を広げすぎず、適度に主人公をひっかきまわし、そして、あっけなく全てが解決という、正直「ストーリーはどうでも良いや」なお話。今どき、いい年をした出演者/観客が、まじめに演じ/観るには、宝塚歌劇への愛情なしでは成り立ちませぬ。宝塚歌劇に対する思いを試されている……そんなお芝居でした。
 ファンならばひたすらスターのキラキラに酔えば良いし、お子様たちにはわかりやすいおとぎ話。おまけに、1100通の公募作品の中から選ばれたアニメーションも登場するという素敵な演出。……とっても年取った気分になります。
 ショーはタイトル通り、ダンス・ダンス・ダンス。伸びやかに「これでもか!」と踊りまくってます。大和悠河も体力勝負! 蘭寿とむもキザりまくってます。そして、足の骨折により、半年以上救援していた陽月華が完全復帰。通常、怪我をしたスターはその後かなりダンスをセーブするものですが、彼女の場合は「怪我なんてしてましたっけ?」な暴れよう。娘役離れして、キレ味鋭い動きの数々は爽快感を覚えます。芝居ではかなりお歌の不自由さが目立っていた三人ですが、ショーでは歌いやすい音域に調整されているせいか、さほど歌唱力は気にならず。時折、下級生が歌うとほっとはしますけれど。。。(余談ながら、大階段でのパレードは場面が盛り上がるにつれ、歌が酷くなっていきます)。
 歌の下手さにもいろいろありますが、大和悠河と蘭寿とむの下手さは「風邪っぴきの歌唱」を感じました。ほら、声のコントロールが効かなくって、急にひっくり返ったり、ボリュームが壊れたりするでしょ。あんな感じ。声色のコントロールなんて時限ではなく「ちゃんと声が出ますように」なレベル。数日前に風邪気味で喉の調子が悪かった僕と同じ症状。声を膨らませられないので、盛り上げようとすると怒鳴っちゃうんです。で、トップも二番手もこれなもんだから、困ります。他組はそのあたりのバランスを考えているなぁという人事ですが、宙組は恐ろしい状況になってます。でもまあ、上手い下手を通り越して、応援団のように声を張り上げまくりの一時間、体育会系で、これはこれとして何とか突っ走ってしまうあたり「宝塚の生徒って凄い」と思うわけです。


2008年12月07日(日)13:00-15:45
TSミュージカルファンデーション「AKURO 悪路」@東京芸術劇場中ホール

 S席 9000円 1階-H列-7番 (パンフレット:1200円)

 演出:謝珠栄

 安倍高麿:坂元健児
 謎の若者(アテルイ):吉野圭吾
 アケシ(鈴鹿御前):神田沙也加
 イサシコ(赤毛):駒田一
 坂上田村麻呂(田村丸):今拓哉
 オタケ:平澤智
 小者の源太:西村直人
 ヒトカ:友石竜也
 ヤイラ:川本昭彦
 キクリ:福永吉洋
 アラカオ:平野亙
 クスコ:笠原竜司
 鹿の清令:藤森真貴
 アンサンブル:高原紳輔、斉藤健二、多根周作、坂元宏旬、鈴鹿貴規、赤木山 伍里蔵、田仲孝史
 佐藤翔、赤川千尋、松誠、山田英真

 芸術家は、唯一無二の表現法を持つと強いですね。楽器でもダンスでも「あ、○○さんならではの表現だ」というもの。謝珠栄はダンス。幕開きのナンバーであっという間に観客を謝珠栄ワールドへいざないます。彼女のダンスはテクニックとスピード、そして全員をわざと揃えず、バラバラに動かすことが特徴ではないかと思っているのですが、群像劇では、一人一人の意見の相違にもつながって、同時進行で様々な情報を提供してしまうという、ミュージカルならではの醍醐味が何とも魅力的。今回の出演者はいわゆるシアターダンスタイプの人ばかりでなく、どちらかという体育会系とでも言いましょうか「動きの美しさで魅せる」タイプではなく「運動能力と勢いで魅せる」というタイプが揃っていたせいか、非常に新鮮な味わい。女性がほとんど登場しないこともあって、非常に汗臭く、力強い集団で迫力がありました。歌は正直「……」ですが、その粗削りな感じが逆に役にフィット。朗々と美声で歌われちゃこの作品には合いませぬ。
 さて、ストーリーはというと、平安時代の蝦夷討伐を通常の朝廷サイドからではなく、征服される蝦夷側からの視点で描いたのがユニーク。そういえば、宝塚でも「飛鳥夕映え」で中臣鎌足ではなく蘇我鞍作を主人公に据えたら、善悪が逆になって「面白れ〜」という作品がありましたっけ。
 良く、歴史で「勝ったものが善」と言われますが、結局のところ、どちらに転んだところで、殺し合いは醜い事項がいかに多いかを思い知らされるんですね。今回も、通常はヒーロー扱いの朝廷サイドが悪役になるわけで、とてもドキドキ。それでいて、ストーリー上で無理がないんですから「歴史好きの人ってこういうのが醍醐味なのかなぁ」と歴史に弱い者はノックアウトされるわけです。でもって、幕切れも今回の主役、安倍高麿が勝利を収めるのではなく、めった刺しにされて死んでいくのが新鮮。主役が無駄死にですよ。でも、これには伏線があって、 謎の若者=坂上田村麻呂に成敗された蝦夷の王アテルイの化身とが、最初は対立とまではいかなくても、方向性が別に一致なんてしていなかったのに、やがて蝦夷の現実を学んだ安倍高麿とアテルイとの思考が一致し、最後の戦いではいつの間にかユニゾンになって踊ることで、言葉ほど重くなく、それでいて受け継がれている歴史の現場となって「面白れ〜〜〜」と。そんな戦いの最中、ちょこっと避難を一緒にしただけの安倍高麿と鈴鹿御前の間に子供が生まれているのには「!」ですが、その子に、さらには孫の孫の未来に希望を託すあたり、何とも爽やかな幕切れです。彼らの苦しみと犠牲の上に日本が成り立ったのね、という感謝の念や、正義とは何ぞやという思いなどなど、あれこれ考えさせられる舞台でした。
 安倍高麿:坂元健児は主役扱いですが、安倍高麿を通じて観客も蝦夷征伐の実態を眺めるという作り。こんな場合、主人公に思いを同調できるかどうかで、劇への集中度が変わってきますが、坂元健児は「主役で〜い」と大きく構えることなく、レポーターのノリで、自然体に疑問を挟み、怪しい人たちに翻弄されるので、観客としてはとってもありがたい存在。場面によっては「軽すぎるんちゃう?」ではあったけれど、この軽さに助けられました。彼の歌は音重視で、音色だとか情感はあまり入らないタイプだと僕は思っているのですが、逆に解釈を押しつけられず、観客に丸投げしてしまうあたり、役と役者との素敵なフィット感を楽しみました。
 アケシ(鈴鹿御前):神田沙也加は紅一点だし、結構舞台上にいることは多いのですが、存在感負けしていて「あれ、そういえば居たの?」なことが多々。最近、舞台が続いていて、安心して観聴き出来るのですが、主役の座を狙うにはあと一押しの存在感が欲しいところ。
 この二人以外は結構歌謡曲的な歌い方で、粗削りが魅力ではあるけれど、迫力はなかったんです。でも、それを補うのが謝珠栄振付のダンス。ダンスというより、曲芸に近いスキルが求められます。戦いの場面なんて、敵の兵士をバーベルのように頭上に持ち上げて、なんとそのまま放り投げたりだとか、呼吸が合わなければ絶対大けがするに違いないと思える取っ組み合いにジャンプの連続。日本のミュージカル男優というと、華奢で繊細なダンスを踊る人が多いけれど、欧米の舞台並にマッチョな俳優が揃うと、居並ぶだけで「闘う男たち」の説得力があります。オタケ:平澤智だけ小柄で華奢だけれど、彼は技術力でカバー。他の男たちが刀で闘う中、剃刀で闘っているかのような鋭さでした。短期公演なのがもったいない、素晴らしい仕上がりの舞台にノックアウトされました。
 それにしても、この物語、時代や国を移動させても全く問題ないんです。日本ではなく、韓国や中国、ヨーロッパの諸国統一、はたまたアメリカ政府とインディアンの話にしても良いんですから、いかに普遍的な話であることか! 実は、ちょうど上演中の「ベルサイユのばら〜外伝〜」に似てるなぁ、と観ておりました。未来に希望を託した幕切れはお約束とはいえ、後味が何とも心地良いです。


