観劇日記〜2009年10月〜
01日(木) 19:00 新国立劇場「メリーメリー・ウィドウ 祝祭版」 新国立劇場オペラパレス
03日(土) 15:30 宝塚歌劇団雪組「ロシアン・ブルー」「RIO DE BRAVO!!」 東京宝塚劇場
09日(金) 19:00 古川展生チェロリサイタル「Cantilena,秋の夜に」 紀尾井ホール
10日(土) 13:00 劇団四季「アイーダ」 四季劇場[海]
10日(土) 18:00 宝塚歌劇団星組「再会」「ソウル・オブ・シバ!!」 神奈川県民ホール
11日(日) 14:00 黒柳徹子主演海外コメディ・シリーズ20周年記念作品「ベッドルーム・ファンタジー」 ル テアトル銀座
11日(日) 18:00 来日カンパニー「CHICAGO」 赤坂ACTシアター
18日(日) 14:00 新国立劇場バレエ団「ドン・キホーテ」 新国立劇場オペラパレス
22日(木) 18:50 映画「あなたは私の婿になる」
THE PROPOSAL
TOHOシネマズ 市川コルトンプラザ
24日(土) 13:00 劇団四季「ドリーミング」 四季劇場[秋]
24日(土) 17:00 東宝「屋根の上のヴァイオリン弾き」 日生劇場
27日(火) 18:30 宝塚歌劇団花組「外伝ベルサイユのばら −アンドレ編−」「EXCITER!!」 東京宝塚劇場
31日(土) 14:00 新国立劇場オペラ「モーツァルト:魔笛」 新国立劇場オペラパレス


2009年10月01日(木)19:00-21:10
新国立劇場「メリーメリー・ウィドウ 祝祭版〜ちょっと陽気な未亡人〜」@新国立劇場オペラパレス

 A席 3000円 3階-4列-20番 (パンフレット:無料)

 指揮:現田茂夫
 演出:飯塚励生
 東京フィルハーモニー交響楽団

「メリー・ウィドウ」
 ハンナ:中嶋彰子
 カミーユ:ディヴィッド・ロビンソン
 ダニロ:与那城敬
 ヴァランシエンヌ:九嶋香奈枝
 ツェータ男爵:町秀和
 ボグダノヴィッチ:青山貴
 カスカーダ:北川辰彦
 サン・ブリオッシュ:村上公太
 クロモウ:岡昭宏
 プリチッチ:駒田敏章
 大使秘書:藤木大地

「椿姫」
 ヴィオレッタ:安藤赴美子

「こうもり」
 アイゼンシュタイン:桝貴志
 ロザリンデ:吉田珠代
 オルロフスキー:清水華澄
 オロロフスキー:増田弥生
 ファルケ:青山貴
 アデーレ:大西恵代
 イーダ:鷲尾麻衣

 「○年に一度の逸材!」という宣伝文句って良く目にしますよね。新国のオペラ研修所もその例にもれず、スター誕生はなかなか難しいみたい。あちこちの音大を主席で卒業した人が珍しくない集団ではありますが、成績が優秀だからといって生き残れるわけではないのがショービジネスの怖いところ。今宵の公演は平成21年度(第64回)文化庁芸術祭祝典 国際音楽の日記念という名目で、皇太子殿下もご臨席のもと、新国立劇場のオペラ研修所OB&OGが中心になってのスペシャル公演。「レハール:メリー・ウィドウ」をベースに「Jシュトラウス:こうもり」と「ヴェルディ:椿姫」が乱入するという「面白そう!」な企画でしたが……つまんなかったです。

 宝塚でいえば、宝塚音楽学校を卒業して、本公演の舞台には立つようになったものの、まだ新人公演に出演する学年のみなさん。ベテランなしでのコメディは非常に厳しいです。何しろ「真面目に演じる」「一生懸命演じる」ので精いっぱいゆえ、「間」や「共演者との呼吸」はいっさい無視。ウィットもへったくりもないんですもの、これで盛り上がれっていうのは、どだい無理な話。頑張れば頑張る程、痛々しくて、観ていて辛くなる舞台でした。オーケストラも「立派な」演奏ではあったけれど、重々しくて、オペレッタの浮き立つ感じはなかったもの。指揮:現田茂夫は出演者に合わせて味付けしたんでしょうか?

 研修所公演でも演出を手掛けることのある演出:飯塚励生は「今回も」大味&平坦な演出。まだ個性もなければ、観客を操る力量もない若手たちの舞台ですから、本来は演出がもっと綿密に彼らを引き立てるべきなのでしょうが「場面を与えれば良いんでしょ」と言わんばかりに、単なる喉自慢演出にしているので、舞台にメリハリがなく、中だるみしまくり。この人の演出、かなり苦手です。今後の舞台を担う若者たちには、もっと緻密な演出家のもとで勉強させてあげれば良いのに。。。

 コメディアン・コメディエンヌは、例え歌や芝居が拙くても、それを補う強烈な求心力と、芝居の上でのリズム感っていうのがありますよね。鳳蘭も、大地真央も、真矢みきも、強引といえるまでの「私が観客を乗せてみせる!」な力を持っているからこそスターであるわけで(スミマセン、例えの人物が偏ってまして。でも、知名度的に分かりやすいかと)。

 ハンナ:中嶋彰子は唯一のスター扱い。フォルクスオーパーでハンナを演じていたかは記憶にないけれど、舞台上での安定感は他出演者とは別格。とはいえ、大プリマ・タイプではなく、いかにも日本人な肉薄な声なことと、ドレスはこれでもかって程似合わないこともあって、期待したほど存在感はなく地味っ。そして、日本語の台詞は訛りまくり&粒が立たないので聞きにくい。台詞については、しっかり修行を積んだ、新国研修生たちの方が良かったです。なお、この訛りについては「田舎の農家の娘」というのを強調するためにわざとなのか、彼女の普段の日本語がこんな感じなのかは不明です(「ベルばら アンドレ編」でヒロインがプロヴァンス訛りという設定で日本のどこかのをしゃべるのと同じ演出かもしれませんけど)。いずれにせよ、笑いなのか笑いでないのか判断に困る中途半端さ。主役なのに、も少し押し出しが欲しいなぁ。

 ダニロ:与那城敬は長身でスマートでなかなか舞台映えがするし、歌も台詞も良く響く声! スターの素質を感じる人材です。が、セリフ術がいけませぬ。他出演者に比べ、舌の回りが悪く、途端に会話の粒が立たなくなり、彼がしゃべりだすと途端に野暮ったく、場末の空気が漂っちゃうんですもの。オペラ歌手にありがちなのは「台詞を伝える=ゆっくり棒読みにする」と思っている人が多いこと。歌の時は歌詞が聞き取れなかろうが、平気なのに、台詞となるとあんなに構えてしまうのはなぜでしょうね。(二期会にこの傾向は強いけれど)。会話劇は、ことにコメディはリズム感とテンポが大切。一つの台詞の中で、スピードや勢いに差がついてこそ、ポイントとなる単語が浮かび上がったり、芝居に流れが生じたりするのに。「歌は語れ、台詞は歌え」と言われるのはこんなところもあるんじゃないでしょうか。とはいえ、登場した際の華やかさや、表情の濃さ、出し惜しみしない身振りなど、今後に期待「大」の逸材だと思います。

 助演で際立っていたのはオルロフスキー:清水華澄。シラグーザの出演していた「ロッシーニ:チェネレントラ」でも素晴らしい喉を披露してくれましたが、声が楽々と劇場に響くこと、歌い回しの自在さなど、一人だけベテランが混ざってしまったかのよう。正直、彼女が先陣を切って歌う「乾杯の歌」では、彼女に続く歌手たちは総崩れ。あまりの実力の差に気の毒になってしまった程。ちょっと大阪のおばちゃんみたいな芸風は気になるけれど、素敵な助演スターになることでしょう。

 で、他出演者は傑出した人材なし。1〜2年間、一緒に勉強した仲間たちという点で、チームワークは良さそうですが、それが舞台に昇華しているかというとそんなことはなく、時に慣れ合い、時に照れ合いで、観客としては心地良くないんです。ずば抜けた歌唱力・容姿を誇る人はともかく、「素晴らしいけれど、あなたレベルの人は他にもいるし、個性もないんじゃなぁ」という演出家・プロデューサーのぼやきが聞こえてきそうなカンパニー。カーテンコールで指揮:現田茂夫が舞台中央に立つと、あたかもナイアガラ付きの大羽根を背負ったトップスターが降りてきたかのように、舞台の絵面がピタッと落ち着くのですから。ま、現田茂夫のキャリアやマエストロという職業を考えれば、求心力があって当然かもしれないけれど、舞台の華はやはり歌手たち。今後は仲間であって、競争相手。優等生だけじゃ売れませんぞ。


2009年10月03日(土)15:30-18:35
宝塚歌劇団雪組「ロシアン・ブルー−魔女への鉄槌−」「RIO DE BRAVO!!」@東京宝塚劇場

 A席 5500円 2階-7列-13番 (パンフレット:1000円)

 演出:大野拓史(ロシアン・ブルー)/齋藤吉正(RIO DE BRAVO!!)

