9日目:ついにグランドキャニオンのサウスリム到着

7月23日(走行距離:孝明 217mile 美枝 0mile)
 すっかり元気を回復して早朝8時半にキャンプ場を出発する.今日はボストンを出て9日目,念願の国立公園巡りの第一歩,グランドキャニオンに入る.快調に車を飛ばしてまずは入り口にあたる町フラッグスタッフを目指す.2時間ほどで到着.ここから40号を下りて180号でグランドキャニオンのサウスリムへと向かう.赤い砂漠の岩ばかりの風景から少しずつ緑が見えてくる.曲がりくねった道路が続き,山へ山へと登ってゆく.

 グランドキャニオンはコロラド川に長年浸食されてできた大峡谷だ.堅い地層が断崖に,柔らかい地層は緩斜面となって露出したのだ.地球の歩き方のコラムによると,16世紀にスペイン人によって発見され,18世紀には宣教師,毛皮商人,ハンター達がやってきたが,不毛の土地のため定住できる環境ではなかった.その後19世紀後半に探検隊がコロラド川の激流を下って,その壮大な景観や大自然の雄大さを文章や風景画で東部の人間に知らせた.それから観光ツアーが訪れるようになり,駅馬車観光も始り,私たちが道中に見たサンタフェ鉄道も開設されてホテルが建てられた.そして20世紀始めに国立公園として認められたとのこと.現在では世界中から年間300万人もの観光客が集まるそうだ.

 コロラド川をはさんで南側をサウスリム,北側をノースリムと呼ぶ.対岸のようなものなのだが,峡谷自体が非常に険しいため川を渡る道路は少なく,サウスリムからノースリムへ車で行くにはかなり遠回りしなけば行かれない.もちろん峡谷を歩いて降り,また上るというのはかなりきついトレイルだ.1日で両方から臨むなんてことは不可能だ.一般的にはサウスリムの方が都市からのアクセスが簡単なので,旅行客には行きやすい.日の出や日の入りを臨むビューポイントもあちこちに完備されていて,良く言えば便利だが,少し俗化されている感じもする.私たちは南と北の両側を攻める予定で,まずはサウスリムに向かう.

 今日の宿泊は,サウスリムの中心にあるマーサー・キャンプ場だ.キャンプ場は夏場はとにかく混むため,予約したほうが確実.今回は最初の国立公園のキャンプなので,電話で予約を入れておいた.泊まるサイトはあらかじめ決められて指定制である.2時過ぎに到着.やはり夏場なのかキャンパーは多い.夕方には満員になってしまった.

 さて,時間的には余裕があるので早速待望の峡谷を見にゆく.天候としては雲が多く,今にも雨がふりそうな雰囲気.風が強いので気温も思ったより低い.キャンプ場の近くにあるビジターセンターで地図や情報を仕入れてから,一番近いビューポイントであるマーサーポイントに向かう.ここからの眺めは有名で,旅行会社のパンフレットなどに登場する写真が多いそうだ.

 写真等でよく見ていたこの峡谷,実物はどんなに素晴らしい眺めなのだろうと期待に胸膨らませてきたが,うーん,すごい!この岩山のパノラマは.規模の大きさに圧倒される.まだ日が高いので,靄がかかったような状態でクリアに見えないが,静かに横たわる景色は人間のちっぽけさを感じさせるには十分だ.こういう景色を見て,自然の畏怖を感じない人はいないだろう.たった一本の川が太古の昔から大地を削ってできた自然の創造物,その自然の力をまざまざと見せつけられる思いがする.コロラド川はあまりにも遠く,ただ一筋の線のようにしか見えない.正面の谷の奥の方では局地的に雨が降っているのか,白く煙っている.両側にはほとんど緑らしい緑も見えないほど赤茶けた岩の絶壁が続く.この谷を降りるには下りに約3時間,上りはその倍くらいかかるそうだ.谷底には唯一のロッジがあるが,慣れない登山客はもちろん日帰りなんて無理で,たいてい一泊して戻ってくる.というのも夏の暑さは命がけだからだ.谷底は40度近くまであがるという.その上日陰が無いのだから,水無しでは危険ということだ.一度は下りて見ようかとも考えたが,ロッジはとれないし,帰りの上りを考えると気が遠くなりそうなので断念する.

 見渡す限りの峡谷だが,このマーサーポイント以外にもいくつか眺めの良いビューポイントがある.東からマーサーポイント,ヤバパイポント,ホッピポイント,リパンポイント,デザートビューポイントなどがある.それぞれ違った角度から峡谷を見おろせ,日の入りや日の出などに素晴らしい眺めが見られるそうだ.少し車でまわってみることにするが,先ほどからの風と雨が止んだり,激しくなったりと目まぐるしい天気でゆっくり眺めていられる状況ではない.先ほども見たように谷にも黒雲がかかっている所だけスコールが降ってるし,晴れているところは太陽が照りつけるという複雑な天気だ.どうも昼は視界が悪く眺めとしてはあまり良くなかった.そこで夕日の沈むところと朝日の昇るところを押さえることにした.

 ビジターセンターには日の入りや日の出の時刻が掲示してある.こんな時のためにあるのだろう.7時41分日の入りなので,夕食を先に済ませることにしてキャンプ場へと戻る.夕日はマリコパポイントから眺めた.ブライトエンジェル・ロッジの側に車を止めて,リムに沿ったトレイルをてくてく歩く.右手に少しずつ赤みを帯びてきた峡谷を眺めながらのトレッキングだ.先ほどまでの天気が嘘のように晴れ渡っている.おかげで視界も澄み,絶好の夕日のチャンスが巡ってきた.ポイントの少し手前でトレイルから少しはずれて座り,夕暮れを待つことにする.コロラド川の対岸の山の上に少しずつ日が傾いていく.海に沈む夕日は何度も経験済みだが,こんな景色は始めてだ.夕日が沈むにつれて少しづつまわりの岩の色が変わっていく.薄いピンク色から次第に赤,濃い赤へと刻々と変化する.ここの岩がと思うとあそこの岩も,という具合に谷の景色が驚くスピードで様変わりする.見事なものだ.日が沈む瞬間,谷全体に静寂が起こる.観光客も,空を飛ぶ鳥や動物達もみな息を殺し,動きを止めてこの自然のショーを見守っているかのようだ.


グランド・キャニオンの夕暮;東を向くと


グランド・キャニオンの夕暮;西を向くと

 日が沈むと急に気温が下がる.一年前,夏のヨセミテで経験したあの感覚だ.ジャケットに手を突っ込み,今見た感動を二人で語り合いながら車道に出て,シャトルバスでブライトエンジェル・ロッジまで戻る.立派な構えのきれいなロッジなので,ちょっとロッジの中も見学し,夫はトイレを借りる.さて,キャンプ場へ戻るともうすでにあたりは夕闇に包まれていた.明日の日の出は5時15分.ご来光を拝むためには4時半には起きなければならない.今日はこのままテントにもぐる.9時就寝.
Written by Mie Takeuchi. Edited by Takaaki Takeuchi. Last Modified on May 17, 1997.

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