| 「おれおれ詐欺」騒動 話には聞いていた「おれおれ詐欺」に遭遇してしまった。一人暮らしをしている息子がいるので、うちにもあるかもしれないと思ってはいたが、まさか本当にくるとは思わなかった。予想してはいても実際にであってみると、ふだんの用心など役に立たなかった。幸い途中で気がつき被害にはあわなかったが、衝撃は大きくいまだに電話の音に過剰反応ししてしまう。 8月27日(金)午前10時45分頃電話が鳴った。いつものように「はい○○です」と愛想よくこたえる。 「こちらから名乗ってはいけない」ということは今は常識らしいが、わたしはいまだに親からしつこいほど叩き込まれた「電話は相手が見えないからこそ、失礼にならないように丁寧に応答するように。かけるときも受けたときもはっきりと名乗ること」ということが身にしみついているので、つい名乗ってしまう。 一瞬の沈黙の後若い男の声で「ヒッヒッ」としゃっくりあげる声が聞こえる。とっさにイタズラ電話かと思い、切ろうとしたとき「○○です」と嗚咽で聞き取りにくい声がした。聞き取り難いながら息子の名前の音が入っていたようだし、そのうえ記憶にある小さい頃の息子の泣き声に似ていたような気がした。思わず「えっ?○○?」と呼びかけてしまった。そのあともっと泣き声で小さく「事故、事故、事故った…」という。泣き声で裏返った高めの声で、いかにもパニくった息子の声のように聞こえ、こちらも動転して「え?事故った!?」と叫んでしまった。それにはただもう涙声で「うん、うん」とこたえるだけ。 このあと急に相手がかわり、落ち着いたもう少し年上の男の声で「もしもし私田代と申します。○○君のお母さんですか?」という。警官?いや居合わせた親切な人だろうか?と考えながらも、息子は電話に出られないほどの怪我なのか?などと心配がつのる。 息子は免許を持っていない。だから「事故った」という言葉に少し違和感はあった。ここで「息子さんの車が…」という話になれば、すぐにバレたのだが、田代と名乗る男の話は「じつは○○君が赤信号を走って渡っていたんですよ」と続いたので、それなら信憑性がある。 男は「で、こちらの車は青信号で走っていて、○○君をよけようとしたときにガードレールにぶつかったんです。そのときに○○君が逃げ出しちゃいましてね、そこで取り押さえたんです」と言う。息子は優しい子だが、言い方を変えれば少し気が弱い。パニックをおこして後先考えずに逃げ出すこともあるかもしれない。それにしても取り押さえるとは…。という小さな疑問はあるものの、動揺している頭ではまだ冷静な判断ができないでいた。 しかし次の「じつはこの車、組長の車でして…」と続いたところで、はっと気がついた。これは例のあの「おれおれ詐欺」そのものではないか! 気を取りなおし「あの、もう一度息子を出していただけませんか?」というと、「それがね、もうおびえちゃってまともに話せる状態じゃないんですよ」という。「じゃ警察に行ってください」というと、がらりと口調が変わった。「警察なんか行ったら息子さんの命はないですよ」と低い声で脅しにかかる。さらに「話を聞く前に警察とは何ですか!」とキレたような声。こわい。ここで負けてはならない。だがぐずぐずしてはいられない。早くこんな電話を切りたいという一心で「いいです、もう」と言って(まだ心臓はどきどきしていたので声は震えていた)電話を切った。 わたしのただならない声に驚いて、横で様子をうかがっていた娘と「あれだったよ」「あ、やっぱりそう」「本当にあるんだ〜」などと話し合った。しかし最初からあやしいと思って様子を見ていた娘と違い、実際に電話を受けたわたしはまだ完全に衝撃から立ち直っていなくて、おろおろしていた。「何でうちが?」「どこから電話番号を?」「ああそれよりあの子に連絡しなきゃ」とひとりで取り乱していた。とりあえず息子の無事を確認しなければ。息子は就職のさい家を出てアパートに住んでいる。そのアパートの電話も携帯もつながらず、さらにあわてて職場に電話した。