シナモンの香るペンギン
「はい、紅茶」
カチャン、と机の上に湯気の立つティーカップが置かれる。
僕はキーボードから手を離すと、カップを取り上げて鼻先に持っていった。
「シナモンの香りがする」
「もちろん、だって、シナモンティーだもの」
「そっか」
火傷しないように少しだけすする。猫舌なのだ。
「ペンギンはね、あまり物語がないのよ」
唐突に話し始めた彼女に、僕は苦笑しながらも椅子を回して彼女の方へ向けた。
「覗き見するのは、あまりいい趣味じゃないぜ」
「だって、見えちゃったんだもの。仕方ないわ」
「まぁ、いいさ。それでペンギンがなんだって?」
彼女はにっこりと笑うと、再び話し始めた。
「ペンギンはね、あまり物語がないの。不思議だと思わない?」
「物語がない?」
「そう、クジラも、イルカにも物語がある。ほら、パイケア伝説のこと、覚えてない?」
「覚えてるさ、クジラ乗りの話だろ?」
「そう。でもね、ペンギンにはあまり物語がないのよ」
「ふ〜ん…人里はなれた極地で住んでいたからじゃないのか?」
「違うわ。ペンギンはね、南極だけに住んでいるんじゃないのよ。
ニュージーランドや、南アメリカにだって住んでいるのよ。なのに、物語が見つからない」
「それって、何かヒントのつもりか?」
「さぁ、それはあなたが決めることだわ。私はただ、知っていることを言っただけ」
そうか、とため息をついて僕はパソコンに向き直った。
一行だけ書かれたページに。
−ペンギン (ペンギンフェスタ参加作品)−
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