米国黒人音楽随談−ソウルde飲茶

    (マニアック・ソウル誌『Talk of the Town』2号〜10号に連載/1994-1997)

[目次]

ソウルde飲茶<1>  −愛と憎しみは紙一重−


 飲茶(やむちゃ)スタイル。つまり,おいしそうな話題を,あれやこれや,適当に見つくろって少しずつつまむ,気ままなソウル随談です。どうか,よろしくお付き合いのほどを。

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 マイナ−の楽しみっていうのがある。食べ物の場合でいうと,B級グルメと同じね。「レア」なマイナ−ものの,バランスを欠いた過大評価や大絶賛は感心しないけど,メジャ−な一級品との違いがちゃんと分かって,その上で楽しむのは悪くない。
 パ−スウェイダ−ズというヴォ−カル・グル−プが,70年代にいた。ミリオン・セラ−のヒットをもつグル−プをマイナ−扱いするのは,変かもしれない。しかし,そうしたくなるような小粒さや垢ぬけない部分がこのグル−プにはあって,それが魅力になっている。テナ−・リ−ドのダグラス・スコットを中心にした,東海岸(NJ州出身といわれる)の4人組。スコットは,ゴスペル・カルテット界でのキャリアがにじみ出た好歌手で,だけど大歌手じゃない。コ−ラス・ワ−クもふつう,超甘ファルセットや切り裂くようなバリトン・シャウトといった秘密兵器もない。そんなグル−プがスタ−の座に着けたのは,ポインデクスタ−兄弟という異才のプロデュ−サ−に出会い,彼らが提供した曲を歌ったおかげだった。
 1971年秋のモンスタ−・ヒット,「シン・ライン・ビトウィ−ン・ラヴ・アンド・ヘイト」。アトランティック傘下のアトコから出たこの異色の傑作バラ−ドが,パ−スウエイダ−ズを有名にした。この年に流行ったヴォ−カル・グル−プのヒット曲といえば,テンプスの「ジャスト・マイ・イマジネ−ション」,シャイ・ライツの「ハヴ・ユ−・シ−ン・ハ−」,ドラマティックスの「ホワッチャ・シ−・イズ・ホワッチャ・ゲット」,スタイリスティックスの「ユ−・ア−・ア・ビッグ・ガ−ル・ナウ」等々,数多い。そのなかで,リチャ−ド・ポインデクスタ−,ジャッキ−・メンバ−ズ,ボビ−・ポインデクスタ−の手になる「シン・ライン…」は,異彩を放つ。ちょっと不思議な曲なのだ。

●甘いコーラスにのせたリアリズム

 要するにね,泉谷某のTVコマ−シャルじゃないけど,甘くないのよ。「愛と憎しみは紙一重」というタイトルからも見当がつくと思うけど,この曲は,ロマンティックじゃない。リアリズムの歌だ。印象的なピアノのフレイズからブリッジのコ−ラスへ,という「ツカミ」が冴えるイントロの後に,どんなスト−リ−が歌われるか,ちょっと細かく中身を紹介してみよう。
 
  朝の五時に帰ってきて,ドアを叩くと
  「誰?」と,やさしいささやき声が聞こえる
  彼女はドアを開けて,私を中に入れてくれる
  「どこに行ってたのよ!」なんて,けっしていわない
  彼女はいう,「あなた,おなかはすいてない?
  ちゃんとご飯をたべた?」
  「コ−トをかして。かけたげるから。それから,帽子も」
  彼女はずっと微笑みつづける
  声を荒げたりしない
  朝の五時,私は彼女の気持ちを疑ったりしない
  (コ−ラス: 愛と憎しみとは紙一重)
  自分が彼女のハ−トを傷つけつづけてきたなんて
   思いもしない
  (コ−ラス: 愛と憎しみとは紙一重)
        
 う−む,なんてよくできた彼女なんだ,という感じで,しかし,コ−ラスが,それとなく破局を暗示しますね。
 そのあとに,「彼女はいつかあんたに一杯くわすよ」とか,「あんたのやり方次第では,世界一やさしい女性も,世界一酷薄な女性になってしまうよ」といった,もっと不吉な歌詞があり,そして,舞台がくるりと変わる。
       
  私は,病院のベッドに横たわっている
  足のつま先から頭まで,包帯をグルグル巻かれて
  あまりのショックに,死んだようになって
  彼女にこんな目に合わされるなんて,思いもしなかった
  口でいうより手のほうが早い,ということわざどおりだ
  (コ−ラス: 愛と憎しみとは紙一重)
  彼女をひどく扱いつづけてきたなんて,思いもしなかった
  (コ−ラス: 愛と憎しみとは紙一重)
   
 アル・グリ−ンが,つきあっていた女性に,煮えたぎったグリッツ(小麦がゆ)をかけられて大火傷した事件を思い出す。可愛さ余って憎さ百倍,ってやつね。しかし,スウィ−トなコ−ラスとヘヴィな中身の,このミスマッチ感覚はどうだろう! シュ−ルすぎて,ほとんど笑えるぞ。
 この曲は,ヤング,ギフテッド&バッドという名の専属バンド(結構達者)がバックを務めるNY録音で,のちのこのグル−プの,トニ−・ベルやノ−マン・ハリスらによるシグマ・スタジオなどでのレコ−ディングに比べれば,サウンドはやや荒い。しかし,タイトルからもろゴスペルの「ピ−ス・イン・ザ・ヴァリ−・オヴ・ラヴ」や,もっと甘味の強い「オ−ル・ストラング・アウト・オン・ユ−」,グラディス・ナイト&ピップスと競作の「ベスト・シング・ザット・エヴァ・ハップンド・トゥ・ミ−」等々,愛すべき曲はいくつもあるけれど,ト−タルな完成度という点では,パ−スウェイダ−ズは,以後,これ以上の作品を吹き込むことはなかった。
 ついでにカヴァ−・ヴァ−ジョンの話をしよう。1984年にプリテンダ−ズというロック・グル−プが,この曲をポップ・チャ−トに入れたらしい(未聴)。また,「ハニ−,ハニ−」で知られる実力派デイヴィド・ハドソンも,87年のウェイロ−盤でカヴァ−して,なかなかのヴォ−カルを聞かせる。ただし,ウィリ−・ミッチェル製作の打ち込みのバックは,最高とはいえないけどね。
 さて,これだけのスペ−スを使って,歌詞の紹介をして,何をいいたかったかというと,ソウルには,けっこう「人生」な歌があるってことです。

●嗚呼,人生の並木道

 人生といえば,夏休みにロスで聞いた,ソウルのFM局の女性DJの番組も,なかなかだった。音楽の合間にファンと電話で話すんだけど,昔のミリ−・ジャクソンやシャ−リ−・ブラウンの曲さながらの「愛のもつれ」の話が続出する。よりつかなくなった遊び人の男に,「セックス目当てなら帰ってくるな,帰ってくるなら父親らしいことをしろ($$$持ってこい!)」と訴える女性とか,「書類を持っている(正式に結婚している)妻」に対して,「彼の心も体も私のものよ」と宣言する女性とか。
 ぼくが聞いたなかで,極めつけは,「彼女が妊娠しちゃった。子どもを産ませたい」と相談する15歳の男の子の電話だった。お互いの両親にそのことを話し,学校を止めて,生まれてくる子のために働く,という少年(たしかダンテ君といった)に,その女性DJは,「逃げ出さないで,彼女と一緒に問題に立ち向かおうとするのは,偉いわ。逃げる男が多いからね。でも,これは,大人の立場にたって判断しなければいけない事柄よ。産むか,産まないか,学校を止めるか,続けるか,いずれにしても,あなたはこれから大人の世界に入るってことを自覚しなくちゃだめよ」とアドヴァイスしていた。トミ−・テイトの「スク−ル・オヴ・ライフ」を思い出させるエピソ−ド。しかし,つぎからつぎへとカウンセリングみたいな会話をして,渋めのソウルかけるそのDJ,やたらかっこよかった。軽さを身上に,ミュ−ジシャンが二足のワラジを履く,日本のFM局のDJ番組とは大違い。          
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 てな調子で,いろんなことを書きます。その昔,大阪の某ソウル・ファンジン(廃刊記念号がいまだに出ない!)で似たような連載をしてたんだけど,ブランクが長いので,書き方を忘れてしまった。だんだんにアクセルを踏み込んでいくつもりなので,暖かい目で見守ってください。
[『Talk of the Town』2号 pp.28-29 1994]

ソウルde飲茶<2>  −フィリ−・ドッグってどんな犬?−

                         
 はい,レコ−ド・コレクションに役立つinfoが,ほとんど入っていない,ナッティ・プロフェッサ−の飲茶コ−ナ−です。
 この号は,フィリ−・ソウルの特集だとか。正直にいうと,私は,本格派のフィリ−・ファンじゃない。だって,好きなフィラデルフィア出身ア−ティストの,トップがソロモン・バ−ク,二番手がパティ・ラベルだもんね。どっちも,この特集の趣旨にあまり合いそうにないドスのきいたお方。大物と認めた上でなおかつ,敬遠するソウル・ファンもけっこういますよね。

●パティ・ラベルはなぜ嫌われる?

 とくにパティ。いまや,アリサに代わるレディ・ソウル No.1といって差し支えない人なんだけど,その割に人気薄なのよね−,日本じゃ。なぜ,パティ・ラベルは嫌われるのか? とりあえず,ブラック・ミュ−ジックの生き字引,鈴木啓志さんに電話して,意見を聞いてみよう。

 もしもし−,鈴木さんですか。え−っと,突然ですけど,パティ・ラベルって,日本じゃ人気ないですよね。「ファンの人もいるじゃない。平野さんとか,小出くんとか」 あ,そうなんですか−。でも,それほどこっちじゃ,ウケてないでしょ。「マニアの人には注目されてないよね。といって,一般の人にも,それほど人気がないようだし。向こうの黒人のあいだでは絶対的な人気だから,70年代のアリサと同じだね」 なるほどね−。で,鈴木さんは,ファンなんですか。「好きだよ。<ラベル>の時代のはもう一つだけど,ソロは好きで,十枚くらい持ってるかな」 ジャズっぽい曲とかあるけど,大丈夫ですか。「あの人のジャズ・ヴォ−カルっぽいのは,そんなに気にはならない」 ズバリいって,なんでパティ・ラベルは日本で人気ないんでしょうね。「それは一言ではいえない,むつかしい問題だね。トシさんが考えて,書いてよ」

 鈴木さんに分からないことが,私にわかるわけないぞっ,とかいいながら,なんとか愚考しましょう。あの人は,60年代のガ−ル・グル−プの出身。だけど歌がうますぎて,ス(シュ−)プリ−ムズのようなアイドルになれなかった人。だから,もろゴスペルのかん高い必殺シャウトと,ガ−ル・グル−プ仕込みのカマトト声のサンドイッチ攻撃という,恐るべきワザをもっている。そういうとこが,多くの日本人には,トゥ−・マッチなんじゃないすか。それと,「虹の彼方に」みたいなスタンダ−ドを歌うのも<−>要因かな。かの天才ソウル歌手,ジャッキ−・ウィルソンも,それで(日本じゃ)ずいぶん損してるもんなぁ。偏見を持たずに一度,彼女がブル−・ノ−ツをカヴァ−した「イフ・ユ−・ドント・ノ−・ミ−・バイ・ナウ」や,最新の『ジェムズ』でデルズの代表作に挑戦した「ステイ・イン・マイ・コ−ナ−」を聞いてみてください。聞いてみてそれでも嫌いなら,仕方ないけどさ。

●フィラデルフィアとゴスペル

 「歌える」ソウル歌手の定石どおり,バ−クもパティもゴスペル色の強い歌手で,でもってそれは,この市(まち)の伝統をしっかり受け継いでいるってことです。だってフィラデルフィアは,近ごろはデトロイトやロスにお株を奪われているけど,もともとは,シカゴと並んで多くの大スタ−を輩出し(ウォ−ド・シンガ−ズやデイヴィス・シスタ−ズ,アンジェリック・シンガ−ズとかね),ゴスペル史に輝く都市なんだから。
 70年代にこの街を仕切ったギャンブル=ハフの仕事も,もちろんそうした伝統と無関係じゃない。とくに,彼らのいわゆるメッセ−ジ・ソングは,ほとんどが宗教色を薄めたゴスペル・ソングだといい切っちゃっていいですね。そして,ギャンブル=ハフのその手の作品をほとんど一手に引きうけて歌ったのが,いうまでもなく,オハイオ州出身の三人組,オ−ジェイズです。
 ニュ−ジャ−ジ−を含む東海岸一帯はもちろん,スワン・シルヴァ−ト−ンズのクロ−ド・ジ−タ−(偉大なゴスペル歌手です)のファルセットとドゥ・ワップ・ハ−モニ−の流れをくむ,スウィ−ト・コ−ラス・グル−プの本場。なのに,ギャンブル=ハフは,なぜわざわざ中西部の州から,ハ−ド・シャウタ−(エディ・リヴァ−ト)を擁するオ−ジェイズを引っぱってきたのか。たぶん,テンプスの曲(とりわけノ−マン・ホイットフィ−ルド作品)の向こうを張るような仕事がしたかったんでしょうね。「裏切り者のテ−マ」なんかを聞くと,とくにそう感じます。
 さて,今回のメイン・ディッシュは,このオ−ジェイズのメッセ−ジ・ソング。「私たちの歌には,メッセ−ジがある。世の中で起こっているあらゆることについて歌うから,情報を受けとっておくれ。コミュニケ−ションをしよう」(76年の「メッセ−ジ・イン・ザ・ミュ−ジック」)と歌う彼らの,そのメッセ−ジの中身をのぞいてみよう。

