最近の研究と関心
ここでは、河野哲也の最近の研究と関心を紹介しています。
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善悪は実在するか:アフォーダンスの倫理学

 これまで善悪、あるいは価値といったものは、観点の相違に左右される主観的なものだと考えられてきました。本書では、この考えに抗して、ギブソンのアフォーダンスの概念や、カンギレムの正常概念批判、アガンベンの法批判をもとにしながら、価値や道徳が個別的でありながら、客観的であることを主張します。 客観的だが個別的な価値の概念は、ケアの倫理学やニーズの政治学、修復的司法の考えと共通項をもっています。善悪の主観主義を批判しながら、同時に、個別的なものを尊重する社会のあり方を探ってみました。
 ぜひ、ご一読ください。
 本書は『週刊読書人』2007年11月30日号で、金森修氏による書評でとりあげていただきました。
 本書は『図書新聞』2007年12月22日号、「07年下半期読書アンケート」(萱野稔人氏)で取り上げていただきました。


 心の哲学・哲学的心理学

 わたしの第一の関心は、心の哲学と哲学的心理学にあります。これは、心の定義や心身問題、心の科学の方法論などについて実証的な成果に言及しながら考察する分野のことです。
 とくに最近は、アメリカの心理学者、J.J.ギブソンの生態学的心理学を敷衍して、生態学的立場の哲学を確立することを試みています。この立場は、動物をつねに環境との相互依存性によって捉えるもので、人間の心理も環境に埋め込まれていると考えます。
 この分野の業績としては、2003年に単著『エコロジカルな心の哲学』(勁草書房)、ギブソンの最後の論集の共訳『ギブソン心理学論集:直接知覚論の根拠』(勁草書房)、2005年6月には『環境に拡がる心:生態学的哲学の展望』(勁草書房)、2006年2月には『<心>はからだの外にある』(NHKブックス)を出版いたしました。ぜひ、ご一読ください。
 07年10月には、ギブソンのアフォーダンス理論を拡大的に応用し、道徳的実在論(道徳的価値は対象の客観的性質である)を擁護する単著『善悪は実在するか:アフォーダンスの倫理学』を講談社から上梓しました。また、ギブソンの提起した問題を環境存在論として発展させたアンソロジー『環境存在論の展開(仮題)』を来年春に春秋社から出版する予定です。
 ご期待ください。


 身体論と特別なニーズ教育

 心の哲学の研究と深く関係していますが、人間の心にとって、身体はいかなる役割をはたしているか、について考える分野を身体論と呼びます。この問題に、科学哲学的、および、現象学的観点から考察していきます。
 身体は心が操縦するロボットのようなものではありません。わたしは、“身体とは無意識の心のことだ”と考えています。とくに、身体のもつ表現力、対人関係をむすぶ力に関心をもっています。
 この分野では、心と身体の関係について概説した入門書、プリースト著『心と身体の哲学』(勁草書房)を共訳し、身体と言語の関係について考察した単著『メルロ=ポンティの意味論』(創文社)を出版しました。さらに、共著『食餌の技法(メチエ)―身体医文化論4』(鈴木・石塚編)が慶應義塾大学出版会から出版されました。
 また、この身体論を、特別なニーズ教育へと応用することにもかかわってきました。「特別なニーズ教育」とは、障害をもったひとや子どもの特別なニーズに答えようとする教育のことです。独立行政法人国立特殊教育総合研究所(神奈川県)の研究協力者として、特殊教育学の専門家や先生方と一緒に、運動障害や「自閉症」と呼ばれる障害をもったひとや子どもたちの教育について研究をつづけています。
 最近は、人間の行動を、他の動物との比較において考える比較行動学や比較心理学を身体論に取り入れて、新しい人間/動物論(人間/動物身体論)を構築する仕事に取り組んでいます。


