観劇日記〜2009年06月〜
02日(火) 18:30 来日カンパニー「hairspray」初日 東京厚生年金会館
03日(水) 18:30 東宝「ミー&マイガール」初日 帝国劇場
06日(土) 18:00 アインクライネスOPオーケストラ「第2回定期演奏会」 きゅりあん 大ホール
07日(日) 14:00 新国立劇場「ロッシーニ:チェネレントラ」 新国立劇場オペラパレス
09日(火) 19:00 音楽座Rカンパニー「シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ」 赤坂ACTシアター
10日(水) 19:00 音楽座Rカンパニー「シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ」 赤坂ACTシアター
13日(土) 15:00 藤原歌劇団「ドニゼッティ:愛の妙薬」 東京文化会館
14日(日) 14:00 新国立劇場「ロッシーニ:チェネレントラ」 新国立劇場オペラパレス
15日(月) 19:00 古川展生/三宅進/山本裕康/渡邉辰紀
「Cello Repubblica〜チェロ弾き達のオーケストラ〜」
HAKUJU HALL
23日(火) 18:30 宝塚歌劇団宙組「薔薇の降る雨」「AMOUR それは…」 東京宝塚劇場
24日(水) 19:00 アントニーノ・シラグーザ「テノール・リサイタル」 東京オペラシティ コンサートホール
27日(土) 17:00 アミューズ「EVIL DEAD〜死霊のはらわた〜」 サンシャイン劇場
28日(日) 18:30 新国立劇場バレエ団「ローラン・プティの コッペリア(ロホ×カレーニョ)」 新国立劇場オペラパレス
30日(火) 19:00 新国立劇場バレエ団「ローラン・プティの コッペリア(本島×江本)」 新国立劇場オペラパレス


2009年06月02日(火)19:00-21:30
来日カンパニー「hairspray」初日@東京厚生年金会館

 A席 10000円 2階-7列-35番 (パンフレット:2000円)

 演出:JACK O'BRIEN

 Tracy:BROOKLYNN PULVER
 Amber Von Tussle:ERIN SULLIVAN
 Link Larkin:MATTHEW RAGAS
 Edna Turnbland:JERRY O'BOYLE
 Penny Pingleton:AMBER REES
 Wilbur Turnbland:DREW DAVIDSON
 Seaweed J. Stubbs:JOHN EDWARDS

 ミュージカル・コメディの王道ここにありな作品。二年ぶりの再来日公演ですが、会場がオーチャードホールから厚生年金会館へ。60年代のお話なので、ピカピカのオーチャードホールよりも、古めかしい厚生年金会館の方がこの作品にはフィットする気がします。どことなく、古き良きレビュー小屋みたいな雰囲気があるでしょ、厚生年金って。

 出演者はというと、エドナ&トレイシー母娘は前回の来日公演と同じメンバー。とはいえ、前回僕が観た時のエドナは代役さんだったので、結局のところ、トレイシーだけ同じ人。同じ作品、同じ終演者でも共演者が違うと、アンサンブルの妙であちこち見ごたえがあって何度見ても飽きませぬ。キャスト変更によって、味わいが微妙に変わるのが舞台の楽しみの一つですもの。

 元々映画作品ですし、ミュージカル版も映画化されているので、ストーリーはすっかりお馴染み。どのエピソードもどこかで見たかのような、そして、どの登場人物も結構ステレオタイプ。演出とて、とりたてて目新しいことはしていません。が、落語じゃないけれど、予定調和の安心感、芸達者な人が見せるテクニック、体育会系のノリの良さで、ひそかに「この作品は日本版ではなく、来日公演じゃなくっちゃ」と思っています。

 再来日のせいか、このご時世のせいか、かなり動員は苦戦しているようで、二階席は見事にガラガラ。ロビーではリピーターチケットとしてS席を5000円で販売しているし。こうなったら、日本も早くハーフプライスチケット制度を導入してほしい。。。当日券が半額だったら席が選べなくてもかなり嬉しいし。で、客席がさびしくて、公演が白けているかというと、そんなことはなく、むしろノリノリ。初日ということもあってか、招待芸能人も多く、観客は場面ごとに、笑って叫んで拍手してまるでここはNY!! おかげで出演者もリラックス&元気いっぱい。カーテンコールでは一同楽しく主題歌を歌い踊って(人が少ないので大きく動けて楽しかった〜)楽しく幕。みなさま、今回の公演、かなり良いですので、行こうかどうか迷われている方は是非劇場まで足をお運びくださいませ。

 すでに何度も観ている作品なので、予定調和を楽しむばかりですが、期待を裏切ることなく、きっちりレベルを保っているのはアッパレ。

 トレイシーはメタボな上に、時代劇のカツラのごとくガッチガチ&巨大なヘアスタイルなので、そのシルエットは遊園地の気ぐるみキャラクター。この人、相変わらず歌は通るし、ダンスは短い手足がパッツンパッツンで可愛いし、やたらとポジティブだし、とっても素敵。

 W主演と言える、トレイシーのママ:エドナは巨体の男優による女装役にもかかわらず、あまりに自然に役にはまってて、キワモノ感は皆無。逆に、娘のためなら100人力になれる母親の大きさ、強さ、愛情表現として、女優さんじゃ出せないであろう味があります。もちろん、ド派手な衣装に身を包み「私だって主役よ〜」とシャウトしちゃうあたり、場内一同大笑い&拍手喝さいになるので、ステレオタイプの役が多いこの作品の中で、役者としては一番面白い役かと思います。

 さて、トレイシーの相手役ともいえるリンクは、いわゆる甘い二枚目でオツムがやや弱いタイプ。でも、最近の作品ならではと思えるんだけれど、フワフワしたままではなく、トレイシーと出会うことにより、自分の進むべき道を選択し、恋も仕事もちゃんと決断できるってキャラクター設定なこと。

 で、お約束のように登場する恋敵のアンバーはスタイルの良い美人さん。が、ヒステリックでお笑い担当で、しっかりミュージカルの定番キャラを押さえてます。このキャラも現代的で、最後のどんでん返しの後「きぃぃ、悔しい〜」と舞台を去るのではなく、敗北を認めるシーンがあるのが後味の良さにつながっています。アンバーを取り囲む女の子たちはいかにもアンサンブルで、60年代の歌謡番組のバックコーラス(日本だと70年代でしょうか)の張り付いたような、そして満面の笑顔でひたすら爽やかな少年・少女に徹しているのが、ストレートプレイだと不気味だけれど、ミュージカルとしては、パロディになって、時に60年代へのオマージュとなって、思わずクスクスしちゃいます。

 ……以上4人がメインキャストですが、トレイシーの親友のベニーは保守的なママの監視に言いなりになっていたのが、トレイシーとともに行動しているうちに自我に目覚め、ある一瞬を境に、セクシー&イケイケ姉ちゃんに変貌してしまうのが、ミュージカルでありがちな場面ですが、やはり楽しい見どころ。前半のオドオド感じと、後半のバリバリした強さのギャップ激しさが魅力。

 そんなベニーの母親が卒倒しそうなのが、黒人でありながらベニーと恋に落ちてしまうシーウィード。この作品、全編を包み込むハッピーオーラで楽しく観ちゃうけれど、実は偏見と差別だらけなんですよね。黒人差別に虐げられ、決してハッピーではないけれど、決してくさることなくダンスに打ち込み、トレイシーと打ち解け、ベニーを気遣うなんとも素敵な青年。

 シーウィードのママ・メイベルは音楽面での白眉。彼女を中心に歌い上げるブラック・ミュージックはショーストップ、涙ちょちょ切れ物のド迫力にもかかわらず「こんなの普通よ」とばかりに涼しい顔をしてるのがなんとも小憎らしい。

 あ、忘れちゃいけない、母親といえば、アンバーのママ・ヴェルマが絵に描いたようなビッチな女で、エドナいわく「いけすかない」ヤツなんだけれど、散々嫌がらせをするわ、憎まれ口をきくわで、威張っていたにも関わらず、クライマックスではギャフンといわされちゃうのもお約束。

 トレイシーのパパ・ウィルバーは、夢と霞の世界に生きているような人だけれど、いざという時にはアイデアもお金も妻と娘のために放りだしちゃう頼れる人という、ミュージカルの中では目立たないキャラだけど、濃いメンバーの中で、穏やかなポジションを保守してくれる人がいると、作品に深みが加わりますね。

 ということで、キャラクター物のキャストという立場をしっかりわきまえたキャストたち。あるべき姿をあるべき姿で表現しうるのは、そのレベルの高さ。人種の違いといえばそれまでですが、どの音域でも気持ち良く響き、ソロでは輝かしく、コーラスではハーモニーとして聴かせる歌唱力については、まだまだ日本国内プロダクションは足もとにも及びませぬ。ホワイトの音楽はまだしも、ブラック・ミュージックに関しては「いい、この手の曲はこう歌うのよ」な響きに惚れ惚れ。力強く、しなやかで、緩急自在な歌声に「こんなに歌えたら気持ち良いだろうな」とうらやましくなるばかり。アップテンポの曲も、衰えることなく、パワフルに歌い上げられちゃうので、観ているこちらのアドレナリンも上昇しっぱなし。おまけにダンスはスタイルの良さといい、これまた柳の枝のように鋭くしなやかな足さばき、一部キャストはマシュマロのような柔らかさにもかかわらずゴムのように弾力タップリ。出演したい人が役者をしているのではなく、役者をすべき人が役者をしているという、プロフェッショナルぶりに脱帽です。何しろ、チョイ役のハズのソウルシスターズの歌でさえ大喝さいものなんですから!



