レインボー・アーチへのボート・ツアーは約半日.大半をボートの上での移動に費やすので楽といえば楽な殿様ツアーだ.(費用の方も殿様的なんだけど).ただし,日陰のない湖上をボートで行くのだから日焼け対策は万全に.私は白いTシャツに帽子,タオルや水を持ってなるべく日に焼けないようガードする.旦那はうれしそうにタンクトップ.そんなに焼いて,あとで火傷になっても知らないぞ!
ボートは高速で快適な走り.静かな湖なので波もなく,風をきってすごいスピードで進む.まるで海のような広さの湖だが,岸には真っ赤な岩の切り立った壁が垂直に続く.この湖畔に自分のボートを所有するリッチな人たちも夏のバカンスを楽しんでいるようで,ボートの数はかなり多い.こうやって自分のボートで迷路のような入り江の散策をしているようだ.もちろんレインボー・アーチにも行かれる.しかし,この巨大な湖,迷わないのかな,と思うほど入り組んでいるし,似たような風景が続く.ボートで進むこと1時間半.ようやく目的地に着いたようだ.スピードを落とし,ゆっくりと一つの入り江に入る.入り江にはちゃんとした桟橋があって,何台かボートが止まっている.
桟橋を下りて10分ほど奥へ進むといよいよ巨大なアーチの登場だ.真っ青な空に真っ赤な岩のアーチがぽっかり浮かぶ.あまりにも大きいので最初に遠くからちらっと見えた位の方が感動が大きい.ほんとにきれいな虹の形をしている.これもまた自然の驚異だ.高さ88m,幅82m,アーチの片側は巨大な岩山となっているが,もう片方は完全に浸食されて美しいアーチを描いている.この地の先住民ナバホのインディアンが,虹が固まって石になってしまったものだと言い伝えたそうだが,その気持ちはよくわかる.こういう自然の産物を始めて目にした人たちの感動と驚きというのはどんなものなのか,やはり宝物を見つけた気分だろうと思う.誰にも教えたくない秘密の場所にしたいのではないかな.観光地になって奪われてしまったインディアンの宝物,なんだかそんな気がする.
アーチの下には川が流れている.美しいアーチを形作った川だ.今ではもう水の流れも少ない穏やかな川となっているがその昔はどんなに激しい流れだったろう.川沿いにはこんな砂漠でも成長する乾燥に強い植物が強烈な太陽にさらされながら生きている.昼顔を大きくしたような白い花が咲いている.この湖がまだなかった頃,ここはインディアンの神聖な場所であり,一服の清涼剤となるオアシスではなかったか.モーターボートでいともたやすくふらっと立ち寄れる現代の観光客にはこうした自然の本質はなかなか理解できないものがあるのではないだろうか.
午後はSF映画のロケ地を後にして,北側から再びグランド・キャニオンへと向かう.今回はアクセスが不便なために観光客も南より少ないといわれるノース・リムが目的地だ.ペイジの街から89号を西に進み,ヤコブ・レイクで67号を南に下りれば一直線でノースリムへと通じる.なんの変哲もない田舎道で,このルート以外は通じる道がないのがいかにもひなびた国立公園という感じ.途中はまだまだSF映画の雰囲気の残る砂漠地帯で,頭上に真っ黒な積乱雲ができて時折激しいスコールに見舞われ,数メートル先も見えないほど大粒の土砂降りが降るかと思うと,一転して乾ききった赤土の砂埃を浴びるという不思議な天気だった.
ノースリムに入るヤコブ・レイクという街にくると急に緑が増え,背の高い木々が林立してくる.砂漠ばかりで目が痛くなるほどのあとには,こうした緑を見ると心底緑って良いなあ,と思う.今日はノースリムのキャンプ場に泊まろうと思ったのだが,残念なことにキャンプ場はすでに満員.しかたなく再び最寄り街のヤコブ・レイクにあるキャンプ場に泊まることにする.KOAではない普通のキャンプ場だったが,緑が多くてなかなかきれいな所だった.少々暑さ疲れが出ていた私には緑の中に泊まれてずいぶん生き返った気がする.
夜も昨日までとは違ってずいぶん涼しい.過ごしやすいのでこれならまたキャンプでも大丈夫.あしたのノースリム見学に備えて早めに寝よう.
[13日目:ノース・リムでミュールに乗る(7/27/94)]