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2002/11/2
『カンガルー日和』
村上春樹 講談社文庫 1986年
村上春樹ははじめて読みました。今までなぜか読む機会がなかったせいで、最初は短編集から読んでみました。
とても読みやすくすいすい読めました。軽い、といえばそうですがどことなく心地よさがあります。変わったおもしろい表現をしています。特に「32歳のディトリッパー」のなかで「テレビを見ている時の彼女はせいうちのように可愛い」というのは気に入りました。「せいうち」です。すごい表現。そういえば表題作「カンガルー日和」だって、変わってます。その他あしかとかかいつぶりとか羊男とか、動物の名前がよく出てきます。妙な感覚です。
最後の作品「図書館奇譚」は羊男が出てきたり、図書館の地下に牢屋があったり、わけわかりませんでした。どう考えればいいのか、それともただそのまま読めばいいのか。やさしい文章なのによくわからない。
すごく好きとはいえませんが、ではもう読みたくないかというと、そうでもない。この作品だけではよくわかりません。ただ前述のようにちょっと気になる表現があるので、もう少し読んでみようかなとは思います。




2002/11/3
『炎の蜃気楼36 耀変黙示録Z 濁破の章』
桑原水菜  集英社コバルト文庫 2002年
今回魂魄寿命尽きかけているわりには、あちこち出張して高耶さん頑張りました。直江の本能に訴えるキス作戦も。さすがは狂犬直江をよく理解してます。でもせっかく四国から飛んできた千秋と綾子を「運動会の大玉転がし」って表現はちょっとかわいそう。こんなシリアスなのにどこかギャグはいってませんか?一番の傑作は譲。食い意地はってあんなモノ食べたからひどいかっこうになってます。はづきは『超少年』(長野まゆみ)みたい、と言いますが、そちらは未読の私はむしろ『ハーバル・ビューティ』(萩尾望都)かいなと思いました。「ドリアンかクサヤ」って、何を言わすのでしょうね、この作者。




2002/11/3
『黄金の拍車』
駒崎優 講談社X文庫ホワイトハート 2002年
『足のない獅子』シリーズが、『黄金の拍車』という新しいシリーズ名で再登場。騎士になったリチャードとギルフォードのコンビは健在です。城主になってかえって苦労が増えたようなリチャードですが、頑張ってほしいです。




2002/11/4
『海と十字架』
皆川博子 偕成社文庫 1983年
慶長19年(1614年)長崎のポルトガル商人の下人伊太と弥吉は逃げ出して、江戸行きの船とまちがえてマカオ行きの船に密航します。マカオで船主の出店で働くようになった二人は、肥後領主の側室の息子ながらキリシタンとして生きる少年マチアスと出会います。ある事情からキリシタンを憎む伊太は、マチアスと反発しあいながらも交流を深めていきます。日本に戻った伊太は、迫害され津軽に流れていき困窮しているキリシタンにお金を届けるためにマカオからやってきたマチアスと再会し、津軽まで同行します。マチアスはそのまま津軽にとどまり、信者達が追い込まれた厳しい鉱山の使役に自分から志願します。保身からマチアスを役人に売った弥吉ですが、そのお金を伊太に渡し、伊太はそれを元手についに念願の船を手に入れます。伊太はマチアスや信者たちを助けようと再び津軽へ向かうのですが、マチアスは「わたしを待っている人がいるから」と残ることを選びます。
江戸時代はじめのキリシタン禁制の世、弥太とマチアスを中心に、その時代とそこに生きた人々を描き出し、人間の生き方、宗教とは何かを問い掛ける力作でした。舞台は長崎、マカオ、大阪、津軽と移り、その中で少年たちは成長していきます。時代考証や情景の描写がしっかりしていて、説得力がありました。作品としてはまだ荒削りという印象がありますが、読み応えありました。宗教の問題は非常に難しく、結論の出るものではありません。マチアスに投げかけられた問いはこれからも彼をゆさぶるでしょうが、彼の生き方は伊太や他の人びとや読者の心に深く残ります。