2009年06月03日(水)18:30-21:30
東宝「ミー&マイガール」初日@帝国劇場

 S席 12500円 2階-C列-37番 (パンフレット:1500円)
 演出:山田和也

  ビル・スニブソン サリー・スミス ジャッキー マリア公爵夫人 ジョン・トレメイン卿 ジェラルド パーチェスター
2003年 唐沢寿明 木村佳乃 涼風真世 初風諄 村井国夫 本間憲一 武岡淳一
2006年 井上芳雄 笹本玲奈 純名りさ 涼風真世 村井国夫 本間憲一 武岡淳一
2009年 井上芳雄 笹本玲奈 貴城けい 涼風真世 草刈正雄 本間憲一 武岡淳一

 由緒あるイギリス貴族の話のはずなのに、貴族も下町っ子も品位の差がなく、揃って下品。今や貴族制度の崩壊した日本にあって、この手の階級物の取り扱いはかなり難しいことと思いますが、それだけに、貴族役の面々には品位を求めます! 貴族(を演じる)には義務があるのですっ! 各役があるべき姿でないと、主題が浮かび上がってきません。

 もっとも、これは演出もひどいというのがあるんです。コメディとドタバタがごっちゃ混ぜになっていて、知性で笑わせる部分も、勢いだけで突っ走ってしまうので、観ていて一つも面白くないんですもの。そもそも、コメディの笑いって、観客を突き放すようでいて、分かる人には分かって(ま、みんなに分かるにこしたことはありませんが)ドッと笑いが起こるものですが、いちいちネタを紹介し「さ、ここは笑うところですよ」と指示されても、マジックのタネを披露されてるようなもの。サリーに貴婦人修業を持ちかける場面だって、通りの名前と「前にやったことがあるんだ」の台詞だけで「あ、マイ・フェア・レディか」と分かるから面白いのであって、いちいち他作品の登場人物を説明したりしなくて良いのではないかと。別にこのジョークが分からなくても困らない作品ですし。何もかも説明しようとすると、テンポが重くなって弾みませぬ。この説明過多は一貫していて、開演前ロビーではオーケストラの楽器紹介が行われて、さながら「春休み、親子コンサート」のノリ。開演の際には「これがチューニングです」って、いつから帝劇は観賞教室になっちゃったんでしょう?

 そんな演出に合わせてか、振付も、貴族も下町っ子も区別なし。プロダクションの比較ってのも下品な行為ですが、昨夜の「ヘアスプレー」では、白人社会と黒人社会とで、振付も言葉も芝居も全然違って、説明せずとも階級差というのがクッキリしていたけれど、今日の帝劇はそれが感じられませぬ。超リッチな貴族の衣装が意外と地味だったり、貧乏な下町野郎たちの衣装がいかにも良さ気な生地でピッカピカ(メイクもピッカピカ)だったり。とにかく「階級差」「貧富の差」を極力オブラートに包んだ演出。では、それに勝る何を主題に持ってきたかが見えず、なんともひっかかりのない平坦な仕上がり。

 キャストは続演組が多く、おおむね予想通りの出来。ビル:井上芳雄は相変わらずコメディセンスがなく、芝居が一本調子(いっぱいいっぱい!?)なので、笑いのツボをはずしまくり。二枚目〜三枚目を行ったり来たりするのがいかに難しいか。東宝のプリンスとして大切に扱われていますが、ちょっと伸び悩みの時期なのかも。台本なのかアドリブなのかわかりませんが、作品の時代背景を無視した「若者言葉の多用」や「醤油さし」など突拍子もない単語が飛び交うのには呆れてしまいます。コメディとお笑いは違うんだけどなぁ。。。

 そんな彼をフォローするには、なんとも脇が弱いカンパニーで、ジェラルド:本間憲一とパーチェスター:武岡淳一は東宝初演からなぜか続投。はまり役なわけでなく、歌も芝居もひどいのに、なぜキャスティングされちゃうんでしょう!?!? テクニックのない人があれこれ小手先で役をいじくるのは、観ていてツライです。個人的な意見ですが、ミュージカルに出演する役者は、ある水準のテクニックは必須だと思うんです。味で魅せるとか、表現したい心で、なんていうのは努力しない人の言い訳。どんなに感性の高い人であっても、テクニックがなければピアニストに、バレエダンサーになれないのと同じ。ジャンルこそ違っても、その世界の中で「プロ」と「素人」の差は歴然としてるはず。時に「素人」同然のスターを起用するのであれば、それをフォローすべき配役を行って、カンパニー全体のレベルをアップしないことには、観客をなめているとしか思えないんですよね。ミュージカル公演では、ブーイングがほとんどないのに救われてる!?!?

 ジャッキー:貴城けいはいかにも宝塚男役出身。喉に何か詰まっているかのようなイガイガした歌い回しと、ザラザラした声質は、外部で娘役を演じるにはかなり調整が必要な状態。喉は強い人だと思うので、ミュージカル歌唱法を今のうちに学んでおくと、今後の配役に響くと思うんだけどな。宝塚の娘役っぽく、か細い声でブリっ子されると、リアルに男女が演じる舞台では……浮きます。マリア:涼風真世はそんなか細いソプラノに基準を定めたせいか、声の力感が失われたまま。一旦、低いトーンを追及した声は、もう女声の通常の音域には戻れないものなんでしょうかね??? お二人とも、男役時代はしっかり通る声で歌い上げていただけに、声量ある男優との共演の時こそ、その素質を開花させてほしいのに、なしてどんどん音圧も声量もなくしちゃうんでしょう。

 と、辛口・暴言吐きまくりになってしまいましたが、いかんせん、昨夜のミュージカルと同料金(どちらも割引チケット5000円で購入)、似たような席、おまけに初日を観たにも関わらず、幸せ度が段違い。観劇日の設定を間違えました。。。客層もかなり違って、今日は作品というより、個々の役者のファンが集まったのか、どんな歌や芝居でも拍手喝さい。ま、観るからには楽しまなくちゃ損ですからね。

 そして、どんなに文句タラタラのプロダクション/カンパニーであっても、最後の追い込みで帳消し。ビルが財産を投げ打ってサリーを追いかける→サリーはビルを思って身を隠す→ランベス・バレエ→ビルとマリアの魂の通い合い→サリーの登場に「この野郎、てめえ、いったい今まで、どこへ失せてやがった!!(東宝版はちょっと違ったかな)」とビルが絶叫の流れがなんとも良く出来てますよね。縦の関係が横の関係になり、対立していた者たちが理解し合い、カーテンコールは三組の結婚式。タップリの愛情に幸せ気分になります。ホントは一緒に歌いたかったんだけど、20年前から馴染んでいる(そして今なお上演されている)宝塚版の歌詞じゃないと歌えない〜〜〜www 東宝ミュージカルもDVD発売してくれないかなぁ。



2009年06月06日(土)18:00-19:55
アインクライネスOPオーケストラ「第2回定期演奏会」@きゅりあん大ホール

 全席自由 1000円 C列-28番/B列-19番 (パンフレット:無料)

 指揮:河地良智

 メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」Op.26
 チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
(休憩)
 ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調Op.68「田園」
(アンコール)
 マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より「間奏曲」

 開演ベルが鳴り、舞台にオーケストラの面々が登場。が、みなさん顔面硬直。「あ、ものすごく緊張している」というのが客席にビンビンと伝わってきて、こちらまで息を飲んでしまいます。休憩前の二曲はまとめよう、まとめようという意識が強いみたいで、固いまま終了。休憩後になってようやくほぐれてきた感じで、表情が柔らかに。そして、アンコールでようやく音が艶やか。とってもアマチュアらしい、初々しいコンサートでした。舞台上が楽しみだす頃にはコンサート終了というのが残念。きっと「もう一度頭から演奏したい〜」と思っていることでしょう。打ち上げは美味しいお酒を飲んでるかな?



