ついに8月となる.旅に出て3週間近く,よくこの暑さの中を車も体も無事に過ごしているなあ,と感心しつつも旅の半分を終えた充実感が出てきた.今日からはこの砂漠地帯を抜けて進路を北に向け,緑の公園へと向かうつもりなのだ.昨日の暑さに妙に疲れを感じた私は,早く灼熱のユタ州を抜けたくてうずうずしている.早く真っ赤な砂ばかりではなく,緑と木々と水が見たい!と切実に思う.
しかし,である.昨日見られなかったポイントに,バランスロックと並ぶアーチーズの名所,デリケート・アーチがある.岩山の奥にひそんだ神秘的な巨大なアーチ.それを見るには歩いていくしかないのだ.昨夜の作戦会議(?)では,疲れ切って緑に飢えている私のために,旦那はデリケート・アーチを見ないでコロラド州に向かって出発してもかまわないと言ってくれた.でも今を逃すと2度とお目にかかれない.なんとなくアーチが待っているような気がする.先も急ぎたいし,昼の日中にあんな暑い所を歩くのはごめんだ.よし!早朝に登ろう!ということで,今朝は早起きしてデリケート・アーチまで歩いてみることにしたのだ.
まずは最も近づくことのできる駐車場まで車を進める.そこからは1本道のトレイルが続く.距離は2.4kmというのでそれほどのものではなさそうだ.しかし平坦な所は少なく,木もない炎天下の岩を上っていくことになるので結構きつそうだ.水とスナックをもってがんばろう.
このトレイルの標識はとてもおもしろい.小さな「石」が置いてあるのだけなのだ.アメリカの国立公園の標識はとてもわかりやすく,どこも皆同じように木の看板がたててあった.「石」の標識というのは始めてで,最初はどれが目印なのかわからなかったが,気づいてみれば簡単だ.他には石などないつるりとした岩肌を登っていくので1つあれば事足りるのだ.かえって標識を建てたりするほうが岩に穴をあけたり,倒れたりすることがあって手間がかかるのだろう.賢い方法だね,でもだれかが蹴飛ばしたらおしまいだね,なんて話しながら石を目安に進んでいく.幸い,今朝は少し雲がかかっていて涼しい.登りの苦手な私にとってはとてもラッキーだった.太陽が照りつける前に登り切りたい.
デリケート・アーチというのはユタ州に数あるアーチの中でも一番美しいと言われている.もっと巨大なアーチはたくさんあるし,レインボーブリッジだって完璧なものだったが,このアーチは完全なアーチ型で前後左右に何も岩が続いていないのだ.しかもこうして歩かなければ見ることはできない.どんなアーチなのか着くまでわからないというのが魅力だ.いやが上にも期待が高まる.涼しいこともあって,私の足どりも軽く,楽しく登っていく.
岩を登り下りしながら山をぐるっと回っていくといよいよ最終地点.この大きな岩壁の向こうにアーチがあるようだ.岸壁に沿った,人のすれ違いもやりにくいような細いトレイルをまわりこむと,急に視界が開けて擂り鉢状の広大な競技場のような所に出た.一瞬,どこにアーチがあるのかわからなかったが,角度の関係ではバランスロックのように見えるアーチが目の前に静かにたたずんでいた.擂り鉢状の岩にそって奥に進むと正面からアーチが見える.ほんとにきれいな弓なりの岩.他には何にもないところに1つだけポツンとアーチがかかっている.そしてとても大きい.これこそレインボー・アーチって言うんじゃないかな,と思うほど見事なものだ.大感激!
これはどんなに暑くとも,きついトレイルであっても見に来たかいがあった,と正直感動した.腰をおろして休みながらゆっくりと見物.まわりのハイカー達も皆同様にその美しさを堪能している.アーチの真下は以前河が流れていたのだろう,深い谷になっていて下りるには大変だ.どんな写真をとってもその本当の大きさは人には伝えられないだろうから,旦那を入れて写真を撮る.米粒のように小さい人間と巨大なアーチの比較で十分.私のこの旅一番の記念ショットとなった.暑い暑いと不満もでたが,このデリケート・アーチは旅行中3本の指に入るほどの良さだった.登ってきてよかったね,と何度も話しながら満足してアーチーズを去る.
