| 2005/9/2 |
| 『パーシーの魔法の運動ぐつ』 ウルフ・スタルク(菱木晃子訳 はたこうしろう絵) 小峰書店 1997年 |
| 一見悪ガキのパーシーといい子ちゃんのウルフ。運動苦手なウルフはパーシーから彼の運動靴が魔法の靴であると聞かされ、それがほしくてたまらない。大事なものとの交換でようやく運動靴を手に入れたウルフは、まるでパーシーと入れ替わったみたいに次々大胆な行動に出る。 ウルフはパーシーの運動靴が魔法のくつではないことを、心の中では知っていたに違いない。それまでの自分を壊したくて、自分を解放したくて、そのきっかけを無意識に求めていたにすぎないと思う。ウルフが何かやるたびに、パーシーが今度はおろおろする。そのウルフとパーシーの対比がおもしろい。最初は乱暴な悪ガキと思われていたパーシーの意外な一面が徐々にみえてくる。 刺繍を好む繊細な心の持ち主であり、親にかまわれない孤独なこどもの姿が浮かんでくる。父親を喜ばそうとして、それがからまわりして傷つく姿が痛々しい。 ウルフは心の底では全てわかっていた。だから運動靴を捨てようとした。でもなかなか捨てられない。パーシーのために起こした火事で、ようやく彼もふっきることが出来た。ウルフのしたことは褒められたことではないけど(特に火事)ウルフとパーシーとのあいだに育った友情がうれしい。これたぶん作者スタルクの経験が入っているのだろうなあ。とにかく子どもたちの日常がとても生き生きと描かれている。 |
| 2005/9/3 |
| 『ユージニア』 恩田陸 角川書店 2005年 |
| 書き出しと途中までのわくわく感は相変わらず。この雰囲気はかなり好き。ただラストがやっぱりだめだ。それまでの高揚感が打ち壊されてしまう。途中がいいからよけい残念。ただまあこれくらいは仕方ないかとも思う。ミステリーとしてきちんと決着はつけてないが、もともとそれを書くのがねらいではないのだろう。とにかく雰囲気作りは素晴らしい。湿った蒸し暑いよどんだ空気まで感じ取らせる描写はすごい。息苦しくなってくる。 この本を最初に開いたとき乱丁かと思った。字が斜めだったのだ。あとで本屋に並んでいるものを確認したら、みんな同じだったのでこういう作りなのかと思った。それにしても人騒がせだとネットでみたら、角川書店の説明で「こわれかけた本というコンセプトで装丁しているので、乱丁ではありません」と断り書きがあった。しかし本にその明記がないのは困る。ただこれは図書館の本なので、帯ははずしているし表紙カバーごとブッカー(本が傷まないようにかける透明のカバー)がかかっているので、見えないところに書いてあるのかもしれない。 |
| 2005/9/4 |
| 『夜明けの人びと』 ヘンリー・トリース(猪熊葉子訳) 岩波少年文庫 1997年 |
| 本屋の棚に岩波少年文庫の旧版の在庫として並んでいた。サトクリフがあとがきを書いていたのに驚いて購入。時代も話もサトクリフととてもよく似ている。訳者も猪熊さんだし、この著者の他の作品に『ワシの軍団』『ヴァイキングの夜明け』という作品があるらしいが、これもサトクリフと大いにかぶる。サトクリフの『太陽の戦士』と『ケルトの白馬』思い起こさせる、とても好きな話だった。それと最近読んでいるジーン・アウルの「エイラ」シリーズにも似たところがあり、氏族(ネアンデルタール人)を思わせる赤毛族が印象的だった。 |
| 映画 | 2005/9/4 |
| 「点子ちゃんとアントン」 ウルフ・スタルク(DVD) 小峰書店 1997年 |
| 素晴らしい!なんていい映画だろう。これほど原作と違うのにこれほどおもしろいなんて。軽快な音楽(この音楽もとてもいい)とともに点子ちゃんとアントンがトランポリンでポンポンはね、青空をバックにポーンと上がってきて、そのふたりの姿にタイトル”Punktchen und Anton”の文字が重なる冒頭場面を見ただけで泣きそうだった。そして主役のふたりはじめキャストがみなすばらしい。特に点子ちゃんは、けっして美少女ではないのだけれど表情がとてもかわいい。お金持ちだけど忙しすぎる両親のせいで少し淋しい思いをしている、友達思いで元気な女の子。現代的に大胆にアレンジしてあるけど、これは点子ちゃんそのものだ!アントンの母親もまるで雰囲気が違うけど、アントンとの強い絆は原作通り。 そしてケストナーが見たら腰抜かすんじゃないかと思われる、アントンの自動車運転場面。これほどむちゃくちゃな原作にないエピソードの挿入なのに、実はこれがもうおもしろくてわくわくした。原作ファンもそうでない人も、とにかくみんなが楽しめる。同じように現代的にアレンジした「飛ぶ教室」はひどかったのに、こちらは文句なく素晴らしかった。この違いは何なんだろうと考え込んでしまった。 |