2009年06月07日(日)14:00-17:15
新国立劇場「ロッシーニ:チェネレントラ」@新国立劇場オペラパレス

 C席 7350円 3階-4列-52番 (パンフレット:1000円)

 演出:ジャン=ピエール・ポネル
 指揮:デイヴィッド・サイラス
 東京フィルハーモニー交響楽団

 ドン・ラミーロ:アントニーノ・シラグーザ
 ダンディーニ:ロベルト・デ・カンディア
 ドン・マニフィコ:ブルーノ・デ・シモーネ
 アンジェリーナ:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
 アリドーロ:ギュンター・グロイスベック
 クロリンダ:幸田浩子
 ティーズベ:清水華澄

 オーソドックスでありながら、抜群の美術センスとコメディ・センスでお洒落に笑いを提供してくれる、ポネルのプロダクション、大好きなんです。今回はイラストのような、モノトーンの書割り装置がまるで絵本から抜け出てきたみたいで、とても美しいプロダクション。ソリストだけでなく、コーラスの面々に至るまで、細かな芝居をしていて、すでにポネルが亡くなってかなりになりますが、丁寧に演出が保管されているのが嬉しい♪

 オペラ版のチェネレントラは、灰かぶり娘が美しく変身して舞踏会に繰り出して、王子のハートを射止める話ではなく、本当の愛を得るために、従者のダンディーニと衣装を交換して、身分ではなく王子に恋する人を捜し求める、というどちらかというと王子が主役のお話。とりかえばや物語としてのコメディが何とも楽しく、お馴染みロッシーニ・クレッシェンドがわくわく感を高めます。

 お飾りとしての王子様ではなく、身分よりも愛情という、なかなか革新的思想をお持ちの王子様=ドン・ラミーロのシラグーザが当たり役。昨年も来日公演で演じた役ですが、澄ましていると二枚目が決まるのに、表情を崩すと途端に庶民的ニコニコ・フェイスに変わっちゃうという、なんともお得な方ですね。あ、この作品だと逆パターンか。従者としてコメディ・リリーフに徹していた(表情が豊かなので、西洋人って得)のが、いざ「シンデレラを探しにいくぞ〜〜〜っ」と従者の衣装を脱ぎ棄て、ハイC連発のアリアを見事に決めると、その格好よさに会場内大喝さい。身長ありません、舞台を降りるとキューピーちゃんです。でも、舞台上だとヒーローです。もうね、この場面を観るが為にチケットを購入したようなもんですもの。そして、王子の衣装に着替えて登場すれば「ザ・主役」としてキラキラ。「遠山の金さん」「暴れん坊将軍」「水戸黄門」どれでも良いけれど、悪役(って程でもないけど)に対して、クライマックスで「ひかえおろ〜〜〜っ」となる快感。芝居達者な人だけに、この瞬間が最高!

 ダンディーニ:ロベルト・デ・カンディアとドン・マニフィコ:ブルーノ・デ・シモーネは、数年前の藤原歌劇団公演の時と同じキャスト。持ち役なんでしょうね。もう余裕綽々。従者だけれど、王子として振る舞える快感に浸りつつも、女性が身分に惚れるのか、内面に惚れるのかちゃんとわきまえている堅実なダンディーニ、そして、人間の欲望の塊で、いついかなる時でも、私利私欲の計算高いドン・マニフィコ。向かっている方向は逆ですが、どちらも人間らしさ全開で、この二人が居並ぶことによって、いかにこの作品が豊かになっていることか!! 王子を挟む、この二人のバランスが絶妙で、男性陣、絶好調です。

 クロリンダ:幸田浩子とティーズベ:清水華澄は、白鳥麗子&かきつばたあやめ的カップル。貧乏貴族だけれど、お嬢様はお嬢様。エベレストよりも高いプライドが絶品。偽給仕のドン・ラミーロをけちょんけちょんにけなす場面といい、パパにすら「王子様は私をご覧になって、ため息をつかれたのよ」「王子様は私をご覧になって、大笑いされたのよ」と、なんともおめでたい独断を自慢しあう始末。とりあえず、チェネレントラにごめんなさいして、ちんまり結婚式に参加してますが、そのうち、宮廷内で王子の悩みの種になりそう。。。でもって、個人的に、好きな役を選べるとしたら、この姉妹かな。できれば、より威張ってる姉がいいわ。

 さて、タイトルロールのアンジェリーナ:ヴェッセリーナ・カサロヴァですが、個人的にミス・キャスト。暗いわ、地味だわ、華がないわで、せっかく「あの美女は誰!?」と家族にすらビックリされちゃう程の返信をして宮殿に乗り込むというのに、その場面が盛り上がらないんですもの。おまけに、声がシラグーザよりも太くて重くて、オカマちゃんもしくは、宝塚の男役が演じているようなチェネレントラ。。。とにかく、姫じゃないんです。そして、ロッシーニならではの転がるような早いパッセージの切れが悪く、モタモタとテンポも落ちるので、ゴージャス&華やかが好きな僕としては期待外れ。もっとも、今や大御所扱いのカサロヴァなので、カサロヴァ節として開き直れば、男声なみに迫力のはる歌声はこれはこれで立派なんですけどね。



2009年06月09日(火)19:00-22:00
音楽座Rカンパニー「シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ」@赤坂ACTシアター

 S席 9870円 1階-R列-24番 (パンフレット:無料)

 演出:ワームホールプロジェクト

 折口佳代:野菜々
 ピア:浜崎真美
 オリー:野口綾乃
 春江:秋本みな子
 和子:野田久美子
 お静:新木りえ
 清水:井田安寿
 寺尾:安彦佳津美
 里美:宮崎祥子
 梅:清田和美
 菊:堀川亜矢
 藤:富永友紀
 黒鍵:片山千穂
 黒鍵:大川麻里江
 黒鍵:上坂琴乃
 白鍵:辻本真由美
 白鍵:伊沢絵里子
 白鍵:兼崎ひろみ
 白鍵:冨永波奈

 三浦悠介:安中淳也
 テムキ:新木啓介
 ミラ:藤田将範
 ゼス・早瀬:広田勇二
 マスター:佐藤伸行
 久保:五十嵐進
 白鍵:萩原弘雄
 白鍵:渡辺修也
 白鍵:徳原宇泰
 白鍵:松本翔
 白鍵:山本真広
 白鍵:川島啓介
 小野源兵衛:石山輝夫

 天下の宝刀が登場です。宝塚なら「ベルサイユのばら」、劇団式なら「CATS」そして、音楽座なら「シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ」とくれば、泣く子も黙る代表作。20年間の間に、初代・三浦悠介はマスターとなり、「レミゼ」におけるマリウス→テナルディエじゃないけれど、時間の流れを感じます。劇中で、お佳代が悠あんと再会するまで10年の時が流れていますが、この作品を見続けて早20年……嫌やわぁ。

 何が嫌って、70年代のファッションや風俗については何とも思わないんだけれど、80年代って妙に恥ずかしいんですもの。ちょうどバブル真っ盛りの時期で、原色で大き目の上着にダボダボのパンツ。ポロシャツの裾はパンツにin。男女ともに肩パットしっかり入れてでいかつい肩で、ウエストだけはキュッと絞ってさながらチューリップみたい。女性の前髪はバッチリあげて、化粧は真っ白。……書き出していて、思春期の自分を見返しているようで気恥ずかしくあります。照れ照れ。今回の再演では、より時代色を出すためか、よりケッタイなスーツが登場してますますドキドキ。

 でもね、居心地良いんです。そりゃ、野暮ったいです、垢ぬけていません。開演からしばらくはお尻がムズムズしちゃいますが、開き直りの境地に達すると、ツボに入りまくりの展開にドップリ。多感な時期に触れた作品は、なにげにパワーがあります。

 折口佳代:野菜々が絶品で、クラシカル色の強い「マドモアゼル・モーツァルト」の時には気になった歌唱も、この作品にはピッタリで、心地良く聴き惚れました。新人女優として背伸びしているのと、背伸びして生きている佳代というキャラクターがリンクして、実に説得力がありました。不幸続きな彼女の生涯を通じて、平凡な生活が輝きを帯びてくるあたり、とっても魅力的。動揺する心の表現が巧みで、既に何度も観ている作品なのにドキドキ。とはいえ、幕あきからしばらくはスケールの小ささからか、アンサンブルに埋もれてしまうので、今後も主役として場数を踏んで、ぜひともスターになってほしいもんです。(実はこの役、湖月わたるが演じたら、結構面白いと思うんですよね。初々しさが売りの野菜々とは対照的に可愛い中からスター性がにじみ出るあたりとか、啖呵のりりしさとか、結構似合うと思いません?)

 三浦悠介:安中淳也はどこにでもいそうな一青年としての存在がフィットしてはいますが、個人的に苦手な役者なんです。歌は音域が狭く、声量もないので「音楽座」と名乗っている劇団の中ではなんとも心もとなく、かといってダンスのキレが良いわけでもないので、終始だらしなく見えちゃう。でも、でも、今回の役に関しては、それもありかな、というキャラクターなので、いつもほどはイライラすることなく、お佳代じゃないけれど「頼りない人」にはフィット。(この役については、井上芳雄がどんぴしゃりだと思うんですよね。キャラクターも歌唱力も)。でもまあ、数々の作品で主演級の役を演じ続けている中、初々しさを保っているあたり、稀有の存在なのかもしれません。役の与えられかたは佐藤伸行路線ですが、芸風の異なる人なので、役に新たな光があたるのが面白いところ。

 今回のベスト・パフォーマーはばあちゃんトリオの三人。以前はじいちゃん一人によるUFO目撃情報だったのが、今回はパワーアップ。若いアナウンサーの手には負えない女性パワーがさく裂! 梅:清田和美、菊:堀川亜、藤:富永友紀。実際はうら若い女優さんにもかかわらず、腰は曲がり、O脚の湾曲具合、緩急メチャクチャ方言爆発の台詞回し、おばちゃんならではの仲間うち限定のチームワークの良さなどなど、どこからこんなばあちゃんたちを連れてきたの!?な絶品ぶり。カーテン・コールになっても、わざとらしくない、リアルなよぼよぼぶりを死守していて、爆笑もの。素晴らしかった!!