●オ−ジェイズの「ご意見」をフォロ−する

 メッセ−ジ・ソングというのは,ステイプル・シンガ−ズやマ−ヴィン・ゲイなどのヒットを通じて,1970年前後から目立つようになった分野。ラヴ・ソングや純粋なダンスものにまじってポツリとアルバムの中にあるというのが,普通のパタンですね。
 オ−ジェイズをソウル界の頂点に押し上げた1972年の『裏切り者のテ−マ(Back Stabbers)』は,そういう意味では,かなりメッセ−ジ色が強い異色アルバムといえるかもしれない。なにしろ,のっけから「世界が平和になるとき(When the World's at Peace)」ですからね。「裏切り者のテ−マ」と「シフトレス,シェイディ,ジェラス・カインド・オヴ・ピ−プル」は,社会派メッセ−ジ・ソングというより,「世の中には悪いヤツがおるよって,気いつけや」という個人的な忠告の歌という感じだが,アルバムの最後は「世界中の人間が手をつなごう。愛の列車を走らせよう」という,「ハンド・イン・ハンド」路線の大名作「ラヴ・トレイン」でシメになる。
 ちなみに,「列車」といえば「ソウル・トレイン!」というのが,普通のソウル・ファンの反応だろうけど,そのイメ−ジにはじつは,長い歴史がある。その昔の奴隷時代,ブラックたちのあいだでは,死んだら「戦車」(つうか,ロ−マの戦士なんかが馬に曳かせて走る二輪車みたいの)に乗って,天国へ行くんだと信じられてた。「スウィング・ロウ,スイ−ト・チャリオット」という黒人霊歌,聞いたことないですか? あの「チャリオット」が,その「戦車」ね。
 その後,鉄道が普及しはじめると,この戦車が列車に替わる。「ゴスペル・トレイン」だの「ディス・トレイン」だの,天国行き列車(そのころのことだから汽車)を題材にしたヒット曲が,戦前にはたくさんありました。そして,その延長線上に輝くのがシックスティ−ズの,カ−ティス・メイフィ−ルドとインプレッションズの大名曲,「ピ−プル・ゲット・レディ」なんですね。この歌の中身は,「悪いことしたら,天国行きの列車に乗れないよ」という,まっ正直なゴスペル。いっぽう,伝統的な列車のイメ−ジを使っているとはいえ,「ラヴ・トレイン」や「ソウル・トレイン」のほうは,「愛」や「ソウル」がある人なら,人種・信条・生活様式の如何にかかわらず,誰でも乗れるようです。「愛がある人なら,悪いことなんかしないでしょ!」,というツッコミもそりゃまあ可能ですが,一応このへんが,世俗音楽と宗教音楽の違いというやつです。

●エセ・ブラザ−への警告

 話が,逸(そ)れ始めてるな。73年の『暁光の船出(Ship Ahoy)』に行きましょう。この船出は,何の船出か。アルバム・ジャケットの表と裏のイラストを見れば分かるように,奴隷船の船出です。タイトル・チュ−ンの「シップ・アホイ」は,だからもちろん,アフリカから積み出された奴隷の航海を描写した歌で,続く「ディス・エア−・アイ・ブリ−ズ」ではなんと,大気汚染を解決しよう,というメッセ−ジが歌われる。たしか,JBもこのテ−マの曲(ざ−とらしい咳入りの)を歌ってたよね。いっぽう,大ヒットした「フォ−・ザ・ラヴ・オヴ・マネ−」は,お金をめぐって右往左往する人間を皮肉った歌,ということになるのかな。ただし,「でも,やっぱりお金はないとマズいよ」とウィンクする,ケネス・ギャンブルの顔が見えてきそうだけど。
 このアルバムには,もう1曲のメッセ−ジものが入ってて,それが,よりゴスペル感覚が強い,マイナ−・キイのスロ−「ドント・コ−ル・ミ−・ブラザ−」。これは,ある意味で,あのころのブラックの聴衆に,いちばんピンとくる内容の歌だったろうと思う。
 60年代後半から黒人の民族意識が盛り上がり,アフロ頭でソウル・シェイク(ブラック方式の握手)をかわして,「ブラザ−」「シスタ−」と呼びあうようになった。だけど,格好ばかりがブラザ−風で,じつはブラックの仲間のことを大切に思わず,平気で食い物にしたり,傷つけたりするやつも少なくない。「あんた,本気でそう思っているんじゃなかったら,俺のことを気やすくブラザ−(兄弟)なんて呼ばないでくれ」というのが,この歌のタイトル&サビの部分の意味です。いっぽうで,マ−ヴィン・ゲイが「イナ−・シティ・ブル−ス」で歌ったような,都会のゲット−のシビアな現実が問題になりはじめたとはいえ,まだ,黒人同志の連帯を前提に歌が歌えた,よき時代の歌ではありますね。(いまや,弱肉強食のギャングスタの時代だもんね。)
 次作『サバイバル(生存者)』(75年)にも,「ギヴ・ピ−プル・ホワット・ゼイ・ウォント」「サヴァイヴァル」「リッチ・ゲット・リッチャ−」と,メッセ−ジ路線の曲が3曲入っている。「ギヴ…」は,「世界中の人々に彼らが求めるものを。平等を,教育を,食物を,住宅を,お金を,理解を,自由を!」という,格調高い中身。「サヴァイヴァル」は,「俺たちは,マジで,生きのびるのに必死なんだ。だれか,助けてくれ!」という,そう,7年後のグランドマスタ−・フラッシュのラップ「ザ・メッセ−ジ」を予告するような歌です。ダンサ−の「リッチ…」は,「金持ちはますます金持ちになり,貧乏人はますます貧乏になっていく」と,アメリカ社会の仕組みを批判する歌で,こういう厳しい内容の曲でディスコしたりもしてたんだよね,あの頃は。

●天国への階段

 ちなみに,このへんまでが,少なくともオ−ジェイズに関していえば,ギャンブル=ハフのサウンドの最盛期でしょうね。かっこいい。黒い。今聞いても,じつに新鮮!
 つぎの『ファミリ−・リユニオン』(75年)所収のメッセ−ジもの,「ユニティ」あたりになると,「人々の連帯」を訴える歌詞が,ディスコを意識した音作りのおかげで,いささか空回り気味だ。このあともオ−ジェイズはメッセ−ジものを歌いつづけたけど,代表的なものはこれでカヴァ−できはず。それに,そろそろ飽きてきたでしょ? 70年代のダンス・フロアに流れたオ−ジェイズの声が,せつなくディ−プなラヴ・ソングだけでなく,こんな歌も歌っていたということを,頭のすみにとどめておいてください。
 こうしたメッセ−ジ(とそれを書いたギャンブル=ハフ)の背後にあるのは,先にも書いたとおりゴスペル,つまり黒いキリスト教です。「ラヴ・トレイン」もそうだけど,『ファミリ−・リユニオン』中の傑作バラ−ド「ステアウェイ・トゥ・ヘヴン」など,そのへんがモロに出ている。この歌を,オ−ジェイズはベッドでの歓喜(エクスタシ−)の歌のように歌っているけど,文字通りにとって,ゴスペルとして聞いてもおかしくない。というわけで,その歌詞の一部を紹介して,それを今回の飲茶のデザ−トにしましょう。

  さあ行こう
  私は,天国への階段に立っている
  さあ行こう
  私たちは,この世界の重荷を背負いながら
  歓喜の道を歩いている
  天国の扉は開かれている あなたにも,私にも
  さあ行こう
  いまもまだ悦びの中にいる
  あなたと私で 秘密の宝物をみつけよう   
  天国への階段を登っていく
  天国への階段を登っていく
  一歩一歩,一歩一歩     [『Talk of the Town』3号 pp.35-37 1995]

ソウルde飲茶<3>  −サム・クックの二つの顔−


 信じられないことだけど,私のところにモ−タウンの仕事が来た。私は,オヴァ−トン・ヴァ−ティス・ライトはんのお位牌に毎日お念仏をあげる(うそうそ),「時代遅れ」のサザンソウル・ファンだ。恥ずかしながら,H=D=Hやホイットフィ−ルドの良さが分かるようになったのは70年代末になってからだし,フォ−・トップスだって,1981年の「ホウェン・シ−・ウォズ・マイ・ガ−ル」(Casablanca)で好きになるまでは,ベスト盤1枚しか持ってなかった。
 仕事の中身は,御三家(テンプス,トップス,ミラクルズ)を除いたモ−タウンの男性グル−プの,80年代始めごろまでの録音のなかから,ヒット曲中心で,75分以内の初心者用アンソロジ−を編む,というもの。ヒット曲中心なら,私にもできる。義理あるブラザ−WATSUSIからの依頼でもあるし,お勉強の機会だと思って,やってみました。
 スピナ−ズ(Tri Phi録音を含む),コントゥア−ズ,モニタ−ズ,アイズリ−・ブラザ−ズ,ファンタスティック・フォ−(Ric Tic録音),ジャクソン5,オリジナルズ,ダイナミック・ス−ペリア−ズ,コモドアズ(入れたくない,けど,仕方ない),スウィッチ,ダズ・バンド,ブラッドスト−ン。御三家を外すと,どうしてもこんなラインナップになる。オリジナルズは昔から好きだったけど,ファンタスティック4やス−ペリア−ズのよさは,今回初めて骨身にしみた。「いまごろ何いってんの!」と馬鹿にして下さい,ノ−ザン&グル−プ・ファンの皆様。ほんとは,この3グル−プの曲が7割,という感じで,コンピレが組みたいよね。
 私の選曲がそのまま通るかどうか分からないけど,とにかく曲が決まれば,お次ぎはライナ−書き。ほんとにオレが書くの!? みたいな焦りを覚えて,ついつい資料(ブックレット)めあてに『ヒットヴィルUSA』(CDボックス)の1と2を買ってしまった。「スタックスとモ−タウンと,両方のボックスものを買う金はない!」とかいって,発売時には手を出さなかったんですけどね。「そんなにお金使って,どうすんの?」と,プロフェッサ−の奥方。「いや,ライナ−書いたら,稿料が入るから」。「いくら入るのよ,いくら?」。「え−と,あの,その,むにゃむにゃ」。ブラザ−ズ&シスタ−ズよ,ソウルの道は険しいぞ。

●サム・クックの伝記が出た

 しかし,私を最近,ガッタ,ガッタの躁状態に陥れたのは,このモ−タウンの一件じゃない。な,なんとサム・クックの伝記本がついに出て,これが,伝説的存在になっていたクックの素顔を明らかにする,画期的な内容。すごい! なるほど! やっぱり! なんと! てな感じで,この伝記『ユ−・センド・ミ−』のあちこちを拾い読みしては,やたらに興奮しているのです。もちろんアチラの本(Daniel Wolf著,William Morrow & Co.刊,1995年)だけど,ソウル・ライタ−のYさんとかブル−ズ・インタ−アクションズとかが翻訳権の獲得に動いてるらしいから,訳本が出る可能性は十分ある。ただし,こうしたちゃんとした本の翻訳は,分厚く(したがって定価がお高く)なるから商売としてはキツくて,それがネックになる可能性はあるけどね。
 さっそく,『ブル−ズ&ソウル・レコ−ズ』の5号に,この伝記からのネタを盛りこんで,クックとサ−・レ−ベルについての記事を書きました。興味がおありの方は,ぜひご一読を。さて,本誌ではその落穂拾いというか,『BSR』誌では使わなかったエピソ−ドをいくつか,ランダムに飲茶してみることにします。
 クックには,若いときにホ−ムタウンのシカゴで,監獄に入れられた経験がある。貧乏だったJBが,盗みのかどで少年刑務所に入ってた話は知ってるけど,なぜ,牧師(ふつう暮らし向きは安定してる)の息子で「よい子」のクックが,って思うでしょ?
 クックは,当然ながらモテたそうです。学校じゃ目立たない生徒だったらしいけど,あれだけハンサムで,しかも小さいころから「歌手になって成功する」と決めて,歌いこんできた人でしょ。ハイスク−ル時代にはすでに,ティ−ンのゴスペル・カルテットで歌って,地元のアイドルになっていた。だから,女の子はいくらでも寄ってくる。来るものは拒まず,することはちゃんとしてたらしいんだけど,そうした場面でム−ドを盛り上げるため(?)に,クックが1頁もののポルノ(写真じゃなくて文章)を,女の子の部屋に持って行ったことがあったらしいのね。それを,その子の妹が学校へ持っていって友達に見せて,「きゃ−,ウッソ−,クスクス」なんて騒いでて,先生に見つかった。「こんな汚らわしいものの出所は誰だ!」ってことになって,クックの名前が割り出された。「未成年者に不道徳なことを勧めた」かどで(日本でいえば青少年条例違反というところか),クックは九十日間牢屋に入れられてしまった,というわけです。これは1948年のことだけど,アメリカの現状を思えば,信じられない話だよね。もちろん,クックが白人だったら,牢屋に入らずにすんだだろうと思います。

●クックがアトランティックに行っていたら?