 アルバート・ウィスラー 水 夏希
 イリーナ・クズネツォワ 愛原 実花
 ミハイル・ゲロヴァニ 汝鳥 伶(専科)
 カテリーナ・コーシュキナ 五峰 亜季(専科)
 レベッカ・ウォード 美穂 圭子(専科)
 ニコライ・エジェフ 未来 優希
 ヘンリー・スペンサー 彩吹 真央
 デボラ・チャップマン 天勢 いづる
 グリゴリー・アレクサンドロフ 音月 桂
 ジナイーダ・ライフ 麻樹 ゆめみ
 ライサ・ネコタナ 舞咲 りん
 セルゲイ・エイゼンシュテイン 奏乃 はると
 佐野 碩 彩那 音
 ガリナ・ネコタナ 森咲 かぐや
 アンナ・ネコタナ 花帆 杏奈
 ソフィヤ・ネコタナ 神 麗華
 スージー・スターン 涼花 リサ
 エフゲニイ・アンドレーエフ 真波 そら
 ユーリ・メドベージェフ 緒月 遠麻
 ダーリン・ロス 早霧 せいな
 ペギー・グリーンフィールド 晴華 みどり
 ロジャー・ドリトル 沙央 くらま
 リュボフ・ネコタナ 早花 まこ
 バーベル・ムイシュキン 大凪 真生
 イーゴリ・イリインスキー 大湖 せしる
 マクシム・シューキン 彩夏 涼
 パヴェル・ウソツキー 紫友 みれい
 ボリス・ムラビヨフ 祐輝 千寿
 ロビン・スペンサー 大月 さゆ
 バーリャ・ネコタナ/バレリーナ(ペトルーシュカ) 沙月 愛奈
 タマーラ・ネコタナ 花夏 ゆりん
 オレーク・ネコタン/ペトルーシュカ 愛輝 ゆま
 フェリックス・アンバー 涼瀬 みうと
 ロバート・ホッジキス 蓮城 まこと
 ムーア人(ペトルーシュカ) 香音 有希
 イワン・バルスコフ 香綾 しずる
 ヴァシリ・アレンスキー 朝風 れい
 マトローナ・ムラビヨフ 千風 カレン
 ナターリア・プリセツカヤ 悠月 れな
 ヨシフ・モジャイスキー 梓 晴輝
 ウラディミール・ベレゾフスキー 凰華 れの
 ワーリャ・ネコタン 寿々音 綾
 タナヤーナ・エセーニナ 愛加 あゆ
 フョードル・スタチンスキー 冴輝 ちはや
 キリル・カバレフスキー 透真 かずき
 オレガ・ネコタナ 透水 さらさ
 スラヴァ・フィラノスキー 彩凪 翔
 ゲンナディ・ヴァルコンスキー 凛城 きら
 アルカディ・スロニムスキー 真那 春人
 エレナ・ネコタナ 舞羽 美海

 「キラー・スマイル」という胡散臭い笑顔を武器に、ちょっととぼけたアルバート・ウィスラー:水夏希と、「鉄の女(この手のビッチな娘役大好き♪)」ことイリーナ・クズネツォワ:愛原実花の噛み合わないそれぞれの主張が面白いのですが、宝塚のトップコンビというシステム上「この二人は、すぐにラブラブになるんでしょ」と展開が読めてしまうのと、スクリューボール・コメディ(=常識外れで風変わりな男女が喧嘩をしながら恋に落ちるというストーリー)を上演するには、宝塚の発声だと台詞の粒が立たず、また劇場の音響の悪さも相まって、何を言ってるのか聞き取れないのが残念。

 というのも、ネイサン・レインあたりが演じたら、ブロードウェイでもヒットしそうな作品なんですもの。アメリカの政治家のパロディ、ソ連という「未知なる国への独断と偏見」を自由自在に、時に日本的ギャグ(ロシア人に●●スキーという名が多いのを、●●好きと歌い踊っちゃうとか)。何でもありのドタバタぶり。 ネイサン・レインあたりが演じたら、ブロードウェイでもヒットしそうな作品。アメリカの政治家のパロディ、ソ連という「未知なる国への独断と偏見」を自由自在に、時に日本的ギャグ(ロシア人に●●スキーという名が多いのを、●●好きと歌い踊っちゃうとか)。何でもありのドタバタぶり。コメディアン・コメディエンヌの芸の見せ所満載です。

 が「今さらソ連?」という感は拭えず。また、政治について喜ぶ客層ではないので、シニカルな笑いは無視され、もっぱらコメディ面の面白さは恋愛ゲームのみクローズアップ。客層を考えない台本、それでいて客層を考えての演出ということで、もったいない結果に。作家と演出家が同一人物なのが裏目に出てしまった模様。書きたいように書いたけれど、座付き演出家として、生徒や観客に考慮した結果、硬派な作品が甘く演出されちゃいました。

 出演者の多くが若い女性とあって、政治面の掘り下げは表面的で、さりとて、恋愛ゲームだけだと、出演者の多さも相まって、賑やかだけれど、表面ヅラの作品に。生徒一人一人のファンには見どころが多いでしょうが、作品全体としてはバランスが悪い仕上がり。決して悪い出来ではないんだけれど、ベテラン中心で上演したらまた違った面白さが出てくるかと。

 さて、兼演のショーは「モスクワ発、東京経由、リオ・デ・ジャネイロ行き」という気の利いた出だし。そういえば、芝居のラストで、アルバートがイリーナに対して「リオに行くなんてどう?」と誘ってましたっけ。折しも「2016年のオリンピック開催地はリオに決定!」というニュースが流れた日。「リオ・デ・ブラボー!!」と舞台は賑やかでしたが、石原都知事が来場したら、キィーとハンカチ噛んじゃいそう。でもって、トバッチリをくらいそうで……クワバラ、クワバラ。

 あまりに遠い国ゆえ「この曲……リオ?」と、中国・韓国・日本がごっちゃの西洋人作品を観ているような気分にならなくもないですが、とりあえずノリノリ元気。今回は芝居だけでなく、ショーでも若手に至るまで見せ場を与えられて、出演者一同頑張りまくり。よって、常にエネルギーMAXでメリハリなし。そんな中、パピヨンの抒情性、デュエットの流麗さが出色。肩の力が抜けて、トップスターの余裕を感じました。

 話題の新トップ娘役の愛原実花(=演出家つかこうへいのお嬢さん)は、初主演ながら、臆することなくトップの水夏希にくらいつき、それを今やベテラン・トップとなった水夏希が余裕を持って支えるという、トップ・スターを魅力的に魅せるには打ってつけの組み合わせ。ここまで勢い良くトップに体当たりするトップ娘役は久しぶりかもしれません。今まで大役がなかった人だけに、台詞も歌もガッサガサな声で、特に歌唱力については精進を期待したいところです。個人的には、大劇場での派手なミュージカル女優というよりは、中小劇場でのお芝居向きの人のような印象を受けました(パパ譲りの資質かも)。勢いに反して、舞台中央での輝やきがまだまだ。とはいえ、トップになりたての娘役。これからどう変化するかが楽しみ。


2009年10月09日(金)19:00-21:05
古川展生チェロリサイタル「Cantilena,秋の夜に」@紀尾井ホール

 S席 6000円 1階-3列-6番 (パンフレット:無料)

 チェロ:古川展生
 ピアノ:坂野伊都子

 ヴィヴァルディ(編:羽岡佳):チェロ協奏曲集より
  T.Allegro from RV410
  U.Largo from RV383
  V.Allegro molto from RV411
 コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ Op.8
  T.Allegro maestoso ma appassionato
  U.Adagio
  V.Allegro molto vivace
(休憩)
 フランク:チェロ・ソナタ イ長調
  T.Allegretto ben moderato
  U.Allegro
  V.Recitativo-Fantasia
  W.Allegretto poco mosso
(トークタイム)
 ピアソラ:ル・グラン・タンゴ
(アンコール)
 カッチーニ:アヴェ・マリア
 久石譲:おくりびと