| 2005/9/5 |
| 『若き数学者のアメリカ』 藤原正彦 新潮文庫 1981年 |
| とても気持ちのいい文章で読後感もとてもさわやか。こんな素直に自分の気持ちや情景を、的確な文章で表現できるなんてすばらしい。高島俊男さんが絶賛していたのも当然だと思う。 |
| 2005/9/6 |
| 『風の十二方位』 アーシュラ・K・ル・グイン(小尾芙佐・他訳) ハヤカワ文庫SF 1980年 |
| 『ゲド戦記』外伝2編が読めたのは嬉しかったが、ル・グインのSFは難しい!ヒューゴー賞を受賞したという『オメラスから歩み去る人びと』はどうにも好きにはなれない。 |
| 2005/9/6 |
| 『くらやみの谷の小人たち』 いぬいとみこ(吉井忠画) 福音館文庫 2002年 |
| 『木かげの家の小人たち』の続編。ただ前作は小人たちというより、われわれ人間たちの戦争の時代の話だった。あの困難な時代を懸命に真摯に生きた人たちの暮らしをしずかに描き、それゆえにやりきれない悲しみがただよっていた。こちらは続編だけど小人たちに焦点があたり、ファンタジー色の強い冒険ものという感じ。ただ空いろのコップと日本古来の民話的世界を、無理やりつなげたような違和感が残る。前作のほうが好き。 |
| 2005/9/7 |
| 『だれかののぞむもの こそあどの森の物語7』 岡田淳 理論社 2005年 |
| 久しぶりの「こそあどの森」。この森にすむ人たちのそれぞれの家がとてもすてきで、いつもこんな家に住みたいなあと思う。著者本人のほわほわした絵もとても好き。でもほのぼのした雰囲気ながら、このシリーズはいつも何か深いものを考えさせてくれる。大切なひとの望みをかなえたいと思うことは、それ自体は間違いではない。でもそのために自分というものを見失ってはいけないのだ。ギーコさんの「(木目をよむように)心だって相手を生かすように読めばいい」という言葉が心に残る。わたしはスミレさんが好きなのだけど、今回はギーコさんがすてき。 |
| 2005/9/9 |
| 『うそつきの天才』 ウルフ・スタルク(菱木晃子訳 はたこうしろう絵) 小峰書店 1996年 |
| うそというときこえは悪いが、この主人公ウルフはつまりは想像力が豊かということ。そしてそれを文章で表現できたとき、将来の作家への道がみえてくる。なるほど作家なんていかにうまくうそをつくかにかかっているんだものなあ。著者の自伝的作品。 |
| 2005/9/10 |
| 『1ねん1くみ1ばんげんき』 後藤竜二(長谷川知子絵) ポプラ社 1985年 |
| クラスで一番元気なくろさわくんとぼくのお話。らんぼうでちょっときたないくろさわくん。ぼくもときどきいやになる。でもとても正義感もつよいやさしい子。なんだかんだいってもいいともだち。表紙の絵がくろさわくんらしくてとてもかわいい。親にしたらやっぱり小奇麗な子と遊んでほしいけど、でもこのくろさわくん本当にこどもらしいこどもなんだ。 |
| 2005/9/11 |
| 『パーシーとアラビアの王子さま』 ウルフ・スタルク(菱木晃子訳 はたこうしろう絵) 小峰書店 1997年 |
| 『パーシーの魔法の運動ぐつ』の続編。父親の商売がうまくいかなくなったためパーシーが引っ越すことになってしまう。引越しが多く今までの町では極力なじまないようにしていたパーシーだったが、この町でウルフと親友になり他の子どもたちとも仲良くなって、いつのまにかすっかりなじんでいた。そのため淋しさは今までにないものに。その淋しさをまぎらすため、わざとこの町をきらいになろうとするパーシーがいじらしい。前作と同じく男の子たちの日常が生き生きと描かれている。男の子たちっていつの時代もどこの国でもこうなんだろうなあ。 |