 そうそう,「ティ−ンのゴスペル・カルテットで歌って」と上に書いたけど,クックはハイスク−ル時代から街角でグル−プを組んで,ポップスを歌ったりもしていた。まだ40年代の,ドゥ−・ワップ以前の時代だから,グル−プのアイドルがインク・スポッツだったというのは,やむをえないところだ。だけど,そのメンバ−がすごい。その5人組(グル−プ名はとくになかったようだ)には,サムと,50年代にスパニエルズで一時リ−ドもとるジェイムズ・”ディンプルス”・コクラン,そして,フラミンゴス(チャンス時代)とデルズ(チェス以降)で黄金のハイ・テナ−/ファルセットを聞かせた,あのジョニ−・カ−タ−がいたのだから。クックとジョニ−・カ−タ−を擁するグル−プなんて(二人ともまだ未完成だっただろうけどさ),O.V.ライトとジェイムズ・カ−が無名時代にいっしょに歌ってたゴスペル・グル−プ(ホントにあった)と同じくらい,すごい! という気がする。
 クックは,「ユ−・センド・ミ−」でスタ−になったあと,キ−ンを離れてメジャ−に移ろうとした。それは1950年代末のことなんだけど,そのときクックにアプロ−チしたのは,RCAヴィクタ−,アトランティック,キャピトルの三社だったという。キャピトルには黒人ア−ティストはナット・キング・コ−ルしかいなくて,当時コ−ルは大スタ−だったから,クックが入社しても,その影に霞んでしまう危険があった。アトランティックはR&Bに強くて,しかも,同社のジェリ−・ウェクスラ−はクックにぞっこんだった。しかし,契約条件のなかにクックの曲の版権(クックはKAGSミュ−ジックという音楽出版社を作って自分で曲を管理していた)をアトランティック系の会社に移すという一項が入っていたために,話がまとまらなかった。で,結局クックはRCAへ行き,60年代初頭には,ヒュ−ゴ−&ルイジに恐怖のどポピュラ−路線(「さらばジャマイカ」や「ロング・ロング・アゴ−」まで歌わされた!)で吹き込みをさせられることになるんだけど,もしもこのときクックがアトランティックへ行ってたら,ソウルの歴史がどうなっていただろう,なんて,考えてみるとゾクゾクしませんか?
 あと,アリサとクックのデュオの企画があったというのも,同様の「たら(IF)」話として,興奮度が高い。クックは家族でゴスペル・グル−プを組んで旅をしていた少年時代から,同じ旅興行の世界にいたアリサの一家との付き合いがあった。付き合いどころか,クックとアリサが幼い恋人どうしだったこともあるのだという。クックはゴスペルからR&Bに移ったとき,アリサもR&B界に引っ張りこんで,ペアを組んで歌おうとした。もっともこのプランは,アリサの父C・L・フランクリン牧師の「アリサはまだ,プロになるには若すぎる」という鶴の一声で,立ち消えになったらしいけどね。クックの「ワンダフル・ワ−ルド」が17歳のアリサとのデュオになっていたかもしれないなんて,妄想をたくましくして,一人で喜んでいる私はロリコンなのかな。
 この伝記本の「売り」の一つは,「クックの悲劇の死の真相に迫る」こと。その中身をモロに紹介しちゃうと,推理小説の犯人を教えてしまうのと同じ,みたいな気がするので,ここでは控えます。結局,この本を読んで分かるのは,クックはいくつもの顔を持った,かなり複雑な人だったということですね。白人にも愛されるハンサムな「よい子」の黒人,という表面的なイメ−ジはけっして,サムのすべてではなかった。酒も飲んだし,女も買った。ストリ−トの夜の暮らしも知っていたし,ときには汚い言葉も使い,腹が立てば大声で怒鳴ることもあった。といっても,今の価値観からいえば「ふつう」の人だよね。でも,ロック以前のポップスの世界では,それだけでも十二分にスキャンダルの種だったわけです。

●サム・クックとモ−タウン

 さて,話を強引にモ−タウンに戻します。といっても,クックがモ−タウンに与えた影響って,考えられますかね。コパでのライヴ録音の伝統,なんてのはどうかな。クックという先駆者が道筋をつけたからこそ,スプリ−ムズやテンプテ−ションズがNYの白人向け高級ナイトクラブ,コパカバ−ナに気楽に出られた,といえないこともないでしょう。クックは「ユ−・センド・ミ−」でポップ・スタ−になったあと,1958年に一度,コパで痛い目にあっている。お客に,ぜんぜん受けなかったのだ。そのときのトラウマ(心の傷)を癒すため,クックはレパ−トリ−とステ−ジ構成に工夫をこらし,64年にコパに再挑戦して,今度はみごとに大当たりをとる。その成果が,例の『アット・ザ・コパ』のアルバムというわけだ。でもこれは,ソウルの本質とは,あまり関係ない話だよね。
 やっぱり,大きいのは唱法の影響ですか。60年代のマ−ヴィン・ゲイやスピナ−ズ,あるいはエディ・ケンや,よりハ−ドなスタイルのデイヴィド・ラフィンにも,あちこちにクック節の影響が感じられる。ゲイの「キャナイ・ゲット・ア・ウィットネス」や「ハウ・スウィ−ト・イット・イズ」あたりはクックを荒くしたような唱法だし(クックもライヴでは荒かったことは『ハ−レム・スクウェア』でご存じのとおり),ゲイによるドリフタ−ズの「ディス・マジック・モ−メント」のカヴァ−など,ヨ−デルを抑えた不器用なクックという感じだ。ちなみに,ゲイはテクニックよりも精神性というか,自分の内面を見つめながら歌うという姿勢をクックに学んだと,上の伝記を書いたウルフさんは指摘しとります。それとは逆に,クックから何の影響も受けていないことを証明したのが,スプリ−ムズの『ウィ・リメンバ−・サム・クック』ね(何のつもりやねん,あれは!)。
 しかし,クックのモ−タウンへの最大の貢献は,結局,64年に突然死んだことなのかもしれない。クックは,アップタウン(都会派)・ソウルとディ−プ・ソウルの両方に足をかけた位置にいた。作曲やプロデュ−スの才能もあったし,ビジネスのセンスもあった。死ぬ前には,自身のサ−・レ−ベルに力を入れて,本気でスタ−を育てようとしていたようでもある。もちろんモ−タウンに比べれば持ち駒は少なかったけれど,サ−の本拠地のロスも,その気になって探せば人材に事欠かない土地だ。クックの死は,ベリ−・ゴ−ディにとっては,有力な商売敵が一人消えたことを意味した,というのは,いささかハ−ドボイルドにすぎる見方でしょうか。

 今回は,この連載のトレ−ドマ−クのつもりの,ソウルの歌詞の話が盛りこめなかった。まあ,先は長いんだし,こうやってちょいちょい脇道にそれながら,ボチボチいきましょう。この曲を取り上げてとか,歌のこの言い回しの意味はとか,リクエストや質問があれば,水中編集長気付で,ナッティ・プロフェッサ−にお便りをどうぞ。  [『Talk of the Town』4号 pp.39-41 1995]

ソウルde飲茶<4>   −アラバマと風の街のソウル・コネクション−


 前の号で,モ−タウンの男性グル−プのアンソロジ−を組んだと書いたけど,それは,『ソウル・ミュ−ジック・コレクション/モ−タウン・ボックス』という通販もの企画の一部だったのでした。発売元は,日本音楽教育センタ−だとか。目下,ポリド−ルを通じてモ−タウンからライセンスをとる作業を進めているようです。詳しくは知らないけど,ヒット曲中心で十枚組くらいになるんじゃないかな。例のモ−タウン・ボックス×2が出たあとでもあるし,マニアにはあまり関係のない話だろうけど,たぶん初心者には,便利な入門セットであるんだろうね。
 ぼくはけっこう,通販で各種のボックス・セットを買います。先月も,『浪曲忠臣蔵大全集』と『決定版ニュ−ミュ−ジック大全集』をつい申し込んでしまった。ラップやハウスをお勉強するかわりに,こういう買い物をしてしまう私が,BMR誌のレギュラ−を下りることになったのも,当然といや当然だよな。

●バラ−ドの魔術師,サム・ディ−ズ

 さて,先月に引きつづき,『ブル−ズ&ソウル・レコ−ズ』とのタイアップ記事(?)です。夏に出る同誌6号でサム・ディ−ズ特集を組むということで,ぼくも「ソングライタ−としてのディ−ズ」をテ−マに,記事を書きました。この人が75年にアトランティックから出した『ショウ・マスト・ゴ−・オン』が,発売当時から大好きだったこともあって,思わず文章にリキが入ってしまった(詳しくは,同誌を読んでいただければ,有り難いです)。
 余談なんだけど,そうして一時は愛聴した『ショウ・・』を,今ぼくはもっていない。悲しいことにあのアルバム,どうやら人に貸したまま帰ってきていないらしく,十年以上前に,ぼくのレコ−ド棚から消えているのです。数年前に日本で再発話があったけど,なぜか立ち消えになった。今度,Pヴァインからリイシュ−盤が出て,やれ嬉しやと思ったら,権利関係の事情で,タイトル曲と「トラブルド・チャイルド」の2曲が収録されていないじゃないすか。グヤヂイ〜!の一言です。あのアルバムは,国内のセ−ルでもけっこう見かけるけど,人気が高いらしく,多少のビッドじゃ落ちません。もちろん万札を張りこみゃ何とかなるのでしょうが,そんなことする気はないしね。(簡単に万札を投げ出すというバブル時代以来の悪習,いいかげんにやめようね,ソウル・マニアの皆さん! 何事にも「適正価格」というものはあるのだよ。)
 さて,ライタ−としてのディ−ズは,始めはわりとふつうのサザン・ソウルを書いていた。ところが,チェスでの自身の「ラヴ・スタ−ヴェ−ション」(これは,本人にとって,ジョン・エドワ−ズで知られる「ストップ・ディス・メリ−・ゴ−・ラウンド」やロゼッタ・ジョンソンに書いた「ウ−マンズ・ウェイ」とならぶ初期の自信作だとか)あたりから個性を出しはじめ,70年代半ばには,自身の『ショウ・・』やロリ−タ・ハラウェイの『クライ・トゥ・ミ−』あたりで独創的なライタ−としてのスタイルを確立した。ちなみに,この時期はフレデリック・ナイトとの共作が目立った時期でもあります。でもって,1977年にアラバマからロスに引っ越ししたあと,南部色など感じられないブラック・コンテンポラリ−のバラ−ド書きとして,一時代を築くわけですよね。
 とにかく,この人,いい曲書きます。私の記憶の貯蔵庫をちょっとかきまわしただけでも,ハラウェイの「クライ・トゥ・ミ−」や,のちにウィリ−・クレイトンがカヴァ−する本人の「ソ−・タイド・アップ」,本人およびグラディス・ナイトの「マイ・ワ−ルド」,ジョニ−・テイラ−やピップス,ウィルソン・ピケット&ジャッキ−・ム−アらの「セカンズ・オヴ・ユア・ラヴ」等々,メモラブルな曲のイントロやサビが,次々と耳の奥で鳴り響く。
 ソロ歌手向けに書いた曲が多いんだけど,しかし,アトランティック・スタ−,グラディス・ナイト&ピップス,タバレス,フィエスタス,テンプス,マンハッタンズ,チャイ・ライツ・・と,グル−プもけっこう彼の作品を歌っている。そのなかで,今回はやや渋目に,ウィンディ・シティという男性ヴォ−カル・グル−プが歌ったディ−ズ・ナンバ−を取り上げることにします。

●ディ−ズには珍しい三くだり半の歌

 ウィンディ・シティは,ご存じのとおり,スウィ−トなコ−ラスでマニアに人気のシカゴの5人組。七〇年代半ばごろから地元のマイナ−・レ−ベルで録音を始め,七七年にカ−ル・デイヴィスのチャイ・サウンド・レ−ベルから,唯一のアルバム,『レット・ミ−・ライド』を出した。これはグル−プ・メンバ−の自作曲が中心のアルバムなのだが,しかし,「ウィン・オア・ル−ズ」,「グッド・ガイズ・ドント・オ−ルウェイズ・ウィン」,「フ−ル,オア・ユア・マン」と,ディ−ズの作品が3曲取り上げられている。
 そのうちの「ウィン・オア・ル−ズ」は,細田日出夫さんによるリイシュ−CD(Pヴァインから出てる)のライナ−を引用するなら,「この[テナ−・リ−ドの]挑戦的なヴォ−カルは凄い」,「曲調,ハ−モニ−も完璧でスロ−ではこれがベストトラック」ということになる。たしかにソウルフルだよ,このパフォ−マンスは。となれば,歌詞の内容を知りたくなるのが人情じゃありませんか。
 この「ウィン・オア・ル−ズ」は,熱愛の歌が多いディ−ズ(「ワン・イン・ア・ミリオン・ユ−」とか「シ−クレット・アドマイアラ−」とかさ)には珍しい,「もう,ぼくら二人はやっていけない,別れよう」という愛の修羅場の歌であります。曲のタイトルは,