2002/11/8
『流血女神伝 砂の覇王9』
須賀しのぶ 集英社コバルト文庫 2002年
ついに「砂の覇王」編完結。砂の覇王とはバルアンのことだと思っていましたが、それだけではなかったのか!カリエは結局バルアンの正妃として生きることを選びました。今回久しぶりにエド登場。最初はエドかミュカがカリエの相手だと思ったのですが、どうやら彼はお守り役で終わるようです。巻末の4コマ漫画がエドの役割をよくあらわしていました。しかし気の毒に…。また、はじめてジィキが人物紹介にでてきましたが、まさに元女神、人間離れした美しさでした。彼女とヒカイのエピソードも明らかになり、ここらへんは少しネパールのクマリを思い出しました。生き神様が人間に戻るのは大変なことのようです。物語の最後、まるで『十二国記』のように、国の歴史書の一文がカリエのその後を伝えています。はたして新章はどんな場面で始まるのか、楽しみです。




2002/11/10
『猫丸先輩の推測』
倉知淳 講談社ノベルス 2002年
倉知淳の名探偵猫丸先輩の活躍。第1話の「夜届く」だけは雑誌「メフィスト」で以前読みました。相変わらず童顔の猫丸先輩の、ちょっと変わった視点がおもしろい。ただ慣れてきて最初の新鮮味が薄れたせいでしょうか、少し猫丸先輩のおしゃべりをうるさく感じてしまいました。『すぎゆく風はみどり色』のような長編もまた読みたいです。




2002/11/11
『一夢庵風流記』
隆慶一郎 新潮文庫 1991年
前田慶次郎を描いたこの作品、以前「少年ジャンプ」で連載されていた『花の慶次』という漫画の原作です。NHK大河ドラマ「利家とまつ」にもミッチー及川光博が慶次郎役で出演しています。昨日も「利家とまつ」のドラマを家人が観ている中、読みつづけていました。なんて魅力的な、器の大きい男なんだろう!男も女も侍も忍者も日本人も朝鮮人も馬までも、皆彼の魅力に惹かれ惚れてゆく。その圧倒的な存在感。「物語」に酔わされたというか堪能したというか、とにかく幸せな濃厚な時間でした。
以前作者隆慶一郎氏の急逝に驚いたことを思い出します。これからもっともっと面白い作品が、たくさん生み出されようとしていた矢先でした。本当に残念でなりません。




2002/11/17
『車のいろは空のいろ 星のタクシー』
あまんきみこ(北田卓史絵) ポプラ社 2000年
『車のいろは空の色』の第3巻。なつかしい松井さんのタクシーです。読んでいるとはづきが「松井さん、まだ変なお客ばかり乗せてるの?」と聞いてきます。息子まで手にとって懐かしそうに眺めています。やっぱり子供のころ読んだ本は、いくつになっても懐かしいようです。松井さんの優しさが他の人の目には見えない不思議なひとや動物をひきよせ、つかの間のドライブを楽しむ。今回もそのおなじみの展開が心なごませてくれます。でもそんなほのぼのしたものばかりでなく、戦争のかなしさを描いた「しらないどうし」のような作品もありました。解説の松谷みよ子さんによると、この作品は現代民話にあるタクシーの怪談と重なって、興味があったそうです。意外な指摘でした。




2002/11/18
『愛知の童話 愛蔵版県別ふるさと童話館23』
日本児童文学者協会編 リブリオ出版 1999年
県別ということで愛知県在住の作家による16編からなる作品集。バーバままさま(うみのしほさん)の作品もおさめられています。

『たつまきのおきたわけ』(うみのしほ)
ばあばの家の置物や人形たちは、かわいがれているうちにいつのまにか心をもち、ぜんそくで苦しむ孫のりえちゃんにきれいな空気を届けようと干支のタツはばあばをのせて飛び立ちました。
ばあばや人形たちのゆったりした方言が、作品をひきたてています。名古屋弁というと揶揄の対象になりがちですが、この方言の力があったればこそ作品の魅力が生まれていると思います。置物たちが心を持ったいきさつ、毎年干支が変わるたび語りつがれるその家の出来事、きれいな空気をタツがうろこにためこんでいったアイデアなど、やさしさとおおらかさを感じました。

読むまではめあてのうみのさんの作品のほかは、たいして期待してなかったのですが(申し訳ないことです)それぞれにおもしろく楽しく読めました。戦争を題材にした話、伊勢湾台風を題材にした話にもこころひかれました。夫は三重県の出身で、伊勢湾台風のことは時々聞かされたていたので、人ごととは思えませんでした。やはりその土地の人が書かれる物語は、借り物でない力強さがあるように思えます。これを機会に他の県の話も読んでみたくなりました。