 そして、この作品のコメディ・リリーフを引っ張る宇宙人トリオも、劇団内の芸達者なベテランが揃い、胡散臭さ、一瞬にして場をさらうムード作りに舌を巻きます。地球の文化に馴染もうとしておこるドタバタは、マイ・フェア・レディにおけるイライザ、ミー&マイガールにおけるビルじゃないけれど、本人たちが真面目であればある程観客は楽しい。そういえば、彼らの衣装もぶっ飛んでていて、80年代宝塚レビューの宇宙の場面に登場するようなテカテカ&ピカピカ衣装、ぽっくり靴にメタリックなメイクと、その凝りように大笑い。終演後、ロビーで間近で見たら、思わず後ずさりしちゃいそうな恐ろしさ。俳優が凝りまくっちゃうような役、楽しいですわ。



2009年06月10日(水)19:00-22:00
音楽座Rカンパニー「シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ」@赤坂ACTシアター

 S席 9870円 1階-T列-3番 (パンフレット:無料)

 演出:ワームホールプロジェクト

 折口佳代:野菜々
 ピア:浜崎真美
 オリー:野口綾乃
 春江:秋本みな子
 和子:野田久美子
 お静:新木りえ
 清水:井田安寿
 寺尾:安彦佳津美
 里美:宮崎祥子
 梅:清田和美
 菊:堀川亜矢
 藤:富永友紀
 黒鍵:片山千穂
 黒鍵:大川麻里江
 黒鍵:上坂琴乃
 白鍵:辻本真由美
 白鍵:伊沢絵里子
 白鍵:兼崎ひろみ
 白鍵:冨永波奈

 三浦悠介:安中淳也
 テムキ:新木啓介
 ミラ:藤田将範
 ゼス・早瀬:広田勇二
 マスター:佐藤伸行
 久保:五十嵐進
 白鍵:萩原弘雄
 白鍵:渡辺修也
 白鍵:徳原宇泰
 白鍵:松本翔
 白鍵:山本真広
 白鍵:川島啓介
 小野源兵衛:石山輝夫

 一週間ぶっ続け観劇も可能なのですが、さすがに二回目をmy楽にすることに。連日の観劇だと、新たに見えてくる部分や、変化っぷりが見えてなかなか面白いんですよ。良く「同じ作品を何度も観るの?」なんて聞かれますが、同じ作品だからこそ何度も観たいってもんです。そんなこと言ってたら、クラシックなんて同じ作品ばかり取り上げられてるから、あっという間に閑古鳥が鳴いちゃいまっせ。

 今回上演の「シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ」は創成期の作品なだけに、新生音楽座として、安定期には至ってないはこれからというカンパニーにフィット。劇団員それぞれに見せ場があり、細かな芝居の融合させつつも、脇役が悪目立ちすることなく、全体のバランスが取れている事や、芝居のかけあい台詞の間や、重唱でのハーモニーにおける劇団ならではのアンサンブルなど、実に良くできた作品です。

 舞台装置はあまり大それたものは登場しませんが、宇宙場面での電飾で彩られた幕、幻想場面での半円形チューブの吊りもの、遊園地場面で活躍する筒状の塔などが、演奏にフィットしてまるでダンスの振りのように動くと、これぞミュージカル!な躍動感が生まれ、迫力満点。回り舞台やセリがなくても舞台装置だけでここまで主張ができるんだと、これまたクリエイティブの才能の脱帽。脚本だけでなく、キャスト・スタッフが一丸となって一つの作品を作り上げていく手作り感がなんとも暖かく感じられます。

 ま、正直、ストーリーはかなりぶっ飛んでいて、死人は生き返るわ、宇宙人は出てくるわ、目まぐるしく事件は連発するわで、多分、ストレートプレイだったら空中分解しかねないところですが、そこはミュージカル・マジック。耳に嬉しい旋律の数々で観客を酔わせてしまいます。ふふっ、酔っぱらわせてしまえばあとは思うがまま。お酒もミュージカルも似たようなもんです。なお、ミュージカル・ナンバーでの処理、修ちゃんは割と物語を曲の中で進行させる欧米型手法ですが、音楽座はその作品の特性ゆえか、その時の感情を膨らませる、オペラアリア的手法を取ります。「元気付けの歌」「愛情表現の歌」「友情の歌」「輪廻転生の歌」などなど、いかにも「盛り上げます!」「泣かせます!」という手法はあざとくはありますが、シンセサイザーならではの音量UPや、歌唱力のあるキャストの歌い上げで効果を出してしまうあたり、わかっちゃいるけれど、エイヤッとそれに乗ってしまうと快感。

 ただ、最後に観客を泣かせるには力不足だったみたい。6代目・折口佳代:野菜々は土井裕子以降、福島桂子、今津朋子、矢口容子、渋谷玲子と続いた、歴代佳代役者の中では歌唱力があるけれど、決めの台詞で力が抜けてしまうところや、いかにも土井裕子用というべきソプラノでクラシカルに歌い上げる場面では、その歌唱だけでショーストップには至らず。でも、やっぱり、彼女のお佳代は好きですわ。

 新人俳優の登竜門として、佐藤伸行にはじまり、本間仁、真矢武、畠中洋、清水博司、縄田晋、とこちらもなかなか豪華メンバーがリレーしている7代目・三浦悠介:安中淳也は、売りが今ひとつ感じられず、二日連続にして、歌・ダンスでちと拒絶反応。歌い上げるところで「ふざけてるの!?」な手抜きや音外しをされちゃうと、ちょっと…ね。ま、主役が一番歌えないという舞台は某歌劇団でも見かけるので、珍しくはないのですが、その場合はそれをカバーする何かが欲しいところ。

 そろそろ、新生音楽座も「みんなで頑張る」劇団から、プロとしての芸を見せる劇団へと脱皮する時期を迎えたような印象を受けました。どの劇団も同じ指向だと面白くないので、個性は個性で大切だけれど、仲良しグループのような、市民ミュージカルのような上演ではなく、プロフェッショナルとして、素人臭い(初々しいとは別ですよ、念のため)部分の強化が必要かと思われます。素朴さと、技術の共存……さてはて、今後の音楽座の変化が楽しみ。



2009年06月13日(土)15:00-17:40
藤原歌劇団「ドニゼッティ:愛の妙薬」@東京文化会館

 E席 3000円 5階-L1列-29番 (パンフレット:1200円)

 演出:マルコ・ガンディーニ
 指揮:園田隆一郎
 東京フィルハーモニー交響楽団

 アディーナ:川越塔子
 ネモリーノ:中鉢聡
 ベルコーレ:森口賢二
 ドゥルカマーラ:党主税
 ジャンネッタ:宮本彩音

 藤原歌劇団の十八番作品(今年は十八番公演が各団体で多いなぁ)の「愛の妙薬」が登場。確かに雰囲気良いし、キレイな曲ですが、刺激に乏しいという弱点があります。だって、ストーリーはというと(あ、私の解釈ね)

 アディーナにネモリーノはぞっこんなんだけれど、あまりに草食男子ゆえ、ただただ見つめるばかり。逆に、ベルコーレはアディーナと初対面にしてさっそくナンパしちゃう対照的なアモーレ男。ベルコーレとアディーナがうまくいきそうなのを見て、あわてたネモリーノは「雑誌の裏表紙に良くある、これを買うと恋愛運が急上昇」な「愛の妙薬」をよりにもよって、いかにも胡散臭いドゥルカマーラから入手。が、妙薬の効能は一日待たなければならないのに、アディーナとベルコーレの結婚はトントン拍子にすすんで「今日結婚しようよ」と! 「なんとかして〜」と慌てるネモリーノにドゥルカマーラは愛の妙薬の摂取倍増を提案。でも、すでにすっからかんなネモリーノは、契約金目当てに(よりにもよってベルコーレの)軍隊に入隊。そんなネモリーノの姿に、ようやく真実の愛に目覚めたアディーナはベルコーレを振って、ネモリーノと結婚することを決意。アディーナとネモリーノはラブラブに、元々プレイボーイのベルコーレは落ち込むことなく次の恋へ、そしてドゥルカマーラはネモリーノとアディーナをネタに、愛の妙薬を宣伝してボロ儲け。

 ……これ、のどかな農村の話だからほのぼのと見入っていたけれど、今回の演出では、現代のショッピングセンターが舞台。Dior→Drior、CLINIQUE→LUNIQUE、GUERLAIN→GRENENと有名ブランドがパロディになっているんです。高島屋みたいな紙袋も登場しますし、制服系の役はともかくとして、買い物客役の出演者については「衣装はみなさん自前ですか?」な普段着仕様。日本円やら携帯電話やらやたら飛び交うなかなか楽しく、そして結構リアルな舞台で、東京文化の大きなステージ上に「こんな規模のショッピングセンターってあるよねぇ」なリアルな(羽田空港の国際線ターミナルのショッピングセンター並み!)セットをこしらえてしまいました!!