さあいよいよこのユタ州ともお別れだ.アーチーズは位置的にはユタ州とコロラド州の境に近い.1〜2時間も走ればコロラド州だ.長かったユタ州,いろいろな公園を見てきたが今となってはどれも良い思い出ができた.暑さには閉口したがなんとなく去りがたく,少々遠回りになるかもしれないがコロラド河に沿ったローカルな道路を走って行くことにする.まずはキャンプ場のあったモアブという町に戻る.ここでSUBWAYのサンドイッチでお昼を済ませ,お土産屋さんをのぞいてぶらぶらする.ここからは128号という田舎道を走っていく.コロラド河に沿っているので途中でさまざまな河の様子が見られる.茶色い激しい流れかと思っていると比較的穏やかな流れだったり,ずいぶんきれいな色をした河になっていたりする.ラフティングで河を下る(下った後なのか?)冒険野郎達が川岸に集まっているところも見た.旦那はラフティングをやってみたくてしょうがないらしい.まあそれは今度一人でやってみてね.コロラド河を渡る古びた橋を渡ると間もなく70号へと合流する.久しぶりの高速道路だ.山道と埃っぽい道ばかり走ってきたので,再びまっすぐの道路で快適にとばせる.今日はロッキーへと向かうため,なるべく距離をかせぎたいところだ.
ところで,ハイウェイに出る前にちょっと道に迷い,本物のゴースト・タウンというのを見た.最初は荒れた家が1〜2軒あるな,と思ったくらいだったのが,次々と人気の無い家,傾いた看板がついた店,寂れたガス・スタンドなどが現れてきた.うわー,これが誰もいなくなってしまった小さな町というものか.道路沿いにもかかわらずなぜ寂れてしまったのか,答えはわからないけれど,なんだか悲しい様子だった.
さて,コロラド州に入ると再びコロラド川添いを道路が通る.周りの風景も緑が増えてくる.夢にまで見た木々と緑,涙がでるほどうれしい.人間て緑がないと暮らしていけないのかな.少なくとも私はあの砂漠では到底長い間暮らしてはいけないだろうな.ほんとうに久しぶりの緑の景色に旦那と二人で喜び,旅行を続ける新たな元気が出てきた.緑に元気づけられ,快調に走っていく.次の目的地ロッキー国立公園まで今日中に行くのは無理なので,どこに泊まるか考える.たまには公園以外の所でも寄ろうか,と話しながらこの自然豊かなコロラド州を楽しむため温泉やらスキー・リゾートやらを思い浮かべた.結局冬には来られないかもしれないということで,スキーリゾートとして有名なアスペンに寄ることにした.今日はアスペンのちょっと手前のKOAのキャンプ場に泊まろう.冬のシーズン中にはかなわないだろうが夏の高原もなかなか良いだろう.スキー好きの旦那には格好の寄り道だ.70号をグレンウッド・スプリングスという温泉町で降りて82号に入りアスペンへと向かう.ここらへんから急に都会的になる.やっぱり有名なリゾート地だ,周辺でもこれくらい開けていれば生活には困らない.夕方遅くなってアスペンのキャンプ場に到着する.
このキャンプ場は緑の芝生もふさふさとした寒いくらいのキャンプ場だった.昨夜の砂漠とは一転,緑の宿,なんだか調子狂っちゃうな.夕立も降ったらしく,芝もしっとりと濡れている.車を下りるとひんやりとした空気.半袖シャツにあわててジャケットを羽織る.キャンプ場の木々から雨上がりの緑の臭いがする.こんな感覚久しぶり.深呼吸すると今朝までの暑い空気とは違った森の中にいるような空気が体中に染み渡る.いい気持ちだ.寝苦しい夜からも解放されそう.二人とも緑に喜びながらテントを張る.夕方遅かったので今日は近くのガス・ステーションのピザとサラダのテイクアウトで簡単に食事を済ませる.暖かい飲み物が飲みたい,と思うほど気持ちの良い夕べだった.旦那はキャンプ場についていたスパに入って久しぶりのお風呂気分.今日までの疲れと砂埃を落としてすっかり生き返っただろう.お疲れさま.二人とも涼しいテントでぐっすり眠った.
[19日目:アスペン,ベイルとスキーリゾートめぐり(8/2/94)]