2002/11/20
『怪盗クモ団 名探偵ハリー・ディクソン1』
ジャン・レイ(榊原晃三訳) 岩波少年文庫 1986年
はじめて読む作家。ベルギー人の作者がフランス語で書いたイギリスを舞台にしたお話、というちょっと変わった作品です。解説によると作者はベルギーの代表的な幻想作家ということで、幻想怪奇的なもの、SF的なもの、冒険推理的なもの等、多くの作品を発表しているそうです。この「名探偵ハリー・ディクソンシリーズ」は1932,3年ごろから発表され、当時のフランス語圏の少年たちを熱狂させたそうです。ここではその100編を超える作品群から表題の『怪盗クモ団』と『謎の緑色光線』の2編がおさめられています。
正直に言うとあまりおもしろくなかったです。訳者が言うには「ジャン・レイ独特の少々まわりくどい表現、むずかしい抽象的な言葉、二重の意味を持つしゃれ、皮肉などの表現は、ジュニアの読者に理解しやすいように意訳した」そうです。でもどこが意訳かと、つっこみたくなるほどまだ読みにくい。また主人公はじめ登場人物が掴みきれず、物語に入っていけないもどかしさがありました。要するに「古い」のです。70年前の作品だからでしょうか。日本でいえば江戸川乱歩の「少年探偵団」のような雰囲気です。(でも乱歩はおもしろい)ただ扱っている事件はけっこう血なまぐさいもので、では本格的冒険推理かといえば、話の細部がつじつまが合わず「?」状態です。ちっとも解決してないじゃない!と叫びたくなりました。
舞台はイギリスロンドン。探偵の住まいがベイカー街でよく葉巻を手にしてるところなど、かなりホームズを意識しているな、と感じました。(でもホームズのほうがおもしろい)
なぜこの作品がそんなに人気があったのかと考えてみると、ちょうどテレビのウルトラマンや仮面ライダーに熱狂するようなものかなと思います。ヒーローである主人公がいかにして(かっこよく)悪を倒すかが問題なのであって、少々の荒唐無稽はまったく気にならない。そういう見方をすると、この作品が書かれた年代も考えあわせ、当時はすごくおもしろかったんだろうと思います。




絵本 2002/11/21
『たからのちず みつけた』『おくれてきた サンタさん』
木村泰子 至光社 1998年 1989年
きなさまに教えていただいた西岸良平さんの奥さん、木村泰子さんの絵本を借りてきました。絵をみて驚きました。西岸さんの絵にとてもよく似ています。ご夫婦だと似てくるのでしょうか。『おくれてきたサンタさん』のあとがきで「主人は紅茶を入れたり、お菓子をはこんでくれた」という文があり、ほほえましいご夫婦の様子が目に浮かびました。




2002/11/24
『神様』
川上弘美 中央公論社 1998年
この作品のなかでは、くまだの河童だの不思議なものたちが、違和感なく自由に活動しています。これを非現実だと批判したり、何らかの意味付けしようとしても無駄なんじゃないかと思います。ただ書かれたまま受け取ればいい。ちょっとずれた、でもなんてここちよい世界。私もふわふわとずれていきそう。ようするにはまってしまいました。さて困った抜けられなくなりそうです。
一番好きなのは「夏休み」もうめちゃくちゃかわいい。ひたすらかわいい。でも引き込まれそうになったときはちょっとこわかった。 一番こわかったのが「離さない」句読点のない一日の行動の叙述が面白かった。




2002/11/25
『溺レる』
川上弘美 文藝春秋 1999年
9編からなる恋愛小説集。うーん『神様』のように好きだ―!とは叫べませんが、表現は相変わらず面白い。人の名前がカタカナだったり、どことなく現実感が希薄です。だからけっこう直接的な表現があっても、いやらしい感じはしない。たんたんとしていて、でもやはりエロチック。矛盾しているようですが、そういう感じを受けました。そして読み終わっての感想は「ひとはどうやっても一人なのだ」という淋しさでした。