 雨が降ってないので「あれ、のぼぉちゃんのリサイタルって昨日だったっけ?」と勘違いしちゃうほどの秋晴れ。爽やかで涼しくて、チェロの鳴りも良さそう。で、いきなり一曲目でヴィヴァルディ。軽やかで伸びやかで秋にピッタリ。と思いきや、編曲物でして、かなりの技巧を要する作り。いきなりアクセル全開です。いかにも秋らしいブラウンのドレスで登場した伊都子さんも「これはトリです」並みにノリノリ。最初からこんなに飛ばして大丈夫か?と心配したのですが……そんな心配は無用でした。

 コダーイの無伴奏チェロ・ソナタは何度も聴いているので、その進化ぶりが顕著。今まで、チェロという楽器の特性もあって、和音=頑張ってるけどバラバラね、という感が強かったのですが、今日はちゃんと固まり。ピアノのレッスンで「和音がバラバラに聞こえないように!」と注意された時代を思い出しちゃいました。で、単に音を出すだけだと、「一人で和音」だけれど、今日は「一人で室内楽」しちゃってました。出す音、引く音、動く音、どれも自由自在。パッセージの中で音符いっぱいにならしてみたり、逆に音の粒を立ててみたりと、音作りも進化! 今まで、どちらかというとテクニックを見せつける印象の強い奏法ですが、今や、テクニックを駆使することで、難易度を隠してしまうという新たなる凄技に。よって、一台の楽器なのに、一人で演奏しているのに、オーケストラを聴いているかのような色彩感。こんなに音に溶け込み、うねりの中に生きているのぼぉちゃんも珍しい! 今日はソリストではなく、(一人だけど)オーケストラと呼びたくなる素晴らしい演奏でした。指揮者のように全体のバランスに気を配り、フレーズが固まりで、そしてその固まりが曲全体に広がる……酔いしれました。超絶技巧の曲を「感動の力演」で弾くプロは多いけれど、「いっぱいいっぱい」ではなく、さりとて「軽々」でもなく、(指も弓も)9割の力を遣いつつ、1割の余裕をキープ。時にホールに飛び交う自分の音を目で追いかけ、ライブという非日常ゆえか、熱気に頬を染め、そうですね「今日はどのジャンプも決まってます、絶好調です」という時のスケート選手のごとし。

 さて、休憩を挟んでの後半の大曲はフランクのチェロ・ソナタ。元々ヴァイオリンの曲なので、これまた難曲。とはいえ、フランス物にハズレなしののぼぉちゃん。前半の勢いそのままにノリノリ。「これ以上良い音なんてないでしょっ」と伊都子さんがスタインウェイのppなのに深く響かせるさざ波に乗って、チェロがセクシーに弾き始めます。この曲はピアノと独奏楽器が対等に扱われているので、お互い容赦ない駆け引きが聴きもの。間をタップリとって爆発させるわ、音澪をス〜ッと引いて肩すかしをくらわすわ(音の消し方が二人とも見事で雑音なし!)、時にドカンと響かせるわと、丁々発止の渡りあい。気心しれた共演者ゆえか、どう攻められてもしっかりキャッチして、勝ちパターンのバレーボールの見事なフォーメーションを思い浮かべます。トス&アタックが成功すると、客席で思わずニンマリ。フランス=ラテン物なので、憎々しいパッション、勝手に弓が踊っちゃう軽やかさ、ダイナミックな感情の起伏、そして繊細な色彩など、今日のデュオにピッタリの選曲で、心地良く翻弄されました。

 かくなるうえは、ピアソラのタンゴなんて余裕綽綽で、大人の色気を漂わせつつ、涼しい顔して決めどころの切れの良さ、流すところのさりげなさのメリハリが気持ち良く、ドパーミン出まくり。幸せなんだけれど、興奮しちゃって息はあがっちゃうし、なにしろ「終わっちゃう、終わっちゃうよ〜」と冷静なんだか興奮しているんだかわからない自分がいて、「のぼぉちゃんをハラハラ見守る」はずが、いつの間にやらミイラ取りがミイラなっちゃいまして、客席ですっかり腰砕け。スタイリッシュに小粋な技を決められる度に背中はゾクゾク、首筋ブルブル。別に麻薬とは無縁にシラフなのに「連行されるんじゃないか?」な有り様。10年間追っかけ続けてて、何を今さらですが、一晩に何度も絶頂に導かれて、ヘロヘロになりました。

 10年間追いかけ続けて、そりゃ倦怠期もあったりしたけれどf^_^;、技も曲作りも風格も、いよいよ「のぼぉ時代」の到来を感じさせる見事なリサイタルでした。 時に「リサイクルッ」なんて悪口言っててゴメンナサイ。でも、自分のスタイルを確立されては白旗降参。「今さらですか?」でも「してやったり」でも何とでもお言いなはれ。堂々と歌い上げた直後にフッとソフトな音で軽くさりげなく弾く「雨と鞭使い分け奏法」。のぼぉちゃんが濃厚になると、伊都子さんが硬質でクリアな音を響かせて調整、もちろん、ピアノの聴かせどころでは途端にゴージャスに。その際、のぼぉちゃんのチェロはさっとサポーターに。名バレリーナを美しく支える男性ダンサーのごとし。良いオトコ・良いオンナになりました。

 アンコールはカッチーニのアヴェ・マリアでクールダウン。のはずが、クライマックスでこれでもか〜っチェロですすり泣いてくれて、もう「どうとでもしてくれ!!!」と。今やのぼぉちゃんのテーマ曲になっている(モックンごめんねwww)久石譲:おくりびとで涼やかに退場。笑って・泣いて、最後は静寂で終わるという、素晴らしいプログラミングでした。毎回こんなコンサートをされちゃたまったもんじゃないけれど、芸術の秋にふさわしい、ひとときです。満腹っ。


2009年10月10日(土)13:00-15:55
劇団四季「アイーダ」@電通四季劇場[海]

 B席 6000円 2階-10列-27番 (パンフレット:1300円 四季の会会員割引)

 演出:ロバート・フォールズ

 アイーダ:濱田めぐみ
 アムネリス:五東由衣
 ラダメス:渡辺正
 メレブ:中嶋徹
 ゾーザー:飯野 おさみ
 アモナスロ:川原洋一郎
 ファラオ:前田貞一郎

 「アイーダ」というと、エジプトの将軍ラダメスと、敗戦国の王女アイーダがラブラブで始まるのが常ですが、ブロードウェイ版は、ラダメスとアイーダの馴れ初めをタップリ描いていて、一幕タップリ費やしてます。今まで、登場の時点でラブラブだと思っていた二人ですが、どのように出会って、いかにして恋人同士になったのかというのは描かれていなかっただけに目からウロコ。エチオピア側から眺めた物語というのが新鮮でした。

 ロバート・フォールズの演出は、場面の繋がりはあまり意識せず、場面・場面を美しくまとめることにエネルギーを注いでいて、一つ一つは楽しいのですが、芝居としての魅力は今ひとつ。棒読み台詞が特徴で、情感を苦手とする劇団四季にとってはありがたいバージョンでしょうか。かつて「ヘミングウェイ・レビュー」というショーがありましたが、「アイーダ・レビュー」とでも呼びたくなるような、各場面ごとにストーリーやモチーフはあるものの、ショーアップに力を入れられた舞台。時代考証もアンサンブルの芝居も無視して、主役の物語やナンバーを中心に、きらびやかに、そしてアンサンブルたちはひたすら踊り続けます。個性がない面々なので「ザ・アンサンブル」な動く舞台装置なのですが、エジプト人からエチオピア人まで、早変わりの連続で踊り続けるハードな舞台にもかかわらず、最後までテンションを保ったまま踊り切る彼らに何ら不満はありません。

 エジプトの物語ではありますが、オペラ版がイタリア歌劇をベースに作られたように、今回はブロードウェイ・ミュージカルをベースに作られたs買う貧。オリエンタル×NYスタイルという、まるでヒルトン・ホテルのインテリアのような作品。かなりスタイリッシュです。となると、どうしても雰囲気重視な作り。プリンシパル・キャストに求められる負担はかなり大きいです。黒人と白人が舞台に立てば、その存在だけでバックボーンや空気感が醸し出されます、アジア人だけでの公演となると、このあたりがかなり苦しい。和風×NYスタイルなのですから。多分、元々は人種による声質や歌唱法の違いも考慮して作られていると思うのですが、日本人の体格、日本人の声帯に合わせて、かなりアレンジが施されていて、ことに今回な東京初演ではあるものの、劇団四季としては6年間にわたって上演を続けている作品ゆえ、初見者としては、そのアレンジぶりがちょっと気になりました。いえ、見事に劇団四季テイストに処理されていて、安定していますし、技術点は高いと思います。でも「何か違うよねぇ」という違和感がぬぐえないプロダクションです。