    I don't wanna fall, so let's call it off
    Win or lose, we tried

という,サビの部分(リ−ドだけでなくバック・コ−ラスも繰り返し歌う)の二行目からとられていて,「勝ち負けはともかく」とでも訳しますか。「勝った負けたと騒ぐじゃないよ,あとの態度が大事だよ」と歌ったのは,たしか水前寺清子だったと思うけど(違ったっけ?),この歌のドラマは,もっとせっぱ詰まってる。「勝ち負けはともかく,やるだけのことはやったんだ,それでも駄目だったんだから,別れよう」というのが,この歌の主人公の主張です。つまり,最後通告というやつですね。
 歌詞には一番と二番があって,そのあと,歌手がアドリヴでいろいろ歌ってますが,とりあえず一番を,まるごと紹介しちゃいましょう。

  荷物をまとめて,服をバッグに詰めたよ
  君の仕打ちには,もう我慢ができない
  利用されて,悲しい思いをするのはもうたくさんだ
  このまま君を愛し続けても,待っているのはハ−トブレイクだけ
  もう一度君がぼくをだまして,不実なことをするまえに,ぼくは出ていくよ
  落ちこまされるのはイヤだから,もうおしまいにしよう
  ぼくらは,勝ち負けはともかく,できるだけのことはしたんだ

 たぶん,彼女の浮気かなんかがきっかけで,激しいスッタモンダがあったんですね。とはいえ,二番では「二人の仲をまずくするようなことが起こりすぎた」とか,「君が悪いとはいえない」とか歌ってるから,ま,いろいろあったんでしょう。主人公のほうだって,けっこう潔白とはいえないんじゃないかな。とにかく主人公は,決定的に二人の間が噛み合わなくなった,一緒にいても傷つけ合うだけだと思っている(二番でそう歌ってます)。だから,自分が出ていく,というわけですね。とすると,アパ−トを借りて,家賃を払っているのは彼女のほうなのかしら,などといういらんツッコミは,ここでは脇に置いときましょう。
 リ−ド歌手は,かなりの感情移入をして歌っています。二番が終わったあとのアドリヴ・パ−トでは,「さあ,出ていくよ。グレイハウンド・バス(長距離バス)に乗るんだ」なんて,リアルな歌詞をつけ加えたりもしてる。

●デモ録音を考える

 ところで,この曲の二番のあとがなぜアドリヴだと分かるかというと,こういうことです。最近,イギリスのケント(エ−ス)からディ−ズの未発表曲集『セカンド・トゥ・ナン』が出たけど,そのなかに,ウィンディ・シティが歌った3曲ぜんぶの,ディ−ズ自身のヴォ−カルによるデモ録音が入ってる。そして,「ウィン・オア・ル−ズ」のデモ・テイクでは,歌詞は二番までしかないというわけです。
 はっきりいって,このケントの未発表曲集は,デモ録音集と正直に明記したほうがいい内容のもの。ソウルのソングライタ−は,自分が書いた曲を楽譜にして出版しもするけど,曲を売り込むときは,リズム・セクションにヴォ−カルとコ−ラスをのせただけ,といった感じの簡素なデモ録音をテ−プにして,あちこちへ送るんですね。プロデュ−サ−はそれを聴いて曲を選ぶ。また,ア−ティストもたいていは楽譜ではなく,デモ録音で曲を覚える。となると,デモ録音の影響,という話も出てきます。ウィンディ・シティの3曲の場合,リ−ドの歌い方もある程度ディ−ズ自身のデモ歌唱を参考にしている感じがするけど,それよりも「フ−ル,オア・ユア・マン」などで,コ−ラスのアレンジを丸ごとデモからいただいているのが印象的です。
 ちなみに,ミディアム・アップのこの曲も,「ぼくは,君にいいようにあしらわれている愚か者なのか,それとも,君の彼氏なのか。まあ,どっちでも同じようなものだけどね」という,女の不実をなじる歌。ちょっとブル−ジ−で,メロディのいい曲だけど,こういう歌詞じゃメジャ−・ヒットはしそうもない。
 だから,というわけじゃないけど,ウィンディ・シティは,結局,メジャ−の二十世紀フォックスが配給するチャイ・サウンドでいうほどのヒット曲を出すことはできず,マイナ−・レ−ベルの世界に戻ることになる。ヒットがないというのは悲しいことで,かなり細かい情報が載っているロバ−ト・プル−タ−の『シカゴ・ソウル』のチャイ・サウンドのセクションにも,ウィンディ・シティの名前はありません(ベイビ−フェイスがいたことで有名なマンチャイルドについては,記述があるんだけどね)。しかし,マンハッタンズが歌ったディ−ズの「ジャスト・ザ・ロンリ−・ト−キング・アゲイン」ほどの風格はないけど,このロ−カル・グル−プとディ−ズの曲の組合せにも,じつに愛すべき味わいがある。機会があれば,一聴をお薦めします。
                            
[付録]/////////////////////
WIN OR LOSE

  Girl, I'm packed up, got my clothe in the bag
  Ain't gonna stand your ways no more, tired of being used, tired of being sad
  (?) Loving you is gonna be having a heartbreak
  But I think I better walk on now before you fool me again and make mistake
  I don't wanna fall, so let's call it off  
  Win or lose, we tried            (chorus)

  Love never had a chance with us
  Too many things went wrong with us
  I can't say that you are to blame, but it really don't mean a thing
  So, let's be strong enough to get this thing off
  Try to start with someone new
  Cause we are only making each other blue
  I don't wanna fall, so let's call it off
  Win or lose, we tried, baby       

  I don't wanna fall, so let's call it off
  You know, we tried
  It just didn't work out for us, baby
  Now I'm leaving
  You go your way and I go mine
  Together we may meet again
  That's (?)
  That's (?) for us to see
  I don't wanna fall, so let's call it off
  Win or lose, we tried, that's all
  (?), yeah, I'm leaving, I'm getting on a greyhound bus, yes I am
  I tell you that I don't wanna fall again ---
                  [『Talk of the Town』5号 pp.28-31 1996]

ソウルで飲茶<5>  −テュペロ発の最終バス−


 私は,自称「隠居したコレクタ−」であります。まあ,コレクタ−といってもドクタ−・ヒトシなどと比べれば所詮マイナ−・リ−グではありますが,とはいえそれなりに熱心に内外の各種セ−ル・リストを取り寄せ,こまめに印をつけて注文しては,胸をトキメかせて荷物が届くのを待ちわびたこともありました。
 いまでもだらだらとディスクを買ってはいますが,気持ちの上では,下りちゃってますね。そうなった理由はいろいろあるけど,中でも大きいのはやはりアナログからCDへの変化。耳タコもののオ−ルド・コレクタ−の繰り言だけど,ビニ−ル中毒の人間はプラスティック・ケ−スに入った虹色のディスク相手では燃えない。ジャケットや紙袋のあの匂い,溝にたまったホコリ,おっかなびっくり手動で針を下ろしたときのあの感触,イタを回しながら大きなLPのスリ−ブを検分する楽しみ。CDにはそれがない。ベイビ−,ベイビ−,あの愛はどこへ行ったの? 
 CD化の結果,いっぽうじゃ残存するアナログ・ディスクは高価な骨董品になっちゃうし,CDリイシュ−の嵐の中で,「聞きたい」からコレクトするという,以前のイタへの飢えみたいな感覚も鈍ってきちゃうし。
 さらに,悩みの種なのが収納です。アナログのシングル盤も引っ越し以来,入れる場所がなくて床に箱積みにしてるけど,CDはもっと処置に困るんだよね−。てなことをいってたら,金沢のレコ−ド・ジャングルの中村さんが,手書きの請求書の余白に,こんな「妙案」を書いてきた。
 「CDを大量に収用できる秘術を発見しました。何のことはない。プラケ−スをそっくり,すててしまうのです。前後のスリ−ヴ・シ−トの間に盤だけをはさみこんで,3枚いちどに,ポリ袋かビニル袋の中へ入れれば,今までの5倍の枚数が収用できます。おためしあれ。ついでに,からケ−スは1セット30円で,中古レコ−ド・CD店に引きとってもらいましょう」
 なるほど。しかしな−。
 CDつうのは愛のない,「聞ければいい」という機能的ソフトなんだから,ハ−ドボイルドにこんな収納の仕方をしてもいいんだ,というのは一つの達観だと思うけど,私ゃやっぱり,そこまでは開き直れません。

●歌唱のディ−プさと歌詞のディ−プさ

 というわけで,私,コレクタ−としては楽隠居中ですが,ソウル・ファンとしては現役のつもり。だから,こんな連載をさせていただいたりもするわけですが,今回はチェンジ・オヴ・ペ−スということで,昔のマニアックな気分を蘇らせて,超マイナ−歌手の作品紹介をします。
 TOTの本号は,待望の(!?)ディ−プ・ソウル特集ですが,しかし,「ディ−プ」っていったい何ざんしょう? この形容詞で私がまず思い浮べるのは,「歌唱がゴスペルっぽい」ということだけど,しかしディ−プのイメ−ジはもちろんそれにつきない。「ストレ−トに感情に訴えかける」とか,さらには「人生を感じさせる」といった印象が,そこにはある。ちなみに,以上をぜんぶ兼ねそなえたディ−プの代表選手が,O・V・ライトなんですね,私にとっては。
 人生を感じさせる,ということになれば,唱法も大切だけど,歌詞も大切だ。モ−ンやシャウトの入った真剣なゴスペル・ソウルの唱法で,「スイスイス−ダラダッタ」とか「サラリ−マンは気楽な稼業ときたもんだ」とか歌っても,そりゃあディ−プじゃなくて,単なるミスマッチ。
 人生といえばやはり,「深夜の2時45分に,タバコ片手にコ−ヒ−を飲みながら,恋人と話し合っている」(オ−ティス・レディング)とか,「昨日も女のところから深夜に帰り,靴を脱いで忍び足で家の中を歩いた。今朝起きてみたら,妻もちっちゃなジョニ−もいない」(トニ−・ボ−ダ−ズ)とか,「俺が女房に虐げられていると,人はいうけどさ。違うんだ。おまえに首ったけなだけなんだ」(O・V・ライト)といった歌詞を歌ってほしいですね。
 そうした胸に迫る物語性がある名作が,ソウルの世界にはたくさんある。しかし,その種の人生ソングの中でも,あまりにも異色なために,昔から「なんやねん,これ」と首をひねりながら,しかし,その迫力に圧倒されて聞き入ってしまう曲がある。それがフランキ−・ニュ−サムの「ラスト・バス・フロム・テュペロ」なのです。フランキ−は60年代から70年代にかけて活動したシカゴの歌手で,ワンダ−フル系のアンソロジ−でイギリスや日本に紹介されたウィリ−・パ−カ−と,十中八九同一人物。私は不勉強なので(『ソウル・オン』さえ読んでない),この人についてのまとまった紹介がすでにされているかどうかは知りません。クセがなく伸びのあるテナ−歌手で,シカゴ風のいなたさのあるノ−ザンのアップで快作をいくつか残している人,くらいの知識の持ちあわせしかない。ついでに,たまにはやってみよ−かという感じで,知っているシングルのリスティングも載せておきましょう。

 Willie Parker
 M Pac! 7235 Salute to Lovers/Don't Hurt the One You Love
 M Pac! 7236 I Live the Life I Love/You Got Your Finger in My Eyes
 Marvel 2700 Looking in from the Outside/Firewater

 Frankie Newsome
 Sugport 202 My Lucky Day Pt.1/Pt.2
 Sugport 204 Coming On Strong Staying Long/Last Bus From Tupelo
 GWP 515    My Lucky Day Pt.1/Pt.2
 Savern 103  Don't Mess With My Love Maker Pt.1/Pt.2

 このなかで,キング・フロイドの「グル−ヴ・ミ−」のノ−ザン版という感じの「カミング・オン・ストロング」(Sugport 204)の,たぶんB面にあたるのが問題の「テュペロ」。ニュ−サムのもっともディ−プな,そして優れた作品だと思う。マイナ−・キイのスロウ・テンポで,キイボ−ドとコ−ラスはまったくゴスペル仕立て。サビの部分もなく,シンプルな8小節の繰り返しが長々と続くこの曲の歌詞は,ミシシッピの綿農園を逃げ出して,テュペロの町からバスにのってシカゴへ出てきた若い男の半生記。歌唱がリアルでリキが入ってて,歌詞のほうもディ−プなんだけどさ。「おいおい,ええんかいな,ヒットねらいの計算がぜんぜんないやんか」と余計なお世話をしたくなる。せめて,クラレンス・カ−タ−の「パッチス」(ジェネラル・ジョンソン作)程度のお化粧を施せばいいのに,とにかくストレ−トな歌なんだよね。ということは同時に,1930〜40年代生まれ位までのミシシッピ出身のソウルやブル−スの歌手が,どんな人生の並木道を歩いてきたかを推測するのに役だつ歌ということでもあります。
 うしろに,聞き取った全歌詞をつけます(といっても虫食い穴があちこちにあるけど)。長いでしょ。最初の2行がツカミの部分で,ここは結構クックっぽい。そのあと,田舎の朝を示す虫と犬と鶏の声が入って,それからスト−リ−が始まる。このへんはなかな映画的です。