2008年12月07日(日)17:30-20:45
東宝「ラ・カージュ・オ・フォール」@日生劇場

 B席 3150円 2階-K列-41番 (パンフレット:1500円)

 演出:山田和也

 ジョルジュ:(岡田眞澄→岡田眞澄→細川俊之/岡田眞澄→岡田眞澄→)鹿賀丈史
 ザザことアルバン:(近藤正臣→近藤正臣→市村正親→市村正親→)市村正親
 アンヌ: (遥くらら→毬谷友子→床嶋佳子→床嶋佳子→)島谷ひとみ
 ジャン・ミッシェル:(金田賢一→川崎麻世→川崎麻世→西川忠志→)山崎育三郎
 ジャックリーヌ:(秋川リサ→上月晃→草笛光子→沢たまき→)香寿たつき
 ダンドン議員:(上條恒彦→上條恒彦→加藤武→加藤武→)今井清隆
 ダンドン夫人:(森公美子→森公美子→森公美子→森公美子→)森公美子
 ジャコブ:(蟇目亮→蟇目亮→真矢武→福田よしはる→)花井京乃助
 ルノー:(友竹正則→友竹正則→安西正弘→前沢ゼン一→)林アキラ
 ルノー夫人:(山吹まゆみ→山吹まゆみ→冨田恵子→冨田恵子→)園山晴子
 フランシス:(水木誠一→野垣真実生→野垣真実生→野垣真実生→)日比野啓一
 (1985年公演→1986年公演→1993年12月青山劇場公演→1997年青山劇場公演→)2008年日生劇場公演

 今回はツアーを前提とした再演出ということで、確かにパンフで確認するまでもなく、ところどころ装置が変わっていたりするのですが、ゴージャス感が損なわれることなく、ほとんど違和感なし。ただ、ラ・カージュ・オ・フォールのダンサーは全員男性になっていました(今までは二人ほど女性が加わることにより「誰が本物の女性?」という楽しみがありました)。ここ最近、重いテーマのミュージカルが多く、また、宝塚のショーも能天気に明るいというタイプがご無沙汰状態なので、久し振りにやさしい色の洪水で、パリっな香りのレビュー場面に思わず心ときめき♪ 一ナンバーの中での色の変化、フォーメーションの変化、装置の変化と、今なお新鮮。曲良し、ストーリー良しで、大好きな世界です。同じゲイ物でありながら「RENT」はシリアスな面を中心に、「ラ・カージュ・オ・フォール」は明るい面ばかり取り上げたあたり、時代を感じますが、やはりAIDSの存在って大きいですね。
 市村ザザは11年ぶりの登場だけれど、老いを扱う役柄だけに、今回の方がフィット。前回も素晴らしいと思ったけれど、老いの悲しみや、息子や家族への愛情の深さをヒシヒシと感じました。キャリアを重ねた人だからこそ醸し出せる安心感や深さに満ちてます。今回でザザ役はLASTとのことですが、まだ出来ると思うんですけどね。
 鹿賀ジョルジュは大らかさがウリだった今までのジョルジュとは異なり、ちょっと皮肉屋で口の悪い、おかまチックな役作り。うん、これはアリでしょ。癖のある歌い方も、鼻歌的なナンバーの多いこの役では気にならず、市村アルバンとは、同時代を生き抜いた俳優同士の絆が、夫婦の絆っぽく見えて、これまた素敵なカップリング。鹿賀&市村コンビのベストだと思います。
 脇はちょっと落ちちゃったかな。アンヌ:島谷ひとみは何でキャスティングされちゃったの?なお方。クルクル回って登場するだけがウリの小娘役なのに、とにかく動けない。踊れない、というレベルではなく動けないんですもの。舞台の上でガッチガチ。かといって、新人でもないので初々しさは乏しいし……なんで!?!? ダンドン夫人:森公美子はバナナ・ダイエットのやりすぎかどうか、声を失ってます。無理やり声を押し出している、まさかの不調。で、ダイエットはしても、まだまだフィナーレのダルマ衣装は笑えます、ボインです。あれっ、どこが痩せたんでしょう? ダンドン議員:今井清隆は年齢的にも恰幅的にも、森公美子と素敵な並び。威張ってるけれど最後に大どんでん返し(って、千秋楽を迎えたから書いちゃうけれど、女装するんです)は、タナボタ企画での強烈な女装&ビッグ・スペンダーを見ちゃっているので、すんなり納得です。ったく、岡幸二郎めっwww


2008年12月08日(月)19:00-21:10
ワレリー・ゲルギエフ&ロンドン交響楽団@東京文化会館

   C席 8500円(都民劇場会員価格) 3階-L3列-7番 (パンフレット:無料/1000円)