 そんなわけで、登場人物もそれぞれ現代調にアダプト。仕事そっちのけでアディーナばかり思っているネモリーノは財布に小銭しか入ってない貧乏男子。アディーナは仕事半分で、雑誌を読んだりナンパ男の相手をしたり、いかにも腰かけ的店員。ドゥルカマーラは、特設セール(実演販売?)の販売員という、なかなか上手にスライドした構成。さすがに、ベルコーレの処理は難しく、なぜかショッピングセンター内に軍服の集団が現れるんですけど。誰もが仕事を放り出して、アモーレ優先なのは、演出家がアモールの国の方だから?と妙に納得。

 今回はアンサンブルが実にすばらしく、一人一人が実に細かい芝居をしています。Driorのスタッフはショーウィンドー内のマネキンの服がキレイに見えるよう細かく調整しているし、大学生らしき男の子は携帯メールで何を買うのか再確認しているし、カップルで来た女性は男性におねだりしているし、女性同士の買い出し友達、これ見よがしに高そうなお洋服を身に付けた初老の女性など、なかなか楽しい状況。たぶん、店員の自由奔放さなどから「空港内のショッピングセンター?」みたいな空気が醸し出されてます。坊っちゃん&お嬢ちゃんが多い音大出身者たちですもの、この手のお芝居はお任せあれって感じ。

 でもって、誰よりも役に似合ってたのがネモリーノ:中鉢聡。値札を一つ一つの商品に張る商品補充係なんだけれど、あまりに似合いすぎて「ガストン(あ、我が家での中鉢氏の呼び名です)の声はするのに、どこにいるのかわからない!?!?」状態。適度にハンサムで、適度にやる気がなく、これ以上ピッタリのキャスティングは思いつきませぬ。仕事放り出して、あちこちの売り場に顔を出しても許されちゃう空気があるのはなぜでしょうね。同僚の女の子たちから「ねーねー、ネモリーノ♪」と楽しくチョッカイを出されていう姿が想像できます。

 一方、アディーナ:川越塔子は絶対コネ入社! 仕事中に雑誌を読んで笑い転げてるし、お客さんが目の前をウロウロしていても平気で無視しているし、何しろ、ナンパしてくる男たちの相手の方が化粧品を薦めるのよりも忙しいんですから! 自分が魅力的なのを自覚していて、一人の男に固着することなく、結構腰が軽いのもいかにも。

 ドゥルカマーラ:党主税はラメがキラキラ光りまくりのド派手なジャケットで、「お客様〜、こちら、現品限りのスペシャル品です」ってな感じで販売している姿はどこかでみたことあるような……って、テレビショッピングのキャストだ〜〜〜!! ショッピングセンターのイベントだか売り込みだか知らないけれど、スタンドマイクを持ちこんで「俺様の歌を聴きやがれ! 最新ナンバーだぜっ」とキザったものの、ドニゼッティの音楽には変わりないので、思わず椅子からずり落ちwww そして、アディーナとネモリーノがくっついた途端「愛の妙薬だよ〜」と大々的に宣伝して薬を売りさばいちゃうあたり、なかなか抜け目のない商才を感じました。雑誌の裏表紙で紹介されている「海外メディアでも大反響!」という表記を思い出しちゃいましたョ。胡散臭すぎて素敵。

 そんな中、ベルコーレ:森口賢二と仲間たちだけは軍人のまま。このあたり、もうひとひねり欲しかったかな。今の日本に軍人の集団ってのもねぇ。じゃ、何が良いかというとちょっと難しいけれど、普通にサラリーマンなんかじゃ駄目だったんですかね??? プレイボーイというよりは、人の良さが前面に出てくるあたりがこの方の個性なのか、「女は他にもいるもんね〜」という憎まれ口が、とっても優しく感じられるのは今回が初めて。なんだかんだいって、アディーナとネモリーノをくっつけるための、影のプロデューサーみたいに見えちゃうのが面白かったです。

 帰りの電車の中でパンフをパラパラとめくっていたら、合唱団の中にマダム・中鉢=礼子さんのお名前を発見。夫婦共演だったんですね。いいなぁ。



2009年06月14日(日)14:00-17:20
新国立劇場「ロッシーニ:チェネレントラ」@新国立劇場オペラパレス

 C席 7350円 4階-2列-13番 (パンフレット:1000円)

 演出:ジャン=ピエール・ポネル
 指揮:デイヴィッド・サイラス
 東京フィルハーモニー交響楽団

 ドン・ラミーロ:アントニーノ・シラグーザ
 ダンディーニ:ロベルト・デ・カンディア
 ドン・マニフィコ:ブルーノ・デ・シモーネ
 アンジェリーナ:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
 アリドーロ:ギュンター・グロイスベック
 クロリンダ:幸田浩子
 ティーズベ:清水華澄

 また来ちゃいました。そして二週間のうちにパワーアップしてました。アンサンブルの精度が上がりバランスは良くなっているし、アドリブはポンポン飛び出すし、何よりも「チェネレントラ一座」として団結しているのが素晴らしい公演。「家来たち、集まれ〜っ!」とシラグーザが男声コーラスを呼びだして、一大ナンバーを歌い上げるのですが、単に後ろに彼らを従えて歌うのではなく、王子と家来として、小さな芝居を交わしながらというのにしびれました。ゲスト歌手の場合、ここまでカンパニーと馴染んでもらえるなんてそうそうないので、嬉しい限り。

 それにしても、いつもはやや気取った新国が、「もう我慢できない」とばかりに歓声に溢れる幸せ。コメディではあるんだけれど、それぞれの役のスペシャリストが揃っているので、一人芝居でも舞台空間を埋まるのだから圧巻。次から次へと芸達者が登場して芸を堪能させてくれる様はサーカスみたい。それでいて、芸術として成り立つのはこのスペシャリスト様たちのおかげ。お遊びと真面目の切り替えが絶妙。このセンス、品の保ち方が感動モノ。帰宅してから同プロダクションのスカラ座公演のDVDを観ているのですが、芸達者に関しては、今回の新国はかなり高水準です。

 中でもそのリーダー各はやはりシラグーザ。日本語は飛び出し、絶好調ではないかもしれないけれど、一定水準をしっかり保つプロフェッショナルな安定感、それでいて「彼女の腕輪だ〜」とキラキラした表情をみせる初々しさ。いつの間にやらアンコールも導入され、ハイCは都合何回披露したことでしょう? 正直に告白しますと、「彼女を探しに行くぞ〜」の大ナンバーでワタクシ、力尽きました。装飾音の転がし方がキレが良くってスピーディで大好き。残りはもうオマケ状態。

 アンジェリーナ:ヴェッセリーナ・カサロヴァは素晴らしい歌手だとは思うけれど、やはりシンデレラ役者ではないのが痛い。重くて暗い声で、恨み節を歌われちゃうと、演歌の世界なんですもの。ヒロインよりは脇で光るタイプではないでしょうか。「ヘンゼルとグレーテル」の魔女とか、「マクベス」の魔女とか……って、魔女ばかりですが、ドスの利いた声、強面のお顔なので、絶対脇役に回った方が名を残す方だと思うけれど(って、世界の大プリマに向かってなんて発言! でも、知り合いじゃないから書いちゃうwww)



2009年06月15日(月)19:00-21:20
古川展生/三宅進/山本裕康/渡邉辰紀「Cello Repubblica〜チェロ弾き達のオーケストラ〜」@HAKUJU HALL

 全席指定 4000円 N列-1番 (パンフレット:無料)

 〜前菜〜
 モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136(山本・渡邉・古川・三宅)
 〜スープとサラダ〜
 ドローヌ:アンダンテとスケルツォ(三宅・渡邉・山本)
 〜前菜2〜
 ポッパー:2本のチェロのための「組曲」Op.16(古川・山本)
(休憩)
 〜魚料理〜
 バッハ:無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008(古川)
 〜煮物〜
 池辺晋一郎:BIBALENCE I(三宅・渡邉)
 〜メイン〜
 バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004 より“シャコンヌ”(渡邉・三宅・古川・山本)
(アンコール)
 カザルス:鳥の歌(渡邉・三宅・古川・山本)

 ご贔屓3連発の公演のトリは真打ち・のぼぉちゃんが登場。そして、トリにふさわしい素晴らしいプログラムでした(アンコールは「トリの歌」ですしwww)まずは、ライター:山本裕康氏の文才に脱帽。プロフィールから曲目解説まで、B4の用紙1枚というシンプルなパンフながら、読み応えに関しては、1000円位で販売しているそこんじょそこらのパンフ以上!(あ、わが身を反省)。のぼぉちゃん曰く「前回は話半分でと言いましたが、今回は1/3位で」という、言いたい放題の、それでいて作曲家への、共演者への愛情に満ちた素敵な紹介文。演奏は真面目なのに、解説について、思わず「プププ」と笑ってしまいますが、笑いてリラックスの証拠でしょ。リラックスした状態でのコンサート程幸せなことはありません。なんとも素敵な観客誘導です。素晴らしい!!!

 で、曲目のプログラムについても、バッハからコンテンポラリーまで多種多彩ながら、コース料理に見立てることによって、異種音楽が互いに引き立て合うというこれまた素敵なアイデア。時に時事ネタを組み込んだお遊びも気が効いてます。唯一不服なのは「デザート」がないこと! もしかして、アンコール=デザートだったのかしらん?