| 2005/9/13 |
| 『お言葉ですが6 イチレツランパン破裂して』 高島俊男 文春文庫 2005年 |
| 2002年に単行本で読んでいたが、あらためて読んでもやっぱりおもしろい。『若き数学者のアメリカ』(藤原正彦)を「戦後日本が生んだ最高の青春文学」とほめていたのはこの巻だった。「背のたけ」の「背」は表記は「せい」でも発音は「せえ」である。最近の漫画『ダーリンの頭ン中』でも、日本語だって必ずしも表記通りには発音していないとラズロ氏が言っていた。言葉っておもしろい。 |
| 2005/9/14 |
| 『旭山動物園の奇跡』 週刊SPA!編集部 扶桑社 2005年 |
| 副タイトル「日本最北の弱小動物園が日本一になった感動秘話」そのままの話。誕生から閉園の危機を乗り越え、日本一の人気動物園になるまでの職員たちの悪戦苦闘が描かれている。これは動物園にかぎらず、何にでもあてはまる話だ。図書館と置き換えてもいい。ようするに出来ることからはじめること。「努力は報われないかもしれない。しかし努力しなければ絶対に何も生まれない」という言葉が心に残った。 |
| 2005/9/14 |
| 『こちらゆかいな窓ふき会社』 ロアルド・ダール(清水奈緒子訳) 評論社 2005年 |
| キリンとサルとペリカンがはじめた窓ふき会社。なるほどこの組み合わせなら窓ふきにぴったり。ダールにしては驚くほど毒がないかわいいお話。ビリーが念願のお菓子屋をひらくとき、仕入先にワンカ工場があり、おもわずにやっとさせられた。実はこの作品はその映画「チャーリーとチョコレート工場」を観にいく電車の中で読んだ。 |
| 映画 | 2005/9/14 |
| 「チャーリーとチョコレート工場」 ティム・バートン監督(映画館) 2005年 |
| 大好きな原作でお気に入りのジョニー・デップが主演なら、観ないわけにはいかない。ほぼ原作に忠実なのも嬉しい。チャーリーが金色の券を発見するまでの過程は原作でもジーンときたところ。ジョニー・デップは少し若すぎるかと思ったが、最近再読してワンカさん(やっぱりこう呼びたい)の奇人変人ぶりを再認識したので、彼でも充分だと思った。そのワンカさんの父親にクリストファー・リー。原作にないこんな設定をなんで使ったのか疑問だったが、ラストで納得。なるほどこういうふうにまとめたのか。このラストは原作とは違うけど、ほろりとさせてこれはこれでいい。
工場内で一番気に入ったのはガラスのエレベーター。キャストがみんないい。チャーリーのフレディ・ハイモアは「ネバーランド」でも繊細なピーター少年を演じていた。チャーリーの父親がノア・テイラー。一度見たら忘れられない顔。実は「バニラ・スカイ」で見てから結構気に入っていた。 追記*娘の感想は「チャーリーの家族はすごくよかったけど、ワンカさんがダメじゃ〜ん」だった。たしかにわたしたちの好きな原作のワンカさんは、とにかく何の理由もなくただひたすらヘンな人で、その突き抜けた奇天烈ぶりがよかったのだ。それが映画だとアダルトチルドレンになっちゃって、ちょっと屈折した意地悪な人って感じ。なまじワンカさんの変人ぶりに理由付けをしたために、テンションも中途半端だったような。底抜けにへんてこなワンカさんを期待していったら、ちょっと肩透かしくわされた気分。 でもこの映画は「家族」がテーマで、その家族の団欒にワンカさんも参加させたかったんじゃないかな。そのためにああいう設定を作ったんじゃないかと思うし、あの父親とのエピソードはほろりとさせた。そのためラストの大団円が少し間延びしたという娘の指摘も、たしかにそうなのだが、これはこれでいい味付けだと思ったんだよね。ジョニー・デップは人付き合いが苦手な屈折したワンカさんという役を、(原作とはまったく違うけど)本当にうまく演じてたと思うし、やっぱりかわいい。娘は以前の映画化作品を観ていたので、あちらのほうが明るくて好きなのだそうだ。 |
| 映画 | 2005/9/15 |