 劇団四季テイストとは何かというと「どの役も均一な歌唱法」「役作りを無視した演出ゆえ、階級や人種の個性が出ないこと」が目立つところでしょうか。読み合わせで「とりあえず声にしてみました」という台詞や歌は、気にならない人は平気らしいのですが、僕はちょっと苦手。ミュージカル・ナンバーって歌詞や振付も大事ですが、声色や時に無駄とも思える動きのタメなど、ちょっとした贅沢の積み重ねでかなり豊かなものになると思うんですけど。(衣装や装置はあまりゴージャス感なし)。

 よって、アイーダとアムネリスが、気の強いヒスパニック系の姉ちゃんと、いかにもアメリカンなお譲ちゃんに見えてきます。アムネリスなんて、アメリカ人の描くアメリカンなお譲ちゃんなので、軽くて良い人になってるんです。婚約期間9年目を迎えるフィアンセを侍女ごときに奪われ、恋人には邪険にされ、さらには父親暗殺未遂やら機密情報の流出やら、挙句の果てには駆け落ちまでされそうになりながら、アイーダに対してもラダメスに対しても「キィ〜」っとなることもなく、さりとて、エジプトを背負っていこうという貫禄もなく、やたらと物分かりの良いお姉ちゃん。そもそも、登場シーンなんてプールですし(スタイル完璧でしょ、というのはかなり無理がある設定でしたが)、リッチなティーンエイジャーって感じ。もちろん、一人の女として成長する過程は描かれていますが、自立を意識するナンバーがいきなりファッション・ショー。ボン・キュン・バン&超個性的な面々向けのドレス(ゴルチェっぽいデザイン!)があまりに似合わずお気の毒。(アムネリスは豪華な衣装が次々に登場するのですが、どれ一つとして似合わないんです。下手っぴでも、檀れいはどんなドレスでもゴージャスに着こなしてたな、と再評価)。役を無視して「私はモデルよっ」と濃厚に踊る女性アンサンブルは唐突だし違和感はタップリだったけれど、個人的に好きです♪ 男役が演じる娘役みたい。ゴツクてエロクてノリノリ。

 アイーダも、どんなに落ちぶれようが、尊敬と信頼を受け、アムネリスとは常に対になる立場でありながら、王女としての存在感がないので、盛り上がるべきところが盛り上がらないんですよね。なんだか、一人の男をめぐって、高校生が繰り広げる物語って感じで、命をかけた戦いや駆け引きはございません。濱田めぐみは山口祐一郎タイプの女優で、決めの場面で強い喉を活かして歌い上げるので、客席はヤンヤヤンヤの喝采を贈っています。確かに素晴らしい喉。でも、情感があるタイプではないので、台詞だけの場面になると途端にだれます。強さ一辺倒のアイーダで、ラダメスと出会って変化していく過程、恋人であり政敵でもあるラダメスとの関係の苦悩などはバッサリ割愛し、あまり悩みなき王女様。ま、今回はショーだと思えば、あれこれ凝った役作りよりも、単純明快の方がフィットするのかもしれませんね。

 ところで、先月の梅芸版のアイーダも、スカラ座のアイーダも、兵士たちは結構マッチョに体を作っていましたが、劇団四季版はみなさんスリム。生水を飲んで、何日も吐き続けた、という設定も納得です。敗者のエチオピア兵を変じる際はピッタリですが、エジプト兵の場面だと「弱そうだなぁ」と。ラダメスも、右に並ぶ者のない武将というより、インテリタイプ。あ、今日のラダメスは渡辺正が演じていましたが、まだ四季っぽくない歌唱法で、声量がなく、音域も狭い中、いかにもプリンシパルっぽかったけれど、年齢的にトウが立っている感は否めず。父・ソーサーやファラオとの年齢差があまり感じられないのと、上半身裸になった際の肌質がどうしても中年。蛇足ながら、カーテンコールでラダメスだけ普段着のオッチャン\(+×+)/ そりゃ、最後の場面は現代の美術館だけど、アンサンブルは劇中の衣装に着替えてるんだし、主役一人だけ普段着だと……なんだか「ご来場100万人目のお客様」の記念撮影みたいwww

 格好良かったのはラダメス・パパのソーサー。今回のプロダクションで初登場の人物。大将軍を育てた父親にふさわしい貫禄と野望をにじませる方で、飯野おさみが大活躍。一瞬、男性ダンサーを引き連れて、舞台狭しと踊りそうになるものの、ほんの数秒踊ると、あとは舞台の上をウロウロするだけなのは御愛嬌。まだまだ動ける方なので、頼めば踊っちゃいそうですが、オリジナルの演出に従うからには仕方ありません。唯一の悪役として、気持ち良さそうに演じられてました。声も動きも余裕があります。

 個人的にドンピシャリ!と思ったのがメレブ:中嶋徹。どこから見ても召使い。痩せすぎてこけた頬といい、オドオドした様子といい、おまけに、ラダメス&アイーダ逃亡シーンでは、勇敢に刀を持って二人を守ろうとするものの「えいっ、あ、負けた!」とアッサリ切られてしまう弱さがなんともピッタリ。ベスト・キャスティングです。

 それにしても東京公演は生オケでというのが売りの劇団でしたが、今回はカラオケ。客席の響きが途端に嘘くさくて、なんで、なんで!?な悲しい状況。どんなに素晴らしい演奏・録音だとしても、ライブならではの空間で冷静な音楽を流されても違和感があるんですけど。。。


2009年10月10日(土)18:00-20:50
宝塚歌劇団星組「再会」「ソウル・オブ・シバ!! −夢のシューズを履いた舞神−」@神奈川県民ホール

 S席 7000円 1階-14列-24番 (パンフレット:1000円)

 演出:石田昌也(再会)/藤井大介(ソウル・オブ・シバ!!)

 ジェラール:柚希 礼音
 サンドリーヌ:夢咲 ねね
 クードレイ:英真 なおき
 エマニュエル:百花 沙里
 図書館職員/カナリア:毬乃 ゆい
 フローレンス:琴 まりえ
 ベルトロ:天霧 真世
 カナリア:梅園 紗千
 スティーブ:彩海 早矢
 マーク:凰稀 かなめ
 ポーレット:音花 ゆり
 モントロン:鶴美 舞夕
 アンドレ:水輝 涼
 カナリア:妃咲 せあら
 ピエール:壱城 あずさ
 ミッシェル:如月 蓮
 マネージャー:海 隼人
 支配人:直樹 じゅん
 ジャン:天寿 光希

 ジェラール:柚希礼音は、とてもマッチョなトップスター。今日のマチネで見た兵士たちの誰よりも逞しいんです。そういえば、この人は新公でラダメスを演じてましたっけ。強そうでしたwww ショーでは、ほとんど引っ込むことなく、歌いっぱなし、踊りっぱなしなのですが、さんざん踊った直後でも、息絶え絶えになることなく、朗々と歌い上げちゃうのにはビックリ仰天。数か月前まで、安蘭けいトップの星組の中では、若手スターだった柚希礼音ですが、今日は組長が参加してはいるものの、共演は下級生だらけ。若返った星組を強烈にアピール。今回はパワー・パワーの力技で押し切っていましたので、今後は客席で肩の力を抜けるような、ほっとする場面もあるとメリハリがついてさらに良くなるんじゃないでしょうか。

 さて、今回のお芝居「再会」は、役の上での年齢と演じる側の年齢がメチャクチャ。役によっては若さが出てしまい、やや混乱の元。とはいえ、いかにもおとぎ話なファンタジーの世界は宝塚歌劇にピッタリ。どちらかというと、重い芝居を得意とする轟悠や朝海ひかるら、前任者と異なり、柚希礼音はアイドルのように若々しく、ハツラツとして役作り。共演者とのバランスが取れてます。このところ、重々しい作品が続いていたので、肩の力を抜いて、彼女自身が公演を楽しんでいる模様。余裕があるのは良いことです。サンドリーヌ:夢咲ねねは体当たりで勢いの良い芝居が心地良く、下級生たちは、オーバーな芝居を楽しんでいる模様。

 ショーは元々轟悠特別出演で湖月わたるを中心に、さらにベテラン二番手の安蘭けいが加わっての層の厚さが本公演では魅力でしたが、今回は若手大売り出し。上手い・下手の前に、抜擢され張り切っている女の子たちの張り切りぶりが印象的でした。地方公演は銀橋がないので、フィナーレのパレードでは舞台をウロウロするのが常でしたが、今日は客席になだれ込んで顔見せ。二階、三階の観客無視が気になる演出ですけれど、一階通路側だったので、素直に楽しむことに。握手しまくりでしたが、さて、アナタ達は誰(?_?)