●あこがれのシカゴで夢破れ

 主人公は,ミシシッピ州の綿農園で働く貧しいシェアクロッパ−(小作人)の一家に生まれた。とうちゃん(Pappy)は朝から晩まで,ラバと一緒に畑を耕していた。働いても働いても,ボス(農場主)への借金は増えるばかり。主人公も畑で働いた。小学校なんて,冗談みたいなもの。ボスが教室へ来て,「おい,ジョ−,野良へ出てわしの綿を摘めよ」といえば,それで授業はお流れになるんだから。
 主人公は,絶対にこんなところから抜け出してやると思っていた。子どものときから奴隷みたいに働いても,ボスへの借金で身動きもとれない。両親に,「出ていくよ」と話した。「どこへ行くの」とたずねられたけど,何のあてもない。ジョ−おじさんといとこのガスになけなしのお金(dough)を都合してもらって,友達に別れを告げた。昼間だったからテュペロの近くまでは,森の中を隠れて歩いた。(借金に縛られている身の上だから,ボスや仲間の白人に見つかったら,連れ戻されてしまう。)
 テュペロから長距離バスにのった。(ブル−スの時代なら,汽車に乗ったりヒッチハイクしたりするところだ。)お腹が空いて,そして独りぼっちだった。自分が逃げ出したことがボスに分かったら,両親がどんな目にあうかが心配だった。
 バスの行き先はシカゴだった。シカゴの街は,騒音やはでな景色で田舎育ちの主人公の度胆を抜いた。食事をとる程度のお金はあったけど,急いで仕事を見つけなければならなかった。安宿で知合ったマックという男が,製鉄所の仕事を見つけてくれた。(そういや,ジャクソン5のおやじさんのジョ−もたしか,成功を夢見ながらシカゴの衛星都市ゲイリ−の製鉄所に勤めてたんだよね。)がんばって働いたけど,暮らしは楽にはならなかった。
 そのうちに主人公は,一人の女性と知合う。彼女は,主人公に love-making の仕方を手ほどきした。そして,主人公を顎で使うようになる。彼女はぜいたくで,主人公の給料くらいでは満足しなかった。主人公は彼女のために,人様のものに手を出すようになった。そして破局。主人公は,シカゴの街角を,独りぼっちで歩いている。テュペロ行きの始発バスに乗ろうかなどと,ぼんやり考えながら。(しかし,故郷のミシシッピへ帰っても,主人公の居場所がないことは,はっきりしている。)
この最後の破局が何なのかは,歌詞からはわかりません。彼女とケンカ別れしたのか。盗みのせいで刑務所へ入れられて,仕事も部屋も彼女もなくしたのか。想像をたくましくするなら,彼女の金遣いの荒さは,ドラッグと関係があったのかもしれない。
 歌は,メッセ−ジ・ソングのように何かを訴えるわけではなく,身の上話を主人公が話すというかたちで,順を追って展開する。考えてみれば,戦前から戦後にかけて,何十万,何百万の黒人が,この主人公のようにして,南部から東海岸や中西部,西海岸の大都会へと移住した。その中には,主人公のように都会の暮らしに挫折した人もたくさんいただろう。これは,そういう人が共感して聞けるように作られた歌なのかもしれないけど,でも,やっぱり地味だよね。それに,ヒットするにはあまりにも具体的すぎる。作者(ニュ−サム自身ではなく,プロデュ−サ−のサゴとポ−タ−という二人組)が,自分の人生経験をどうしても歌にしておきたかったということなのかな。
 この歌をもっと甘口にし,一般向きにすれば,マッキンレ−・ミッチェルの「エンド・オヴ・ザ・レインボウ」になるような気がします。「私は,虹の根元に埋まっているという宝物を探してさまよってきた。道は険しかった。ハ−トブレイクと苦しみで一杯だった・・」 この虹の根元の宝を探す旅は,具体的には,「ラスト・バス・フロム・テュペロ」で歌われる脱出行のようなものだったのかもしれないということを,ときには考えてみても悪くないだろう。それにしても,70年代後半にシカゴから,テュペロならぬミシシッピ州ジャクスンに里帰りして,「エンド・オヴ・ザ・レインボウ」のヒットという宝物を掘り当てたミッチェルは,思えば幸運な人だったよね。だって,レ−ベル・メイトだったこともあるこのフランキ−・ニュ−サムの「その後」の話なんて,だれも知らないんだから。
                                  
[付録]////////////////////
Last Bus From Tupelo (Sago-Porter)

  I couldn't stay not one more day
  I have to go, so I could know, huh hum

  Pressure in mind is what ----- for while I work and slave all day
  It got so bad till I didn't give a darn about anything the boss would say
  Now my Pappy and his old left ---- mule, they would plaw from morning to dusk
  And many a day I called him a fool, -----, my Mommy has started to fuss
  Oh, speaking of my Mommy, God bless her soul, hadn't had a new dress in five years
  Her heart was made out of solid gold and I never saw her shed a tear, Lord
  Time for school, it was all a joke and soon it was forgotten
  Cause the boss would come and turn the classes off, and say
  "Hey Joe, go pick my cotton"
  Now I spend my youth just like a slave and now the time has come
  For me to go my separate way, Lord knows, I better run

  I work so hard since I was born, and now I got my bill
  I owe my soul and a whole lot more to the man up on the hill
  It hurts me when I told my dear and Pappy, oh Lord, "I gotta go"
  They said "Where, where will you go, my son?" "Oh, I just don't know"
  Now I went to see Uncle Joe and my dear old cousin Gus to see about could get some and    see about catching a bus, Lord, Lord
  Form a small box and a money sock, they put my dreams together
  Tears fell as I told the friends and they wish me fair waether
  Now, I couldn't travel overroad cause it was still daylight
  So I lay down across the wood until Tupelo was in sight
  I hid myself to a bus ride, so very hungry and all alone
  Got to think about my dear and Pappy, oh, when the boss found out I was gone
  Chicago was my destination, the town I just long to see
  I wait from this ----- plantation, no more picking cotton for me
  I got up to Chicago town and much to my surprise
  I never heard such crazy sounds, how ------ my eyes, Lord, Lord
  I had enough to get along, oh, to get me something to eat
  But my shirt and britches, they need cleaning soon, I had to get shoes to cover my     feet
  Now, a man named Mack, lived across the hall, helped me to find a job in a steel mill
  A whole year was fair, and I do because what happened to me, oh, I wouldn't wish on a    new bill

  Now I owe my soul to the ---- content, to the gas, light and home bill wheelers
  Got my first letter about some kind of income tax, still ain't got time to relax
  I met this woman who taught me how to make love so well
  But what she done to me and what she made me do, Lord knows, I never tell
  From sun up to moon shine, she demanded things everyday
  To saw my pay was not enough, I had to steal to make a way, Lord, Lord, Lord
  Now, now, I'm all alone, walking the city streets, don't know where to go
  I think I'll leave from the city streets on the first but to Tupelo
                  [『Talk of the Town』6号 pp.35-38 1996]

ソウルde飲茶<6>   −砂糖パイと蜂蜜のかたまりの魔法−


 病院でハラキリしたため,前号をお休みしてしまった中河です。
 これまで病気知らずだったから,入院自体が目新しい体験で,なんとなく遠足気分だったけど,景気よく腹を切られたらさすがにこたえた。CDウォ−クマンを持っていってたんだけど,ガッタ・ガッタ系の音楽は,つらくて聞けない。ドリ−ミ−なスウィ−ト・コ−ラスも,とてもじゃないけど気分じゃない。ゴ−ルデン・ゲイト・カルテットのアカペラのゴスペルやネ−ネ−ズの島歌,クックのナイト・ビ−トなんかを聞きながら,虫の息でした。
 手術の前の平穏無事の日々の(といってもSMまがいの検査は辛かったけどさ),印象度ナンバ−・ワンのイベントは,なんといっても剃毛でしたね。下半身の毛をきれいさっぱりジョリジョリするんだけど,局部のつけ根を剃刀でくりかえし刺激すると,生理的変化が起こりがち。でも,そうなってしまうと気まずいので,看護婦さんはいろいろ手術関係の話やマジメな世間話なんかでこちらの気をそらし,局部の変化を未然に防ごうとするのです。生理的刺激と看護婦さんの話題操作の攻防戦ですね。私は,検査とかもあって都合二回毛剃りをしたんだけど,看護婦さんの努力も空しく,一度目は見事にピサの斜塔が現出してしまった。看護婦さんは当然無視。私も「下半身は他人だよ」てな顔で,空っとぼけてました。ところが二度目のときには,看護婦さんは偶然,必殺業を手にしてしまった。世間話をしてるうちに,彼女が私の職場(大学)の夜間部に,4月から社会人入学をすることが判明したのです。単位がどうとか,どの授業が楽だとか大変だとか,どんどんこっちの仕事関係に会話はなだれこんでいく。これは,効きましたね。ふつう,仕事の話してて怪しげな気分にはなれないよ。私は,看護婦さんへの情報提供に熱中してほとんど生理的刺激を感じなくなってしまい,剃毛の儀は何事もなく終了しました。心優しき看護婦さんのプロ精神に脱帽!

●モータウン・カヴァーズに凝ってます

 さて,4月にでたに出た『ブル−ス&ソウル・レコ−ズ』の9号で,ホ−ランド=ドジャ−=ホ−ランドの特集をやってますね。森島さんや水中編集長もリキの入った寄稿していて,なかなか読み応えがありました。それにちなんで,というわけでもないけど,今回はモ−タウン関係のお話。
 じつは,半年くらい前から,モ−タウン・ヒットのカヴァ−曲のリスト作りをして遊んでます。ソウルか他のジャンルかを問わず,70年代中ごろまでのモ−タウンのヒット曲のカヴァ−を網羅的に集めたら,このレ−ベルの影響力の一端が見えてくるだろう,というのが,このリスト作りの元々の趣旨。といったって,モ−タウンの曲のカヴァ−は山ほどあって,ソウルだけでなくポップやロック,レゲエにまで広がってて,しかも日々増え続けていくのだから,とても完全なものが作れるわけはない。ネヴァ−・エンディング・スト−リ−ですね。だから,遊びとして面白いんだけど。
 とりあえず,虫食いの情報を含めて1200近くのカヴァ−・ヴァ−ジョンのア−ティスト名/レ−ベル名/年度をリスティングしました。不完全な内容のものですが,興味がある方にはさしあげます。とくに「できたらリストにのってない情報を見つけて,中河に教えてやろう」という方,大歓迎。新情報を提供して下さった方のお名前はリストの前に掲載し,長くその栄誉を称えます(賞品は何も出ないけど)。このリストが欲しい方は,A4の紙束が入る返信用封筒の宛名欄に自分の住所氏名を書き込み,270円分の切手を貼って,郵便番号930 富山市寺町けやき台11 中河ソシオ商会 あてにお送りください。(プリントアウトではなく,MS-DOSのテキスト・ファイルの形での提供も可です。その場合,2DDのフロッピ−を720KBにフォ−マットしたものを,それが返送できる切手つきの返信用封筒をそえて,上記に送ってください。)
 さて,このリストをチェックすると,結構いろんなことが分かって面白い。まず,いちばん簡単な単純集計の話をすると,往年のモ−タウン・ヒットのうち,もっともカヴァ−が多いのは当然あの曲ですが,2位は何だと思います?
 「マイ・ガ−ル」のダントツの王座(現在50ヴァ−ジョンを確認)からずっと下がって,19〜15のカヴァ−がリストされているのは,「エイント・ザット・ペキュリア−」,「ダンシング・イン・ザ・ストリ−ト」,「ゲット・レディ」,「アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ」,「アイ・ハ−ド・スル−・ザ・グレ−プヴァイン」,「アイ・ウィッシュ・イット・ウッド・レイン」,「マネ−」,「ネヴァ−・キャン・セイ・グッドバイ」,「ウ−・ベイビ−・ベイビ−」,「リ−チ・アウト・アイル・ビ−・ゼア」,「ホワッツ・ゴ−イング・オン」,「ユ−ヴ・リアリ−・ガット・ア・ホ−ルド・オン・ミ−」の12曲。デ−タが不完全だから,以上の曲はじつは横一線といっていいんだろうけど,一応,現時点での2位は,ゲイのヒット,「エイント・ザット・ペキュリア−」(19ヴァ−ジョン)ということになります。ただし,以上はモ−タウン・ア−ティストによるカヴァ−や再演を抜いた集計です(それを加えても,大勢は変わらないけど)。
 カヴァ−されるということは,曲そのものに魅力があるということで,とすれば,以上が黄金期モ−タウンの数ある名曲中のベスト13といってもいいかもしれない。ライタ−をみると,スモ−キ−の単独作または共作が5曲,H=D=Hが2曲,ホイットフィ−ルド=バレット・ストロングが2曲,ゲイ絡みの共作が2曲,ストロングの単独作が1曲,クリフトン・デイヴィスが1曲ということになる。まあ,妥当なラインナップですね。
 モ−タウンの三大ライタ−(もしくはライティング・チ−ム)のカラ−を比べると,スモ−キ−がソウルで,H=D=Hがポップ,ホウィットフィ−ルドがファンク,というのが私の大まかなイメ−ジです。カヴァ−・リストも,そうした印象を裏付けます。もちろん曲にもよるけど,スモ−キ−の曲にはわりと黒人ア−ティストによるカヴァ−が多く(「ウ−・ベイビ−・ベイビ−」の場合,なんと18ヴァ−ジョン中15が黒人によるもの),いっぽう,H=D=H作品には白人ア−ティストのカヴァ−が多いのです(「リ−チ・アウト」の15ヴァ−ジョン中12,「アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ」の18ヴァ−ジョン中9が白人ア−ティストによるもの)。