| 「ナショナル・トレジャー」 ジョン・タートルトーブ監督(ビデオ) 2004年 |
| ほどよいアクションと謎解きで、最後まで飽きることなく見ていられた。普通に楽しい娯楽作。公開時ショーン・ビーンは見たかったけど、ニコラス・ケイジが嫌いで観にいかなかった作品。お目当てのショーンは途中から出てくるとばかり思っていたら、冒頭から登場し嬉しい誤算だった。いつものようにツメが甘いが、相変わらず主役より格好いい敵役だった。そしてまさかハーベイ・カイテルまで出演していたとは知らなかった。ニコラス・ケイジも見ているうちにさほど苦手ではなくなった。慣れというのはあるものだ。 |
| 2005/9/15 |
| 『宝はマのつく土の中!』 喬林知 角川ビーンズ文庫 2005年 |
| まるマシリーズ最新刊。最近ちょっと間があくと前作までの話をコロっと忘れていることが多くなった。この話も細かいことは忘れている。ギャグは快調だけど事態はかなり悪化してるような気がする。ラストなんて、どうしようと思った。まさか、ヨザック、まさかだよね?だってあんまりだよ〜ユーリがかわいそう。お兄ちゃんでなくても助けにいきたくなる。「いま、兄がゆきます」には笑ったけど。 |
| 映画 | 2005/9/16 |
| 「コンスタンティン」 フランシス・ローレンス監督(DVD) 2005年 |
| 公開時観てきたはづきに「ヴァン・ヘルシングよりおもしろくない」と聞かされ、観にいくのをやめた作品。ただガブリエル役のティルダ・スウィントンは見たかったので、DVDを借りてきた。 うーん、この素材ならもっとおもしろいはずなんだけどなあ。なんだか「へえー」「ふーん」「そー」という感じに進行していった気がする。もっとこうわくわく感がほしい。「ヴァン・ヘル」はあほらしいなりにそれに徹していたが、こちらはそれも中途半端。ティルダさんしか見所がないというのも困ったものだ。初登場時のマニッシュな服装も素敵だが、なんといってもコンスタンティンを踏みつけるときの顔がたまらない。ほんと40歳すぎて性別不明な雰囲気を漂わすなんて、ただものじゃない。不思議なひとだ。そしてガブリエルはやっぱり「ゲイブリエル」に聞こえる。伯爵(ヴァン・ヘル)もそう発音していたし、もう表記も「ゲイブリエル」に統一すればいいと思うのだが。 どうものれない話だったが、ラストのどんでん返しの連続はちょっとおもしろかった。特に「サクリファイス!」という言葉には、それまで気のない「へー、ほー」という反応だったのが、「おおーっ!」と手をポンと打ったほど。そして痩せたキアヌはやっぱり美しかった。 |
| 2005/9/18 |
| 『リトル・バイ・リトル』 島本理生 講談社 2003年 |
| 明るい小説にしたかったという著者のあとがきに好感がもてた。若い世代の作品には、痛々しかったり鋭すぎて息苦しかったりするものもあるが、この作品はそんなこともなくほんのり明るい雰囲気で書かれていて、それがとても心地よかった。特別なことがおこるわけでもなく、悪人もでてこないし、ごく普通の日常の描写がたんたんと続く。笑えるギャグもないし、ドラマチックでもない、最初はそこが物足りないと感じたのだが、読み終えてみるとそれも作者の意図したことなのかと思い直した。ところどころに印象的な表現があり、特に那須正幹さんの『The end of the World』について語られていたのが嬉しかった。 |
| 2005/9/19 |
| 『ブリジンガメンの魔法の宝石』 アラン・ガーナー(芦沢長三郎訳) 評論社 1969年 |
| 2年ぶりの再読。以前に読んだときは、突然現れる小人や魔法使いなどわたしの苦手な「境目もやもやファンタジー」だったため、読むのに少し苦労したが、最近はこういうファンタジーにも慣れ今回はすいすい読むことができた。だが細かいことは忘れていたのと、もともと地名や人名が煩雑で分かりにくかったので、書き出しながら読んでいった。説明のあるところもあるが、何の説明もない人名地名も多く(たとえばギャバランジー。格好良く登場して「馳夫さん」っぽいのだが、あっという間に行ってしまう)ここでひっかかると物語に入り込めないので、そこはあまり気にせず読み進めた。