 ビジネス倫理学と成人のための倫理教育

 わたしの3番目の関心は、ビジネス倫理学にあります。
 近年、官公庁や大企業が組織的に関与した不正・不祥事や、組織の体質に起因した事件・事故が多数発生して、大きな社会問題となっています。
 官庁での不正、経営失敗の隠蔽、病院での医療ミス、環境汚染、新しいテクノロジーのもたらす問題、食品の安全、個人情報の漏洩など、現代の重大な社会的・倫理的問題のほとんどすべてが、組織のなかで発生し、組織のあり方やその体質から生まれています。
 こうした組織的な不正や不祥事を未然にふせずためには、組織そのものを、健全で、誠実なものにするような倫理的な経営をおこなわなくてなりません。とくに高度のテクノロジーを扱う組織の腐敗は、ときに取り返しのつかない大事故へとつながります。
 ビジネス倫理学(経営倫理学)とは、経営学や組織論や集団心理学と手をたずさえて、企業・組織の倫理性を向上させる方策を考案する分野のことです。
 2001年に共訳しました、ビーチャムとボウイ編『企業倫理学』(晃洋書房)は、その代表的な教科書です。
 近年は、社会心理学・教育心理学を専門とする研究者(蘭千壽・松野良一・高橋知己・樽木靖夫・山内圭子)と共同発表を行っています。その成果は、「コミュニケーションと組織倫理の教育」(『日本経営倫理学会誌』12号, 2005)、「大学生を対象とした組織倫理教育の効果」(日本経営倫理学会発表, 2006年10月)に発表しました。
 同じメンバーで共著『組織不正の心理学』を07年8月に慶応大学出版会から上梓しました。ぜひ、ご一読ください。
 今後も、高度なモチベーションと倫理性をもった組織にするためにはどうすればよいか、教育学や経営学の専門家と共同して研究してゆくつもりです。


 科学倫理学・科学技術社会論

 科学技術は現代の日常生活に深く浸透し、私たちに恩恵をもたらしてくれますが、同時に、わたしたちの知らないうちに生命、医療、情報、環境などさまざまな分野でときに深刻な問題を引き起こしています。
 科学技術はいかにすれば人間の幸福に貢献するものとなるか、現代社会は科学技術とどのような関係を築けばよいかなど、科学技術の倫理的問題について考察する分野が科学倫理学です。
 現在、私が関心をもっているのは、科学技術の現代社会への影響という一般的な問題と、心理学や脳生理学などの心の科学に関わる倫理的問題です。心理学のサイエンス・スタディは「理論心理学、批判心理学」と呼ばれます。また、脳科学の倫理的問題を扱う分野は、「神経倫理学」と呼ばれます。これらの科学技術論はこれから発展してゆくべき分野でしょう。 
 これについて、K.ダンジガーの理論心理学の名著『心を名づけること』(勁草書房)を翻訳しました。 また、北海道大学創成科学共同研究機構の「科学技術倫理セミナーに参加しました。今後とも心の科学の倫理的問題を中心に、科学と倫理の関係について考えてゆきたいと思っています。
 
 写真は、2005年、科学技術社会論国際学会が開かれたオランダ・デルフト市の市庁舎です。学会の懇親会が開かれました。


 リンク集

 日本哲学会
日本における最も総合的な哲学会
 Canadian journal of continental philosophy
カナダ大陸哲学会HP
 International Society for Theoretical Psychology
国際理論心理学会HP
 The Society for Phenomenology and Existential Philosohy
国際現象学・実存主義哲学会HP
 科学基礎論学会
科学基礎論・方法論に関する学際的学会のHP
 メルロ=ポンティ・サークル
フランスの現象学者、M.メルロ=ポンティの学会
 日本現象学会
日本の現象学系の最大の学会HP
 科学技術社会論学会
科学技術と社会との関係を研究する学会
 日本科学哲学会
日本科学哲学会HP、分析・言語哲学中心
 日本経営倫理学会
日本におけるビジネス・エシックスの学会


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