 さて、一曲目は桐朋学園の校歌と勝手に思っている「ディヴェルティメント ニ長調」でスタート。HAKUJU HALLは非常に残響があり、また、チェロという楽器の音の立ち上がりがあまり良くないこともあって(図体でかいでしょ)、編曲物としての魅力は感じなかったけれど、華やかな曲なので開幕にはピッタリ。四人がそれぞれ「一番美しい音は俺だっ!」とかけあうのが聴きもの。(音域の関係か、音程は悪し。編曲って難しいですね)。

 今回の公演、実は発売と同時に完売になってしまい、当初は観賞予定ではなかったのですが、なんとか戻りチケットを購入。客席後方の端だったけれど、このホールは横幅がなく、また残響が豊かなので、直接音はほとんど聞こえないものの、ホールの音響が加わって、いつもののぼぉちゃんとは別な音。いえ、ホールの音響だけでなく、マッチョな音質だったと思います。とにかく、男声的な音で、力演だけでなく、時にささやき、時に張り上げ、バリトン歌手の歌を聴いているみたい。

 二曲目のフランスの作曲家のお名前は「ドロン?ドロネ?ドローン?」などと曲目解説で書かれちゃったがゆえに、すでに正式名称確認のためにパンフ確認なのですが、ドローヌ(発音はもっと難しいそうな)。編曲物の後にチェロ用の曲が登場し「やはりオリジナルは余裕があるな」と。そして、前半最後の曲はのぼぉちゃんお得意のポッパー作品。ポッパー=ヴィルトゥオーゾの曲として紹介されるけれど、間奏的な箇所で演奏される、さりげないメロディや、pizzのハーモニーが、ちょっと子供時代を思い出すような郷愁があって好きです。いつもは一人で熱演!となるポッパーですが、二本のチェロのせいか、余裕タップリ。

 休憩をはさんで、バッハの無伴奏チェロ組曲。居並ぶ先輩方をさておいて、最年少ののぼぉちゃんが今回のコンサートで唯一のソロを務めるのですが、多分、今年の演奏で(ってまだ半年残ってますが)指折りの演奏。ものすごく良い仕事をしてました。一つ一つの音を丁寧に、でも、時に情熱的に、それでいて、理性が残っていて、暴走せずに冷静に帰る精神性が圧巻。まるで、名優の一人芝居を観ているかのような感覚。感情があふれる中、偏差値で弾くという名演を聴かせてくれました。ライブならではの傷なんて気にならず、ちょっとウルウル。のぼぉちゃんも神が舞い降りてきた時の顔をしてました。ブラボー♪ そして、のぼぉちゃんの演奏を、肉ではなく魚と位置付けた山本氏にこれまたブラボー。ソースでしっかり味付けをしても、どこかアッサリ垢ぬけているのがのぼぉちゃん風味。

 で、僕の悪いところで、ペース配分を間違ってしまい、のぼぉちゃんの無伴奏チェロ組曲で燃焼済み。そのおかげか(?)いつもは苦手な現代曲も、感覚的に聴いたせいか、摩訶不思議なリズムや不協和音の中、トランスしたまましばし恍惚感に浸ってました。構成が複雑な現代音楽って、もしかしたら、あれこれ考えずに「ぼ〜っ」と聴くと楽しいのかも、と勝手な結論に至ったと知ったら、池辺晋一郎(いらしてました)に叱られる!?!?

 ラストはこれまた定番(とはいえ、前回と同じ料理をお出しする際でも、決して使いまわしはしておりません、なんだとか)のシャコンヌ。シャープな曲の直後、全員居並んで重厚な音楽。響きとしてのパワーはもとより、各自の音の重なりが素晴らしく、まるでベートーヴェンの第九の四人のソリストたちの歌唱みたい。一人一人の聞かせどころや、様々な組み合わせのかけあいが、途切れることなく、次々に現れては消えていくのが「あぁ、音楽って時間芸術だよねぇ。消えないでほしいのに次々に消えていく」と、有限ならではの美音の瞬間に飲んでもないのに酔っぱらい。トップ奏者たちの集まりは凄いですわ。



2009年06月23日(火)18:30-21:40
宝塚歌劇団宙組「薔薇に降る雨」「Amour それは…」@東京宝塚劇場

 A席 5500円 2階-10列-60番 (パンフレット:1000円)

 演出:正塚晴彦(薔薇に降る雨)/岡田敬二(Amour それは…)

 ジャスティン:大和 悠河
 イヴェット:陽月 華
 ヴィクトール:蘭寿 とむ
 フランシス:北翔 海莉
 ジェローム:寿 つかさ
 カミーラ:鈴奈 沙也
 グザヴィエ:悠未 ひろ
 ヘレン:美羽 あさひ
 エストール:十輝 いりす
 クリストフ:七帆 ひかる
 ベロニカ:花影 アリス
 アガサ:愛花 ちさき

 トップコンビのサヨナラ公演。「薔薇に降る雨」は、「華麗なるギャツビー」じゃないけれど、若いころの実らなかった恋が、数年後の再会を機会にまた燃え上がるものの、既に女:イヴェットには政略結婚の相手:グザヴィエがいて、なかなか思うように事ははこばず。そんな中、元彼:ジャスティンが政略結婚の裏の悪事をあばき、めでたく二人が結ばれる、という典型的なラブ・ロマンス。

 が、全然盛り上がらないんです。ジャスティン:大和 悠河、イヴェット:陽月 華、グザヴィエ:悠未 ひろの中心人物三名が揃って色気に乏しく、表面的な台詞と本心とが正反対という、腹芸が見せ場の役なのですが、いかんせん、そんな複雑なお芝居を得意としない&青年と中年の描き分けができない生徒たち(青年にしか見えない)なので、最後の公演にして難役をあてがわれ、残念ながら空中分解してしまった模様。今の宙組は、大人の哀愁なんかでなく、明るく元気な若者たちのストーリーが似合うはずなのに。

 これは、大和悠河の台詞回しの癖も影響していて、お腹に響かせる声が出せずに、ついつい割れんばかりに怒鳴ってしまうもんだから、正義のヒーロー的場面ですら「アンタ悪役!?」状況。サラ金の取立人役ならばピッタリと思った程。って、主役の見せ場で、その主役が悪役に見えてしまうのだから困りもの。直線的で裏がなさそうなキャラクターにしか見えませぬ。

 一方、陽月華もヨーロッパの貴族の令嬢にしては、品がないので(ファンの人ゴメンナサイ。でも姫役者じゃない人ですから)今ひとつ彼女の持ち味が活きてないような。せめて見た目だけでもと思っても、女性的魅力に乏しい体型なので、ドレスというドレスがことごとく似合わず、貧弱になってしまうのだから困りもの。ラストシーンの銀橋渡りの衣装なんて、大きな帽子に顔が隠れて、僕の席からは巨大な風船が乗ったドレスが歩いているようで、せっかくのクライマックスが「犬神家の人々」みたいに! そして、彼女も年数の経過が表に出にくいタイプの役者ゆえ、今回はかなり苦しんだのではないでしょうか。そりゃ、彼女の今までの公演に比べての進化はあったでしょうが、なんだか新人公演を観ているかのような主演コンビには参りました。

 とにもかくにも、今回の公演は「つまんない仕上がり」という感想なんですが、そもそも「劇団はなんで一番相性が悪そうな正塚晴彦×大和悠河&陽月華で公演を企画しちゃったんでしょう?」というのが最大の謎。そして、テーマ曲が……全然記憶に残らず。

 一方、「Amour それは…」はやや昭和の香りを感じる、クラシカルな作品。レビューの王道ともいうべき、定番場面の連発。「シトラスの風」のファンタジックなドレスに身を包んだ娘役に囲まれて大階段中央に板付きの大和悠河は「これぞトップ」な輝き(歌は除く)で圧倒。

 続く「トリスタンとイゾルデ」の場面では、サヨナラ公演にして、こんなに可愛い衣装を着こなせるのは大和悠河しかいない!といえる、水色のパジャマのような衣装、これまた淡い色合いのドレスの娘役に囲まれ、スモークで満たされた舞台に漂う姿は宝塚歌劇ならでは。とはいえ、この手の場面を堂々と演じきることのできるスターもそうそういますまい。芝居では大コケだったけれど、ショーについては代表作と言っても良いのではないでしょうか(その分、いかにも現代っ子の陽月華は割を食って、痩せすぎた姿が貧相で気の毒)。

 その後、舞台は一転して、原色系の強い色彩のスーツやドレスでのダンス場面を挟んで白一色の中詰め。岡田レビューは毎度のことながら、場面場面の色彩処理が美しくて、実に美しいです。この中詰めの演出が素晴らしかったんです! 中詰めの定番ともいえる、歩道橋のようなセットを駆使して立体的にスターが出入りし、クライマックスでは回り舞台によって、装置が一周するのですが、この時の背景が鏡張り。奥行きのない宝塚劇場なのに、いきなり奥行きが倍増。装置の動きも二重になるので、非常にダイナミックで豪華な仕上がり。

 やがて舞台はスパニッシュの場面に。ようやく陽月華の個性が映える、赤と黒のコントラストが力強い衣装と振付。バリバリと格好良く踊るのを得意とする陽月華と、シャープな美貌の大和悠河、ダンスの切れの良い蘭寿とむのトリオの魅力で舞台が引き締まります。

 フィナーレは定番のラインダンスに、大階段の男役たちの群舞、トップコンビのデュエットとなりますが、スパニッシュ場面ほどの濃縮感は感じられず。サヨナラ公演にしてなお「キラキラ輝いている」トップコンビとして、個々のスター性は素晴らしいものの、コンビの妙に乏しい二人でした。

 二人一緒に寄り添うよりも、個々で一人でアピールした方が輝く大和悠河と陽月華。情感あふれるロマンティックさよりも、サバサバした現代っ子気質な新型コンビが映える作品を劇団が模索しているうちに退団となってしまったかのような印象を受けます。若手の頃、アクセントとして使われるには、非常に刺激的な二人なだけに、舞台の真中でオーソドックスなものを求められてしまうと、生気が乏しくなり、魅力が半減しますから。そりゃ、相性の悪い作品しか演じてないんですもの、動員だって苦労しますわ。宝塚色の薄くなる海外ミュージカルや、冒険的な作品で、外部スタッフ登用など、花道があったら代表作となりえたかもしれないですね。何とも気の毒なサヨナラ公演でした。