2009年10月11日(日)14:00-16:00
黒柳徹子主演海外コメディ・シリーズ20周年記念作品「ベッドルーム・ファンタジー」@ル テアトル銀座

 S席 9000円 13列-4番 (パンフレット:1200円)

 演出:高橋昌也

 グリフィン夫人:黒柳徹子
 ラップチック:田山涼成
 ルイーズ:立石凉子
 コネリー:石田太郎
 グリフィン氏:団時朗

 セックスレスを乗り越えようとアブノーマルにチャレンジする徹子&ウルトラマンによるグリフィン夫妻の怪しげなセラビー騒動。空き巣のラップチックや、マンションの管理人のコネリーを巻き込み「徹子が男に襲われるところを、女装したグリフィン氏がクロゼットの隙間から眺める」とことをしたいのに、なかなか事はうまく運ばず、グリフィン夫人の姉であるルイーズまで登場して「どうやって収拾されるのか?」が気になりつつ、シンプルなストーリーですが、ゲラゲラ笑って酸欠です。

 その原動力は何と言っても黒柳徹子。徹子がグリフィン夫人を演じているのではなく、グリフィン夫人が徹子になってます。良く、役に近づくタイプの役者/役を近づける役者という表現を使いますが、徹子は文句なしに後者。真っ黒でスケスケの娼婦仕様のセクシーランジェリーにガーターベルト姿でモリクミも真っ青な(特殊メイクの)巨乳アピール(@_@) 共演者を強引に仕切り、いじり倒し、それでいて気分が乗らなきゃポイッと捨てちゃうあたり、芝居なんてどこへやら。テレビと変わらず強烈な徹子ぶりが実に爽快。彼女のマイペースぶりに翻弄され振り回されっぱなしの二時間。芸人殺しの彼女にかかっては素人客なんてチョチョイのチョイ。徹子を観たいというファンも満足、芝居重視の方もここまで役と役者が同一化していれば文句のつけようもありますまい。

 一方、宝塚娘役トップじゃなきゃ着用しないであろう赤ラメがキラキラ眩しいドレスを巨体にまとい、久しぶりに野郎の女装(オカマではない!)で度肝を抜いてくれた団時朗。岡田眞澄亡き今、ベテラン女優を深く優しく抱きしめるのがこんなに似合う人は彼をおいて他に思いつきません。どんなに徹子が暴走しようと、最後に団二朗のハグハグで万事解決。


2009年10月11日(日)18:00-20:30
来日カンパニー「CHICAGO」@赤坂ACTシアター

 S席 12000円 1階-P列-41番 (パンフレット:2000円)

 演出:ボブ・フォッシー、ウォルター・ボビー

 ロキシー・ハート:ビアンカ・マロキン
 ヴェルマ・ケリー:テラ・C・マクラウド
 ビリー・フリン:ケヴィン・リチャードソン
 エイモス・ハート:トム・リース・ファレル
 ママ・モートン:キャロル・ウッズ
 メアリー・サンシャイン:D.ミッシーチ
 フレッド・ケイスリー:大澄賢也

 昨年、同じプロダクションの日本版の上演もあったけれど、フォッシーのエロティックだけれど下品でない、アダルトな色気プンプンのこの作品は肉体的ハンデもあり、来日カンパニーだと安心して楽しめます。筋肉の付きかた、動きのしなやかさなど、人種が違うのですから真似するなんて無理っ。顔芸だけだったらツレちゃんでも出来るけれど(あ、東宝版ロキシーでしたっ)、。みなさんダンスがしなやかで、柔らかな筋肉の動きに惚れ惚れ。ピタTや裸がほんっと似合います。適度な筋肉、程よい肉付き、長い手足、豊かな表情……美しさに惚れ惚れです。こんなに簡単なダンスだったっけ?と錯覚を起こすほど。

 それにしても、今年の来日ミュージカルはレベルがかなり高いですね。ロキシーvsヴェルマの対決ぶりがなんとも小気味よいプロダクションで、二人揃って「主役を担うにはこれ位余裕がないとね」な芸のバトル。そして、互いを攻撃しあっても、どことなく陽のオーラがあって、シニカルではあるけれど、コメディとしての大らかさをキープしているんです。「殺人、欲望、堕落、暴力、宣伝、姦通、裏切りの物語」ですから、ギスギスされたら客席は息が詰まっちゃうでしょ。壮絶なエピソードの一つ一つ、ロキシーとヴェルマの女同士の男と自由をかけた戦いの一つ一つがなぜか笑えちゃうのに救いがあります。

 女性陣に存在感がありすぎて「アナタはいなくても大丈夫じゃない?」だったのがビリー・フリン:ケヴィン・リチャードソン。押し出しで女優陣に負けてます。でも、日本人としてカンパニーに参加し、フォッシー・スタイルの面で遜色ない実力を発揮したフレッド・ケイスリー:大澄賢也は大拍手もんでしたし、メアリー・サンシャイン:D.ミッシーチは女装を超えて、あまりに見事なメゾ・ソプラノぶりに、耳が釘付け。


2009年10月18日(日)14:00-16:50
新国立劇場バレエ団「ドン・キホーテ」@新国立劇場オペラパレス

C席 4200円 3階-L9列-3番 (パンフレット:1000円)
指揮:アレクセイ・バクラン
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 キトリ:本島美和
 バジル:福岡雄大
 ドン・キホーテ:市川透
 サンチョ・パンサ:吉本泰久
 エスパーダ:マイレン・トレウバエフ
 森の女王:堀口純
 キューピッド:さいとう美帆

 トップお披露目なのか、新人公演初主演かわかりませんが、バジル:福岡雄大の主役デビューです。若者たちが勢いで突っ走るストーリー、精神面の奥行きではなく、カラッと明るい役という意味では、初主演には向いているんでしょうね。こんなにゴージャスなプロダクションで主役デビューだなんて羨ましい方です。今や、衣装にかけては、●塚歌劇団をはるかにしのぐ豪華な団体。

 残念ながら「観客にどう見せよう、観客をどう魅せよう」という状態ではなく、結構イッパイ×2状態。リフトはグラグラ、ジャンプもヨロヨロ、何よりも、表情が強ばりまくっていて、「固い舞台だなぁ」というのが印象強かったです。ミスの後、それを挽回しようと焦ってしまうのか、舞台が雑になってしまうのが初々しいというか、まだまだというか。そして、いきなり新国バレエに参加ということもあってか、見せ場以外で、舞台のどこかでワイワイ芝居する場面が……浮いてました。頑張って芝居してるんですが、やはり、長年一緒に過ごしているカンパニーにいきなり加わるのは難しいですね。

 キトリ:本島美和は期待通りの華やかさ。オメメパッチりでベッピンさんです。彼女も踊りが固く、主役としては大きさ不足。踊りがどことなく上品で、ピリッとした振付も、キリッとした決めのポーズも今ひとつ決まりません。これは、バジルとの身長差もあるのかもしれません。バジルが小柄で、ほとんど身長差がないがゆえ、高さや距離感、勢いに差がでちゃった模様。コンビの相性は難しいです。

 初々しい主役カップルをサポートし、見せ場では彼らを食ってしまったのがベテラン勢。さすがのキャリアです。マイレン・トレウバエフと湯川麻美子のカップルは、今や新国きっての大人っぽいコンビとして、ボレロを鮮やかに決め、キャリアの差を見せつけてくれました。この場面の濃紫&アクセントにトルコブルーの衣装がとても似合っていて、見ごたえがありました。そして、ローテーションの関係でなかんかあお目にかかれなかったドン・キホーテ:市川透のダンディぶりが新鮮。狂気の老人ではなく、騎士道に生きる老紳士。そして、ドン・キホーテに連れそうサンチョ・パンサに吉本泰久。彼もついにこの手の役を演じるようになったのか、というちょっと寂しい気持ちもありますが、本当はまだまだ動けるのに、肉布団を着込んで、嬉々としていて、三枚目は三枚目で見ごたえがありました。名ダンサーはどんな役でも物にしちゃうんですね。

 バレエ団によっては、中高生のお姉さんが踊ることの多いキューピッドは、さいとう美帆が続演。いつまで演じられるんでしょう? 年齢を重ねてなお若々しさを保つ凄さに感嘆。彼女の場合は、逆に子供っぽさが抜けない(色気がない)ので、他の役でどう演じるかが課題なんですが、キューピッド役については技術も役作りも「お手本」な出来で、実に安心。その他、厚木三杏、寺島まゆみ、小野絢子、西川貴子をはじめ、主演級ダンサーがさりげなく脇役に登場していて、女性ダンサーの層の厚さは頼もしい限り。

