16日目:尖塔群ブライス・キャニオンでロデオ見学

7月30日(走行距離:孝明 90mile 美枝 0mile)

 翌朝はキャンプ場を出て,再びブライス・キャニオンへ向かう.今日はまず,昨日できなかったキャニオンの谷へと下りるトレイルに挑戦.今にも崩れ落ちそうなほど脆い砂地のトレイルを進む.細い道や入られたくない箇所には鉄の柵もできていたが,基本的にはどこの公園とも同じで何の柵も無い.しかし,これは暗黙の了解でもちろん誰も手など触れる人はいない.上から見た時もとても急な坂道を下りるのだなあと思ったが,実際なかなかスリリングな坂だ.平坦な箇所もあるが,何カ所かは非常に急で,サラサラの砂と共に滑り下りるような所もあった.こんなふうにみんなが滑り落ちていくとこの繊細な谷はあっという間になくなってしまうんじゃないかと心配してしまう.

 谷を下りて行くに従って,上から見ただけではわからない風景が見えてきた.まず,木が生えている.細い細い尖塔と尖塔の間からわずかの光と隙間をぬって成長する細長い木が見つけられる.なんとけなげな木だろう!風や光を受ける方向のためだろうか,枝や葉のはえている場所が木の一面にしかない所もある.一見,奇妙な格好の木だが,よく考えてみると厳しい自然の中で生き延びていく唯一の方法なのだろう.「生命力」という言葉がぴったりの木である.さらに谷の底は背の低い木々が生えていた.水はほとんどなかったが,小さな川も流れていた.ここは谷底のオアシスなのだろう.私たちは見かけることができなかったが動物もいるという.淡い色の奇妙な尖塔群だけからは想像もつかないような谷底の風景だった.トレイルを歩く途中,何度か雨にあいながらも久しぶりに暑いだけの公園とはひと味違った散策ができた.

 集合した岩の美しさ,そしてその間を縫いながら歩くことの楽しさ,とても満足したブライス・キャニオンだったが,公園だけでなくこの日はいろいろとおもしろい体験ができた.まず,ブライス・キャニオンの玄関ともいえる町にはルビーズ・インというベスト・ウェスタン系のモーテルがある.この周辺にはいろいろな土産物屋が軒を連ねており,なんとなく西部風の雰囲気を漂わせている.この建物の中に化石を扱う店があった.「ユタ州に行ったら三葉虫の化石を買ってきてね!」というのがボストンの友人からのリクエストだったのを思いだし,化石屋を覗いてみる.実に様々な化石が売られていた.お馴染みのアンモナイト,三葉虫に始まって蚊などの虫類,草類まで,こんなもの売っていいのかしら?と首をかしげたくなるような大きな物まで売られていた.またアメリカの国立公園では非常にポピュラーな土産物だったが,内側が紫やピンクの水晶で外側が茶色の石(正確にはなんというものかわからない)が山のようにあった.三葉虫は親指大の10ドル以下のものから,人の頭くらい大きな数百ドルのものまで様々なものがそろっていてびっくり.実物を見るのは初めてだと旦那も興奮している.友人へのお土産を物色しながら,しっかり自分も小さい三葉虫の化石を買っていた旦那だった.

 この土産物屋巡りで得た情報の一つは,今晩この近くでロデオ・ショーが開催される,ということだった.ロデオ!わくわくするような響き!誰だって一度や二度はテレビで見ただろうが,本物は見たことない.またしても好奇心の虫が騒ぐ二人.本当はそろそろブライスキャニオンを後にして,300マイル先の明日の目的地アーチーズ国立公園に向けて少しでも距離をかせいでおく予定だったが,この機会を逃したら二度と見るチャンスは無いだろうと話し合い,見てみようと意見が一致する.久しぶりの公園以外のアトラクションだ.二人とも「どうせ田舎のお祭りだ.たいしたことないよね」と言いつつ,妙にそわそわと楽しそう.