 指揮:ワレリー・ゲルギエフ
 管弦楽:ロンドン交響楽団
 ピアノ:アレクセイ・ヴォロディン

 ラフマニノフ : ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 op.30
(アンコール)
 チャイコフスキー:「眠れる森の美女」より「アダージョ」
(休憩)
 プロコフィエフ : バレエ 「ロメオとジュリエット」 op.64から
   モンタギュー家とキャピュレット家(第2組曲第1曲)
   少女ジュリエット(第2組曲第2曲)
   僧ローレンス(第2組曲第3曲)
   メヌエット(第1組曲第4曲)
   仮面(第1組曲第5曲)
   ロメオとジュリエット(第1組曲第6曲)
   タイボルトの死(第1組曲第7曲)
   別れの前のロメオとジュリエット(第2組曲第5曲)
   アンティーユ列島の娘たちの踊り(第2組曲第6曲)
   ジュリエットの墓の前のロメオ(第2組曲第7曲)
(アンコール)
 プロコフィエフ:「3つのオレンジへの恋」より「マーチ」

 いきなり一曲目から大曲。オケの序奏なんてあってないように始まるラフマニノフのコンチェルト。数あるピアノ・コンチェルトの中でも最難曲と呼ばれるのがこの第3番。超絶技巧の連発です。今回のピアノ・ソロはアレクセイ・ヴォロディン。シャープに鋭くバリバリ弾き進みます。もの凄いテクニック。オケがどんなに鳴っても、その響を突き抜けるほど、思いのままにピアノを響かせるのが圧巻。とはいえ、色気に乏しいので僕の好みでじゃなかったのですが、アンコールの「眠れる森の美女」では、打って変わってファンタジーの世界。あぁ、あえて曲作りとして無機質だったのね、と納得。となると……もう一度聴きたい!!! ま、好みはともあれ、凄いピアノだったのは確かで、拍手がやまず、何回舞台に呼び出されたことでしょう。堂々たる演奏と裏腹に、柔らかな微笑みを浮かべつつ、つんのめりそうになって、まるで袴履いてのスリ足状態で登場するので、何度も呼び出したくなっちゃうんですよね。
 休憩を挟んだ後半はプロコの「ロメジュリ」。ロンドン交響楽団は金管が素晴らしく、中でもホルンが自信たっぷりにppからffまで自由自在に吹きまくるのが何とも快感。名プレイヤーがいるオケはあれども、セクション全体が名手揃いってのは凄いことです。さっすが「スター・ウォーズ」のオーケストラ。それでいて、アメリカのオケのように吠えまくるのとは違うのがこのオケならでは。上品です。「ロメジュリ」は透明で硬質な響きと、素朴で温かな響きの対比が面白い曲なのですが、バレエ公演で聴き慣れている踊りに合わせた演奏と、指揮者の思いのままに味付けられた演奏とでは受ける印象がかなり変わってきます。甘〜くリリカルにではなく、ドライに直線的に攻めの姿勢の演奏にグイグイ引っ張られました。ゲルギーのエネルギーに酔いしれる2時間でした。満足♪


2008年12月09日(火)19:05-21:00
歌舞伎座百二十年 十二月大歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒」@歌舞伎座

 一幕見席 1000円 4階-2列-12番

 佐野次郎左衛門:幸四郎
 八ツ橋:福助
 繁山栄之丞:染五郎
 七越:高麗蔵
 兵庫屋初菊:児太郎
 絹商人丹兵衛:錦吾
 遣手お辰:鐵之助
 釣鐘権八:市蔵
 下男治六:段四郎
 九重:東蔵
 立花屋女房おきつ:魁春
 立花屋長兵衛:彦三郎

 師走の歌舞伎座。一日の締めくくりはこの作品。「知らない作品だから観に行こう!」という気楽な気持ちで一幕見席。歌舞伎座は来年で建替えとなりますが、この制度、どうなるんでしょうね。寒いは大雨だわで、きっとギリギリでも大丈夫、と思いきや、開演30分前だというのに一幕見席の看板やベンチは片付けられちゃってるし、四階席入口には人けがないし、ちょっと焦ってしまいました。ちょっと早めにロビーまで入れてくれてたみたいです。歌舞伎座のおじさんって、結構観客気分でサービスしてくれるところが好き♪
 さて、幸四郎視線でこの物語をさらってみると「田舎者のオイラは吉原で花魁の八ッ橋に一目ぼれ。せっせと吉原に通ってようやく身請けにまで持って行ったんだけど、最後の最後に振られちまった。とりあえず、人目もあるし“醜男のオイラが降られても仕方ね〜な”と引き下がった振りをしたものの、四ヶ月後に“また最初からやり直そうぜ”と近づき、刀でバッサリよ」なお話。ただでさえ物騒な師走の作品として、あまりにこの三面記事なお芝居。劇場に夢とゴージャスを求める僕としては、幸四郎が恋に落ちる花魁の道中はアイーダの凱旋の場のような、トゥーランドットの登場のシーンのように「おぉ♪」だったんだけど、だんだん雲行きが怪しくなっていって、八ッ橋は八ッ橋で本命と腐れ縁の狭間であれこれ悩むんですけど、場面ごとにドロドロになっていく人間関係が何とも歌舞伎チック。顔はアバタだけれど、結構爽やかキャラだった幸四郎が、最後の場面でいきなり悪役に豹変し、無理やり酒を飲まそうとするわ、八ッ橋の着物の裾をふんづけて「逃がさないぜ」と迫るわ、床の間の刀を手にしたら助走付きでエイヤッとジャンピング切り込みをしちゃうわ、最後には刀をウットリ見入って幕。いやぁ、ホラーです。華やかな序幕から大詰のホラーへの変化が見ものでした。
 それにしても、堪えに堪えていた幸四郎さん(セリフがどことなくドン・キホーテなのはご愛嬌)が最後の3分だけ全てのエネルギーを爆発させる見せ場、迫力がありました。


2008年12月10日(火)18:30-20:20
東邦音楽大学管弦楽団「第149回 定期研究発表演奏会」@文京シビックホール

 全席自由 無料 1階-25列-10番 (パンフレット:無料)

 指揮:末廣誠
 管弦楽:東邦音楽大学管弦楽団
 合唱:東邦音楽大学合唱団

 ソプラノ:鈴木慶江
 アルト:石井藍
 テノール:大槻孝志
 バス:佐藤泰弘

 ブラームス:大学祝典序曲 作品80
(休憩)
 ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調「合唱付」作品125

