イエローストーン最後の朝の夜が明けた.朝靄に煙るキャンプ場.最後まで冷え込みは厳しい.名残惜しい気持ちはいっぱいだが,そそくさと帰り支度を整える.10時にキャンプ場を出発し,まだ見ていないイエロー・ストーン・レイク側のビレッジに寄って東へと進路をとる予定だ.グランド・テトンから来るときに通ってきた道を再び戻る.あの日はキャンプ場を確保するために大急ぎだったので,まわりの景色を見る余裕もなかったのだが,今日はゆっくりと見て回りながら帰るとする.私たちの泊まったキャンプ場からは26kmほど,昨日見た滝の源となる巨大な湖が中心にある.琵琶湖の半分近い大きさだという.その湖から流れてくる川もこのあたりでは流れは緩やかだ.川幅もさほど広くはなく,所々で釣り人が胸まで来る長靴と帽子で冷たい川に立っているのが見える.昨日食べた鱒のようなものでも釣れるのだろうか?釣り人の多さではグランド・テトン以上だった.
さらに進み,地図を見ていると「マッド・ボルケーノー(泥の火山)」という表示.さてどんな所か?車を停めて少しだけ見学.ここでは珍しく日本人の団体さんに遭遇.ちゃっかり後ろで一緒になって説明を聞く.やはりこうした説明ってすごいねえ.よーくわかって感激だね.妙に感激しながらついて回る.つまりは火山活動の一部で,地底からボコボコッと熱い泥が吹き上げているのだ.温泉の一種と考えられるのだろうが,その音がなんともユーモラスだ.本当にボコッと大きな音をたてて泥がブクブク吹き上がる.活発な動きなので,今にも噴火しそうな感じがする.そんな泥の合唱があちこちで沸き起こっている.
泥火山の見学の後は湖に直進.湖北側のレイク・ビレッジに寄る.このあたりが一番都会的だったろうか.大きなマリーナがあって,釣りにヨットにとマリン・スポーツが楽しめそうだ.自然派の私たちには目新しいポイントではなさそうなので,ひたすらお土産を買うことに熱中してしまった.アメリカではよく売っているコットン・ラグに,ムースの図柄を発見.いろいろなラグの図柄はあるが,ムースの絵柄というのはこういう公園ならでは.思い切って奮発.他ではお目にかかることがなかっただけに良い記念になった.(このラグは大正解で,今でも我が家のソファーで日々活躍している.)
買い物も済み,いよいよ公園ともお別れだ.湖を眺めながら道を東へと走り,湖が見えなくなるともう見所もない.ひたすら山の中を走る.ああ,もう本当にお別れなんだね.寂しいような,名残惜しいような,今回の旅がすべて終わってしまうような感じがする.寒くて文句を言ったキャンプ場,広くて広くてなかなか目的地にたどり着かない公園,でも今となってはもう楽しいことしか頭に浮かんでこない.二度と見ることはできないだろう,そう思うともっとあちこち見てくれば良かったかな,と後悔することもある.そんな様々な思いを胸に車は進んでいく.今日は公園を抜けてできるだけ東へと進まなければならないのだ.
道路は片側一車線のローカルな14号.東のゲートを出ても風景は変わらない.最初の町はコディーだが,85kmもある.こちらの道はあまりメジャーではないのか,車も少ない.おかげで順調に飛ばせるが,いけどもいけども田舎の風景が続く.この日の記憶があまり無いのも,風景が変わらないせいだろう.ワイオミング州の西から東へと渡ることになるのだが,一日中走ってようやく東の端にたどり着くとこになった.大きな道路に出るまでひたすらこの14号を行くのだが,途中再びナショナル・フォレストを通過した.ナショナル・フォレストというものの正確な定義は知らないのだが,民家や商業施設は無いのでひたすら緑と山が続く.この山が広く大きかったので山越えをするのに時間がかかった.ここを越せば90号の大きな道路に出るので,あと一息なのだが山は続く.景色は最高なのだけれどね.この山越えを済ませる頃,確かもう日は西へと傾いて夕方になっていたはずだ.行けるところまで行きたいので,インター・ステイト90号へ合流すると,久しぶりに私もハンドルを握る.道は限りなく平坦でまっすぐ.車も少ないし,飛ばそう飛ばそう.
先にも書いたように,とにかく町らしい町は地図を見ても数少ない.夕方6時を過ぎるとそろそろ宿の心配をしたくなる.この数少ない町のどこかに泊まることになりそうだ.日が暮れるのも少しづつ早くなってきた.今日は外食にして,久しぶりにモーテルでゆっくりと休むことにする予定だ.結局行き着いた先はワイオミング州の最後の町,サンダンス.日もとっぷりと暮れ,お腹がすいた夜の8時半頃だ.次のサウス・ダコタ州に入れば結構町があるのだが,あと少しで断念.このサンダンスという町は本当に小さく,最初はモーテルを探しながらゆっくり走ったらあっと言う間に通過してしまったほど.たぶん町の端から端まで車なら5分もかからないくらいだったろう.2〜3件しかないモーテルもすでに1件は満室.もし全部満室だったらとあせる私.選びようもなく空いているモーテルに滑り込む.鄙びた町にしては豪華なモーテルで(部屋がそれしかなかったのかもしれないが),新しくてきれいな部屋だった.というより最低限のキャンプ生活を体験しているとどんなモーテルでも豪華に見えるのだろうか?駐車場をみると,同じ様なキャンプ族の車が大多数.公園巡りの途中,立ち寄ったのだろう.いっぱい荷物が積まれている.オートバイの姿も目立った.疲れ切った私たちは荷物を部屋に運び込み,まずは夕食へと繰り出す.
繰り出すとはいっても,ごらんのような田舎町.レストランがあればもっけの幸いなのだ.モーテルのすぐ向かいに一件の店.もうこれしかないでしょ.迷うことなく入る.疲れている時に探すレストランほど大変なことはない.ヨーロッパのバックパック旅行でさんざん苦労した私たちは,これしかないという店にありがたさを感じる.こんな時はなまじ選んだりする苦労は味わいたくないのだ.とてもアメリカ的な店で,古いタイプのレストランだった.客はそれなりに入っていたし,バーもついている.一人しかいないウェイトレスもきちんとオーダーを取ってくれた.こんな町に日本人ていうのも珍しいだろうなあ.田舎のアメリカ風小さな店ではあるが,妙にゆったりとアメリカ風料理を味わう.おきまりの肉にポテトとサラダ,スープのコーヒーっていうのも悪くはない.お腹がいっぱいになれば人間それなりに幸せなのだ.このあと部屋に戻り,眠りたいのを我慢して,久しぶりに食器洗い大会.洗剤を付けてゴシゴシゴシ・・・・そしてこれまた久しぶりのバスタブで自分の体もゴシゴシゴシ.生き返ったような気分でふかふかのベッドにもぐり込むと,今日はあのイエロー・ストーンのキャンプ場の寒さに耐える必要がないのだ.これが一番の幸せだ.極楽極楽・・・眠りにつく.
[31日目:ダンス・ウィズ・ウルブスのロケ地探し(8/14/94)]