●でもって,H=D=H

 ポップって何だろうと昔から考えてて,その仕組みをきちんと掘り下げるためには,モ−タウンをもっとディグしなければと痛感する昨今です。音楽の分野でポップといえば,私の考えじゃ,できるだけ多くの人に聞いて(&買って)もらえるように,音や歌詞やパフォ−マンスをデザインした曲のこと。つまり,音楽がポップになるとは,特定の人たちだけにでなく,できるたけ多くの人たちに理解してもらえるように,歌詞を「だれにでもあてはまる」ものにし,そしてサウンドのほうも,地域的,民族的,階級的,サブカルチャ−的な個性(というかクセ)を薄めて一般化することだというわけです。そして,ソウルの世界で,60年代にそれを大胆に推し進めたのがモ−タウン。その結果,多くの白人聴衆をつかんだわけですね。
 ポップ志向のモ−タウンで,そのポップ化の急先鋒をつとめたH=D=H。彼らの歌詞を,たとえばサザン・ソウルやブル−スの歌詞と比べてみれば,ポップとはどんなことか,はっきりするはず。というわけで,皆さんご存じの大名曲,「アイ・キャント・ヘルプ・マイセルフ」に(いまさら,なんていわないで)目を向けてみましょう。

  砂糖パイ,蜜のかたまり
  愛してるって,わかってるだろ
  どうしようもないんだ
  君が好き,ほかのだれでもなく

  君は,ぼくの人生に入ってきて
  そして出ていく
  ぼくに写真だけを残して
  それに千回も口づけをしたよ

  指を鳴らすか,それともウィンクして
  君のところへ飛んでゆくから
  ぼくは君のエプロンのひもにつながれてる
  どうしようもないんだ

  砂糖パイ,蜜のかたまり
  ぼくはこの世でいちばん弱い男
  どうしようもないんだ
  恋に落ちたお馬鹿さんだから

 出だしの4節です。他愛がないっつうか,可愛いっつうか。これが,あのどうしようもなくキャッチ−なサウンドにのり,それとは好対照の,リ−ヴァイ・スタッブスの絞りだすようなバリトンで歌われると,魔法のような効果を生むわけですね。
 「指を鳴らす」は,ジョ−・ヘンダ−ソンの「スナップ・ユア・フィンガ−ズ」を,そして「恋に落ちたお馬鹿さん」は,もちろんアイク&ティナの「ア・フ−ル・イン・ラヴ」を連想させます。また「エプロンのひも」は,昔から女が男を縛りつける力を形容するのに使われてて,古くは「セントルイス・ブル−ス」なんかにも出てくるアイテム。ア−マ・ト−マスの70年代のライヴ・ヴァ−ジョンでも,原曲どおり「エプロンのひもにつながれてる」と歌ってて,ア−マの場合相手は男だから,それでいいの? とか思いましたけどね。もちろん,相手が「クッキング・パパ」だったら,それでいいわけですが。ちなみに,7行目の「写真」(picture)は,あるいは「面影」かもしれない。写真に千回キスしたらグチョグチョのボロボロになりそうだけど,面影なら大丈夫。そのほうがもっと切なくて,よいわ−,って気もする。ちょっと「影を慕いて」みたいだけどさ。
 ぼくはじつは,「H=D=Hの最高傑作は『ヒ−トウェイヴ』」説をとる人間で,つまりはポップ方向へ舵をとったサウンドのキレの鮮やかさが,彼らの最大の武器だと思っています。ヴァンデラスにしてもフォ−・トップスにしても,そのサウンドに素材として調和するヴォ−カルを求められるだけのこと。素材以上の歌手としてのクセ(個性)がないという意味で,スプリ−ムスこそ,もっともモ−タウン的な歌手でした。元サザン・ソウル青年だった私は,そのへんを飲み込むのに,ずいぶん時間がかかった。フォ−・トップスを聞いてて,あれだけディ−プなリ−ド・シンガ−が,どうしてどこかでお仕着せのゴ−ジャスなス−ツ(サウンド)の上着を脱ぎ,ネクタイをとって,くつろいだ自分を聞かせてくれないんだろうと,ずいぶんもどかしく思ったもんです。(テンプスはそれをしてる気がした,つまりはソウルを感じたから,簡単に好きになれた。)
 H=D=Hの音楽って,そういうもんじゃなかったんですね。スモ−キ−の音楽は基本的に歌手の音楽だけど(でもって,ボブ・ディランのいうとおり詩人の音楽でもある),60年代のH=D=Hの音楽は,まったく「サウンドの快楽」のエキスのような音楽で,だから,モ−タウンの最高のライタ−はスモ−キ−だけど,「もっともモ−タウンらしいライタ−」はH=D=Hなのです。
 「砂糖パイと蜜のかたまり」(恋人の愛称)の魅力は,わかってみれば強烈です。最近,タジ・マハ−ルという,紹介の仕方が難しい黒人ア−ティストが,レゲエ調でこの曲をカヴァ−してたけど,やはり,光るのはタジより曲自体なのです。ポップであるためには,歌詞を一般的なものにして,具体的な生活の臭いをそこから消し去らなければいけないけど(O・V・ライトみたいに,「俺は窓拭きはしないよ」とか「牢屋に入って,戻ってきたら,女房に子どもができてた」とか歌うのはポップじゃない),そうすればどんな素敵な魔法を使えるかを,見事に示したのがH=D=Hだったということですね。  [『Talk of the Town』8号 pp.14-16 1996]

ソウルで飲茶<7>  −Woman to Woman: 歌の合間のおしゃべりラップ−

                             
 今回は,女性のラップのお話です。といっても,ソルト・ン・ペッパ−やクィ−ン・ラティファ,MCライトやヨ−・ヨ−といったヒップホップ史を彩る女性MCを取り上げるわけじゃない。その昔,グッド・オ−ル・デイズの70年代には,「ラップ」といえば,歌手が歌のあいだに挟み込む「おしゃべり」のことでした。
 このおしゃべりには,聞き手に直接話しかける形と,歌の主人公になって芝居もどきの語りをする形と2種類あって,でもって,この両方のスタイルを自在に駆使して稼いだ歌手の筆頭はというと,まずはミリ−・ジャクソンでしょう。でも,ミリ−だけでなく,たくさんのソウル歌手が曲に語りを盛り込んでいて,シャ−リ−・ブラウンのようにそのスタイルで延々とスト−リ−を紡いでいる人もいます。1960年代に最初に語りを売り物にした大物ソウル歌手はというと,たぶんソロモン・バ−クで,この人のは牧師さんの説教の語り口をもろに借用した感じ。そのあと,ジョ−・テックスなんかも,同じような(ただしもう少しコミカルな)スタイルの語りで,一時代を築きましたよね。

●街で出会って一目惚れとは大胆な

 しかし,今回は,題材を花の色香も馥郁(ふくいく)たる(?)女性歌手に限って,彼女たちが歌の合間に何を語ってきたのか,そのおしゃべりの中身をチェックしてみたい。たぶん,69年にアイザック・ヘイズがヒットさせた「バイ・ザ・タイム・アイ・ゲット・トゥ・フェニックス」が,70年代に語りを入れるレコ−ディングを流行らせる大きなきっかけになったと思う。一曲の演奏時間を十数分というシングル盤には入らない長さにし,有名なバラ−ド曲を題材にしてイントロに長いモノロ−グ(独白)を挿入,さらには豪華なオ−ケストレ−ションを駆使する。「LPの時代」が始まった60年代末ならではのこのやり方がヘイズの成功の公式だとすれば,それをいちはやく取り入れた女性歌手の一人が,当時全盛のインヴィクタス/ホットワックス・レ−ベルの花形,ロ−ラ・リ−だった。
 彼女のH=D=H傘下でのファ−スト・アルバム,『ウィミンズ・ラヴ・ライツ』(70年)には,「シンス・アイ・フェル・フォ−・ユ−(あなたに夢中になったから)」という,おしゃべりをイントロにしたスタンダ−ド曲が入っている。この曲のオリジナルは,バディ・ジョンソン楽団の歌手,エラ・ジョンソンなんだけど,そんな第二次世界大戦直後のジャズ・バンドを聞いてるソウル・ファンなんていないだろうね。でも,メイヴィス・ステイプルズだとか,いろんなソウル歌手が吹き込んでて,楽曲のよさは証明されてると思う。でも,ここでのテーマは曲ではなくおしゃべり。いざいざ,その中身をチェックしてみよう。

[Spoken:] The day that I met him, huh, I was downtown shopping. Walking alone, I was kind of thinking to myself, you know. And I looked up and looked down to the eyes of the finest guy you ever layed eyes on, girls, you wouldn't believe it. Huh. Drop top(?), he was looking good. He smiled at me, and I semiled back at him. And I went on back my shopping and he drove on. Thinking about my shopping and the fine man I just saw, and I looked up and he was standing right behind me. So I didn't want to act like afraid or nothing, so, he smiled at me and starded hitting on me. And I said,"Say, Mr., I already got a man, and he's good to me." Sure(?), he said,"It ain't wrong to have a cup of coffee, baby." And my heart got a way over my mind, and the devil got into me, and we sat down and he rapped to me over coffee, and he was telling me all those sweet and innocent things. And, you know what? Right there, I lost my heart to him. Huhh. But now, he's gone. And I just wanna let him know how I really really feel. Now sitting here with a pencil and a paper with tears in my eyes, because I still love him and I just wanna let him know [Singing:] you, you, you, oh you, make me leave my happy home, since I fell for you---.
[語り:] あなたに初めて会った日,私は街でショッピングをしてた。一人で歩きながら,考えごとをしてたの。ひょいと目を上げたら,見たこともないような,貴女(あんた)たちがとても信じてくれないようなすてきな男と,目が合っちゃったの。ほ−んと,いい男なのよ。その人が私にほほ笑んで,私もほほ笑み返して,私は買物を続け,彼は車で走っていった。私は買物のことや,今見たすてきな男のことを考えてて,で,また目を上げたら,その人が私の後に立ってるじゃない。彼のことを恐がってるなんて思われたくなかったから,私はほほ笑んだ。彼はほほ笑み返して,私にアプロ−チしてきたの。そこで私はいってやったわ。「ねえ,あなた。私にはもう夫がいるのよ。彼は,私にとてもよくしてくれるの。」 その人はいった。「二人でコ−ヒ−を一杯飲むくらい,悪いことじゃないよ。ベイビ−。」 そこで,私のハ−トが,私の心(理性)を押しのけちゃった。悪魔が私のなかに入ってきたの。座ってコ−ヒ−を飲みながら,彼は,私に話しかけてきた。やさしいことや無邪気なことをいろいろいったわ。で,どうなったかというとね。その場で私は,彼のとりこになったの。あ−あ。でも,その彼は,もういない。彼に,私のほんとの気持ちを分かってほしい。私はここに座って,涙にくれながら紙に鉛筆を走らせている。だって,私はまだ彼のことを愛していて,そのことを彼に知らせたいの。[歌に入る:] あなたのおかげで,私は幸せな家庭を捨てた。私が,あなたに夢中になったから---。

 かなり長いモノロ−グですが,音があったら,聴きながら読んでください。街でいい男にナンパされて,それで即,家庭を捨てちゃうなんて,なんて軽い女,というのは,お堅いニッポン国のチュ−サンカイキュ−の感性なんでしょうね。もっとも,こういう女性向けのラップはある程度,ソ−プ・オペラ(お昼のメロドラマ)のノリで考えなくちゃいけないかもね。ちなみに,この曲が好評だったからか,ロ−ラは,次の『ロ−ラ・リ−』(72年)では,あの大スタンダ−ド,「ホウェン・ア・マン・ラヴズ・ア・ウ−マン」を語りつきで歌っています。

●不倫はつらいよ

 さて,こうしたおしゃべり入りソウルは,70年代前半には,歌とモノロ−グを交互に配置してアルバムの片面または両面をつなぎ,一つのスト−リ−を描きだすという,ミュ−ジカルもどきの「ソウル・オペラ」へと発展する。ジェリ−・ウィリアムズ(スワンプ・ドッグ)制作のZ・Z・ヒルやア−マ・ト−マスのアルバム,そして,ミリ−・ジャクソンの『コ−ト・アップ』,『スティル・コ−ト・アップ』あたりがその手のアルバムの代表。タミ・リンの『ラヴ・イズ・ヒア』なんて渋いのもありますが,ここでは,元祖三角関係ものの『コ−ト・アップ』(74年)にキェックを入れてみましょう。アルバムの冒頭で,ル−サ−・イングラムの「イフ・ラヴィング・ユ−・イズ・ロング」をカヴァ−して,妻がいる男と不倫してる女性の気持ちを歌ったあと,この曲の重くブル−ジ−なサウンドをバックにして,ミリ−のラップが始まる。長いので,とりあえず冒頭だけ。

[Spoken:] You see, the terrible thing about being in love with a married man is the fact that you can't see him when you really want to. And that can get to you sometime. Late in the midnight hour, when you really feel like you need a little loving, the man ain't nowhere around, and that can get to you sometime. Early in the morning, when you really need someone to hold on to, the man ain't nowhere around, and that can really get to you sometime. And what gets to most of all is when the holidays roll around, you got be always by yourself---.
[語り:] 結婚してる男との恋愛でいちばんひどいのはね,ほんとうに会いたいときに会えないってこと。それは,ときにはきついことよ。真夜中に,ちょっと愛されたくなったとき,男は自分のそばにいない。それは,ときにはきついことよ。朝早くに,だれかにすがりつきたいと思うとき,男は自分のそばにいない。それは,ときにはほんとにきついことよ。そして,いちばんきついのが,クリスマスから新年にかけて。あなたはいつも,この季節を一人で過ごさなくちゃならない---。