 昨夜、お風呂に入りながらなぜだか第九を歌い出し「第九が聴きたい〜」という発作のもと、本日のコンサートを調べたら、時期的なものもありましてすぐに見つかりました。シビックホールだと丸の内線ですぐ到着だから便利便利。東邦大学管弦楽団や、桐朋学園オーケストラは聴いたことがあるけれど、東邦音楽大学は初めて。新しい物好きなものでして、いそいそとコンサート会場へ。昨今、アマチュアでも結構な料金をとるコンサートが多い中、プロの独唱付きで全席無料、全席自由という太っ腹。程良く席が埋まり、そして大学オケならではの応援団的聴衆も多く、なかなか良い雰囲気。
 「芸大だから偉いってわけじゃないけれど、でも、芸大って凄いのよ」というのは誰の言葉か忘れちゃいましたが、確かに近所ゆえに聴き慣れている「芸大って凄いんだな」と思ったのが今回の発見。学生オケといえどもレベルが段違い。東邦音大のみなさんゴメンナサイ。でも、舞台上の自信度が違うんです。そして、たぶん、今日の合唱団はエキストラが多いのではないかと。男声は聞こえず、女声は音痴(高音のピッチがこんなに狂う合唱団も珍しい。。。)で、歌い出しは参りました。でも、技術の危うさが、必死の熱演になるのですから、アマチュアってオモロイですね。音大というレッテルを外し、学生オケのコンサートと割り切ると、粗削りな勢いがあって、なかなか素敵なコンサートでした。


2008年12月13日(土)14:00-17:35
新国立劇場「モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ」@新国立劇場

 C席 6300円 3階-R1列-3番 (パンフレット:1000円)

 演出:グリシャ・アサガロフ
 指揮:コンスタンティン・トリンクス
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 ドン・ジョヴァンニ:ルチオ・ガッロ
 騎士長:長谷川顯
 レポレッロ:アンドレア・コンチェッティ
 ドンナ・アンナ:エレーナ・モシュク
 ドン・オッターヴィオ:ホアン・ホセ・ロペラ
 ドンナ・エルヴィーラ:アガ・ミコライ
 マゼット:久保和範
 ツェルリーナ:高橋薫子

 今までのプロダクションも好評だったし、あえて新演出にすることないじゃん、と、摩訶不思議な「トゥーランドット」を観た者としてはヒヤヒヤしながら劇場に足を運んだのですが、意外にすんなり。新国の舞台の奥行きを活かした回廊の両サイドのドアからちょっとした装置が出入りするというシンプルなつくり。衣装は黒と白をベースにしたモノトーン。ドン・ジョヴァンニが紫のシャツで色っぽく、ドンナ・エルヴィーラが深紅のドレスで情熱的なのが目を惹きます。喪中のドンナ・アンナは黒一色、新婚のツェルリーナは白をベース(この手の衣装、高橋薫子が何とも似合いますね。オペラ歌手の中でこの手の衣装を愛らしく着こなす術にかけては1・2を争う方ではないでしょうか)。まずは舞台空間の深い使い方、統一された衣装の美しさ、コスプレに徹した主役陣の所作に見とれる美しい舞台です。
 ジョヴァンニ:ガッロの冷たいまでのシャープな歌唱、レポレッロ:コンチェッティのコメディ場面でも崩さない立派な歌唱は品格を感じますね。座長って感じで好きです。ドンナ・アンナ:モシュクは「椿姫」のときと違って、安定した歌唱で、心の移ろいを丁寧に。でも、この役、結局のところ身勝手で我儘で「下げマン女」としか思えないんですよね。ドン・オッターヴィオなんて振り回されてばかりで不幸になりそうだし。彼女からドン・ジョヴァンニが逃げるのもわかります。関わり合いたくない女性。ま、手を出しちゃったドン・ジョヴァンニがいけないんですけど。エルヴィーラ:ミコライは固くて声が伸びず、カスカスと響くのが苦手で、第一幕は聞かせどころが決まらずパッとしなかったけれど、第二幕になって別人のように好調。ほんのちょっとの休憩を挟むだけでここまで変わってしまうんですから、いかにプレッシャーの中で公演しているかを感じますね。ツェルリーナは悪女なつくり。マゼットをイライラさせて愛情を感じるという、困ったちゃん。
 地獄落ちは予想通り、セリ下がり。新国の演出で毎回思うのですが、セリの速度ノロすぎ。芸劇や青山劇場みたいに、スピーディーに舞台が落ちると迫力が出ますが、まるでスローモーション映像を見ているかのようなノロノロだと、せっかくの舞台機構も効果半減。大がかりなだけで不器用な印象が強いのがもったいない。。。
 とにもかくにも、ドン・ジョヴァンニはひたすら悪の道を驀進し、女たちは粘着質の困ったチャンとして登場。ストーリーとしてはわかりやすいんだけれど、見ていてかなりのエネルギーを吸収され、疲れる作りです。でも、カーテンコールでいきなりアメリカンなオヤジさんに戻ってしまうルチオ・ガッロ。劇中での化けっぷりに舌を巻きました。

2008年12月18日(木)11:00-14:30
コマ・スタジアム「愛と青春の宝塚」@新宿コマ劇場

 B席 3000円 30列-13番 (パンフレット:2000円)

 原作・脚本・原詞:大石 静
 演出:鈴木裕美
 作曲:三木たかし

 嶺野白雪 (リュータン):紫吹淳
 橘伊吹 (タッチー):貴城けい
 星風鈴子 (トモ):大鳥れい
 紅花ほのか (ベニ):紫城るい
 影山航:石井一孝
 速水悠介:本間憲一
 オサム: 佐藤アツヒロ