 一方、男性ダンサーはコマ不足!? 闘牛士たちはナイフがキレイに舞台に刺さらず、けが人が出ないかどうかヒヤヒヤしましたし。マント裁きが今ひとつの方もチラホラ。マイレンなんて、すっかり体の一部になっていて、ひるがえすも、投げるも、ヒョイと拾って肩にかけるも、さりげなく絵になるので、ついつい簡単なものと見ちゃうけれど、実は凄いことをしてるんだな、と。でも、やっぱりこの場面は格好良いです。宝塚のマタドールもキレイだけれど、男性ならではの力強さや切れの良さは爽快感タップリ。


2009年10月22日(木)18:50-20:50
映画「あなたは私の婿になる」---THE PROPOSAL---@TOHOシネマズ 市川コルトンプラザ スクリーン5

 全席指定 一般前売 1300円 J列-36番 (パンフレット:600円)

 監督:アン・フレッチャー

 マーガレット・テイト:サンドラ・ブロック
 アンドリュー・パクストン:ライアン・レイノルズ
 ガートルード:マリン・アッカーマン
 ジョー・パクスト:クレイグ・T・ネルソン
 グレース・パクストン:メアリー・スティーンバージェン
 祖母のアニー:ベティ・ホワイト

 鬼上司と聞いて思い浮かべるのが「プラダを着た悪魔」で、メリル・ストリープが演じた有名ファッション紙の編集長。今回、サンドラ・ブロックが演じるマーガレットはやはり出版社(多分文芸物)の編集長。迫力こそちがいますが「魔女」と呼ばれ、彼女が登場するとオフィス内には緊張が走り、私語なし&整理整頓がなされる程の存在感。休日出勤なんて当たり前、仕事の出来ない部下はクビにししちゃう仕事一筋の40歳。事に向ける緊張感とバリバリと取り組む姿勢、結構好きです。「返事はYesしか要らないの!!」なセリフにいきなりしびれました。オフィスで真似したい!!

 そんな彼女のうっかりミスが「カナダ人なのに、ビザ更新の手続きを忘れてしまい、強制送還扱いに! それは困る、私には仕事があるのよ!と窮地に追い込まれた彼女が咄嗟に選んだ手段は28歳のアシスタント、アンドリューとの偽装結婚。編集者への昇格を交換条件に、草食男子の彼を、彼女の言いなりにする……になるはずが、移民局の調査対策として、ニューヨークから、アンドリューの実家、アラスカ州シトカまで結婚の報告に行く羽目に。ところが、アンドリューは単なる腰ぎんちゃくではなく、パクストン財閥の超おぼっちゃま。想像以上に大ごととなった結婚話に四苦八苦して、やがて二人は……という、ま、ストーリーはどうってことないんですが、この作品すごく気に入っちゃったんです、ワタクシ。というのも、好きなシチュエーションしか出てこないんですもの。

 忙しくバリバリ働き、毒舌全開のニューヨークでの生活と、自宅=島が丸ごとで、the お坊ちゃまな豪邸暮らし。ヒロインが「アナタタチ、何者なの?」とオクチをアングリさせちゃうのも納得。シトカは小さいながらも垢ぬけていて、ところどころに時代遅れな風習・システムが盛り込まれて笑いを取り、それでいて、自然一杯のカントリーライフにゴージャスなパーティ、一見不便そうなところは、お金に物を言わせて、水上バイクや小型飛行機が大活躍。映像を眺めているだけで幸せ。愛情いっぱいの家族だけれど、真面目一辺倒ではなく、ばあちゃん&ママがマーガレットを男性ストリップに連れ出すなんていうさばけた感じも好印象。島で一人しかいないストリッパーは、携帯ショップの店長であり、時には神父さんでもあって「良いの?」な設定ですが、良いんでしょう、きっとwww

 「そんな彼なら捨てちゃえば」や「男と女の不都合な事実」はちょっとイライラする場面も多かったし、話が分散しすぎていて、映画を観終わった際のカタルシスが不足していたけれど、今回はストーリーは安心だし、細かなシチュエーションでは笑わせるし、何よりも、アンドリューママ・ババ(パパではないです、念のため)、いかにもアメリカンな愛情いっぱいぶり、ちゃめっけタップリの言動、有無を言わさぬちょっとした強引さなど、幸せムード一色。普段の復讐とばかりに、アンドリューが「彼女は自分の荷物を運ばれるのが嫌なんだ」と荷物を運んであげなかったり、「泳げないのよ」という彼女を「じゃ、ここに置いてくぞ」と突き放すあたり(自宅=島なので、ボートに乗り換えないと帰宅できない!)小気味良いですが、基本、嫌な奴は一人も出てこないんです。というか「アナタ、こんな良い人のどこが気に入らないの?」な訳でして、心に引っ掛かりを感じることなく、安心して笑い転げられるのが心地良い一本。

 マーガレットは高ピーだったし、やや人を見下ろす部分、人の心を思いやらない部分があったのにもかかわらず、アンドリューの家族が暖かく彼女を迎え入れ、偽装結婚なんて思わずに彼女を歓待することにより、マーガレットが人と人との暖かさに目覚め、愛に目覚め、自分の犯している罪に悩み、と王道ラブコメディ。表面的な面白さを追ったコメディではなく、人間愛・家族愛に向かってのストーリーなのが他のラブコメディとは一線を引いた映画。上映時間も手ごろで、気楽にくつろいで「何か面白い映画を観たいな」って時にピッタリ。も一度観に行きたいと思ってます、実は。


2009年10月24日(土)13:00-15:25
劇団四季「ドリーミング」@四季劇場[秋]

 C席 3000円 2階-9列-3番 (パンフレット:四季の会会員料金 1300円)

 演出:浅利慶太

 チルチル:大徳朋子
 ミチル:岸本美香
 犬のチロー:田中彰孝
 猫のチレット:林 香純
 パン:白瀬英典
 火:本城裕二
 水:柏谷巴絵
 牛乳:市村涼子
 砂糖:塩地 仁
 光・隣の娘:沼尾みゆき
 ベリリューヌ/ベランゴー:光川 愛
 母親チル/夜の女王/母の愛:白木美貴子
 父親チル:田代隆秀
 祖母斉藤昭子.祖父/カシの大王/時の老人:田島亨祐


 「AIDA」に引き続き「地方公演のプロダクション、そのまんま?」な残念な公演でした。まず、カラオケ公演! 音がこもった録音で、ライブ感がなく、かなり興ざめ。そして、元々の青山劇場のような24分割の舞台全面のセリや、回り舞台内臓のスライディングステージもないので、それがなくては上演できないって作品ではないけれど、やはり見せ場がなくなっているのは寂しいです。よって、舞台装置のセリ上がりはなくなり、演技スペースも平面的に、そして、装置の出入りも見せ場ではなくなりました。これらは、東宝劇場で観ていた作品を、地方公演で観ているような(こちらもカラオケになり、装置は簡略化されます)気分になります。残念な公演です。

 ソフト面でも変更点が多数ありました。まずは、チルチルが男性俳優から女優による男役へと変更になりました。そして、テーマ曲を含めたミュージカルナンバーの差し替え。まるでレビューのように、スターたちが歌いつないでいたオープニング・ナンバーが素朴な民謡風な曲調に。さらには、未来の国での子供たちは、女優たちによる芝居ではなく、子役たちの場面に。これらの変更により、大人向けの童話だった作品が、ファミリー・ミュージカルへと味わいが変わっています。

 スター俳優を総出演させていた今までの公演に対し、とにかく人手不足、スター不足の現在の劇団四季の公演としては、今回もほとんど名のある俳優なしでの公演。よって、スターの個性が見せ場だった場面の見せ方が変わってくるのも致し方ありません。火・水・牛乳・砂糖たちは、役の上ではほとんど見せ場がないだけに、個性の薄い俳優たちによる演技だと、すっかり「その他大勢役」へとパワーダウン。

 四季独特の発声法の好みはともかくとして(僕は大嫌いですけど)、その発声法を消化して、自然な台詞を話せる俳優が枯渇している現在、まるで小学生の朗読を聞いているかのような台詞の応酬、リズム感を無視して間延びしている台詞に眠くなりながら、「同じ発声法でも、市村正親や保坂知寿は変化に富んだ台詞だったよなぁ」と思いをはせてました。結局のところ、息の長い俳優がほとんど絶滅し、新人たちによる公演を観ているっていうのもあるかもしれませんね。本公演ではなく、新人公演を見せられてるんじゃ、そりゃ満足度は低くなりますわ。深みのあるお芝居にはキャリアが必要ですわ。脇役専科はもとより、ベテラン・スターが。今日の面々は、スターには小ぶりにまとまっている感があります。

