10日目:西部劇の世界?モニュメントバレーでキャンプ

7月24日(走行距離:孝明 218mile 美枝 0mile)

 国立公園内でのキャンプの始めての朝,眠い目をこすりながら起き出す.朝日は東のマーサーポイントから臨む.昨日最初に来たところだ.ここは初代アメリカ国立公園の局長の名前からとった名だそうだ.岩がキャニオンの上に張り出してできている自然の展望台から,16キロ先のノースリムが暗いながらもすぐ近くのように見える.私たちと同様に日の出を待つ人たちが数名いる.手すりにもたれて日の出を待つ.真っ暗な地平線から一点の輝きが,見る見るうちに大きくなり,一瞬にして私たちの立っている崖の岩が黄金色に染まる.天空の重苦しい雲を押しやるように眩しい光が差し込んで辺りは急に明るくなる.一日の始まりだ.日の出は日の入りよりもあっけなく終わった.暖かな日差しを浴びながら今日も暑くなりそうな予感を背中に感じた.

 まだ気温が上がっていないキャンプ場で早起きのため後回しになった朝食をとりつつ,冷えた体に暖かいコーヒーで暖をとる.キャンプ場で朝食の片づけをしているときに,隣のサイトに日本人の女の子がいることがわかった.夫が水道のあるところに水を汲みに行く途中で声をかけられた.LAの女子大に留学しているそうで,大学の仲間達数名でキャンピングカーをレンタカーして来たそうだ.向こうもこんなキャンプ場で日本人に会うとは思ってもいなかったそうで,思わず声をかけてしまったとのこと.夫は彼女達のバスのように巨大なキャンピングカーの中を案内してもらったが,とても広くて快適そうだったとのこと.国立公園の森の中のキャンプ場でもこんなキャンピングカーが入れるのだから,アメリカのキャンプ場って本当に整備されている.お互い次の目的地がモニュメント・バレーということだったので,また会えるかもねといって別れた.

 さて,出発の準備も早くできた.今日は午前中キャニオン見学をして,午後は北のモニュメント・バレーへと移動する予定だ.昨日の天気で今一つだった景色に心残りがあるので,キャンプ場から東のルートをたどる道すがらもう一度各ポイントに寄ってみる.8時半出発.

 サウスリムを離れる前に東のはずれにあるデザートビューポイントに行ってみる.コロラド川が大きくカーブする角にあるため赤く,土色になったコロラド川がよく見える.反対側は地平線まで砂漠の続くのが見渡せる.ここには鉄筋とキャニオンの岩石で出来た展望台,ウオッチタワーがある.古代インディアンの遺跡から写したデザインだ.中はちょっとした土産物とインディアンの壁画が描かれた塔がある.観光客も少なく,ゆっくりできた.自分で撮る写真ではなかなか写せないような見事な景色の絵ハガキを買って,日本の両親へと旅の報告.おっと,また時間超過だ.先を急ごう.

 デザートビューポイントから64号を東へと進む.いよいよキャニオンともお別れだ.山を下りていく途中で,お馴染みのスコールに遭う.数十メートル先に黒雲と大雨の白い縦筋が見える!と思うと,数秒後に突入.その瞬間は前が全く見えないくらいフロントグラスを大粒の雨がたたく.洗車機の中を走っているような感じだ.しばらく耐えに耐えながらゆっくり車を走らせると,黒雲を抜けた瞬間,また何事もなかったかのようにギラっとした世界に戻る.なんとも不思議な気候だ.寝てる間にこれが来ないことを祈る.

 山を下りてナバホ・インディアンの居留区へと入る.このあたりは同じ州内であってもネイティブ・アメリカンの居留区がいくつもある.その中にあるモニュメント・バレーはナバホの人々が管理,運営するナバホの人々の公園ということだ. 64号からキャメロンという所で189号へと左折し,北上する.すぐに160号へと右折するとあとはバレーへとひたすら進む.最後はカイエンタで163号へと左折すると間もなくバレーだ.真っ赤な砂漠に通る1本道だが,時間的には4〜5時間かかった.いままでの町とは違い,少し寂れた感じのする地域だった.インディアン居留区ということが影響しているのだろうか.しかし,何もないぶんだけ地平線のむこうに少しづつ見えてくる山の残骸が妙に目立っている.だんだんあの有名な景色が見られるのだと思うとワクワクしてくる.

 車で近づくにつれ,地平線の彼方に赤い奇妙な形の山々が姿を現してくる.あれが写真で見たモニュメントバレーかな?と思うがそういった形の山があちこちにあるのがわかるようになる.決してあの山だけがこの辺りにあるのではなく,ここらへん一帯に不思議な形をした赤い山の残骸のような岩が立っているのだ.これも地理学的にみれば,グランドキャニオンの将来の姿ともいえるそうだ.巨大な渓谷が長い年月を経ると地層の柔らかい部分だけが風化,浸食されて堅い部分だけがこのようなおもしろい形で残るというのだ.自然の力の魔力とでも言ったらいいのか,この先そんな不思議な光景が次々と現れて,日本の同じような自然しかみたことのない私にとっては,まるで月かどこか知らない惑星にでも降り立ったような錯覚を起こさせてくれた.