そして前回はアーサー王やケルト神話の影響を感じたが、今回は『ブリデイン物語』と同じく『指輪物語』との類似性も感じた。どの作品も、もともとイギリスに伝わる北欧神話やケルトの伝説伝承をもとにしているので、似通ってくるのは当然なのだろう。 そして今回気づいたのがタイトルの「ブリジンガメン」という言葉。この言葉は本文のどこにも出てこないので、それが不思議だったのだが、これも実は北欧神話に関係あることを初めて知った。豊穣の女神フレイアに属する宝石らしい。こうなると北欧神話やウェールズの神話「マビノギオン」をぜひ読みたくなってくる。 また『指輪』や『ブリデイン』と違うのは、地名がほとんど実際に著者の住むウェールズ地方の地名が使われていること。だから架空の「中つ国」や「プリディン国」と違って、説明されなくても当然読者は知っているという前提の下に、物語が進んでいく。わたしは『指輪』の完璧に構築された世界とそこから生み出される物語がとても好きなのだが、この作品も(説明されていないから自分で調べなければならないが)調べていくととても奥が深く興味深い。天沢退二郎さんがアラン・ガーナーを好きだということだが、たしかに作品の雰囲気が似ているし、分かる気がする。 |
| 映画 | 2005/9/21 |
| 「穴 HOLES」 フランシス・ローレンス監督(DVD) 2003年 |
| 原作がもう完璧な作品だったので、今さらこれを映画で観なくてもという気持ちがあって、映画があるのは知っていたが日本公開もされなかったし観る気はまったくなかった。それがたまたま娘が「安かったから」と「薔薇の名前」といっしょに買ってきたので、思いがけず観ることになった。 これが作者ルイス・サッカーが自ら脚本を手がけたというだけに、素晴らしい作品になっていた。ほぼ原作に忠実に、でも原作を削るところ膨らませるところが実にバランスよく処理されている。3つの話が絡み合って話が進んでいくところは原作のまま。原作では最初それとはわからなかった伏線が、より分かりやすく張られている。冒頭、からからに乾いた砂漠にぼこぼこあいてる穴。ああなるほど穴はあんなにあるのか、と一気に物語に引き込まれる。原作知らなければこれは何だ?とより強く引き込まれるだろう。原作読んで想像していたことを「ああ、神の親指は本当に親指みたいだ」とか「おお、これはあの子だ」とか、映像で確認することができて楽しい。 出演者も刑務所長にシガニー・ウィーパー、ミスター・サーにジョン・ボイトと豪華。スタンリーがあの「コンスタンティン」のチャズだったのは嬉しい発見だった。原作より太ってないけど、ちょっとトロそうなところがスタンリーだ。これが映画デビューだそう。ゼロ役の子が小柄でつぶらな瞳でとてもかわいい! そして実はこの映画で一番心ときめいたのが、あの110年前のケイトとの悲恋の相手、黒人青年サムだった。これまでも素敵な黒人俳優はたくさんいたけれど、「うわっハンサム!」と思ったのは彼がはじめて。出演者のなかで一番ハンサムだった。切なそうな目が印象的。娘とふたりエンド・ロールを食い入るように見つめ「DULE HILL」という名前を見つけ出し、検索して「デュレ・ヒル」という俳優だと判明。NHKの海外ドラマ「ザ・ホワイトハウス」にも出演しているそうだ。でも写真だとそれほどハンサムに見えないのが残念。 ケイトもすごい美人というわけではないが知的で清潔な雰囲気で、真面目な学校の教師にぴったり。そしてきりっとした佇まいなので後に無法者になった姿も格好良く決まる。サムと心通わせるときの涙も美しい。このふたりの恋物語は本当に涙をさそう。 原作よりスタンリーの家族を丁寧に描いていて、それがまたほのぼのとした家族愛を感じさせてとてもいい。ああスタンリー愛されているなあ。裁判のとき判事が「スタンリー・イェルナッツ立ちなさい」と言われて、おじいちゃん(2世)お父さん(3世)も一緒に立ち上がり、「4世だけでいい」と言われたりするところもとてもおかしい。 でも原作でとても好きなところ、ケイトとサムのやりとりで、サムが「直してあげるよ」というところが字幕では「直せるよ」だった。原文や映画でも「I can fix that」なので「直せるよ」は正しいのだが、ここは訳文のとおりしてほしかった。 |