 新宿コマ劇場最終ミュージカルとして登場したのが「愛と青春の宝塚」で、2002年にフジテレビで放映されたドラマの舞台化なのですが、通常、ドラマを舞台化するとピンボケになったり、ダイジェストになったりで物足りないことがほとんどの中、実に良くまとめられていて、舞台作品として独立しての魅力に溢れていたのがなんとも嬉しい。そして、脚本:大石静&演出:鈴木裕美のコンビが宝塚への敬意と愛情を持ちつつ、宝塚ドップリでない分、冷静に劇団描写を行っているのがなんとも心地良い舞台でした。
 主要キャストからは、テレビ版で米倉涼子が演じたエリ役と、ユースケ・サンタマリアが演じた辻清志役はバッサリとカット。このあたり、時間的問題からしかたないのですが、カットされたことが気にならない刈り込みのうまさは、ドラマ版と舞台版を同じメンバーが作ったからというのも大きいかもしれない。そして、宝塚歌劇団OGを多用したため、レビューシーンが実に見事。コマ劇場公演とはいえ、今後のツアーも考えてか、上手・中央・下手に三分割された10段程度の階段が前後に動くだけで、舞台機構を使いまくるわけでなく、舞台前面の狭いスペースだけを使用した公演ながら、大劇場が、大階段が、銀橋が目に浮かぶのがおみごと。内部演出家だと「宝塚大劇場とは舞台機構が違うので、ぜひ本拠の大劇場や東宝劇場に足をおはこびください」となるであろう部分も、なまじ歌劇団に関係のないスタッフのせいか、前方が丸くなったワゴンを工夫して銀橋効果に見せたり、パレードの際の下級生役のマスゲームで人数の少なさを逆に生かした見せ場をこしらえたりと、ぜひとも宝塚歌劇団にも取り入れていただきたい手法もあれこれ登場。そして、ナイアガラ付きの大羽根を背負うトップや、シャンシャン持ってのパレードの自然なこと、手慣れたことはさすがOGたち。スターが堂々としているので安心です。
 現役生も含めて「タカラジェンヌは子役をさせるとなぜか張り切る!」と思っているのですが、今回のメンバーも喜々として音楽学校受験生(となるとミドル・エイジのティーン=実年齢の1/2〜1/3!?!?)を演じるのですが、ちゃんと少女に見えるのですから大したもんです。雪組配属後のすき焼きのエピソード、代役騒動など、トップまで極めた面々も初々しく演じてます。
 紫吹淳はあいかわらずの脚線美。足のラインの美しさだけでなく、足さばきの鋭さは歴代ジェンヌの中でも1・2を争うと思うのですが、女優転向後、久し振りに見せてくれるおみ足と、マント捌き・上着捌きは思わずオペラグラスの美しさ。そして、娘としての声と組長・トップとしての声、男役の声を自由自在に使い分けるので、リュータンの立場、感情がヒシヒシと伝わるあたり「あぁ舞台の人なんだなぁ」と納得。
 現役時代は綺麗に澄ましているけれど、ちょっと面白味がなかった貴城けいは、いつの間にやら一皮むけ、芝居の感情がリアルに表現され、癖の強かった歌やセリフもかなり変化。もともと女性っぽい人なので、男役とはいえ、女性としての感情表現が求められるタッチー役にぴったり。それでいて、ショー場面になるときっちり男役の型を踏まえて華やかに変貌するのですから、トップ経験者の面目躍起。……ということをさっぴいても、彼女のベスト・ステージではないかと。
 その貴城けいと、二幕最後の廃墟で歌い踊るシーンでコンビとなるのが、宙組時代の相手役・紫城るい。宝塚OGの集いはチームワークこそ良いけれど、コンビを組んでた人たちが醸し出せる雰囲気はこれまた格別です。(そんな意味で、紫吹淳・彩輝なお・映美くららが揃う回でも観てみたかった!)。満州から日本に引き揚げる船の甲板でベニが船酔いしたタッチーを介抱する姿も実にしっくり。たった半年しか組んでないコンビなのに不思議なもんですね。
 本来は男役スターが演じても良さそうなのが大鳥れいが演じたトモ役。歌にタップに大活躍。満州の慰問公演の際の兵隊さんとのキスシーン〜不治の病の告白〜息を引き取るまでの流れは実に計算され、ドラマティックに盛り上げ、思わず涙・涙。
 主要四役については、現役時代の華やかさの再現と同時に、退団後の芸の深まりが感じられて、実に頼もしい限り。宝塚OG公演というと、鳳蘭が中心となるベルばら四強たぬきチーム、峰さを理・高汐巴が中心となるショー中心チームが頻繁に公演していますが、現役生公演と拮抗できる勢いとルックスを兼ね備えた今回のチームは、なかなか見ごたえがあります。それどころか、現役の最近の公演のふがいなさを感じたりもしています。ファンが何を求めていて、それにどう答えれば良いのか。僕が心配しなくても、劇団はあれこれ考えているでしょうが、外部スタッフを積極的に取り入れるというのも効果的かもしれませんね。
 さて、今回は別にOG公演ではないので男優も出演しています。影山航:石井一孝は身長があるので男役スターと並んでも負けない大きさがあるのと、強い声を生かした歌のパワーが魅力的。そして、治少年を演じた佐藤アツヒロが実に自然に少年だったのが素晴らしい! 学生服が実に似合うのと、メガネをちょこっといじったりする細かな動きが男の子。失礼ながら歌が不自由で発声がなっちゃいないところが「歌い出したらスペシャリストな大人じゃん」な違和感なしで、今回の役についてはgoo!! なまじ上手いとタカラジェンヌ役の面目立たなくなっちゃうし。


2008年12月18日(木)19:30-21:50
音楽座「マドモアゼル・モーツァルト」@東京芸術劇場中ホール

 S席 9870円(会員料金) 1階-B列-13番 (パンフレット:無料)

 演出:ワームホールプロジェクト

 サリエリ:広田勇二
 モーツァルト:野菜々
 コンスタンツェ:安彦佳津美
 シカネーダー:吉田朋弘
 カテリーナ:秋本みな子
 フランツ:山崎義也
 ケルビーノ:大川麻里江
 スザンナ:宮崎祥子
 フィガロ(従者):渡辺修也
 ドン・ジョバンニ:安中淳也
 石像:佐藤伸行
 レポレッロ:徳原宇泰
 ツェルリーナ:富永友紀
 グリエルモ:萩原弘雄
 フェランド:山口博之
 フィオルデリージ:堀川亜矢
 ドラベッラ:野田久美子
 夜の女王:野口綾乃
 タミーノ:兼崎ひろみ
 パパゲーナ:片山千穂
 ダーメ:伊沢絵里子
 レオポルト:新木啓介
 アンナ:浜崎真美
 ナンネル:清田和美
 コンスタンツェの母:新木りえ
 ダ・ポンテ:藤田将範