 さて,このバレーには宿泊施設は無い.従って近隣に泊まるしかないのだが,この近くというのが6マイル程離れたところにあるゴールディングス・ロッジとロッジの経営するキャンプ場だ.まずはバレーに直接行かずにキャンプ場へと向かう.本当に他には何もないところだ.実は泊まれないと大変なので,夫がボストンから電話でキャンプ場の予約をしたのだが,電話口で相手はこちらの名前を聞いただけで他に何も要求しなかった.本当に大丈夫かしらんと不安になりながらキャンプ場に到達.フロントに着いて予約をしている旨を話すと,キャンピングカーじゃなければ特に予約は取ってないよとのこと.もちろんこちらの名前も記録はない.いいかげんだなーなんて日本語でブツブツ言いながらも,しっかりサイトは確保できたのでまずは安心.キャンプ場自体はKOAとほぼ同じ設備の快適なキャンプ場だ.山と山の合間からちょうどモニュメントバレーの特徴のある岩が見える,なかなか素敵な眺めのところだ.しかし緑は無い.この砂漠では無理もないが,真っ赤な砂の上にテントを張るのはなかなか難しい.強い風でも吹けば,たちまち砂まみれになるだろう.今日はスコールが無いようにと祈るばかりだ.

 テントを張った後,ようやくモニュメント・バレーに着いたのは午後6時.まだ日は高々としている.ビジターセンターでバレーの詳しい地図をもらい,地理的特徴の展示や歴史を見学する.国立公園ではないのでやはり展示やショップなどもぱっとしいない.ここからもバレーの全貌を眺めることはできた.目の前に広がる不思議な形の岩(?)を見ると一見小さく見えるのだが,そばを走っている車の大きさと比べると巨大な岩であることがわかる.このバレー内を見学するにはナバホの人々が行ってるバレーツアーに参加するか,自分の車で見てまわるかだ.自分の車ねえ.ボストンからの我がカムリ君はこの赤土の地獄の中を走れるのだろうか?

 バレー内は全長17マイルのコースがあり,未舗装でかなりのラフ道路らしい.ツアーの車は頑丈そうな4WDばかりで大きなタイヤをはいている.それでもトラブルはおこるというので私たちは自分の車で回るのをためらった.ツアーの客引きは盛んに誘ってくる.こんな時パジェロがあったらねえ(日本ではパジェロに乗っていたのだ),とどうしようもないことをつぶやく.バレー内を窺ってると普通の車も果敢に挑戦しているのが見える.砂煙をあげ,大きく揺れながらよたよたと進んで行く.もちろん私の運転では無理だろう.ラフの好きな旦那の決心一つにかかった.まあやってみるか,というのが夫の結論.脳天気な夫のことだ.そう言うだろうと思った.意を決して車に乗り込む.私は地図とにらめっこ,そして二人で目を凝らして道路のでこぼこを探しては避けるようにゆっくりと進む.思った以上にでこぼこだ.それにすごい砂煙.前を行く車から距離をおかないととても視界がきかない.これではゆっくり景色を眺める余裕もないね,と笑いながら地図にあるビュー・ポイントを巡る.ポイントでは車を止められるので外に出てゆっくりと景色を眺める.

 この岩は形と大きさで様々な名前が付けられている.岩はまずビュート(残丘)という.手の平のような形をしているからミトン・ビュート,象のようなエレファント・ビュート,ラクダの形のキャメル・ビュートといった具合.そしてビュートよりも数段大きく台座のような形をしたものはメサという名前が付いている.どれもほぼ地面から垂直にそびえ立っており,300メートル程の高さがある.近くで見るとあまりにも大きいので全体の雰囲気はわからないが,有名な映画「駅馬車」の撮影で撮られたシーン,ジョン・フォード・ポイントからの眺めはさすがに絶品だった.

 砂まみれの愛車でなんとか無事一周し,満足感でキャンプ場に戻ったが,この車の有り様はほんとにすごかった.赤い車が真っ白になっている.窓,ドアのすきまにはびっしりと砂が入り込んでいて開ける度に砂がこぼれ落ちた.今回ばかりは車を誉めてあげたい.明日は絶対に洗ってあげようね,と二人で愛車をながめた.

 バレーからキャンプ場に戻り,少しづつくれる日の中で遅い夕食をつくる.私たちのテントサイトからはバレーの景色が良く見えた.はるか遠くに,今見てきたミトン・ビュートが立ってる.夕日を浴びてまた素晴らしい眺めを見せてくれる.いやー,このキャンプ場最高だねーなんて言っているとななめ上空に真っ黒な雷雲が立ちこめてきた.イヤな予感.あっちいけ黒雲!なって祈っていると,遠くのバレーで雷が鳴り始めた.激しい雷が何度もバレー内に落ちる.雷が落ちる度にほんの一瞬暗闇に浮かび上がって見えるビュートやメサ.この思わぬ雷雨のショーは,それはそれは美しいものだった.こんな幻想的な景色は見たくても見られる物ではないだろう.疲れも忘れて束の間の饗宴を堪能した.いつの間にか黒雲はキャンプ場上空を避けて抜けてくれたみたい.今日は落ち着いて寝れそうだ.


Written by Mie Takeuchi. Edited by Takaaki Takeuchi. Last Modified on May 18, 1997.

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[11日目:巨大人造湖レイク・パウェルで灼熱地獄(7/25/94)]

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