| 2005/9/22 |
| 『銀のうでのオットー』 ハワード・パイル(渡辺茂男訳) 偕成社文庫 1983年 |
| 中世の暗黒時代のドイツの話。歴史ものはもともと好きだったのでおもしろく読んだ。最初はオットーという少年の英雄譚かと思っていたが、彼は剣を取って戦うわけではなく、そこがとても新鮮だった。著者が描きたかったことは、序章の著者の言葉にあらわれている。 「わたしがこれから語ろうとする物語は、この暗黒の中世に生き、なやみ苦しんだ、ひとりの幼い少年の物語である。そして、少年が、人間の善と悪をどのようにみきわめたか、またあらそいとにくしみによらず、やさしさと愛によって、どのようにして、ついに人の上に立ち、すべての人にあがめられるようになったかという物語である。」 著者の描く挿絵も素晴らしい。 |
| 2005/9/23 |
| 『真実の種、うその種 ドーム郡シリーズ3』 芝田勝茂 小峰書店 2005年 |
| いよいよドーム郡シリーズ完結編。発端はとてもよかった。そして前半のみんなでわいわい旅をするところなどとても好みの展開で、できればずっとこのまま続いてほしかった。でも後半ゴドバールへ着いてからが、本当はここがメインなんだろうが、少し長く感じてしまった。それと状況の説明が会話で進むのが、少しうるさく感じられた。もう少し短いととても好きな作品になったのに。 |
| 2005/9/26 |
| 『生まれる森』 島本理生 講談社 2004年 |
| たんたんと描かれる失恋の痛みとそこからの再生。こんなにさらっと描いてあるのに、主人公の壊れた心が感じられてこちらの心も痛くなってくる。短い時間で読めるのだが、読了後思いがあふれてきた。どんなふうに表現してもやはり失恋は辛い。いやおうなく若かった頃に引き戻されてしまった。ちょっと泣きたい気分。 |
| 映画 | 2005/9/28 |
| 「ファンタスティック・フォー」 ティム・ストーリー監督(映画館) 2005年 |
| なんとも大味な映画だった。この4人の場合結果的には人助けになったり、悪人をやっつけるのだけど、そもそもの始まりは個人的な問題から発生しているので、どうも彼らが英雄というのが納得しにくい。でも周りを巻き込んであれだけの大騒ぎになったのに、終わってみれば群集が「ありがとう!ファンタスティック・フォー!」って、アメリカ人の感性はようわからん。まあこういう映画はあまり深く考えず楽しめばいいのだろうけど。これを4人の誕生の話として、これからシリーズ化していくような作りだけど、はたして続編はあるのだろうか。ヨアン・グリフィスもジェシカ・アルバも精彩がない。ヨアンはこんなの出てていいの?ジェシカは黒髪のほうがずっとかわいい。 |
| 絵本 | 2005/9/29 |
| 『バーバ・ヤガー』 ブレア・レント(絵)アーネスト・スモール(文)こだまともこ(訳) 童話館出版 1998年 |
| ロシアの民話。バーバ・ヤガーは魔女だが、あまりこわくない。ちょっと抜けているところがおもしろい。日本でいえば山姥のようなものかな。 この絵本を読もうと思ったきっかけは、先日の読売新聞新夕刊の「本の探偵」欄だった。「ニワトリの足が生えた家に住む魔女に育てられた女の子の話。たいこを使って何かを呼び出したような気もする」という質問があった。これは『ゴースト・ドラム』に違いないと思っていたが、赤木かん子さんの答えはこの『バーバ・ヤガー』だった。なるほどニワトリの足の家に住む魔女といえばロシア民話のこのバーバ・ヤガーが有名らしい。民話なのでたくさん話がでていて、質問者が読んだのはどれかはわからない、とかん子さんも断っている。けれども「たいこを使って何かを呼び出す」というのはやはり『ゴースト・ドラム』だと思う。たぶんもともとの質問にはもっとくわしく書いてあって、それで『ゴースト・ドラム』ではないと判断されたのだろうが、ここで『ゴースト・ドラム』の名をあげてくれなかったのはとても残念だ。この欄に取り上げてもらったことがきっかけで、『ゴースト・ドラム』の復刊が進めばよかったのに。 |