 土井裕子を筆頭に、音大出身キャストを中心に上演してきた「マドモアゼル・モーツァルト」(テアトル・フォンテで主演したフルフルは声楽科ではないけれど)ですが、モーツァルトとコンスタンツェが新人、それもミュージカルとしての歌唱訓練を受けてきた面々による上演とあって、観る側も今までの上演を忘れて臨む必要があります。プロローグでの「いま〜〜〜〜〜〜」だけで観客をグイッと劇中に引きずり込んだのはオペラティックな土井裕子の歌唱力あってのものだと再認識。モーツァルト役に限らず、現在の音楽座は(ちょっと書きにくいのだけれど)歌える人が少ないのが何とも苦しく、モーツァルトのクラシカルな音楽と、小室哲也の(今となるとちょっと時代を感じる)POPな音楽との対比が浮かび上がらないのが痛いです。歌詞も聞き取れなかったし。
 でも、それがゆえに、新人公演感覚で観ると、なかなか初々しくて楽しいです。モーツァルトとコンスタンツェに関しては「NHKの朝ドラ見てるみたい」な気分。愛らしい表情で「技術は愛嬌でカバー」してるのですが、新人ならではの舞台でのキラキラ感が何とも魅力的。初めての役者さんは、どんな芝居を繰り出すのか見当がつきませんし、アプローチも今までにないもこれって劇団の思うがまま!? とはいうものの、どの場面もどのナンバーも全力投球で「一生懸命やってます」なので、この手の芝居が好きな人にはたまらない公演でしょう。僕は新人もベテランも芸は芸として観たいので、イッパイイッパイの芸は…ごめんなさい、苦手です。
 「マドモアゼル・モーツァルト」音楽座のレパートリーの中では「大好きな作品」と思っていたのですが、新キャストで観ると、僕の場合は歌唱に酔っていたんだな、というのを発見。そして、必然的に芝居をメインに押し進める舞台となったのですが、何とも難しい作品だな、ということも再発見。思えば、前・音楽座の最盛期に、ベストキャストを組んで生み出した作品ですもの、現在の過渡期感のある音楽座での上演となると「頑張ってるね」が前面に出てきます。出演者の方には申し訳ないけれど、スタンディングやブラボーを飛ばしたりは……やらせっぽくて白けました。この作品を観て泣けなかったのは今回が初めて。
 モーツァルト:野菜々はアニメの男の子のようなぶっきら棒な声と台詞回しで新しいモーツァルト像を作り出してくれました。口を三角形にして突っ張るあたり可愛い。ボーイッシュな子で、色気はないけれど、清潔感のある爽やかな女優さん。
 本来比べちゃいけないんでしょうが、横山さんの「マドモアゼル・モーツァルト」は修ちゃんの「モーツァルト!」と色々比べてしまうんです。音楽座のサリエリは東宝では義兄としてやはりモーツァルトをいじめてるし、セシリア・ウェーバーはどちらも太め&パワフルなので「実物もそうだったか?」と思わずクスッ。そういえば、今回の公演では男優ではなく新木りえが演じてましたが、はて、男優も演じてましたよね。シカネーダは音楽座も東宝も吉野君のイメージが強く(他キャストは…印象に残ってないんです。それだけ吉野シカネーダが強烈!)と、役者の異動も含めて面白いのですが、ついでに書いちゃいますと、シェーファーの「アマデウス」、クンツェ&リーヴァイの「モーツァルト!」、音楽座の「マドモアゼル・モーツァルト」は、「外伝 ベルサイユのばら」三部作ではないけれど、ヴァージョンによって登場人物もフォーカスをあてられる人物も異なり、それでいて、全部見ると「!」となることも多いので、松竹・東宝・音楽座が日比谷に集結して、同時上演してくれたら面白いんだけどなぁ、なんて思ってます。2006年5月、モーツァルト・イヤーとして、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンが国際フォーラムで音楽祭をしていた時「帝劇はレミゼじゃなくてモーツァルト!を上演すべきでしょう」と思ったものですが、こちらの三部作(と勝手に名付けちゃうけれど)については、ぜひ実現してもらいたいもんです。その頃には音楽座にもスター役者(現在は順番で主役を与えている印象)、中でも歌えるスターが生まれていると嬉しいです。
 余談ですが、今回の石像:佐藤伸行は格好といいポーズといい、登場した途端に大ウケ。今にも「天使の歌は喜び〜♪」と歌い出しそうでした。一瞬パロディ?と思ったけれど、いえいえ、あれは「モーツァルト!」ではなく「エリベートザ」でした。そして、第二幕でのモーツァルトが女性に戻った場面で「エリザベート・モーツァルトですっ!」とウィーン・ミュージカル最強の二人の名前を名乗るあたり、勝手に喜んでます。


2008年12月20日(土)16:00-19:05
コマ・スタジアム「愛と青春の宝塚」@新宿コマ劇場

 B席 3000円 30列-13番 (パンフレット:2000円)

 原作・脚本・原詞:大石 静
 演出:鈴木裕美
 作曲:三木たかし

 嶺野白雪 (リュータン):湖月わたる
 橘伊吹 (タッチー):彩輝なお
 星風鈴子 (トモ):星奈優里
 紅花ほのか (ベニ):映美くらら
 影山航:石井一孝
 速水悠介:本間憲一
 オサム: 佐藤アツヒロ

 一昨日と演目は同じながらキャストはガラリと変わります。今日は星組出身者が揃ったヴァージョン。予想通り、お歌は不自由な方(声域が狭い方が多い!?)が揃いましたが、そこは一時代を築いたトップさんたち、別の魅力で場面を盛り上げます。大らかな芝居で「技術ではなくスターとして魅せる上手さ」はさすが星組。とにかく格好良く見せてナンボな方々です。今回はWキャストによる芝居ですが、同じものを作ろう、という空気は全くなく「私の個性で行きますわよ」な潔さが心地よく、見比べるのが楽しいです。見比べといっても、売りが全然違う人たちなので、それぞれの魅力を楽しむだけなので観客も気楽なもんです。
 紫吹リュータンはマリリン・モンローばりのキュートな女の子が瞬時にドスをきかせたオッサンになる面白さで笑わせてもらいましたが、湖月リュータンは格好良い男役が垣間見せる女性らしらで笑わせてくれます。同じ役、同じキャラクターなのにまったく正反対からの役作り。そして、同じダンス巧者でありながら、見せ所が違うのですから、スターのあり方をあれこれ感じさせられる競演でした。それにしても、モンペで歌い踊る場面であっても、何て華やかなんでしょう。何しろ、足が長〜〜〜いので、モンペもオシャレに見えてくるのですから大したものです。どんな衣装でも格好良く着こなしてこそスター!!
 一方、大鳥トモは歌で、星奈トモはダンスで勝負という売りが全然違うスターたち。二人とも娘役専門でしたが、劇中では男役→娘役へ転向する役。面白いことに、二人とも、男役場面で張り切る、張り切る。宝塚のショーの中で、娘役が男役を演じることはたまにありますが、あくまであちらは余興。本気モードでの男役は、台詞のキレもあいまって、居並ぶ男役出身者の誰よりも男前。代役稽古で、男役から娘役に転向する場面でのあでやかな娘への変貌ぶりが鮮やかでした。
 タッチーは力演の貴城けいと、力の抜けた彩輝なお。計算した芝居の面白さと、雰囲気で魅せる芝居と、これまた対照的なお二人。たまたまなのか、あえて違いを狙ったのかわかりませんが、今回2パターンしか観られなかったのが悔やまれるWキャストです。彩輝なおはかなり女性色が強く、男役場面でも現役時代程作り込んでないのですが、女性場面で何とも言えぬ色っぽさを振りまくのがこの人ならではの妖しさ。
 映美ベニはあて書きかと思えるほどピッタリ。現役時代を含めて、彼女のベスト・ロールではないでしょうか。元気はつらつな少女ぶりから、スターを持ちあげてヨイショしても嫌味にならないし、ハイテンションな芝居も小柄さもあってか愛らしいことこの上なし。紫城るいとは個性が違うので、笑いを提供する箇所が違うので、二度目の観劇にもかかわらず、新鮮な空気を感じました。
 それにしても、劇場の最終公演を演歌歌手の座長公演で締めくくるのではなく、宝塚OG公演による、宝塚歌劇への、ショービジネスへの情熱と賛歌で締めくくるあたり、何とも粋な企画ではありませんか。作品と出演者、客入りと全てが良い方向に影響しあい、幸せな、幸せな空間でした。5分待たされたあげくに5分しかない特別ショーも、劇場へのオマージュとして小洒落た計らい。衣装や人数は過去のゴージャスな舞台写真に比べると「稽古写真!?」ではありますが、それでもデコレーションケーキ型に三重のまわり舞台がせり上がると思わず拍手の満足感でいっぱい。