 劇団四季が専用劇場を使用するようになってからというもの、小屋が小さいのと比例して、役者の芝居も小さくなっているような印象があります。作品にフィットという点では、今の小屋の方が合っているんでしょうが、スター育成には、大空間でのお芝居というのも経験が必要なんじゃないかなぁ、と思ってます。ツレちゃんの言葉だったと思いますが「大劇場で芝居したことがあれば、どんな劇場にも対応することができるけれど、その逆は無理」と。客席からのエネルギー、重圧を跳ね返すには、確かに……ね。役者ではなく、作品を売る、という劇団の姿勢はともかくとして、看板を背負わせて、スターの意識を与えない限りは、俳優が育たない気がするのですがいかがなものでしょうか。今、四季で名前の通っている役者って、結局のところ、名前を売り出してもらっていた人ばかりですし。。。劇団四季の事業展開と、作品に対するスタンス、役者の育成について、うまくかみ合ってない印象を受けてます。


2009年10月24日(土)17:00-20:25
東宝「屋根の上のヴァイオリン弾き」@日生劇場

 B席 4000円 2階-I列-44番 (パンフレット:1500円)

 演出:ジェローム・ロビンス、寺ア秀臣

 テヴィエ:市村正親
 ゴールデ:鳳蘭
 ツァイテル:貴城けい
 ホーデル:笹本玲奈
 チャヴァ:平田愛咲
 モーテル:植本 潤
 パーチック:良知真次
 フョートカ:中山卓也
 シェイロム:真島茂樹
 ラザール:鶴田 忍
 巡査部長:廣田高志
 イエンテ:荒井洸子
 司祭:青山達三
 アヴラム:石鍋多加史
 ヴァイオリン弾き:日比野啓一
 フルマセーラ:園山晴子
 ロシアンテナー:杉山有大

 新キャストが参加の「屋根の上のヴァイオリン弾き」です。かなりのメンバーが入れ替わってますが、ツレちゃん期待通り、モーテル期待以上!(いっちゃんは何度も観てるから)。

 いっちゃんテヴィエ、プロローグの「しきたり〜〜〜♪」の途中でいきなり遅れてきた客いじりですよ。これは初めて見ました。でも、ツレちゃんに腕枕してもらって寝るのが可愛い♪ 神様との対話については、今までよりも宗教色がなくなり、自問自答的な印象を受けましたが、これは照明の影響もあるかもしれません。よって、悩める父親、悩める夫、といった人間的部分が強く出てきました。一見、尻に敷かれているようで、いざという時には頼りになる家長の貫禄を発揮。ダメ親父→家長へのシフトが素晴らしい! そりゃ、ツレちゃんが愛しちゃう人もだもの、尻に敷かれるだけじゃないさね。この両面を過不足なく、存分に見せられる役者さんもそうはいますまい。ツレちゃん相手だといっちゃんも舞台がデカイ!さすが名優。

 で、そんないっちゃんを尻にしいているかのようなゴールデ:ツレちゃんですが、今までも名演の多いこの役の中にあって、もはやツレちゃんゴールデしか思い出せない程の強烈な存在感! 大柄だし、腰に手っがこれ以上なく似合うので、ガミガミっぷりがなんとも様になるんだけれど、表情の崩し方(メロメロ〜って顔が本当に似合います)が絶品で、単なる口うるさい母親になってないのが素晴らしい! そして、ツレちゃんは喜怒哀楽が激しいので、ゴールデの思いというものに強引に引き込まれて、一緒に泣いたり笑ったり。いっちゃんとの「愛してるかい?」は笑って、笑って、涙を流しました。「は!? アナタ何言うてるの?」と後ずさりしちゃう→「もう、やめてよ」と照れまくる→「嬉しいわぁ」とメロメロになるという流れが顔だけでも伝わってきます。可愛いです。でもって、チャヴァが家出して改宗したと聞いて泣き崩れる場面では、あまりに激しい号泣ぶりに観ているこちらも心臓がえぐられそう。声なんてかけられない(そんな中、気丈にも「チャヴァは死んだ!」と心にフタをしちゃうテヴィエの強さと心の痛みにまた泣けるんだわ)。それでいて、アメリカへの亡命(で合ってる?)の際にはテキパキ引っ越し作業・指図アレコレを行い、これまた良く働く素晴らしいお母ちゃん。

 いっちゃんテヴィエとツレちゃんゴールデの娘というには、みなさん芸風が大人しい娘たちですが、例えば、長女のかっしーツァイテルは、ミニ・ゴールデというには迫力不足が否めないけれど、妹たちを引っ張るお姉ちゃんって雰囲気はタップリ。ホーデルはパーチックとの対立→ラブラブの過程が弱いけれど、気丈にも、パーチックを追ってシベリアへ向かう際のテヴィエとの二人芝居は、妻(になるにあたって)の強さと同時に、テヴィエに対しては、娘としてつい弱みを見せてしまう震える心、そして、それらを理解した上で、娘には毅然と、神様には涙ながらにお祈りするテヴィエ。何度も見ている場面なのに、胸が熱くなる名場面、名演技でした。それだけに、「愛する我が家を離れ」でも少し鋭く、豊かに響く歌声が欲しいところ。。。

 さて、とはいえ、今回の上演で一番唸ったのはモーテル:植本潤。いっちゃんもツレちゃんも素晴らしいのが「当然」と思っている部分があるので、ノーチェックのダークホースが名演技を見せてくれると、背中が震える感動を覚えます。いわゆる草食男子っぷりがいた板についてて、オドオドしているのがわざとらしくないから、観ていてイライラとストレスがたまんないんですが、それだけに、テヴィエに怒鳴り返す場面では、猫に追い詰められたネズミの逆襲じゃないけれど、凄い迫力。ツァイテルはソロ・ナンバーがあるわけでもなく、恋人が政治的・宗教的なドラマティックな立場でなく、貧乏ではあるけれど、家族に、村人に祝福される、ちょっと存在の薄い役にもかかわらず「恋人たちのお芝居」として、しっかり立場を確立したのはご立派。反面、パーチック:良知真次とフョートカ:中山卓也はせっかくの美味しい役なのに、見せ場が見せ場にならなくて消化不良。

2009年10月27日(火)18:30-21:35
宝塚歌劇団花組「外伝ベルサイユのばら −アンドレ編−」「EXCITER!!」@東京宝塚劇場

 S席 8500円 1階-23列-19番 (パンフレット:1000円)

 演出:植田紳爾(ベルサイユのばら)/藤井大介(EXCITER!!)

 アンドレ:真飛聖
 マリーズ:桜乃彩音
 アラン:壮一帆
 ブイエ:星原美沙緒(専科)
 マロングラッセ:邦なつき(専科)
 ジャルジェ:箙かおる(専科)
 シモーヌ:夏美よう
 カロンヌ夫人:高翔みず希
 副官エーベル:眉月凰
 ランバール夫人:絵莉千晶
 ドギーヌ夫人:悠真倫
 オスカル:愛音羽麗
 ベルナール:未涼亜希
 カトリーヌ:桜一花
 アルマン:華形ひかる
 フェルゼン:真野すがた
 ランベスク夫人:花野じゅりあ
 ジョアンナ:初姫さあや
 ロセロワ:日向燦
 ドランド:扇めぐむ
 ドレッセ:夕霧らい
 ブルゼ:祐澄しゅん
 シャロン:朝夏まなと
 イヴォンヌ:華耀きらり
 ラサール:月央和沙
 ヴェール:望海風斗
 イザベラ:白華れみ
 イレーネ:天宮菜生
 メリー:華月由舞
 アルベール:嶺乃一
 ジャン:彩城レア
 ミッシェル 煌雅あさひ
 マリーズ(幼少時代):天咲千華
 アンドレ(幼少時代):大河凜

 1763年、再会の約束をして分かれたアンドレとマリーズ。マリーズはアンドレを思い続けが、1789年に二人が再会した時、アンドレは別の女(=オスカル)にうつつを抜かしていた……。

 と、思いっきりドン引きなバージョン。アンドレが「これが私の愛の形〜♪ これが二人の愛の形〜♪」って歌ったところで、本心はオスカルとの愛の形でしょうに。いかにもホスト的な薄っぺらいアンドレです!