 こうして,不倫をしている独身女性のつらさをこまごまと述べたあと,ミリ−は,「でも,ものごとには二つの面がある。結婚している男との恋愛にも,いいことはあるのよ」と話を展開してゆく。ときにはしゃべり,時には歌い,シャウトやモ−ンをするという表現のダイナミズム,そして,話題の構成のうまさには,やはり舌を巻く。そうしたおしゃべりを自分で作る頭があるから,ミリ−は,デビュ−から四半世紀たっても,現役でいられるのだろう。当意即妙の毒舌だとか,男の股間に手をつっこむといったエゲツない芸だけで,生き延びてきたわけじゃないよ。

●別れの朝二人は

 さて,ここでいったん60年代へ戻って,女性ソウル・シンガ−の語りのクラシックを取り上げます。64年ごろに出た,ア−マ・ト−マスの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド(時は私の味方)」。

[Chorus:] You'll come running back to me [Spoken:] Go right ahead, baby, go ahead, and right after time. And, baby, do everything your heart desires. Just remember, I'll still be around. And I know, I know, like I told you so many times before, you're gonna come back, yes, you're gonna come back knocking, knocking my door. Yeah, yeah. [Singing:] Time is on my side, yes, it is---.
[コ−ラス:] あなたは私のところへ駆け戻ってくるでしょう。[語り:] 行きなさいよ。どうぞ。自分の気が済むようにすればいい。でも,覚えといて。私があなたの近くにいるということを。わかってるのよ。何度もいうとおり,あなたは戻ってくる。戻ってきて私の部屋のドアを叩く。[歌に入る:] 時は私の味方。そうよ---。

 これは,ご存じのように歌の中途の間奏部で入る,ブル−ジ−なギタ−・ソロをバックにしたモノロ−グです。ちなみに,ロ−リング・スト−ンズのカヴァ−では,ミック・ジャガ−がこの通りのセリフをしゃべっています。何も知らなかったときには,ミックってしゃべくりもかっこいい!なんて思ったものですが,何のことはない,ア−マのコピ−なんですね。聞きなおしてみて,この曲,リズムといい,コ−ラスといい,ワイルドなア−マの声といい,60年代半ばという時点のものとしては,ソウル(ゴスペル)・フィ−リングが突出していることを再認識しました。
 もう少し都会派の曲に行きましょう。ロリ−タ・ハロウェイの『クライ・トゥ・ミ−』(75年)から,同名のタイトル曲のイントロです。サム・ディ−ズの名作バラ−ドにつけられた涙声のモノロ−グは,ロリ−タが作ったのか,それともディ−ズの作か。

[Spoken:] Baby, I see you packing. But it's no surprise to me. You see, I know it's coming for a long time now. Say what? No. No, I won't cry. You see, I'm a big girl now. I just can't cry no more. But something I want you to know. I love you. I love you. I love you. It's one more thing I want you to know that if you ever need a friend, you can call on me. And, honey, [Singing:] I you're falling down and you can't seem to stay on the ground, and friends get you, I'll be there to get you---.
[語り:] あなた,荷作りをしてるのね。私は驚かない。ずっと前から,いつかこの日が来るってわかってた。なに? ううん。泣かない。私はもう,大人なんだから。泣いたりなんかできないわ。でも,覚えておいてほしいことがあるの。愛してる。愛してる。愛してる。もうひとつ覚えておいてほしいのは,友だちが必要なときは,私のところに電話すればいいんだということ。そして,ハニ−,[歌に入る:] あなたが崩れ落ちそうなとき,地面を踏みしめて立てそうもないとき,友だちがあなたを苦しめるとき,私があなたを助けにゆくわ---。

 どうですか,この可憐さは。後にディスコのカルト・クィ−ンになる人とは思えないでしょう。私は,女性ソウル・シンガ−には,同性にウケる人と異性にウケる人があると思ってますが,この語りは,先のロ−ラやミリ−のやつとは違って,完璧に男うけする作りですね。しかし,別れの時に,こんなに都合のいいこといってくれる女性なんて,今の日本にいるかしらん。(う−ん,これを同じようなことを十数年前に女の子にいったような気がするけど,気のせいということにしておこう,ここでは。)

●女どうしで白黒つけよう

 さて,締めくくりには真打ちとして,74年にビルボ−ドのR&Bシングル・チャ−トで1位に輝いたこの曲に,どうしても登場してもらわなきゃならない。電話でのおしゃべりという新機軸を打ち出した,南部のアリサ,シャ−リ−・ブラウンが歌う「ウ−マン・トゥ・ウ−マン」です。

[Spoken:] Hello. May I speak to Barbara? Barbara, this is Shirley. You might not know who I am. The reason I'm calling you is because I was going to my old man's pocket this morning, and I just happened to find your name and number. So, woman to woman, I don't think it's been more than fair to call you and let you know that where I'm coming from. Now, Barbara, I don't know how you're gonna take this, whether you be cool, or come out of bag on me. You see, it really doesn't make any difference. But it's only fair that I let you know that the man you're in love with, he's mine. From the top of his head to the bottom of his feet. The bed he sleeps in and every piece of food he eats, you see, I make it possible. The clothes on his back, haha, I buy them. The car he drives, I pay the note every month. So I'm telling you these things to let you know how much I love that man, and, woman to woman, I think you'll understand just how much I do to keep him. [Song:] Woman to woman, if you ever be in love, then you know how I feel---.
[語り:] もしもし。バ−バラさんをお願いします。バ−バラ,私はシャ−リ−。私が誰だか,あなたは知らないかもしれないわね。電話したのは,今朝,夫の服のポケットを調べたら,あなたの名前と電話番号が偶然,見つかったからよ。女どうしなんだから,電話をかけて,私のことを知らせたほうがフェアだと思ったのよ。ねえ,バ−バラ。あなたがこれを聞いてどう思うかは知らない。冷静でいるのか,私に当たり散らすのか。でも,どちらでも事態はぜんぜん変わらないわ。だけど,これだけはいっとくほうがフェアだと思う。あなたが愛してるあの男は,私のものよ。頭のてっぺんから爪先までね。彼が寝るベッドから,食事のひとかけらまで,ぜんぶ私が提供してるのよ。彼が着る服は,私が買ってる。彼の車の月賦を払ってるのも私よ。こんな話をするのは,私がどれだけあの男を愛しているか知らせたいから。女どうしなんだから,彼を自分のものにしておくために,私がどれだけのことをしてるか,あなたにも分かるはずよ。[歌に入る:] 女どうしだから,人を愛したことがあるなら,私の気持ちが分かるはず---。

 「man to man talk」,つまり,「男どうしの話」をもじって,「女どうし」の直(じか)談判を描くというアイディアが,この歌のミソです。悲運のスタックスの創始者,ジム・スチュア−トと,早死にしたMGズのドラマ−,アル・ジャクソンが制作したこの名バラ−ド,意外や,フレデリック・ナイトでもベティ・クラッチャ−でもホ−マ−・バンクスでもない,J.Banks,E.Marion,H.Tigpenという無名のトリオの作なのね。一人目の人は,ホ−マ−・バンクスの兄弟なのかな。とにかく,アリサ系で,南部の香りがするという特徴があるとはいえ,アリサに力では劣るシャ−リ−が,アルバ−ト・キングの前座歌手という下積みのあとで,一流歌手の仲間に入れたのは,なんといってもこのおしゃべりのおかげだと思います。ちなみに,シャイ(内気)で知られる御大,アリサ・フランクリン自身は,おしゃべりとか芝居がかったことは,たぶん苦手でしょう。長いおしゃべり入りの歌など記憶にないし,映画『ブル−ス・ブラザ−ズ』にも長いセリフはなかったしね。でも,彼女はたぶん例外的な存在で,パティ・ラベルにせよ,グラディス・ナイトにせよ,たいていの大物女性歌手は,レコ−ドには入れていなくてもステ−ジでは,歌とならんで芝居がかりの活舌のうまさを披露しています。それができなきゃ一流になれない,といっていいんだと思う。なぜなら,歌ってもともと,声楽であると同時にドラマ(演劇)でもあるんだから。  
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[The Tunes Cited]
(1) "Since I Fell for You" by Laura Lee, contained in WOMEN'S LOVE RIGHTS (Hotwax HA 708).
(2) "The Rap" by Millie Jackson, contained in CAUGHT UP (Spring SPR 6073).
(3) "Time Is on My Side" by Irma Thomas, contained in WISH SOMEONE WOULD CARE (Imperial LP 12266).
(4) "Cry to Me" by Loleatta Holloway, contained in CRY TO ME (Aware AA 2008).
(5) "Woman to Woman" by Shirley Brown, contained in WOMAN TO WOMAN (Truth TRS 4206).
              [『Talk of the Town』9号 pp.16-20 1996]

ソウルで飲茶<8>  −Whatcha See Is Whacha Get: 『ワッツタックス』こぼれ話−


 皆様,とーとつですが,今(つまり96年10月20日現在),私はヒジョーに幸せです。事故で再起不能と思われていたカーティス・メイフィールドが,すばらしいアルバムを携えて戻ってきてくれたから。例によってメッセージ色の濃い,優しくて深いカーティス節が胸にしみる。新譜のCDを買って,こんなに満たされた気分になったのは,ほんと,久しぶり。アイズレー・ブラザーズや前号で全貌を紹介されたジョニー・テイラーもR&Bチャートで健闘しているようだし(テイラーなんかリミックスものの12'シングル["Good Love"/Malaco MAL-2526]まで出ちゃったよ),エルヴィン・スペンサーやオリー・ナイティンゲールも,マイナーからだけど,好盤を出した。でも,感動のカムバックという形容がいちばんよく当てはまるのは,このカーティスの新譜だと思う。
 そうそう,前々回にモ−タウン・ヒットのカヴァ−曲のリストを「あげます」とアナウンスしましたが,あれを,インタ−ネットのホ−ムペ−ジに公開してもらいました。興味をお持ちで,アクセスできる方は,http://camp.ff.tku.ac.jp/yamada-ken/JASPM/motown.html を覗いてみてください。でもって,このリストを補う新情報をお持ちの方は,nakagawa@hmt.toyama-u.ac.jp あてにご一報を。(ただし,公開したリストは夏の時点のものです。あれ以後,情報を寄せてくださった皆様,thanx & ご心配なく。私の手元のリストにはちゃんと,いただいた情報とあなたの名前を書き加えさせていただいています。)

●『ワッツタックス』がついにビデオ化された

 さて,その昔には「黒いウッドストック」なんてフシギな紹介のされ方もした映画『ワッツタックス』のビデオを,P-ヴァインがついに発売しましたね。ご存じのとおり,これは,1972年夏にスタックスがロスで開いたミュ−ジック・フェスティヴァルの記録映画。ちなみに,Wattstax というのは,開催地のワッツ(Watts)地区と Stax をくっつけた,この音楽祭の愛称です。読者の皆様はどうか知らないけど,今までずっと見る機会を逃してきた私は,ほんと,このビデオの発売を首を長くして待ってました。
 で,実際に見てどうかというと,やはり感動したな。音楽自体より,10万を超える黒人観衆がスタジアムに集まった,その場の雰囲気にまず圧倒されました。その大観衆が揃ってこぶしを掲げて,ジェシ−・ジャクソン牧師が叫ぶ公民権運動/ブラック・パワ−のスロ−ガンに唱和する。でもって,ル−ファス・ト−マスが「ファンキ−・チキン」を歌うときには,グラウンド全体がディスコになっちゃうのね。
 忠実な記録映画というんじゃなくて,曲の合間には,黒人街(たぶんワッツ)の風景や町の人たちのおしゃべりが入る。この部分を担当したのがマリオン・ヴァン・ピ−ブルズという,スパイク・リ−なんかの大先輩,つまり,ブラック・シネマの草分けみたいな人。ヒップ・ホップ映画が流行ってからは,黒人街とその住人の素顔はずいぶんお馴染みのものになったけど,70年代の初めという時代には「こんな場所なんだよ」と黒人街を外の人に紹介する映像なんて,この映画以外にはほとんどなかったはず。この頃大いに流行った『シャフト』や『ス−パ−・フライ』といったアクション映画の風景が「素顔の黒人街」かどうかといえば,ずいぶん問題があるからね。
 そうした街の人が登場するシ−ンやコメディアンのリチャ−ド・プライア−のおしゃべりのシ−ンを削って,その分,もっとライヴを見せてほしかった(たとえば出演したのに映画には出ていないソウル・チルドレンとか)という意見もあるだろうけど,ま,この頃はこういう映像が必要だったんだ,と好意的に理解しましょうよ。そうした作り方のおかげで,黒人街のクラブで「ジョディ」を歌うジョニ−・テイラ−や,黒人教会でゴスペルを歌うエモ−ションズの貴重な映像が見られることにもなったんだから。コンサ−トのバ−ケイズやアイザック・ヘイズ(この人がトリね)なんて,今見たら笑えるコンセプトでやってます。だけど,テイラ−やエモ−ションズの熱いステ−ジは,少しも古びていない。エモ−ションズが「ピ−ス・ビ−・スティル」というスタンダ−ド曲を歌うとね,聖歌隊の中に,神懸かりになってひきつけを起こす女性が出るんだよ。