2009年06月24日(水)19:00-20:45
アントニーノ・シラグーザ「テノール・リサイタル」@東京オペラシティ コンサートホール

 B席 6000円 1階-31列-23番 (パンフレット:1000円)

 ピアノ:パオロ・バッラリン

 ロッシーニ:「アルジェのイタリア女」より「今や僕の心は喜びにはずんでいる」
 ロッシーニ:「イタリアのトルコ人」より「聞いたぞ!あぁ、みんな聞いたぞ」
 ドニゼッティ:「連隊の娘」より「あぁ友よ、今日はなんと楽しい日!」
 ロッシーニ:「エルミオーネ」より「あぁ、どうやって隠れよう
 ロッシーニ:「チェネレントラ」より「あぁ、誓ってまたみつけよう」
(休憩)
 トスティ:可愛い口もと
 トスティ:暁は光から闇をへだて
 カーリ:シチリアの朝の歌
 ガスタルドン:禁じられた歌
 ダッラ:カルーゾー
 ララ:グラナダ
(アンコール)
 フロトー:「マルタ」より「夢のごとく」
 ロッシーニ:「セビリアの理髪師」より「もし私の名前を知りたければ」(ギター:シラグーザ)
 ヴェルディ:「リゴレット」より「女心の歌」
 カプア:オー・ソレ・ミオ(with デジレ・ランカトーレ)

 有楽町でバッタリに始まり、楽しい楽しい新国オペラ「チェネレントラ」を満喫したシラグーザの2009年来日公演もいよいよフィナーレ。最後はリサイタルです。今回は二階席と三階席を閉鎖して、一階席ONLYの席割り。よって、シラグーザも観客へのアピールの方向が定まり、なんだか会場が一体化した素敵な空気でした。そんな中のテノール・リサイタル、オペラも魅力だけれど、これでもかって位シラグーザ漬け。オケ伴奏による歌手のコンサートの場合、声楽曲とオケの曲が交互に登場しがちですが、ピアノ伴奏の場合、ずっと歌いっぱなし。それも、オペラだったらさんざん期待させた上のピークで披露される大アリアばかり。通常、一曲で披露すれば拍手喝采になるハイCが、ほとんどの曲で「これでもか〜っ」と登場するんですから。これって、スケートでいうと、トリプル・アクセル連発みたいな凄技。あまりに凄すぎちゃって、聴いていて頭の中真っ白。何回決めたかなんて数えるのがアホらしくなる位、大盤振る舞い。時にはハイDやら、ロングトーン(お茶目に腕時計で時間を計りながら!)も登場するのですから!

 良く「テノール馬鹿」と悪口で使われますが、これって、テノール本人ではなく、テノールを聴いている観客のことではないかと思うわけです。録音やテレビと違って、ライブ会場で「成功するかどうか!?」とドキドキしながら(ってこのあたりもトリプル・アクセルに似てますね)ドキドキしながら一緒に過ごす時間。非常にスポーティでスリリングです。コンサート前半はオペラ・アリア、それも超絶技巧物のオンパレード。どこまでも抜けるような澄んだ響き、途中でよくまあつんのめらないもんだと思う装飾パッセージの数々(個人的に三連譜の畳みかけるパッセージに燃えます)、それでいて勢いだけで歌わず、シンプルなパッセージも歌いまわしや音色に工夫をこらし、それでいて、大らかで堅苦しくない演奏。天然と計算の見事なマッチングに、ただこの場に居合わることのできる幸せにヨダレ垂れ流しです。背中は感動でゾクゾクしっぱなしで、時に目頭が熱くなります。声一つでここまで人の感情を動かせるなんて、歌手って凄い!!!

 40分弱であっという間に前半は終了ですが、一曲一曲のボリュームが大きいので、聴いている側も満足。一緒に歌うわけじゃないけれど、息を詰めて聴いているので、これ以上歌われたら窒息してしまいます。実は……彼の歌を聴いていると、簡単に高音が出せそうな気分で、おまけに楽々良い声が出せる気分で、我ながら単純と思いつつ、こっそり声出し。もちろん、急に出なかった声が出るわけもないのですが、良い物に触れると、目標点がハッキリするので、ちょっとは良い発声になれたような気がします。あ、気がするだけね、気が。でもこれって大事!?

 後半は歌曲の数々。華やかなオペラ・アリアと違って、しっとり名曲を聴かせる並び。シラグーザの凄いところは、テクニックを前面に出して、超絶技巧ぶりをアピールするだけでなく、シンプルでやさしいメロディをしっかり聴かせちゃうところ。早いパッセージがなくても、高音がなくても、甘くて、時に切ないリリック・テノールの魅力が全開。つい張り上げたくなるようなフレーズも、丁寧に、フォームを崩さず歌いきるあたり、去年に比べて、さらに中音域の響きが豊かになった印象を受けました。

 アンコールはまずはオペラ・アリアで空気を一変させ、アルマヴィーヴァ伯爵のアリアではギターを抱えて弾き語り。「女心の歌」なんて「この曲って難曲でした……よね?」と後で思い出す位、軽々と歌い切り、恒例客席回りの「オー・ソレ・ミオ」ではなんと大阪でデュオコンサートを予定しているデジレ・ランカトーレを立ち上がらせて即席のデュエット。これって、宝塚のトップが他組トップを発見していきなり二人で歌いだしちゃった、みたいな大変なこと。客席のあちこちから「ランカトーレだ! ランカトーレよ!」の声が飛び交い、その後は、ロックライブのように、客席通路をハイタッチしながら最後列まで歌い歩き。

 思うに、シラグーザのコンサートって大衆演劇(●●一座)的楽しみに満ちてるんです。もしくは、ミッキー・マウス的楽しみ。見どころ満載の舞台、豊富な客いじり、おひねり行脚(はないけれど)のような練り歩き、真面目な芸の合間のお遊び、そして、気楽にやってるようでいながら、日々の鍛錬による素晴らしい技術、見事なおばさまあしらい、腕輪やらギターやらランカトーレやらが飛び出すサプライズなどなど。クラシック・コンサートにありがちな、息をつめた緊張感なんてどこへやら。笑わせ、酔わせ、泣かせと、今が旬の、ノリにノッタ最盛期の歌手なればこその、縦横無尽の素晴らしいコンサートでした。もちろん「またヨロシクネ」と声をかけてきたのは言うまでもありません!



2009年06月27日(水)17:00-19:10
アミューズ「EVIL DEAD〜死霊のはらわた〜」@サンシャイン劇場

 S席 8500円 1階-8列-13番 (パンフレット:1500円)

 演出:河原雅彦

 アッシュ:諸星和己
 シェリル:大和田美帆
 スコット:上山竜司
 ジェイク/ノウバイ教授:右近健一
 シエリー/アニー:瀬戸カトリーヌ
 エド:森本亮治
 リンダ:高橋由美子
 死霊:齋藤久美子、関根あすか、吉浜愛梨

 開演と同時に映画のプロローグのような映像とナレーション。TDSのタワー・オブ・テラーのようなワクワク感を盛り上げる幕あきです。で、いざ生身の役者が登場すると……音響ひどすぎ! 箱に対して音量が大きいので、バンドの音はつぶれるし、役者の歌詞は聞き取れないし、台詞で大声を出せば音が割れるし、音響担当の耳を疑う次第。通常だったら、この手の場合、休憩時間までに席を蹴って出ていくところですが……作品の面白さでちゃんと最後まで。音楽と芝居とダンスが融合してっていうのがミュージカルのセオリーですが、今回はそれを逆手にとって、なんだかミュージカルのパロディを観ているかのよう。わざとらしい台詞回し、やたらとオーバーなジェスチャー、激しすぎる喜怒哀楽や独りよがり。初めは「プププ」だったのですが、次第に「ゲラゲラ」しまいには「ギャハハ」と大笑い。これは、映画ファンらしき人たちの、野太い笑い声の影響もあると思うんです。通常のミュージカル公演だと、女声合唱団に男声がなぜか混ざってしまったかのような笑い声ですが、今日は混声合唱団。劇場が爆発するかのような響く笑い声に乗せられて、普段「目立っちゃ迷惑かも」と遠慮して笑う僕としては、心おきなく腹式呼吸で笑ってきました。

 この作品、一人二役というのは二人だけですが、実は、アッシュ:諸星和己以外は一人二役みたいなものなんです。人間役と、死霊にとりつかれてからではまったくの別人格(人格で良いんやろか?)ですから。でもって、そのギャップが激しければ激しい程面白いんです。もうビックリの連続。清楚で堅物だったシェリル:大和田美帆は「アンタ、絶対、親・親戚を呼んじゃ駄目よ、泣かれるから」な程ビッチでド迫力のゾンビに大変身。オペラ座のファントムも真っ青な、特殊メイクで「コッチ来ないでよっ!」な熱演。女、捨ててます。舞台人として、自己をここまで捨てて、何かになりきれる人てそうそういますまい。彼女の舞台は今まで何本か拝見していますが、まさかここまで大化けするとはビックリ仰天。素晴らしかった!! エピローグでは、バーコード頭の中年オヤジとして登場。なりきりぶりが凄い。