 さて,急な予定変更のため,近くに宿泊地を確保し夕方にまたここへ引き返してこなければならなくなった.すこし東へ行ったところにあるトロピックという町のモーテルに部屋を確保.このモーテルはなかなか西部風で(この辺りは妙に昔の西部を演出していたように思う)一軒一軒コテージのような部屋が並んでいた.決して近代的な施設ではなかったが,外ではバーベキューができたり,宿泊者にはインディアン風タコス(!?)のサービスがあったりとそれなりの趣向で楽しませてくれた.都会のモーテルとはひと味違った田舎のモーテルは,悪くないどころか味があって実に楽しい.

 タコスをほおばりながら,ロデオに向かう前の腹ごしらえを考える.せっかくなので,この小さなトロピックの町でレストランに入って久しぶりのアメリカン・フードをとる.私の言うアメリカン・フードとはビーフかチキンなどのソテーにフライドポテトかベイクド・ポテトの付け合わせ,グリーンサラダに飲み物という組み合わせなのだが,はっきり言って決しておいしくはない.ただ,キャンプ暮らしが続いた後で自分で作るのがおっくうな場合,こうした食事をとるのが常だ.こんなとき暖かい食事を涼しい(または暖かい)所でゆっくりと食べられるということは,実に幸せなことだと感じる.この日も不安定な天気がそのまま続き,夕食を食べている最中,激しい雷雨がおこり,しみじみキャンプじゃなくて良かった,と胸をなで下ろしたのだった.実にラッキー.しかし,こんな天気ではたしてロデオやるのかしら?という一抹の不安が頭をかすめた.ここで中止になったらなんのために・・・.不安を感じながらもなんとか止みそうになった雨の中をブライス・キャニオンへと引き返す.

 ロデオ場は町のはずれの牧場のような所を解放して行われている.幸いなことに雨もあがり夕日が射してきた.運はついていた.どうせそんなに人はいないんじゃないの,とたかをくくっていた私たちだったが,どうしてどうして駐車場には車がいっぱい,観客席にも人がいっぱい,早くしないと満員になってしまいそうだ.急がなくちゃ!半分バカにしていたロデオだったが,急に真剣になる.観光客が大勢押し掛けているのか,この辺りの住民が集まってしまったのか,こんなに多くの人,見たこと無いよね,とぼやきつつチケットを手に入れ席に着く.7時30分開始.夕立の名残が見える雲のかかった空だが,日が沈むには早い.一雨降ったせいか,急激に冷え込んでくるのがわかる.あわててジャケットを着込む.

 ロデオ場は囲いのある運動場といった感じで,階段状の観客席がついている.たぶんいつもは町の野球場とかサッカー,ラグビーなどに使われるのだろう.私たちが席に着いたときはすでに始まっていて,ジーンズにカウボーイ・ハットの男達が暴れる馬を器用に乗りこなしていた.観客がヒューヒューと歓声を上げる.うまいもんだ.先日グランドキャニオンでミュールに初めて乗って,思った以上に乗馬って難しいものだということがわかった私にとっては,皆難なく手綱を捌いているように見えて感心する.大人の男性ばかりでなく,小さな男の子が豚に乗って現れたりもする.会場は爆笑と拍手の渦.ショーなんだな,結構飽きさせないようにうまくできている.最後は投げ縄片手に馬を走らせ,牛の首に縄をかける技を見せてくれた.この人達はこのショーで生活しているのか,副業なのかわからないが,2時間弱それなりに観客を沸かせ,束の間の余興を楽しませてくれたことは確かだった.ショーが終わる頃には日も暮れて,いろいろなことができた一日,すっかり満足してモーテルへと戻り久しぶりのベッドでぐっすり眠った.


Written by Mie Takeuchi. Edited by Takaaki Takeuchi. Last Modified on Jaunary 15, 1998.

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