2008年12月23日(火・祝)19:00-21:45
新国立劇場バレエ団「シンデレラ」@新国立劇場オペラ劇場

 C席 4200円 3階-L6列-2番 (パンフレット:1000円)
 指揮:デヴィッド・ガルフォース
 管弦楽:東京フィルハーモニニー交響楽団

 シンデレラ:さいとう美帆(アリーナ・コジョカルの代役のラリーサ・レジニナのそのまた代役)
 王子:ヨハン・コボー
 義理の姉たち:マシモ・アクリ、井口裕之
 仙女:川村真樹
 父親:石井四郎
 春の精:小野絢子
 夏の精:西川貴子
 秋の精:遠藤睦子
 冬の精:寺島ひろみ
 道化:八幡顕光
 ナポレオン:伊藤隆仁
 ウェリントン:貝川鐵夫
 王子の友人:陳秀介、富川祐樹、江本拓、中村誠

 シンデレラ役が代役のそのまた代役になるという波乱に満ちた公演。でも「SHOW MUST GO ON」でして、裏方の騒動はともかくとして、表向きは涼しい顔して公演できちゃうあたり、新国バレエ団の成長ぶりが感じられるではありませんか。そして、バレエって優雅さが強調されますが、オリンピック競技のように、危険と隣り合わせなんだなということを実感。さて、今回の代役は新国立劇場バレエ団のさいとう美帆。大柄なダンサーが好きな僕としては、あまりチョイスしないキャストなだけに、新鮮な出会いが楽しいひと時です。
 とはいえ、今回も主役はアグリー・シスターズ。気の強いお姉ちゃん:マシモ・アクリと、気の弱いお姉ちゃん:井口裕之が今回も大暴走。継母ってたいがい強いけれど、継父って弱いですね。お姉ちゃんたちに押されちゃって、実の娘のシンデレラが「舞踏会に私も行きたいの!」とせがんでも「まぁまぁ、あ、お姉ちゃんが呼んでる〜」と逃げちゃうんですもの。そして、お姉ちゃんたちには、言われるがままにドレスや洋服を用意し、ダンスの家庭教師も呼んじゃうんですもんね。
 でもって、仙女が登場して、四季の精たちがシンデレラを宮殿へといざなう流れ、宮殿での道化〜ナポレオン〜ウェリントンがパーティを盛り上げるくだりは、手慣れた流れ。アシュトンの振り付けってかなり細かくて、ステップやフォーメーションが複雑なので、初演のころは「一生懸命」感があったけれど、隔年上演、そして持ち役制度により、すっかり手慣れたもの。踊りながら余裕があるんです。高度なのに余裕綽綽っぽく見えるのって何とも粋で大好きですね(余裕綽綽じゃないのは、今回の代役の代役騒動から創造できますが)。
 シンデレラは代役だったけれど、王子は本役のままヨハン・コボー。この手のキャラクター・ピースが活躍する作品では、王子のようなノーブルな役は見せ方が難しいものですが、登場するだけでパーっと雰囲気が変わるのはさっすがロイヤルのプリンシパル。長身で手足が長いので、動きに遊びがあって、何ともたおやか。雰囲気で魅せる役を雰囲気で魅せてくれるってなかなか貴重。ただ、即席の組み合わせとあって、シンデレラと王子の身長のバランスは微妙。だって、大人と子供に見えちゃって、ちょっといけないストーリーになっちゃうんですものっ。ぎゃっ。
 話は飛びますけれど、プロコの音楽って尻切れトンボが多いですよね。作曲していながら「この場面はもうおしまい。あ、次の場面が気になってきた!」と思ったかどうかは存じませんが、盛り上がりかけて終わっちゃうとか、いきなり曲がぶった切られたり。流れるように場面が変化する作品だから良いんだけれど、良いのか?プロコ?? ま、心地よいけれど、とっさに覚えられない不思議なメロディ・和音進行についていけない〜となるあたりで終わってくれるので「助かった〜」でもあるんですけど。


2008年12月29日(月)19:00-21:50
東宝「RENT」@シアタークリエ

 A席 11000円 22列-15番 (パンフレット:1600円)
 演出:(マイケル・グライフ→)エリカ・シュミット

 マーク:(山本耕史→山本耕史→)森山未來
 ロジャー:(宇都宮隆/渡辺忠士→宇都宮隆→)K
 ミミ:(浜口司→TSUKASA→)DEM
 コリンズ:(石原慎一→石原慎一→)米倉利紀
 エンジェル:(KOHJIRO→藤重政孝→)辛源
 ジョアンヌ:(坪倉唯子→浦島りん→)Shiho
 モーリーン:(森川美穂→La Pearl→)Mizrock
 ベニー:(KONTA→泉見洋平→)白川侑二朗
 アンサンブル:
  安崎求、Eliana、Junear、彼方リキト、中村桃花
  戸室政勝、YOKO、高良舞子、田村雄一
( )は→(1998年赤坂ブリッツ・東京芸術劇場公演→1999年日本青年館・東京芸術劇場公演)