●口説きことばはドラマティックに

 P-ヴァイン配給のこれまでのビデオと違って,この『ワッツタックス』のビデオには字幕がついてるのが嬉しい。いや,私だってさ,一応英語が分かるって顔をしてるけど,聞き取りはそれほどでもないのよ(しゃべるのはもっとヘタ)。ただね,いい字幕って,なかなか少ない。難しい作業ですからね,字幕作りは。とくに,ビデオ,つまりテレビ画面用の字幕は,映画用よりもっと短くしなければいけないから(しかも本の翻訳なんかと違って時間の制約もキツいし),分かりやすく正確な訳をつけようとすれば,大変だろうと思う。といった事情は承知の上で,でも,ここではちょっとだけ,このビデオの字幕のアラ探しをさせていただきます。だって,ソウル・ファンに,できるだけ正確な情報を提供したいもんね。
 まずは,映画のオ−プニングから。リチャ−ド・プライア−が一言コメントをし,それから,黒人街の映像のバックに,ドラマティックスが流れます。「ゲット・アップ&ゲット・ダウン」のイントロの効果音が一瞬鳴って,それから「ホワッチャ・シ−・イズ・ホワッチャ・ゲット」へ。これはライヴ演奏ではなく,あのラテン・ファンク調のリズムにのったソウルフルな大名曲をそのままBGM使用。賢明な読者の皆様はすでにご存じのとおり,"whacha" は "what you" の省略形で,タイトルの「Whacha See Is Whacha Get」は,つまりは「What You See Is What You Get」です。同じ原理の省略形に,ジョ−・テックスの「I Gotcha (=I Got You)」なんてのもある。
 「ホワッチャ・シ−・・・」は,タイトルであると同時に歌のサビの部分でもあるんだけど,ここんとこの字幕が,どうもフラついてる。「目に見たものが本物だ」「目に映るものがすべてだ」「目に映る世界がすべてだ」と一回づつ違う訳をつけてて,いかにも自信がなさそうです。歌の基本的な設定をいまいち押さえていないんじゃないかな。
 これは,プロデュ−サ−でもあるトニ−・ヘスタ−作の,女を口説く歌です。ほかの男たちはニセモノだけど,俺はごらんのとおり,ソウルのある本物の男だよ。と,セマっているわけですね。「ホワッチャ・シ−・・・」は,たぶん,もともとお店なんかで,展示即売といった場面でよく使われた言いまわしなんだろうと思います。店の人がお客に,「お薦め品は,見てのとおりのものですよ」といって売り込むとかね。
 この歌の一番を,仮に訳してみます。まず,原詞から。

Hey
   Some people are made of plastic
And, you know, some people are made of wood
   Some people have hearts of stone
   Some people are out to no good, uhhhh
But, baby, I'm for real
I'm as real as real can get
If what you're lookin' for is real lovin'
   Then, what you see is what you get, ha
   Whatcha see is whacha get
   Whatcha see is whacha get
   I say, whatcha see is whacha get now, baby
   And the real lovin' is the best thing yet

   プラステックでできたまがい物の人もいる
   木でできた人もいる
   心が石でできている冷たい人もいる
   悪いことをする人もいる
   だけど,ベイビ−,ぼくは本物だよ
   正真正銘の本物だよ
   本物の愛をお探しなんだったら
   あなたの目の前にお探しのものがあるよ
   ごらんのとおりのものが手に入る(3回)
   本物の愛こそが最高のものさ

 自分で聞き取ったので,原詞の5行目の "out to" や13行目の "real lovin'" はちょっと怪しいけど,まあ,大体こんなもんでしょう。「ごらんのとおりのもの」というのは,もちろん自分=歌の主人公の男性のこと。お金でも高級な服でも肩書でもない,この俺自身が魅力的だろう。あんた,本物の愛を持ってるこの俺がほしいだろう,と自信とプライドに満ちた口説き方をしているところが,ラヴ・ソングでありながら,この「黒い誇り」の映画のオ−プニングにふさわしいってわけなんでしょうね。主人公の自信の根拠はもちろん,俺はソウルをもったブラザ−(黒人男性)だ,ということ。原詞の6行目は,あるいは,オリジナルズの不滅の名作,「ベイビー,アイム・フォー・リアル」の本歌とり(別の歌のイメージの取りこみ)を狙ったものかもしれない。それにしても,この曲でのロン・バンクスとウィリ−・ハワ−ドの掛け合い,いまさらながらだけど,スグレてますよね。(初心者っぽいといわれようと,なんといわれようと,デルズ,ドラマティックス,スピナ−ズがいまだに,私にとっての男性ソウル・グル−プの御三家です。)
 この映画の字幕で一番気になったのが,この曲の訳。ほかにもちょっとしたことは,いろいろあったけどね。たとえば,ステイプル・シンガ−ズの「リスペクト・ユアセルフ」のシーンで,ポップスが歌う「あなたが聖書を持っている人を軽んじるなら(If you don't give a heck about a man with a bible in his hand)」という一番の歌詞の,「聖書を持っている人」を字幕では「神父」と訳してるけど,これはまずい。神父さんはカトリックにしかいないのよ。U.S.の黒人は(ニュ−オ−リンズ以外じゃ)ほとんどがプロテスタントだから,意訳をするつもりなら,ここは「牧師」にしなくっちゃ。それから,会話のシーンで,「民主党員(democrat)」というのを「民主主義者」と間違えて訳してるとこもあったな。

●ジョディ・ライダーにご用心

 といった重箱の隅をつつくようなことばかり並べてもご退屈でしょうから,全体的にはまあまあの字幕だよ,と生意気なマトメをしておいて,ここからは,私の最大のお目当てだったジョニ−・テイラ−のライヴの話をします。
 JT(といっても日本たばこ産業じゃないよ)は1938年生まれで,もう還暦寸前。そのJTが,先に書いたように,今年,ほんとうに久しぶりのヒットを出したのには,正直いって驚いた。『ワッツタックス』でのJTのライヴの舞台は,ロスの黒人街のナイトクラブ。映像が1曲だけなのは淋しいけど,とにかく,34歳という働き盛りのソウル・マスタ−のステ−ジぶりを目のあたりにできるのは有り難いこってす。80年代末にマラコからライヴのビデオが出てはいるけど,このときはJTも客席もずいぶんアダルト化(?)してて,人気絶頂の時代と比べれば,やはり勢いが劣るもんね。
 このころのテイラ−のトレ−ドマ−クは不倫の歌で,映画で歌われる「ジョディ(ガット・ユア・ガ−ル・アンド・ゴ−ン)」も例外ではない。テイラ−のシーンの直前に,ル−ファス・ト−マスが,「ジョディ」とはどんな人間か,要を得た説明をしています。「ジョディというのはね,あんたが6時に出かけたら,6時1分に家に入ってくるやつだよ。」

   ジョディ・ライダ−の話をしてあげよう

   成功しようという野心を持って
   二つの仕事をして死にそうになるまで
   一生懸命働いている
   そんな男の家にかならずジョディというやつが忍びこむ
   どの街にもジョディがいる
   金離れがよくて,街を車でうろうろしてる
   ジョディ,車乗りを続けなよ

   あんたが一日中働いているあいだに
   ジョディはあんたの灰皿に灰を落とす
   カ−ペットに足跡を残す
   図々しくも,あんたのベッドで眠るんだぜ
   テ−ブルについて,あんたのパンを食べる
   一日中一生懸命働いて,家に帰ったら
   ジョディはあんたの奥さんをつれて,どっかへトンズラ
   それじゃ,家に帰っても仕方がない
   ジョディはあんたの奥さんをつれて,いなくなってる
   (コーラス: いい家庭があったのにさ,あんた,働きすぎたんだよ)

 このジョディというス−パ−間男には,それなりの歴史があるらしい。黒人のあいだにはト−ストという韻を踏んで語られる民話が伝わってて,このトーストの登場人物,「ジョ−・ザ・グラインダ−」が,ジョディのルーツなんだそうです。でもって,この間男をめぐる話は,アーミー(陸軍)の黒人兵士や黒人の囚人が,ずっと語り継いできたものなんだとか。旦那がつらい「お務め」を終えて帰ってきたら,奥さんがジョディにかっさらわれてた,なんて話,兵隊や囚人にとっちゃ,たまらない(だからとても気になる)話ですからね。こうした世間話の中の有名人を70年代によみがえらせたのが,JTによる「ジョディ」の大ヒットだったというわけです。この間男のキャラはずいぶんウケたようで,アンサ−・ソングみたいな曲もいろいろ吹き込まれてて,JT自身もこの曲のヒットの翌年に「ジョディの代役(Standing in for Jody)」というのを吹き込んでいます。
 ライヴでは,曲のテンポは心持ちレコ−ドより早く,ヴォ−カルが熱い。曲の途中で,JTは客席のほうへ行って,女性客の一人に訊ねます。「あんた,ジョディと知り合いかい?」 その女性客は,もじもじ状態。そりゃ,ひょっとして知り合いだったとしても,なかなか「ええ」とは答えにくいよね。JTは,お次は女性客全体に,「ジョディを知っている人は手を振って」と呼びかける。「みんなで渡ればこわくない」現象で,今度はなかなかのリアクション。そこで,JTは「ジョディにもいいところがあるんだよ」といって,歌のおしまいの部分に突入します。「ジョディは,自分を表現するすべを知っている。彼女(女性)がどんなにきれいか,彼女の声がどんなに素敵か,ちゃんと口に出して言ってくれる。」
 要するに,仕事に夢中の旦那が奥さんをほっとくと,色男のジョディがさらっていっちゃうぞ。疲れてても妻にはやさしいことばをかけ,求められたらすることはしなさいという警告(つうか脅し)の歌なんですね,これは。そりゃ−,この歌,アダルトな女性にはウケるわ。いっぽう,「二つの仕事をして働いて死にそうになってる」おっさんのほうは,あ−あ,と長いため息をついたかもね。働きすぎっていうけど,うちはこんだけ働いて,やっとこさでメシが食えているのに,とかいってさ。

●大人のソウルよ永遠なれ

 この映画でル−サ−・イングラムが歌う大ヒット曲「イフ・ラヴィング・ユ−・イズ・ロング」も不倫ものだし,それからソウル・チルドレン,ナイティンゲールズ,リトル・ミルトンと,考えてみれば,このころのスタックスって,なかなか大人度の高い商売をしてたんですね。この『ワッツタックス』は,モ−タウンが本拠を移したロスで大イベントをしてお株を奪おう(でもって,ベリ−・ゴ−ディとはりあって映画も作ろう)という,当時のスタックスの実質的な経営者アル・ベルの野心と,後にアメリカ大統領候補にもなったジェシ−・ジャクソン牧師の政治的な野心(この人はこのあと『セイヴ・ザ・チルドレン』にも一枚噛んでる)が結びついて実現した,というのが私の読みです。ところで,あんな不慮の出来事がなくて,スタックスが70年代を生き延びたとしたら,彼らはずっとこの種の大人(つうか生活臭ぷんぷん)路線の音楽を送り出し続けただろうか。意外と,ロスに引っ越して,ソラーみたいな垢抜けたガキ・ソウル路線に転換する,なんてふうになってたりして。ビジネスってそういうもんだから,なんていうと,夢も希望もないか。
 といった仮定の話はともかく,私は,こうした大人のソウルが大好きです。ラヴ&セックスに生活がからみ,体力と思い込みだけでは生きてけない大人の世界の人間模様の歌が性に合うのです。最近,大阪のSレコ−ドは,こうした60年代〜70年代前半のグリッティなソウルに,「オヤジ・ソウル」というコピ−をつけて販売しているみたいだけど,お願いだからそういう色気のない呼び名はよしてね。その種の音を聞いてるやつはみんな脂ぎってて,女子高生とエンジョコーサイしたがってんのやろ? なんて,変な誤解を受けちゃいそうじゃないすか。「オーセンティック・ソウル」とか,「ベーシック・ソウル」とか,「人生の並木道ソウル」とか(どれもあんまりパッとしないな),とにかくなんか,別のコピ−を考えて下さいませ。
 てな,訳のわからんことを書き記しているうちに,当店の飲茶タイム,終了時間になりました。皆様のご愛顧と水中編集長の縁の下のご苦労に感謝しつつ,ひとまず「CLOSED」の札をかけます。また,どこかでお会いしましょう。(おしまい)

[付録:「ジョディ」の歌詞]////////////////////

   I'm gonna tell you all about Jody Rider

   Every guy I know tryin' to get ahead
   Workin' two jobs til you're almost dead
   Workin' fingers back(?) down to the bone
   There's a cat name Jody sneakin' 'round your home
   There's a cat name Jody in every town
   Spending much of cash and just ridin' around
   Ride on, Jody, ride on, ride on
   Put your bags in, uh

   Jody leave ashes in your ash tray
   Footprints on your carpet while you work all day
   He even got a nerve to sleep in your bed
   Sit down at the table, eat your bread
   When you get home after workin' hard all day
   Jody's got your girl and he's gone away
   I say there ain't no sense in goin' home
   Jody got your girl and gone
   I tell you Jody got your girl and gone
   (Chorus: You got a good home but you worked too hard)
              [『Talk of the Town』10号 pp.52-56 1997]
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