 シエリー/アニー:瀬戸カトリーヌは、オツムがノーテンキな尻軽姉ちゃんと、教授令嬢の二役。実は一人二役ということにしばらく気付かなかった程、アッパレな変身。金髪で高音でキャンキャンわめく馬鹿娘と、黒髪で落ち着いたトーンで(やっぱり)立て板に水のごとく喋りまくるハイテンションのインテリ娘。おまけに、彼女たちもはやり劇中で人格が変わってしまうので、都合一人四役みたいな大回転ぶり。芸達者な方なので、体当たりというより、彼女自身が楽しんで演じている感じ。あ、でも、奈落への扉を開いた瞬間に血しぶきを浴びて全身真っ赤になるのだから、やはり体当たりですね。

 リンダ:高橋由美子はミュージカルのパロディ担当で、なぜかダイエーを連呼する(スポンサーなのかしら?)ラブソングで笑いを取る……かと思いきや、舞台上で首はちょん切られちゃうわ、ちょん切られた後の頭を斧でかち割られて血だらけになるわ、これまた壮絶なお役。まだ自分を捨てきれてないような、ちょっと恥ずかしそうな様子がこれまた笑えます。女性三名が全員熱演だったら観客は逃げ場がありませんもの。って、あくまで比較の問題なので、彼女もかなり壊れてくれますが。。。

 女性に比べ、男声はやや理性が残っているのか、今ひとつ体当たり感に乏しく「頑張ってるね〜」と肩を叩きたくなる状況ですが、アッシュ:諸星和己は一皮むけました。アイドル時代の歌声しか知らないので、正直全然期待していなかったのですが、意外にも力強くちゃんと声が響き、出ずっぱりで、舞台狭しとばかりに(って、サンシャイン劇場なので舞台は狭いんですが)跳びはねるわ、走り回るわ、叫びまくるわで、見事な主演男優っぷり。エアロのレッスンを休憩なしで二本こなしているかのような大熱演。バケツで水をかぶったかのような汗だくになりながらも、最後までテンションを緩めずにスピードを保ったまま演じきったのはアッパレ。今日は二回公演だというのに、凄い体力と精神力です。ちょっとおバカなんだけれど、人を引き付ける華があってという今回の役、まさに適役です。彼以外のキャストが思いつかない程(も少し若かったら川平慈英でも行けたかも)。



2009年06月28日(日)18:30-20:35
新国立劇場バレエ団「ローラン・プティの コッペリア」@新国立劇場オペラパレス

 C席 4200円 3階-L6列-3番 (パンフレット:1000円)

 振付:ローラン・プティ
 指揮:デヴィッド・ガルフォース
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 スワニルダ:タマラ・ロホ(英国ロイヤル・バレエ)
 フランツ:ホセ・カレーニョ(アメリカン・バレエ・シアター)
 コッペリウス:ルイジ・ボニーノ

 2007年の新国初演 から約2年ぶりの再演です。指揮者とコッペリウス:ルイジ・ボニーノ(振付指導も!)という、プロダクションの中心メンバーが続投とあって何とも安心な公演です。でも、タマラ・ロホって新国初登場でしたっけ? ホセ・カレーニョも新国初登場!?!? ううむ、すっかりお馴染みな人たちですが、ちょっと意外。

 ローラン・プティのバレエは、どことなくショーやレビューを観ているような気分になります。群舞の使い方や衣装の変化など、通常のバレエに比べてより自由な感じがします。クラシックな作品ではあるんだけれど、モダンでお洒落な空気が魅力的。今回はコッペリアという人形を扱った作品ではあるけれど、出演者全員が人形みたいに扱われていて、宝塚レビューに登場しそうな衣装を着た女性ダンサー、オモチャの兵隊さんのような男性ダンサーなど、日本人のスレンダーな体型のダンサーが演じると(って、新国バレエ団には外国人ダンサーも大勢いますが)、マッチョな外国人ダンサーだらけの欧米カンパニーに比べ、舞台全体のオモチャ箱みたいな雰囲気が強調され、ディズニー・リゾートのアトラクションを観ているかのよう。「コマネチッ」だとか、カンカンもどきの、「んまっ、お下品な!」振付であっても、可愛らしく見せちゃったのはアッパレ。元来「コッペリア」という作品は、新人女性ダンサーと、男役ダンサーのカップリングで制作されたバレエなので、どことなくレビュー色を感じるのは、そういう面も影響しているのかもしれませんね。

 スワニルダ:タマラ・ロホは大人っぽいダンサーというイメージが強いので、少女役のスワニルダはどうかと思っていたのですが、一流ダンサーはちゃんと化けるものですね。日本人ダンサーに混ざっても、ちゃんと少女らしくかわいらしいスワニルダ。それでいて、コッペリウスをからかう場面では、自己主張の強いヨーロッパの女性へと、場面場面でクルクルかわる変わり身がお見事。手足が長いので、人形っぷりも映えます。プティ版ならではの、ハイ・インパクトな振付も、ニコニコしながらいとも簡単に踊ってますが「この場面、絶対しんどいよねぇ」と観ているこちらが息絶え絶え。

 役不足じゃない?なフランツ:ホセ・カレーニョは、確かに見せ場が少なくてお気の毒には違いないのですが、シンプルな動きが多いだけに、逆にテクニックの素晴らしさが映え(モーツァルトを弾くと、ピアニストの凄さがわかるのに似てますね)、また、数歩動くだけで「あぁ、この人の長い脚だと、あんなに遠くまで行ってしまうんだな」と、その恵まれた体躯にも惚れ惚れ。舞台袖からジャンプして登場した際には「あ〜ビックリした!」というお子さんの声に思わずプププwww。なんだか、人形の世界に迷い込んでしまった人間が一名といった印象を個人的に勝手に受けてしまいました。可愛らしいおもちゃ箱の中で、一人だけ現実的なダンサーでした。ま、今回の演出だと、それはそれでアリですけど。

 冷静に観ると「コッペリア」という作品は突っ込みどころ満載ですし、登場人物も魅力的とは言い難い輩たちなのですが、コッペリウス:ルイジ・ボニーノの醸し出す哀愁と、華やかなパリ・テイストのザ・レビューとの対比が美しい、ローラン・プティならではの傑作舞台。また近いうちにぜひ再演していただきたいプロダクションです。素晴らしかった!!



2009年06月30日(火)19:00-21:10
新国立劇場バレエ団「ローラン・プティの コッペリア」@新国立劇場オペラパレス

 D席 3150円 4階-1列-6番 (パンフレット:1000円)

 振付:ローラン・プティ
 指揮:デヴィッド・ガルフォース
 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 スワニルダ:本島美和
 フランツ:江本拓
 コッペリウス:ルイジ・ボニーノ

 今日は千秋楽。このところ艶やかさを増している本島美和&売り出し中の江本拓の若手コンビが主演。ローラン・プティ版のコッペリアは、コミカルな作りで、主役コンビも群舞に混ざって踊る場面が多いので、作品としてのまとまりは今日の方が良いみたい。良くも悪くも、外来ゲストが主演だと、特別な人たちとして輝いちゃいますから。とはいえ、どちらもそれぞれの味わいがあって楽しいのですから、楽しまなきゃ!

 第一幕は、コッペリウス→スワニルダ→フランツという、一方通行の恋が描かれているのですが、アンドレ→オスカル→フェルゼン→アントワネットのような、それぞれの苦悩が描かれているわけでないので、かなりお気楽。「僕は君になんて興味ありませ〜ん」「アナタなんて全っ然タイプじゃないんですけど!」というつれない態度がそこここに登場します。肩をすくめてみたり、あからさまにそっぽ向いていたり。同じ、おフランスを舞台(コッペリアって本来はポーランドのお話ですが、プティ版は多分フランスが舞台)にした作品ながら、国民性の描かれ方は正反対。叶わぬ恋の辛さではなく、叶わぬ恋のうざったさが描かれています。

 が、第二幕になって、独身の初老紳士が、スワニルダに瓜二つな自動人形とおままごとをしたり(結構扱いは雑です)、デュエットダンスを踊ったり、たった一人でも楽しげに振る舞う姿に「さすがプライドの国!」と感嘆すれども、お遊びの合間に「次は何をしよう?」とピアノを弾くようなしぐさをヒザの上で行ったり、フランツの登場の際には大事なハズの自動人形を放りだしたり、スワニルダが人形になりすましたことにより、妄想のでは思いのままだったおままごとも、「失恋」をつきつける現実になったり、ボロボロになって、我ここにあらずの廃人となる過程がドラマティック。正直、能天気一色て変化に乏しい一幕はだれますが、二幕になると目が離せません。

 「オペラ座の怪人」のラストで、クリスティーヌがファントムの元に一瞬走り寄るけれど、すぐにラウルと一緒に立ち去るように、スワニルダもコッペリウスの元に駆け寄るものの、何もなかったかのように、フランツと陽気に踊って去っていく残酷さ。バレエのフィナーレにふさわしい、華やかな音楽、カンカンの賑やかな振付の中、最後の数小節、ほんの数秒で、老人の孤独と夢破れた男の哀愁を遺憾なく発揮したルイジ・ボニーノの名演により、単に華やかな作品から、芸術作品へと昇華した、そんな印象を受けるプロダクションです。ダブル・キャストのゲンナーディ・イリインは、ルイジ・ボニーノとは全然違うタイプのダンサーなので、そちらの公演だとどんな印象のラストになったのか、見逃したことが返す返すも残念です。