 前回は二日目あたりの観劇、今日は前楽の観劇。二か月の間に良くなったのか、Wキャストの今日みたメンバーが良かったのかはわかりませんが。とにかくおても良くなってました。やたらと大音量で歌詞が不明瞭だった音響はかなり改善され、歌詞がきちんと聞き取れるようになっていたこと、舞台上の動きにかなり慣れが見られるようになったので、安心して芝居に入り込むことができます。そして、歌唱もかなりこなれてきただけに、訳詞の難しさを強く感じました。ラップ部分、急にリズムが崩れ客席でずっこけてしまうんです。前回の観劇の際は、歌い手の歌唱力故と思っていたけれど、今回、歌詞がかなりこなれて歌えば歌うほどに、無理やり感が際立つとは何とも皮肉です(ちなみに、歴代、最も音と言葉が合わないのが「ラ・マンチャの男」の「見果てぬ夢」だと思ってます。上演の度に「なんとかならないのぉ?」と)。
 今回に限らず、「RENT」には知らない出演者たちだらけなのですが、それでも、瞬時にしてキャリアやスター性がわかってしまうのが怖いところ。客席の乗せ方、自分の魅せ方が実におみごとです。中でも特筆モノはコリンズ:米倉利紀。音域が低いので、彼の得意な中音域・高音域の聴かせどころが少ないのですが、そんなハンデの中、ちゃんと曲構成を築きあげ、盛り上げどころをキッチリ作ったのがぶらぁぼ。ご自身の持ち味の使い方、活かし方を心得ているのがプロの仕事っぷりで、歌手ならでは。発声の自然さ、音色の作り分けなど、僕好みです。非常に音楽的な方。そして、相手役にとっても優しいんです。常にエスコートするし、相手の動きを必ずキャッチ。エンジェル:辛源も、自己顕示よりも、相手に寄り添うタイプなだけに、この二人が主役と言い切ってしまうような濃厚な空気を醸し出してました。素晴らしいです。辛源は長身と小顔が映えて実にゴージャスなドラッグクイーン。米倉利紀よりも長身なのを隠すことなく、大柄なのに可愛らしいという素敵なエンジェル。彼は学生として今回が初舞台とのことですが、実にストレートに(って、ゲイの役ですが)役になりきってますね。あれこれ経験を積んだ役者の計算された巧さとは別の味わい。今、彼でこの役を見られたことが嬉しい!
 一方、歌手として、自分の場面は素晴らしかったけれど、相手役への愛が感じられなかったのがロジャー:K。歌は素晴らしいです。聴き惚れました。でも、ミミ:DEMを全然相手にしないんです。目も合わせなければ、エスコートもせず。コリンズ&エンジェルのカップルが、暗転の際も、カーテンコールの際も「コンビ」として成立していたのに対し、実によそよそしい二人。本来「RENT」はストレートのカップル・GAYのカップル・レズのカップルが対等なトライアングルを築くのが魅力なのですが、その一角があっけなく崩れてしまった感じ。よって、個人の場面はすっごく良いのに、その場面が終わると、舞台上から存在感がなくなってしまうんです。ミミもロジャーも「いたの?」なことが多々。本来、この二人が主役なのに、存在感が薄いのが致命傷。愛し合っているのに突っ張りあっている姿が浮きたてばまた違ったんでしょうけど。
 さて、レズのカップルですが、モーリーン:Mizrockが誰よりもオリジナル。今までのどのモーリーンとも違うし、観客をノリノリにさせるエネルギーが圧巻。モーリーンのライブ場面、今までは「頑張った!」とか「あぁ、白けちゃった↓」とか好き放題言ってますが、今回はほんの数分のMizrockワールドで客席を支配。求心力といい、テンション・コントロールがこれまたスター性を感じますね。一人で劇場の空気を動かせる素晴らしさ。そんなわけで、ジョアンヌ:Shihoがさんざん振り回されて、イライラさせられても、結局のところその魅力に屈してしまう(マークが振られた後も彼女の便利屋になっちゃうのも納得!)
 残念ながらあまり進化がなかったのがベニー:白川侑二朗。本来、ボヘミアン三組に一人で拮抗しうる超美味しい役なんです。「イーストウィックの魔女たち」における大浦みずきのような、小池作品(ごめんね、説明がマニアックで)における二番手すら凌駕する別格スター役のような。お金に魂を売ってしまったボヘミアンの挫折感と仲間たちへのコンプレックス、精神的にボッコボコにされて、挫折した男の哀愁漂うすっごくやりがいのある役なのですが……彼も存在感なし。今回の「RENT」がどうにも薄っぺらい印象を受けるのは、ベニーの存在感ってのもあるんじゃないかと思ってるんです。どうなんでしょうね。
 マーク:森山未來は汗の量が各段に減り、舞台への慣れを感じました。ダンスが悪目立ちしていたのも落着き、すんなり芝居に溶け込んだかと。ただ、彼はヴォイス・トレーニング不足がアリアリで、まず歌声が苦しい。そして、常に無表情なのが不気味。元々、目が細くて表情を出しにくい子なんですが、それでも、眉毛から顔を動かしたりしてハンデを克服している共演者もいるので、彼にも出来ないはずはないっ! ストーリーテラーとして、も少し表情豊かだと僕は嬉しい。
 異業種共演の舞台となると、それぞれの良さと課題が見えてきますね。歌手はいかに自分の歌として演奏するかの巧さがある反面、歌以外の場面での空気作りが期待されますし、役者は、歌手の面々がラクラクと声を飛ばしている中、そりゃ専門じゃないので厳しい要求ではありますが、無理に押し出している声がなんとかならないことかと。再三言ってますが、日本のミュージカルって歌の訓練を重ねてない役者が務められるあたり、まだ層の薄さを感じるんです。そして、この発声の苦しさは、歌だけでなく、キーとなる一言が流れてしまって客席にインパクトを与えられないのが今後の課題かと。でも、両者が対立するのではなく、互いの魅せ方を尊重しあっていて、何とも幸せな余韻が残りました。
 今回の演出が、今回のプロダクションがベストかというと微妙なところですが、「RENT」は楽曲の魅力、テーマの多彩さ、年末にピッタリなストーリー(クリスマス〜クリスマスの一年の話なので限定しなくて良いのですが)もあって、毎年この時期に上演してほしいなぁ、と思ってます。独り身で観ても、誰か大切な人と観ても、素敵な作品だと思うんですよね。ぜひぜひっ!!!