 そもそもが「26年も待てるか、コラッ」な話です。んなこといったら、ワタクシ、幼稚園時代にあっちゃん(としか覚えてない)と「大人になったら結婚しようね」と約束したまま、別の女性と結婚しちまいましたが(汗) マリーズは30才近く(多分に30オーバー!?)まで、幼少時代のおままごとのような恋愛以上の経験はなかったんでしょうか??? 「私と付き合うならば、アナタの連帯がパリ出動にならないよう掛け合ってあげるわ」と、振られる女の王道セリフを平気で言っちゃうあたり、恋に恋する女性であることが伺えます。

 全体のストーリーとしても、ヒロインそっちのけで、アンドレの浮気場面が延々と登場。「アンドレとオスカルの報われない愛」「アンドレとテレーズの呆れてモノが言えない愛」「アンドレとアランの友情物語」のどれが主なのか、芝居の主軸が見えない状況。アンドレの失明やら王妃とフェルゼンのサブストーリー、はたまた義父ブイエ将軍と養女マリーズの絆など、見せ場は沢山あるのですが、見せ場ばかり詰め込みすぎて、結果、どこが見せ場かわからないまま時間だけが過ぎ去ってしまいました。

 そもそも見せ場と思える場面はみな中途半端なんです。アンドレとオスカルの「今宵一夜」の場面はあれども、マリーズとの身の丈に合った恋愛を切り捨てた直後に貴族のお嬢様というのは観ていてすっきりしませんし、テレーズはアンドレに振られた後、すっごく嫌な女になり下がってしまうし、アランたちが「俺たちがお前に必ず声をかけてやるから!」と言いつつ、いざ戦いが始まればアンドレが最前線(そして、なぜかオスカルは舞台から消えてるし)、話のオチはマロン・グラッセが担うし、何を描きたかったのかが見えないと、生徒が気の毒。

 かといって、生徒たちのお芝居が良かったかというと、その逆。最近はリアルな芝居は多くなってきたけれど、大芝居になると一同お手上げ。間をタップリとることができず、観客を盛り上げる前に、自分たちだけフライングしちゃうんです。泣き台詞だと、さっさと自分だけ泣いちゃうから、観客は台詞は聞き取れないし、とにかく、とにかく置いてきぼりの気分。そういえば「アニー」のメイキング番組で、毎年のように演出家の篠塚氏がアニー役の子に「さっさと泣くな!」と叱ってますが、花組生もぜひ誰か叱って下さい!! あ、若手だけでなく、ベテランもだった!! マロン・グラッセなんて、まともに台詞を述べるシーンがあったでしょうか???

 そして、相変わらず、平民よりも下品な貴族たち。ベルサイユ宮殿の雅な世界を担っているはずの面々が、恐ろしいまでに大阪のおばちゃん。貴婦人たちとは役名だけで、よくまあここまで品なく演じられるかに唖然呆然。コメディの場面が大阪人になってしまうあたり、宝塚は関西の劇団なんだな、と思いだす瞬間です。おかげで、アントワネットの決意も悲劇も(って彼女は登場しませんが)粒が立たずじまい。BGMで流れる典雅な音楽がむなしく響きます。

 さて、ショーは元気いっぱいで、勢いで押しまくり。主題歌が歌謡曲みたいで、いつものショーっぽくないのが新鮮。この手の曲は情感タップリに真飛 聖ら男役が歌うと、時に音が切れてしまって聞きにくいのですが(ショーの歌は芝居の歌とは上手さの基準が違うと思う)、意外や意外、歌が苦手とされている桜乃 彩音の「曲想よりも音をしっかり取ろう」な歌唱が一番光ってました。プロローグでは、男役数名を引き連れ、銀橋を渡るのですが、この歌唱だけで、すっかり場をさらってしまいました。桜乃 彩音は春野寿美礼の相手役時代は委縮した感がありましたが、真飛聖が相手役になって、伸びやかになってますね。  真飛聖はMR.YOUの場面が出色。宝塚のコメディ場面は、ベルばらのコメディ場面じゃないけれど、2000人以上の客を乗せる前に自分たちだけが笑いだしてフライングするんだけれど、真飛聖は遊び用の声が自在に出せて、おまけに通りが良いので、客席に歌詞がきっちり伝わること、また、音楽と振付がしっかりしていて、生徒個人の遊びではなく、きっちり作られた笑いなのが良かった。そして、ミュージカル・ファンとしては「ヘア・スプレーのパロディだ」「ここはドリームガールズ?」その他、アメリカのコメディ番組のパクリが多くて、演出家と同世代の僕としては、リアルタイムでそれらを見ているので「あ、ちょっと懐かしい」と思う場面が随所に。もっとも、この場面以外は力いっぱい歌い踊っているけれど、ショーシンガーでも、ショーダンサーでもないので、場面の工夫がないと変化が乏しく飽きますね。ファンの方ゴメンナサイ。  今回の作品は「組子大売り出し」で、組長は中村紘子のような髪型で真矢みき演じた「アキラ」のショッキングピンクのスーツを着込み、若手を順に紹介。単に歌い継ぐのではなく、衣装の時代をずらすことで、演者が他の人との違いを出しやすいという、生徒思いの演出。場面を与えるだけでなく、生徒が映えるようにあれこれ手を尽くしてくれるんですから、下級生が頑張る、頑張る。虐待されがちな娘役も、歌場面あり、トリプル・デュエットありと、これまた娘役冥利に尽きることでしょう。そんな若手が張り切っている中、壮一帆が「静」の魅力を出すことを身に付け、じっくり歌を聞かせ、間をもって見得を切り、まだまだ伸びしろはありますが、ここ半年で素晴らしく上手くなりました。スターの自覚と経験がようやく一致した模様。上級生らしい安定感が出ました。


2009年10月31日(土)14:00-17:10
新国立劇場オペラ「モーツァルト:魔笛」@新国立劇場オペラパレス

 D席ATRE会員先行割引 2835円 4階-4列-33番 (パンフレット:1000円)

 指揮:現田茂夫
 演出:ミヒャエル・ハンペ
 東京交響楽団

 ザラストロ:松位 浩
 タミーノ:ステファノ・フェラーリ
 弁者:萩原 潤
 僧侶:大槻孝志
 夜の女王:安井陽子
 パミーナ:カミラ・ティリング
 侍女I:安藤赴美子
 侍女II:池田香織
 侍女III:清水華澄
 パパゲーナ:鵜木絵里
 パパゲーノ:マルクス・ブッター
 モノスタトス:高橋 淳
 武士I:成田勝美
 武士II:長谷川 顯

 本来は、日本(とも言われている)の王子がフリーメイソンの教団にやってくる……というストーリーですが、今回のキャスティングだと、立場逆転で、ヨーロッパの王子様がチベットあたりの教団にやってきたみたいな印象を受けました。美しい王子様です。が、声は……あんまり美しくない。。。力任せに歌ってる感触で、高音が厳しいのが残念。

 パミーナ:カミラ・ティリングは非常に落ち着いた演技と歌唱。夜の女王:安井陽子よりも貫禄があって、見た目は母娘が逆! パミーナを歌うにはそろそろ貫禄が付きすぎなので、共演者をかなり選びますね。でも、歌唱はモーツァルトを歌うお手本って感じで、すごく立派。ま、女王様に貫禄なさすぎってのもあるんですけどね(ドレスさばきができない女王様)。

 パパゲーノ:マルクス・ブッターは野性児というよりも非常に垢ぬけてて、それでいて型にとらわれない自由人で「こんなパパゲーノもありだな」という嬉しいサプライズ。ルックスだけだと、てっぺん禿げを抜かせばタミーノとスイッチもありな美丈夫。真面目だったり、テンションが高かったりするオペラ歌手は多いけれど、ダラダラした脱力感が魅力な方も珍しい。

 日本人歌手はおおむね快調。安定感があると時に小ぢんまりとしてつまんない時があるんですが、パパゲーノがうまい具合にひっかきまわしてくれたんでしょうか。レパートリーならではの「安心の中にチョコチョコっと新しい発見がある」素敵な公演でした。

 ザラストロ:松位 浩はヒット。長身ガッチリなのでコートがことのほかお似合いです。やっぱりコートは長身でこそ似合うってもんです。おまけに、低音が良く響いて「この声なら聞きほれるわ」と、うっかり僕まで入団申し込みしそうに。ただ、クライマックスで一同盛り上がる中、一人ふところから本を出して、舞台中央のせり下がった部分に腰掛ける決めのポーズが決まらず、観客も拍手して良いのか良くないのか悩んでしまったのは残念。あそこは、ピシッとポーズが決まってこその場面なのですが、猫背にうずくまって難しそうに本に向かい合われてもねぇ。やはり、リラ〜ックスして、お洒落なポーズで幸せそうに本に向かってくれるとフィナーレっぽいかと。