2002/11/27
『ゴースト・ドラム ≪北の魔法の物語≫』
スーザン・プライス(金原瑞人訳)ベネッセ 1991年
とにかくおもしろかった!すっごい辛口、凄まじい話なんですけど、これがすごくおもしろい。児童書はほんとに奥が深いです。この間読んだ『オーディンとのろわれた語り部』今ちょっと話題の『エルフギフト』と同じ作者です。
書き出しが魅力的。この物語の語り手の猫の紹介。そして舞台となる1年の半分が雪に閉ざされる北の国の過酷な自然の描写。ここらへんの文章はすごく好き。
この国の一人の奴隷女が女の子を産んだところから物語は始まります。この国の皇帝は気にいらぬものの首を次々と刎ね、皇帝の妹は玉座をねらい兄の心の不安を掻き立て一人息子を幽閉させています。 女の子は赤ん坊のうちに女の魔法使いに引き取られ、後継者として育てられ、やがて立派な魔法使いチンギスとなります。一方兄妹の権力争いの果て、生まれてからずっと塔の一室に閉じ込められてきた皇子サファは、このチンギスに助けられます。チンギスはサファを自分の後継者として育てようとします。やがて皇帝が亡くなり、皇帝の妹と皇帝の廷臣たちの間に凄まじい権力闘争がおきます。結局勝ったのは妹のほうで女帝となります。女帝は皇子を亡き者にしようとし、チンギスの魔法使いとしての力量をねたむ男の魔法使いクズマが協力し、チンギスは彼の策略にかかり殺されてしまいます。
最後はちゃんとチンギス側の勝利におわるのですが、そこからがまた意表をついています。なんとサファは皇帝にはならず、チンギスの弟子であるほうを選びます。国なんてものは皇帝がいなくったって、権力に群がる人々の闘争で勝ち残ったものがおさめりゃいいさ、と言わんばかりです。ここらへんはすごいと思います。
とにかく単純な勧善懲悪ものじゃない。自然描写、人物や闘争の描きかたなど、きれいごとでなく容赦ありません。甘さがありません。それがこの物語の一番の魅力です。とにかく物語の迫力に圧倒されながら、一気に読まされてしまいました。

ベネッセの刊行ということなので、たぶん今は絶版だろうと思っていましたが、案の定復刊ドットコムで投票受付中でした。絶版なのはなんとも惜しい作品です。ぜひ復刊してほしい。
再読 2003/6/18




2002/11/28
『覘き小平次』
京極夏彦 中央公論新社 2002年
装丁や元ネタがあること、人間の怖さ哀しさを描いている点など『嗤う伊右衛門』に似ています。でもこの『小平次」の話は全く知りませんでした。
『伊右衛門』のお岩がその強さのために、人々からけむたがられ恐れられていたのに比べ、小平次はその陰気さで人々から忌避されています。かなしいほど不器用なのですが、わかってはいても、こういう人がそばにいるとうっとうしいだろうと思ってしまいます。お岩も小平次も自身は不器用で、彼らの周りの人々が自分の弱さ醜さを自覚させられる存在である点では似ているように思います。小平次の周りの人々の過去と意外な関係がからみあい、クライマックスの凄惨な場面につながっていきます。哀しいやるせない気持ちが残りました。
残念ながら『伊右衛門』には及ばないと思います。でも『嗤う伊右衛門』は私の京極作品ベスト1なので、比べては気の毒かもしれません。
『巷説百物語』のメンバーも、又市は名前だけですが治平が小平次にかかわってきます。こちらの続編も待っているのですが、それより『陰摩羅鬼』を早く読みたいものです。




2002/11/29
『ねこと友だち』
いとうひろし 徳間書店 1995年
きなさまお勧めの本。
のらねこがかわれた家には金魚ばちにおさかなの夫婦がいました。だんだんなかよくなったねことおさかな。でもある日金魚ばちから飛び出してしまったおさかなのだんなさんを助けようとしたねこは、とてもへんな気持ちになりました。友だちであるおさかなを食べてしまうかもしれない自分に悩んだねこは家出します。やがて家にかえってきたねこはだんなさんの死を知ります。「ここにいたらぼく食べちゃう」というねこにおくさんが告げた言葉は…。
やられました。ねこのおくさんのことば。思ってもいない言葉でした。ねこがうれしくなってないてしまうところで、私も思わず泣きそうになりました。
友だちを大切に思う心と、からだの奥底からわいてくる本能。ねこのなやみがこころに痛い。評判の『あらしのよるに』シリーズにつうじるお話。



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