「たしかに出勤しています」という返事をきいて、やっとほっと一息ついた。なにしろ「いいです」といって電話を切ったので、もし万が一本当だったら息子を見捨てたことになるので、確認できるまでは心配で仕方がなかった。やっと落ち着いて息子の携帯にメールを入れた。 ほどなくまた電話がなった。きっと息子からだと思い受話器をとると、さっきのようなひどい泣き声ではないが、ちょっと困ったような泣きそうな若い男の声で「○○です」と名乗る。明らかに息子ではない。一瞬絶句してしまい何と言っていいかわからず、思わず「苗字は何ですか?」と聞いてみた。相手はきちんとフルネームをこたえる。当然だ。わたしが最初の電話のとき名乗ってしまったのだから。だが、息子の出勤は確認した。これが息子であるはずがない。でも何と言えばいいのだ?ぐずぐずしているとつけこまれる。できるだけ落ち着いた声で「で、どうしましたか」と聞いてみた。すると向こうから電話は切れた。 一旦落ち着いた心臓がまたバクバクしてきた。また奴らだ。わたしの先ほどの動揺した声に、「もう一押しすればだませる」とふんだのか?息子と連絡をとっていることは予想でき計画の失敗は明らかだろうに、いったいどういう意図でかけてきたのか?最初の電話だけならまだこれほどではなかったのだが、この2回目の電話のせいで、わたしはかなり精神的にダメージを受けてしまった。この家の電話番号と息子のフルネームを知られてしまった。今後仕返しに息子に危害を加えるつもりなのだろうか?それに娘だって危ない。詐欺にはあわずにすんだのに、そのことの安堵や相手に対する怒りよりも、得体のしれない怖さで心も身体も震えていた。 その後少しして本物の息子から電話があり、ようやく本当に安心できた。息子に説明しながら涙が出そうになった。今書いていても泣きたくなる。 それにしてもなんて卑劣な犯罪だろう。子を思う親の心を利用し踏みにじる。たとえ未遂であっても、わたしのように精神的に参って後々までひきずってしまう。相手のほうが悪いのだし、こんなことで具合悪くなるなんてばからしいと思ってはいても、容易には立ち直れない。これは<犯罪>というものに直に触れた恐怖なのかもしれない。今まで割とのほほんと生きてきたツケを払わされているのだろう。もっと強くならなければと痛切に思う。 夫や友人に話し、時間もたちようやく落ち着いてきた。友人やメールで励ましてくれたバーバままさまの忠告もあり、また新聞で同じ日同じような時間に県内でやはり「おれおれ詐欺」の被害があったことを知り、思い切って警察に連絡した。どこに電話していいか分からなかったのでまず110番したのだが、電話にでた人が「ではとりあえず自分が話をきいて、それから所轄の警察署に報告します」という。やさしそうな声に励まされ、くわしく経緯を話した。丁寧に聞いてくれて「でも早く気がついてよかったですね」と慰められた。仕返しが怖いというと「それはありませんよ」と言ってくれたのでほっとした。新聞の記事と同一犯かもしれないというと、「いや県内に限らず、毎日のように全国で被害があるんですよ」という。そんなに多いのかこの犯罪は。また残念ながら名簿の流出は確実にあるという。こわい世の中になったものだ。警察に知らせたことで一区切りついたような気がして、かなり気分が楽になった。 警察も言っていたが、今の世の中個人情報はどこかから必ず漏れているそうだ。それをきいてまた落ち込んでいたら、娘から「何をいまさら」と呆れられた。考えてみればそうだ。これだけネットを利用し、自分でHPも持っていて、掲示板にも書き込み、アマゾンで注文までしている。漏れてないわけないじゃないか。げんにウィルスメールは毎日のように届いている。このことに遅まきながら気がついてから、やっと前向きに考えられる」ようになった。こんなことに今さらビビるなんて、情けなさすぎるぞ、しっかりしなきゃ。自分の身は自分で守るしかない。これからしっかり危機管理するのだ。少し時間はかかったけど、ようやく立ち直れそうだ。 |