15日目:ザイオンのナローズ峡谷を遡るトレッキング

7月29日(走行距離:孝明 131mile 美枝 0mile)

 今日もいい天気.前夜の馬臭いキャンプ場を後にしてザイオンへと向かう.

 まっすぐナローズといわれるバージン川に足を進めるが,今日も水位の表示は「High」.再び迷う二人.ともかく川のほとりまで行ってみよう,ということで緑のハイキングコースを抜け,大きな岩がごろごろするナローズ入り口に到着.すでに多くの人が川をずんずん入っていた.なあんだ,みんな表示なんかおかまいなしに入ってるじゃないか,昨日もきっと同じだったんだね,とやや拍子抜け.まあアメリカで良くある「自己責任」なのだろう.私たちも今日はちょっとトライしてみようか.早速準備にとりかかった.川の水位は膝くらいということだったが,川底は岩がごろごろしているので,やはりスニーカーをはくようにと書いてある.私はナローズ用にボストンから持ってきた古いスニーカーにはきかえる.旦那はいつものままのナイキのトレッキングシューズだ.後で後悔してもしらないぞ!単パンにポロシャツ,リュックを背負い,準備完了.いざ川の中へ!

 この川,まず最初が非常に深かった.前を行く人を見るとほとんど太股まで浸かっているので大丈夫かな,とためらいを感じたが旦那が浅そうな所を先導してくれ,最初の10メートル位を無事切り抜けた.水はかなり冷たいが,透明感があってきれいだ.このあたりはナローズといってもまだまだ川幅は広くワイルドな感じはない.みんな川遊びに興じているという雰囲気.ただし川の両側に切り立つ岩壁はまさに絶壁で,今まで遠くからしか眺めてこなかった赤い岩を素手で感じることができる.岩の割れ目から水が滴っているところは黒く変色し,川の水位が変わっている様子は水に濡れた岩肌の色でわかる.かなり上流まで行くと人が二人くらいしか通れないほど狭い川になるというが,そこまで行き着くにはどれほど歩かなければならないことか.私たちはほどほどで良しとしようと決めた.途中,たくさんの子供づれの家族が水遊びをしている浅瀬にでたり,日陰で流れの急な場所があったり,巨大な岩が立ちふさがっていたりと飽きさせないおもしろい川上りだった.大きなバックパックを頭にのせたたくましい若者達が川を下りてくる.きっとナローズ終点まで登り切り,キャンプをしたのだろう(そんなことも許可を得ればできるそうだ).かっこいいなあ,ヒーローを見るような回りの人たちの視線を浴びながらさっそうと川を下っていく.

私たちは2時間程進んだ所で引き返すことにした.まだまだ川は広く,ナローズの醍醐味を味わうにはほど遠いのかもしれない.旦那は少し物足りなさそうだが,それでも私は十分満足.帰り道は往きに歩いた水深の浅い場所を思い出しながら歩く.なんとなく往きよりも早く着くように感じる.旦那は川の途中,あちこちでカメラを向けては岩の芸術に感動していた.

 ようやくナローズの出発点に戻る.この灼熱の大地に流れる水ですっかり冷たくなった私は始めて太陽の日差しがうれしく感じられた.濡れた靴を脱いで日向にでると冷えた足もすぐに乾いて暖かくなった.厳しい日差しと冷たい水,それがこの辺りの特徴なのだろう.こんな川上りはそうそうできるもんじゃないものね.ナローズ上りは楽しく,この旅一番のアトラクションとも言える経験だった.

 さて,今日はこの後再び車を進めて次なる公園,ブライス・キャニオンを目指す.ザイオンとブライス・キャニオンは目と鼻の先の距離だ.昨日のキャンプ場があった89号を北上し,少し東に下る道のりだった.所要時間およそ1時間程度,楽な移動でうれしい.今日は同じ89号沿いにあるパングウィッチというところでキャンプをすることにした.キャンプ場もすぐ取れたし,まだ時間があるので早速ブライス・キャニオンへと行ってみる.

 ブライス・キャニオンはザイオンと位置的に近いので,同じような地理地形の公園かと思っていると大きな間違いだ.ブライス・キャニオンは非常に繊細な岩の集合体だった.ここは川も無いのでグランド・キャニオンやザイオンのような峡谷という感じではない.風雨によって削られた断崖を上から見おろす格好になる.同じ上から見おろすタイプでも巨大すぎていささか持て余したグランド・キャニオンよりこじんまりとして,一目でその美しさを堪能できる.私には想像以上に良かった.今回のキャンプで回った数多くの国立公園の中でも大好きな公園の一つにあげられる.この岩は風雨によって削られたと書いたが,すり鉢状の谷の中に何百,何千という細い細い尖塔が立ち並んでいる.その一本一本は地層の色によって見事な色の魔術を見せている.濃い赤茶,薄い茶,ピンク,白,オレンジ,紫といったまるで夢のようなやさしい配色のグラデーションで塔ができているのだ.こんな風景は見たことも想像したこともない.遠くから見ると今にも壊れて崩れてしまうのではないかと思われるほど繊細な佇まいだ.まるで砂か砂糖菓子のようなものできているのかと,目を見張る思いがした.どんな名カメラマンでもこの本物の美しさは再現できないのではないだろうか.

 ブライス・キャニオンには谷底を下りていくトレイルがある.明日のお楽しみにして,今日はいろいろなビュー・ポイントからの風景を眺めることにする. 大抵の峡谷にはお馴染みの名前,サンセット,サンライズ,インスピレーション・ポイントなどのほかにレインボー,フェアリーランド・ポイントがある.残念なことに午後から風が強く,時折小雨が混じったのであまり良い天気とはいえなかったが,それでも夕暮れ時には夕日を浴びていっそう幻想的な様子を見せる尖塔群のショーを見ることができた.満足満足.


Written by Mie Takeuchi. Edited by Takaaki Takeuchi. Last Modified on Jaunary 11, 1998.

[14日目:ザイオン国立公園でショート・トレッキング(7/28/94)]

[16日目:尖塔群ブライス・キャニオンでロデオ見物(7/30/94)]

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