11日目:巨大人造湖レイク・パウェルで灼熱地獄

7月25日(走行距離:孝明 156mile 美枝 0mile)

 砂漠の朝は灼熱の朝日とともにやってくる.疲れ切った体が熟睡していても,この照りつける太陽のためにいやがおうでも目が覚める.日陰がないので暑くならないうちにテントをたたまないと大変だ.そうそうに朝食を済ませて帰り支度をする.ゆっくりバレーを眺めている時間なんてなさそうだ.

 今日の予定はグランド・キャニオンを作ったコロラド川の上流,レイク・パウエルという湖まで行くこと.距離としてはさほど遠くはない.あのグランド・キャニオンを作った川を眺めようというのだからこれもおもしろそうだ.しかもその湖の奥には,レインボー・アーチという,これまた美しい自然にできた巨大な岩のアーチがあるという.そこに行くには湖かツアーのボートで行くしか方法はない.ボートツアーはウォータースポーツの盛んなレイク・パウエルのリゾート施設の中心にある,ワーウィープ・ロッジというホテルから出る.有名なアーチなので,ボートツアーは混雑しているという噂だ.今日は見られないかもしれないが,ともかくまずはこのロッジを目指す.

 キャンプ場を出ると,さっそくガソリンスタンドでお約束の洗車.昨日のバレードライブのお役目ご苦労さん,の意味をこめて,久しぶりの洗車となる.ボストンを出て10日.窓ガラスのヒビというアクシデントはあるものの,これといったトラブルも無くほんとによく走ってくれている.なんとも頼もしい私たちの愛車なのだが,水を浴びていささか気持ちよさそうだ.洗車する自分たちも水浴びしたい気持ちにかられる.洗い流されていく赤い砂をみて,昨日の道がいかにすさまじいものだったかを改めて感じた.ご苦労さん,今日もよろしくね.

 昨日来た道を途中まで戻る.98号に合流すると,右折してそのまま北上.一路レイク・パウエルのワーウィープ・ロッジを目指す.実は,アメリカに来て以来愛用しているAAAの全米道路地図の表紙を飾っている風景写真は,ユタ州の95号という道路からレイク・パウエルに向かうシーンなのだが,湖が見えた瞬間,道こそ違うものの我々もほとんど同じような感動的光景を目の当たりにする.切り立った赤い山々の間を抜ける道路から,巨大な湖を望む光景.背景には延々と続く岩山の砂漠.なんだか久しぶりに見る水なので私は少々興奮気味.うれしい,水だ.これぞまさしく砂漠のオアシスというのだろう.

 ロッジに向かう途中にカール・ハイデン・ビジターセンターがある.ここからはコロラド川をせき止めて造った巨大なキャニオンダムが望める.レイク・パウエルはダム建設のために作られた人造湖なのだ.人造湖としては世界第2位の大きさで,湖の長さは約300km,ざっと東京−名古屋間の距離である.気の遠くなるような大きさだ.位置的には先日見てきたグランドキャニオンの上流,モニュメント・バレーの西側にあたる.土の色といい,地形の感じといい昨日見たバレーとグランド・キャニオンとよく似ている.もともとは水に沈んでいなかったのだから,やはり同じ地理的特徴を示していると言ってよいのだろう.

 ここで今日のランチとする.昨日のキャンプの残りもので作ったおにぎりがあるので,木陰ですわって食べようと思ったのだが,ビジター・センターの入り口の前にある1本の大きな木の陰は,同じような目的の人で早一杯.他を見渡せどまともな陰をつくってくれる木は全く無い.今まで体験したこともないほどの暑さを感じ始めた.なんとか低い木の木陰にシートを敷いておにぎりをほおばったのだが,食べた後はすぐ昼寝.暑さのせいで疲れがでてるのかな,急にだるさを感じる.

 しばしの休息の後,湖のほとりのロッジに向かう.人造湖だけあってほんとに木は無い.真っ赤な岩と青い水のコントラストはなんともきれいだが,これが地球上の光景とは思えないほど奇妙な印象を受けた.もし火星におりたらこんな風景なのではないかと思うほど異星にいるような錯覚を覚える.それもそのはず,ここはSF映画のロケ地として使われることも多いそうで,あの「猿の惑星」でも使われたという.そんな灼熱の岩だらけの所にもキャンプ場はあるので,いちおうのぞいてみる.安いのだが,とてもこんなところに寝る気分になれない.いったいキャンパーなんてほんとにいるのだろうか?みんな脱水症状で病気になっちゃうよ,といいたいほどの暑さだ.私は今日は涼しいモーテルで寝るぞ,と宣言し,キャンプ案にはいっさい取り合わなかった.

 ようやく到着したワーウィープ・ロッジはとても立派なリゾートホテル.エアコンの効いた快適なロッジの中は観光客で一杯だ.レインボー・アーチ・ツアーの予約も残念なことに今日の分は一杯.しょうがないので明日の午前中のツアーを予約する.でもこのツアー,物価の安いアメリカの中では破格の高さ.一人55ドル.まあ自力では行かれないし,めったに見られるものではないのだから我慢しようと思ったのだが,キャンプ場で1日2人で30ドルくらいの生活をしているので,やたら高く感じる.

 さて,今日はどこかさっさと宿に入って明日に備えることにしよう.もちろんここのロッジに泊まれるような身分ではない.涼しいロッジを出て,またあの暑さの中を運転するのかと思うと少々げんなり.ここでゆっくりしたいなあ.

 灼熱地獄を再び走らせ,車ですぐのペイジの街に入る.レイク・パウエル観光のために栄えた街といっても過言ではないほどモーテル,レストラン,スポーツ用品,サーフショップなどが充実している.プールつきのモーテルに転がり込んだのは昼の2時か3時頃だったのだが,私はすっかりばててそのまま眠ってしまった.だらしないようだが,この暑さに体力限界を感じた.一人元気な夫はプールで泳いだらしいが,私はエアコンを心ゆくまで堪能しつつ眠りに落ちる.この日の気温,なんと華氏109度(摂氏42度くらい)!!外にでなくて良かった・・・

 夕方ようやく日も沈み,少しは涼しくなった頃,食欲不振の私を連れて夫は夕食にでた.旅に出て10日程.最初はこんなに暑い所でもなかったし,体力もあったけど,いささか旅の疲れが出てきたんだね,ということで軽い夕食を済ませる.それにしてもこの旦那,私と違って暑さに強い,強いというよりも感じないのだろうか?いくら学生時代のヨットで慣れた暑さとはいえ,このタフな体には感心する.キャンプもいつも楽しそうに料理や片づけをするし,毎日の長いドライブにもへこたれない.先月のヨーロッパ旅行ではあんなに風邪をひいたのに,この人ときたら完全なアウトドア少年なんだな,とつくづく思う.自然児といってもよいだろう.こういう生活が性に合ってるのだな.私はだめ.


Written by Mie Takeuchi. Edited by Takaaki Takeuchi. Last Modified on May 24, 1997.

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